PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<すべてがYになる>貴様をお姉様にしてやろうか

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●お姉様に憧れて
 健全委員会。
 それは、世の中の風紀を正し、何事も健全であることを目指して創設された機関である。
 彼らは日夜、世の中にはびこる度の過ぎた不健全を是正すべく尽力を賭しているのだが、その本拠地である健全委員会本部は現在、混乱の只中にあった。
「第二防衛ラインが突破されました!」
「くそっ、敵の特定を急げ!!」
 何者かの襲撃に逢っているのである。
 本部衛兵の20%が既に崩壊、瞬きの間にも進んでいく敵の魔の手に司令部は大きな焦りを感じていた。
「これは……パターン青! 百合です!」
「まさか、ビャクゴウ統括機関の手の者か!?」
「そんな、やつらは2年前に封印したはず!!」
 その時、司令部のモニター映像の一部が切り替わり、一人の少女を映し出した。
 どこか可憐で、成熟しきらない幼さを感じさせる。しかし、発達した八重歯と背中に生えた蝙蝠のような翼が彼女の種族を示していた。
「アグリッピエーナ・ウォーントフラーテ……!!」
「そうよ、健全委員会の猿ども!! よくもあんなところに閉じ込めてくれたわね!!」
 アグリッピエーナ・ウォーントフラーテ。強力な吸血種であり、ビャクゴウ統括機関の幹部である。当時、ビャクゴウ統括機関は度の過ぎた百合主義を抱え、混沌全土を百合にしようとしたため、健全委員会とぶつかったのである。
 結果は健全委員会の勝利に終わり、彼女らは幹部それぞれが一切女っ気のない施設に隔離され、百合要素からは完全に遮断された。
 これにより、ビャクゴウ統括機関は大きく弱体化し、回復しようにも彼女らの栄養素である百合が存在しなければそれも見込めまいと踏んでいたのだが。
「いったい、どうやって復活を……」
「気づいたのよ! 悟りと言っても良いわね!!」
 モニター越しにアグリッピエーナは踊るかのように両腕を広げた。
「女の子が2人いれば百合! 1人でも百合!! じゃあもう、女の子が居なくても百合!!! そう、あのようなムサイ男しかいない施設でも百合は成立する!! 彼らもまた百合とさえ言える!!」
「なんという逆転の発想……!!」
 彼女は悟ったのだ。百合とは気持ちの有り様だと。そうなれば、一切の女っ気がない施設内でも、百合が存在しないとは限らない。
 彼女は僅かな中にも百合要素を見出すことにより傷を癒やし、こうして復活したのだろう。
 その時だ。モニターの向こうで新しい部隊が現場に到着するのが見えた。健全騎士団。彼らはランスを腰だめに構え、得意の戦術チャージ弾幕をもって彼女に突撃する。
「ビャクゴウ統括、覚悟!!」
「いかん……!」
 しかし、司令官は知っていた。それでは駄目なのだ。2年前の戦争当時、アグリッピエーナが持っていたあの異常な能力。あれが健在であるとすれば。
「馬鹿な……!?」
 分厚い面密度の攻撃性を所持した槍衾。しかしその穂先のどれもがアグリッピエーナに傷ひとつつけられないでいた。
「ノンケに私が、止められるかァッ!!!」
 両手を一閃。健全騎士団の纏っていた強固な全身鎧が吹き飛んだ。
 アグリッピエーナは百合以外のものへの激烈な耐性を持っている。異性愛の思考で彼女を倒すことは不可能なのだ。
 彼女は騎士団の内、妙齢の女性を見つけると、その首を片手で掴んで持ち上げた。
「お前お姉様か!? お姉様なんだろう!! お姉様なんだろうな!!?」
「姉妹百合め……!!」
 司令部の人間がほぞを噛む。あの女騎士はアグリッピエーナに目をつけられた。彼女は百合に対する精神鍛錬は積んでいない。アグリッピエーナの魔眼に見初められれば、どうなるかはもうわかっていた。
「……ええ、そうよ。私のかわいい、妹」
 持っていかれた。
 このままでは、委員会は崩壊し、それどころかビャクゴウ統括機関に健全委員会の一部が乗っ取られてしまうだろう。
「アグリッピエーナを倒すには、百合要素を用いるしか無い……」
「しかし、我々に百合要素を、持つ者はおりません……そうだ。司令官、彼らなら!!」
「ああ、私もそれしかないと思っていた……」
 司令官は職員に次ぐ。最早、彼らにしか希望を見出すことは出来ないと。
「ローレットに、助力を依頼しよう!!」

