PandoraPartyProject

シナリオ詳細

かわいい+厄介=おいしい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 忍集団『暦』と言えば、その世界では泣く子も黙る凄腕集団だった。然るべき手段での依頼方法さえ知っていたならば、如何なる内容であっても必ず成し遂げる。ひとたび狙われれば政府要人でさえも命を奪われるし、彼らが動いて見つからぬ迷い犬もない――人は彼らを英雄と呼び、秩序の破壊者と呼び、しかしながらその誰一人とて、彼らの真実を知る者はない……では、彼らの正体とは?

「しまったァ!」
 『幻想』――レガド・イルシオンの首都メフ・メフィートにほど近い隠れ家のひとつにて、ひとりの男が凄腕らしからぬ悲鳴を上げた。
 この世の終わりのごとき声に驚いて、忍たちが次々に男の許へとやって来る。
「どうしたの、お袋……?」
「母上、何か困り事でも?」
『何でも鬼灯くんに頼むといいわ!』
「頭領のお手を煩わせるほどでないものであれば、俺にお任せを」
「いやァ、そんな大層な話じゃなくってさ。昼食用に肉が必要だったはずが切らしてて、朝市ももう終わっちゃってるからどうしようかな、って。あと俺はお袋でも母上でもないでーーす!!」
 随所に猛禽の特徴を備えた忍『ぐるぐるしてる』角灯(p3p008045)、腕に大切そうに愛らしい人形を乗せて腹話術しながら駆けつけた『お人形さんと手品師』黒影 鬼灯(p3p007949)、黒子のように速やかに膝を突いた流星(p3p008041)に答えてからノリツッコミした男は、『暦』の女房役、霜月である。彼は不幸な仕入れミスの結果、まさかの食材切れという失態を犯してしまったのである!
「どうしよう……おれがここに来たせいで……」
 14にもなって童子のように泣き出した『忍辱負重』鈴々吉(p3p008037)をどうにか宥めた後に、霜月は偶然にも行商人でも通りかからぬかと周囲の動きに集中をしはじめた。当然、そんな都合のいい話なんてない。けれどもその代わり……こんな会話が耳に飛び込んできた。

「ああ、あとちょっとでローレットだ。俺たちの村も助かるんだ」
「でも今は海洋やら鉄帝やらで忙しいんだろう? ツブライノシシの退治なんて取るに足らない仕事、受けてくれるんかねぇ?」

 ……イノシシ?
 もしかしたら『暦』の食糧問題は、案外呆気なく解決できるのかもしれない。
「てなわけで、イノシシ狩りに行こうよ! 村も被害が抑えられるしお肉も手に入る! 霜月さんも手伝うからさァ、ね、頭領♡」
 ……などと、半ば強引に霜月に誘われてローレットへとやって来た『暦』一行が、背負ってきた野菜やら調理道具やらのせいで幾人かの興味を集めるのは時間の問題であったろう。

「ツブライノシシかぁ……どんな動物なのかな?」
 新たなぬいぐるみのデザインのため興味を持った、『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)。
「ツブライノシシ? 彼らの毛や骨は魔女術の研究に使えそうね」
「ちょうどボクもおなかがすいてたんだ……爺、しゅったつのじゅんびをしてくれ!」
 この機会が自らの知の探究に役立つと考えた、『宵闇の魔女』夜剣 舞(p3p007316)。それから、食事つき、と聞いて目を輝かせた、『バッドステータス坊ちゃま』リオーレ(p3p007577)。
 さらには一行の様子にいろいろと妄想の種を見出した『腐女子(種族)』ローズ=ク=サレ(p3p008145)までが加わって、今ここに、8人のツブライノシシの討伐(&牡丹肉パーティー)隊が結成されたのだった!

