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シナリオ詳細

シャイネンナハトの人攫い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●聖夜の悪業
 シャンシャンシャン、シャンシャンシャン。
 深夜のスラムを、ソリが鈴を鳴らしながら進んでいきます。
 雪、でしょうか。ソリの上にある機械は、白く細かいものを撒いています。
 その後ろには、聖女と悪魔に扮した人の姿。
 そう、今夜はシャイネンナハト。聖なる特別な夜です。
「こんばんは、皆さん。私達は、クラースナヤ・ズヴェズダー」
「シャイネンナハトに因んで、特別にお料理を運んできました」
「七面鳥のロースト、ラムのステーキ、柔らかいお肉のたっぷり入ったビーフシチュー」
「温かいショコラ、ポテトのフライ、サクサクの衣とシャキシャキリンゴのアプフェルクーヘンもありますよ」
 なるほど。確かに、ソリの後ろには屋台のようなトラックが付いてきています。
 ――ですが、如何したことでしょうか? 聖女も悪魔も、いえ、トラックに乗っている人達もガスマスクを着けているのです!

 トラックからは、ふうわりと美味しそうな料理の匂いが漂います。
 食欲をそそられた子供達は、こうなるともう我慢出来ません。
 バラックの扉を開けて、わあ、とトラックへ駆け出しました。
 いくつかのバラックからは、親と思しき大人達が、後を追っていきます。
 ――しかし、子供達も、大人達も、トラックに辿り着くことはありませんでした。
 途中で眠るように、パタリと意識を失ってしまったからです。

 屋台のようなトラックの後ろから、さらに大きなトラックが現われました。
 そこから、わらわらとガスマスクを着けた人々が出てきます。
 彼らは、倒れたスラムの人々を次々とトラックの中に投げ込みます。
「少し、足りんな。その辺りのバラックから適当に攫ってこい」
「――はい」
 中年の悪魔に扮した人物が、年配の男を思わせる声で指示します。
 聖女に扮した人物は、年若くしかし静かな少女の声で応えます。
 聖女に扮した少女は、バラックの扉に手刀を振るいました。
 すると、扉が刃物で切ったように断ち切られているではありませんか!
 聖女に扮した少女は、中にいる子供達を瞬く間に気絶させます。
 周囲の人々が、気絶した子供達をトラックへと放り込みました。

●虐殺される前に救出を!
「鉄帝のスラム街モリブデンで、攫われた住民の救出をしてくれる方はいませんか!?」
 ギルド・ローレットで『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)が、依頼に参加するイレギュラーズを募る。普段はのんびりした口調でいることが多い勘蔵だが、今回はその口調が切羽詰まっている。依頼の緊急度が高いことが、窺い知れた。
「シャイネンナハトに、クラースナヤ・ズヴェズダーを騙った何者か――おそらく、鉄帝軍人ですが――が、住民を攫っていきました」
 それを遠目に見ていた別の住民が、クラースナヤ・ズヴェズダーに通報。名前を騙られたクラースナヤ・ズヴェズダーから、依頼がローレットに寄せられた。
「幸い、誘拐の実行犯がある程度目立つ編成であったこと、また、クラースナヤ・ズヴェズダーがすぐに動いたことから、攫われた人々の居場所はすぐにわかりました。しかし、ここからが彼らではどうしようもないところでして……」
 攫われた人々は、廃墟となった建物に連れ込まれた。しかし、この建物は陣地構築でもしているのかと思うほどに重火器で守りを固められている。
「さらに悪いことに、厄介な要素が二つほどありまして」
 一つは、聖女に扮していた鉄帝軍人、レン・シュトー。鉄騎種の少女であるが、鉄帝軍人として高い戦闘力を持つことで知られている。
 もう一つは、住民達の意識を失わせた白い雪のような――ガス。住人達を攫うのに使われたが、侵入者からの防御にも間違いなく使用されるはずだ。
「それでも、何としてもこれらを突破し、住民達を救わねばなりません――と言うのも、ここ最近、『血潮の儀』と呼ばれる儀式のために子供を虐殺すると言う事件が起きており、確証こそ持てませんがそれとの関連は極めて高いと思われるからです」
 困難な依頼ではある。しかし、取り返しの付かない惨劇を招く前に、どうか住人達を救出して欲しい。勘蔵は深く頭を下げて、イレギュラーズ達に懇願した。

