シナリオ詳細
限りなくどら焼きに近い何か、なんですよ
オープニング
●村にウキウキやってきた
「おーし今日はこんぐらいにしとこうや」
「やったー!」
「帰ろ帰ろ! おれ腹減ったー!」
額の汗を拭った父親の言葉に、畑の片付けを手伝っていた子供たちが諸手をあげる。土で汚れた顔は労働の終わりを知るや否や、疲れなど吹っ飛んだように笑いを浮かべた。
「母ちゃんが何作ってくれてるか、楽しみだな?」
「おれシチューとかがいい!」
「おれはもう何でもいい!」
「ははっ。何でもか!」
元気に畑を出てゆく子供たちの無邪気な姿に、思わず笑う父親。
何てことのない、ありふれた、農村の一幕だった。
――そう、珍妙な来訪者が姿を見せるまでは。
「父ちゃん……あれ何?」
「なんか変なのが近づいてくるー」
「んん?」
家までの帰り道を歩いていた子供たちが、ふと遠くを指差す。野生動物やモンスターでも村に迷いこんできたのかと父親はやや警戒した表情でその方向へ目を向けた。
しかし予想は違った。かなり斜め上の方向に。
「――!」
「――!!」
木が、何本もの樹木が歩いていた。
大人の男ぐらいの背丈はありそうな樹木たちが、縦一列に並んで、人間の脚のように太い根っこでのしのし行進しやがっていた。
「なんかすげー!」
「木が歩いてくるー!」
「ああ、そうだな」
目を輝かせる子供たちに『ハハハ、こやつめ』とばかりに笑う父親。
で。
「マンドラヤキだぁぁーーーーーーっっ!!!?」
おもっくそ、叫びました。
●マンドラヤキって何だよ
「だいたいそんな感じになっているのです!」
ローレットに集まったイレギュラーズたちの前にぴらっと依頼書をひろげながら、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が雑なシャウトを決めた。
迫真の依頼説明を受けた一同はとりあえず情報を整理する。
どうやら幻想(レガド・イルシオン)の北外れにある農村に、植物型のモンスターが現れたらしい。前日の出来事である。
それで、村民は慌ててローレットに対処を依頼したというわけだ。
「この村に現れた『マンドラヤキ』っていうモンスターは、積極的に人を襲ったりはしないので今のところ村の人たちは大丈夫です。でもその……畑に根を下ろしてしまったみたいで、それで困っているのです!!」
休耕期だったのが幸いして金銭的被害はほぼなかったらしいが、畑を使えないとなれば村の死活問題である。しかもこのマンドラヤキは根付いた地面からちゅーちゅー養分を吸ってしまうらしいので農村的にひゃくぱーアウトだった。
「ちなみにマンドラヤキはこーいう感じなのです!」
どんっ、と紙芝居よろしくノートに描いた絵を立てるユリーカ。
樹木たちは畑に整列してなにやらまったりした雰囲気を醸し出している。
温泉に浸かる歴戦のおっさんのように覇気のない姿であり、なるほどこれなら村人に怪我がないのも納得である。
が、気になる点もひとつあった。
マンドラヤキたちの枝の先に、なんか丸いのがいくつも描かれているのである。
『これは……?』
無言のうちにイレギュラーズたちが目線で問うと、ユリーカは両手で丸を作る。
「マンドラヤキは甘くて美味しい実を成らすのです! こう、ふわっとした2枚の厚い生地で甘い餡を挟んだようなもので……渋いお茶がよく合うのです!」
完全にアレじゃねえか。
と、一部の旅人なら反応したかもしれない。古き良き和スイーツじゃねえかとかツッコんだかもしれない。
「村にいるマンドラヤキは全部で15体……だいたい1本あたり20個ぐらい実を作るそうなので、すごいのです! 300個も収穫できるのです!」
爛々とした瞳から期待を滲ませるユリーカ。
ちなみに300個の実をどうするかは現地で仕事したイレギュラーズに一任されるらしい。
その場で食ってよし。
村人に配って盛り上がるもよし。
土におかえり……と畑に撒いてしまってもよし。
テイクアウトして家で食べても、もちろんよし!
「マンドラヤキは比較的おとなしいですけど、攻撃されたら黙ってないですから注意してくださいなのです。ぴゅんぴゅん振ってくる根っこに当たったら結構痛いのですよ!」
ノートを畳んだユリーカが「ご武運をなのです!」と頭を下げた。
- 限りなくどら焼きに近い何か、なんですよ完了
- GM名星くもゆき
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年02月06日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●村に着いてみたら
「まるで冗談のような状況ですね」
畑に立った『風韻流月』冷泉・紗夜(p3p007754)は、木々を――マンドラヤキの群れを眺めて呟いた。
ともすれば眼前の光景は、なんでもない自然の一幕だろう。
土の上に木々が並ぶ。ただそれだけなのだから。
唯一、不思議な点といえば、その樹木が時折もぞもぞと身悶えするぐらいだ。
致命的でした。
「マンドラヤキ、ですか」
『大号令に続きし者』ヨハン=レーム(p3p001117)が、水色の瞳にのんびりと目薬を差す。点眼棒から落ちた薬液が染み渡ると、視界がいささかクリアになった。
「見たことない植物もまだまだいっぱいあるものですねぇ」
「本で読んだことはあるけど、俺も見るのは初めてだな」
ヨハンに声を返したのは、『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)だ。
博識を披露した少年は、手指を器用に蠢かせて笑う。
「前から食ってみたいと思ってたんだ。実は傷つけずに済ませないとな」
「どら焼き……じゃなくてマンドラヤキか」
『フランスパン・テロリスト』上谷・零(p3p000277)が紙袋からフランスパンを取り出して遠くへ放る。それを追って子ロリババアやイヌスラが駆け去ってゆくのを見届けると、零はマンドラヤキたちを見やった。
「実っていうぐらいだし、量産とか出来ねぇのかな……」
「育てる気かよ……」
なんか真剣に考えちゃってる零に、もう何も言えないシラス。
一方、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)や『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は村人たちと話していた。
「わざわざ足を運んでくれて、ありがとうございます……」
「ぶはははっ! 土が痩せるのはマジでよろしくねぇからなぁ、俺たちに任せときな!」
「精いっぱい、頑張りますの!」
ぼん、と立派な腹を叩くゴリョウの横で、宙を泳いでいるノリアがきゅっと両手を握ってみせる。二人の頼もしさに村人たちは安堵を浮かべた。
「連中も生きるための行動なんだろうが、ま、これも仕事だからな」
「ええ、しっかり倒さなくてはいけませんの!」
ゴリョウの言葉に、張りきって頷くノリア。
恋人であるゴリョウが料理の腕を振るってくれると聞いているせいだろう。その証拠に手に貝殻を握ってるし、リジェネレートまで付与済みだ。やる気パねえ。
「人様の畑で食事するなんて迷惑なやつやで」
風に揺れるマンドラヤキを見ながら、『かげらう』惑(p3p007702)は小袋から出した飴のような物を口に放りこみ、村人たちへ叫ぶ。
「今から退治するから危ないで! みんな家で待っててな!」
「流れ弾が飛んできたら危ないので、皆さんは離れててくださいね!」
「わ、わかった!」
「畑を頼みました! 皆さん!」
『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)の避難注意も受けた村人たちが、頭を下げて各々の家へと引っこんでゆく。
いよいよ畑の周りにひとけがなくなったことを認めて、紗夜は大太刀を抜いた。
「では、参りましょう」
●伐採のお時間
緋色の刃が、奔る。
マンドラヤキの一体に迫った紗夜は、軌跡すら見えぬ一太刀で幹を切り裂いた。
「――!!」
腹に真一文字の傷を作った樹木が、大きく体を跳ねさせる。まるで人のようにバタバタと枝を暴れさせると、マンドラヤキは土中から勢いよく飛び出した。
それも斬られた一体だけではない。
近くにいた何体かも一斉にぴょいーんと土から大脱走したのだ。
(と、飛び出してきたー!?)
樹木が寄ってくる光景にビビりつつ、自身の体をライトフォースで固める零。他の個体が邪魔してくる前に、紗夜が斬りつけたマンドラヤキへとフランスパン(細長い2m)を叩きつけた。
「――!」
その硬度と威力でマンドラヤキを傾がせるフランスパン。パンとは。
「とりあえず、一体一体だな!」
「異議なし、ってね!」
零の頭上を後方から飛び越えて、マンドラヤキの懐に降り立つシラス。敵が咄嗟にあげた根の防御を手刀で叩き落とし、がら空きの幹へ貫手をねじ込んだ。
悶絶するマンドラヤキ。それと見てシラスは繊細な指捌きで枝から実をもぎ取り、小脇に抱えた籠(村から拝借)に放りこむ。
で、とりあえず食う。
「ゥンまああ~いっ!」
「そ、そんなに!」
「どんだけ美味いんやろなぁ……」
シラスの絶賛リアクションに喉を鳴らす零と惑。
「俺たちもどうにか実を……」
「収穫して……」
零と惑はマンドラヤキたちのほうへ向きなおった。
だが、止まった。
「――!」
「――!!」
マンドラヤキたちが、地面に根っこをビシビシしていたからだ。
もうね、『ぼごぉん』とか畑が抉れてるんすよ。
(あ、これ絶対当たったら痛い奴だ……!)
(タコ殴りにされたら、わて、逝きそうやなぁ……)
華麗に後ずさる零と惑。
すると二人と入れ替わるように、大きな影が進み出た。
「ここは俺の出番みてぇだな!」
ゴリョウである。
巨体を敵の前に晒したオークは、深く息を吸いこみ、その大きな腹をさらにぷっくりと膨れさせる。
そして――。
『さぁかかってきな!! このゴリョウさんが相手をしてやるぜぇ!!』
大地が、空が、震えるような大音声。
音の衝撃にさらされたマンドラヤキたちが歩みを逸らす。引き寄せられるように敵群はゴリョウへと殺到し、鞭のごとき根でゴリョウの体を打ち据えた。
だが、その頑健な肉体はびくともしない。
「さすが頼もしいな!」
「ほんまほんま。一家に一台ゴリョウちゃんやなぁ」
「いや呑気してねぇで今のうちに攻撃しろ!」
「「了解!」」
敵を抑えるゴリョウに敬礼を返す零と惑。ゴリョウが敵の攻撃を引き受けてくれるおかげで、仲間たちは随分と動きやすくなっていた。
だがすべての敵がゴリョウに向かっているわけでもない。誘引にかからなかった数体は進路を逸らし、別方向へ向かう。
その先にいるのは、ノリアだった。
しかもただのノリアではない。
「ゴリョウさんが料理してくださるマンドラヤキの実……いけませんの……想像が止まりませんの……!」
赤らめた頬に両手を添えて、死ぬほど浮かれているノリアだった。
透明の尾を左右にゆらゆらするさまはもうメッチャ無防備。その後ろ姿にマンドラヤキたちは猫じゃらし見せられた猫みてーにすり寄ってゆく。
「あぁっ!」
「――!」
浮かれモードのノリアの背中を、マンドラヤキの根が襲った。体を覆う水球の上から強かに打たれたノリアは土の上に倒れこむ。
けれど、ただ倒れただけではない。
「「「――!!?」」」
ノリアを殴打したマンドラヤキたちの体に、無数の孔が開いていた。
身に纏っていた水球がオートで反撃を行って、敵群を水の槍で貫いていたのだ。
「……甘くみたら、ただではすみませんの!」
「綺麗な薔薇には、って感じですね。ノリアさんカッコいいです」
横目にちらりとノリアの様子を見やったヨハンが、白銀の剣『セララソード』を抜いて天へとかざした。
すらりとした刀身が陽光を跳ね返し、柄の宝玉が赤く輝く。
何のことはない示威だ。しかしその威風でもって味方の士気を鼓舞してみせると、ヨハンは柄を両手で握り、弱っているマンドラヤキに突撃した。
「それっ」
「――!!」
風も唸るような全力の一撃が、マンドラヤキの体に叩きこまれる。
強烈な衝撃に、樹木は勢いのまま宙に浮いた。
「ノースポールさん、お願いします」
「わかりました! 任せてください!!」
ヨハンに呼応して飛んでくるのは、ノースポール。
遊撃手よろしく低空飛行していた白き鳥の手元で、短刃が拳銃へと姿を変える。引き金を引けば銃口から白光が放たれ、尾を引く流星が宙を舞うマンドラヤキを貫いた。
畑にどしゃりと倒れるマンドラヤキ。
「これで一体です!」
「実もしっかり採っておいた!」
中空で翻るノースポールに、実を詰めた籠を見せるシラス。
「このまま進めるとしましょう。ゴリョウさん、ノリアさん、お体は大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ねぇ!」
「わたしもまだまだいけますの!」
「二人とも見上げた気合やなぁ」
大太刀を構えたまま目線を向けてきた紗夜に、敵に群がられつつ笑みを返したゴリョウとノリア。けろりとしてる二人に惑は感心しながら治癒魔術を送りこんだ。
●畑仕事も楽じゃない
「――!?」
「よしっ、当たりました! あと何体いますか!?」
拳銃『メアレート』の一撃でマンドラヤキを沈めたノースポールが、額に滲む汗を拭きながら後ろを振り返った。
「あと七体ってところだなぁ!」
「半分は減りましたの……!」
見えたのは樹木に囲まれるゴリョウとノリア。それぞれ数体のマンドラヤキの攻撃にさらされながら、しかし未だ倒れずに持ちこたえている。
が、さすがに平気という顔ではない。敵の攻撃にさらされ続けた二人の消耗はやはり他の仲間たちに比べて明らかに大きかった。
「まだまだ七体もおるんかぁ……まったく大変や!」
消耗を見て取るやすかさず治癒魔術を施す惑。
すでに今日、幾度となく見られた光景である。ゴリョウたちが健在であるのは当人たちの能力もあるが、惑が絶え間なく治癒を行っているのも大きかった。
白い肌から生傷が消えると、ノリアは安堵したように一息をついた。だが彼女は変わらずマンドラヤキに囲まれたままだ。水の反撃でいくらか攻勢を削げるとはいえ、ノリアのほうも限界は近かった。
「そろそろ厳しくなってきましたの……」
「おっとお疲れのようですね。ならノリアさんは僕の後ろへ」
ノリアめがけて倒れこんでくるマンドラヤキを、大盾で受け止めるヨハン。疲れきったノリアをかばった猫耳少女は、そのまま盾を押してマンドラヤキを跳ねのける。
「あと少しです。皆さん頑張りましょう!」
「ええ。この村のため、力を尽くさねばなりません」
ヨハンの鼓舞の一声に呼応したのは、紗夜だ。
滑るような足捌きでマンドラヤキの真横へ迫り、くるりと回転した力で大太刀を叩きこむ紗夜。太い枝が根本から斬り飛ばされ、くるくると中空を舞う。実のついたそれを紗夜がキャッチすると同時にマンドラヤキは土煙をあげて倒れた。
次へ――と、紗夜は足に力をこめた。
だがその顔に大きな影が落ちる。
背後から接近していたマンドラヤキが彼女めがけて根を振り下ろしていた。
「いつの間に――」
「紗夜さん!!」
大太刀を盾代わりに掲げようとした紗夜の眼前に、躍り出るノースポール。
「ここは私にお任せくださいっ!」
「――!」
重い根っこの一撃を、ノースポールの小柄な体が受け止める。受けながらも巧みに攻撃をいなしたことでまともな衝撃を被ることはなかった。
しかしまったくの無事でもない。
「ぐっ……!」
「ノースポールさん!」
「あかん! すぐに回復するで!」
地面に叩きつけられたノースポールが苦悶に呻く。助け起こそうとする紗夜の横を通り過ぎて、惑の治癒魔術がノースポールの体から痛みを取り去った。
「――!」
なおもノースポールへ打撃を与えんと、猛るマンドラヤキ。
そこへ、零が背後から駆けこんだ。
「そうはさせないぜ!」
豪快な飛び蹴りがマンドラヤキの幹を捉え、弾き飛ばす。
ごろごろと転げてノースポールと紗夜から離れてゆく樹木。根を突き立てて起き上がろうとするが、復帰を妨げるように凄まじい水圧が飛んできた。
「あまり暴れないでほしいですの!」
「やー本当にそうだよな。せっかくの実が傷ついたら困るぜ!」
水鉄砲を放ったノリアに同調し、シラスが徒手の一撃を打ちこむ。ばたりと倒れる木から素早く実を収穫すると、シラスは大事そうに籠を抱えて後ろへ跳躍した。
「これであと五体ってところか!」
「終わりも見えてきたな……そんじゃもうひと踏ん張りするか!」
天にも轟く咆哮が、ゴリョウの口から放たれる。
それにつられて這ってくる残敵の群れを見ながら、一同は構えるのだった。
●無茶ぶりがすぎる
「いやあ、意外に堪える仕事だったぜ!」
「お疲れ様でしたの、ゴリョウさん」
畑の脇でべたりと胡坐をかいたゴリョウの傍らで、にこりと微笑むノリア。
マンドラヤキの討伐はすべて完了していた。イレギュラーズ側もまるで無傷というわけにはいかなかったが、それでも大きな怪我なく仕事は果たされたのだ。
何より、実が収穫できた。
細心の注意を払ってマンドラヤキを攻撃したおかげだろう。収穫数はほぼ満数。三百近い個数だった。
「えへへ……甘いもの大好きなので、ずっと気になってたんですよね♪」
「これがマンドラヤキの実……」
両手で持ったふわっふわの実を、はむっと齧るノースポールと紗夜。
もぐもぐもぐ。
「んん〜〜〜!! これはまさに、旅人が持ち込んだ文化『どら焼き』の味です!」
「まさか故郷の世界の菓子に似たものが食べられるとは。しかも実によって漉し餡かつぶ餡かの違いもあるのですね」
頬の落ちるような美味さに、少し感動する二人。
柔らかな生地のごとき表皮は噛めば抵抗なくちぎれ、中に詰まった餡のようなものが濃厚な甘味を口の中にもたらす。それでいて重く胸にたまるようなこともない。
言ってしまえば、絶品だった。
「これ……凄く美味いな!?」
「つぶ餡の舌触りが堪らん……こういう話しとるとお茶欲しくなってくるな!」
零もふわふわスイーツの味わいに目を輝かせ、惑もむぐむぐと口を動かしながらはしゃいだように笑う。
村人たちはごくりと喉を鳴らした。
「美味そうに食ってるなぁ……」
「確かにマンドラヤキの実は美味いと聞くが……」
「美味しいですよ♪ おひとつどうぞ!」
「え、いいんですか?」
「もちろんなのです」
実を差し出したノースポールに、村人がきょとんと返すと、横で黙々と食べていたヨハンがすかさず口を出してきた。
「村にとっては迷惑なマンドラヤキたちでしたが、きっと生きるのに必死だっただけなのです。だからせめて僕たちは美味しくこの実を食べて、彼らのぶんまで頑張って生きなければいけないのですっ!」
「な、なるほど!」
「では私らも有難くいただかなくては!」
一瞬で納得した村人たちが、わーっと実の入った籠に群がる。
同じものを食えば仲が深まるのも早い。農村はイレギュラーズも巻きこんで、それはもうめちゃくちゃに沸いた。
どこからともなく歩いてきたシラスは、その様子を見て少し驚く。
「随分と盛り上がってるな」
「おや、シラスさん。どこに潜んでいたのですか?」
「別に隠れてたわけじゃないぜ。ちょっと食材を借りてたんだ」
ヨハンの質問に答えたシラスの手には、マンドラヤキの実。
割ってみると、その中からはバターがとろりとあふれ出した。
「バター挟んだらいけるんじゃないかって思って。あと卵に浸して焼いたり、いくらか果物を挟んでみたり……」
「それは絶対に美味しいやつですね」
「ああ、絶対に美味しいやつだ。そして絶対に売れるやつだ!」
もぐもぐとバタードラヤキを食べるシラスに、詰め寄るヨハンと零。もちろんシラスに分けてもらって二人は幸せになりました。
一方、ゴリョウとノリアはもうもうと上がる蒸気を見つめていた。
正確には、魔力コンロに乗っかった蒸し器を見つめていた。
「よし! そろそろだな!」
がぱっと蓋を開けるゴリョウ。
こもっていた蒸気の下にあったのは、当然ながら実だ。
「これぞ『蒸しどら』だ! ふっくらしっとり温かくいただける逸品だぜ」
「ゴリョウさん、さすがのお料理上手ですの!」
「マンドラヤキの実を蒸すとは……!」
「ううむ、これは寒い外で食ったら格別のやつ!」
どどーん、と蒸した実を披露するゴリョウの隣で、ぱちぱちと拍手するノリア。つられて拍手する村人たちはその滲み出る美味そう感に唸っている。
振る舞われたそれは大好評。
ぱくぱくと食べる村人と一緒に、もちろんノリアももぐもぐする。
そらもう一心不乱にかぶりついたりして……。
「お、ノリア。口の端に餡子付いてるぜ?」
「えっ、あんこ……ああっ、お恥ずかしいところを、お見せしましたの!」
「そんだけ喜んでもらえたってことだな! ぶはははっ!」
手拭いでノリアの口元を拭い、嬉しそうに笑うゴリョウだった。
「さぁって、うちの探偵先生へのお土産も持ったし、そろそろ退散かね?」
「ええ、そうしましょう」
畑の上を歩いていた惑が言うと、同じく畑でしゃがんでいた紗夜が頷く。
二人がぽんぽんと土を乗せたその下には、マンドラヤキの実が埋まっている。痩せてしまった土地に少しでも栄養が戻れば、という計らいだった。
「これで良質な作物が成ればいいですね」
「そうやなぁ。というか、マンドラヤキの木として生えてくる可能性もあるんちゃう?」
「それすごい困るんですけど!?」
紗夜にからからと笑う惑の発言に、猛然と反応する村人たち。
当然である。
せっかく退治してもらったのに、またにょきっと生えてこられたら農村やってけねーってもんである。
が、立場違えば反応も違う。
シラスと零は、村人たちの肩をポンと叩いた。
「へへっ、また出てきたら絶対に俺を呼んでくれよ! タダで退治してやるからさ!」
「俺にも連絡頼むな! できれば定期的に仕入れたいんだけど……うちのギルドと提携しない?」
「いやそれどう考えても危険すぎるだろうがァァーー!!」
村人たちの全力のツッコミが、寒空に響き渡った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
伐採作業、お疲れ様でした。
各々が仕事を果たし、無事にどら焼き……マンドラヤキの実を味わうことができたようです。村人たちもまた農作業に精を出すことができるでしょう。
ではでは。
GMコメント
どら焼きを、食おう。
皆様方はじめまして。GMの末席に加わっていた『星くもゆき』という者です。
依頼が目について、この挨拶を読んでもらえていたら幸いでございます。
てなわけで幻想でのモンスター退治ですぜ。
▼概要▼
幻想北部の農村に樹木型モンスター『マンドラヤキ』が現れ、畑が占拠された!
このままだと畑仕事ができねーし土地も痩せてヤベェ! つか普通に怖ぇ!
たすけてローレット!!
あ、マンドラヤキの美味しい実は好きにしてくれていーよ!
●成功条件
マンドラヤキすべての討伐。
●敵
・マンドラヤキ×15。
成人男性ぐらいの大きさの、歩く樹木。
動きは遅いが結構タフ。
主な攻撃は『伸ばした根っこを振りまわす』『倒れこんで体当たりする』
イレギュラーズたちが赴いたときには畑に埋まる感じでおとなしくしているが、攻撃した瞬間から「てめっ……この野郎ォ!」のノリで飛び出してきます。
●マンドラヤキの実
マンドラヤキの枝先にぶら下がっています。
1体につき約20個ほど成っていて、戦闘中でも取ろうと思えば取れます。
ふわっとした生地は口当たりが柔らかく、中身の餡も引き締まった上品な甘さです。
食べすぎて太らないようにな!
●ロケーション
いかにもな田舎の農村です。せいぜい数十人規模。
現場に到着するのは昼間で、明るく、戦う上での支障がありません。
マンドラヤキが根付いた畑の周りには不安げな村人たちが集まっていますが、皆さんが一声かければ畑から離れるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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