シナリオ詳細
<Despair Blue>ブライクニル
オープニング
●
窓の外は、一面の雪景色だった。
馬鹿な。……ここは海の上なのだ。
だというのに、外が一面の雪景色だなんてことがあるのだろうか?
船長は驚愕した。これでも、生涯の3分の2を海に捧げてきたベテランの海種だ。
いや、ここではありとあらゆることが起こりうる……。この、前人未到の<絶望の青>の近くでは……。
見張りの船員は、凍り付いたまま死んでいた。
船の人間、すべてが死んでいるわけではなかった。だが、ほとんど動けなかった。ここはあまりに寒すぎる。
船もまた、人と同じ。凍り付いて動けない。泳いで逃れようにも、気が付けば周りはぶ厚い氷に閉ざされている。
船は軋む。氷は厚い。時間をかければ脱出できるかもしれないが……。外には魔種がいる。下手に動いて、刺激したくもない。
熱源はない。体温はだんだんと下がっていく。早く、早く、ダレカタスケヲ……。
なんとか、通信機を打った。
雪の向こうから、場違いに歌うような声が聞こえた。
男は思った。
あれは……死の天使だ。
●
<絶望の青>に近いとわかる。……ここは、何もかも凍り付いている。
魔種、レアータ・バハルの力によって。
<絶望の青>に挑む海洋王国を支援するため、3隻の補給船団があった。そこに、レアータがいた。
レアータの氷を逃れられず、瞬く間に一隻が沈んだ。そして、もう一隻も、氷河にのまれて真っ二つになった。
なすすべもなく凍り付く。氷塊に沈んだ。
後方を航行していた最後の一隻は、凍り付き……逃れられないながらもなんとかもちこたえていた。しかし、だからといって、動けるわけでもない。
幸いなのは、レアータが、その船を気にとめていないことだ。
「~♪ ~♪」
レアータ・バハルは、今はその船には気を留めていなかった。今は、機嫌よく歌を歌っている。
彼女は魔種。海種から魔種となった<敵>。
レアータは、イレギュラーズたちの戦いぶりを脳裏に思い出す。
ため息をつく。
彼らの戦いは素晴らしかった。
熱、あるいは、……研ぎ澄まされた暴力。
氷の槍。花開く槍。策謀。ハレーションのように、美しく咲き誇る花。
あんな動きができたなら!
レアータは一生懸命に練習する。何度も何度もくり返し、うまくいかないことを悟る。掌が擦り切れていて……氷の鏡に映る自分は美しくない。もっと、もっと、練習しなくては……。
突如として現れたステージの上で、レアータは舞う。ポーズを決める。
「Erstine様……」
どうして、同じにならないの?
首をかしげて、空を見る。
どうしてだろう?
才能、だろうか?
●
奇しくも救難信号を受け取ったのは、まさに<絶望の青>に漕ぎ出さんとするイレギュラーズたちだった。
「はっくしょい! うう、まさかこんなことになるなんて……!」
『お騒がせ』キータ・ペテルソン(p3n000049) はがちがちに凍えていた。吹雪いてこそいないが、離れたここからでも、あたりが恐ろしい氷点下にあるのが分かる。
「今の状況は、3つ船があって……。2隻は大破。たぶんそっちはもう……だけど、もう1隻が残ってる! そこにはまだ人がいる。助けられれば……。いいんだけどなあ。問題は、……魔種も近くにいるってことなんだよなあ……」
か細い歌声が聞こえてきた。
- <Despair Blue>ブライクニルLv:15以上完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年02月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●銀雪の最中
「間接的にでも私が関わってるのなら……全力を持って臨まなくては、ね」
『熱砂への憧憬』Erstine・Winstein(p3p007325)の吐息が白く染まる。
彼岸会 無量(p3p007169)は口元をわずかに緩ませた。
「我が前立つ物皆断つ者ぞ……とでも言うべき化生である私ではありますが、此度初めて己以外の為に刃を振りましょう」
血を忌み嫌うErstineと、緋を求める無量。彼女たちは、今、この瞬間、同じ方向を向いていた。
「うむ。準備はよい」
『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)は手をグーし、パーにし、防寒着の感触を確かめる。
「まるで全てを凍て尽くす竜巻か。憧れと同じになりたいだけ遠ざかるのは皮肉よな」
『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は、ひとり歌う魔種に思いを馳せる。
「そうね。今でも彼女は私達に憧れを抱き、届かない事に傷つき苦しんでいるのね……出来る事なら、彼女を『助け』てあげたいけれど……」
『Righteous Blade』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は、ゆるゆると首を横に振る。
魔種は、決して相容れない、”敵”だ。
「えぇ、分かってる。目的を履き違えるつもりはないわ。今は生存者達の脱出を支援する事が最優先、よ」
「事態は一刻の猶予もないかもしれないし……今できることをすぐにやらなきゃ!」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は勢いよく頷いた。スティアのこの前向きさには、数多く救われた者もいるのだろう。
「というわけで、無量さん、これを!」
「承知」
無量は救急箱を押し抱く。
「おう、よろしくな」
デイジーのファミリアー……ふっくらとした冬毛のリスが、『空気読め太郎』タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)の首元に潜り込む。
「おっ、ちょっとあったかいな」
タツミはくすぐったそうにはにかんだ。
「後ほど合流致します。御武運を」
「気をつけて」
タツミと無量は、船へと向かう。
残りは、舞台に舞い降りる。
か細い歌声が止まる。
歓喜の声。おぞましい冷気。
レアータは笑った。
「ねえ、来たよ」
『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)もまた笑った。
●交錯
アルテミアがマナスティールを繰り出した。奪魔の刃が、レアータの繰り出す氷と交わる。
高い音を奏でる。
レアータの反撃がとらえたのは、アルテミアの残像だった。アルテミアは素早く身をかわし、巧みに致命傷を避ける。くるりと旋回する。アルテミアの銀の髪が美しく揺れた。
レアータはラルフに向かって距離を詰める。リボルバーを手にしていたラルフは接近を選ぶ。
ゼロ距離からの魔狼襲。予備動作はほとんどなかったように思える。一点を貫く邪悪な闘気。その威力は、ラルフが並ならぬ体術の使い手であることを物語っていた。
「っ……」
レアータは膝をつき、がむしゃらに刃を返す。スティアは仲間の前に立ち、正面から受け止めた。リインカーネーションを通した鎖が、スティアを守るように静かに揺れる。
レアータは、スティアを無視して反撃をしようとしたが。
「良かったら私の相手をして頂けないかな?」
優雅にスティアが一礼する。
ああ。視線を奪われる。彼らは。彼女たちは、やはり、自分とはどこか違う。華がある。
レアータははっと、目を見開く。
「……」
夢にまで見た、Erstineがそこにいる。
「さあレッスンだよ。上手についてきてね?」
カタラァナは、底知れない笑みで微笑んだ。
……うたが、始まる。
きらびやかなステージ。身が焦げるほどに憧れた舞台。
「モデルの私を見て……という事なら、以前学びを得た魅せる戦い方を今こそ活用する時ね……!」
Erstineは息を吸った。
カタラァナの自在な伴奏が始まる。フィル・ハー・マジック。聞いたことのない音。静けさに沁みるように静かな曲。暴力の音を縫うように、しかし、それは遥かにあたりに大きく響いていた。
音楽に身をゆだねつつも……双方ともに、攻撃の手を止めることはない。
……思った通りの音が来ない。
レアータは違和感を抱いていた。
カタラァナは、演奏の音をわざと外していた。
Erstineは歌い、言葉を紡ぎながら熱砂への憧憬のトリガーを引いた。剣魔双撃。反撃するレアータの攻撃は、またしてもスティアによって防がれた。
スティアはまっすぐにこちらを見据えている。
(”美しく”振る舞えば、こっちに惹きつけられる、かも)
そうすれば、仲間を守れるから。
……美しい、と思った。
「こういった演出はどうじゃ?」
不意に、月が昇った。
デイジーの蝕む赤き月が空へと浮かぶ。不吉に揺らめく月が辺りを包み込む。
一度見た風景。だが、レアータはそれを再現する術を持たない。
氷のステージは姿を変えてゆく。
カタラァナの奏でる曲が、……自分が口ずさんでいたメロディをかすかになぞった。思わず音を乗せる。
Erstineがつぶやいた。
「素敵な歌ね……こんな時じゃなかったらもっと聞きたかった」
レアータは歓喜に打ち震えた。夢にまで見た、Erstineが! ……そんな言葉をかけてもらえたらと、ずっと思っていた。夢のようだ。
Erstineは舞う。外三光。
夢のようなのに。
レアータの手足はもつれる。動きが、思った通りに動けない。舞台なのに。
Erstineはこんなに美しいのに。
「上手く歌えなくたって、それがあなたの歌でしょう?」
わたしの、うた?
たゆたうようなカタラァナの旋律は、レアータのものから離れていった。
届かない。
●静かに凍り付いた船
デイジーの月が昇った、ちょうどそのころ。
タツミと無量は、生存者の救助にあたっていた。
「もう大丈夫だからな!」
タツミのブレイクフィアーで、人々はようやく動けるようになる。
(船をなんとか脱出させるためにはレアータを倒す事が必要だが、凍えている船の連中を放っておいたら冷気のせいで生存者が誰も居なくなりかねねえ)
だからこそ、二手に分かれた。生存者を少しでも取りこぼさないように。
ぎりぎりの戦いだ。
「こちらへ」
無量は生存者を集めて毛布を渡す。救急箱を脇に置き手当てを施す。
無量は、携行してきた強壮丸を取り出した。
「噛まずに飲んで下さい。噛むと気をやってそのまま凍死します」
「う……」
その間に、タツミは魔力コンロで湯を沸かす。
「これでも食べてくれよな」
出されたのは、湯気立ちのぼる暖かい蕎麦だ。
「ありがてぇ……、さっきのべっぴんさんは?」
「外だ」
無量は、ゆっくり一呼吸した。地面を蹴り、飛翔する。
ここだ。線が見える。そこをなぞるだけの作業。
帆がゆっくりと倒れた。ふわりと着地した無量は、帆を支える。
切り落とした帆を救助者に被せ、天幕を張る。冷気はずいぶんとマシになった。
「良いですか、身体を寄せ合って温度を確保してください。動けるようになった方は死ぬ気で此処を脱出出来る様動いて下さい」
「氷は俺達が何とかするから船を動かせるように体力を温存してくれ」
「ああ、ありがとう……」
行くのか?
聞こうとして、船員たちは迷った。死にに行くのか、と問うようだった。なあ、ここで待たないのか?
いや、喉から出かかった言葉を押さえる。彼らなら……。
無量は再び空を蹴った。
「よし、行くか」
二人は戦場へと舞い戻った。
●激戦の最中
追いつけない。
レアータは氷でできた翼をたたむ。
ラルフの反応速度は、群を抜いている。真似しても、無理だ。
ラルフの動きには無駄がない。あるとするならば、それはわざと作られた隙に過ぎない。すべての行動が最適化されているかのようだ。
それもまた美しいと、レアータは思った。
ラルフのクァドラス・ハンドが、主の操作に応える。錬金紅鎖がレアータを捕らえた。
どこに攻撃を当てるのが、最も相手に致命傷を与えるか。ラルフには見えている。……幾重にも編まれた術式。
それが、レアータを捕らえていた。
「一生懸命練習してもご覧の有様だ、弱き心根で幾ら練習しても誰の心に響かん」
図星だった。
かっと頬があつくなる。
(彼女の反転の根源にはエルスさんへの憧れ……)
アルテミアは慎重に相手の出方をうかがい、前線に立ち続けていた。レアータの攻撃を、逸らして受ける。
スティアの月虹が、優しく光った。優しい光、音色。刻みこむような、美しき高い声。
レアータも真似をして、傷をふさごうとする。けれど、似て非なるものでしかない。
どうして、できるの?
レアータは焦がれる。
不意に、演奏が止んだ。
ねえ、続きは?
激しい攻撃をかわしながら……レアータは縋るような気持ちでカタラァナを見た。カタラァナは、首を僅かにかしげる。
「まだまだ僕は、引き出しあるよ」
当然じゃないか、と言うように。
フィル・ハー・マジックの魔力の幻影が、パターンを変える。
「歌も聞いてね。こんどは僕の。歌だけなら僕は、ちょっとしたものだよ?」
きい ぱた ぱったん いとつむぎ
ぱた ぱた かららん いとをつぎ
ほどいて みたらば もういっかい♪
ああ。
それは、歌。
歌であることを放棄した歌。
莫大な声量。声の“波”を圧縮し放たれる波濤魔術の一つの到達点。天性のものか、努力のたまものか。ここまでの到達点に至る道筋が見えない。
あまりに、高い。
これが、できれば。これが。……私のものになれば!
レアータは歌う。歌おうとする。カタラァナを真似て。もういっかい。もういっかい。カタラァナは旋律に、アレンジをくわえていく。
音が、ねじれて調和する。
追いつけない。
「っと、サポートよろしく」
「まかせて!」
スティアがカタラァナの前に立った。
そして、デイジーが。リズムに合わせてゆらりと揺れた。
「っ!」
デイジーのシャロウグレイヴが、レアータの声を削った。どこまでも絡みついて行動を阻害する、魔術。
レアータであっても、逃れられないものだった。
……。
「気付いていないのですね」
シャン、と、かすかな音は、不思議と銀世界に大きく響いた。
無量の錫杖の音。
一刀両断【絶】。正確無比に、一刀を振るう。澄んでいる。何時如何なる時も刃を曇らせず、鈍らせず。磨き上げてきた技。
「っ……!」
姿勢を崩し、立ち上がろうとするレアータの隣を、すさまじいエネルギーが駆け抜けていった。
「待たせたな!」
タツミのドラゴンキャノンだ。血液を燃焼させるが如く全身に力を溜める拳の構え。氷が、揺らぐ。冬が終わろうとしている。
レアータは、タツミを模倣した。痛いほどに冷えた冷気を、ためる。しかし、……一手、足りない。これでは、同じにならない。
「来るぞ」
どうして、とつぶやく。
「ヴィンシュタインさんは教えて下さいました、彼女を救いたいと。私は誓いました、其れを叶えると」
無量はまっすぐに刃を向けた。
「彼女はレアータさんにきっと歌を届けるでしょう。ならば私は、私のやり方で幕を下ろさせて見せましょう」
●クライマックス
ラルフはあえてレアータの攻撃を受けた。
カウンターを狙って、喉を狙う。レアータは絶叫した。
カタラァナの声に合わせて、スティアが旋律を引き取った。
天使の歌はまだ響いている。清らかな、柔らかな歌。
レアータが息を吸う。その動作に合わせて、アルテミアはステップを踏み出し、回り込んだ。アルテミアの業火剣乱が。炎を纏わせた剣が、美しく閃いた。
アーリーデイズ。在りし日の、最高の一撃を!
氷の鎧で身を固めるレアータの氷ごと、アルテミアは両断する。鎧がはがされていく。
そして、続けて。
「全力で行かせて頂きます」
無量の攻撃は、人には見えなかった。細腕で振るっているのに、瞬きをする間程度の一刻、其処に確かに鬼は居た。
美しい。
強さとは、美しい。
「いくぞ!」
タツミは構え、素早くドラゴンキャノンを解き放つ。
これが、できない。
(美しく……)
Erstineの動きは、魅せるためのもの。Erstineの歌は、誰かに聞かせるためのもの。
それは、レアータへの語りかけだった。
レアータへの歌。
Erstineの砂旋が、辺りを焼き尽くす。これは、ここまでの技は、知らない。レアータは目を見開いた。
やっぱり、Erstine様は、すごい。
旋風のように荒れ狂うその嵐。熱情を、レアータは知らない。
すごいよ。
この熱が欲しい。
「あなたの声も、聞こえているわ」
驚くべきことに、Erstineは、メモを持っていた。自分の字。
届いていたのだ。
誰にも出していない、ファンレターは届いていたのだ。
叫びのような、声はたしかに届いていたのだ。
レアータの目に、偶像ではないErstineが、像を結ぶ。
……大好き。
レアータの目を一筋の涙が伝う。
この期待に応えたい、刃を振るう。自らの砂旋が、イレギュラーズたちを焼き、同時に氷にヒビを入れた。
「負けない……!」
スティアが攻撃を庇った。
「君は立て、君だけは最後まで観客をせねば」
ラルフはErstineを庇った。
Erstineは、応えて戦場に立ちつづけている。
歌うことを、やめない。
「憧れは素敵な感情だね。でも、マネだけじゃだめだよ」
カタラァナは言う。
「模倣は伝承だけど、それを自分のものにしたいなら……同じになりたいなら、先ずは“超え”なきゃ」
ああ、レアータは強くなりたいと思った。立ちたい。越えたいと……おこがましくも!
デイジーの誘う青き月が、ステージの姿を三度変える。
悠久のアナセマが、レアータを呪う。
●幕引き
「私にもね、憧れている方がいるの……」
Erstineはレアータに向き合っていた。ごまかしではなかった。全力をぶつけて、レアータと相対していた。
この戦いに終わりが近いのを、レアータは感じ取っていた。
(いや……)
まだ、まだ立っていたい。一緒に。ともに。このステージに。
世界が終わっても。
「私はその方の為に上を目指し……日々精進してる。あなたも私も一緒よ……共にステージにも立ってみたかった……!」
いかないで。
レアータは後ろを振り向いた。終わってしまう。もっと一緒にいたい……!
