PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Gear Basilica>小さな牢獄

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 戦力が手薄になった鉄帝首都に自律移動要塞型古代兵器『歯車大聖堂(ギアバジリカ)』が迫っている。
「さぁさぁ、てめぇらの大切なもんをオレに寄越しなッ!!」
 略奪の声、逃げ惑う人々。黒衣の男が唾を飛ばしながら叫んでいる。彼はそう、スネグラーチカ歯車兵団の一員であり、大量のエネルギーを必要とするギアバジリカの物資をこの村で補給している。
「はっ、逃げろォー!! ほら、早く!!」
 黒衣の男が笑いながら住民の背に拳を振るう。積み重なった遺体、麻袋に押し込まれた品物、全てが思うままだ。邪魔する者はいない。兵団達は楽しそうに略奪と殺戮を繰り返している。
「駄目だなァー! そんなに遅いとオレたちに殺されちまうぜェ? ほらほら? 解るだろうゥ? 残念ながら、誰も助けてはくれないからなァーーーー!! なんたって鉄帝軍様は外洋遠征護衛や他国への防衛中だからよォー!!」
 男の汚れた両手には、大量の手紙が握り潰されるように握られている。吹く風は血ばかり含む。
「うんうん、この手紙はとても価値がありそうだァ!!」
 黒衣の男がけらけらと笑っていると、小柄な男が男の左足にしがみついた。
「あン? なんだァ?」
 眉根を寄せる。
「もう、やめてください!! それは娘が私のために書いてくれた手紙なんです!! 誕生日や何でもない日、楽しかったことや嬉しかったことを私に書いてくれた大事な手紙なんです!!! お、お願いですから返してください!!! お金ならありますから! だから! どうか、手紙だけは……」
 小柄な男は声を震わせる。
「あァー? 返せ? これはもう、オレのもんだ。おっと!! ポケットに綺麗なペンが入ってるなァー? あんたも娘に手紙を返していたんだろう? なら、このペンもいただこうかァ!!!」
「なっ!? や、やめてください!! それは娘からのプレゼントで……」
 青ざめる小柄な男。
「へぇ? そりゃあ、良いことだァ!」
 にたにたと笑う黒衣の男の顔は悪意ばかりが浮かぶ。
「!?」
 涙ぐむ男。いやいやと首を振って抵抗するが黒衣の男はいとも簡単に男の胸ポケットから黄金色のペンと金を強引に抜き取った。聞こえる絶望の音。
「はァー、美しい!!」
 黒衣の男はペン先をぺろりと舐め、「……邪魔なんだよォ!」
 冷たい目で地に座る男の頭を蹴り飛ばした。
「うぐっ……」
 男の痛みは澱に似た笑い声に呑み込まれていく。
「あ……う……」
 地に伏せた男はあらぬ方向に曲がった腕をゆっくりと黒衣の男に伸ばし、呆気なく事切れた。黒衣の男はひゅうと口笛を吹き、「ああ、こっちもいいなァ!!」
 男の指を何度も踏みつけ、骨を砕き、血に濡れた結婚指輪を拾い上げた。黒衣の男はにやりと笑う。
「おーい、そっちはなんか良いものがあったかァ?」
 歪んだ瞳に黒衣の女が映る。女の傍には仰向けの死体。顔の皮がべろりと剥がれ、舌が地を舐めるように伸びている。
「んー? そうだねぇ……」
 女は死体のカバンをひっくり返し、首を振る。
「あー、なーんもないね!!」
 女は座り込み、死体の目玉をナイフで抉りながら美しい顔で笑った。
「ああ、じゃあ、行こうかァ……近くに避難所があるんだなァ!!」


 避難先で人々は鬱ぎこみ、震えている。そう、無理はない。大切なものを奪われ、明日の未来すら分からない。その間も進んでいく『歯車大聖堂(ギアバジリカ)』。
「みんなー!! あたしは可愛いアイドル! モモちゃんだよ!!」
 突然の声に人々は顔を上げ、ビックリしている。そこには、スカイウェザーの女が可愛らしいマイクをもち、人々にウインクをしたのだ。
「あーーー!? モモちゃんだぁ!!!」
 頬を紅潮させ、指を指す子供。
「いいね! さぁっ! ライブの始まりだよ!」
 『爆音桃歌』竜胆・モモが可憐に降り立ち、ウインクを一つ。知名度の高いアイドルの登場に人々は目を輝かせる。
「こんな時こそ、あたしがみんなを元気にするしかないでしょ!! ふふ、今日もモモちゃんは可愛いなぁ~! はい、復唱して!!」
 マイクを観客に向けるモモ。人々は互いに目を合わせつつ、復唱する。
「やったー!! 歌うよー!! みんな、手拍子するしかないでしょ!」
 ツインテールを揺らし、モモは歌い始める。大音響、人々の顔には目映い笑顔が浮かぶ。
「いいね! 次はもっと楽しい曲でしょ!」
 楽しそうに跳び跳ねるモモ。
「わー!! モモちゃん、最高ッ!!!」
「やっぱり、上手いなぁ……それに元気になる……」
 にこにこと笑う人々を見つめるモモ、アイドルポーズを完璧にきめる。わっとなる観客。

「……」
 その様子を異常な目で見つめる集団。
「こんな時に歌ってやがるな」
「なんだ、あいつ……」
 こそこそと囁きあう。ただし、彼女を知らなかったのはこの二人だけであった。実際、それほどの知名度なのである。
「へぇ? 竜胆・モモとはこりゃあ、驚いたなァ……」
 獲物を見つめる男。唇を舐め、ふふと笑う。
「そうね、こんなところで会うなんて……ギアバジリカの燃料にぴったりな女だねぇ!!」
 くすくすと女が笑う。
「あァ、幸運だぜェ。オレ達もあの女もなァー!!!」
 飛び出していく歯車兵団。
「えっ!?」
 悲鳴を上げる観客。ハッとするモモ。
「みんな、あたしのことはいいから逃げてよ!!」
 空を見つめ、囮になろうとモモは翼を広げ──
「あー、お空に飛んだら嫌だぜぇー??」
 一気に跳躍する男。殺気と口調から彼がリーダーであることが分かる。
「あっ……!」
 驚くモモ。腕を強く捕まれてしまう。逃げられない。
「さぁ、眠るんだなァーーー!!!」
 嘲笑う男。モモの細腕を強引に掴み、「早く、打てェ!」と怒鳴った。モモはびくりとする。
「あたしに何をする気……あっ……」
 痛み。青ざめるモモ。気がつけば、女が左腕にシリンジの針を突き刺し、ゆっくりと薬剤を注入し始める。ばたばたと暴れるモモをしっかりと押さえつける男達。
 やがて──
「……寝たなァ」
 ぐったりと眠るモモをリュックに詰め、リーダーの男がそれを背負い、避難所の人間には目もくれず立ち去っていく。道中、げらげらと笑う歯車兵団、そして、腹が減ったといい、襲撃された村のバルに立ち寄り、食料庫を漁り、酒を飲み、騒ぎ始める。
「ああ、天国みてぇだなァ、おいィ!!」
 ただ、歯車兵団はまだ、知らない。ローレットと鉄帝という国そのものが、手を取り合ってギアバジリカへと立ち向かおうとしていることに。

GMコメント

 ご閲覧いただきましてありがとうございます。皆様にお願いしたいのは、スネグラーチカ歯車兵団を倒し、『爆音桃歌』竜胆・モモを救出することです。奪われた品物についてはご自由にどうぞ。ちなみに品物については村の何処かにはありますが今、現在、何処にあるのか分かりません。

●目的
 スネグラーチカ歯車兵団を倒し、『爆音桃歌』竜胆・モモを救出する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●依頼人
 避難先の人々
 捕らわれてしまった『爆音桃歌』竜胆・モモを心配しています。

●場所
 襲撃した村にあるバル
 40人くらいは入れる。お酒は勿論、巨大な食料庫には食料があり、スネグラーチカ歯車兵団はチーズやハムを食べています。酔っているものの、普段通り戦えます。バルを出るとすぐに家が立ち並んでいます。

●品物
 今、現在どこにあるのか分かりませんが麻袋に入っています。

●スネグラーチカ歯車兵団 15人

 リーダー 
 判断力が備わっている男。尖った短い爪をもち、両腕をドリルのように回転することが出来る。回避に優れている。また、捕まれたり蹴られたりした場合、骨が折れる可能性あり。追い詰められると強くなります。強い薬で眠らせた『爆音桃歌』竜胆・モモをリュックに入れ、背負っています。リュックは特殊でどんなにダメージを受けても破れたり切れたりしませんが、中にいる『爆音桃歌』竜胆・モモはダメージを受けてしまいます。

 副リーダー
 女 リーダーである男の傍にいる。一本のナイフ、決して切断することが出来ない鎖を持っている。鎖には電気が流れている。ただし、女自身は感電することはない。

 下っ端 13人
 槍やハンマーを持ち、主に足止めや撹乱要員。爆竹や煙幕を所持している。『爆音桃歌』竜胆・モモを目覚めさせる薬(小瓶に入った液剤)を一人が隠し持っている。

●捕らわれ人
 『爆音桃歌』竜胆・モモ
 アイドル。特殊なリュックの中に入れられ、眠っている。戦いの最中に自力で起き、リュックから脱出することはない。薬を飲まない場合、目を覚ますまで3日かかります。

  • <Gear Basilica>小さな牢獄完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年03月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
焔宮 鳴(p3p000246)
救世の炎
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エナ・イル(p3p004585)
自称 可愛い小鳥
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

リプレイ


 『シルクインクルージョン』ジル・タニイット(p3p000943)は尋ねたが依頼人達は誰もそのバルについてよく、知らなかった。

 揺れる小さな牢獄、そこで『爆音桃歌』竜胆・モモは冷たい夢を見る。
「飲むぞォーー、てめぇらァ! なんたって、タダ酒よりいいもんはこの世にねぇんだからなァ!」
 リーダーの声が響き渡った。彼らは汚れた手で食料庫を漁り、傲慢な夢の続きを見始める。

「全く、狂ってるっす。虐殺など無かったような雰囲気っす」
 ジルは呟く。気配を薄くし、バルの周囲を探り、戻ってきたのだ。耳に残る、不愉快な声。
「どうだった?」
『木の上の白烏』竜胆・シオン (p3p000103)がじっと、ジルを見つめる。その顔には不安と確かな決意が滲む。
「ええとっす」
「ジルさん、デイジーさん、出入り口はやっぱり、二ヶ所だけですかぁ?」
『(自称)可愛い小鳥』エナ・イル (p3p004585)が急降下し、「あれれ、お話中でしたかぁ?」
 目をぱちくり。そんな中、『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)がずいと前に出る。
「妾が走らせたネズミによればお主の言う通り、出入口は二ヶ所だけなのじゃ」
 胸を張り、「どうなのじゃ?」とジルを見た。ゆっくりと頷くジル。

 濁るその声は、十分過ぎるほどに彼らの心を尖らせる。『炎の御子』炎堂 焔 (p3p004727)は目を細め、裏口から侵入する仲間を見送った後、すぐさま、正面に回る。
(大好きなモモちゃんのステージが見れなくなっちゃうは嫌だよ。それに……モモちゃんはシオンちゃんのお姉さん。絶対にボク達で助ける!)
 知らなかったがそうらしい。髪先に火が灯る。
(殺された人達の為にもね、彼らを徹底的に追い詰めるんだ!)
 これは絶対に許してはならぬ行為。焔は誓い、正面から踏み込んだ。
「残酷な宴はもう、お終いだよ!」
 扉の先。目についた男達はブルーチーズを頬張っていた。焔は身を捻り、槍を振るう。その瞬間、男の顔を炎の斬撃が走る。絶叫のレコード。男達は椅子を蹴り、顔を両手で押さえ、膝を震わせる。焔は踊り子のようにテーブルに飛び乗った。かちんとテーブルのフォークが鳴り、静まりかえる空間。途端に笑い声。
「お前が終わらせるってかァ~? なら、やってみろよォ!」
 リーダーの男は焔に向かって、挑発のポーズをし、リュックを瞬時に背負う。

 焔がリーダーを惹き付けている間、「この椅子をバリケードにしましょう。重くて丁度いいですからね」
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)がアンティーク調の長椅子を片手で持ち上げ、裏口を塞ぎ、「このソファーもいい感じっす」とジルがぐいとソファーの端を掴んだ。
「くく、かなり重いのじゃ」
 デイジーはソファーをジルと積み上げる。そこにテーブルを立て掛けるオリーブ。
「あら、音が聞こえた。ね、だぁーれ?」
 裏口に近づこうとする副リーダー。
「マドモアゼル。生憎、裏口は通行止めなんだ。だから──……私と踊ってくれないかい?」
 姿を見せる『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)。マルベートは女を見つめ、どこからいただこうかと思案する。
「は?」
「またはそうだね、私の晩餐会というところかな」
 微笑む。圧倒的な眼力。マルベートは瞬時に麗しき殺し合いに女を招き入れる。
「そんなのどーでもいいよ、あんた達を殺せればね!」
 女はマルベートの攻撃に顔を歪ませながら、鎖を振り下ろした。
「想像より速いね」
 マルベートは目を細め、華麗に槍で鎖を叩き落とした。痛み。ひゅうと漏れる息。焼け、痺れる。
「いい匂いがするねぇ?」
 女がマルベートを称え、口笛を吹く。
「そうだね」
 ふっと笑うマルベート。その直後、煙幕と爆竹が爆ぜた。足音。リーダー、副リーダーの加勢に回ろうとする男達。それを食い止めたのは──
「ここがスネゲグラタンどもの根城じゃな。妾達イレギュラーズがお主らをお仕置きに来たのじゃ!」
 後方のデイジーが絶望の海を歌う。男達はただならぬ気配を感じ、動きを止める。一方で。
「おい! だ、誰がスネゲグラタンだ!!」
 顔を真っ赤にする男達。だが、既に冷たい呪いに侵されている。
「いやいや、その通りっす! 皆さんはスネゲグラタンっす! 名前の通り、不味そうっすけど!」
 軽快な身のこなし、ジルは軽口を叩きながら神聖の光で男達を裁いていく。
「て、てめぇら!! くそ、馬鹿にしやがって!」
「おやおやぁ? 小娘1人捕まえるのに徒党を組まないと何も出来ないなんて実は兵団なんて名ばかりの口ばっかり達者な素人の集まりなんですかぁ? と言うか、びっくりするくらい吹き飛ばされましたけど、弱くないですかぁ? それとも、ダイエット中とかですかぁ?」
 エナは大戦斧をその場でくるくると回しながらはっきりとそう告げる。
「ああ? なんだ、この斧女がっ!! ボコボコにしてやる!!」
 男達は武器を構え、踏み込んだ。
「ええ、やってみてくださいよぅ! 同じアイドル(?)として、皆さんの行為は許しませんからねぇ! ステージをぶち壊し、ファンの目の前で推しを奪い去ったその罪をたっぷり、教えてあげますねぇ!」
 エナは大戦斧を全力で旋回させ、小さな暴風域を作り出した。
「!?」
 呑み込まれ、何度も回り、瞬く間に床を跳ね、男達は倒れる。
「絶対に誰も逃がさない」
 唸り声を上げる前衛。そこにはシオンがいた。周囲を確かめ、男達を見た。
「天国(あまくに)の黒光よ、響け」
 詠唱。刀身が黒雷を帯び、一気に男達を薙ぎ払う。豪快な技を決め、その合間に見つめる。リュック、男、焔、マルベート。
(モモお姉ちゃん……待ってて、俺達の力で絶対に助けるから!)
 横顔に刻まれた赤い線を乱暴に拭い、シオンは仲間を信じ、前だけを見る。
「人々がどんなに恐ろしくて悲しかったかきっと理解出来ないでしょう……でも、今からでも遅くはありません。私が教えてあげます!」
 『救世の炎』焔宮 鳴 (p3p000246)が震え、叫ぶ。憤っているのだ。
「奪った報いを此処で受けてください!」
 鳴は立ち上がろうとした男の胸に呪詛の矢を放った。青ざめる男。忽ち、哀れな魂を貫く。
「次はあっちです!」
 目を光らせ、鳴は身を翻す。
「おや、自分に気が付かなかったのでしょうか?」
 オリーブがハンマー男へと告げる。オリーブは姿勢を低く保ったまま、床を駆け、一気に男に接近し、ひいっ!?と呻き、命乞いをする男の顎目掛けて長剣を思いっきり叩き込んだ。砕ける顎。男は泣き叫び、床を転がっている。
「……本当に愚か者です」
 オリーブは息を吐き、呟く。