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
健全委員会という非営利団体から救助要請が届きました。
彼らは現在、ビャクゴウ統括機関なる集団の幹部に攻め込まれており、このままでは滅ぼされてしまうでしょう。
この幹部を打倒し、健全委員会を救ってください。

しかし、問題があります。
ビャクゴウ統括機関の幹部、アグリッピエーナ・ウォーントフラーテは百合以外への強力な特攻、耐性を持っています。
そこで、全力で百合のふりをしながら戦ってください。
百合っぽいヒトからはダメージが通ります。男性でも百合っぽかったら通ります。たとえ筋骨隆々でもむさいおっさんでも赤ん坊でも百合っぽかったら攻撃が通じます。
そういうのでよろしくお願い致します。

【エネミーデータ】
■アグリッピエーナ・ウォーントフラーテ
・ビャクゴウ統括機関の幹部。吸血種。怪力と敏捷性を持ち合わせている。
・以下のスキルを持つ。

◇ノンケ特攻
・女性同士の恋愛者以外からのダメージを9割軽減し、女性同士の恋愛者以外への攻撃がすべて貫通し、防御数値を無視し、ブロックされず、女性同士の恋愛者以外のあらゆる判定成功率を9割ダウンさせます。
・しかし、長い幽閉生活で女性が居なくても百合は成立するという悟りを開いたため、逆に男性からでさえも百合っぽい行動を取られるとこのスキルは無効となります。

◇魔眼:お姉様なってけ
・魅了を与える。この魅了が解消されるまで、アグリッピエーナ・ウォーントフラーテを同じ学園に通う親しい後輩だと認識するようになる。

【用語集】
■健全委員会
・とある理念を掲げる非営利団体。ビャクゴウ機関に強襲され、ローレットへと救助依頼を出した。

■ビャクゴウ統括機関
・全生物を百合にしようと目論む悪の組織。過去に健全委員会との対決で破れ、封印されていたが、復活した。

【シチュエーションデータ】
■健全委員会本部
・健全委員会の所有する建物内です。オフィスビルのようなものと捉えてください。

  • <すべてがYになる>貴様をお姉様にしてやろうか完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月09日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ミラーカ・マギノ(p3p005124)
森よりの刺客
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
時裏 結美(p3p006677)
妹『たち』の献身
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
アウロラ・マギノ(p3p007420)
紅雷姉妹
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
銀・茨姫(p3p008140)
ドリフター

リプレイ

●揃い揃ったお姉さまズ
 恋や愛について、学んだのはいつのことだろう。自分の場合は幼い頃に手にとった書物の印象が強い。流石に記憶が薄れていて、仔細までは覚えていないが、それでも胸に突き刺さるようなあの衝動は今も残っている。この世には核も素晴らしいものが有るのだと、憧れるようになった。

 健全委員会は半公的な機関としてそこそこ有名であり、本部施設の場所も公開されているものだ。彼らの主な活動は行き過ぎた啓蒙の取締であり、倫理的社会的に大きく外れた思想が出回らないように管理している。その性格上、やや頭が硬いところも否めないが、度が過ぎなければ執行権限を行使することはなく、まっとうな集団である。
 その本部だが、入り口が思いっきり半壊していた。ともすれば攻城兵器でも使用したのかという有様だが、報告によれば侵入者はひとりである。おおよそ個人の範疇を超えているが、きっとこの入り口がノンケだったのだろう。
「幼さの残る色々未成熟な八重歯の妹系……うっ」
『夜天の光』ミラーカ・マギノ(p3p005124)は自分の胸を強く抑えた。彼女のストライクゾーンに突き刺さったのだ。出会う場所が違えば仲良くなりたかった。
「まぁ、あたしにはかわいい彼女がいるから浮気はしないけれど! 仕方ないわね、例えかわいい後輩が相手でも……いいえ妹が道を間違えたというなら正すのがお姉様の役目ね!!!」
 魔眼使用前から、情報だけで魅了されていた。
「アグリ、なんとも恐ろしい奴だ。ノンケを無理やり百合にするとは……」
 アグリッピエーナの持つ逆転の発想力に、『時空を渡る辻斬り刀』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は驚愕していた。
「しかも言っていることが支離滅裂だ。まるで意味がわからん」
 きっとそこには、到達した思考の持ち主にかわからない何かがあるのだろう。ともあれ、押しつけは良くない。恋愛の主義主張は迷惑をかけない限りフリーである。
「それを分からない彼女には一度お仕置きをしなくてはな」
「最近、天義で吸血鬼を狩ったばかりだけれど今度の吸血鬼さんは随分と可愛らしいのね?」
 前情報でアグリッピエーナのことを聞き、『真昼の月』白薊 小夜(p3p006668)は微笑んだ。
 吸血種というのは、本来人類種の天敵である。食物連鎖の上位に存在し、人間を食料としかみなしていない個体も多い。その基準で言えば、アグリッピエーナは友好的であるとすら言えるだろう。なにせ、恋愛の対象としても認めているのだから。
「とても楽しめそうだわ」
「対象がいなくても百合が成立するとかわかる気がするな」
『妹『たち』の献身』時裏 結美(p3p006677)の思考も既に、アグリッピエーナと同じ場所にあるようだ。
「姉想う、故に妹(われ)はあり」
 実在は問題ではない。そういうものであればそれで存在できるのだ。
「想像の上だろうと存在を感じ、自分が感じ入るものがあればいい。そういう事だよね、アグリッピエーナお姉ちゃん」
 妹である女vs姉にする女。
「ビャクゴウ統括機関……なに、それ?」
 聞いたこともない組織の名前に、『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862) は首を傾げた。
「全生物を百合にって……あー、うん、大丈夫なんじゃないかな健全委員会」
 なんか聞いている限り平和そうだ。でも実際には短期の化け物が襲撃してきているという。どういうことなの。
「百合ってさぁ……恋愛? そんなもの知らん!!!!!!! ふふん」
 何故かふんぞり返っていた。知らないと、今回結構ピンチ。
「幼さの残る色々未成熟な八重歯の妹系……お姉ちゃんはいますが、妹系はなかなか……」
『暁天の星』アウロラ・マギノ(p3p007420)もまた、姉と同様に戦う前から魅了されているようだった。
「えぇと、かっ、カミングアウトは必要でしょうか……!? 戦略的に必要ですよね、はい。多分私もお姉ちゃんも攻撃はデフォルトで通ると思います、そういうことです。いえでも彼女歴とか恋愛経験とかはあんまりなくて片想いとか吸血だけの関係とかそういうのはありますけど今付き合って――――えっ、そこまで言わなくていい?」
「何を以って健全とし、何を以って不健全とするのか」
『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)が思うに、その境目は愛である。
 恋愛要素を至上として書かがっるアグリッピエーナの行動原理は一見純粋なものに見えるが、魔眼により強制力を行使するその姿勢からは相手への愛があるとは思えなかった。
「故に、裁かれねばならない」
 ちゃんと健全な百合思想に戻してやらねばならないのだ。
「この世界に来て初の依頼だロボ。しかし、百合──初めて聞く概念だロボ。姉妹であることにそこまで拘る必要があるのかロボ……?」
『ドリフター』銀・茨姫(p3p008140)はその思想がいまいち理解できずに居た。しかし仕事であるならば理解しないわけにもいくまい。早速知識を得ようと調べたところ、茨姫の前にそれはそれは蠱惑的な世界が。
「ふむ、この世界には色んな人がいるものだロボ……」
 その知識は、思想は、茨姫の行動規範に根付きつつあった。
 ひときわ大きな爆発音が聞こえた。
 あまり悠長にしていられる時間はないのかもしれない。彼らは意を決し、その中へと脚を踏み入れた。

●その妹は
 大きくなって、社会的な普遍性を知り、愕然とした。なんと、この世界に女同士の恋愛はマイノリティだと言うのだ。時と場合によれば、迫害の対象ですら有ると言うではないか。曰く、非生産的。曰く、非道徳的。愛が生まれること以上の生産も道徳も何があろう。

「もういないのか、健全委員会の猿!!」
 本部通路の途中にその姿はあった。
 八重歯と背中の蝙蝠羽が印象的な女性。彼女がアグリッピエーナだと見て問題ないだろう。彼女はこちらを振り向くと、嬉しそうに手を打った。なにか感じ入るものをとったのかもしれない。
「いいわね、いいわね! 素敵よ、きっと素敵!」
 戦いの意思は伝わっている。彼女もそれに即した構えをとった。
「さあ、アンタらもお姉様よ、そうよね!?」

●妹とお姉さまたちと
 というわけでそういうものと真っ向から戦ってみることにした。ちょっと自分でも極端すぎたかと思ったが、むしろこの世界が非寛容なのだ。これくらいでないとバランスはとれまい。有る種、これも恋活である。理想のお姉様を探さねばならないのだ。

「……男同士なら薔薇だよな?」
「いいえ、男同士でも百合よ!!」
 紫電とアグリッピエーナが衝突する。
 方や刀剣、方や素手。異質な戦いともとれるが、高位の武芸は武器種の優劣という段階を超越している。
「お前もお姉様か!? お姉様なんだろうな!?」
 アグリッピエーナの両目が妖しい輝きを放つが、紫電は揺るがない。如何に激烈な精神支配の類であっても、強固な誇りを打ち崩せはしなかった。
「生憎オレはヤンデレの魂喰い魔剣に好かれていてな!」
 横一閃。眼力に意識を割いていたアグリッピエーナではその暴風をいなしきれず、数歩分、後方へと飛び退る。
「そんな、まさかジャンル違い!?」
 畳み掛けるも、振り下ろした刃は再び吸血種の爪と拮抗していた。
「オレはただ、秋奈……いや、オレと何故か似ているような気がする『戦神』を放っておけないだけだ」
「なにそれ素敵なラヴの気配! もうちょっと詳しく、ねえ!!」

「『彼らもまた百合とさえ言える』なら健全委員会もまた百合、つまり彼らへの侵攻は同士討ちとも言えないかしら? そも全てのものに百合を見出だせたならそれは全生物が百合、つまりビャクゴウ機関の目的を達成したとも言えるわね」
「なるほど、つまり健全委員会の猿どもでカップルになってもらば良いのね!!」
 小夜の言葉にさも名案と手を打つアグリッピエーナ。モニター越しに本部の人々が全力で首を横に振っていた。
「ま、そんなことよりもよ。私、貴女に興味があるの」
 戦った兵らを思い出しつつ脳内でカップリングを作り始めた彼女に近づくと、小夜はその頬に手を添えた。
「魔眼で人を意のままになんて……まるでお人形遊び。そんなので満足なの?」
「そんな、なんて姉力……!」
 腰に手を添え、耳元で囁く。無防備を晒し、本来ならば致死の距離だが。
「アギーって、呼んでもいいかしら?」
 ふっと息をかけると、アグリッピエーナの体はびくりと震えていた。

「お前もお姉様なんだろうな!?」
「違う、あなたがお姉ちゃんになるんだよ!」
 結美とアグリッピエーナのスタイルは相反する。
 自分のことを妹だと認識させる女と相手に姉だと思わせる女の戦いは既に開始時点から矛盾を孕んでいるのだ。
「あなたは私の後輩でお姉ちゃん、つまりはそういう事」
「何その背徳的な響き!? 気になる!!」
 魔力の塊をアグリッピエーナに向けて放つ。十分に込められた百合力はアグリッピエーナの耐性を貫通するが、吸血鬼にしても、ものの数発で倒れてくれるほどヤワではない。
 この戦い、どちらが姉であるのかが優劣を決める。
 しかし、その中で結美の提案は相反する互いの主張に一筋の光明を見出した。
「お互いがお姉ちゃんと呼び合う百合姉妹も双子っぽくていいよね!」
「ふたりとも姉で、妹ということ!? 素敵ねそのジャンル! おすすめの本はあるかしら!?」
 戦いは激化する。しかし双方に奇妙な信頼が生まれ始めていた。

 紫に輝きながら、飛び行く斬撃。
 その刃をアグリッピエーナは素手で受け止めていた。
 ちらりと、投げつけた主へ彼女の視線が行く。そこでは秋奈が白兵の構えを見せていた。
「白百合の戦乙女が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
「すごい堂々としたカミングアウトね! 嫌いじゃないわ!!」
 秋奈の口上を、なんか勘違いして受け答えるアグリッピエーナ。しかし彼女の興味を惹くことには成功したのだろう。一呼吸、その間に距離を詰めてきた。
 打ち重なる刃と爪。無数の赤い軌跡が常人では眼で写すことも叶わぬ速度でぶつかり合う。
「お前もお姉様か!?」
「くっ……」
 妖しく光るアグリッピエーナの魔眼。ぐらりと傾いた隙をつき、吸血種の爪が秋奈を襲うが、その手があと一歩というところでぴたりと静止する。
「そ、それは……」
 それは販売するには妙に薄い書物。しかし彼女はそれを傷つけることを本能で拒んでいた。
「もはやラブを超えた何か。おぜうさまを崇めよ」

 聖花絢爛百合学園。
 それは、健全委員会本部被襲撃箇所において発足したごく短期間の女学校である。
 ベルフラウはそこで長く教師を務めていたが、今年になってひとつの問題に直面する。
 それは春のことだ。幼い頃から親しくしていたアグリッピエーナが入学してきたのである。
 ベルフラウは戸惑った。
「私、ベルお姉ちゃんと結婚するの!」
 それを口癖のように言っていたあの頃。ベルフラウもまた、慕ってくれる妹のような存在を嬉しく思い、できれば彼女の気持ちに答えたいと思っていた。
 しかし、現実は思うようにはいかないものだ。貴族の女には、生まれたときからひとつの仕事が存在する。
 政略結婚。お家のために、女であることは武器にせねばならないのだ。
 それを知り、彼女は身を引いた。アグリッピエーナとは距離をとった。
 どうせ、幼い頃の思い出だ。今では彼女も忘れているに違いない。そう思っていたのだが、入学式で見た、あの瞳は――どうしよう。書ききれぬ。多分この設定盛って3000文字いける。

 茨姫には理解できなかった。アグリッピエーナに対し、まるで攻撃が通じないのだ。
 この敵は百合っぽければダメージが通ると聴いていた。しかし、どう検索しても百合っぽいってどういうのかよくわからなかったので、とりあえず相手に合わせて姉っぽく振る舞っていたのだが、付け焼き刃が過ぎたのか、まるで攻撃が通じないのだ。
「ど、どうすればいいロボ…・・?」
「お前のお姉様ぶりには愛情が感じられない!!」
 激高するアグリッピエーナの一撃。しかし茨姫には不思議と、その膂力よりも言葉のほうが胸に突き刺さっていた。
「あ、愛情ロボ……?」
「そうよ、愛情よ! 考えなさい! 思い描きなさい! 私のような女の子があなたの妹だとして! 慕ってくれているとして! 甘えてくれるとして! どう応えたいかを!!」
「どう、応えたいか……」
 茨姫の回路にノイズが走った。そうだ、これなのだ。百合とはこれであるのだ。
「そうか、お姉様とは……百合とは……宇宙とは……」

「はぁっ、はあっ……なんて、百合力。心は満たされるけど、このままじゃ体が持たない……!」
 アグリッピエーナは既に疲労困憊していた。当然だ、ここまで自己保管だけで戦ってきた彼女が、ここにきて実物の百合を見せつけられているのだ。興奮でタガが外れてしまい、通常よりも消耗が激しくなってもなんらおかしくはない。
 疲労により感じるのは、吸血種特有の強烈な渇き。血を欲する本能が騒ぎ始めていた。
「とってもつらいですよね……」
 アウロラはアグリッピエーナの前に立ち、衣服を緩めると、首筋を晒す。その白い肌に、アグリッピエーナの視線が釘付けになった。
「たぶん、美味しい、ですよ?」
 上目遣いで誘われる。そうなればもう我慢できなかった。汚れない肌に牙を突き立てる。ぷつりと空いた穴から、赤いそれがゆっくりと流れ出した。
 夢中で血を飲むアグリッピエーナの頭を、アウロラが撫でてやる。ゆっくりと、妹にするように、甘やかしてやる。
「おねえ、さま……」
 アグリッピエーナは泣いていた。長年の百合絶ちは彼女の心を深く傷つけていたのだ。
 その点に関しては、ミラーカも怒りを覚えている。
「百合厨に! 百合絶ちは! 人権侵害よ! マジで!!!」
 過去に如何なる所業があったかは知らないが、それでも無理やり押さえつける形は納得できなかった。どんな生物も、水がなければ死ぬように、どんな百合厨も、百合がなければ死んでしまうのだ。
 緩やかな死。それは人思いの処刑するよりも残酷だろう。
 アウロラに抱きつくアグリッピエーナを、その背後から抱きしめる。びくりとその体が震えたが、優しく包んでやれば、いつしか緊張はほぐれていた。
 その首筋に、ミラーカは牙を立てる。アウロラもそれに続き、血液の交換を行った。
 それは食事ではない。延命行為でもない。紛れもなく、愛情表現であった。
 抱きしめ合う。指を絡め合う。その力は次第に強くなっていき。
「お姉様、私、もう、もう……」

●推しすぎ注意
 未だ封印されている統括機関総統はもっと恐ろしいぞ。

「ごめんなさい!!」
 戦いが終わると、素直にもアグリッピエーナは頭を下げた。
 元から好戦的な性格であるかもしれないが、長年の百合絶ちにより暴走をしていたというのもあったのだろう。
 満たされた彼女は、清々しい顔をしていた。
 罪は贖わねばならない。襲撃した事実は残っている。
 しかし、それを連行するのは健全委員会ではなく、ローレットだった。
 悪いようにはされまい。今回の事件で、死者は出ていないのだから。
 別れ際、あの妹の熱い視線を、きっと忘れることはないだろう。

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

健全。

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