ラルフの錬金紅鎖が、カタラァナの移動を阻んだ。
「っ……!」
「君は彼女ではないしなれない、君の良さを活かせば誰かの耳に目に残ったろうに」
アルテミアが射線に躍り出る。業火剣乱が舞い飛び、氷を溶かしていく。
もはや、支えきれない。亀裂が次第に大きくなる。
不意に、カタラァナは歌うのをやめた。
掻き抱くブライニクル。
歌ならぬ魔術。息が、呼吸の一つ一つ。あれほどステージで魅せておきながら、予想を遥かに裏切り、期待に応える。この技は「歌」ではない。
魔力を捻じ込む分子振動。レアータは、凍り付いたように動けない。
どうやっているのか、見当もつかない。
「そうはさせない!」
タツミがショウ・ザ・インパクトを放った。まっすぐな一撃が、レアータを吹き飛ばす。
「三千世界この世の全てに、白き帳が下りたかの様な氷の情景、これを私は『美しい』と、思います」
無量の言葉に、レアータは目を細めた。
「レアータさん、貴女が作った世界ですよ。そして私は、その帳に紅を差させて頂きます」
氷のステージ。いびつだが、確かに美しい光景だった。
一撃。
終わらないパフォーマンスはない。うすうす、わかっていたことではある。
「潮時かの」
デイジーが指を鳴らした。リトルリトル写本がぱらぱらとひとりでに捲れてゆく。
小さな体躯にどうして、これほどの存在感があるのだろう。これが生まれ持ったカリスマなのか。どうしても見てしまう。
「……どんなことがあったかは察するが、本当に変わりたかった姿はそんなじゃないだろうに。
もうこれ以上、あんたの憧れたあの人から遠ざからせてたまるかよ!」
タツミの声は、レアータに届いていただろうか。
レアータは叫んだ。
氷が割れる。レアータは飲みこまれていく。
沈みこんでゆく。
まるで幻のように、氷が溶けてゆく。船を楔から解放する。
船が氷を砕いてゆく。
レアータの歌は、か細くなり、海の底へと沈んでゆく。
退けたのだ。
「今のうちに、引き返すとしよう」
生存者、7名。
魔種と相対し、船が沈んだ。絶望的な状況の中で、この報告がしめやかに行われた。意味は、大きい。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
HARD依頼! ガンガン行こうぜ!
レアータは、美しいパフォーマンスとステージに魅せられ、「同じになりたい」から「超えたい」と願うようになりました。反転している以上、どうしても敵となるしかありませんが……。成長といえるのかもしれません。
イレギュラーズのみなさんが、魔種の行動に寄り添い、真剣に向き合った結果なので、これは良いものであると確信しています。
MVPは、レアータの気をいっそう引いた、カタラァナさんのパフォーマンスに捧げます。
ご縁がありましたら、また一緒に歌ったり、戦ったりしましょうね!
GMコメント
●目標
HARDです!
目的は、海で立ち往生している補給船団の救出。
そのためには、レアータ・バハルと交戦する必要があるでしょう。レアータに勝負を挑み、手傷を負わせれば……あるいは、レアータの気を引き、時間さえ稼げれば……。船は脱出できるはずです。
現時点での完全な討伐は困難で、かなりの危険を伴います。お気を付けを! そして、ご武運を……。
●状況
・船がレアータの海域。氷雪に閉じ込められる。3隻あったがうち、2隻が大破。
1隻がなんとかエリアの端で生き残っているが、氷に阻まれて逃げられない状況にある。
開始地点で、生存者は7名。船で凍えている。他に生存者はいない。
レアータはいまのところ生存者には興味がないようだが、レアータを倒さなければ、船は動かせない。
レアータの気を引き、時間を稼げれば船は脱出できるだろう。あるいは手傷を負わせれば、多少気温が上がり、氷は薄くなるはずだ。
プレイング次第で、脱出までの時間は増減する。
●レアータ・バハル
外見年齢は18歳。リュウグウノツカイの海種。
雑誌モデル、とくにErstineに憧れていた少女。
「Erstine様」への憧れも、今や歪んだものとなっている……。
攻撃手段も防御手段も無限に生成される氷。
イレギュラーズの武器や攻撃など、「美しい」「強い」「こうなりたい」と思うものをやみくもに、いびつに模倣する。技を真似ることはできても、本当の意味で会得することはできない。
レアータは美しいものに興味を寄せる。武骨な戦艦などではなく。
レアータは一人、大海原に浮かんだ氷の上で、練習をしている。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
※とくにひっかけはありませんが、かなり不安定な状況です。ご注意ください。
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