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シナリオ詳細

カーリー・チャーンの名もなき三体の人形

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 子煩悩だったのだろう。
 廊下、家具の上。女の子のスケッチが飾ってある。
 生まれたばかりの女の子。母親の腕の中で眠る女の子。這い始めた女の子。歩き始めた女の子。
 あなたはこの女の子がカーリー・チャーンという名前なのを知っているし、女の子が5歳になれなかったことも知っている。
 そして、この女の子がこの家の中をずっとさまよっていることを知っている。彼女を解放してあげなくては。こんなところにいてはいけない。彼女の両親は彼女を待っているのだ。探し物を見つけなければ。形はわからないけど、大丈夫だ。手掛かりはたくさんある。きっとこの中にヒントが――。
 指が触れて額縁がガタリと音を立てた。存外響いた。
 何かが近寄ってくる気配。
『どうして、カーリーのお家にいるの?』
 服の裾をつかまれた。浮いたりしていない。普通の生きている女の子のように見える。足音だってした。小さな手。絵の中の女の子。
『さっきも言ったよね。二回も言ったよね。もう来ないでって言ったよね』
 膨らむ頬。突き出される唇。幼い怒り。回らない舌。
 カーリー・チャーンは優しい女の子だから、侵入者に危害を加えない。だが、高まる鼓動。荒くなる呼吸。湧き上がる罪悪感。
『カーリーのおうちからでてって。怖いよ、怖いよ、おかあさぁん。おとうさぁん』
 あなたは走り出す。一目散に玄関へ。そんなことをしてはいけないのはわかっているのに。カーリー・チャーンを救えなくなるのはわかっているのに。
 ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。カーリーのお家に入ってごめんなさい。泣かせるつもりはなかったそんなつもりじゃなかったカーリーごめんねもう絶対カーリーを泣かせたりしないから絶対このお家に入ってきたりしないからごめんなさいごめんなさい。
 あなたは踏みとどまって自分の使命を果たそうとする。だが、心臓がろっ骨を突き破って飛び出しそうだ。喉が焼け付いて血がマグマのように吹き出しそうだ。視界が興奮性の涙の膜で覆われてよく見えない。耳の中の血管が脈打つ揺れる視界。暗転。
「――っ!」
 気が付くと、あなたは外にいた。玄関が明け放したままだ。掌にドアノブの金属の感触が残っている。あなたは、自分で扉を開けて飛び出してきたのをさとった。
 あれほど脈打っていた鼓動は収まり、体のどこにも異常はない。 
 あなたは失敗したのだ。探し物を見つけることはできなかった。
 カーリー・チャーンのためになにかをしてあげたいと思っても、もうあなたはこの家の中に入れない。
 家に向かって指一本動かせないのだ。
 知らず仰いだ空が泣けるほどに青かった。


「宝探しは好きかな!?」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)の口の端から菓子の粉がこぼれている。
 そう聞かれて、即座に答えられる大人はいるのだろうか。というか、好きだろうが嫌いだろうがやらせるんだろ、知ってる。
「小さな女の子を怯えさせないようにかくれんぼしながら、宝探ししてきてほしいんだよね!」


 カーリー・チャーンは、ずいぶん昔に死んでしまった4歳の女の子です。
 貿易商のお父さんとお母さんと引っ越してきて、村の人たちとも仲良くなって楽しく暮らしていたのですが、家族でとったキノコに中って一家全員死んでしまいました。
 村の人たちは異国で死んでしまった家族を気の毒に思ってそれは手厚くほおむってくれたのですが、カーリー・チャーンはうまく眠れないようで今でもそのお家にいるのです。

 お父さんとお母さんとカーリー・チャーンは悪霊ではなかったので、天国の門は開いています。
 お父さんとお母さんは門の前でカーリー・チャーンが来るのを待っています。


「別にローレットだって今まで手をこまねいていたわけじゃないよ。カーリー・チャーンさえ心残りを果たしてくれればそれでいいんだけどさ。悪霊じゃないもんだから、逆に意思疎通が難しくて何がいけないのかさっぱりわかんなかったわけよ」
 資料には、カーリー・チャーン事件の歩み。と書いてある。結構紙が多い。
「カーリー・チャーンは人見知りで、彼女のテリトリーに知らない人がいるとその人のところに行って服を引っ張りながら泣きだすんだよね。脳みその中に手を突っ込まれてぐちゃぐちゃにされるような衝撃で、そうなると一瞬でも早く現場から離脱せずにいられないんだって。一度出れば、またすぐ入れるんだけど、さすがに三回は無理だったって。で、直接聞くのは断念しました。そもそも4歳の幼女とまともに会話できても意味がつかめるかわからんし」
 言葉が通じて会話はできるのに意味が分からんこと、割とある。
「だけど、文化人類学の方から攻めた、君達の二組前に仕事を受けた連中がやってくれました! カーリー・チャーンが来た国ではおまじない人形というかお祈り人形があって、もし万一のことがあったらそれを女の子の棺に入れる風習があったんだよ。ところが、異国の風習なもんだから、村の人たちは気が付かず――」
 お人形を棺に入れてもらえなかったのだ。風習を知っているお父さんとお母さんも一緒に死んでしまった。
「お人形は全部で3体。一体はいつも連れてたから棺に入れてもらえた。それの他にお料理人形、お裁縫人形があって、それぞれ関係あるところに置いておくんだって。本当はお嫁に行く時持っていくものなんだってさ」
 それを考えると置いていかれたお人形も切ない。
「で、二個前の連中は意気揚々と館にお人形を取りに行ったんだけど、人形を見つける前にカーリー・チャーンに見つかって泣かれて、舞い戻り、見つかって泣かれて舞い戻り。を、繰り返し、心が折れたってさ」
 あまりかくれんぼが得意でなかったらしい。
「それでせめて手掛かりでもってことになったんだけど、みんな家の中のことをよく覚えてないんだよ。間取りも人形のカタチもみんな分かったという記憶はあるんだけど、見取り図や人形の絵は心得がある者でも子供の絵みたいになるし、読心もできない。念写もダメだった。一個前はそれを踏まえて行動したんだけど、失敗した。けど、おかげで法則性はつかめた」
 メクレオは使えるコネは使ったそうだ。
「カーリー・チャーンに見つかる前に事を済ませれば問題なし!」
 室内物色や隠密や逃げ足に図太い神経が大事らしい。
「そういう訳で。忍んで? 順番に一人一人行ってリトライ回数増やしてでも、全員で一気に行って人海戦術でも、何人かでチーム組んででも構わない。それはチームの話し合いに任せる」
 メクレオは指を二本出した。
「人形を二体回収してくる。カーリー・チャーンに危害を加えない。悪霊化されたら面倒だからね。いいかい。カーリー・チャーンに手を出すな」

GMコメント

 田奈です。
 かくれんぼだよ。そーっとお人形を探して来ればいい。4歳の女の子が見つけられない所にあるんだ。つまり、そういうことだよ。
 どういうタイミングで仲間と情報を共有するかがカギになります。

*障害・カーリー・チャーン
 4歳で死んだ女の子。実体はないが、飛んだり消えたり瞬間移動したりはしない。歩けば足音がする。影はないが近くに来ると陽炎のように空間が揺らめく。
 カーリー・チャーンは、音がしたり、急に動いたりした方を確認しに来ますが、4歳の女の子なので、ちゃんと自分の体格などを考慮して隠れればやり過ごせます。
 ただし自分のうちなので追っかけっこにはアドバンテージがあります。いつかは捕まります。
「帰って!」:カーリー・チャーンに服を握られると、自分で何もかもをほおり出して家の外に飛び出していきます。止めることはできません。無理に引き留めたら心身にダメージが発生しますし、止めた相手を全力で攻撃します。

注意:カーリー・チャーンをあらゆる意味で攻撃してはいけません。
 心理的ものならカーリーチャーンはガン泣きします。効果:家の中にいた者全員屋外に飛び出すことになり、厳しい状態になります。
 存在を脅かすものなら、悪霊化します。たとえ倒したとしても、安らかに昇天させてほしいという依頼した村の総意に反するので、依頼失敗です。

*変調「もうあの家には入れない」
 三度追い出された以降、家の中に無理に入っても、罪悪感で玄関でしゃがみ込んでしまいます。屋外では問題なく動けます。
 間取り・人形の形状など家の中での記憶が非常にあいまいになります。
 
*環境・チャーン家・屋内。
 6LDK+倉庫。バス・トイレ付。
 リビング・ダイニング・キッチン・応接間・客室・子供部屋・夫妻寝室・家事室・使用人部屋。が、廊下でつながっています。建築様式は幻想です。
 二階建て。外からある程度予想はつきますが、間取りは資料がありません。
 子供部屋は褪せたカーテンの柄から二階のようです。
 念話・テレパシーの類は使えますが、カーリー・チャーンにバレバレなので送受信両方の居場所を知らせるのと同義になります。

*人形を発見して、自分たちの手で外に持ち出して初めて確保です。
 持っていたAがカーリー・チャーンの「帰って!」の対象になった時、人形は元あった場所に戻ります。
 上記のタイミングで近接距離にいるBに渡すのはありです。人形はBと屋内に残ります。

  • カーリー・チャーンの名もなき三体の人形完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年03月09日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

四矢・らむね(p3p000399)
永遠の17歳
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
ビヴラ・スキアレイネ(p3p007884)
異端審問少女
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
アビゲイル・ティティアナ(p3p007988)
木偶の奴隷
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 ある日、カーリーチャーンのお家にたくさんの人がやってきました。
 その人たちはカーリー・チャーンのおうちの庭にきらきらしたものをたくさん置きました。プレゼントでしょうか。
 でも、残念。カーリー・チャーンはお留守番なので、お父様とお母様が帰ってくるまではおうちにいなくてはいけません。
 紫の髪のお姉さんがちょいちょいとするとねずみが二匹現れて、灰色の神のお姉さんが猫を呼ぶと、ねずみはカーリー・チャーンのお家に入ってきました。
なんてことでしょう。カーリー・チャーンのおうちがねずみに食べられてしまいます。


 小さな子供特有のつかみどころのない感情の乱れが 『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)の泣きぼくろの辺りをチリリと痛ませる。
「愛らしいプリマウィッチ、もし見つかりそうになった時は私が囮になる。その隙に隠れてくれ」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えるわね」
『異端審問☆少女』ビヴラ・スキアレイネ(p3p007884)は、玄関の下駄箱の陰に小さな体を収めると、先行させた使い魔の鼠の視界から簡潔な見取り図を描き上げた。


 猫さんもカーリー・チャーンのお家に入ってきます。
 おりこうさんのカーリー・チャーンは知っています。猫はソファーで爪を研ぐ生き物なのです。
 ねずみさんを見つけてお外に出さなくちゃ。


「アカツキさん、今日は燃やしちゃダメですからね!?」
『永遠の17歳』四矢・らむね(p3p000399)の注意が有効なことを祈りたい。
「「よぉーし、君は猫のみーくんじゃ……元気に逃げ回りながら偵察をするのじゃぞ」
  『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)が使い魔を抱き上げ、お鼻ちょこんであいさつしている。
「ベー君もよろしく頼むぞ。妾達は二階から見て回るのじゃ。武器は持ち込まずに行くぞ、必要ないと思うからのう」
 ベー君と呼ばれた 『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、わかった。と首肯した。
 ビヴラから見取り図の写しをもらうと、中に入っていく。
「……話に聞く女の子を両親に会わせてあげたい。かくれんぼは子供の頃やったきりだが、うまくいくかな?」
「そこじゃ。見つからぬように慎重に行動するぞ」


 カーリー・チャーンは階段の途中に座っています。
 おうちの中にたくさん人が入ってきました。
 ここはカーリー・チャーンのお家だから出て行ってもらはなくてはなりません。


「あの子は、家族と一緒にいられるなんて幸せだね。オレにはお父さんお母さんとか家族なんていなかったから」
『レコード・レコーダー』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は、二階の窓を開ける手を止めた。
『木偶の奴隷処刑人』アビゲイル・ティティアナ(p3p007988)はこんなことを言ってはいけないかな。と思って慌てて口を閉じた。思ったより悲しそうに響いたから。そうじゃなくて。
「お人形を回収してあの子の両親のもとに行けるよう助けたい。ど、奴隷のオレには恐れ多いけど」
 リンディスは小さく頷き返した。
「罪も何もない子供です、愛した者達の下へ返してあげましょう」

 カーリー・チャーンは、窓から外を見ています。
 お外にいる黒髪のお姉さんは、エプロンドレスです。触ったらシュルシュルしそうな布なのはお姉さんだからでしょうか。
 カーリー・チャーンは自分が来ているエプロンドレスはシュルシュルじゃないところが好きではありません。「洗いやすくて乾きやすい」には、ワクワクもドキドキもないです。
 大きくなったら、あんなお洋服を着たいなとカーリー・チャーンは思いました。


 らむねは、自分が、元いた世界でモノを探す人間が世代を超えて歌う名曲を口ずさんでいたことに気が付いた。
「は!? 古くない! 古くないです! この世界ではナウいヤングにばかうけアソートです!!」
 ペアを組む『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)は、ごしゃごしゃと装備をはずし、そのあと腕を振り上げたりひざをあげたりして、ぽく、ぽこ。と、音を出す古書を取り出した。
「なに……?」
「物音立てたら見つかりそうだからな。音がしそうなものを外した」
 更に外套の裾をたくし上げ、袖を折り込み、靴は厚手の布でカバーした。
「呼吸音もな――」
 口元を布で覆う。カーリー・チャーンが服の袖を握るという情報に配慮した非常に合理的なスタイルだ。らむねにはお風呂掃除スタイルにみえた。ゴム手袋にスポンジを持たせたら完璧だ。
「さあ行こう。もうみんな中に入った」

 カーリー・チャーンはお耳を澄ませました。
 入ってきた人はみんなカーリー・チャーンが小さくて見えないみたいなので服を引っ張ってここにいるよと教えてあげなくてはいけないのです。


 鎧戸が閉められている家の中はとても暗い。
この辺りでは見ない様式の家具が白い布をかけられてそのままになっている。
 キッチンにビヴラとベルフラウ。
 先に立ってドアを開け、いつでもビヴラを扉の陰に隠す準備万端のベルフラウのエスコートが堂に入っている。おかげで、ビヴラはのびのび作業に勤しめる。
「そうね……ちょっと呪われてるけど」
 物騒なことを言いながら、ビヴラはうさぎを作り出した。
「この子はお利口だから――できる限り囮としてカーリーと一緒に遊んでもらうわ」
 自分たちが向かうのと反対方向に行くよう促すとウサギは廊下の角を曲がっていった。
「聞けば人形は嫁入り道具の一つらしいな」
 ベルフラウは、棚の上から捜索を始める。かけられた白い布をめくるとガラスがはめ込まれた食器棚。
「ならば歳月が経っても汚れない様、保存性の高い箱若しくは袋等に入れられて普段手が届かない様な所が怪しい」
 そう。台所は意外と空気に油が含まれているので対策しないで置いておくと汚れるのだ。
 ほどなく、一番いい食器がしまってあった棚の奥に小さなスペースがあった。
「台所で見守る人形」
 ベルフラウがそれに触れようとした途端、さわりとポニーテイルの付け根が逆立った。
 とたたたたたと足音。凝視していたはずなのにスカートのすそと靴のかかとの残像だけが残った。
『待って。うさぎさん』
 小さな女の子の声がした。
「――ウサギ、放してよかったわ」
 とっさに立ちはだかったベルフラウの陰からビヴラが顔を出した。


 カーリー・チャーンはお台所に誰かいると思いました。
 階段を降りるとそこにウサギさんがいました。おうちの中にウサギさん。まあ、どこから入ってきたのでしょう。
「待って」
 カーリー・チャーンはウサギを追いかけ始めました。ふわふわの毛に触ってみたかったのです。
 カーリー・チャーンはうさぎさんばかりを見ていたのでお台所に誰かいるかもなんてことを忘れてしまいました。


 子供部屋の壁紙は青かった。この辺では見ない様式。
 寝具が取り払われたかわいらしいベッドに白い布が掛けられている。
「では先に私が囮役を」
 リンディスがそう言うと、アビゲイルは口をパクパクさせた。すっかり自分が囮役をするものだと思い込んでいたので。
「一度退出したら、次回はアビゲイルさんと交換」
 アビゲイルは頷いた。そうしろと言われたらそうするのだ。
 大柄なアビゲイルが爪先から踏み出しても床板はきしまない。そのまま廊下に出ていく。
 リンディスは、廊下に出た。向かいの部屋。隣の部屋。隣の部屋で人形を探しているのは知っている。しかし、どこにいるのかわからなかった。いないものとして扱われる奴隷が骨身にしみこませた技術だった。
『ねえ。ここはカーリー・チャーンのお部屋なの』
 リンディスは、とっさに物陰に隠れ、反対側に走っていく自分の幻影を生み出した。
 アビゲイルが探索する時間を稼がなくては。
『ねえ』『ねえ』『ねえ』
 しかし、カーリー・チャーンは執拗にリンディスを追いかけた。
『ひらひら、綺麗ね』
 カーリー・チャーンは、リンディスの服の裾を握りしめた。
『帰って!』
 気が付くと、リンディスは庭に立っていた。投げ敷く鼓動している心臓。焼け付いた喉。開け放された玄関。掌にドアノブの金属の感触が残っている。自分で扉を開けて飛び出してきたのをさとった。
 だが、まだだ。自分はまだ中に入れる。


 建物をぐるりと回って見つけた勝手口。その脇に倉庫があった。
「なんとなーくキッチン家事室が怪しいなーと私のIQ1億の頭脳が告げてるんですけど、倉庫に大事~にしまってる可能性もなきなしもあらず。なので、とりあえずココから探してみましょうか!」
 らむねが倉庫を開ける。
 中には立派な足踏みミシンがあった。鋼鉄製。大きな足置き台。絨毯だって縫えそうなでっかい奴だ。きっと、カーリー・チャーンのお母さんは裁縫がご趣味だったのだろう。
それが戸棚をふさいでいた。避けないと戸棚の中が見えない。
「伏見さん」
 らむねの声がシリアスだ。
「私、マイクより重いもの持ったことないんです。まぁ最近そのマイクすら持ててないんですが」
 つまり、この死ぬほど重そうなミシンという名の鋼鉄の塊を一人で動かせと。
「やっぱ男手は大事ですよねー」
 にっこ~。ラヴずっきゅん。頭痛を感じるのは仕様だ。
 しばらく、ゲコガコ音が響いた。カーリー・チャーンが現れる気配はない。
「――誰かいるのかい?」
 勝手口からベルフラウが顔を出した。
「お疲れ様で~す。いやー、ないですね! 倉庫には!」
「キッチンで一体見つけたよ」
「そ、それはそれは! いやー、私もそう思ってました! ね。伏見さん。私、そう言ってましたよね?」
 行人は情報同期のためにメモを取っているので、生返事だ。
「――よし。伏見さん、次、家事室です。私の脳みそがそう言ってます!」
「――そうだね」
 行人は無口ではない。どちらかというとおしゃべりだし、ついでに自制心も少なかった。
「抜き足差し足とまでは行かないけれども、なるべく音を鳴らさないように移動。移動中や探索中に体をぶつけないように気をつけて高い場所の探索を主に担当する。らむねさんは飛んでるから天井に頭をぶつけないように気をつけて。いや、探し物は俺がするとして――そうだな。手を口に当ててみようか。そう、両手。うん」
 うふって感じ。アイドルの基本ポーズだよね。
「それ、キープで」
 静かに行こうね。
「いや、まず一体外に出そう。カーリーにつかまっても確実に家から脱出できるように留意したい」
 ひょこっとビヴラが顔を出した。
「もし人形を持った状態で捕まりそうになったらパス。いいわね?」
 行人が頷こうとしたその時。
『ねえ。ここはカーリーのおうちなの』
 唐突な幼女の声。
「ふわふわスカート」
 唐突な指摘。
「らむねさん、走れ!」
 らむねは、台所の方に走って逃げた。
「今の内にこっちから脱出だ!」
 行人達が玄関に回ると、らむねが肩で息をしていた。スカートを握られたらしい。
「ご無事でしたか」
 急激に押しつけられる恐怖感と突然の全力疾走のせいで顔色が悪い。尊い犠牲だった。
「ああ。人形は確保だ」
 行人はメモに進捗を書き加えた。
「良かったです。さあ、次こそ家事室に行きましょう」


 応接間。豪華ではないが清潔感があり好感が持てる。
「この部屋と客室は空振りだったのう。カーリーが立ち入らぬ場所にあると思ったんだが」
 アカツキの脚は地についていない。足音対策のウィングシューズだ。
「とすると、あとは家事室と使用人室だな。高い場所に人形があるかもしれんので、簡易飛行も積極的に使っていきたいのじゃ」
 家事室は縫物をしたりする部屋。仕様品部屋は使用人のプライベートルームだ。
「べー君、あそことかどうじゃ? ほれ、あの高い所の棚とか?」
 アカツキは、経験の浅いベネディクトに積極的に話しかけていた。
 にゃー。と、みーくんの――使い魔猫が鳴く声がする。
 ベネディクトの耳を打つ、とたとたと軽い足音。
 ドアの外にいる。この部屋にはそこしか出入りできる手段がない。壁をぶち抜く、窓を割る。とんでもない! この家に攻撃するのはカーリー・カーンに攻撃するにも等しい。
 アカツキは、とっさにソファの陰、ベネディクトはとっさに壁に張り付いた。
 きいいいいいいぃ。
 ベネディクトは、カーリー・チャーンがドアを乱暴に開けるような子でなかったことを感謝しなくてはなるまい。場合によってはドアノブが腹にめり込んでいた。ボディブローは後から効いてくる。
 カーペットで足音がしない。アカツキにはカーリー・チャーンがどちらから来るかわからない。
 アカツキは覚悟を決めた。
 カーリー・チャーンの前に身を躍らせ、くるりと宙を反転し、廊下に飛び出した。カーリー・チャーンはアカツキの服の裾を握るべく、その後を追う。
足音が遠ざかる。目の前の戸板の陰から出たベネディクトは家事室に急いだ。そこになかったら使用人室。
「高い棚から――」
 軽い足音が止まり、すぐにアカツキの声が庭の方からしてきた。
「探そう。彼女の分まで」


 カーリー・チャーンは大忙しです。とても大きなお兄さんが階段にいたのをお外に出して、ネズミさんもネコさんもウサギさんもお外に出して、ふわふわのおねえさんのドレスはもう一回触ってみてもやっぱりふわふわで、なんだか、今日はカーリー・チャーンはほんとに大忙しなのです。まるでお祭りが一気に三つくらい来たみたいです。


 ベネディクトが家事室の一番高い棚の奥に置いてあった人形をつかんだ時、行人、らむね、ベルフラウ、ビヴラがちょうど家事室に現れた。
「今、アカツキとリンディスとアビゲイルに囮を引き受けてもらっている」
 ベルフラウが背後を注視している。
 窓の外から見ると、庭にアビゲイルが飛び出したところだ。
「慌てすぎず、驚かさないように……だわ。一気に駆け抜けるわよ」
 パーティーの心を一つに。


 カーリー・チャーンはびっくりしました。何度もお家から出したのに、それでもまだこんなにたくさんの人がお家にいるなんて思っていなかったのです。今までどこにいたのでしょう。
 とにかくどんどんお家から出て行ってもらわないと。


「ここは私に任せて先に行け!」
「へいへーい! 私はここですよ!」
「人形、あったんじゃな。ベー君、えらい!」
「来たぞ!」
「必ずだ、必ず君をパパとママに会わせる」
「ベルフラウ―!」
「簡易飛行あるから大丈夫です!!」
「ナイス囮だ、らむねさん!」
「あ、やっぱり握るんですね! 私もう後がないんですけど。人気者はつらいですね!」
「こっちに投げて!」
「もうちょっとだから」
 開けっ放しの玄関。庭には先に飛び出していった仲間。
「受け取って――っ!」
 玄関まであと数歩。
 駆け寄ってくるアビゲイルの手にアカツキは人形を乗せ、人形は確かに外に運び出された。


 カーリー・チャーンはなんだか変な気持ちです。
 なぜだかお庭に立っていました。
 黒い服を着たおじさんがカーリー・チャーンに言いました。
「ほら……パパとママが待っているよ」
 お庭の門にパパとママが立っていて、カーリー・チャーンを呼んでいました。
「これから遠くに行くのよ、カーリー」
「みんなにさよならを言うんだよ、カーリー」
 カーリー・チャーンは良い子なので、ちゃんとスカートの裾がつまめるのです。
「それでは、みなさま、ごきげんよう」


「ナムナムして帰りましょう」
「次はお父さんとお母さんに遊んで貰うと良い、きっと会いたがっているから」
 らむねとベネディクトは、急に重苦しさから開放された館にそれぞれの方法で弔意を表した。
「アビゲイルさん、ありがとうございました」
 リンディスは言った。
 アビゲイルは自分で礼を言われるほどではないような気がしていた。飛んできた人形を受け止めて、一歩下がっただけだ。
「オレ、奴隷だから」
「"そんな貴方"でも、こうやって誰かを救えました」
 事情を知らない人が聞いたらちょっとびっくりしてしまう言い回し。だが、リンディスは作戦中アビゲイルを見ていた。
「――ちょっとでも、自分を誇ってあげていいと思いますよ?」

 発見された二つの人形はすぐに埋葬される手はずになっている。夕方にはすべてのお弔いが終わるだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。カーリー・チャーンはパパとママに会えました。
ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。

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