GMコメント

 リクエストありがとうございます。るうでございます。
 今回はご要望にお応えし、初心者向けチュートリアル戦闘+牡丹肉パーティー、という形式のシナリオです。
 ただし……『初心者向け』というのが必ずしも『何も考える必要がない』ではないことだけはご注意ください。確かに今回、戦闘に勝利するだけであれば難しくはないでしょう……が、戦闘オプションやスキルの特徴を正しく理解してプレイングを行なわなければ、折角のパーティーが台無しになってしまうかもしれません!
 もちろんその上で、『キャラクターらしさ』の表現もお忘れなきよう……本シナリオが皆様にとって、『自分らしいプレイングのバランス』を探るための一助になれば幸いです。

●戦場
 秋蒔き小麦の畑とツブライノシシが出てくる森の間の休耕地、約100m×100mの区画です。戦闘に影響があるほどではありませんが多少の凹凸がありますので、ファンブル時には「足を取られた」ということになってしまうかもしれません。
 戦闘は、ツブライノシシたちが休耕地の中央に、互いに5mほど離れて差し掛かったところから開始します。皆様はツブライノシシたちより村側であれば、どこからスタートしてもかまいません。

●敵:ツブライノシシ×2
 通常、彼らは単独や雄雌のつがいで現れるのですが、今回は珍しく雄同士のペアのようです。
 ツブライノシシは丸みを帯びた体とくりんとした目が愛らしいのですが、実際には気性が荒く、可愛らしさに安心した獲物を突進で殺して捕食する危険な動物です。

 彼らの機動力は4で、通常は攻撃の届く中で最もHPの低そうな相手に『物至単』の攻撃をしてきます。しかし自分のHPが大幅に削れてくると、森の中に逃げてしまいます! 逃がしてしまっても依頼自体は成功ですが、当然ながらお肉は手に入りません……戦闘マニュアルやスキル用語を確認しながら、逃がさない方法を考えてみてください。
 なお彼らは、HPが減っているのに森に逃げられない状態では大暴れし、【出血】つきの『物至範』攻撃を始めます。

●味方NPC:霜月
 料理の準備の片手間に、手裏剣の投擲等でサポートをしてくれます。具体的なお願いがあればプレイング内で指定してください。

●その他
 折角のお肉を一部捨てないといけなくなるので、【毒】系の攻撃は控えめにね!

  • かわいい+厄介=おいしい完了
  • GM名るう
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年03月01日 01時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
夜剣 舞(p3p007316)
慈悲深き宵色
リオーレ(p3p007577)
小さな王子様
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
鈴々吉(p3p008037)
忍辱負重
流星(p3p008041)
水無月の名代
角灯(p3p008045)
ぐるぐるしてる
ローズ=ク=サレ(p3p008145)
腐女子(種族)

