PandoraPartyProject

シナリオ詳細

活動弁士と星屑キネマ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●劇場ではお静かに?
 キリキリキリ。
 映写技師がレバーを回せば、身体に血が巡るようにフィルムが映写機の中を流れる。

 スクリーンに生命が灯る。

 映し出されたのはモノクロの映像。
 楽士がテテン♪ と軽快にお琴を弾いて盛り上げて、『マネキ屑星』と白抜きの文字が躍り出た。
「さぁさ、皆さまご注目! 今宵ご覧戴きますのはハンケチなしには語れない、涙ナミダの物語」
 流れる映像。その隣で男が饒舌に語り出す。
 まだ映像技術が今の練達ほど発展していない時代、動画に音を付ける事が叶わなかった頃。
 スクリーンの横には映像の解説者が立っていた。
 後にナレーションや声優の原点とも言われるようになった存在――それが彼ら、活動弁士である。

「満点の夜空から、汽笛の音がポッポーと響き渡ります。
 流れ星のレールをつたって空を行き、機関車が辿り着いたのは……地上の寂れた無人駅。駅員はおらねど、そこには、ほぅらご注目!」
 活動弁士がスクリーンを示し、ぴたり、とそこで喋りが止まる。
「……」
 台本をちらと盗み見ても次の言葉が見当たらない。
 活動弁士の異変を感じ取り、映写技師がフィルムを再生する手を止めた。BGMを奏でていた楽士達も心配そうにスクリーンの方を舞台袖から覗き込む。
「おい、やっぱり見えないのか?」
「……すまねぇ。もう一回やらせてくれ」
「見えないのかって聞いてんだよ、ド阿呆」
 額を小突かれ、活動弁士は仲間が心配そうにこちらを見ている事にようやく気づいた。

「あぁ。見えない。映像も台本も、登場人物の部分だけ……塗りつぶされたみたいに真っ黒だ!」

 彼の映画にかける情熱は、この映画館のスタッフなら誰もが知っている。
 とても冗談で周りに迷惑をかけるような人間ではない。だから一層、劇場には重い空気が漂った。
「活動弁士は映画の花形、スターみたいなもんだ。お前が弁舌をふるえなきゃ、この映画館はおしまいだよ」

 星空に輝く一等星になれなくたって、星屑でも――この映画館を輝かせるくらいの活動弁士になれたなら。
 そう誓ってこれまで仕事を続けてきた。それもいよいよ終わっちまうのか。
 ぎゅ、と活動弁士が悔し気に拳を握り、無人のはずの観客席を見上げて――。
「あっ」
「えっ?」
 ポップコーンを頬張りながら、いつの間にか中央の方の座席でくつろいでいる不審な男と目が合った。

●特異運命座標と星屑キネマ
「――って訳でさ。リハーサル中に勝手に入った件はしこたま怒られたんだけど、活動弁士さんをほっとけなくて」
 空になったポップコーンの箱をひっくり返しながら、『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)は集まった特異運命座標へ事のあらましを伝えていた。
「君達にはその無声映画『星屑キネマ』って作品が上映し終わるまで、活動弁士さんのサポートをしてもらいたいんだ。
 最初から音の付いてる映画と違って、活動弁士がついてる映画は、観客からのヤジや声援も作品のうちとされているからねぇ。おかげで君達は、放映中も声を出して直接フォローが出来るってワケさ」
 やってくれるよね? なんて、食べカスを頬につけたまま蒼矢は笑う。
 こうして特異運命座標が活動弁士と紡ぐ、新しい映画の幕が上がった。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯!ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 大正末期の日本を舞台にしたLNに挑戦してみたのですが、無声映画(サイレント映画)に解説役がいるのは、世界でも珍しい文化なのだそうです。日本すごい!

●目的
 活動弁士をフォローして、映画を最後まで上映しきる。
●場所
《ハイカラ・キネマ》という本の中の異世界です。
 大正末期の日本のような場所で、文化レベルもそれに準じています。
 今回の事件は街の中にある映画館『極彩堂』の中で起きています。

● 映画の内容
 大きく4つのシーンに分かれているそうです。

1.ホームに立っている●●●と■■■。夜空から降りてきた汽車に乗る。
2.車両の中で何か話し合う●●●と■■■。
3.たどり着いた先は雲の上。流れ星の雨が降る中、過ごす●●●と■■■。
4.帰りの汽車に乗る●●●。雲の上で見送る■■■。

 このようにメインの登場人物2人(?)の姿が活動弁士には見えなくなっており、
 名前はおろか姿さえも把握できない状態です。
 おまけに全く見えないせいで、2人がどういうやり取りをして、どういう理由で別れたのかなどが全く分からないのだとか。

●登場人物
 活動弁士(活弁)
  無声映画が映し出されているスクリーンの横に立って、その場でアフレコしたり状況を説明する語り役です。現代でいうナレーション、声優に近い職業かもしれません。やる気に満ちた熱血の青年です。

 映写技師
  この映画館の最古参。口は悪いが気のいいおっちゃんです。映写機のメンテナンスや放映中の稼働を担当しています。

 楽士達
  無声映画の裏で様々な楽器をつかってBGMを生演奏している人たちです。10代半ばの女の子4人ほど。姉妹のように仲良しです。

『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
 怠惰な境界案内人。視察という大義名分を得て、映画を見ながらサボれる!……と思ってこの異世界に遊びに行った結果、見事に巻き込まれてきてしまいました。
 サポート役として、特異運命座標に頼まれた雑務はやってくれます。

●その他
 登場人物の名前や設定、4つの段階での展開は話し合いで決めるとつじつまが合うかもしれません。
 各個人でバラバラのストーリーをプレイングでご提出いただいた場合は、NMの方で選んで描写させていただきます。

 それでは、よい旅路を!

  • 活動弁士と星屑キネマ完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月03日 22時40分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
ビヴラ・スキアレイネ(p3p007884)
異端審問少女

リプレイ

●モノクロの世界へ
 舞台袖から調律の音が響く。楽士達の仕事ぶりを耳で追いつつ、『異端審問☆少女』ビヴラ・スキアレイネ(p3p007884) はぽつりと呟いた。
「無声映画……興味深い文化だわ。こんなものがある世界があるなんて」
 関心こそあるものの、今回は仕事で来ているのだ。それどころではないと真面目な表情で舞台上を見つめるのだったが、その隣の座す仲間はというと。
「……ポップコーン、私にも貰えるかなぁ、美味しそう」
 サクサク、パリ。と境界案内人が持ってきていたポップコーンをつまんでいた。『宝飾眼の執行人』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は今日も今日とて、へらりと笑う。
「まぁ! シキったら、あなた呑気なのね」
「楽しみながらフォローしようと思ってね。無声映画、初めて見るよ。他の世界にはこんな娯楽があるんだな
 でも映像が見えないとは弁士さんも大変だねぇ」
 話を向けられた肝心の弁士はというと、心配そうに特異運命座標を見ていた。紹介元が謎の侵入者という事もあるが……こんな状態で客を入れて良かったのかという不安の方が強そうだ。まばらだが、すでに劇場の中には客の姿がちらほらと。
 弁士の緊張を見て取りながら「それにしても、」と『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は腕を組む。
「彼にだけは見えない、ね。
 呪術的作用が働いている様には見えないけども。」
 そもそも魔術的な事象がこの世界にあるのかも怪しい。だとすれば、考えうる原因は限られて来るのだが。
「まぁ、仕事はやるよ」
 割り切ったような彼とは逆に、親身になって考えている者もいる。
「絵を見て語るのが仕事なのニ、その絵が見えないんじゃなア」
 物語と切っても切れない生活を続ける『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)にとって、それは他人事ならざる話だ。声音は静かでありながらも、勇気づけるように弁士へ微笑みかける。
「……けど、登場人物の姿が見えない、何を話してるかもわからない、ということは。その分、自由に解釈する余地があるということだ」

――嗚呼、幕が上がる。こうなれば、もう足掻かずにはいられない!

「さぁさ、皆さまご注目!」
 得意の口上で滑り出しは順調に。饒舌に語る弁士の様子が変わったのは練習の時と同じシーン。
 やはり駄目かと映写室から溜息が漏れた――その時。

「焦らずにいつも通り喋ればいい」
 と観客席から大地の涼やかな声が響く。
「……そうだ、例えばこんな筋書きを頭に浮かべてみてはどうだろう?」

 楽士の奏でる旋律が一気に華やかさを帯びる。賑わう人の声。伝わる活気。
「これは――そうか、祭りか!」

●旋律輝く星祭り
 年に一度の星祭りの夜、ある時間に駅に行けば、一生に一度だけ乗ることができる、星空を渡る汽車がやってくる。
 そんな噂話が、僕達の住む街には囁かれていた。
 それはいつからだろう?
 つい最近になって聞いた気がするし、僕達が子供のころから、皆知っていた気がするし。
 おじいちゃんおばあちゃんも、その話を聞いたことがある、って言ってた気がする。

 とにかく、君に誘われて、二人静かに星祭りを抜け出して、たどり着いた駅に、その汽車はやってきた。
 しんとしたホーム、最初はやっぱり噂話に過ぎなかったんだ、と笑おうと思ったけど、
 ガタン、ゴトン、と遠くから聞こえる音の正体に目を向けた僕達は、目を見開いた。

 それは夜空の星の輝きを受けて鈍く輝く、真黒な汽車だった。
 汽笛と共に高鳴る胸に誘われるままに、僕達はそれに乗り込んだ。

「星祭りの夜にやってくる汽車に乗った者は、願い星に祝福される」

 その夢のような噂話を、一心に信じて。

●真摯な少女と子鼠と。
(見える……映像は塗りつぶされちまってるのに、この”物語"が!)
 大地が紡ぐ物語は楽士の音楽と絡みあい、新たな物語を創り出した。流れる映像と異なる話にどよめく観客席も、いつの間にかその世界に引き込まれ。掴みは上々、席を立つ者は誰もおらず、次の話を待っている。
 そんな中で、新たな紡ぎ手は弁士の足元からちょろりとやって来た。ビヴラが寄越した小さい鼠のファミリアーだ。
「そのまま弁士さんの顔色を窺って、ちゃんと伝わってるか見ておくのよ」
 いくわよ、と彼女が小さく息を吸う。

 車両の中で語り合う二人。窓の外を見れば汽車はホームから空に浮かび上がるところだ。

「すごい、本当に空を飛んでいるわ!」
「本当に星になれるかもしれない!」

 二人ははしゃぎながら小さくなる街の夜景を指差したりしている。
 少女も、少年も、やいのやいのと話しているうちに列車は雲の中。
 暗くなり、外も何も見えなくなると二人は椅子に座り直す。
 暫く、音だけが響いたあとに不意に少女は口を開いた。

「星になるのは夢だったの。でも、いまはこわいわ」
「どうして? 星になるのは夢だったんじゃあないの?」
「星になったらパパにもママにも会えなくなるかもしれない。産まれたばかりの妹も、まだ私の名前すら覚えていないわ」

 少女は不安を喋る。少年はそれを聞く。
 そのうちに列車は雲を抜け、窓の外には流星群。少年はなあ見てみろ、と指差す。

「こんなのみたのは、きっと、この列車に乗ったやつだけだ」
「父さんも母さんも、誰も見たことがないはず!」

 そうこうしているうちに汽車は止まり、ドアが開く。

「取りあえず外、出てみよう!」

 少年は少女の手を掴んで車両の外へ。

●永久の輝きへの陶酔
「……こんな感じかしら?」
 弁士と息を合わせて物語を紡いだビヴラに拍手が起こる。座席の方へ戻って来たファミリアーはというと、ひと働きの報酬にシキからポップコーンを貰って満足げだった。
 次の紡ぎ手は誰だろう? 観客たちが期待に胸躍らせる中、カッ! と舞台ではなく観客席にスポットライトが当たった。何故って?
「喜びなよ。ボクのような美少年がフォローしたとなれば大成功間違いなしだ」
 それが例え外野からの物であっても、美少年が語るならば華やかさはつきものである。
 劇場で最も美しい語り手セレマが、弁士をリードし紡ぎ出す――。

 2人は息をのんだ。
 遠い遠い、夜の果てまで落ちていく流れ星が、
 闇という闇を、不安という不安を振り払いながら巡っていく。
 それを見上げ、安心と感動に打ち据えられた人々は誰もがこう口にする。

『私達にはあの星があるからなにも恐れることはない』
『星がある限り私たちは道を見失わずに済む』
『嗚呼、私もあのような素晴らしい星になれたなら』

 そこは誰もが思いを馳せる場所。
 そして誰もが手を伸ばそうと望む場所。
 純粋な願いを持った人々が星の輝きとなり、この世のあらゆる羨望を受けて、昏い夜を照らす世界。

 瞬き零れる星たちは2人を歓迎する。
 新しい仲間に、その願いの純粋さと尊さに、またひとつ夜を埋める星に。

 さぁ、一緒にこの世界の果てまで照らしていこう。

 いままでにないほど近くで見た星の輝きに圧倒される2人。
 自分は星になるに相応しい人間だという事実に陶酔する少年。
 ここから先へ踏み出せば無数の星々の仲間として、世界を照らすことができる。
 なんて名誉なことだろうか。

「でも」

 誰かがそう零した。

●目覚めの時
 堂々と語る美少年と、それに負けじと食らいつく弁士。優雅な言葉の応酬に観客は息をのむばかりだったが、語り合うセレマは弁士の変化に気付いていた。彼の顔が青ざめている。
(――やっぱりね)
 見えない映像。その理由がこの世界特有のルールでなければ、心因性のものではないか。
(後者であるなら直視を避け、目をそらしていたようなストーリーだったということになるけど)
 最後まで弁士が語れるかは、最後の一人にかかっている。
「シキ、後は頼んだよ」
 最初の紡ぎ手だった大地から、バトンを託すように後押しされて。
「君たちが紡いでくれた物語を、半端に終わらせやしないさ」
 応えるシキの瞳は、劇場内の暗い場所でもキラリと宝石のような力強さと神秘的な匂いをもって輝いた。
(私が摘み取った物語の分だけ、守りたいのさ。誰かの物語を)

 星になるということは世界を照らす光明となるということ。
 即ち、永遠に空に棲まうということ。
 もう二度と、地上へは帰れない。
 空で過ごす永遠はどれほど長い時間だろう。

 少女はそう考えてしまった。
「私は帰るわ」

 シキの台詞が弁士の胸に突き刺さる。
 彼はこの物語に、いつの間にか重ねていた。エンタメで食っていける世の中ではないからと、田舎へ帰った恋人――その姿を。だからこそ誓った。
"星空に輝く一等星になれなくたって、星屑でも――この映画館を輝かせるくらいの活動弁士になれたなら"
 あの時それは弁士にとって、とても意外なことに聞こえたけれど、返した答えはひとつだけ。

「わかった。それは君の自由だ」

「少年は少女の決めたことをとやかくいうやつじゃなかったんだ。良いやつじゃないかい?」
 シキが口元を緩ませると同時、弁士の瞳から涙が零れる。まるで悪い何かを洗い流したように晴れる視界。塗りつぶされていたスクリーンの映像が弁士の目に飛び込んで来た。

 汽車がやってくる。別れの音を響かせながら。
 少女は電車に乗り込み、少年と向き合う。
 その瞳はお互い優しい。

「晴れた夜空にあなたを探すよ」
「僕も地上のきみを見守っている」

 寂しげにそう告げた。
 汽車の扉が閉まり、音を響かせて地上へ降りていく。
 星空を走るその影を少年はいつまでも見つめていた。

――拍手喝采。
 立ち上がり誰もが手を叩く中で、弁士は男泣きに泣いていた。
 嗚呼そうだ。優しい言葉を掛け合って、俺達は別れたんだ。なのにこの物語を紡ぎきらなければ、その思い出すらも忘れちまうところだった。
「ありがとう……ありがとう、特異運命座標!」
 これはハンケチなしには語れない、涙ナミダの物語。

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM