シナリオ詳細
ラサライブ!
オープニング
●
ラサ傭兵商人連合。砂漠に覆われたこの国は今でもタフな商人たちに支えられている。
ザントマン(もといその偽物)と魔種カノンが残した爪痕すら、彼らは火だねに変えて商売の炎を燃え上がらせるのだ。
「だから、そんな国の力に私もなりたい。けど……」
Erstine・Winstein (p3p007325)は。
もとい。
アイドルコスチュームのErstine・Winstein (p3p007325)はマイク片手に空に叫んだ。
「これは聞いてないわ!!!!」
はい時を遡ること約一日前。
毎度おなじみラサのメディア王(自称)ことドクモト・RE・マクリャーレ氏からどーしてもって言われてお祭りイベントのスタッフとして動員されたローレット・イレギュラーズ。
「このイベントはね、商人たちにとっては国の威信をかけたお祭りでもあるのね。
僕らザントマン派を切り捨てたはいいけどそのことでやーっぱり国単位での信用はチョイ落ちしたし、財産を没収したといっても殆どは後始末に消えちゃったからね。まだラサって国は血を流してる最中なんだね。だから最低でも、止血をしないといけないわけだ」
首から上が一眼レフカメラの自称メディア王はちゃかちゃかとジェスチャーしながら説明した。
「今回、幻想や海洋っていうあちこちの国からリッチを招いてある。『ラサ』はまだゼンゼンやれるぞって所を、活気として見せつけることで『信用の止血』としようってハラなんだね」
もちろんここに至るまでに沢山の商人や傭兵たちが水面下の交渉や根回しを重ねてきたからこそ、この場があるわけなのだが……。
「だからオネガイ! その場にイレギュラーズがいたほうが安心するのね。魔種を倒したのもあの騒動を決着したのも、なんと言ってもイレギュラーズあってこそだからね! ね!」
ぺたんと目元を手で覆うErstine。
「あんな言い方されたら断れないけど……けど……」
「えるすてぃーねちゃん、これはもう引き下がれないやつだよ」
彼女とは若干テイストの異なる、赤と白のアイドルコスチュームをきた炎堂 焔 (p3p004727)が肩をぽんと叩いた。
「焔……」
「やらねばならぬ。なら、成功させなきゃいけないね」
グリーンと白のアイドルコスチュームでもう一方の肩を叩くティエル (p3p004975)。
「なぁごなぁご……」
うん! と頷く焔とティエル。
Erstineはマイクを握り――。
「けどそれはそれとしてハメられた気がするわ!!」
●プロデューサーいわく
「ラサの威信を賭けたイベントであれば世界の中立的立場にあるローレットの信用をまず得ているという間接的アピールは他国に対して有効でしょう。
我々が世界各国に対してもたせた信頼がそのままコネクションとして機能する。
しかもそれがアイドル(偶像)として舞台に立てばなおのこと……」
新田 寛治 (p3p005073)は眼鏡をクイッてやって理知的に笑った。
「ニーチャンなにやってんだお好み焼き三人前だよ!」
「へいらっしゃい!!」
訂正。ねじりハチマキに法被をきた新田が両手にヘラを握って叫んだ。
おいおまえプロデューサーちゃうんか!?
「ったく。アイドルとかガラじゃないからな。こういう場所じゃあ、俺は焼きそばでも焼いてるのが似合ってる。けど……」
ウィリアム・M・アステリズム (p3p001243)はフッと笑って前髪に手をかけた。
もとい。
ヴィジュアル系バンドのバリッバリな衣装に身を包んだウィリアム・M・アステリズム (p3p001243)がギター片手に振り返った。
「バンドやるとは聞いてないぞ!!!!」
「言ってないからね」
「ドクモトォォォォ!!」
「がっきは とくい みんなの しあわせ
まもれるなら ぼくも うたうよ
みんなといっしょに」
宙に浮かぶ魔術式キーボードをたくみに奏でながら即興で歌うカタラァナ=コン=モスカ (p3p004390)。
もちろんカタラァナもヴィジュアル系バリバリのアレである。
「俺の旅にも、寄り道が必要……か」
いつもの旅人然とした衣装とはうってかわって若干パンクな衣装に身を包んだ伏見 行人 (p3p000858)がドラムセットの前で腕組みしていた。
ものっそいやる気である。
「皆さんやる気のとこアレなんですけど、質問イイですか」
ウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)がチャッと手を上げた。
「はいうぃずぃくん」
「なんでベース係なんですかね!?」
いつものあの巨大テーブルフォークを銀色のベースに持ち替えて、バリバリな衣装をきたウィズィニャラァムが圧を強めた。
「『すごいガールズバンドやってそうだったから』だってさ」
「なぜ!?」
「おちついてWIーZI、いつもの構えがなんかベースっぽいからじゃないのかな」
「その呼び方やめてYUKITO!」
眼鏡をちゃきってやって笑う新田。
「確かに私はファンドされたアイドルたちを信じています。
しかしアイドルユニット一本だけで舞台を成功させようとするほど傲慢でもない。
ここは新機軸のバンドをデビューさせることでローレットに令和の風(新しい風的な意味)を吹き込みより強く印象づける必要があったのです」
「ニーチャンなにやってんだ焼きそば五人前!」
「ヘイオマチィ!」
ねじりハチマキした新田がヘラをがーってやった。
おまえマネージャーともちがうんかい!