リプレイ

●かわいいの攻撃
 きゅーブルル。
 威嚇のはずなのにどこか愛らしい、ツブライノシシたちの唸り声。つぶらな瞳はきらきらと輝いて『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)を見つめるけれども、そんな彼らの策略に、イーハトーヴまで虜になってしまうわけにはゆかなかった。
 ちらと後ろを振り返る。するとこちらを遠巻きにして、村人たちがはらはらと不安げに眼差しを向けている。
 見た目に騙されてはいけないんだ。何故なら彼らを見逃してやったなら、悲しむのは自分たちに期待を向けてくれている村人たちなんだから。
「それに……」
「母上の料理のためでもあるからなぁ」
 イーハトーヴが言いかけた言葉を、嫁殿を片手に抱いた『お人形さんと手品師』黒影 鬼灯(p3p007949)が、溜め息半分で引き継いだ。向こうでは霜月が、「がんばれー♡」だとか「だから母上じゃないでーす!」だとか応援とも野次ともつかない声をこちらに飛ばしつつ、火やら鍋やらの準備に勤しんでいる……この場合、彼のハートつきの『がんばれ』は、『この準備を無駄にすることは許されない』の意味だ。ぞくっとしたものが鬼灯の背に垂れる。
 だがともあれ。母上の料理はその命令を遂行するに足る価値がある。そのことは『暦』に属する者ならば、誰であっても知っている!
 だからイノシシたちが揃って猛突進をしはじめた時、『忍辱負重』鈴々吉(p3p008037)は覚悟を決めて、キッと彼らを睨みつけてみせた。歩けば棒が頭に当たる、楽しみな仕事の時ほど雨になる。たくさん並んだ団子屋さんに限って直前で売り切れるほどの不幸の星の下に生まれた鈴々吉は、今日はひ弱で自信のない有様が祟ったか、真っ先にイノシシたちに格好の的として見定められたけど。
「でも皆……そこまで見越して……作戦を立ててくれたんだから……」
 覚悟を決めてぎゅっと両目を瞑ったならば、ドシンという音が2つ響いてきた。
 なのに……どこも、痛くない。おそるおそる瞼を開いてみると……目に飛び込むのはまるで死体のような肌。
(おれのせいで、誰かが死んじゃった……!)
 思わず泣き出しそうになってしまったけれども、“死体”は何故だかどこか幸せそうに、何かのうわ言を呟いていた。
「2頭とも、息もぴったり……これは友情? それとも愛? やだー! ナマモノはセンシティブだからなるべく避けておいたのに、これは新たなエモエモのよ・か・ん!?」
 独りで身悶えしながら「キャー」だとか「ん゙ん゙っ、尊い!」だとか謎の鳴き声を上げていたのは『腐女子(種族)』ローズ=ク=サレ(p3p008145)嬢だった。何やらにやけたり腐臭を漂わせたりして新たに見出した“推し”にドン引かれないようにと腐心して、自分だけ自分の世界に入り浸っている。
 そんな腐女子の心の機微なんて、まだ幼い『バッドステータス坊ちゃま』リオーレ(p3p007577)にはさっぱり解らなかったけれども。
 でも……自分の為すべきことだけはわかる。
「ボク、たたかい方は分かんないけど……ケガをした人がいたならいやすよ。いやすのならまかせて?」

