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シナリオ詳細

<Gear Basilica>金色異聞

完了

参加者 : 7 人

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オープニング

●Case-Gear Basilica
「でっけぇよなぁ――」
 辺りに響く轟音、破壊の音色、絶望の空気――
 そういった一切合財を気にも留めない調子で一人の男がそう言った。
 彼が仰ぎ見た遥かにはまさに今、ゼシュテル鉄帝国首都スチールグラードに喰らいつかんと一人の女の妄執と古代の呪いが暴走を続けている。
 モリブデン事件と称される事件は今まさにクライマックスを迎えている。
 鉄帝国将校・ショッケンが野望により求めた『モリブデン』は、運命を喪って呑みこまれた聖女アナスタシアという『核』を得てGear Basilicaへと昇華したのである。
 魔種に転じたアナスタシアの想いを誤った形で叶えんとするかのように動き出したそれは止まらない。最早事態に一刻の猶予も無く、結末に幾ばくかでも救いを求めるというのならば、ここが最後の分水嶺である事は誰の目にも明らかであった。
「――それに、強ぇ。短絡的だろうと破滅的だろうとよ。
『やる事全部やって、振り切った奴は強い』のさ。
 全力の闘争でも、全力の逃走でも――先があっても、なくてもよ。
 分かるかい? そういうのは結構腹ってヤツが空くもんさ」
「……………」
「嫌いじゃねぇよ。ショッケンって野郎も、アナスタシアって姉ちゃんもさ。
 ……ま、熟成する前に駄目になっちまったのは本当に勿体無いとしか言えねぇが……」
 そんな時、現場に急行するイレギュラーズは今まさに長広舌を振るう一人の男と出会っていた。
 恐ろしい程に端正な顔立ちをした彼は、一見にして魔術師に見えるが、雰囲気が少し『違う』。魔術衣装を身に纏い豪奢な金髪を指で跳ね上げた彼はサングラス越しに興味深そうに細めた青い瞳でイレギュラーズの顔一つ一つを眺めている。「生憎と無駄話をする暇は無い」。そう言う彼等に「焦るなよ」と釘を刺す。
「オマエ達が最近噂の特異運命座標(イレギュラーズ)だろう?」
「……だったらどうした?」
「やっぱりね。実は俺様も『旅人』ってヤツでね。オマエ達には興味があったのさ」
「ただ、俺様は最近噂の特異運命座標じゃない」と彼は続ける。
「特異運命座標がこの世界のラスボスに対抗する為の切り札だってのは知ってる。
『ローレット』だっけ? オマエ達の寄り合いがその為の効率的な組織だってのもね。
 ただなぁ、俺様はちょっとばかり『集団行動が苦手』でね。
 いや、ただ圧倒的にオマエ達の事は応援してんだよ。『何せ俺様の望みはそのラスボスを引っ張り出してブチ倒す事だから』よ。
 ……ま、それで。一番性分に合ってる鉄帝(このへん)でライフワークに励んでた訳だけどよ?
 そうしたら突然コレだ。怪物をブン殴ろうとも思ったが――いまひとつ燃えない。
 好きじゃねぇんだよな、ああいうデカいだけの敵。面白くないだろ? フェアっぽくならねぇから」
 頭をばりばりと掻いた饒舌な男は実に友好的に言葉を並べ立てていた。
「何だよ、それ……」
 当を得ない自己紹介に、中々マイペースな調子だが人好きのする所もある。不思議と余り嫌な印象は持たれ難いタイプかも知れない。態度から邪悪は感じられず、「焦るな」と告げた言葉には意味があるようにも思えたからだった。
「ハジメマシテは遅くなったが、タイミングは大した問題じゃねぇ。
 そんな俺様が何でこんな所で忙しいオマエ達に声を掛けたかって?
 Gear Basilica(かいぶつ)の進路から外れたこの場所で。まさにGear Basilica(アレ)を阻みに行く最中のオマエ達に――まぁ、その答えは実は案外簡単だ」
 言うだけ言った男の手の中には気付けば大仰な魔術書が収まっていた。

 ――さあ、俺様の好きにしな!

 高らかに声が響けばヴン、と空気が軋み、空間が揺れる。
「……っ!?」
 驚きの息を漏らしたのは男でもイレギュラーズでも無かった。
 唯有り得ない不意を突かれたのは、一同より僅か数メートルの距離に姿を現したのは無骨な歯車で、螺子で、鋼線で――めたくそに寄り合わせたそれで全身を構成する『一目見るだけで分かる人為らざる者』である。
「魔種!?」
「御名答――」
 魔種(そんなもの)がGear Basilicaを追うイレギュラーズを付け狙っていたとするならば目的は想像するに難くない!
「キサマ――」
「あら、よっと――!」
 ――捻じれた機械の怒りの言葉に応えるようにそれの腹部らしき場所に男の長い足が突き刺さる。

 おおおおおおお!

 金属さえひしゃげるような強烈な破壊音と共に十数メートルも吹き飛ばされたそれは何とか踏みとどまり、苦悶と憎悪を声を上げ、イレギュラーズを含む八人をねめつけていた。
 魔気を解放したそれの周囲にざわざわざわざわと歯車が踊る。
 成る程、在り様の歪さではあの大聖堂にも負けてはおるまい!
「さあ、所謂一つの『魔種』ってヤツだ。胸糞悪ぃ本気を出すぜ。
 御機嫌な聖女サマに当てられてか、おこぼれが欲しいのか。
 それとも一丁前に協力する気でいるのか、いないのか――俺様の知ったこっちゃないが、『旅人仲間』が背後から狙われてるのを見過ごすのは寝覚めが悪かったからよ?
 排除するべきはそこに居るって知らせをな……ほら、焦る必要は無かっただろ?」
 ……何者か、真の目的は、そも今、何を、どうやった?
 男がJOKERである事は間違いないが、この札の意図が分からない。
 言葉に纏まらない疑問を口にする事も出来ず、絶句するイレギュラーズに構わず彼は言う。
「最近中々上手くなくてね、いよいよもって制御が悪い。
 旦那(グシオン)がへそを曲げる前に片付けちまいなよ。
 ソイツ、まともに戦うとかなり強い――実際の所、結構面倒臭いぜ」
「アンタ、まず何者だよ!?」
「え、あー……んー……キール……?」
 首を傾げた男――キールは実に曖昧な顔をして答えた。
「……うん、まぁ、キール・エイラット。『魔術師』だ。そういう事にしておこう!」

GMコメント

 YAMIDEITEIです。
 Gear Basilicaに協力する魔種を撃滅して下さい。
 以下詳細。

●依頼達成条件
・捻じれ機械魔の撃破

●ロケーション
 場所はスチールグラード途上の街道です。
 遥か彼方にGear Basilicaの進行を確認する事が出来ます。
 鉄帝国らしく寒々しく開けた現場で戦闘に支障がありません。

●捻じれ機械魔(バロック・マシン)
 無骨な歯車を、螺子を、鋼線を寄り合わせたかのような人型構造体。
 強欲の魔種。知能は有しますが魔種の本能が強いタイプ。破壊と殺戮を繰り返します。
 最も特筆すべきは特異能力である完全光学迷彩です。
 謎の男キールの『良く分からない手品』により一時的にそれが剥がされている模様。
 以下、攻撃能力等詳細。

・バロック・マシンは戦闘開始時4体のフライ・ギアを発生させます。
・バロック・マシンは1Tに1体のフライ・ギアを出現させます。
・バロック・マシンは自己再生能力を持っていますが戦闘開始時ダメージを受けています。
・バロック・マシンは非常に強力な命中、回避、抵抗、EXA、CTを持っています。
・バロック・マシンはターン経過で回避力が上昇します。
・バロック・マシンはターン経過と共に光学迷彩を取り戻します。(命中にマイナス補正を受けるようになります)
・バロック・マシンの攻撃は全て範囲かつ連属性、弱点属性を持っています。
 又、以下の3パターンの攻撃を順番に行います。
・パターンA:出血、流血、失血
・パターンB:Mアタック100、呪殺、虚無3
・パターンC:攻撃力大幅アップ・混乱・必殺

●フライ・ギア
 高回避、高反応、高火力、低耐久の小型飛行機械(ドローン)。
 知能は低く手当たり次第に攻撃します。
 攻撃は毒と猛毒を帯びています。

●キール・エイラット
 魔術師風のグラサン男。
 優男には違いないのですが、なにか、こう……
 自称旅人ですがローレットで見かけた事はありません。
 取り敢えず敵ではないようでイレギュラーズを狙っていたバロック・マシンの光学迷彩を剥がし、戦闘を促しています。
 但し今の所これ以上戦闘に助力する心算は無いようなので本戦にはカウント外として下さい。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 かなり久々に純戦シナリオです。
 スミーが結構頑張ってたのでつまんないから出しちゃいました★
 以上、宜しくお願いいたします。

  • <Gear Basilica>金色異聞Lv:20以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年03月03日 22時10分
  • 参加人数7/7人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
楔 アカツキ(p3p001209)
踏み出す一歩
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

リプレイ

●突発的開始
 古代兵器モリブデン、そしてGear Basilica――
 過去に追いすがられ、過去より逃げ得なかった一人の女が――聖女でも何でもなかった、たった一人の女の夢の残滓は、まさにこの時『誰をも幸せにしない夢の成就』を求めて果ての無い暴走を続けていた。
 まさか堅牢なる帝都スチールグラードが陥落するとは思えないが、それでも巨大なる体躯を憤怒に染めるGear Basilicaが鎮静までには実に多くの犠牲が現れるだろう。数限りない民が、その生活が蹂躙され、アナスタシアは闇に堕ちて尚、煉獄の如き慟哭を吐き出す他はなくなろう。
 イレギュラーズの――ローレットの結論は簡単だった。
 そんな事は許さない。緩慢な滅びも、この急進的な悲劇も。そんなものは求めていない。
 彼等が阻止に動くのは当然で、その戦いが事件の裏で暗躍する邪悪とのものになるのは必然だった。
 しかし、少なくとも今日この場に集まった七人は『その肝心要のGear Basilicaに到るより先に、今日という現場をなし崩し的に押し付けられる結果となっていた』。
「全く難儀極まりないな。こういうのを悪運と言うのだったか?」
「ああ。運がいいんだか、悪いんだか――」
 厳めしいその顔に幾ばくかの苦笑を乗せ呟いた『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)と。彼に応じ、嘆息めいた『軋む守り人』楔 アカツキ(p3p001209)の呟きは、全く隠す事無く彼の――或いはこの場に居合わせた一同の気持ちを真っ直ぐに吐き出すものだっただろう。

