PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<果ての迷宮>Battle of E.L.F.

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●十四層
 ――果ての迷宮。
 幻想王家にとって悲願とも言えるこの迷宮の踏破は、特異運命座標の参加によって攻略は大きく前進していた。
 かつて勇者王が踏破を目指した迷宮。多くの者が命を落とし帰らぬものとなった魔窟。何が待ち受けているか正真正銘不明なその場所を、一つ一つ確かな足取りで越えていく。
 今までに踏破した階層は十三。
 次に待ち受けている階層はどのような場所か。期待と不安、そして夢と浪漫を胸に、果ての迷宮踏破部隊は十四番目の階層へ向けて出発するのだった。

●争い合う長耳達
 十四層へ辿り着いた一行は、目の前に広がる目の前に広がる大草原を目にするより早く、遠方より届く鬨の声を耳にした。
 鬨の声。そう鬨の声のはずなのだが――なんとも可愛らしいというか。
「誰かが戦っているのかねぃ? ちょっと見に行こうだわさ」
 『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)に促され、イレギュラーズ一行はその争い合う声の元へと向かった。
 そこは、一本の大木の目の前だった。
 整然とならぶ四頭身の兵士達。その格好は重装甲というよりは、動きやすそうな軽鎧で身を包んでいる。
 大木を中央に、陣営は二つに分かれていた。
 一つは白を基調にした太陽の旗を。もう一方は、黒を基調にした月の旗を掲げている。
 そして何より眼につくのは――
「幻想種(ハーモニア)?」
「幻想種はあんなずんぐりむっくりじゃないだわさ。長い耳は似てるようだけどねぃ」
 ペリカの言うように、見目麗しい幻想種とは些か違う見た目だが、見る人によっては間違えてしまうのも仕方が無いように思える。
 ペリカとイレギュラーズは、慎重に近づいていくと、長耳達が気づいて声を上げた。
「わっ! 巨人がでたぞー!」
「巨人に神樹の実を奪われるぞー! 一時休戦だー! 倒せ倒せー!」
 叫びながら弓を構えて矢を飛ばしてくる。四頭身とは言え武器の大きさはそれなりにある。当たり所が悪ければ命に関わるものだ。
「待つんだわさ! あたしらは敵じゃないのだわ!」
 逃げ回りながらペリカが言うと、白い旗を持つ長耳側から一人隊長のような者が現れる。歴戦の女戦士といった風貌だ。
「巨人達よ、其方達は何者か! 今我等は大切な戦の真っ最中なのだ! 邪魔はしないで貰おう!」
 話が通じそうだと、ペリカが女戦士に話しかけ自分達の目的と事情を説明する。すると女戦士は考え込んでこう言った。
「ふむ、果ての迷宮。その名に覚えはないが、我等部族に伝わる言い伝えにこうある。光と闇、二つの至宝が合わさりし時、新たな扉が開かれる……と」
「なるほどねぃ。二つの至宝を手にすれば、次の階層にいけると読み取れるのだわ。ところでその至宝って言うのは?」
「それならば心当たりがある。我等部族に伝わる宝、白光の宝玉がまさにそれだろう」
「ビンゴねぃ! するともう一つは――」
「うむ、我等が敵対する闇の部族、奴等が大事に守る宝に他ならないだろう」
 二つの部族に二つの宝。
 それを手に入れられれば次へと進める。ペリカはすぐに交渉に出るが、女戦士は難しい顔をする。
「我等の宝をそう易々とくれてやるわけにはいくまい。だが、そうだな……巨人達よ、其方達が我等に手を貸し憎き闇の者共を撃滅する手伝いをしてくれたのなら、譲ることも吝かではない」
 その言葉に反応したのは、闇の者――肌が黒い長耳部族の隊長だった。
「聞き捨てならないねぇ! 巨人達を仲間にしたいと思ってたのはこっちも同じなんだ! おい、アンタ達! あたしらに手を貸して光の奴等を倒してくれたら宝はくれてやるよ! こっちを手伝いなよ!」
「あとから出てきて横取りするなど、やはり闇の者は許しておけん。巨人達よ、我等に力を貸したまえ」
 いがみ合う二色の長耳を前にペリカはさてどうしたものかとイレギュラーズに顔を向けた。
「話を聞くに、この二部族は目の前の大木になる実を奪い合ってるようだねぃ。どちらかに手を貸せば、お礼の宝と、略奪する宝で次の階層へ進めると言うわけなのだわ。
 どちらかに手を貸すか、それとも両方から奪い取ってしまうか……或いはもっと別の――」
 どのような手段であれ、二つの宝を手にする必要はある。
 ペリカとイレギュラーズはいがみ合う二つの部族を前に、相談を始めるのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 果ての迷宮十四層を担当致します。
 エルフとダークエルフが持つ二つの宝を手に入れて次の階層を目指しましょう。

