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シナリオ詳細

流星の蜘蛛

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夜空の果てより
『それ』は星のように降ってきた。
 音もなく、あわせて九体。見つけたのは天体観測を行っていた青年だった。
 ぽかんと見上げる。
 巨大な蜘蛛だ。八つの赤い目が爛々と光っている。赤色巨星、という言葉をふと思い出した。
「……え?」
 ふっと一体の蜘蛛が糸を吐いた。星明かりを束ねたような金色の糸が青年の体に絡みつく。動けなかった。
 牙が見えた。食われるのだと、他人事のように思った。
「うわぁぁっ!」
 悲鳴とともに投げられた剣が、蜘蛛と青年を繋ぐ糸を断ち切った。青年は尻もちをつく。
「早く逃げろ馬鹿!」
「あ、あぁぁっ!」
 彼を助け、怒鳴ったのは純白の騎士の装いに身を包む、若い男だった。きっと騎士見習いだろう。夜の見回りの最中に、この光景を見てしまったに違いない。
 四足の獣のような体勢で青年は走った。騎士見習いは自分がこの怪物に敵わないと即座に判断、青年の手をとり、剣は放置して丘を駆け降りる。
「なんだあれ、なんだあれ!?」
「僕が知るわけないだろ!?」
 蜘蛛の視線を感じた。追ってくる気配はなかったが、二人とも足をとめられなかった。

●星降りの丘の蜘蛛
「初めまして、親愛なるイレギュラーズ。ああ、『話が終わったら、僕のことは忘れておくれ』」
 微笑んだ『空漠たる藍』ナイアス・ミュオソティス(p3n000099)は、白い手袋に包まれた手で地図を広げた。
 指先が示すのは天義の首都、フォン・ルーベルグの一角だ。
「ここは天体観測に向いた丘でね。近隣の市民からは『星降りの丘』なんて呼ばれているらしいよ」
 天義出身の者や、それを知る者たちが懐かしむように目を細めた。他のイレギュラーズは地図かナイアスに視線を向けている。
「さて、この星降りの丘に蜘蛛が出た。星のように降ってきた、人を喰う蜘蛛がね」
「……降ってきた?」
「報告によるとね。うん、実に怪しい」
 なにせ蜘蛛に翼はないのだ。飛べるはずがないのだ。
「ともあれ、その調査は情報屋の役目として――蜘蛛は放置できないよね」
「被害者は?」
「今のところ出ていないけど、いつ出るか分からないよ。星降りの丘を占拠されているのも、とても困るんだ」
 天体観測を趣味とする者たちや、占星術師たちなどが定期的に訪れる場所だ。いつまでも封鎖していられない。
「不可解な蜘蛛の討伐。お願いできるかな?」
 場違いなほど穏やかに、情報屋は笑む。
 イレギュラーズは武器を手に席を立った。

GMコメント

 初めまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 星空より来る蜘蛛。

●目標
 アレニエの討伐。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 見晴らしのいい丘です。
 近隣住民からは『星降りの丘』と呼ばれており、非常に綺麗に天体観測ができる場所として知られています。
 遮蔽物はなく、アレニエが現れてからは一般人の立ち入りが禁じられているため、保護対象もいません。

●敵
『アレニエ』×9
 流星のように『降ってきた』4メートルほどの人喰い蜘蛛。星降りの丘及びその近辺を徘徊している。
 漆黒の体と8つの赤い目を持ち、金色の糸を吐く。

・糸を吐く(物特単):自身から2レンジ以内の対象に糸を吐く。【呪縛】【封印】
・突撃(物中単)
・押しつぶす(物近単)
・硬化(自付与・副);防御技術+10、特殊抵抗+10
・共食い(物至単):他のアレニエ、あるいは倒れているイレギュラーズを喰らってHPを全快する。

●他
 対魔物の戦闘です。たっぷり暴れてください。
 皆様のご参加お待ちしています!

  • 流星の蜘蛛完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月28日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アリーシャ=エルミナール(p3p006281)
雷霆騎士・砂牙
ラース=フィレンツ(p3p007285)
新天地の傭兵
ハルラ・ハルハラ(p3p007319)
春知らず雪の中
クリスティアン・メルヴィル(p3p007388)
Star Lancer

リプレイ


 夜闇の中、赤い光が点々と灯る。まるで煌々と光を放つ、不吉な星のように。
「なぜ突然降ってきたのかは分からないが、退場してもらうぞ」
 勝利と栄光の象徴たる指揮杖を、『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)が掲げる。その先端が星明かりを受けてきらめいた。
「チチチ……」
 イレギュラーズを視認した九体の大蜘蛛が次々と鳴き声じみた音を漏らす。迎撃態勢に移行したアレニエのうち数体が、突如として茨による攻撃を受けた。
「人に危害を加えるなんて、だめよぉ」
 悪戯っぽく片目を閉じた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)に蜘蛛の敵意が集中する。
 蜘蛛たちが攻撃するより一手早く、彼女たちの前に『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が躍り出た。
「そっちにも事情があるのかもしれないけど、悪意があるなら放っておけない!」
 高らかに叫んだスティアの周囲に術式が展開される。手にした本型の魔導器が発動し、天使の羽にも似た魔力の残滓が不穏な夜に聖(きよ)く舞った。
「僕たちイレギュラーズが相手になるよ」
 約四メートルという巨躯のアレニエたちを、『特異運命座標』ラース=フィレンツ(p3p007285)は慎重に観察する。どこからかやってきた蜘蛛たちの気は、スティアとラースで引けているようだ。
「チチチチ」
 時計の秒針の音を早送りにしたような声を上げ、アレニエがスティアに突進する。すんでのところでスティアはかわした。
「間近で見るといっそう不気味ね!」
 次から次に仕掛けられる攻撃に備え、スティアは戦闘に集中する。
 緊迫感に満ちた戦場に、『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)の澄んだ詩声が響いた。
「さっさと片づけましょう」
「同感だ」
 駆けた『春知らず雪の中』ハルラ・ハルハラ(p3p007319)がより大量の蜘蛛を引き受けているスティアの援護に向かう。彼女に前足を振り下ろした蜘蛛の顔面に拳を叩きこんだ。
「ッラァ!」
 鈍重な一撃に蜘蛛がよろめく。
「糸を吐く瞬間、一瞬だけ蜘蛛の目が点滅するようだね」
 吐き出された黄金の糸を剣で払い、こちらを押し潰そうとしてくる黒々とした体を避け、ラースは全員に注意を促す。振り下ろされた前足が腕を浅く裂いた。
 今は痛みを堪え、引き受けた三体の蜘蛛に意識を向ける。
「出来る限りのことをする。それだけだよ」
 無茶はしない。過信もしない。状況をよく見て行動を選択し、仲間を信じる。その先に勝利の火が灯っていることを、ラースは知っていた。
 九体の異形の蜘蛛は、ダメージを受けながらも足を振り下ろし、ときには体全体を使ってスティアとラースに襲いかかる。
 土が舞い血がにじんだ。回復を担うポテトの手に力がこもった。
「ハッ!」
 スティアに攻撃を仕掛けようとしていたアレニエが、赤い目のひとつを潰されて仰け反る。
「少々大きすぎますが、的を外す心配はなさそうなのが救いとみるべきでしょう」
 凛と言い放った『流転騎士』アリーシャ=エルミナール(p3p006281)は両刃の大剣を構えていた。
「チチチチ」
 機能を失ったアレニエの目のひとつから、どろりと黄色い体液が流れる。うえ、とハルラが顔をしかめた。
「いやもうなんか全体的に気持ち悪い……」
「本当に」
 そもそも虫はあまり得意ではないラクリマが己の血を捧げて織りなした鞭を振るう。集中砲火を受けるアレニエは足を一本失い、よろめいた。
「もっとすごいのもいるわよぉ」
 たぶんねぇ、とのんびりつけ足して、アーリアは茨による死滅結界を発生させる。彼女自身をも傷つける武器だが、不安はなかった。ちょっと痛いだけだ。
「チチチチ……!」
「食べられてあげないし、誰も食べさせないんだから!」
 自身を回復したスティアの真横に、アレニエの足が振り下ろされる。巨大な敵に囲まれても彼女の目に恐れは浮かばない。
「いい夜にいい場所だ。ってのにこれじゃあ台無しだよなぁ?」
 敵の死角に回りこんでいた『Star Lancer』クリスティアン・メルヴィル(p3p007388)が口の端を上げる。極限まで練り上げた術が星屑のような燐光を散らした。
「そんじゃ、景気よく行くぜ!」
 夜気を引き裂いて星槍が奔る。直撃したアレニエの半身は、今にも引きちぎれそうだった。
「ヂヂヂ……!」
「おとなしく倒れてください」
 なおも足搔こうとするアレニエをラクリマが血の鞭で打ち据える。

「無駄に多いな!」
 舌打ち混じりにクリスティアンが小型の星槍で蜘蛛の足の関節を半ば断ち切る。続けざまにハルラがしっかりと体重を乗せた一撃を放ち、蜘蛛の足を折った。
「ヂヂヂ」
「糸でベタベタするし体液もベトベトするし……!」
「天体観測の名所にわざわざ降ってきやがって!」
 シャワーを浴びれば落ちるのだろうかと案じていたハルラは、目蓋を上下させてクリスティアンを見た。
「一番怒ってるの、そこか?」
「そこだ。とり戻させてもらうぜ」
 もちろん近隣住民の平穏も大切だが、星が綺麗に見える場所を汚されるなど、転星術師のクリスティアンには看過できない。
「せめて星であれば艶もあったでしょうが」
「不気味な蜘蛛、ですからね」
 スティアに振り下ろされていた足を跳躍したアリーシャが切り裂き、さらにその顔面をラクリマが鞭で殴る。
「浄化の炎よ!」
 舞い散る白翼に似た魔力の残滓が、深手を負っている蜘蛛に殺到し燃やす。スティアは術を放ちながらアレニエの向こうにいるラースの様子を確かめた。
 敵の動きも見えるようになってきた。とはいえ、三体がかりで猛撃されている以上、どうしても消耗する。
「……無事のようだね。よかった。作戦も破綻していない」
 後方からポテトがラースの傷を癒す。痛みと傷が癒えていく感覚に浅く息をつき、ラースは次の攻撃を右に跳んで回避した。続けて吐かれた糸は盾で受け、蜘蛛との接点を断つように剣で斬る。
「怖いねぇ」
 巨大な蜘蛛の化け物。現状は拮抗して見える戦力。その気は微塵もないが、油断をすれば星降りの丘はアレニエの領域に変わるだろう。
「あらあら、そっちはだめよぉ? これから彼の見せ場だもの。邪魔はよくないわぁ」
 アーリアが放った青の衝撃が、スティアから離れクリスティアンに突進しようとしていたアレニエを吹き飛ばす。
「よそ見してる場合じゃないんだから!」
「チチチチ……!」
 足が三本まで減ったアレニエの眼前で花弁のような魔力が躍る。鳴いた蜘蛛が再びスティアに這い寄った。
「で? お前はなーに呑気にしてんだ?」
 同族に牙を立てようとしていたアレニエの正面にクリスティアンは立つ。
「戦闘中は食事をするなって、ママに教わんなかったか?」
「ヂヂヂ……!」
 全力で放った強烈な星槍は、瀕死のアレニエを頭ごと吹き飛ばした。

 跳躍したアリーシャは炎に包まれているアレニエの頭部に大剣を突き立て、斬り裂く。どうと倒れる巨体から下り、手近なアレニエの足を横薙ぎにした。
 これまでの経験で分かったことだが、この生物にも柔らかな部分はある。関節と各個体に八つずつある眼球だ。前者を断てば動きが遅くなり、回避も困難になって、後者を潰せば攻撃の精度がある程度落ちる。
「といっても、闇雲に動かれるだけで厄介ですが」
 なにせこの巨体だ。加えてアレニエも学習しているのか、特定の部位をカバーする形で動いたりもする。
「動いても倒れても、この丘には相応しくない見た目ですね」
「流れ星を探す方がロマンチックだよね!」
 攻撃をかわすためにスティアが動くと、金色の糸が絡まった髪も跳ねた。肩で息をしているのは、盾役を務める彼女も、絶えず攻撃を仕掛けているアリーシャも同じだ。
「星であったとしても、人々を脅かすのなら容赦はできませんが」
 血の鞭を片手に、降り注ぐ星が丘を占拠し人命を奪おうとする光景を思い浮かべ、ラクリマは淡々と結論づける。
「ごもっともです」
「そうなると結局は敵だしね」
 冷静にアリーシャが頷き、スティアは難題に差し掛かったような顔をした。

 蜘蛛の足を蹴り折って、ハルラは深く息を吐き出す。拘束力があるわけではないが、体に付着した蜘蛛の糸の感触が煩わしかった。
「ハルラ、後ろだ!」
「おう!」
 ポテトの声に振り返る。血の気が一瞬引いて、すぐに戻った。ラースが引き受けている蜘蛛の一体が、アーリアが炭にしたばかりの死骸に向かおうとしている。
「死にかけなら大人しく死んどけよ!」
 頭を潰すつもりで拳を叩きこむと瀕死のアレニエは沈黙した。ポテトが少し安心したように頬のこわばりを解いて、治癒を行っている。
「はー……」
「黒焦げなんて食べてもおいしくないと思うのよねぇ」
「味覚がないのか、食べても回復しないけど食べずにはいられないのか……」
 あるいは、自分が生き長らえるためになにかを喰わずにはいられないという、本能。
 薄ら寒いものを感じてハルラはうなじに触れようとし、手に糸がついていることに気づいてやめた。
 白く美しい指先を、アーリアは自身の唇に添える。彼女の髪にも、粘着質な金色が混じって見えた。
「食べさせないのが一番だわぁ」
「違いない」
 赤々と蜘蛛が燃える。募った疲労はかなぐり捨てて、ハルラは拳を握り走った。

「ラクリマ!」
「はい」
 数こそ減ってきたが、まだ楽勝と言える範囲ではない。ポテトの要請を受け、ラクリマはそっと息を吸う。
 歌うのは永遠と光の聖歌だ。雪のように美しく、清く冷たく、はかなくそれは戦場に広がる。
「皆、もう少しだ! 蜘蛛に食べられるな!」
 仲間が食われるところを見たくないという思いは、全員に共通していた。ポテトの声にイレギュラーズがそれぞれ応じる。
「誰もアレニエの餌にはさせないぞ……!」
 まだ残っている巨大な蜘蛛を、ポテトは毅然と見据えた。
 ぞろりと生えたアーリアの茨が炎の残滓が残るアレニエの体を苛む。
「ヂヂヂヂ……!」
 身もだえる敵にクリスティアンが口の端を上げた。
「――竦然せよ、汝は天狼の好餌也!」
 両手に複数生成した小型星槍を、至近距離で叩きこむ。音を立ててアレニエが倒れた。
「あと四体だね」
「順調だな」
 そうとでも言わないとやっていられないとばかりに、マントについた糸を千切りとってクリスティアンは次の標的に向かう。
 微苦笑を浮かべたラースは後退し、のしかかろうとしてきた黒い巨体をかわした。土煙が舞う。
「あちらの一体はすぐに終わるだろうね」
 細く長く息を吐き、ラースは眼前の一体と対峙した。
 

 最後の蜘蛛が倒れる。
 唐突に起き上がってこないことを確認し、スティアは開いていた本を閉じた。
「怪我してる人はいない? 食べられた人は?」
「手当て、頼めるかな」
 剣を収めたラースが手を挙げる。スティアは素早く頷き、術式を展開した。
 同じくポテトも負傷者たちの治癒にあたる。比較的傷が浅かったアーリアは、くすぶっている最後のアレニエに近づいた。
「卵をまき散らしたり、油断したところにお腹から小蜘蛛がうじゃうじゃー、なんてこともありそうじゃなぁい?」
「……そうですね」
「ないみたいだけどねぇ」
 斜め後ろに立つアリーシャが身構える気配に、アーリアはころころと笑う。小さく安堵の息をつき、アリーシャは柄から手を離した。
「人為的な細工もないみたいねぇ」
「自然に生まれ、空から降ってきた生き物、ですか。この世界ではあり得ることかもしれませんが」
 釈然としないとラクリマはアレニエを観察する。
 足を切り飛ばされた個体も頭が潰れた個体も、燃えた痕跡がある個体もいた。あわせて九体。空から降ってきた、四メートルほどの蜘蛛。
 丘のあちらこちらに金色の糸の残滓がある。傷の治療を終えたイレギュラーズも皆、量の差こそあるがベタベタした糸を体のどこかにつけていた。
「まぁ、あとで専門家が調べるんだろうけど」
 死骸となってなお気持ち悪い巨大蜘蛛を、ハルラも観察してみる。クリスティアンが手に持っていた蜘蛛の足を投げ捨てた。
「その通りだ。さっさと燃やして天体観測を……」
「遮って悪いが」
 仲間たちを回復してから、周辺に危険が残っていないか調べていたポテトが声を上げる。蜘蛛を燃やそうとしていたスティアとアーリアが手をとめ、他の面々も彼女に注目した。
「飛んできたんじゃないか?」
「……羽、に見えるね」
 ポテトが持ち上げたものを、ラースがランプで照らす。夜を迎えてなお暗闇と呼ぶには明るい星降りの丘の一角で、それがあらわになる。
 透き通った、トンボの羽のようなもの。ただし大きさは一メートル近く、そのくせ半ばから折れたように見える。
「こっちにもあったよ!」
 はっとして草むらをあさったスティアも、似たものを見つけた。優美ですらある曲線を描く、羽の一部らしき残骸。それは根元でも、先端でもなさそうだった。
「三等分以上に折れている、とみるべきでしょう」
「この体を飛ばせる羽だものねぇ」
 ラクリマは整った顔に苦さをにじませ、アーリアはあたりに視線をさまよわせる。この近辺で残らず散らせたなら、羽はまだどこかに落ちているはずだ。
「すべて燃やしますか?」
「一枚だけ持って帰ろうか。調査の助けになるかもしれない」
 不気味そうにアリーシャは敵の落とし物を眺め、ラースは羽に指先で触れる。乾いていて、ガラスのような硬さがあった。
「飛んできたって、どこからだ?」
 根本的な疑問をハルラが投げる。応じられるものはいなかった。
 考えこんでいたクリスティアンが、ぱんぱんと景気よく手を打ち鳴らす。
「分からんもんは分からん! 情報が少なすぎるからな!」
「そうだな」
 同意したポテトは、羽をアレニエの側に置いた。
「見つけられるだけ見つけて、処分しよう」
「賛成だわぁ」
「手早く終わらせましょう。いつまでも見ていたくありません」
 淡泊ながら強い意思がこめられたラクリマの言葉に、各々が肯定を示す。アレニエは動かなくても不気味だった。

 羽を集め、アレニエの死骸とともに燃やし、一同は星降りの丘のてっぺんを目指す。先頭を行くクリスティアンの足どりは特別に軽かった。
 なにせ天体観測の名所だ。彼のテンションもおのずと上がる。
 最後尾を行くポテトの後ろには花が咲いた。灰になるまで燃やしたアレニエの死骸と戦闘の跡にも、この季節にあった花々を開かせてある。
「見事なものだね」
「せっかくの名所だ、汚れたままにするよりいいだろう?」
 素直に称賛するラースに、ポテトが微かに照れたようにはにかんだ。これから近隣住民の憩いの場としても使われそうな光景を振り返り、ラースも穏やかに首肯する。
「今までも、これからも、たくさんの人の思い出の場所であってほしいよね」
 後ろ手で本を持つスティアに、ポテトは深く顎を引いた。
「ああ。……まだまだ、知らない場所がたくさんあるな」
「世界は広いからね」
 フォン・ルーベルグ内にある夫の実家を想うポテトの発言に、世界を踏破するための旅をしているラースは微笑んだ。
「またなにか、起こるのでしょうか」
 威風堂々と歩くクリスティアンの背を見つつ、アリーシャは呟く。隣を歩むラクリマが片方だけの目で遠くを見た。
「たいていなにかが起きている気がします」
「賑やかな世界よねぇ」
 ふふふ、とアーリアが笑う。善も悪も一緒くたにして、混沌の時間は今日も廻る。
「他の世界もこんな感じなのか?」
 純粋な好奇心から放たれたハルラの問いに、アリーシャは一瞬だけ悲痛を双眸に閃かせた。
「なーんにもない人生も、善悪のひとつもない世界もないだろうさ。それよりほら!」
 元居た世界での出来事を思い出し、とっさに答えあぐねたアリーシャではなく、クリスティアンが会話に終止符を打った。
 仲間たちを振り返り、彼は夜空を指し示す。――満天の、星空を。
「すげ……」
「……なるほど、星降りの丘ですね」
「本当に、今にも降ってきそうな……」
 瞠目したハルラが言葉を失い、ラクリマも感嘆の息をつく。アリーシャは息をのんで見入った。
「うわー、うわー! すごい、触れそう!」
「星見の名所か。うん、納得の光景だね」
 スティアがはしゃいで跳ねる。ラースは手を伸ばし、散りばめられた星と星を、記憶を頼りに繋いでみた。
「懐かしいわぁ」
 ぽつりとこぼされた小さな声に、ポテトはアーリアに視線を移す。ポテトと目があったアーリアが肩を竦めた。
「本当に小さなころ、一度だけ家族で遊びにきたのよぉ」
 今度は家族でピクニックにこようか、と考えていたポテトは、名案を思いついてアーリアに一歩近づき、声を潜めた。
「他にもおすすめの場所があるなら、教えてくれないか?」
「もちろんよぉ」
 快諾したアーリアにポテトは目を輝かせる。
「クリスティアン大先生の星座教室、始まるぞー!」
「参加します先生!」
「僕もお願いするよ」
 仁王立ちになったクリスティアンにスティアが駆け寄り、ラースも挙手した。
「興味深いです」
「じゃあ、俺も」
「私もよろしいですか?」
 ラクリマ、ハルラ、アリーシャも講義の輪に入った。アーリアが片目をつむる。
「私たちも行きましょぉ?」
「後学のためにも」
 真剣な表情でポテトも参加を表明した。
 一同の顔をざっと見回して、転星術師は夜空を仰ぎ見る。
「じゃ、まずは分かりやすいやつから――」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

蜘蛛はどこからきたのか、なんだったのか。
それはさておいて、星降りの丘は無事、魔の手から救われました。
疑問はひとまず脇に置き、今は美しい星空をご堪能ください。

ご参加ありがとうございました!

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