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シナリオ詳細

異界の信仰が、霊義怨(レギオン)を解放する

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ソノイノリハ、タダシイカミノイノリデハナイ」
「トウトイ」
「カミハソノヨウニハオッシャラナイ」
「イタンノトメ」
「セイナルカナ」
「ジャシュウノトメ」
「トクタカキカタ」
「フハイシクサッタダイモクヲトナエルモノメ」
「シュクフクヲ」
「カミノフクインヲリカイシナイモノメ」
「サンビヲ」
「ツゴウノイイカイシャクヲスルモノメ」
「サトリヲ」
「ホロビロ」
「フッカツヲ」
「ムクイヲウケヨ」
「ムクワレマスヨウ」

 肯定するモノ、否定するモノ、罵声を浴びせるモノ、賛美するモノ。
それらはもつれ合い絡み合い互いが互いを侵食し共有し合い、もはやかつてそれぞれが崇拝していたいかなる神の声も届かない。
 救いを求める手を別の手が薙ぎ、また別の手が聖職者を襲う。

「信じられますか。彼らは全く同じ神格をあがめていたはずなのです」
 力及ばなかった聖職者はつぶやいた。ばっくりと割れた傷を神の祝福がふさいでいく。確かに神の奇跡はある。
「偉大なる神は、彼らがそれぞれ主張するすべてを確かに内包しておいででしょう。しかし、一つ一つを肯定する過程で自己矛盾を認識する『彼ら』のままでは、彼らそれぞれが思い描く『神』に邂逅することはできないのです」
 奇跡はある。だが、彼らには届かない。

『彼ら』――多数にして一。一にして多数。

 とある次元では、個を失うほど大量な霊の集まりが自分たちを指してこう言ったという。

「我らはレギオン(軍団)である」


「鎮魂のお祈りをしてほしいんだよねー」
 『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、指についた砂糖をなめている。
「場所はとある異端審問機関跡地。異端押された人たちがまさかの一斉蜂起。異端審問官との激しい激突の上炎上。喧嘩両成敗」
 神の手は平等であった。いやな意味で。
「吹きだまってるんだ。亡者が。鎮魂のために聖職者が定期的に儀式するんだけど、誰かの信仰は誰かの異端。鎮魂しかけたのがまた異端と戦い始めて、元の木阿弥。焼け石に水というか対症療法というか事態の解決に繋がらないというかこのままほっといたら雪だるまじゃね? というか」
 で、お鉢がイレギュラーズに回ってきましたよ。と、メクレオは言う。
「居座り続ける霊魂とのふれあいナイトをしてきてくれませんかね。別に夜でなくてもいいんだけど」
 触れ合ったら、速攻昇天していただく方向で一つ。軽口に聞こえるが、メクレオが本気で言っているのは雰囲気で分かった。
「もちろんあれだよ。全部鎮魂させろって言ってるんじゃないよ。みんなに行ってもらうのは一番霊の障りがひっどい場所」
 要するに衝突の現場だ。どす黒く変色したレンガ。その真ん中に底が見えないほど深く深く掘られた審理の泉。異端は浮くもの。沈んだら、その者のの名誉を回復し、浮いたら魔女なので沈める。どっちにしろ死ぬ。積み重なった骨で水は浅くなるはずなのに底は見えない。
「燃え盛る炎から逃れるため、裁く審問官も蜂起した異端も居合わせた敬虔な信徒も、誰もかれもが水に逃げようとした。深いだけでいっぺんに五人も入れる広さじゃないのにな。そこにどんどん飛び込んでいったんだよ」
 焼け死にたくないから水に入る。そうすると後から来た奴に踏みつけられて溺れて死ぬ。
 溺死と焼死と圧死。死にたくないから他人を貶めるのはいかなる宗教なら是とされるのか。
 どこかの世界にそんな呪術があった。
 壺の中に大量の同種の生き物を入れて殺し合わせてできた怨念で呪を作る。
 誰もそんなことを望んではいなかった。それぞれの信仰において良かれと行動したのに、世界には呪いの霊団が残された。
「念がガッチガチに凝り固まってるのを、異界由来のお祈りパワーで割り崩してほぐして個人にしてもらってその場から放逐する。そうすると跡地周辺に待機してる各宗派の聖職者さんがそれぞれが行くべきあの世に送ってくれる算段になってます」
 しがらみのない部外者がまずブレイクスルーする。色々微妙の地域に派遣される外人部隊みたいなもんだ。禍根がない分通りやすそう。
「という訳で、異界の神への祈りで場を満たし、古い泉に詰まったレギオンを引きずり出して砕くお仕事。概念的に」

GMコメント

 田奈です。
 聖職者の皆さん、お仕事ですよー。
 日頃短縮詠唱している神聖呪文、がっつり詠唱しちゃってくださ~い。

● 宗教施設跡地・半地下
 瓦解したすり鉢状の観覧席の中央に、かつて「裁きの泉」と呼ばれた直径3メートルの穴が開いています。今は水は干上がっています。底が分からないほど深いです。飛行能力がない場合、落ちたら終わりだと思ってください。天井は20メートル超。全体の空間は直径16メートルの円状です。
 石造りですが、一度燃えていますし、長期間手入れがされていませんので経年劣化でもろくなっています。

●霊団「霊義怨(レギオン)」×1
 一つの宗教の中の異なる宗派が様々な必然と偶然を経て殺し合ってできた存在。意図せず蟲毒状態になっています。
 彼らの理解の範疇にない異界の神への信仰で呪いを少しづつ削り取ろうという作戦です。
*直接的な攻撃はほとんど効果がありません。神仏のご加護があればその限りではありません。
*聖職者さんの祈りがものを言います。みなさんの神に対する思いの丈をぶちまけて下さい。癒しの呪文も攻撃呪文も等しくレギオンの開放に効果があります。癒しの呪文をレギオンにぶつけても元の木阿弥になったりしませんのでご安心ください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 異界の信仰が、霊義怨(レギオン)を解放する完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月06日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
シモン・ヨハネス・タイラー(p3p006371)
不良神父
ハルモニア(p3p007890)
墓守姫
アスタ・ラ・ビスタ(p3p007893)
星の砂を望む

リプレイ


『不良神父』シモン・ヨハネス・タイラー(p3p006371)の定義から行くと、 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)の「海」は大分神だ。
「わたしは、神様なんてもの、召喚されるまでは、考えたこともなかったですけれど」
 環境が思考を作る。
「でも、今、思い返したならば……わたしは、ずっと、神様を信じて、神様と一緒にいましたの……『海』という名の」
 シモンにとって信仰とは、何らかの形で民のためになるもので無ければならない。
 海は、神の条件を満たしている。有機システムとして。
「海は、何も語ってくれず、ただ“在る”だけですから、わたしも、言葉に出して祈ることは、しませんの……その代わり、わたしも、“在りかた”で示してみせますの」
 そう言ってほほ笑む少女のような人魚に、神父は頷いた。
「……俺は異界の神への信仰など持ち合わせてはいませんが……異端というだけなら、中々であると自負している」
 たくさんの人がお前の信仰は間違っている。神とはそういうものではないという。
 そういう奴らの、神あるいは信仰が、間違っていないという保証は誰がしてくれるのだろう。
「神、いつだって不快な言葉だ。顕れれば傲慢に振るまい、居ない時は下衆共の建前となる」
『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)に言わせると、どこぞの因業極まりなく思える。
「……良い天も認めない訳では無いが」
 誰かの何かを認めることができる者はそう付け加えた。がんばってる奴もいる。
 だが、誰かにとっての美点は誰にでも美点とは限らない。
「神様と言うものを僕は理解していないが、成る程仕事のためだと用意はしてきた。万全だ、神を尊ぼうではないか」
『葬列』アスタ・ラ・ビスタ(p3p007893)にかかれば、信仰は国際プロトコルのごとく学ぶものになる。
「様々な宗教はカバー済みだ。うん、今の僕は理解しているぞ。神様へと祈りを捧げれば体の調子はよくなる、背は高くなるし、敵も弱くなるんだ」
 断言するアスタに、大地はそうのならいいよね。と言った。
「神様になんて、受験の時にしか祈ったことがないな……俺の住んでた国じゃあ、余程熱心な人じゃなきゃあ、大概皆そんなもんだったけど」
 自分の力だけではどうしようもないことをどうにかしたいとき、ようやく神のことを思い出すくらいの距離。
『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)はそんな世界に生きていた。
「もっとも。今は、そんなの全く信じちゃいないけどな」
 だから、存在から否定されることもある。
「……本当にいるなら、あの日、俺の首が落ちることなんてなかったろ」
 願いをかなえてくれないなら、神様なんていない。
「全く同じものでも、解釈の違いによって違うものと認識してしまう。現実としてよくあることではあるが、それがこのような悲劇を引き起こすとはな」
 『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)にとって、神にゆらぎはない。違うものに見えるのは見る者の資質に相違があるためなのだ。
「異界の神ならば混沌の人間には解釈しようがないだろうから、私の祈りが阻まれる事はないだろう」
「オレが訪ねたある世界でのクソ野郎の話をしよう」
少女の義体を肉鞘にした『時空を渡る辻斬り刀』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)と名乗る刀が言う。
「ある世界に、自身を神と呼称する大馬鹿者がいた。実際彼は世界を作った神様の転生だが、彼以外を異端とし排斥する宗教によって大きな過ちを犯し、邪神となって世界を滅ぼしかけた」
 彼は改心して折れかけた紫電を助けたという。
「やれやれ、これだから宗教関連の面倒事はロクなことにならない」
 捨てる神あらば拾う神ありという。神は一つではない。それもまた火種の元。
  『墓守姫』ハルモニア(p3p007890)は晴れやかに笑った。
「神への信仰が霊を鎮める、ならば、神への賛辞もまた然り、よな?」
 生きながら死んでいるお姫様は、死者の上に君臨する。
「つまるところ、わらわが神となり、わらわを崇め奉れば万事解決よな?」
 死の原因になる程の、殺戮の理由になる信仰を蹴り飛ばし、その位置に自分を据える。死者はどの世界で生きていてどの世界で死のうが同じなのだ。ハルモニアのいとおしい民なのだ。


 かつて見せしめの舞台でもあったという。すり鉢状に配された信者席。崩れ落ちた貴賓席から一番よく見える舞台の中央に裁きの泉があった。
「……邪気と怨嗟、未練、その他諸々の負の感情をまるで闇鍋のようにごった煮にしたような。そこにいるだけで生気が吸われそうになる」
 すでに抜き放たれた紫電。不機嫌そうに鍔鳴りがする。
 ワインの栓だってもう少し余裕がある。枯れ果てた泉にぎっちり詰まった念積体が口々に別のことを言いながら互いを攻撃し合って結局一つなのだ。
 今、この場では、神の名の元に死んでいった者たち――霊義怨。
 実際、中に引きずり込まれた聖職者が幾人もいるという。
 うぞるうぞりとそれはうごめく。かつてはヒトであったものが固まるのだ。形はなくとも魂は混ざらない。肉体を失っても溶け合うことはできない。一つの一つではなく一つのたくさんにしかなれない。中から聞こえてくるのは風の音ではない。
「人が何を信仰しようが、俺はそれ自体を否定しない。それを否定するのも奪うのも、俺の本意じゃない――だけど、この状況は看過できないな」
 片手に本を。片手に羽ペンを。大地によって白紙の上に書き込まれる術式が保護結界を展開させる。崩落した観客席の下敷きになるのは切ない。
「オレはただの辻斬りの刀で、聖職者ではないし、そもそも物理的攻撃による撃滅が専門だ。ましてや神仏の加護とは縁がないし、普通に考えれば相性最悪だが……」
 紫電は、少女型の義体に強く己を握らせた。
「黒く染まった彼らに永遠の安息が訪れるように、祈る。それしかできない」
 異端者と自分めがけて飛んでくる魂を斬り飛ばす。どこかいいところに行けるように。外に行けば、導いてくれる奴らが待っているから。イレギュラーズの仕事はこの塊から魂を引きはがして個に戻すことだ。
「確かにお前達の存在は誰かの救いになるやも知れない。人は信じられる物が無ければ容易く崩れる」
 ラルフは秘薬の助けを借りて泉の中に突入する。濃密な圧力。胃袋をつかみ絞られるような重圧。皮膚の血管ははじけ、呼吸もままならない。
「また本来神の教えとは、より良い在り方を説くが本質であり、これも社会には必要だ」
 ラルフが向かい合うのは混沌に流れ着く前の世界。常日頃、怜悧な顔を見せている男の指が愛用のリボルバーの引き金にかかる。
「ここから先は、呪詛だ」
 際限なく打ち出される弾丸が霊義怨を穿つ。
「貴様の期待に応えられなかった罰で私と妻は輪廻を狂わされ、俺は何百、何億という我が子孫を殺す羽目になった!」
 神への賛美の正反対。神に向けての呪詛。自分達の領域に突っ込んで災厄を振りまき始めたラルフに霊義怨の攻撃が集中する。
 アルケミスーツを引き裂き、義手にかみつき、ラルフの血がどこともつかない底に落ちていく。
 ゲオルグがラルフの側に飛んできた。
柔和な笑みを浮かべたゲオルグは、吸い込まれそうな闇しかない足元を見て、表情を引き締めた。ここが最前線。霊義怨のただ中だ。
「今回は回復スキルでも効果があるとのことだから、私でもなんとか役に立てそうだな」
 徹底支援のホーリーメイガス。ラルフとは対極に位置する。
「先に周囲の浄化をしなければ、落ち着いて祈ることも出来ないだろうな」
 祝福の花よ。から始まる聖句は、酸鼻を極める悪霊の内部にも咲き誇るのだ。赦しと癒しを乞う祈りにゲオルグの神は応える。ラルフの傷はふさがり、異界の神に呼応した魂が霊義怨から離脱する。
 銃弾も花も平等に霊義怨を引き裂く。痛みと罰と侮蔑を救いにするもの、赦しと癒しを救いとするもの。一つのたくさんからたくさんの一つに変わる道筋が作られた。
 霊義怨がほどけていく。ラルフはそれに見向きもしない。
 攻撃すべきは、神の言いなりになった、神に似てしまっていたあの日の自分で、あの日の自分に似たこの場にいる魂なのだから。
「そのまマ、潰し合って勝手に消えてくれりゃあまだ良かったんだがナ」
 少し引っかかる要は笑い声を立てながら、大地――赤羽が舞台に立つ。
「アンタ達の言う神の教えハ、本当にこの程度のモノだったのカ? その点で言えバ、お前達は既に終わっていル。これ以上の毒をまき散らす前に、ここで消えてしまエ」
 罪を悔い、消滅を望む魂は赤羽の三食の魔弾が穿ち、霊義怨から離脱する。
「あんた達は既に終わってるんダ、静かに眠っておケ。せめテ、俺達の養分として活かしてやるヨ」
 ただ救われんとするものは、暗き穴より出でよ。
 ハルモニアは、満面の笑みを浮かべた。
「このような状態で会話ができるか不明であるが、ま、やってみる価値はあるじゃろう」
 誓いを掲げし赤い旗を打ち立てて、亡者の姫は高らかに言う。
「さぁ、聴く耳はあるか死霊ども! わらわこそが異界より舞い降りし墓守の姫である! わらわは救いの主! 貴様らの神に成り代わる救いの主! 救われたいのならば、我が名をを呼ぶがよい!」
 生きているときはいざ知らず、死せる者はハルモニアをあがめよ。
「絵にかいた餅が貴様らを救うか? 貴様らの神は貴様らを救いたもうたか? 否! 否! 否! ここに縛り付けられた貴様らがその証拠よ!」
 死せる者は、ハルモニアの故郷のように救われなくては。
「我々は常に人の命を下敷きに進んでいる」
 アスタは、葬儀屋と名乗っている。明るい先に送り出す。だから、今日の仕事は生業なのだ。アスタの刃が霊義怨を切り裂く。霊魂のうめく声。声帯を持たないデュラハーンの泣き声もまたそういう音かもしれない。
「信心深いとは言えまいが、祈る位は処刑人形にも出来る筈だ。物理技しかないが、うん、違うぞ、これは神への祈りだ」
 処刑人形の口からあふれ出る、世の古今東西、混沌にもたらされたい世界の神々の言葉。 神よ、お願いだから、優しくして。ひどいことしないで。大体みんなそんな意味だ。
「なんとなく浮かんだ言葉を並べ立てたが、これでいいのだろうか」
 無邪気な判断。処刑人形は注文に忠実。刃を振るい、祈りの言葉を添えろと言えばその通りに実行する。
「僕は、君に贈るさよならを探している、ずっと、ずっと、多分、遠いあの日から」
 新たに覚えた言葉の中に、告げるにふさわしい「さよなら」はあるだろうか。

 むしり取るように、生木を割くように、イレギュラーズは霊義怨を分割する。
 霊義怨も、イレギュラーズの血肉をえぐり、むしり取る。
 単騎突貫したラルフの傷は、ゲオルグがほぼつきっきりで治療しているが、受ける傷の方が多い。それでも、ラルフは相手に付け入る隙があるとみるや、必殺の貫手を叩き込むのだ。
 霊魂は、霊義怨の一部であることをやめて逃げ惑う。
「ややこしい規律など不要! 触れることすらかなわぬ偶像など捨て去れ! そんなものがあるから解釈違いが生まれるのだ!」
 そこに明確な救いへの導きがあった。
「ならばこそ、この名を呼べ! 救われたいのならば叫ぶがよい! 我が名はハルモニア! さぁ呼べ! 何度でも! 何度でも!」
 ハルモニアは何も望まない、戒めない。欲しがらない。ただ、自分が救うことを信じろという。
「わらわは有言実行するタイプなのじゃ」
 ハルモニアの威光は、恭順した霊魂も癒す。

 千切れて流転する魂もいる。
「もしも、裁きの泉が、海のように広ければ、たとえ命は救われなくても、魂まで救われないことなんて、なかったと思いますの」
 泉とは名ばかりの深淵に囚われて霊義怨はどこにも行けなくなっていた。
「ですから、水を泳げるわたしの責務は、かれらを、広い場所へと、導いてゆくこと。
そのためなら、わたしは――空を泳ぐことだって、できますの」
 ノリアは深淵の中を泳いだ。もっと下の方、ラルフとゲオルグに撹拌された霊魂の上澄みがノリアを目指して浮いてくる。
「深く、深く穴を潜っていって、出ることのできない怨念を、丹念に拾ってゆきますの」
 大いなるものに身を任せるノリアの姿勢は「帰依」の境地に達していた。それゆえ、霊義怨は彼女を傷つける。触れるだけで、皮膚は爆ぜ、血を流すことになる。
「HPの高さだけが、取り得のわたしは、多少、かれらに蝕まれたって、そのまま、穴の外まで、泳ぎ出てこれますの」
 ノリアは、何度も往復して、その動きで霊魂を導いた。ゆっくりと循環しながら全てを浄化する海流のように。言葉はいらなかった。

 紫電は世界を滅ぼしかけた邪神を思い浮かべた。
(……正直嫌いだし、今ここでアイツの信仰に縋るのも癪だが、この時だけは心から祈ろう)
「どうか彼らの魂が、安らぎに誘われるように」
 神だろう。なんとかしろ。世界も滅ぼせるんだ。出来ないとは言わせない。

 深淵から出で、個に戻れ。それぞれに審判が待っている。
「その神は、果たして信ずるに値するものか。その信仰は誰を救ったのか、誰がための信仰なのか?」
 民を幸せにしない何かなど、シモンにとって信仰を捧げるに値しない。
「貴方達を救う神は居ない。では誰が……否、今ここで私が救う」
 不遜な物言いを純粋な祈りと亡者への慈悲が裏打ちする。
「汝、罪ありき。何処へ逝くかは存じませんが、せめてここで現世の罪を清算していきなさい。多少はマシなところへ迎えるでしょう」
 半分建前、半分本音とシモン本人も自覚している。彼のギフトは真の大罪人のみに作用する。
「ええ。それに、償わねばならない者も混じっているでしょう。ただでは逝かせん……!」
 そもそも愚かな争いを主導したやつがいる。霊義怨の中にいるなら相応の痛みを与えよう。
 圧倒的多数は、シモンのギフトに反応せずにどこかに旅立っていった。世界はそれほど罪深くはない。ただ、誰かが方向を指し示せば安易にそちらに流れていくのだ。

「何も知らなかった私に知恵を与えてくれて有難う。憎む事を知らぬ俺に憎悪をくれて有難う、似ている存在は全て消す──死ね」
 今だ深淵にしがみついた霊義怨の醜悪な部分を練り上げた滓に臓腑をえぐられながら、ラルフは最後の一言をくれてやることに成功した。
 今度生まれてくる時は、神に惑わされることなどないように。


 廃墟の骨格が骨のようだ。
 もう、ここには何もない。ハルモニアの赤い旗に先導されて、哀れな救われるべき魂は廃墟の外に出ていった。今頃はしかるべき手段で弔われている頃だろう。幾分はハルモニアの眷属としてとどまるかもしれない。
 満身創痍だった。賛同があれば、同じだけの抵抗があった。とくに「中」にまで入り込んだ者はこの場での処置では足りない傷を負っていた。
 ノリアの半透明の尾ひれも、ざきざきにちぎれてしまっていた。担ぎ出される者を見送り、殿を願い出た。
「ノリア、それはなにかな」
 ゲオルグも自らの祈りのただ中にあったとはいえ、当然無傷では済まなかった。供の羊が足元で主の心を癒している。
 すでに枯れた泉の底。どのくらい深いのかわからないが、海の深さ程はないだろう。
「ふしぎな貝殻をひとつ、落とそうと思いますの。ここが、海の加護で満ち、二度と、悪霊たちが住み着くことの、ないように……と」
 ゲオルグは頷いて、自らも祝福の花を落とした。
 神を恨み、その存在を否定し、あるいは自ら神となり、あるいはここにはいない神を追い求め。
 それでもイレギュラーズの想いはそれほどは変わらない。
 これ以上ここに留まることはないように。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)[重傷]
我が為に

あとがき

お疲れさまでした。浄化完了。ここにはもう迷える霊魂はいません。
ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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