●踏破条件
 二部族の守る宝を手にいれ、次の階層へと進む。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報は全て信用できますが、情報にない出来事や不測の事態も起きる可能性があります。

●十四層のシチュエーション
 大草原の中央にそこそこ大きな大木が一本だけ立っています。
 白旗の長耳(エルフ)と黒旗の長耳(ダークエルフ)がこの木になる実を奪い合って、常に戦い続けています。
 この実を食べるとエルフ及びダークエルフの寿命が延び、食べないと三週間程度で死んでしまうそうです。
 この実は一週間ごとにリポップするので、毎週争奪戦が行われています。
 二部族は、この神樹の実が美味しすぎて、この場から出て行こうとは考えていないようです。そのため、代々守ってきた宝にも余り執着心はありません。

●エルフ達について
 四頭身の長耳さん達。
 ハーモニアをSDキャラにしたような、そんな印象を受けます。
 そんな見た目ですが、戦闘能力は高く、油断できる相手ではありません。特に短剣術と弓術に秀でており、遠近ともに彼女達のレンジとなるでしょう。

 両部族ともに三十名ほどの戦士がいますので、その半数である十五名を相手にすることになるでしょう。
 また、二部族両方から宝を奪うつもりであれば、三十名のエルフ及びダークエルフ混成部隊と戦うことになるでしょう。
 なお神樹と呼ばれる大木を切り倒すと、二部族が怒って死ぬまで襲いかかってくるので注意してください(皆殺し編)。

●果ての迷宮特記事項
■セーブについて
 幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
 セーブという要素は果ての迷宮に挑戦出来る人間が王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。

■名代について
 フォルデルマン、レイガルテ、リーゼロッテ、ガブリエル、他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかをプレイング内一行目に【名前】という形式で記載して下さい。
 誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。展開等が変わる可能性があります。

●同行NPC
 ペリカ・ロジィーアンが同行します。
 果ての迷宮探索の総隊長です。
 二部族の情報集めなどをしてくれますが、戦闘にはあまり乗り気ではありません。
 指示にはしたがってくれるでしょう。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • <果ての迷宮>Battle of E.L.F.完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月01日 01時50分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
アト・サイン(p3p001394)
観光客
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)
夢為天鳴

リプレイ

●情報収集
 広大な草原に唯一本生える神樹と呼ばれる木が風に揺れて葉擦れの音を響かせる。
 果ての迷宮十四層で遭遇した事態は、参加したイレギュラーズの頭を悩ませた。
「早速方針を……と思ったのだけどねぃ、あたし達には確定的に情報が足りてないのだわさ。
 どうやって二部族の宝を手にするか……それを決める前に情報収集といくのだわ」
 『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)の提案はイレギュラーズとしても思っていたことで、同感だと頷いた。
 白と黒の二部族は巨人(イレギュラーズ)の登場によって一時的な休戦状態にある。
 今ならば、話を聞くことができるであろう。
 イレギュラーズはそれぞれ情報を集めにいき、後ほど合流することとした。
「しかしこれはまた嫌なことに巻き込まれましたね……。
 どっちかの味方についてしまえば簡単そうですけど……なんか雰囲気察するあたり交渉となりそうですね」
 仲間達が情報集めにいったあと、残ったペリカの隣で『こそどろ』エマ(p3p000257)が呟く。
「まあ戦わないで済むならそれが一番だわさ。色々と不思議な――そう設定みたいなものを感じるし、示された通りに進むのが一番とは言い難い気もするのだわ」
「なるほどですね。さすが総隊長の観察眼という奴です」
「おだてても何もでないのだわ」
 何て言いつつもペリカは満更でもない様子。
 エマはペリカとの話を終えると、二部族の集落へと向かう。気配を消してハイセンスを用いて聞き耳を立てれば、いくつか情報を拾うことができた。
「ふんふん、お宝は各部族の集落、その中央の祭壇に祀られているようですね。白光の宝玉はその名の通り水晶のような丸い玉で、黒の部族に伝わる黒影の彫像は、黒い戦士の彫像ですか。これは良いことを聞けました」
 後で皆に伝えようと、エマは足早にその場を離れて行った。
「うーん、食料問題で対立する二つの種族か……」
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は考えながら神樹の傍を歩く。
 食糧問題が原因となっているのは、二つの部族に話を聞いてすぐにわかった。一つしか無い食料。食べなければすぐに死がやってくる。生き延びるために相手を蹴落としてでも奪いたいと思わせる神樹の実。
 食糧問題を解決したとしてもいがみ合っていてはいずれ同じ事となるだろう。自分達は次の階層へ行ければその後のことなど考える必要はないが、それは後味が悪いというものだ。
「出来ることなら解決していきたいけど……」
 二部族の情報を集めると、わかってきたことがある。
 両部族の身体的な特徴は、肌の色程度で、大きな差異はない。しかし性格は両極端な印象だ。
 白は基本的には温和で生真面目なタイプが多い。黒は話した印象だと好戦的で大雑把なタイプが多い。
 性格の違いが争いの火種となってるのは十分に考えられる気がした。
 サイズはなんとか解決出来ないものかと、神樹を眺めながら思考を巡らせていくのだった。
 そんなサイズの傍で、同じように神樹を睨み付ける男が居た。『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)だ。
「この階層、気になる点は多いが、まずはやはりこの神樹か――」
 ラルフは殊更細かく神樹を観察し、怪しむべき点がないかを調べる。
 近傍で視界に収まる神樹の組成におかしな点はない。人がよく知る大樹と近似のものだ。
「だが――」
 そこでラルフは樹皮に傷を付ける。小さな傷だが、樹皮が削り落ちる程度には深い。それを観察すると、不思議なことに数分で削り落ちた樹皮が元通りになった。
「自然回復という次元の話では無いな……実が一週間で実るという話を聞いたときに違和感を覚えたが、これは……」
 思い当たる節はある。それが事実となるならば、この階層に存在する疑問を解消するに至るものだと考えられるが――結論を急いては見落としがあるだろう。
 ラルフは今一度考えを纏めるために思索を始めた。
「さて、疑問はいくつかあるのだけれど……そもそも何で二部族は争うことになったのかしら?」
 『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は思い浮かんだ疑問を白の部族の者に尋ね聞く。
「我等は生まれた時より神樹の実を食べて生きている。それは黒と月の部族も同じだろう。神樹の木になる実は一つのみ。故に争いは必然であるが好戦的な黒と月の部族のことだ、奴等から攻撃してきたに違いない」
 白の部族がそう話せば、黒の部族は首を横に振るう。
「そいつは違うんじゃないかい! あたしらが戦好きなのは間違っちゃいないが、元を正せば白と太陽の部族が実を独り占めにしようとしたからじゃないか! 神樹の木を守るとか言ってあたしらを近づけさせないようにしたくせに!」
 黒の部族の言い分に、白の部族はさらに否定を加える。
 レジーナは長くなる話を聞きながら、要約していく。
「つまり元々は互いに実を分けていたけれど、小さないざこざが積み重なっていまや戦争状態と……互いに相手が悪いと思っているわけね」
「なんとも不本意な話だが、そう捉えられても仕方あるまい」
 自分が悪いとはどちらも考えていないようだった。
 やはり重要なのは実が一つしか無いことだ。これを解決できれば、自ずと二部族の争いはなくなりそうなものだが――

●共有と方針と 
 様々な情報を集めたイレギュラーズは、合流し得られた情報を共有しあった。
「集めた情報を整理すると――元々は公平に分けて実を食べていたようですね」
 『夢為天鳴』ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)の確認にレジーナが頷く。
「けれどそれは最初の頃、両部族の人数が合計十名しかいなかったときの話だわ」
「私も見聞きしてて気になったんですけど、どっちの部族も女性っぽい子しかいないように見えたのでどうやって子供が生まれるのかなーって気になったんですよね。
 そしたら驚くことに、神樹の実が一週間ごとに実るみたいに、あの子達も定期的にポンと湧いて出てくるのだとか。あのままの姿で」
 『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)のもたらした情報に一同が驚くと、ユースティアが考えるように顎に手を当てた。
「なんだかとても……作為的な感じがしますね。
 不思議に思ったんです。大樹を神格化して神樹と呼ぶことや、実を食べることが生き残るための唯一の術と思ってる節――まるで『食べなければ死ぬ』と知っているよう。
 そんな『曖昧』な、或いは偶然とも考えられることを信じているのか」
「同感だな。ペリカ君も言っていたがこの階層の存在はあまりにも不自然で、設定されたデータに基づいて動いているかのようだ。
 私が調べた神樹の性質しかり、君達が見聞きした部族の性質しかり――戦争にしてもそうだ、互角な戦力が均等に戦力を維持している。
 実のリポップと同じように、エルフ達もリポップするのならば――言うなればあまりにもゲーム的存在と言える」
 ラルフの思いついた仮説。ゲーム盤の駒であるエルフ達は、自らの意思とは関係なく生きるために実を奪い合う。数が少なくなれば補充され、いつまでもゲームは続く。
「ゲームを終わらせようとするならば、第三者の介入があれば良いってことか。それが俺達の役目になるのかな?」
 サイズの言葉に、ラルフは「まあ仮説の一つだがね」と言い含めた。
「ふむ、妾が話を聞いた感じ協力的な者もおったし、完全に設定通りの動きをする――言わばNPCという存在よりは自由な思考をもてるようじゃ。
 そうそう、神樹の実はとても堅いらしいが、これを祭壇に供えておくと、翌日には三十個に切り分けられて食べられるそうじゃ。やはりどこかゲーム的と言えるかもしれんかの」
 『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が得てきた情報もまた、この階層の仕組みを裏付けるような印象を持つ。
「ナルホド、そう考えるとオレの調べて来た土壌に関しても、同じことがイエルかな」
 『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は農業スキルを持って、神樹や、周辺の土壌を調査してきたという。
「まるで神樹のマワリだけ整えられたハタケのようだったんだよ。エイヨウ豊富な土壌は神樹のある場所だけなんだ。
 ダレも手入れなんかしてないのに、オカシな話だよね」
 さらに言えば、大樹から落ちる木の葉が周囲に溜まっていないのは不自然であった。そう周囲にまばらに落ちてはいても、積もることはない。時間で消滅し、再度木にリポップするオブジェクトのようだ。
 話を聞いていた『観光客』アト・サイン(p3p001394)が考えを纏めるように言った。
「得られた情報から、この階層に存在する部族や神樹がルールに則ったキャラクターである可能性は高いだろう。
 その範囲に含まれない僕らが出来ることは、いくつかある。どちらかの部族に肩入れするのは……なんだかこの階層のルールを決めた奴に誘導されているようで癪だな」
「ひひひ。まあ情報集める前からなんとなくわかってましたけど、どうせなら争わない方が良いですよね」