 すべてが床に散らばっている。そこには男と焔。
「やるなァ! うまーく避けてるよなァ!」
「ボクには見えるんだよ!」
 槍で男の足を攻撃する焔。
「くッ、この嘘吐きがァ!」
 攻撃にぐらつきながら腕を回転させる。
「ぐっ!」
 焔は髪を乱し耐え忍ぶ。割れた蒸留酒。濡れた床、強い香りが鼻に触れる。目の前の女は状況を常に確認し、絶対にオレを逃がそうとはしない。
「なァ? ガキはもう、寝ろやァ!」
 男は唸り、蹴りを入れる。
(速い! でも──!)
 左足で蹴られる瞬間、身体を捻り、男の攻撃をかわす焔。口笛を吹く男。だが、男は跳躍し、足を入れ替える。ぎょっとする。二段連続廻し蹴り。
「んあっ……!?」
 何もできずに蹴り飛ばされる。両鼻から吹き出す血。身体を傷つける硝子。
「通さないよ……」
 焔は男の前に立つ。髪に火が灯っている。男は唾を吐き、理解する。この女さえ、倒せばいいと。
 
 反動で震える身体。
「おかしい、強すぎる……」
 男はハンマーの柄を握り締める。伏せたまま、動かない仲間達。恐怖で潤んでいく瞳に映る、真っ赤なバケモノ。
「へへ、強すぎるなんてそんなぁ!」
 テレッテレのエナ。頬から血が流れている。
「来るなぁ……もう、来るなぁっ!」
「えー、来るなと言われたら来るしかありませんよ!」
 エナは笑い、タックルで男をあっさりと壁まで弾き飛ばし、「隙だらけです」
 オリーブは連携すら取れない男達を次々と斬っていく。聞こえる狂った音色。血走り、分厚い唇から粘着いた唾が飛ぶ。何処からか猫の鳴き声が聞こえた。
「此処だっ!」
 ハンマー男は躊躇いもなく、仲間を撲殺する。ふっと笑うデイジー。
「丸裸! 妾にはお主が見えておるのじゃ!」
 飛び出してきた槍男を呪い、シオンがその背を確実に刻む。
「うっ……」
 握り締めた得物は見せ場すらなく、手から落ちた。

「ねぇ、焦げ臭いけど大丈夫?」
 笑う女。その視線はマルベートのモノ。
「大丈夫さ、むしろ、君こそ大丈夫かい?」
 マルベートはにっこりと笑う。悪魔のルーレットが女の体力を奪っていく。
「うるせぇな、さっさと死ねよ!」
 女は鎖を構えた。状態異常への強さをマルベートは魅せつけている。

「焔さん! 私からの精一杯の支援です!」
 鳴が駆け、焔を癒す。
「鳴ちゃん、ありがとう!」
「小賢しいなァ、おい!」
 男は腕を伸ばし、掴もうとする。
「くっ!」
 焔が懸命に男の腕を槍でいなす。
「ジルさんはマルベートさんをお願いします!」
 振り向き、叫ぶ鳴。
「分かったっす! マルベートさん、待っててくださいっす!」
「あー、賑やかだなァ、此処はよォ」
 男はげらげらと笑う。

 目を見開く女。衝撃とともに腕から血が噴き出す。死角から何かが飛んできたのだ。
「マルベート、ありがとう!」
 加勢するシオン。傷ついたマルベートから、たんぱく質が焼ける臭いがした。
「痛いねぇ……ああ、お前も仲良く感電しろよ!」
 女は踏み込み、シオンの足に鎖を叩きつける。シオンはハッとしながら、どうにか鎖をかわす。足音。
「マルベートさん、お待たせっす! あと少しっすから、気張って下さいっす!」
 ジルがマルベートの苦しみを取り除く。
「さぁさぁ! このまま、一気に倒しますよぅ!」
 エナがアイドルらしく(?)、女を惹き付け、一撃で女の腕を豪快に奪う。

「あぁ、こんな気持ちは久しぶりだァ。楽しいぞォ、オレはァ!」
「!?」
 殴られ、大きく吹き飛ばされる焔。いきなり、男の速度が上がる。圧倒的な回避を持ちながらこの速度に対応しきれなかった。
「ほらほらァ、痛々しいなァー?」
 男は追い打ちをかけるようにうずくまる焔の脇腹を嬉しそうに蹴った。嫌な音がした。汗が落ちていく。息が出来ない。
「焔!」
 シオンが叫ぶ。その瞬間、デイジーが男を睨み付ける。
「悪党めが! 妾がお主を地に這いつくばらせてやるのじゃ!」
 デイジーはすぐさま、不吉の象徴たる昏く光る小さな月を生みだす。途端に呻き、膝をつく男。
「ありがとう、デイジーちゃん……」
 ゆっくりと立ち上がる焔。頷く、デイジー。
「ああァ、厄介な女が此処にもいるなァ!」
 男は舌を鳴らす。視線の先には焔を癒す鳴が映る。
「回復しか能がねぇくせによォ、くそがァ!」
 男は後方に下がる鳴を妬ましく思う。

「もう、逝ってしまうのかい?」
 ならばと、マルベートが大きく口を開け、女へと迫った。
「やだねぇ! まだ、死ぬわけにはいかないんだよ!」
 女は致命傷をどうにか避け、ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
(盗品は一体、何処に隠されているっす?)
 ジルは戦闘の合間に盗品の居場所を探る。
「うぇ、ビリビリですねぇ!?」
 エナが悲鳴を上げた。足には鎖。エナは尊敬の眼差しをマルベートに向ける。
「うっ!」
 女は反動で転倒する。そのチャンスを逃がさない、オリーブ。
「此処で終わらせます!」
 纏いし闘気は火焔と変わり、愚かな女を猛撃する。直撃し飛んでいく鎖と女。
(……仕掛けはありそうにないですね)
 絶命した女に近づくマルベートを見ながら、オリーブはそう思った。


 生ぬるい風が吹く。男は不思議な高揚感を抱いていた。
 
 ──このまま ずっと 
──誰にも邪魔されずに 殺し合いたい

 ただ、叶わない夢もある。焔には希望の、男には失望の音が触れる。

「はっ!」
 躍り出るオリーブ。男を攻撃するフリをし、リュックの肩紐に剣を振り下ろし、息を吐く。肩紐は切れることはなかった。男はオリーブを冷笑する。
「そうかァ。オレ、独りかァ」
 呟き、両腕は凄まじい回転をみせる。
「今、どんな気分かな?」
 マルベートは温かな眼球を口に含みながら、瞬く間に二本の槍で男を薙ぐ。
「ラストマン、倒しますよぅ!」
 接近し、エナが渾身の一撃を放った。
「焔さん、もう、大丈夫っす!」
 ジルが焔を回復させる。
「ありがとう。さぁ、反撃の時間だよ」
 槍を突く焔。
「焔、耐えてくれてありがとう!」
 シオンは焔を潤んだ瞳で見つめ、すぐに男をねめつける。
「……お前だけは許さない」
 自由なる攻勢の始まり。剣を振り上げ、気迫の一撃を男へと食らわし、シオンはすぐに飛び退く。切り伏せられた男は苦しそうに唸った。
「スネークグラッチェのリーダーよ、お主で最後なのじゃ!」
 デイジーが神の呪いを発動させる。そう、攻撃は止まらない。

 追い詰められていく。
「あァ、くそォ……イライラするなァ!!」
 リュックを肩から外し、男は床に叩きつける。
「これはどうだァー?」
 口元が悪意で歪む。息を呑む、イレギュラーズ。
「モモお姉ちゃん!!」
 シオンが叫ぶ。
「ああン? お姉ちゃんだとォ~? ッ……!!」
 舌を打つ。残酷な行為を止めたのはオリーブ。滑り込むようにリュックを抱き、男をねめつける。
「オリーブ!」
 安堵するシオン。無言で頷くオリーブ。
「──こんなことが許されると思っているのか」
 男への怒りがオリーブの口調を変化させる。
「あァ? 離せェ、そのリュックはオレのものだァ!」
 爪でオリーブの顔を抉り、男はリュックを背負いなおす。
「うあ」
 咄嗟に長剣で攻撃を緩和させつつ、倒れるオリーブ。小箱から餡ときなこの御萩が飛び出す。
「知ってるかァ? オレは誰よりも強いんだァ!」
 男はすかさず、御萩を踏みつけ笑った。
「なら、証明してくださいよぅ!」
 男の前に立ちはだかるエナ。
「あわわっ!?」
 大きな声。ジルの手からごとりと落ち、男の足に美しい鉱物が触れる。
「えー、ここのバル、床が斜めになってるっす!」
 慌てるジル。大切なものが男の元に。
「ああァ、薔薇の花弁のようだァ!」
 男は見惚れる。屈み、手に取った鉱物を瞬く間に砕いた。
「ひぇっ!? み、皆さん、今っす!」
 ジルは叫んだ。反応する仲間達。オリーブを回復させていた鳴が呪詛の矢を放つ。
「ああァ、これが見えねェってかァ?」
 リュックを盾にする男。
「くっ! ボクがモモちゃんを傷付けさせない!」
 動き、咄嗟にリュックを庇う焔。