GMコメント

 こんにちは。緑城雄山です。
 今回はシャイネンナハトの夜に卑劣な手段で攫われた、スラム住人達の救出をお願いします。

●成功条件
 廃墟に連れ込まれたスラム住人達の生存、救出

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●廃墟
 3階建てのこぢんまりとした建物です。OPでも触れているとおり、重火器で武装されています。
 鍵はされていますが、長い年月使われずに脆くなっているため入口にしろ壁にしろイレギュラーズの攻撃2発前後(火力型なら一撃でしょう)で破壊することが可能です。
 住民達を救出するには、重火器による守りを突破した上で、中にいるレンをはじめとする鉄帝軍人を戦闘不能にする必要があります(生死不問)。
 そこまで達成すれば、判定等は不要で住民達を救出出来ます。

●イレギュラーズ達の初期配置
 廃墟のどの方向からであれ、最低100メートルは離れています。
 逆に言えば、そこから中に入ろうとした時点で戦闘開始となります。

●重火器
 ガトリングガン(物遠単)です。
 建物周囲に4門、3階に4門の計8門用意されています。どの方向から侵入しようとしても、4門から攻撃されます。
 当然、廃墟の中に入った相手に対しては無力となります。
 射手含めて、命中、攻撃力、反応は高め、回避は動けないので最低です。HPは軍人であることから、防御技術は防護板があることからやや高めです。
 イレギュラーズが射手を倒さず廃墟の中に入った場合、射手は中に入っていき、後述する鉄帝軍人として途中から戦闘に参加してきます。

●レン・シュトー ✕1
 廃墟の中で待ち受けている鉄帝軍人にして鉄騎種の少女です。
 幼い頃から兵士として育てられたためか、自分の意志や感情を抑制されています。
 命令だから、任務だからで指示されたとおりの行動を行います。
 それ故か年齢に比して戦闘能力は高く、特に物理攻撃力と回避が極めて高いです。また、EXAもなかなか高いため、しばしば連続攻撃が発生する可能性があります。
 一方、防御技術はほぼ皆無で、特殊抵抗も高いとは言えません。

・攻撃手段など
 手刀(通常攻撃) 物至単 【防無】【出血】【流血】
 薙ぎ払い(アクティブスキル) 物至列 【弱点】【出血】【識別】
 精神耐性(パッシブスキル)

●帝国軍人 ✕12(射手含む)
 廃墟の中で待ち受けている帝国軍人達です。能力は平均的。
 最初は4人がレンと一緒にいます。廃墟に入る際に射手を倒さなかった場合、3ターン目冒頭に8人が援軍として参戦します。
 イレギュラーズ達との戦闘では、最初のターンは固体のガスを散布します(最初の4人のみ)。
 2ターン目以降は、サーベルやピストル、アサルトライフルなどで至近~遠距離に対応した攻撃を行います。

●ガス
 住民達の意識を失わせた、催眠ガスです。
 固体は白く軽いのですが、大量の空気に触れると気化します。
 レンや帝国軍人は、イレギュラーズ達との戦闘時にはガスマスクを装備するためガスの影響は受けません。
 このガスマスクは戦闘で破壊される事はありません。そのため、レンや帝国軍人が戦闘不能になった場合、外して利用することが出来ます(ただし、外す、着けるでそれぞれ副行動を費やします)。

 このガスが撒かれたターンから、ガスマスクなどで防護されていない者は毎ターンの最後にレベルをプラス補正とした特殊抵抗で判定を行います。布などで口を覆ってガスを吸わないようにしている場合、判定から逃れることは出来ませんが、プラス補正を得ることが出来ます。
 この判定に失敗した場合、睡魔に冒されて次ターンから命中、回避、反応、攻撃力、防御技術が半減します。
 さらに、睡魔に冒されている状態で特殊抵抗の判定に失敗した場合、眠ってしまって行動不能となってしまいます。

 睡魔に冒されている状態、眠ってしまった状態、いずれもBS回復スキルで回復出来ますし、自然回復もします。また、誰かが1ターン費やしてダメージにならない程度の攻撃を行って起こすことでも、この状態から回復させられます。
 眠ってしまった状態から回復した場合、そのターンは能動的な行動は出来ません。

●住民達 ✕30
 攫われたスラムの住人達です。子供が20名、大人が10名。
 依頼を受けて即座に廃墟に駆けつければ、全員生存した状態で救出可能とします。
 ただし、準備その他でゲーム内時間をかけるようなことがあれば、それに応じて生存率は低下していきます。具体的には、後述する『血潮の儀』が行われた時点で、住民達は一人残らず全滅します。