「さんせーい」
 エマの言葉にウィズィが元気に手をあげて賛同すると、その後に続くユースティアを皮切りに全員が賛同した。
「交渉となれば、木の実をとるために戦う必要は無いってことを諭していきたいな。争えば最悪死者がでる。そのリスクを理解して、またリターンがあればルールに縛られるエルフ達だって考えを改めてくれるんじゃねえか?」
 『凡才』回言 世界(p3p007315)の言葉にイレギュラーズは頷く。世界は言葉を続ける。
「エルフたちはあの場から離れる気が無いほどに神樹の実に対して貪欲なんだ。
 なら食べられなくなるから争うのをやめようという方向にもっていけばある程度真面目に考えてくれるだろう」
「そう、ですね……霊魂疎通で死者の魂と交感しましたが、死してなお神樹の実を食べなくてはという強い感情を受けました。あの感じはなんだか薬物を常用しているかのようでした」
 ユースティアは僅かに翳りをその表情に見せる。生きるために食べる食事が依存性の高い危険なものだとしたら、見過ごすのはどこか後ろ髪を引かれる思いだ。
「話を聞いた感じでは毒性はないようじゃ。なんでも食べると元気になるとか。まあ栄養の取り過ぎは逆に毒にもなりそうじゃが、依存性を除けばそう悪いものとは考えにくいかのう」
「争わずに実を食べる方法か。木を増やしたりできれば解決しそうなものだけど……」
 サイズの呟きに、レジーナは難しい顔を浮かべる。
「エルフの子たちに聞いた感じ、そう考えることすら思いつかなかったようね。私が尋ねると、そんなことが出来るのか? と興味深げに聞いてきたのだわ。
 恐らく、そう考える必要がないようになっているんじゃないかしらね?」
「ふむ、神樹の木には花も咲かないと言うことなのじゃ。生命のサイクルが著しく乱れておるし、種を繁栄させるという機構そのものがないのかもしれんのじゃ」
「そうなると少しおかしな気もするな。特定の人数まで自動的に増えるとは言え、エルフ達には死の概念がある。
 神樹が特殊な設定の可能性もあるが、種を存続させないような木がいつまでも実りを与え続けることができるか?」
 世界の気づきに、エマが「なるほど、つまり寿命があるかも?」と手を打った。
「その可能性は否定できないな。なにしろ計算されたように配置されてる存在だ。この階層を作り上げた者が善意の塊ならばエルフ達は争うことなく暮らし続けて居るだろう。
 だが、現実はまるで悪意に突き動かされたように争いへと向けられている。
 必然、なれば命を繋ぐ糧を消失させるような悪意がないとは言いきれないだろう」
 ラルフの言葉にアトも同意する。
「まあ僕達には関係のないことだけど。とはいえ後味が悪いのは確かだ。
 エルフ達が用意されたレールの上から抜け出そうと言うのであれば、手を貸すのは吝かではないね。
 ――もし、何も纏まらないようなら、その時ばかりは平和を執行することになるだろうけどね」
 アトの決意が固いことをイレギュラーズは理解する。
 で、あれば、そうならないように策を考えたい所ではあるが……。
「種が出来るのならば木を増やすことも出来そうじゃが、実の中に種はないのかのう?」
「話を聞く限りだと種のようなものを見たことはないみたいだね」
 デイジーの疑問をサイズが答える。
「でも、エルフの子達は実が出来たらすぐ食べちゃってるんですよね? 熟したら種が出来てるとか、ないかな?」
 ウィズィの言葉にユースティアが頷く。
「それは十分にあり得そうですね。種が成る前に食べてしまってる可能性はあります。あとは……祭壇に供えると切り分けられるという話も怪しいですね。それってつまり、誰も切り分けられる前の実の中身を見たことがないってことですし」
「確かにだね。アンガイ自分達で割ればタネが出てくるのかも知れないね」
 そのようにしてイレギュラーズは情報を共有し、方針を固めた。
 果たして、この階層に敷かれた争いのレールを切り替えることは出来るのだろうか――?