●かわいいへの反撃
 リオーレがそっと手を翳したならば、ローズの腐った肉体までもが、たちどころに元通りの姿に向けて戻っていった。これをどれほど続ければいいのかは判らない。けれどもイノシシたちの狙いが鈴々吉に固定されていて、それを耐久力に長けるローズが庇っている現状、彼女さえ倒れなければ、他には誰も傷つかないことだけは知っている。
 だが……それだけで勝利が得られるわけじゃない。そんな当たり前のことは誰だって知っている。
 だから、これからは反撃の時間だ。いつの間にか即席の調理台の準備まで終えて、野菜を切りはじめた霜月の包丁捌きにいつまでも見惚れていたくはなるけれど、『宵闇の魔女』夜剣 舞(p3p007316)も自らのタクトに魔力を篭めて、その無尽蔵の魔力をツブライノシシの一方へと解き放つ!
「ローズさん! 鈴々吉さん! もう少しだけ頑張って!」
 そんな決意の言葉と同時、舞の魔力は光の輪を作り、一度距離を取り再突撃を企てるツブライノシシの全身を縛めた。彼はもがきながらも突撃の姿勢を崩そうとせず……けれども彼が駆け出したその瞬間、再び舞のタクトがイノシシを示す!
「させないわ……一気に畳みかけるわ!」
「おれ……がんばる!」
 その瞬間、『ぐるぐるしてる』角灯(p3p008045)の向けた銃口から、冷たい炎が噴き出した。感情を映さぬ表情の中で、瞳の凍てつく氷色だけが、何よりも角灯の決意を物語る。お肉がなくて困っているお袋を、何としても喜ばせてやらなくちゃいけない……決意し、極度に集中した彼を、何人たりとも妨げ得ない。まずは、『当てた』という結果を強く想起する。すると放った弾丸もまたその意志に従って、イノシシの横腹に鮮やかな血の華を開かせてから凍らせる!
「ピギィッ!?」
 ツブライノシシは哀しげな悲鳴を上げた。聞く者が、思わず哀れみの感情に流されかけるほどに。
 でもそれを自らの頬を叩いて思考の外へと追い出して、『暦の部下』流星(p3p008041)は両腕を振り上げた。それまで忠実に彼女の腕に留まっていた相棒の鷹、玄(ゲン)は、主の意を察して空高く舞い上がる!
「た、たとえ愛らしく振舞ったところで、お前たちが危険な獣であることは承知……騙されるほど俺は愚かではないぞ」
 流星はその腕にて獣に覆い被さって……彼の弾丸が貫いた辺りを力いっぱい締め上げた。
「これは、他ならぬ、いつも世話になってる母う……霜月殿の頼み! 霜月殿の耳に入った時点で、お前たちの行先は鍋の中だ!」
「あーっ、また母上って言おうとしたネェーっ!」
 流星は霜月の抗議への詫びとして、自らの頬を叩いてけじめをつけねばならなかったが、その隙にイノシシは彼女の腕から抜けて、より与しやすそうな鈴々吉に牙を突きつけようと向かう。見た目は確かに可愛らしいのかもしれない……けれどもそんな鬼気迫る勢いを二度もこちらに向けられたなら、そろそろ鈴々吉の涙腺も限界になりそうだ。
「おれは男だ、おれは男だ、おれは男だ……」
 自分に言い聞かせながら忍術を放つ。それは泣かないと心に決めるための呪文だったはずなのに、いつしか止め処なく流れ出てしまった涙が視界を歪ませている。別に、体が痛いわけじゃないのに。だって、今度の攻撃も、ローズが全てを一身に受けて、何やら勝手な妄想に浸ってるんだから。
(これ、『暦』の人たちから見て、どうなのかなぁ? 「俺の鈴々吉を取るな」とか思われたりしちゃわない?)
 本人主観では艶かしく、傍から見れば全く不気味に、体をくねらせて喘いだローズ。ナマモノ避けてたとは一体何だったのか。だが混沌肯定によりかつての一般人偽装能力を失った今の彼女に対し、淑女たれと求めることは酷だろう。にやけそうになる口許とそれを押さえつけようとする意志が反発し、薄気味悪い引き攣り笑いが浮かぶ。うわっキモっ。これホントに治療しちゃっていいの?

 その通りだ。たとえ見た目がどんなでも、それは治しもせず放置する理由になんて、ならないんだ。
 イーハトーヴがぬいぐるみに向ける愛と同じ力が、リオーレの放ち続ける力に寄り添うように、ローズに向けられる。
 何故なら見た目で要不要が決められる悲しみを、彼は誰よりも知っていたから。幸いにも彼にはそれを覆すほどの才能があった……けれども、もし彼がどこかで誰かに、この才能を戦争なんかのために使わないでくれと叫んでいたら? 結局は、見た目で軽んじられる日々に逆戻りだったはずだ……だから彼自身可愛いものは好きだけど、それと可愛くないものを疎んじることとは別の話だ。
 ……そして。

●逃がさじの覚悟
 何故だか攻撃しても攻撃しても倒れてくれない敵にようやく気付いて、ツブライノシシたちは揃って小首を傾げた。それから不思議そうに互いに顔を見合わせて、もう一度不思議そうな顔をする彼ら。
「不思議だ、よね」
 小さく、角灯は囁いた。だって彼らのうち片方はまだ無傷だけれど、もう片方は満身創痍なんだもの。
 理由は簡単。特異運命座標たちの作戦は、片方ずつ確実に仕留めることで、同時に2頭ともに逃げ出されたりしないように、というものだから。
 幾度めかの角灯の銃弾が傷ついているイノシシを貫いたなら、彼は恐れをなしたのか、慌てて森に向かって駆け出しはじめようとした。だが無理だ……そこには流星が待ち構えているからだ。
「我ら暦とその部下を前にして、逃げられると思ったか? いざ、我らが血肉となってもらおうか!」
 獣に、彼女の言葉が解るわけもない。けれども彼女の発する闇の気は、獣にも――いや相手が獣だからこそ言葉よりも雄弁に彼を威圧する!