 ――そのまま殺してやろうかと思ったが――

 彼の視線の先には『見て分かる悪』が佇んでいた。
 捻じれた機械のパーツ、それでいて生命めいたその造作。
 生理的な嫌悪感を否めない、催さずにいられないそれが魔種である事は明らかだった。
 魔種とはこの世界の産み落とした――この世界に産み落とされてしまったイレギュラーである。
 滅びの確定未来を回避する為に召喚されたイレギュラーズとは真逆の属性を持ち、『滅びの確定未来を達成する為に存在するイレギュラー』。同じ例外存在とはいえ、仲良くなりようもない、在り方からして対決を避け得ない『それ』はまさに今、パーティの目の前で邪悪な怒りを露わにしていた。
「一先ず、礼を言っておきますよ」
 ギチギチと威嚇の音を鳴らす魔種(バロック・マシン)から決して視線を切る事は無く、『名乗りの』カンベエ(p3p007540)が言葉を投げた。彼の、
「然り。拙者が敵に背後を取られるとは一生の不覚。
 御仁の素性は気になるが――助けられた事には変わらぬ故に」
「うんうん! 味方してくれてるのには違いないし、きっと良い人!」
『とってんぱらりの斬九郎』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)や『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)の言葉の向く先は「へいへい。どういたしまして?」と軽い調子で返してくる一人の男であった。彼こそ、その正体も目的も知れず、唯潜む魔種に狙われていたイレギュラーズに警告し、戦いの場を演出したまさにワイルドカードそのものであった。
「怪しいイケメンの人! ……今はこれ以上手を貸さないってことは見物が目的かな?
 まぁ、どっちにしても借りは借り。その望みにも応えてあげたい所だけどね!」
「助けられたのは分かるが、やはり胡散臭い。
 それでも、まぁ――お前が仲間と言うのなら。
 ヤル気がないなら下がっていろよ。今ばかりはお前が一番怒りを買ってるだろうからな!」
 ムスティスラーフと、自分を挑発しているのか案じているのか――何とも判断の付き難い『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)の言い様が面白かったのかも知れない。大声で笑った魔術師――キール・エイラットは『忠告』に応じて肩を竦めて下がって見せた。
(このキールという男、奸物とはまた違う臭いがします。
 ……まあいいでしょう、海洋と仲間に害をなさないのであれば、ひとまず)
 目前の敵の動きが変わった事にカンベエは目聡く気付く。
(元の世界でどれだけ異常な強さを誇る者であったとしても、この世界に来れば皆レベル1。
 それがこの世界の絶対の掟ならば――理の外にいるこの男は、恐らく招かれざる客なのだろうな)
 アカツキの考えが果たして正しいかどうかも含め――気になる事は多いが、実際問題、『今』のみを考えるならば、キールの言った通り大人しい彼よりこの魔種こそが大問題である。
 元よりパーティはGear Basilicaの悲劇を止める為にやってきたのだから、戦いの始まりが多少胡乱にして不審な色合いを見せた所で、やる事自体は変わらないのだ。
「……ま、理解は出来ないけどね」
 深い溜息を吐いた『特異運命座標』恋屍・愛無(p3p007296)は然して面白くもなさそうに吐き捨てる。

 ――例えば、特上の料理が目の前にある。
   特別なシェフが最高の食材で仕上げたとんでもないスペシャリティだ。
   僕はしこたま腹が減っていて、とんでもなく我慢が出来なくなっている。
   そんな時、そんな時だ。わざわざ目移りしてまで他の皿を頼む意味があるのか?
   目の前の御馳走を無視してまで、オードブルを頼み直したりしたいだろうか?

(……全く人間というモノは理解できない。喰うならば、そこの魔術師だろう?)
 愛無の首落清光――えらく洒落た名前を冠した『物騒な得物』が唸りを上げた。
「まぁ、いい。僕は、とっておきの食事は独りでするタイプだ」
 独り言めいた言葉は、しかし明確にキールを的にしていた。
「――アレを喰ったら、あんたの番な?」

●バロック・マシンI
 羽虫のはばたきのような不快な雑音(ノイズ)が鼓膜を立て続けに叩く。
 魔種の背より小型の飛翔体(フライギア)が次々と生み出され、明確な殺意をもって周囲を旋回し始める。
 いざ始まった戦いに、
「果てを見るが我が望み、なれど与国の危機とあれば是非も無し!
 さあさあずずいと来なせえ、このカンベエと死合おうじゃありませんか!」
 鮮烈なる名乗り文句、華やかなる号砲――絵になる啖呵を添えたのはカンベエの放った鏑矢である。
「拙者等も急ぐ身の故、さっさと此奴を倒す事で汚名返上と致そうか!」
 攻撃役(アタッカー)の咲耶はそう言うが、実際の所、今回の敵は決して侮れる相手ではない。イレギュラーズの後をつけ、看破されるまで潜み、攻撃の機会を狙っていた挙動からしても、特にその身に備わった光学迷彩は極めて完全に近しい能力を持っていると言えた。
(急がねば、叶う勝利も叶わなくなるかもしれない故なぁ――)
 その台詞の後半を咲耶が口にする事は無い。キールの『手品』でその姿が露となった今においても、気付けば一瞬前よりその存在感は希薄になっているようにも感じられた。
「厄介な敵だ。
 見てくれは完全無欠の殺人マシンとでも言いたげなのに、頭の螺子だけは飛んでいる」
 皮肉気に唇を歪めたアカツキに応えるように、風切音を立てるフライギアがパーティに次々と襲いかかる。
「おっと、よろしく!」
「任された!」
 慌てる事も無くカンベエを前に出すように後ろ側の位置取りをしたムスティスラーフ、更には咲耶に応じるように彼は果敢に敵の攻撃を受け止めにゆく。その名乗り口上は高機動を誇るフライギアを確実に捕まえるような高い攻撃精度を備えていなかったが、パーティにとって幸運であり、パーティにとっての計算の内だったのは魔種の一部であり眷属であるかのようなそれが見立てからしてそう高い知能を有していないという前提であった。
 防御耐久に極めて優れたカンベエはフライギア三体の猛攻をまずは浴びるも、傷付きながらもこれを防ぎ切る。彼とパーティの狙いは無論の事、カンベエを盾にした上で高い攻撃効果を期待出来るムスティスラーフや咲耶を矛に使うというものである。
(厄介な敵。そう厄介な敵だ――だが、魔種とはそういう者達だ。
 そんな相手に、俺達はどう戦うべきか。『勝ち筋は何処にあるか』)
 カンベエがフライギアを引きつけた一方でもう一枚の盾役――鉄心を備え、難攻不落なる要塞を気取るアカツキは強く前に駆け出していた。
(開幕から――どう出るか。出るべきか。
 様子見、牽制、不意打ち、いや違う。
 お行儀良く戦っていては、奴が取り戻し続ける力の前に、俺達は捻じ伏せられるだろう。
 ならば、それこそ最大の火力を最大の効率でぶつけ続けるしかない)
 無骨に、無理に。無理を通せば道理は引っ込むものなのだから――
「――俺に出来る事は、その火力を通すだけの道筋を作る事だ!」
 彼の結論は最大の脅威である魔種を我が身で抑えつける事だった。
 後衛をフライギアより守るのが華美に任されたカンベエであるというならば、フロントで魔種の自由を押し込めるのこそ果敢なる決意を抱くアカツキだったという事である。

 ――キキキキキ……!

 果たして金属擦れのような奇怪な音を上げた魔種はアカツキの無謀を嘲笑する。
 彼自身がそう踏んでいた通り、魔種と人の間には隔絶された力の差がある事は否めない。
 故に彼が求めるのは『愚か者を嘲笑する敵の手を自身に向けさせる事のみ』に他ならない。
 攻撃の全てに範囲性を持つ魔種と攻勢を強めるフライギアを分断し、主火力となる後衛達にその危険を届かせない――その位置取りを許さない事のみがその戦いの全てであった!
「そういうの任せておいて――まさかみっともない所見せられないだろう?」
 耐えて忍ぶなんて性じゃない。
 きっと、何度何回斃れても、何度何回その刃を打ち直したとしても。
(――飢えだ。飢えだけが僕にある。僕を動かす。邪魔をするモノは全て喰い殺す!)
 お預けにされた獣の――愛無の見据えるのは一つで、求むるもきっと一つに違いなかった。
 魔種と残る一体のフライギアがアカツキを激しく傷付け、その身を血に染めた時、その後で。
 攻撃の範囲外から地面を蹴って飛び込んだ愛無の咬蛇衝――巨大な蛇の顎が魔種のボディに喰らいついた。

 ギッ……

 避けるに優れたそれは己が力を過信し、敵の力を侮っていた部分もあっただろう。
 異様と言っても良い精度を誇る『捕食』は少なからず魔種の認識を叩き直すものになったか。
 それが一瞬の動揺を見せる内にも、
「予定通りだ。……ここまではな」
 ゲオルグのル・ジャルダン・デ・フルール――彼の咲き誇らせた祝福の花が激しく傷んだカンベエやアカツキをかなり有為に『引き戻す』。花の香りに混ざって香った香水は彼が『消えゆく』魔種に対して仕込んだ罠である。超常の力で物理法則を壊すそれにどれ位の効果があるかは知れなかったが……
(まだ、対応が――出来る。少なくとも、継戦は俺の仕事だ)
 魔種の動きがパターンめいている事を看破した彼は魔種の強味を消す事を己の仕事場と定めていた。極めて高い再生充填能力を誇る彼は泥試合に強いヒーラーである。長い勝負は求めていないが、そうなればなったでどちらが根負けする方が思い知らせてやろうというものだ!
「やりたい放題にやる。だが、何時までも続くと思うなよ!」
 遊撃射手たるラダにとって位置取りもまた防御の内だった。
 カンベエとアカツキの果敢さが敵に集中を強いたのは守りに優れず、同時に危険なる火力と呼ぶに相応しいラダにとっては最高の展開だった。
(バロック・マシンとフライギア――揃っているなら)
 簡単である。極めて強靭なる鋼の驟雨は耳障りな虫の羽音を、嵐と雨音で打ち消さんとする!
「鉄帝国が舞台なら、天気の機嫌でこんな銃弾とて降るだろうさ!」
 銃声が嘶き、致命的なまでに強か場を叩いた掃射に魔種達は苦痛の声を上げている。
 如何な高回避を誇る敵であろうとも、『乗った』時のラダから逃れるのは難しいという事だ。
「こちらも易くは無いが、まずはそちらといった所でござろうな」
 微かに笑んだ咲耶の放った呪いの軌跡――得意の忌呪手裏剣がアカツキに纏わりつくフライギアを追撃ですかさず撃ち落とした。
 それが次々と生まれ出るというならば、それ以上の速さで叩くまで。
 そして。
(出来の悪い一撃なんかいらない、どうせ避けられる。
 だったら少しでも――少しだけでも、この一撃を高めよう……!)
 ムスティスラーフは練り上げた集中で全身全霊全力の閃光を吐き出した!
「……まだまだ、これから!」
 緑の光条は魔種を捉えず、明後日の方向を焼き払ったが彼は一顧だにしていない。
 結論は最初から一つだ。『最終的に壊せば良い』。

●バロック・マシンII
 戦いは血で血を洗う熾烈さを極めていた。
 高い回避力と殺傷力加え、徐々に取り戻す光学迷彩能力、更には次々と生み出されるフライギア。
 極めて強力な力を持つ魔種ではあったが、それの誤算はパーティの動きが『唯力尽くで叩き壊す』には余りにも良すぎた事だろうか。
「……任せろ、次も!」
 まず、機械という属性が故であろうか。
 その動き方の規則性よりゲオルグが状況を上手くコントロールしていた。
 三種の攻撃パターンを繰り返す魔種に対して、ゲオルグが用意した基本の動き方も三種。戦いが如何に続こうと支援の手を途切れさせぬ彼はまさに扇の要であり、花形ならずともこの場に楔を打つ最大のピースであるに他ならなかった。
 戦いは続く。
「……っ……まだまだ!
 力を振るうだけの人形風情が、わしの命を、果てを見る夢を刈れると思うなよ!!」
 気を吐くカンベイにも余裕は少なく。
「ええい本当に見ているだけか! さっきの手品以外は役立たずと見たが!」
 眺めに回るキールを挑発するが、これは少々わざとらしかったらしい。
 何れにせよ、彼の夢を折るのはこの程度の場所ではない。
 彼を跪かせるのは魔種如きでは有り得ない――
「お互い様の……貧乏くじだな……」
 苦労しているのはアカツキも同じだった。
 シニカルに笑った彼もいよいよ追い詰められていた。仲間達の攻勢も含め、魔種も相応に傷付いてはいたが――まだ敵も意気軒高である。一方でパーティの『決壊』は近いと呼ばざるを得ない。これまで良く食い止めたカンベエやアカツキが落ちれば今度は彼等程受けに優れない仲間が的となる。ゲオルグ辺りはそれでも粘りを見せるだろうがプランが崩れるのは否めまい。
 故に戦いは正念場だった。
「魔種というモノは、己の欲望のために全てを捨てるのだろう?
 お前がそうか? お前はそうか? 本当にそうか?
 いい加減に。もう耐えられない。いい加減に。
 満たされない。満たされないんだよ。
 お前は満足した事はあるか? 僕は無い。だから奪う。だから喰らう。
 相手が何であろうと。誰であろうと。僕の邪魔をするなら容赦はしない。
『前菜』如きが何時までも――そうして、いい気になるなよな!」
 慟哭にも憤怒にも悲哀にも似て愛無は只管に牙を剥く。
「ここまで抑えて貰ったならばその恩には答えねばなるまい。
 必ずや拙者等の手でそをガラクタに変えてくれよう。
 隠密の方では遅れを取ったが紅牙の忍びを見くびらないで貰おうか――!」
 遂に斬り込んだ咲耶が既に視認が困難となった魔種を執拗に狙う。
 ここで食い止めねば勝ちは無いと。しかし勝ちを疑う等有り得ぬと。
 死力を尽くした攻撃を展開する!
(目で狙うな。認識に、その姿を。浮かび上がれ、浮かび上がらせろ――)
 標的が在り処はその驟雨に問うがいい。
 見えぬ標的の行方さえ、ラダの聴覚は逃さない。
「これが最後だ――」
 そう。ラダの言う通り、恐らくは勝機があるならば――残っているならばこれが最後だった。
「――思いきり撃ち込め!」
 声も枯れよと叫んだ彼女の『暴風(テンペスト)』が魔種の金属片を辺りへ散らした。
 雲間から覗く太陽にキラキラと輝くそれは歪で醜い魔種の一部とは思えぬ位に美しく。
「分かってる!」
 声を受けたムスティスラーフの集中力を更に極限まで高めるに十分だった。
(僕の全てじゃ足りないから――みんなが繋いでくれたバトンをしっかり受け取るんだ。
 外さない。もう外さない、ここは外せない!)
 胸の奥から決意が、強い意志がせり上がる。
 この期に及べば射出の攻撃では事足りぬ。それでは最早不十分であると彼はその間合いを詰め、
「いっけぇぇぇぇぇぇ――!」
 裂帛の気合と共に叩きつけられた文字通りの告死は上段から歪んだ機械魔のボディを砕き割っていた。
 
●キール・エイラット
 嗚呼、悪ぃなぁ。悪いよ、やっぱり。
 目の毒だ。あんまりに目の毒だぜ。なぁ? イレギュラーズ。
 言っただろう、そいつは『結構強ぇ』って。
 本当に勝つか。『もう』勝つのか、オマエ達は。
 無理に無茶をしやがって。前のめりに、倒れ込むように勝ちやがって。
 俺様が期待した通りじゃねぇか。全くもって最高じゃねぇかよ。
 だけどよ――まだ早いだろう?
 最高の戦いを演じるにはまだあんまり早いだろう?
 目の毒だ。あんまりに目の毒だぜ。オマエ達は加減を知らないようだから――


「――実を言うと、今。俺様は全力で『我慢』してるんだ」
 戦いを終え、突然にそう言ったキールにイレギュラーズは首を傾げた。
「だから、今の内に。そうだな、今の内に」

 ――全力でこの場から逃げてくれよな――

 そう言う彼の目は『赤』く。
 まるで燃えながら血に塗れる――さながら上等の魔石(ルビー)のようだった。

成否

成功

MVP

カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

状態異常

楔 アカツキ(p3p001209)[重傷]
踏み出す一歩
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)[重傷]
黒武護
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)[重傷]
夜砕き
恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
終焉の獣
カンベエ(p3p007540)[重傷]
大号令に続きし者

あとがき

 YAMIDEITEIっす。
 ナイスファイト、って感じですね。
 戦闘的にはラダさんが相性も含めてかなり刺さっており、ゲオルグさんの動き方が良かったです。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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