●
こうして幕を開けたラサ興業イベント。
デビューしたアイドル&バンドユニットは各国のリッチたちの目にとまるのか!
そしてお好み焼きと焼きそばはちゃんと売れるのか!
結末や! いかに!!
- ラサライブ!完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年03月08日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●人間は明日を知覚できる
ノースリーブの革ジャンを肌に直接羽織った『希祈の星図』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)。
彼はステージ前に集まった観客たちを袖からのぞき見て胸を高鳴らせた。
「俺は音楽には詳しくない……けど、それが時に力になる事は知ってる」
星座の描かれた夜色のギターをさげて、イベントスタッフからミネラルウォーターのボトルを受け取った。
「俺達だからこそ歌える歌がある。そう思えば、バンドでも何でも出来るもんさ」
「そう。奇を衒わなくてもいい。人と違うことをしなくてもいい……」
宙に浮かぶキーボードの動力源スイッチを入れ、出力する音声を調節する『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)。
「いい音楽って、もっと根っこから心をゆさぶるものなんだよ」
急遽書き換えられたイベントスケジュールには、ロックバンド『Desire Blue』のライブ演奏と書かれている。
カタラァナが述べるとなんともスパイスのきいたバンド名である。
『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)はやれやれと言ってジャケットを脱ぎシャツ一枚の姿になると、握ったドラムスティックの感触を確かめる。
「音楽は言葉が通じない時の対話の手段として使ってきたが、こっちじゃ混沌肯定でそういうのはもう無くなったんだよね……ま、昔取った何とやらさ」
根っからの旅人である彼にとって音楽は共通言語だ。
それは『崩れないバベル』によって言語の壁がなくなったこの世界でも、やはり有効らしかった。
復興イベントにライブ演奏が選ばれるのも、きっとそんな理由があるのだろう。
「一応、弦も鍵盤も一通りパフォーマンス込みで出来るよ。必要ならやるけれども……『リハーサル通り』でいいんだよね?」
予定しているのは二曲。
その間をつなぐドラムソロパートが、行人の担当パートだ。
『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は銀色のフライングVをトントンと叩いて、どこかボーイッシュなパンクロック衣装のタイをきゅっと結び直した。
ギターにきゅきゅっと『WI-ZI』と書き付け、ついでに自分の頬にも同じく『WI-ZI』と書き入れた。
「実は以前、境界の仕事でV系バンドのベースやったことあるんスよ私。
まさかの二回目ですが、やるからにゃ気合い入れて行きますし」
よし、と頬を叩いて気合いを入れると、目の前をまっすぐに見つめる。
「やるなら……女のコに、モテたいッ!」
持てたくてギターやる。それは思春期をミュージックシーンへ駆り立てる最初の翼だ。
「ラサライブ! いつかこんな日が来ると夢見てた!」
アイドル衣装でマイクを握り、出演前の空気を肌で満喫する『なぁごなぁご』ティエル(p3p004975)。
「仮に知り合いが来てても、今この時は歌って踊り切るのがプロ、なご。
センターはエルス。私はフォローし、成功させるのが役目。頑張るにゃ」
ステージ映えはお手の物。ティエルはぐっと拳を握って二人のメンバーへと突き出した。
ユニット名は『YSR03』。今日限りの特別アイドルユニットである。
同じく拳を突き出して合わせる『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)。
「イベントを成功させるために頑張ろうね、エルスちゃん!ティエルちゃん!
対バン? はよくわからないけど、ボク達YSR03は負けないよ!
それで、今回は誰をやっつければいいの?」
「思考が鉄帝に染まりすぎよ、焔」
『熱砂への憧憬』Erstine・Winstein(p3p007325)もまた拳を合わせて焔をちらりと見た。
「そういえばボク、鉄帝でしかアイドルやったことないね……」
「だいじょうぶ?」
ティエルの視線も集まり、焔はわたわたとしながら頷いた。
「だ、大丈夫だよ! お歌は練習してるし! ちゃんと歌えるよ!」
「そうよね」
急遽決定したアイドルユニット結成、そして結成初日にして初ライブ。
ドラマチックな展開に、Erstineは赤くてりりしいぬいぐるみをぎゅっと抱きしめてから、控え室のテーブルにそっと置いた。
「これも、仕事……よね。……やるなら全力よっ。いいわね!」
「「おー!!」」
いまここに、新たなアイドルが産声をあげる。
ラサの未来を照らし、突き進むパワーと変えて。
「フ……」
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は眼鏡のブリッジを中指で押すと、知的にレンズを光らせた。
「いかがです? 我々の即席バンドとアイドルユニットは」
彼の目の前には二人の人物。
新田はカッカッと何かを整えながら雄弁に語った。
「先のザントマン事件の影響を超えて、ラサの健在をアピールする祭り。
ならばゲスト国からVIPを招くより、ホスト側にVIPを配置してゲストをもてなした方が、目的に対して効果的でしょう。ラサはどの国とも取引がある所が強み。
故に一国を特別扱いするのではなく、全てのゲストを特別扱いする……それが今回私の企画した追加ゲストへの狙いです」
ササッと手際よく作業し、輪ゴムでパキッと透明なタッパーをとめる。
「まずはご覧ください。このままこの場にのこるかどうかは、それで決めればよいでしょう」
突き出したそれは、青のりのかかった焼きそばであった。
「はい焼きそば一丁上がりィ!」
「ニーチャンたこ焼き」
「ヘイ!」
●ラサライブ!
下りた幕がゆっくりと上がる。
打ち鳴らした行人のスティックリズムに合わせて、ギターとベースがそれぞれ演奏を始めた。
追いかけるようにキーボードによるメロディが乗り、カタラァナはマイクに向けてささやいた。
「聞いてください――『Despair Blue』」
「「――!?」」
この一言で、カタラァナが皆に伝えていた曲名『Desire Blue』の意味を理解した。バンドメンバーだけではない。会場のなかで海洋王国になじみ深い人々がハッとその意味に気づき始めた。
眼鏡を光らせる新田。
「欲望を絶望に塗り替える。それは目をそらしてはいけない世界の理のひとつです。
これをあえて歌に込めて解き放つことで、人々の絶望や失望に寄り添い、本当の意味での希望を見いだすことができるのです」
「ニーチャン焼きそばまだ?」
「ヘイオマチィ!」
カタラァナの巧みな演奏にのって、観客たちがワッと驚きと歓声を混ぜ合わせていく。
一曲が終了した時点で行人のパートがやってくる。
(大事なのは大前提としてリズムを作って外さない事だ。言わば下支えという訳でね…ボーカルの大将、ギターの将校が気持ちよくノれるように曲に合わせるのは勿論の事だけれども、リハで少しでも皆の癖なりを掴んでそれを活かせるようにリズムを作る)
行人はひょうひょうとしたドラムで演奏にのっていたが、自分のパートがきた途端にスティックを放り投げ激しい素手でのドラムパフォーマンスを披露しはじめた。
「お行儀よく叩くばかりじゃ、つまらないからね……!」
鳴り響くシンバル。
と同時にシャツを脱ぎ捨てたウィズィニャラァムは、美しいほどに鍛え上げた背筋を見せつけながらベースをギャインとかき鳴らした。
「次はこれだ――『砂の王子様』!」
ラサに伝わる恋を歌った童謡。しかし大胆にロックアレンジされたそのインパクトに、観客達はきゃっきゃと黄色い声を上げ始めた。
背を向けたままの演奏ではあるものの、観客からすればウィズィニャラァムという成分を真正面からあびせかけられていたようなものである。
曲のフィニッシュと同時にウィリアムが投げたジャケットを着込み、ファスナーを首まで上げてくるりと振り返る。
「『希望の星図』」
優しくマイクにささやいたウィリアム。
彼を中心として再配置されたユニットの演奏をバックに、ウィリアムはこれまでと一転して爽やかに歌い始めた。
――広く果てしない大海原
――波は襲い風は吹き荒れ、船は翻弄され迷う絶望
――されど見上げよ、夜闇の空を
――遮るもの無き大空に、瞬く星々が見えるだろう
――船乗りの標たる星灯り
――絶望の内で煌めく希望の星図
――傷ついても、迷っても、俯いてはいけない
――陸にも海にも絶望は在るだろう
――されど恐れるな
――希望もまた常に傍に在るのだから
歌い終えたところで恥ずかしげに笑い、空を見上げるウィリアム。
(歌を考えたのなんて初めてだ。
ただ――ラサでも、世界の何処であっても、絶望に負けないで欲しい。希望は確かにある。
希望の星は、いつだってそこにあるから)
はやすような口笛と拍手。
汗を拭ってステージの袖にはけた行人やウィズィニャラァムたちは、そのあとに入るErstineたちとパチンとハイタッチをかわした。
彼女たちはステージ奥の下。バネ仕掛けのジャンプ台にかがむように立ち、スタッフたちと頷き合った。
そして。
ステージに火花が吹き上がると同時に彼女たちは膝折大ジャンプでステージ上に登場した。
「『YSR03』!」
イントロに合わせて踊るレッド、ブルー、ホワイトのアイドルコスチュームを着た三人。
立ち位置を入れ替え、Erstineがマイクを手にソロパートを歌い始めた。
――あなたを一目見ただけで 時間が止まってしまったようで
――あなたの声を聞いただけで どうしようもなく苦しい
――きらきら世界が違って見えて こんな感情は私は初めてよ
――でもきっとこの思いは叶わないから
――そう決めつけてたの
――あなたを見つめてる それだけで良かったの
――それ以上 私は何もいらないわ
――ああ、どうして こんなにも ままならない思いは溢れそうなの
それまでダンスでバックを彩っていた焔が入れ替わり、力強い調子で歌い始める。
――あなたはいつも、そう 余裕風を吹かせて、軽口ばかり
――あなたはいつも、そう 弱いところも見えない……
――私なんてきっと視界にはいないでしょ?
――そんなこと、もうわかりきってることだから
――でもその余裕を崩してみたいと そう、思うこともあるわ
――あなたに振り向いて欲しいのだなんて 甘えた声でも出せれば良かったかしら?
――ああ、 だけど そんなこと
――今の私には出来ないから
間奏で振り付けを交え、大サビに入ったと同時に三人同時にマイクを握りしめる。
――いつか、叶うことが許されるのなら
――あなたの隣にいたいのは、それなりで
――あなたを目で追ってる 自分に気づいてた
――それでも知らんぷりし続けてたかった
――ああ、でもね、ダメだった
――この思いはどうやら特別みたい
――あなたを見つめてる 視線に気づいてるでしょ?
――どんなに強がっても、もうどうしようもないの
――ああ、どうしてこんなにも
――ままならない思いは溢れそうなの
三人胸の前でハートをつくり、ウィンクをした。
――あなたを見るだけでときめいてるの
――アナタのそのいろに 染まってるの!
舞い散るレッドゴールドの紙吹雪。
新田は眼鏡をチャッと外してまぶしげに目を細めた。
「特別なパフォーマンスをあえて交えず、胸に秘めた想いをピュアな歌詞にのせて解き放つ……これこそ、イレギュラーズがこのラサという国と共に戦った証。通った心と、その上に結実した奇跡の歴史なのです」
「ニーチャンビールちょうだい」
「ヘイラッシェイ!!」
会場は割れんばかりの拍手と熱気に包まれていく。
「ラサもまだまだ元気、ってことだね」
新田のそばで焼きそばをもぐもぐしていた何者かが、フードジャケットを脱いで新田へと投げた。
それをキャッチし、にっこりと笑う新田。
「おそらく観客は『もう一幕』を望んでいます。彼女たちに混ざってみては?」
●
「ぱっるすちゃああああああああん!!
ああああああああああああああああああああ!!!!」
焔が舞台袖で発狂していた。
アンコールに応え、新田に指示されたパルスソングを歌い始めたところで舞台の後ろから本人が突如現れたのである。
しばらく三人と共に歌って踊った後、おまけのもう一曲としてゲリラライブが実現したのだ。
サイリウムの持ち合わせがないからって両手に炎(もえない)をつけて振り回し『PULSE』の文字を作りまくる焔。
「共演者として挨拶とか行ってもいいかな? いいかな!?」
そばでへとへとになっていたティエルに興奮気味に振り返ると、そんな焔の脳内に触接声が響いてきた。
『今日はラサのみんなのためのパルスだから、一緒に遊ぶのはまた……今度ね☆』
「あ゛あああああああああああああああああ!!!!」
「ファンマネ、豚玉お好み焼きと塩焼きそば、醤油たこ焼きお願いにゃ!