「ぶるぶるきゅー!」
 パニックに陥ったツブライノシシは、逃れようと闇雲に牙を振り回しはじめた。今や彼の目には、相手が流星であるのか、ローズであるのか――そればかりかパートナーだろうもう1頭のツブライノシシであるのかさえもが映っていない。ただ目に飛び込んできたものをその短いながらも鋭い牙で引っかけて、すぐに別のものに目移りしてそちらに向かうから引っかけたものが引き裂かれる、というだけの暴れっぷり。
「しまった!」
 あまりの勢いに流星の足元の土瘤まで崩れ、流星は無様に引き倒される……が、たとえそんな目に遭っても彼女は『暦』。敵の逃げ道を開ける真似だけはせぬ!
「血が……!」
 慌てて流星に向けて駆け出しそうになったリオーレだったが、半歩進んだところで足を止め、代わりに彼女の幸運を祈りはじめた。
「ボクがいやしの光をはなつと、イノシシまでなおしちゃう……だから、せめてこううんがありますように」
 すると彼の祈りが通じたか、流星は何事もなかったかのように再び立ち上がった。深くふくらはぎを貫いたかと思われた牙は、実際には浅いところを掠めただけだった……それは如何なる僥倖であったろう?
「今のうちに止めを刺すわ」
 今度は舞の術式は、目の前に大型の魔法陣を描き出した。魔法陣が輝くのと同時……背から、白い翼が広がりはじめる。異能紋――舞の腰に刻まれていた異能者の証が覚醒し、それに導かれるように魔法陣から、漆黒の鎧の騎士が顔を出す!
 黒騎士は味方を護る剣、攻めの黒は強いのよ――そう舞が微笑みかけてみせた次の瞬間、黒騎士は暴れ続けるイノシシに向かって、同じく漆黒の剣を突き出した。
「ピギッきゅー!?」
 ようやく状況に気付いたツブライノシシ。けれども……それを避けようとした彼は、その攻撃から身を躱すのはおろか、まともに受けぬよう身を捩ることすらできぬのに気付くのだ。
 幾度となくばら撒かれた角灯の弾丸の軌跡が、彼に不吉の影を落としかけていた。息も詰まる連射に襲われて、ひとつ大きく息を吸い込めていれば踏み出せたはずの足が進まない。
 飛び散る赤。イノシシは最期の反撃を繰り出そうとしたものの、土を蹴るべき蹄は空を切り、ただその場で暴れただけになっていた。理由は……すぐに彼自身の流す血によって明らかになるだろう。彼の体には無数の目に見えぬ細糸が巻きついており、そのうち幾本かは赤い水滴により存在を明らかにしてくれている。
「……御免」
 鬼灯が戦いの光景に背を向けて指先を前に倒すと、ツブライノシシはそれらの糸により、すっかり全身を切り刻まれてしまった。
「さて……もう1頭も同様に仕留めればいいのだろう?」
 振り返った鬼灯の腕の中では嫁殿が喜んで、鬼灯の腹話術により『鬼灯くん、カッコいいわ!』とベタ褒めしていた。

●牡丹肉パーティー!
 そんなわけで2頭めもつつがなく討伐されてしばらくすれば、辺りには牡丹肉の野性味溢れる匂いが、むせ返るほど色濃く充満していた。霜月がおたまでひと掬いする度に、湯気を立てるアツアツの牡丹鍋がお椀に満ちてゆく。その様子をじっと見つめていた角灯の表情が……ある時、珍しく傍目からもパッと明るくなったのが判る。
「おれのお椀、大根多めに入ってる……!」
「そりゃあねェ、角灯ちゃんはお肉運びも血抜きも解体も目一杯頑張ってくれたんだもんねェ」
 霜月がウィンクして見せたなら、お手伝いにもますます気合いが入り、いろいろと教えてくれた『ろぉれっとの先輩たち』へと、それぞれお椀を配って回る。
「はい。どうぞ、先輩」
「ボクが……先ぱい?」
 そんな角灯にお椀を手渡され、リオーレは最初は少し戸惑ったものの、すぐにはにかんだような笑みを浮かべてそれを受け取った。こんな時……『先輩』の仕事は後輩を褒めてやることだ。すると角灯はまた少しだけ嬉しそうな顔をして、次の人へとお椀を渡しに向かう。
 意気揚々とした角灯の様子を見送った後、今度はお椀の中身を確かめるリオーレ。
 お肉が、やわらかい。
 手間がかかると聞くイノシシの下拵えを、霜月が完璧にこなした証拠だ。だから……いっぱい食べるんだ! もちろんリオーレは美少年だから、お肉だけじゃなくってお野菜もたくさん食べるけどね!

 どんどん期待が高まってゆく村外れ。ひとつの腹の虫がぐぅと鳴り、大きく辺りに響き渡った。
「おおっと、いい加減『いただきます』をしないとねェ! せっかく皆に料理に集中させて貰ったお蔭で、早めに準備が終わったんだからねェ」
 そう笑う霜月の視線が一瞬だけこちらを向いた時、鈴々吉はお腹の虫の主が自分だとバレたかと思い、気恥ずかしさにまた泣きそうになったけれども。声を揃えたいただきますの後、お椀の中身をひと啜りした途端、気恥ずかしさも、イノシシたちと対面した時の涙も、そればかりか半生ぶんの見舞われた不運さえもが、全て忘却の彼方へと吹き飛んでしまった。帰り道にはきっとまた、新たな不幸が降りかかるのだけど。

 鬼灯もまた顔を覆う頭巾の下で、お袋の味を噛み締めていた。
「……しかし母上。この鍋は、普段とは違う味わいだな……皆で力を合わせたせいか?」
 ふとした疑問を口に出した後、再び肉をつまんだ鬼灯。
「そ・れ・は……」
 勿体ぶった霜月が舞を指す。釣られて誰もがそちらに目を向けてから戻すと、鬼灯はいつの間にかつまんだ肉を口の中に放り込み、再び口許を頭巾で覆って霜月の言葉を待っていた。
「舞ちゃんが、美味しい香草とお味噌を用意してくれたんでーっす! あと何度も母上じゃないですって言わせないー!」
 牡丹肉の野性の風味を損なうことなく、不要な臭みだけを消してくれる魔女の香草。そして半自給自足の森での隠遁生活の中で熟成を続けた、自家製の味噌。それらを提供する代わり、「美味しいお料理の作り方を教えて、霜月さ……霜月おかあさま」と潤んだ瞳で上目遣いをしたら、「お母様じゃないでーす!」と抗議しつつも彼がちょっとしたコツを教えてくれたのはつい先ほどの話だ。

 おそらくは、そういった工夫やら何やらが『自分たちで狩った』という事実を引き立てて、このご飯を美味しくしているんだろう。
 イノシシなんて初めて食べるけど、だからこんなに味わい深いんだ……そう幸せを噛み締めたイーハトーヴも、ふと霜月に訊いてみようと思った。
「母上さんは、何から練習を始めたの?」
 すると……答えはこうだ。
「練習? そんなことより実践あるのみだったかなァ……ほらこの子たち、揃いも揃って個性的だから、そんなことしてる余裕なくってさァ……」
 しばらく遠い目をしてから思い出したかのように「母上じゃありませーん」と付け加えた彼の様子は、ローズには随分と母の慈愛に満ちていたように見えた。
(もしかして……これって胸キュンストーリーの始まりですかァーッ!?)
 低レベル腐女子の目移りは速い。すぐに直前のブームなど忘れて、新たな(他人の)ラヴのヨカンに現を抜かしてしまう……が。

 そんな彼女の妄想は、すぐ近くにある真の愛情に気付きはしない。
「霜月殿。次の肉を投入する前に、牡丹肉を一切れ貰えないだろうか?」
 流星が尋ねればその腕に、忠実なる相棒の玄は再び舞い戻ってきた。
「玄ちゃんに? でも、イノシシの生肉なんて大丈夫かなァ……?」
 すると躊躇う霜月に、玄は猛禽をナメるなとばかりに胸を張ってみせる。

 揃って舌鼓を打つ彼女らも、他の『暦』の皆も、『暦』でない皆も。
 幸せそうにおかわりを要求しつづける様子を眺めた限りでは、偶には母上のお願いと称した強要も、従っておくに限るのだと頭領は優しい眼差しを作る。
『だって、鬼灯くんは十一月さんのお料理が好きだものね!』
 嫁殿が内心を見透かしたかのように喜びの声を上げた。
「ああ、とても上手い。母の味だな」
 しみじみと呟いて、頭巾の下で汁を啜る鬼灯。
 わいわいがやがやと楽しい食卓に溜め息を吐くように、嫁殿はうっとりとした音色で囁いた。
『母上のお料理……私もいつか食べたいわ!』
「だから、母上じゃありませーん!!!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 通常、GMがシナリオの意図について事後の説明を行なうことはありませんが、今回は初心者向けというリクエストでしたので、特別に幾らかの解説を付け加えておきたいと思います。

 PPPに限らずPBWのプレイングというものは、ご存知の通り、プレイヤーの皆様がキャラクターに『キャラクターらしい活躍』をさせるためのものであります。そのためにシナリオには、『目的達成のためのヒント』と『キャラクター表現のためのヒント』が用意されています……が、これらは『明記されている場合』『読み取る必要のある場合』『読み取らせるつもりがない場合』まで、様々なパターンがありえます。

(1)明記されている場合
 今回であれば『敵の能力』がこれに当たります。明記された課題を上手く達成できれば、活躍は約束されたも同然でしょう。
 また『敵の外見』等も同様です。これらに対するリアクションを行なえば、それだけでもキャラクターらしい表現ができたことになるでしょう。

(2)読み取る必要がある場合
 今回は『戦場の凹凸』等がこれに当たります。(1)よりは気付き難いですが、一たび気付けば、これが『「足を取られた」を上手くキャラクター表現に落とし込めれば、失敗でさえキャラクターらしい活躍になるよ』の意味だ、ということはご納得いただけるかと思います。

(3)読み取らせるつもりがない場合
 霜月さんの武器。実は、どうしても皆様の作戦が失敗しそうだったら、彼が仕方なく本気を出して愛銃でツブライノシシを仕留めにゆくシーンを挿入して、お肉の救済措置を設けるつもりでした。霜月「でもほら、事前にバレて頼られちゃうと皆の成長に繋がらないからさァ……」

(番外)想定外のバグ
 今回は起こりませんでしたが、たまにGMが想定していない鮮やかな解決法が見つかることがあるんだよなぁ……。ただし、探そうとして探した場合に限って「想定外のことが起これば敵だって予定外の行動で対処しようとする」という当たり前の事実がすっぽ抜けてて失敗したりもするので、安易に飛びつかないよう注意。

 プレイングというのは概ね、これらをどこまで読み取って、どんなふうに取捨選択するか、ということではないかと私は思います(読み取っても使わない選択もできる、というのが重要)。キャラクターとシナリオによってその最適比率は変わるでしょうが、此度の機会が皆様にとって、それを探るための一助になったのだとしたら幸いです。

PAGETOPPAGEBOTTOM