●交渉
 草原の中央、神樹の木の前に二部族、そしてイレギュラーズ達が並んだ。
 実のリポップ時間を前に血気盛んな二部族は口々に口論する。
「二つの耳に三十の口で喋られては堪らない。
 ここは互いの頭領のみが口を開きそれ以外は黙して待つべきだ」
 と、アトが言い竦めると、了解したように二部族の隊長がイレギュラーズの前に並んだ。
「それで巨人達よ。どちらの側につくのか話は決まったのか?」
「両方の集落で話を聞いたんだってね。そりゃあたしらの方につくに決まってるよねぇ?」
 互いに巨人(イレギュラーズ)を味方に付ければ勝利できると信じているようだ。
 アトは事前に構築した陣地にそれぞれの部族が配置されてることを確認すると、用意していた馬車の中へと案内する。交渉のテーブルを用意したのだ。
 テーブルを挟んでにらみ合う両部族にお茶を振る舞う。警戒して手を出さない二人に見せ付けるようにアトは茶に口をつけた。互いにそれを確認して、喉を潤すといよいよ交渉が始まった。
「お主らに力を貸すのは吝かでは無いのじゃが、先ずは妾達に話を聞かせてくれぬかの?」
 デイジーがそう切り出すと、そのカリスマ性のある振る舞いに、エルフの二人は思わず畏まり頷いた。
「まずは確認からだ――」
 イレギュラーズが、集落で聞いた情報を確認するように尋ねていく。
 エルフ達がどこから来たのか。尋ねれば、生まれた時からこの場所に。先代も先々代もさらに昔から変わることはない。と言う。
 どちらも先にこの草原にいたことを主張する。様々な理屈を並べてはいるが決定的なものはなく、恐らく同時と思われた。
 争いが起こったきっかけは、黒の部族が実を盗み食べたからだった。最初は分け合っていたという。しかし部族の人数が増えてきた頃、食べられない者が出てきた。実は白の部族が管理し分けていたこともあり、黒の部族で実を食べれなかったものが、翌週祭壇から実を盗み、黒の集落の祭壇に実を供え食べたという。以後、取り決めで毎週交互に実を管理し分け与えることになった。
 激化したのは運悪く三週間実を食べれなかったものが黒の部族に出たことだ。そのエルフは草原の草を食べて生きていたが、実を食べずに三週間立った時、突然苦しんで死んだという。以後、同じように運悪く実を食べれなかったものが、両部族でたびたび現れ、例外なく死んでいったという。
 どうしてそうなるのか、エルフ達にはわからなかったが、誰かが死んでからしばらくすると、新たなエルフが生まれてきた。数は常に三十を維持するが、そこに疑問は持たなかった。
「なるほど……それで争いが始まったという訳か」
「部族全員の命を守るには、実を管理し三十に分かたれた実を分け与えなければならない。黒の部族に渡す分などありはしないのだ」
「それはこっちにも言えることだよ! あたしらだって部族を守る為に実を分け与えなきゃならないのさ!」
 双方の言い分は、一見筋は通っているが、おかしなところもある。
 例えば実が三十に切り分けられたあと、さらに半分にすれば両部族の分がまかなえるだろう。それを意図的にしないと言うこと自体、何かに操作されてる印象を受ける。
「争わずに済む方法を考えはしなかったのでしょうか? 最初は互いに管理出来ていたのですから、同じように実をさらに切り分けて――」
 ユースティアがそう話すとエルフ達は「とんでもない!」と首を横に振るう。
「あの実を食べてないものにはわからないのです。出来たら全てを独り占めにしたいと思える魅惑の果実なのです。同じ部族の仲間だからこそ、涙を飲んで分け与えていますが、それを的の部族に与えるなんてとんでもないのです」
 やはり依存性が高いものなのだろうか。それにこの言いようだと、一つ間違えば同部族間でも争いが起きかねない印象だ。
 依存性をなくすのは手立てが見つからないが、少なくとも争いを避けるようにしたいとユースティアは考える。
「神樹とはいえ、そこで生きている木じゃ。と言うことは、いつかは寿命を迎える。
 木が天寿を全うし枯れたとき、実をつけなくなったとき、お主らはどうするつもりじゃ。
 ともにただ指をくわえて滅びを待つかの?」
「我々が手を出さない限り、永遠と戦う羽目になるだろうが……それが望みか?」
 デイジーとアトに問いかけられ、エルフ達は考え込む。
「……我々とて争うのが本意ではない。遙か昔は管理出来ていたものなのだ。双方に実が行き渡るのならば、我慢のしようがあるかもしれん」
「だけど現実問題、実は一つなんだよ。奪わなきゃ死んじまうんだ」
「けれど、争いを快く思わない人達もいるでしょう? そう言う人達は言うようになにか手段を見つけるべきなんじゃないかな?」
 双方の部族に少数いる穏健派の意見をウィズィが代弁する。
 隊長達もその意見を聞き知ってはいるが、迫る現実問題に目を逸らしているのだ。
 デイジーが希望を含めて言う。
「実があると言うことは種もつくはずじゃ。
 種を植え、木を増やし、新しい時代にこの木をたくさん残せればお主らは皆助かるのではないかの」
 イグナートとレジーナも同意するように言葉を重ねる。
「メサキの利益だけに囚われずに長期的にものを見ようよ! 二部族がキョウリョクすればもっと多くの人が幸せになれるんだよ?」
「目の前の敵を倒せば確かに神樹は確保できるけれども、その為には自分達も少なくない血を流すことになるのではないかしらね?
 寿命を伸ばすために命を削る必要はないのだわ」
 三人の言葉に、エルフ達は考え込むように口を閉ざした。
「このままでは双方の血が流れるだけだ、新たな扉、無駄に争いを続ける運命から逃れたいと思わないか?」
 決め手となったのはラルフの言葉だ。
 新たな扉――双方の部族に伝わる言い伝えの文言だ。
「……新たな扉か……巨人達よ、其方達は我等が争いを止めれば皆が助かると言うのか」
「何もかも解決するなら、そりゃ乗ってみたくはある話だな? でも実際どうするつもりなんだい?」
 黒のエルフに尋ねられて、アトは一つ頷いた。
「それは――神樹の調査と共にやってみたいことがあるんだ。協力してくれるかい?」
 アトは二つの部族に要請を行うのだった。

●扉より出でるもの
 イレギュラーズとエルフの隊長達が揃って神樹の前にならんだ。
「頼んだ物は持ってきてもらえたかい?」
 アトが尋ねるとエマが「ひひひ」と笑って両手に掴んだそれを差し出した。
「両部族ともに持ってきて貰いましたよ、お宝という奴です」
 白と太陽の部族に伝わる至宝――白光の宝玉。
 黒と月の部族に伝わる至宝――黒影の彫像。
 この二つが次の階層への鍵となると、ペリカを始めイレギュラーズは睨んでいたので、交渉によって持ってきて貰えた段階で、この階層はクリア出来たようなものではあるが――とはいえ、ここで「はい、さよなら」では不義にも程があるし、何よりこのエルフ達のことだ、次の階層まで追ってくるかもしれない。
「それで、巨人達よ。我等が至宝をどうするつもりか?」
 見上げながら言う白のエルフに、アトは答える。
「その前に、まずは神樹の実が成るところを見ようじゃないか。そろそろ時間なのだろう?」
 アトの確認にエルフ達が頷く。
 神樹を見上げるように全員が顎を上げる。
「見て下さい……木が光って……!」
 ユースティアが指さすと、神樹の全体が光を放つ。
 そして――
「わっ、一瞬でなんかおっきい実が出てきましたけど?」
「そして……瞬く間に落ちたのだわ」
 ウィズィが驚くと同時に木の実が神樹から落ちて地面に転がった。レジーナが苦笑する。
「しかし思ったよりでかいな……巨大な西瓜って感じか? このサイズなら切り分けても確かにエルフ達には十分な量とも言えるか……」
 世界が自身のしる自然知識と見比べながらその木と実の在りようを確かめる。実の成り方、形、どれも不自然な物の塊に見えた。
「うーん深緑に根付いてる植物とはまるで別種のものに思えるな。それにあんな実の成り方じゃ手を加えてどうこうできない気もするけど……」
 サイズが自身のノートと見比べながら神樹と実を調べる。混沌は深緑に存在する植物との差異は大きく――それ以上に、電子(デジタル)的な印象を受けるのだった。
「これはいつも通りなんです――って、うわっ二人とも大丈夫なんです?」
 ウィズィがエルフの二人に尋ねようとしてドン引いた。
 エルフの二人はまるでギャグ漫画のように口から洪水となったよだれを垂れ流して目を見開いていたのだ。
「い……いや、すまない。実を前にするとついついよだれが溢れてしまって……」
「あぁ……我慢出来ないよ。でも齧り付いても皮は破れないし苦いし……でも我慢出来ないよぉ……」
「いや、一体どんだけなんですか……」
 しかし、それだけ美味しいのならば食べて見たくはあると、イレギュラーズは思う。そう思って実を見ているとだんだん食べたくなってきて、口の中に涎が溢れてくる。
「……と、これはなにか? 呪いか何かの類いなんじゃないか?」
「食べる前の想像でこれでは危険すぎるのじゃ。神樹の実ではなく魔性の実なのじゃ」
 危険はないのだろうが、それ故に中毒にされそうで危険だとイレギュラーズは思うのだった。
「そ、それで……実を見てなにかわかったことはあるのか?」
 白のエルフが尋ねると、アトとラルフは顔を見合わせて肩を竦め合った。
「いや、情報通りということがよくわかったよ。なるほど、刃が立たない程度には表皮も硬そうだ。これは無理矢理割るというのも難しいだろうね」
「そして木に実が成るシステムも、想像通りの産物だったと言えよう」
 イレギュラーズが思い当たった通り、この階層は作為的に作られたシステムの上に成り立っている。
 ではその敷かれたレールを入れ替えて、予定調和を崩したらどうなるのか?
「至宝は二つ。片手で持つにはやや重い大きさか。エルフからすれば持ち運ぶのも難しいオブジェクトに見えるかもしれないな」
 世界の言葉にイグナートが頷く。
「コレを見てみて。黒のチョウゾウは何かを持つように手をカザしてる」
「ひひひ、ホントですね。このサイズ感……こっちの宝玉がぴったりハマりそうな感じですよ」
 エマが手にした宝玉と彫像を見比べながら言うと、エルフ達は首を傾げて尋ねた。
「つまりはどういうことなのだ?」
「言い伝えはこうだったわね。
 光と闇、二つの至宝が合わさりし時、新たな扉が開かれる……。
 二つの至宝を手にするだけではなく、それぞれを重ねる――つまり彫像に宝玉を持たせれば――」
 レジーナが説明し、エマがその通りに宝玉を彫像に乗せた。
 瞬間、眩く宝玉は光を放ち、光を受けた彫像が大きな影を生んだ。
 そして輝きが収まると同時、どこからともなく『ぴんぴろぽ~ん♪』と音が響いた。
 さらに神樹が輝いて、先ほど見た光景を思い出させる。思った通り、輝きが収まると、神樹の実がさらに二つ落ちてきた。
「見るのだわさ! 神樹の後ろに扉が!」
 ペリカが声を上げる。指さした先、明らかに不自然な大きな扉が出現し、ゆっくりと扉を開いていった。
「次の階層への道か!」
 声をあげるも、瞬時に緊張する。扉の奥から、蠢く影が大量に此方へ向かって走ってきたからだ。
「あれは! ヲークか!?」
「オーク?」と聞き返すと「ヲーク」だと念を押された。
「部族の垣根を越えて言い伝えられてきた我等エルフの宿敵だ! あいつらは神樹の実だけでは飽き足らず我等も食事にしてしまうという凶悪無比な害獣どもだ! 見つけたら殺せ! 一匹残らずミンチにしてやれ! がエルフという種族に定められた訓告なのだ!」
 エルフの隊長達が号令を出して、黒白混合の部隊が武器を持つ。
「進めー!」「わー!」
 鬨の声を上げながら扉より現れたヲークの群れへと飛びかかっていくエルフ達。
「なんだかわかりませんが、これは共闘という奴でいいですよね?」
 武器を構えたエマが仲間達に尋ねると、仲間達は力強く頷き返す。
「折角助けた命なんだ、こんなことで失われても困るんだよ」
「なら、やるしかないですね! 小人のエルフさん達との共闘です!」
「エルフのミンナ! こっちの地形をリヨウするんだ!」
 小人と子豚の争いに巨人が介入する。
 エルフ達の訓練された動きは、イレギュラーズの想定以上に練度が高く、これは争っていたら危なかったと思わせるものだ。
 同じように、ヲーク達も並々ならぬ気迫でイレギュラーズへと襲いかかる。小さな的に攻撃が当てづらくそのくせ一撃の威力が強力だ。
 だが、今回ばかりは負ける気がしなかった。
 心躍るエルフ達の共同戦線は、時間を忘れるまで繰り広げられたのであった。

 ヲーク達を撃退し、別れの時がやって来た。
「巨人達よありがとう。我々の食糧問題は解決し、黒の部族とも共存の道を進むことができそうだ。感謝する」
「あんがとよ。これからはケンカしねーように暮らしていくよ」
 二人の隊長の言葉に頷きながら、ペリカとイレギュラーズは次の階層への階段を降りていく。
 もう十四階層が見えなくなった頃、ペリカがふと気づいた。
「そういえば最後に実が二つでてきたよねぃ。合計三つになるってことは……やっぱり奪いあいが起こりそうな気がするのだわさ」
 乾いた空気の中、一呼吸おいてイレギュラーズ達の笑い声が響いた。
 いや、まさかそんなことはないはずだ。
 きっと、今度は武器を使わずに――そう平和的にバトルするに違いないのだ。

成否

成功

MVP

ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に

状態異常

なし

あとがき

探索お疲れ様でした。

MVPはラルフさんに送ります。おめでとうございます。

果ての迷宮はまだまだ続きます。次の階層も頑張って下さい。

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