 なお、儀式の生贄とする必要があることから(さらにメタ情報を言えば、戦場とは別の階に囚われていることから)、戦闘時に人質にされたりすることはありません。

●血潮の儀
 子供達を虐殺し、血と恐怖を捧げ続けることで古代兵器稼働のエネルギーとする儀式です。大人達はそのスパイスになるだろうと言うことで連れ去られました。
 勘蔵は確証を得られなかったため「関連は極めて高い」と言う言い方をしましたが、実際にその推測は当たっています。今回の事件はこの儀式のためであると、皆さんはメタ的に(PLレベルで)知っていて構いません。
 この儀式が何時行われるかは不明です。

●クラースナヤ・ズヴェズダー革命派メンバー
 今回の依頼者です。スラム住人の通報を受けて、ローレットに住民救出の依頼を出してきました。
 依頼については組織を騙られたことや緊急性などから現場の判断で出されているため、代表などはこの時点ではタッチしていません。

 さて、皆様のシャイネンナハトは如何でしたでしょうか。私の方は、このOPの執筆時点で、夜通し仕事に従事するのが確定しております(泣)。
 それはさておきまして、これが今年最後のOPとなります。
 シナリオに参加して下さる皆様は、よいお年を過ごしつつ、プレイングを練って下さいませ。
 今回のシナリオにはご縁のなかった皆様も、よいお年をお過ごし下さいませ。また来年機会がありましたら、その際はどうぞよろしくお願い致します。

 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • シャイネンナハトの人攫い完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月17日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
アベル(p3p003719)
失楽園
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
回言 世界(p3p007315)
狂言回し

リプレイ

●『血潮の儀』が行われる前に
 攫われた住民達が運び込まれた廃墟へと、イレギュラーズ達は急行する。『血潮の儀』が行われる前に、住民達を救出するために。
「……ここのところ、ただのスラム再開発にしては妙な動きも色々あったけど、今回は随分と直接的な動きに出てきたみたいだね」
「そうだな。住人の誘拐とはこれまた大きく出たものだ。この件も、鉄帝が最近きな臭くなってることと関係があるんだろうな」
「焦っているのか、もう隠す必要がなくなったのか……」
「……何にせよ、さっさと助け出した方が良さそうだ。悪い予感もする」
 その道中で、『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917) が独り言ちる。鉄帝のスラム出身であるメートヒェンは、これまでも何度か依頼を通じて『妙な動き』のもたらす事件に関わっていた。
 メートヒェンの独語を肯定する形で応じたのは、『凡才の付与術師』回言 世界(p3p007315) 。気怠げな外見に似合わず、泣いている人々や苦しんでいる人々を見過ごせない情の厚さから、面倒事に首を突っ込むことがままあった。
 世界の言葉にメートヒェンが頷く。住民達を必ず救出すると言う硬い意志が、二人の双眸にしっかりと宿っていた。

「人の命を犠牲にした兵器なんて……! そんなの、絶対に使わせるもんか!」
「シャイネンナハトの楽しい夜を壊すような事は許せぬ。更には儀式による死者まで出すわけにいかぬ。――鉄帝軍の陰謀、止めて見せる!」
 『血潮の儀』と、それを行わんとする鉄帝軍人の非道に憤り、目論見を必ず阻止せんと強く意気込んでいるのは『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)。一人でも多くの人を護り救うヒーローたらんとするアレクシアにとって、『血潮の儀』も鉄帝軍人達のやりようも、決して受け容れられるものではない。
 それは、誰かを護るために騎士たらんとする『背を護りたい者』レイリー=シュタイン(p3p007270)も同様である。二人は互いに言葉を交わしあいながら、攫われた住民の救出に向けて、ますます士気を強くしていった。

(元々、狼はヒトの取り分と競合するものだ、狼除けをしていないアレ等が悪い。むかーしむかし……)
 『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)は内心で独語しつつ、イレギュラーズ達の最後尾で霊性強装具『迫狼』を飲み込んで、戦闘に備える。その様は、人間の姿でありながらも狩りに備えて爪牙を研ぎ澄ます狼を思わせた。

●廃墟への突入
「聞いていたとおりだが、それにしても大仰なことだな。鉄帝らしくない、と云おうか。彼らにここまでさせる『血潮の儀』がどれほどの儀式か、とても気になるじゃあないか」
 目的の廃墟の付近まで、イレギュラーズ達は到着した。『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は侵入者を迎え撃つ四門のガトリング砲を見て、苦笑いを浮かべつつ呟く。もっとも、ラルフはガトリングの威力に関しては心配していない。同行しているイレギュラーズの半数が、盾役を担えるほどに耐久力に優れているからだ。

 廃墟まで残り百メートル。最初に動いたのは、メートヒェンだった。全力疾走で廃墟の入口に取り付く。そのメートヒェンに対し、廃墟付近左側と三階の右側から、銃弾の雨が降り注ぐ。メートヒェンは三階からの射撃に被弾してしまったが、銃弾は戦闘用メイド服を貫くことが出来ず、命中した場所からポロリ、とこぼれ落ちた。
 次いで、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が動き、メートヒェン同様入口に取り付く。エッダに対しては三階の左側からガトリングが撃たれたが、銃弾は帝国式自律重甲冑『MP』にカキンカキンと弾き返された。
「効かんでありますよそんな豆鉄砲! いってぇなコラァ!! 今撃ったヤツ、後で潰すであります!!」
 平然としながら吼えるエッダの剣幕に、射手はつい防御板の裏に隠れてしまう。
「鉄帝軍よ、貴様らの儀式の企みは分かっている! さぁ、観念しろ!」
 さらに、レイリーが雄叫びを上げながら入口まで動く。残るガトリング一門がレイリーに銃弾の雨を浴びせるが、これもドラゴニックメイルを僅かに傷つけるに留まった。レイリーは突進した勢いのまま、リベリオンで入口を殴りつけ破壊しようとするが、大きく扉を歪ませるものの破壊するまでには至らない。
 ガトリング砲が全門攻撃したところで、残るイレギュラーズ達は入口付近まで移動した。

 入口を破壊しようとするアレクシアに先んじて、三階右側から銃弾の嵐が降り注ぐ。しかし、銃弾はアレクシアの防御結界に全て弾かれた。
 何事もなかったかのように、アレクシアは入口に不撓の香花を放って廃墟の入口を破壊した。

●吹き飛ばされる、催眠ガス
「ガスは撒かれたか……だが!」
 破壊された入口から廃墟の中に突入したラルフは、床が白く染まっているのを見て、既にガスが撒かれているのを悟る。しかし、レイで鉄帝軍人諸共に壁を撃って穴を空けた。さらには、少女――レン・シュトー――の前に立つと、クロノプリズンを仕掛ける。だが、命中はしたものの直撃には至らなかったため、レンの行動を止めるには至らなかった。
 メートヒェンは、まだ入口周辺にいるイレギュラーズ達をガトリングの砲火から護るべく、やや後方に下がってガトリング砲から狙いを付けやすくした上で、挑発を仕掛ける。
「そのガトリングは張りぼてかい? こんなか弱いメイド1人倒せないなんて、鉄帝の軍人はいつの間にそんな軟弱者の集まりになったんだろうね?」
 ガトリング砲の射手達は、見事にその挑発に乗ってしまった。三門のガトリング砲から熾烈な射撃が浴びせられたが、メートヒェンの負った傷はまだ浅い。
「ラルフ殿、彼女の抑えは任せた――さぁ、お前達の相手は私達だ。かかってこい!」
 レイリーは鉄帝軍人の一人と距離を詰め、ブロックで自由な動きを封じる。鉄帝軍人は目の前のレイリーが邪魔だとばかりに斬りかかるが、その刃は空を切った。

「……く、こいつ!? わざわざガスマスクを用意して対策して来ただと!?」
 次に建物内に入ってきた『未来偏差』アベル(p3p003719)のガスマスクに、鉄帝軍人は動揺の色を隠せない。
(……俺のガスマスクは壊れてるんで、対策にはならないんですけどね?)
 とは言え、見た目だけではそれが鉄帝軍人達にわかるはずもない。そして、自分のガスマスクが偽物だとわざわざ知らせてやる理由もない。
「遠慮無く、ばら撒きますよ」
 鉄帝軍人達の動揺に付け入る形で、アベルは鋼の驟雨を降らせる。
「ぎゃあああああっ!?」
 降り注ぐ鋼は、鉄帝軍人達を仕留めるまでは行かなかったものの、軽くはない手傷を負わせた。
 エッダは、鉄帝軍人達のうち二人をブロック。ブロックされた鉄帝軍人二人はエッダに斬りかかるが、片方の刃は空を切り、もう片方は掠り傷を負わせたに過ぎなかった。
 レンはラルフに手刀を浴びせんとするが、ラルフにその一閃は届かなかった。

「風の精霊達よ――我が命に従い、この場に漂う毒気を吹き飛ばせ!」
 世界は簡易式召喚陣で風の精霊達を召喚し、充満するガスを除きにかかる。『妖精郷の主』のエスプリで精霊への影響力を強化していることもあってか、風の精霊達は世界の命令に従ってビュウ、と強い風を吹かせ、ガスのほとんどを外へ追い出した。
「では私は、残りを片付けるとしよう。『それなら俺は腹をたて、この家をひと吹きで吹き飛ばしてやるