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シナリオ詳細

狩り勝負の誘い~ライブオークの森より~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●北方端書
 鉄帝国北東部に広がる大森林地帯『ヴィザール地方』。
 北の厳しい環境化にある帝国の更に北東部だというのだから、貧しさは推して知るべしだろう。
 そこには帝国への併呑を厭う少数部族が暮らしているが、帝国が求めているのは南の肥沃な大地であり、大々的に挙兵してまで攻略する旨味があるとは言い難く、半ば放置していた。
 
 しかし、それはあくまで帝国視点でのこと。

 現地の少数部族達にしてみれば、帝国がこのヴィザール地方を取り込む意志があること自体が大問題だ。さりとて相手は強大な鉄帝国。各部族がバラバラと戦闘を仕掛けた所でどうなるものでもない。
 そこで少数部族達は短期間の群雄割拠を経て、力ある者を王と定め『国家』であると名乗り始めたのだ。

 凍てつく峡湾を統べる獰猛な戦闘民族ノルダイン。
 雷神の末裔を称する誇り高き高地部族ハイエスタ。
 永久氷樹と共に生きる英知の獣人族シルヴァンス。

 そうして帝国に抗うべく、最終的にひとつの連合を組むこととなる。
『連合王国ノーザン・キングス』
 これはハイエスタのとある氏族集落の話。


●雪深き森の奥で
 ヴィザール地方のある高山、冬でも葉を絶やさぬライブオークの森を抜けた先に、その集落はある。
 高齢で長いこと床に臥せっている氏族長が、ふたりの息子に外の様子を尋ねていた。大柄の兄・ファーガスはうっそり頷く。
「今年の山は寒さが厳しく、畑も狩猟も芳しくない。この冬を皆無事に越すためには蓄えを切り崩さないと、」
 氏族長は不機嫌な顔で話を打ち切らせると、小柄な弟・ケネスに目を向けた。
「どこかのノルダインが帝国領の村へ押し込み、返りうちにされたようですよ」
 それを聞くや、氏族長は老い衰えた顔を朱に染める。
「ノルダインどもめ。儂が臥せっていなければ、野蛮なノルダインなんぞに連合の主導権を渡さなかったものを!」
 弟は話題を変えようと宙を仰いだ。
「えーと……聞いた話によれば。ノルダインの戦士達を追い払ったのは、帝国軍人ではなく『運命特異座標』、ローレットの者達だったそうですよ」
「ローレット? 帝国側についたと言うのか」
「そういうわけではないようです。別のハイエスタの村では、帝国の偵察部隊を追い払ってみせたとか。傭兵のようなものでしょうか?」
 僻地暮らしでは情報に疎いのも致し方なかった。氏族長は声を荒げる。
「我らの敵となるようであれば、運命特異座標であろうが帝国兵ごと蹴散らせ!
 ファーガスよ、ノルダインに遅れを取ることはまかり成らん。武勲を上げよ! ハイエスタにウォレス氏族ありと、連合内外に知らしめるのだ!」

 父である氏族長の部屋を辞した兄弟は、森を眼下に見下ろす岩場へやってきた。まだ十代半ばの弟は、小生意気な顔で歳の離れた兄を見上げる。
「ファーガス兄さん、父様の言う通りですよ。どうして打って出ないんです?
 父さんは不安なんです。ご自分がこの世を去った後、ハイエスタが、この地方がどうなってしまうのか。武勲を立てるのも親孝行だと思いますけど」
「連合内で覇を争ったところで何になる」
 兄は呟き森へ目を移した。深い雪に包まれた森は、ヒト同士の諍いなど知らぬように静かに広がっている。
 そんな兄に、弟は悔しそうに地団駄を踏む。
「僕が兄さんだったらなぁ! 氏族の戦士を連れて、帝国領へでもノルダインの村へでも攻め込むのに!」
「滅多なことを言うな。……気になるのはローレットだ。現時点で帝国と連合のどちらにも与していないということは、この先敵にも味方にもなり得るということだ。俺達は彼らについて知る必要がある」
「味方って、余所者の手を借りるつもりですか!? 雷神の末裔である僕達が!?」
 一端の口を聞くケネスに、苦笑したファーガスは聞こえないように零す。
「部族の誇りに固執しすぎなんだ。お前も親父殿も」

