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シナリオ詳細

ペトロシュカ殺人事件

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●犯人無き殺人事件
 ペトロシュカ殺人事件――別名『ペトロシュカ集落三十二人殺し』は幻想犯罪史におけるひとつのサンプルケースとして大学やその研究室で扱われる有名な事件である。
 なんのサンプルかといえば、『犯人無き殺人事件』のサンプルだ。

 事件のあらましを手短に話そう。
 ペトロシュカという幻想南部に位置する集落には三十三人の住民が暮らしていた。
 山々に囲まれていることもあって周囲との接続は細く、人の行き来もごくわずかであり、郵便物の受け渡しや商売も集落の住人が行っていたために外部の人間が立ち入ることは数年に一度あるかないかといったほどであった。
 その『数年に一度』の殆どを担う行商人が集落に訪れた時、その事件は発覚した。
 ペトロシュカの住民全員が死亡していた、というのだ。
 下は0歳上は92歳。老若男女例外なく、二十二人が等しく首を切り取られるという形で発見され、その後の検査によって生きたまま首を切り落とされたことが直接の死因であることが判明した。狂気は刀のような鋭利な刃物であり、人為的な傷であることまでが判明。
 霊魂や精霊や動物その他への聞き込み調査でも、『何者かが一人で』犯行に及んだことが分かっていた。
 容疑者としてあげられたのは当時偶然にも集落を離れていた男、バラン。妻と娘一人をもつ機織り職人である。かれが王都へ商品の納入に出ていた彼を調査当局は即座に発見、拘束した。
 男は殺害に使用したはずの刀を所持しており犯行を認めるかのような言動が数多く得られたが、しかし驚くべきことに彼は無罪となり、地元のペトロシュカへと返された。

「バランが何故無罪になったか分かるかい?」
 指の上でコインをくるくると回す遊びをしながら、看守帽を被った男は笑った。
 ここは幻想南部の島通称『監獄島』。貴族殺しの大罪人ローザミスティカが収容されているとされているが、元の地位ゆえに今やここは彼女の王国。治外法権の島である。
 イレギュラーズは、この治外法エリアが欲しい大貴族レイガルテよりの依頼のもと、ローザミスティカ及びその部下たちの依頼を受けることとなった。
 そしてこの看守もまた、部下のひとりである。
「クイズにしようか? ――おっとアンタが早かった。そうさ、大物貴族の圧力によって裁判の決定が覆されたから、だ」
 わざとここで『大物貴族』という言い方をしたのは、その名前を事件がらみで口にするだけでも命を狙われかねないがゆえ、と思うべきだろう。
「ヤツは今もペトロシュカで暮らしてる。噂によりゃあ仕事もしてるらしいが、あんな有名な事件をおこした『はず』の男からものを買おうなんてヤツはいないよな。
 もっと言えば、そんなヤベエ集落に好き好んで住むヤツだっていない。
 今頃誰もいない集落で一人で……なにをやってんだろうかね。
 え、なんでこんな話をわざわざしたかって?
 決まってんだろう」
 看守は左右非対称に笑って、コインをピンとはじき上げた。

「バランを暗殺してこいって依頼を、するためさ」

●ひとりきりのバラン
「いいか? 暗殺計画が立てられたのはコレが初めてじゃあない。
 過去四回にわたって暗殺は行われたが、このうち全てが失敗に終わった。ま、そうでなきゃこんな依頼今更アンタに回したりしないよな。それも。『八人がかり』でさ」
 看守のいわんとすることを、イレギュラーズたちは察し始めていた。
「過去の暗殺は『バランがたった一人の殺人鬼である』という前提のもとに行われた。
 これが失敗の原因だと、依頼主サマは考えた。
 それで調査を行った結果、バランが大量の『アンデッド』と暮らしていることが判明したわけだ」
 暗殺対象は殺人鬼バラン。
 その障害となるのは、二十二体のアンデッド……というわけだ。
「バランにこいつらを自由自在に操る能力があるとは思えねえ。だって、そんな能力があるなら事件当時の殺人に少しくらいは使ってたはずだろ?
 じゃあなんでだ……ってところまでは、分かってねえ。
 興味がわくなら調べてくれよ。依頼主サマもそこを気になさってる。
 んー、そうだな。もし『なぜアンデッドがバランを守っているのか』をしっかりと突き止めることができたなら、追加報酬をやるぜ」

 こうして始まった第五次バラン暗殺計画。
 ペトロシュカ殺人事件の決着が、人知れずつこうとしていた。

GMコメント

■オーダー
・成功条件:バランの抹殺
 死亡を確認するために耳を切り取って持ち帰るよう言われています。
・オプションA:アンデッドがバランを守っている理由を突き止める
・オプションB:アンデッドがなんであるかを突き止める
・オプションC:バランがなぜペトロシュカ殺人事件を起こしたのかを突き止める

※オプションを満たすと達成度に応じてゴールドの追加報酬が与えられます

■エネミー、フィールド
・バラン
 刀で武装した四十台男性です。
 調査によると事件当時からあまり老けた様子がない、と報告されています。(加齢は確認されているので精神的なものと推定されました)
・アンデッド
 二十二体のアンデッドです。
 報告によると大きさがバラバラで、バランの周囲でじっとしていることが多いそうです。
 いざバランと戦闘になる、ないしは戦闘の気配がした場合一斉に集まってきて戦闘に参加した様子が報告されています。

・バランの家
 集落の中央あたりにある井戸の横に、バランの家があります。
 一般的な民家でバランはそこで暮らしているとみられています。
 暗殺を行うなら、おそらくその場所まで向かう必要があるでしょう。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • ペトロシュカ殺人事件完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
メリンダ・ビーチャム(p3p001496)
瞑目する修道女
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
シラス(p3p004421)
超える者
テレンス・ルーカ(p3p006820)
赤染の腕

リプレイ

●ペトロシュカへ駅馬車は来たりて
 幻想南部、山あいの村々をつなぐ駅馬車。
 ローレットのイレギュラーズがペトロシュカへまとめて行けるようにと、二台分の馬車が手配されていた。
 『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)はそんな馬車を待ち、強い雨の降る酒場にいた。
 窓を打ち付ける雨粒の音だけが、長く長く続いている。
 ランプのあわい灯りと白湯のけむりが重なって、大地の首元をくもらせた。
「首から上を切り落とされた死体、か。
 ……他人事には思えないな。
 だガ、なにかが釈然としなイ。
 ペトロシュカに行きゃア、その理由がはっきりわかるのカ……?」
「確かに気になるよね、その真相ってやつ。こんなの依頼されなくたって調べたくなるだろ」
 同じカウンターテーブルにつく『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)が、水のはいったブランデーグラスを軽く振った。
 『なあ』とハナシを振られた『赤染の腕』テレンス・ルーカ(p3p006820)は、両手をしっかりと膝の上に置いたまま窓の外を見つめていた。
「犯人無き殺人事件…ですか。
 謎の多い事件ですが、今回の目的はあくまでバランの抹殺。
 問題ありません、確実に任務をこなしてみせましょう。
 全ては、赤染の腕の名の元に」
 そうとだけいって目を閉じるテレンス。
 シラスはフーンといって振り返った。
「そういえば一人か二人足りねえな。どこいった?」
「王都らしいガ?」
「なんで?」

●書に聞け
 所を大きく変えて、王都裁判所前。
 開いた馬車の扉から、『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)の靴が伸び、美しく舗装された石のタイルを踏んだ。
「ミステリーだな!! 私もかつて助手くらいならば代役として顔を出した事がある!」
「代役……?」
 反対側の扉から折り、マフラーのように首に巻いたフィッシュボーン編みの髪をなでる『金剛童子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)。
「ダカタール。今回の事件をどう見てる。マリアは、『アンデッド化の妖刀』の線を疑っている、が」
「ふうむ」
 ダカタールは顎をなで、目を細めた。
「手段はどうあれ、アンデッドはバランが作成したものであるという考えだな?
 その場合は……」
「刀の検分は行われてしかるべき。もみ消したのであれば、それなりの痕跡が資料に残る」
「なるほどそれで一緒に来ようと言ったわけだな」
 ついてきたまえ。
 ダカタールは低い声でそう述べると、手招きしながら歩き出した。

「私はこういうストーリーが好きだな。
 村人を殺したのはバランスではなく、彼はアンデッドになった村民と戦闘になった。アンデッドには意識があることを悟り戦いをやめ、ことの犯人を捜しに外へ。その際に拘束された。有罪であれば本人が都合の悪い告訴をするおそれがあるため無罪にして放り出し、暗殺をはかった。
 バランがアンデッドと過ごすのは、かつての生活を取り戻すためかあるいは……」
「…………」
 じっと見つめるエクスマリアに、ダカタールは両手をあげて笑った。
「ただの空想さ。それよりついたぞ」
 ダカタールはあるファイルを手に、大きな門を叩いた。
 見ればそこは、王都に居を構える大物貴族の屋敷であった。

 渡された資料と、事件の記録資料。その二つの中で意図的に『消された』名前があった。
 それがこの大物貴族である。
「私が訪ねた理由はこれ、だ」
 ペトロシュカ殺人事件の資料をトンとテーブルに置くダカタール。
 と同時に、向かいに座った栗毛の八十代女性は親指を下向きに立てた。
 部屋両サイドに控えていた黒服の男たちが懐から拳銃を取り出し、ダカタールの両こめかみに突きつける。
 素早く立ち上がってエクスマリアが戦闘態勢をとろうとするが、男は更にもう一丁抜いて彼女にも突きつけた。
「一秒数えるまでにリーディングを解きなさい。いー――」
「おっとすまない」
 はっはっはと余裕そうに笑うダカタール。
 覗かれて困ることがあるのかといえば、イエス以外の何物でも無い。
 大物貴族にリーディングをかけながら会話をしようとすれば、それがいかなる質問内容であったとしても、脳ごと消そうとされても文句は言えまい。
「良い子ね。今度同じことをしたら、あなたの友人知人庭の花に至るまで灰にするわね」
 穏やかな笑みを浮かべて言う女性に、ダカタールはしかし笑みを崩さない。
「冗談を。ギルド条約を反故にしてまで人家に毒を放つまい」
「ならどこまでなら放つと思って?」
「例えば遠い村の井戸などに」
「…………」
 沈黙を答えと察したようで、ダカタールは立ち上がった。
 資料を手に取り、エクスマリアへかざす。
「いるかね?」
「必要ない。マリアの仮説の否定材料は、見つかった」

●よく走る車輪は泥を知っている
 馬車の窓を大粒の雨がうつ。
 『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)はどこかけだるげに窓に頭を押しつけ、吐く息で窓を曇らせた。
「ひとの末路は須らく焔色であるべし……と言いたいところなのですが。
 現状不明点が多過ぎて、素直に彼らを焔色の末路に導いて良いものか」
「本当、そうですよねぇ」
 席の反対側では、『こそどろ』エマ(p3p000257)が逆の窓に頭をくっつけていた。
「……どちらにしろバランは耳が必要なので焼けないのですが」
「それ以外は燃やせるのでは」
「焔は元来業が深いものなのです」
「ふへえ」
 へんな声を出して頭をもとにもどすエマ。
「それにしても今回。気になることが多すぎますね。
 ペトロシュカの住民は33名。死亡者は22名。『ペトロシュカ集落三十二人殺し』と呼ぶには明らかに10人足りない」
「今回観測されてるアンデッドが22体なのも、関係がありそうね」
 両目を瞑り、両手を膝の上に置き、静かにうたた寝でもするような姿勢でつぶやく『瞑目する修道女』メリンダ・ビーチャム(p3p001496)。
「研究の題材になるほど有名なのに、わからないことだらけの事件なのね……。
 それとも『わからないこと』にしておかないと、困る人がいるのかしら?」
 事件情報に矛盾がある。
 ないしは、意図的に『消された』内容がある。
 合わないつじつまを埋める方法はそれこそ大量にあるが……。
「考えても仕方ありません、私は私の仕事をしましょう。ひひひっ」
 思考にとらわれて本来の仕事をまっとうできなくては、仕方あるまい。

●ペトロシュカ
 夜に沈んだ村の影を、這うように進むものがあった。
 たとえ土地になじんだ者たちであっても、それを見つけ出すのは困難だったことだろう。
(随分、広く散ってるんですねぇ……)
 這い寄るもの。もといエマは民家の影に身をピッタリとつけて、目的の場所へとたどり着いた。
 深夜であるにも関わらず、あちこちで引きずるような足音が続いている。
 それが例のアンデッドたちだと、エマすぐに気がついた。
 ここへ至るまでの間、何体ものアンデッドとすれ違いそうになっては身を隠すという移動方法を続けていたからである。
 アンデッドたちに共通しているのは、すべて首がないということ。
 皆の予想を真に受けるなら、この村でおきた殺人の被害者たちがアンデッド化して動き回っているということになる。
 そして今更ながら最悪なのが……。
(侵入がバレてますね……ひ、ひひ……すっかり囲まれてます……)
 居場所こそバレていないものの、村に侵入したらしき何者かの痕跡を見つけ村のアンデッドたちがエマを包囲し、その枠を徐々に縮めているのがわかった。
 見つかるのも時間の問題。
 過去四度の暗殺が失敗した理由って、もしかしてこういうコトだったんじゃないかと……エマは頭のなかで考えた。
(とはいえ発見されたらそこで終わり。味方は村の外で待機してるし、さすがにこの状況を補足できてはいないでしょうし……)
 いやはや困りましたねえ。と、エマはナイフを手に取った。

「どうも、様子が変ね」
 村の外側。アンデッドたちからは補足されづらい位置から暗視と透視を複合して様子を観察していたメリンダは、村の外寄りの民家内部でじっとしていたはずのアンデッドたちが民家を出て移動していくさまを確認していた。
 ある程度まで離れてしまうと、やはりどうも透視しきれないのだが……。
「皆。行くわよ」
「まだ偵察のエマさんが戻ってきてませんが?」
 同じく暗視をかけていたクーアがぽうっと燃えるような瞳で振り返る。
「あの子、見つかった可能性があるわ。アンデッドたちが急いでないところから察するに、戦闘にまではなってないみたいだけど」
「マジか」
「まずいナ」
 アンデッドたちを華麗に斬り殺して単独で離脱してくれればそれでよいが、そこまでザルなら過去四度の暗殺が失敗する理由がない。
 大地とシラスはそれぞれ走り出し、移動中のアンデッドへと早速襲いかかった。
 暗がりに紛れたからだろうか、最初の一人……おそらく若い女性らしき首のないアンデッドに、シラスは鋭い蹴りをたたき込んでやった。
 更に『乙兎切草』の術を繰り出し、アンデッドを断ち切る大地。
 倒れたアンデッドに火を放ち、燃え上がった死体がばたばたと暴れるのをクーアはじっと観察していた。
「おい、何見てんだ」
「万物は燃えるものです。けれど燃え方は異なる」
「ああ?」
「たとえば生なき人形なら、火にまかれてもこうは動きません。この反応は、痛覚がはたらいている証拠です」
 燃え上がる炎に気づき、周囲のアンデッドたちが近づいてくる。
「首を切り落とされてるのに生きてるってのカ。いや、違うナ……」
 大地は動かなくなったアンデッドのボディからフッと抜けていくものを察知した。
「霊魂ダ」
 アンデッドは確かに死体だが、霊魂だけがリンクして肉体を維持している。そのように、大地は分析した。
 なら霊魂と対話できる彼の出番だ。
「バランが、貴方達を殺したんだろう? バランが憎くないのか? 誰にも、彼を止められなかったのか?
 何故そんなやつを守るんダ? 本人だって、殺しを認めている。事実、彼の行いで、この村は何もかもを失ってしまったじゃないか。だのニ、復讐をしてやろうとハ、思わねぇのカ?」
 早口で問いかけるが、若い女性の霊魂は大地を一瞥したっきり、すぐに去ってしまった。
 他のアンデッドたちが向かっているのとおなじ方向へだ。
 霊魂への聞き込みが空ぶった、わけではない。
「へえ、霊魂自体がヤツに協力的……ってケースか」
「らしイ」
「ますます気になるな。もしバランに首をぶった切られたなら反発してしかるべきだろ」
 ダカタールやエクスマリアが戦闘を始めるなか、シラスはにやりと笑った。
「で、こっからどうするかだが……死体や家屋を調べてみるか?」
「その時間的余裕は、おそらくないかと」
 テレンスは小さな何かの柄を掴むとエネルギー体の弓を形成。
 向かってくるアンデッドめがけてエネルギーの矢を発射した。
「時間をかければエマさんの命が危なくなります。もしするなら、私たちが生き残ってからですね」

●分断と夜戦
 燃え上がる死体を背に、ぼわりと編んだ髪をほどいていくエクスマリア。
 まるで髪そのものが意思をもつかのように複雑に、そして素早くほどけ、次々に毛先に生み出されたエネルギー球が発射されていく。
 アンデッドたちを巻き込み、腕や足を打ち抜いていった。
「このアンデッドを作ったのは犯人を特定する為か、若しくは自身の名誉の為か……」
 いずれバランに聞こうと思っていたことを、確認するようにつぶやいてみるダカタール。
 手元に現れた黒漆塗の小槌を振ると、空に開いたジッパーから大量の岩や氷が降り注ぎ、先ほどエクスマリアが打ち抜いていったアンデッドたちを押しつぶしていく。
「敵の層が厚い、な……」
 どうする? という目で見てくるエクスマリア。
 大地が地面をトンと足で踏むと、アネモネの幻影がアンデッドたちの周りに広がっていく。
 わずかな希望と、それを枯らす絶望の悪夢。
 彼らにしか分からない絶望の中に飲まれ、アンデッドたちは次々に倒れていった。
「全員倒してから行くには……」
 時間がかかりすぎる。
 そう述べようとした、瞬間。
 すぐ近くで突風がおこった。

 バランの繰り出す刀がエマを襲う。
 エマは『ペレグリン』の刀身で打撃を受け、受け流すように踊りながら飛び退いていく。ひきつるような笑みが、マフラーの下からのぞいた。
「ひひひ……四度も暗殺を仕掛けられれば、用心深くなるんですかね!」
 反撃――を遮るように、老人のアンデッドがエマの手首を掴んだ。
 更に、這いずる赤子の首なしアンデッドがエマの足首に絡みついた。
「――!!」
 さしものエマといえど、こうも数で攻められてはひとたまりもない。
「五人目になってしまうんですかね。それともアンデッド村人たちの仲間入りですか?」
 おどけて肩をすくめる。
 なぜか?
 背後から迫る、暴風のごときねこの存在に足音で気づいていたからだ。
「おまたせしました」
 クーアの繰り出した手のひらがバチバチとスパークを起こし、エマに組み付いた老人アンデッドを弾き飛ばす。
 否、肩の部分だけ的確に爆発させて無理矢理はぎとったようだ。
「私が一番、夜を走り抜けるのに向いていたので」
「助かりました。えひひ、もう孤軍奮闘はこりごりですよ、ひひ」
 刀を構え、数歩後じさりをかけるバラン。
 が、それを逃がすまいと一足遅れたメリンダが飛び込んできた。
 非常識な身体能力で飛びついてきた首なし児童をモーニングスターハンマーで打ち払うと、ふりこ運動をいかしたままぐるんぐるんと踊るように回転した。
「ごきげんよう、バランさん。私達の目的はお察しかと思うけれど……。“あの方“に伝えておきたいことがあれば承るわよ」
 メリンダの問いかけにバランは一瞬ひるんだように見えたが、すぐに首を振って口を引き結んだ。
 かまかけがバレたのか、それとも最初から口が堅いのか。
 まあいい。この程度でもらすような軽い秘密だとまでは、思っていない。
 バランを守るように、女性のアンデッドと子供のアンデッドがそれぞれメリンダへと襲いかかる。
 が、勢いづいた彼女に飛び込んでいくのは自殺行為といってよかった。
 短くもちなおしたハンマーに叩き潰され、二人まとめて民家に壁にスタンプされるアンデッドたち。
「貴方達は死後も目的をもって“生きて”いるみたいね。それは少しだけ……羨ましいと言えなくもないわ」
 やがて、他の仲間たちが駆けつけてくる。
 テレンスは魔力の矢を連射しバランの腕や足に突き刺すと、『今です』とシラスに合図を送った。
「バラン。あんたは暗殺者を『五人目』だと侮った。それが、敗因ってところかな」
 シラスは姿勢を低く取ると、猛烈な速度でバランの横を駆け抜けた。
 振り抜く二本指。
「このまま殺人鬼として消されるなんて悔しくはない? 言い残すことがあれば聞くぜ」
「ほら、いわゆる冥途の土産ってことでもいいんで。あ、逆でしたかね。ひひひ、えひひひっ」
 崩れ落ちたバランはシラスたちの顔をそれぞれ見てから。
「それならなおさら、漏らすわけにはいきませんね」
 と言って、息絶えた。

●花は知っている
「綺麗な切り口だ」
 シラスはアンデッドたちの『切り取られた首』を観察して、そう結論づけた。
「バランはそこまで手練れってわけじゃない。なのにここまで綺麗に落とせたのは、斬られる側が協力したからだな。自ら斬られたんだ。けど、なんでまた……」
「たとえば、こんなのはどうですか」
 テレンスは井戸から水をくみあげて、そのへんの花へと振りかけた。
 そして地に手をつけて顔を近づけ、花の意思を探る。
「井戸の水に、『恐ろしい何か』が含まれているようです」
 サンプルとして持ち帰るため、水をボトルにいれるテレンス。
 ダカタールやエクスマリアは、ここまでの情報をまとめはじめていた。
「首を落としたのはバランかもしれない」
「けれど、殺したのが村の住人であるバランなら、霊魂疎通調査で分かったはずだ。『何者かが一人で』などと結論づけない」
「だいたい、たかだか三十人規模の殺人事件に大物貴族とやらがわざわざ庇いに出てくる道理も良く分からないのです。そもそも大物貴族ってなんなんですか」
「いや……ううむ」
 ダカタールは口をきゅっと引き結んだ。喋ってはいけない単語であるように思えたからだ。
「もしかして、これかしら?」
 メリンダが一言。金色のエンブレムプレートをぽんと投げてよこした。
 絡みつく三頭の竜が、そこには描かれている。
「なんか、似てるな……」
「よせ」
 言いかけた大地をせいして、シラスが手をかざした。
「この案件。憶測で結論づけるのは自殺行為だ。いまある物品だけを、素直に依頼人に引き渡そうぜ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――バランの抹殺に成功しました
 ――アンデッドが霊魂によって動いていることを確認しました
 ――いくつかの調査結果をまとめ、依頼人に提出しました
 ――判明した情報分の追加報酬がなされます

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