歌って踊ってお腹が空いたからカロリー摂取にゃ!」
「ヘイオマチ」
スッと一式差し出してくる新田。ティエルはそれを受け取ってもっふもっふ食べ始めた。
同じく焼きそばをうまうまするカタラァナ。
「ところでErstineちゃんは?」
「フフ……」
新田の眼鏡がきらりと光った。
行人は串焼きを食いちぎりつつ、いまだ熱気に包まれるライブステージを眺めていた。
「もうしばらく、見守っていたいな」
「なにをだ?」
お好み焼きにがっついていたウィリアムがふと顔を上げる。
「そりゃあ……ね? メロウなリズムでいいのさ」
「ふうん……?」
どこかシニカルに眉を上げてみせる行人。
ウィリアムはそれ以上深く追求することはせずに、控え室のほうを振り返った。
たった一時とはいえラサの復興イベントで結成されたアイドルとバンドユニットである。
もともとローレットのファンだったという者や今回のライブで好きになったという人々が観光中のかれらを見つけてはサインや握手を求めていた。
カタラァナやティエルはそれにこたえ、肉球スタンプを押したり美しいフォントで名前を書いて見せたり……。
「やあ、聞いてくれてありがとう。次のライブ? フフ……どうかな?」
ウィズィニャラァムがイケメンフェイスを作りに作ってギャルの対応をしていた。
『やったぜ』というサインを送ってくるウィズィニャラァムに苦笑しつつ、カタラァナは振り返る。
「きっと今頃……」
くたくたになって控え室へとやってきたErstine。
テントの幕をひらくと、ふわりといい香りが抜けていった。
「さっきまで誰かいたのかしら」
言いながら、置きっぱなしだったぬいぐるみをとりあげる。
そしてふと、ぬいぐるみのマフラー部分にメッセージカードが差し込まれていたのを目にした。
赤い、犬のマークがかたどれたメッセージカード。
しかし開いてもなにも書かれていない、それはただのカードだった。
これの意味するところは。
「ま、ままさか……き、聴い……?」
顔を真っ赤にしてその場にへたりこむ。
そしてハッとして立ち上がり、ぬいぐるみとカードを抱きしめたままテントを飛び出した。
「いいんですか?」
「『今日最注目のアイドル』に手を出したとあったら、あとで絞られかねねえからな」
何者か……否、『赤犬』ディルクは気配を希薄にするローブを被った。
「『これが単なる祭りではなく、政治的なデモンストレーションと意味づける切り札』……てのは、建前だよな?」
「さあて」
新田は不適に笑い、そして誰かを探して会場を駆けていくErstineを横目に見た。
「ところで先ほどの言い方。『アイドルでないときなら』良いと言っているように聞こえますが?」
相手は肩をすくめるだけで応えず、ふらりとその場から消えるように去って行った。
新田もまた肩をすくめ、振り返る。
「メッセージカードの中身は、ちゃんと耳元に伝えたい……と」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――good job!
GMコメント
ご用命ありがとうございます。黒筆墨汁でございます。
今回はライブイベントに出場し、後半はお祭りの雰囲気を楽しもうという二本立てシナリオとなっております。
●ライブパート
それぞれ割り振られたユニットでステージにあがり、ライブパフォーマンスをします。
アイドルが歌って踊るのは、そしてバンドが演奏して歌うのはデフォであります。二足歩行なみにプレイングの必要はございません。
ここでかけるべきは『ライブ中の工夫』でございます。
目を引くパフォーマンスや、印象に残るプロモーションをプレイングで仕掛けてください。
有名なところでいうと観客席にダイブするとか、ステージにギミックを仕込むとか、ああいうのですね。
・新田mission
新田Pには特別な枠をご用意しました。
今回のライブには各国のリッチたちが見物に来ていますが、このうち『二枠だけ』新田Pがコネを使って呼ぶことができます。
相手によっては『呼んだけど来なかった』といったこともあり得るので、絶妙に丁度良い人選をしてみてください。プロデューサーの腕の見せ所ですね。
そしてできればなぜその人選にしたのかをプレイングに書いてみてください。
あとライブ中はお好み焼きをやいています。
●観光パート
ライブが終了したら解放されるので、各自イベントを楽しみましょう。
このイベントはライブと出店で構成されており、食べ物屋台はもちろんサーカステントや占いテント、エステやサロンといったものまでラサ商人の気合いで用意されています。
どんな楽しみ方をするかなーと考えて、行きたい場所にいってみるのがよいでしょう。
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