●酒場にて
「ファーストインプレッションって大事だよね」
 卓に地図を広げつつ『黒猫の』ショウ(p3n000005)が言う。
「『ノーザン・キングス』って聞いたことあるかい?
 帝国の北東……地図のこの辺を領土だと主張する少数部族の集合体ってところかな。今回はその少数部族のうちのひとつ、高地部族ハイエスタのある氏族からの依頼だよ。
 冬の蓄えが心許ないから狩りの手伝いをして欲しい、でもそれだけじゃ面白くないから彼らとイレギュラーズで狩り勝負をしようって趣向さ。
 相手はウォレス氏族といって、今までにローレットと接触した記録はない。君達の印象がそのままローレットの印象になる可能性があるね。とは言え、手心を加えて負ける必要はないよ。ハイエスタは誇り高い部族だから、純粋な力比べを望んでいるんじゃないかな」
 力比べと言っても狩りだけど、とショウは肩を竦めた。

GMコメント

●目的
ハイエスタの内の一氏族・ウォレス氏族の戦士達との狩り勝負です
勝敗は成功度に影響しません
相手方にはイレギュラーズ達のひととなりを知りたいという目的もあるようです

●勝負方法
イレギュラーズチームとウォレス氏族チームに分かれ狩りをします。制限時間は1時間
獲物の狩猟難易度毎に得点が設けてあり、各チームが取得した得点数で競います
相手方への妨害・攻撃などは特に禁止されていません
ウォレス氏族は、食料確保のため(負けず嫌いなこともあり)黙々と狩りに勤しみます

・兎…比較的発見が容易で反撃される恐れはありません。3pt
・狐・山犬…食べませんが畑を荒らすので狩ります。5pt
・鹿…遭遇するには探索向きなスキルや工夫が必要。群れでいて反撃してきます。8pt
・大熊…冬眠中・あるいは餌不足で冬眠できなかった大熊。非常に凶暴。15pt

●フィールド
高山の中腹にある広大な針葉樹森。積雪あり
探索すれば小川(ほぼ凍結中でも水はある)や岩場の洞窟なども見つかるでしょう

●本シナリオの特殊ルール
!積雪のため、対策がなければ地上での移動にはペナルティ(-1~2)がかかります
!相手側から外套が全員に貸与されるため、極寒下によるペナルティはありません
!ファンブル発生時、樹上からつららや雪の塊が落ちてきて埋まります
 自力で脱出可能ですが、衝撃と冷たさで最大HPの5割をダメージとして受けます
 (木よりも高く飛行していれば免れますが、枝に阻まれ獲物を視認できません)

●ウォレス氏族チーム
氏族長の長男・ファーガスを中心とした氏族の戦士8名
氏族柄のキルトを腰に巻いた(notスカート)、大柄で屈強な男達です
クレイモアを使う剣士5名、射手2名、回復手1名
(次男・ケネスは審判役として集合地点で留守番です)

●その他
狩場となる森一帯は集落から離れている(らしい)ため、集落を訪ねることはできません

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●GMより
鮎川と申します。一狩りいこうぜ。
OPに何やかんや書いてありますが、要は初対面のマッチョ達と狩り勝負です。
ご縁がありましたらよろしくお願いします。

  • 狩り勝負の誘い~ライブオークの森より~完了
  • GM名鮎川 渓
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月02日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
橘花 芽衣(p3p007119)
鈍き鋼拳
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神

リプレイ

●初対面
 指定された森の入口を訪れた一行を出迎えたのは、一寸風変わりな男達だった。
「よく来てくれた。俺が今回依頼をしたファーガスだ」
 そう名乗ったファーガス始め、皆揃いのタータンを腰に巻いている。露出した膝や腕などに機械化した箇所が窺えた。ファーガスはいくらか抑えているが、ウォレスの男達はいっそ清々しいほど無遠慮に一行を眺めてくる。ファーガスがぼそりと呟いた。
「内6人が女性か。案外女性が多いものなんだな」
 ん?
 一行がお互いを見やっていると、『ラッキースケベ』湖宝 卵丸(p3p006737)はハッとしたように顔を赤らめ叫ぶ。
「卵丸、男! 男なんだからなっ!!」
「そ、うか……それはすまない」
 卵丸はふんすと腕組みして矛先を収めたが、華奢で小柄な卵丸が勘違いされてしまうのも無理からぬことかもしれなかった。ウォレス氏族チームはいずれも筋骨隆々の偉丈夫。そうでないのは年若な審判のケネスくらいだ。
 気まずくなった空気を打ち破るよう力強い笑い声が響く。
「ははは、相互理解の第一歩だな! 私はベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフである!!」
『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)が張り上げる声音に、大気がビリビリと震えるようだ。彼女の闊達さに助けられホッとした様子のウォレスの男達だったが、
「私は鉄帝軍人の家系だ。卿らの腕を見せて貰おう。無論こちらもお見せする」
 続く彼女の言葉に緊張が走る。ノーザンキングスに属す彼らにとって、鉄帝の軍人は敵対相手と言って良い。ファーガスは片手を挙げて皆を制し、「望む所だ」と短く応じた。
 そんな彼らの様子を紫と銀の瞳でじっと見ていた『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)、
「学者として、今まで交流のなかった不足の文化や人となりを知れる機会は有り難いね。よろしく」
 笑みを浮かべ友好的な態度で申し出る。『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)もきゅっと拳を握り、
「人助けとあらば引き受けない理由がないよね! もちろん、勝負もはりきっちゃうよ!」
 溌溂と声を上げる。それをきっかけに両陣営自己紹介を済ますと、『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が落ち着いた低い声で尋ねた。
「どの程度狩っていいものかを確認しておきたい」
 狩りすぎ、森から獲物がいなくなって困るのは氏族側だ。配慮を見せるゲオルグに、ファーガスは幼体は極力逃して欲しいと伝えた。
「狩った後にした方がいい処置はあるか?」
「そうだな……祈ってもらえれば」
 いや血抜きや解体が必要か訊きたかったんだが。ゲオルグは予想外の返答に面食らったものの、あまりに真面目な顔で言うので追求せずに首肯した。
「元より弔う気でいた、そうしよう」
「私からもひとつ。罠を使うつもりでいるんだ、目印のある場所には近づかないで欲しい」
 危ないからねとゼフィラは言い添え、にんまり口に笑みを深くする。
「競い合う以上は勝つつもりでやらせてもらう」
「あなた方の力、じっくり見せてもらいましょう」
 ケネスは嫌味を忍ばせたが、『絶巓進駆』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371) は意に介さずにぱっと笑う。
「力一杯! 頑張ります!」
「言っておくけれど、私達負けませんわよ? 貴方達があっと驚くような獲物を連れて戻ってまいりますわ!」
『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)も、自信あり気にびしぃっと指を突きつける。
 毒気を抜かれたケネスは、抱えていたバグパイプを吹き鳴らす。狩猟開始。両チーム一斉に飛び出した。


●予想外の遭遇
「狩はやったことないんだよね〜。でも、熊が寝ていそうな場所ってやっぱり洞窟とかかな~」
 木々の合間を縫うように飛びながら、『鈍き鋼拳』橘花 芽衣(p3p007119)は熊がいそうな場所を探して回る。熊のような大型動物が活動していれば何かしらの痕跡が残りそうなものだが、芽衣の捜索スキルをもってしても見当たらない。
「ここらを縄張りにしてる熊は冬眠中かな? ……ん?」
 前方に岩場が見えてきた。目を凝らすと、岩と積もった雪の間に僅かな隙間が。そろりと忍び寄ればツンと鼻をつく獣の臭い。
 すぐに芽衣は肩に止まらせた小鳥へ囁く。
「リュカシス君ー、ベルフラウちゃーん。巣穴発見したよ~」

 一方ふたりは、離れた場所で絶賛穴掘り中だった。
 リュカシスは携帯用スマートドリルでどりどりどりッと地面に穴を穿っていく。
「どんどん掘るぞ! 力こそパワー!」
「頼もしいな!」
 ある程度掘り進めると、ベルフラウは枝を集めにかかる。
「さあ仕上げデス!」
 リュカシスはクラッシュホーンを繰り出し、鈍重な一撃を剥き出しの大地へ叩き込む! 地響きのような音をあげ、熊を収められるほどの大穴が爆誕した。集めた枝をふたりしてせっせと格子に組み穴の上へ。雪を被せて目隠しし、最後に調達してきた生肉を置けば落とし穴の完成だ。
 その時、ファミリアーで芽衣の囁きをキャッチしたリュカシスが目を輝かせた。
「橘花様が巣穴を見つけたようデス!」
「うむ、早速向かうとしよう」
「ハイ! 今回のボクは速いデス!」
 言うが早いか、リュカシスは鎧のスラスターで雪を巻き上げ疾走していく。
「競争か。私も負けんぞ!」
 ベルフラウも強靭な脚で雪を蹴散らし突き進んだ。

 合流すると、まずベルフラウが『赤の熱狂』を用いた。赤い彩りが周囲を舞い、戦闘前の高揚を高めてくれる。
 芽衣は巣穴へ向き直った。ふたりを待つ間、穴を半ば塞いでいた雪を退けておいたので、岩穴の奥の暗がりにかすかに熊の姿が見える。いわのなか――芽衣の脳裏に一瞬何かが過ぎりかけたが、鉄機鋼外殻(ヘカトンケイル)を纏う両腕へ意識を集中。
「春にはまだ早いけど、お目覚めの時間だよ!」
 刹那、放たれるは一条の巨大な光線! 真直ぐに岩穴へ差し込んだ光が熊を叩き起こす! 熊は突然のことに動転し岩穴からまろび出る。その瞬間を逃さず、木陰に身を潜めていたリュカシスが動いた。
「いきます!」
 火炎の戦槌から撃ち出す弾幕攻撃が、熊へ容赦なく降り注ぐ! 怒り狂った熊は、その巨躯を見せつけるよう後ろ足で立ち上がった。
「眠りを妨げられて怒っているな。重畳!」
 耐性強化で己が身を頑強にしたベルフラウ、朱の旗を掲げ名乗りを上げる。
「その怒り、私が余さず受け止めよう!」
 熊は彼女へのし掛かるように迫り、鋭い爪を力一杯振り下ろす! しかし半身引いて避けた彼女の鎧を浅く裂くに留まった。
「怒りは隙も生む、好機である!」
「オッケー、ガンガン行くよ!」
 芽衣は高く舞い上がると、銀の髪をなびかせ華麗に宙返り。回転と落下の勢いを乗せたダイナマイトキックを熊の脳天へ見舞う!
 ベルフラウが熊の注意と攻撃を引き受け、芽衣とリュカシスが攻撃に集中する立ち回りが上手く機能した。激しくやり合うこと四合。その場で熊を仕留めることに成功した!
 三人は黙礼したあと、さてこの後どうするかと首を捻る。残り時間は意外と少ない。ここからもう一頭探して狩るのは難しいだろう。そう判断し、一旦落とし穴を埋めに戻ることにした。
「そのままにしたら危ないデスからね」
 そうして落とし穴の所へ急ぎ向かっていくと、あと少しという所で芽衣が慌ててふたりの肩を掴んだ。
「待った、何かいる!」
 そうっと落とし穴の方を窺うと――穴の周りをウロついていたのは、先程の熊に比べ痩せぎすで殺気立った雄熊。仕掛けの生肉を狙っているようだ。
 いっちゃう? と立てた親指をクイッとした芽衣に、ふたりは好戦的な笑みで応えた。

●孤高のモフリスト
 その兎は追われていた。懸命に逃げるも山犬の荒い息遣いがすぐ後ろまで迫っている。その上前方から別の犬の鳴き声がした。ハメられたのだと気付くももう遅い。足を止めれば追いつかれる、このまま進んでも待ち伏せに遭う。脚を止められぬまま駆けていくと、遂に行く手に犬の姿が!
 覚悟を決めたその時だ。突如前方の犬の頭上へ、颯爽とひとりの男が"降ってきた"。
「私達の都合で済まないが、これも生きていくためなのでな」
 男の巨躯の周りへ、蒼白く輝く光の花が舞う。美しい花弁は男よりも早く地上の犬へ降り注ぎ、刃のように切り裂く! 花弁は着地した男の許に帰ると、雪のように儚く消えた。
「畑を荒らすというのなら駆除はせねばならないからな」
 呟いた男が顔を上げると、黒い瞳がこちらを向いた。兎はびくりと縮こまる。屈強な身体に刻まれた傷跡に、厳しい顔つき。幾つもの死線を越えて来た者だけが持つ鋭い眼光。兎が今一度覚悟を決めた――次の瞬間、男の目尻が若干下がった。
「兎か……うぐぐ、もふもふしたい」
 何て?
「だが今は勝負中だから我慢だ」
 束の間存在を忘れられていた山犬が、激しく唸りを上げて男へ飛びかかる! だが男の方が早かった。再び放たれた花弁は、山犬の牙が男の喉元に届くより早く斬り伏せた!

「さて、」
 男――ゲオルグはいそいそと振り返る。
 だがしかし既にそこに兎の姿はなく、大きな背を丸めひっそりと息を零したのだった。

●多様な探索手段
「さてと」
 森に入ったアレクシアは、現地の住人に聞き込みすべく感覚を研ぎ澄ます。幻想種である彼女が尋ねる相手はウォレスの男達ではない。
「私の声が聞こえたら、答えてくれると嬉しいな」
 すると風に乗り、彼女の周りに目には見えない気配が集まってきた。
「私達、鹿の群れを探してるんだ」
 それならそこの木に聞いてみてと言うので、アレクシアは手近な樫の幹に手を当て語りかける。樫の木は不満そうだった。鹿が増えて若芽が皆食われてしまうと。狩りに来た事を伝えると、樫は喜んで水場の方角を教えてくれた。
「皆ー、鹿はここから北西の水場によく来るみたいだよ!」
「水は大事だからなっ。進路北西、了解したぞっ!」
 卵丸はエコーロケーションを駆使して周囲の様子を探りつつ、地上から北西を目指す。水場へ近付くにつれ、鹿に剥がれ食まれたであろう木の皮が目につくようになっていった。
「ふっふー、狩り勝負! いい響きですわねー」
 歌うように口にしながら、ヴァレーリヤは空を行く。自らも目を凝らしつつ、ファミリアーで放った小鳥の視界も借り鹿の群れを探す。しばらくすると小鳥の目に小川が映った。
「あれですわね。今は来ていないようですわ」
「ではその付近に仕掛けよう」
 ゼフィラは小川の風下で罠の設置に取り掛かる。トラバサミを雪で隠し、周囲の木にもロープを張り巡らせていく。丁度鹿の脚がとられる高さだ。
 仕上げに、人の目につく高さに目印を配して回る。鹿班の作戦は、この罠へ鹿の群れを追い立て一網打尽にする事。彼女は雪景色に紛れるよう白い布をすっぽり被った。ロープ張りを手伝っていたアレクシアはほぅっと一息。周囲で見守る精霊たちへにっこり微笑んだ。
 その時卵丸がぴくりと反応した。
「海賊センサーに感あり、何だぞっ。……鹿の鳴き声、多分仔鹿だ。それも幾つも。仔鹿がこんなにいるってことは、大きな群れに違いないんだぞっ」
「こちらからも確認できましたわ! 随分大きいですわね。鹿というよりトナカイのようですわ」
 4人は群れの風下を取るべく、静かに移動を開始した。

 鹿の群れが小川に口つけ水を飲んでいると、突如頭の中に声が響いた。
『敵だー!』
 動物疎通によるアレクシアの呼びかけだった。驚き顔を上げるが早いか、いつの間に背後へ忍び寄っていたのか、卵丸がキルデスバンカーを構えて叫ぶ。
「蒼蘭海賊団団長、湖宝卵丸参上!! なんだからなっ」
 同時にジェットパックでかっ飛んできたゼフィアが群れに迫る。
「私達がキミ達にとっての"敵"だよ!」
 魔術で掌に焔の大扇を現し、前方を一煽ぎ! 鹿達は泡食って逃げ出した――罠のある方へ。
「あはは、なんだか狼にでもなった気分ですわね?」
 ヴァレーリヤがメイスをぶぉんぶぉん振り回し追い立てていると、雄達が脚を止め、威嚇するように嘶く。
「その角で私を突き飛ばすおつもり? 小柄で可愛い司祭だからと侮ってもらっては困りますわ!」
 ヴァレーリヤはメイスを構えた。その小さな四肢に夥しい魔力という名の筋力が漲っていく!  そして、
「『前進せよ。恐れるなかれ。主は汝らを守り給わん』―― どっせえーーい!!!」
 聖句により焔を吹き上げたメイスを、あらん限りの力で振り下ろす! こんな恐るべき一撃、大柄言えどそこらの草食動物が耐えきれるはずもなく。角ごと頭蓋を粉砕された鹿はどうっと地に倒れた。別の雄が殺到しようとしたが、その上を小さな影がさっと過る。ジェットブーツとアクロバットを併用し、頭上を取った卵丸だ!
「させないぞ! 必殺、蒼・海・斬!」
 血気盛んな雄達とその場でやり合い仕留めたあと、4人は罠に掛けた鹿の方へ急いだ。

●縁の宴
 ケネスのバグパイプの音を合図に、両チームとも獲物を手に再び森の入口へ戻った。審判役のケネスがずらり並んだ獲物を数える。
「イレギュラーズチーム、熊2頭・鹿10頭・狐1頭・山犬4頭。
 ウォレス氏族チームは、熊1頭・鹿12頭・狐2頭・兎が5羽。
 計135点対136点で、我がチームの勝ちですよっ!」
 だが誇らしげにしているのはケネスだけで、ウォレスチームの男達は目を剥いていた。
「狩場を熟知している俺達にここまで迫るとは」
「大した奴らだ!」
 唸るファーガスに、天晴だと笑う男達。鉄帝に併呑されることを厭うている彼らだが、力ある者を好む傾向は同じらしい。点数こそ競り負けたが、充分な力を見せた一行を讃え握手を求めた。……ケネス以外は。
 ゲオルグは皆を見回した。雪塗れだったり怪我をしている者達がいる。
「負傷者は私の傍へ」
 彼は陣営別け隔てなく手招くと、祝福の花を降らせ傷を癒やした。ゲオルグの漢気に男達が感じ入っていると、リュカシスがぴっと手を挙げる。
「肉の切り分けとかお手伝いしたいデス! ……そうだ!」
 何かを閃いたようにごそごそと荷物を漁る。取り出したるは『五徳とお玉付きの鍋』!
「もし良ければ、ちょっとしたパーティーをしませんか!」
「君ねぇ、これは僕達の村の大事な蓄ぇあ痛ッ」
 食ってかかろうとしたケネスの脳天に、ファーガスの拳骨が落ちる。
「彼らは充分働いてくれた、蓄えには十二分だ。食事を共にすればより互いに理解できることもあるだろう」
「宴だァ!」
 ウォレスの男達は大喜び。郷まで酒を取りに走る者まで出た。
「焼き肉にするのも、ジビエ肉を煮込んでシチューとかとっても美味しそうだな〜」
 芽衣はいそいそウォレスの男達に混じり獲物の選別を始める。ベルフラウはファーガスへ革袋を差し出した。
「これは?」
 若干警戒する彼だったが、
「熊の心臓や胆嚢だ。稀少部位だが腐りやすいからな、狩ってすぐに取り出し雪と共に詰めておいた」
 彼女の言葉に目を丸くすると、ややあって表情を和らげた。
「心遣いに感謝する、ローゼンイスタフ殿」
「礼には及ばん。卿らの腕、確と見届けた」
 それからベルフラウはケネスへ向き直る。
「卿の兄は素晴らしい。誇るが良い」
 ケネスは痛む頭を押さえ、口を尖らせ俯いていた。

 そうしてしばし後、空腹を刺激する良い匂いが漂いだした。骨付きのままワイルドに炙った鹿肉に、鍋には脂の乗った兎のシチュー。炎を囲んで座り、森の恵みに舌鼓をうつ。
 ゼフィラはウォレスの男達を改めて眺め、
「ところで、その腰のキルトは皆同じ柄のようだな。何か意味が?」
「氏族固有の柄だ」
「成程、スカートのように見えるが寒くはないのかい?」
 その問いに男達は一斉に首を横に振る。寒くはないしスカートでは断じてないのだと、それはもう力一杯に。
 リュカシスはまだ不貞腐れ顔のケネスへ椀を差し出す。
「ケネス様とファーガス様はご兄弟なんですよね。ボクにも兄がいるんデス!」
「ふぅん」
 素っ気ない返事にもリュカシスはめげない。兄に聞こえないようこっそり耳打ちする。
「兄って、格好良いけど時々分からず屋だと思う時ありませんか? 喧嘩した時とか」
「分かる! 頭ごなしにっていう、か……っ」
 勢い頷いてしまったケネス、バツが悪そうに俯く。そんな彼をリュカシスはにこにこ眺めた。そこへアツアツの肉を手にヴァレーリヤが駆けてきて、
「ほらほら、お肉が焼けましたわよー! どうぞ召し上がって下さいまし!」
 問答無用でふたりの口へ肉を押し込む。
「「あっつッ!」」
 揃って口を押さえ悶えるふたりに、ヴァレーリヤはにっこにこ。
「まあ、いつの間にそんなに仲良くなったんですの? 私も入れてくださいまし!」
 ヴァレーリヤの交流(物理)に、ふたりは顔を見合わせ吹き出した。
 肉を喰らい酒汲み交わし、宴は辺りが暗くなるまで続いた。酔ったウォレスの男達が雪の上で大の字になって寝てしまった頃、ヴァレーリヤは改まってファーガスを見やった。
「今日はありがとう。またどこかで相見えたいものですわね。できれば、味方として」
「ああ。次は戦友(とも)として並び立つ事を望む」
 頷くベルフラウに、ファーガスは目を細めうっそりと頭を下げた。
「俺もそう願っている」と。


成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

狩りの結果は大接戦、惜しくも負けてしまいましたが、妨害をしない・宴を開くなど様々な方法でウォレス氏族の信頼を得ました。きっと彼らは無事に冬を越せるでしょう。お疲れ様でした。

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