 男は笑う。地獄に抗うように、両腕を振るい、血の雨を降らせる。イレギュラーズは必死だ。叫び、互いの位置を気にかけ動く。
「!?」
 また、速度が上がった。イレギュラーズは目を見張った。回転した爪が肉を求め、そこには──
「シオン!!」
 混じり合う声。その声は悲鳴に近い。
「え?」
 シオンは目を丸くする。速すぎて見えなかった。
「ああァ、姉とともに死んでくれよォー!!!!」
 鋭い爪が迫り、頬に男の唾が飛ぶ。
「わっ!?」
 避けようと反射的に動いた右の翼に爪がしっかりと食い込み、瞬く間に大穴を開ける。男は青ざめていくシオンを満足そうに眺め、笑う。風。真横を向けば、接近する女が一人。
「どんなに願っても、シオンとモモはあげないよ」
 踏み込んだマルベートが双槍を振るい、男をシオンから遠ざける。
「しつこいのじゃ!」
 デイジーが男を呪い、「此処で死ね」
 オリーブが長剣で振り下ろし、男の左腕を飛ばし、鮮血を浴びる。

 薄まる意識の中、シオンはモモの声を聞いたような気がする。
(助け、る……んだ……)
「はァ!? なんだ、こいつはァ!!」
 男は驚く。爆発的な何かがシオンに力を貸す。男を見据えるシオン。全身は真っ赤に染まっている。それでも、その瞳は死んではいない。
「これは、モモお姉ちゃんに代わってお前に与える一撃だ……!!」
 身を捻り、剣を震うシオン。ぎょっとする男。躊躇うことなく、男を殺すシオン。赤。勢いで飛ぶリュック。
「モモお姉ちゃん!!」
「おっとですよぅ!」
 受け止めたのはエナ。すぐさま、シオンがリュックからモモを救出する。
「ジル、モモお姉ちゃんは……」
 見たところ、無傷のようだが──
「ええ、大丈夫のようっす。あとは……」
 ジルの言葉に安堵し、ぎゅっとモモを抱きしめるシオン。名前を呼び、シオンに近づいていく焔と鳴。真っ赤な床をデイジーのネズミが駆け、鳴の黒猫が棚から棚に飛び移り、小瓶を探す。男達の胸元やポケットをオリーブは手で叩いている。
 
「うん、良い腕だ。君も食べるかい?」
 リーダの腕を槍男に差し出すマルベート。マルベートは女の生首を抱えている。だが、男は優雅な食事会をはっきりと拒んだ。
「そうか。なら、盗品の居所を教えてくれないか? それが無理なら、君の美味しそうな目玉でもいただこうかな」
 柔らかな脅し。それでも、槍男は屈しなかった。マルベートは微笑み、男の眼球に手を伸ばした。

 一方、小瓶は割れ、液剤はすっかり男のポケットに染み込んでいた。ただ、そのお陰だろうか。三日後、すっきりとした顔でモモは目覚めたのだ。

成否

成功

MVP

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

状態異常

竜胆・シオン(p3p000103)[重傷]
木の上の白烏
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)[重傷]
饗宴の悪魔
オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子

あとがき

 盗品は食糧庫の中でした。そして、MVPは貴女に贈ります。おや? お渡しするものがございましたね。皆様、こちらへどうぞ。

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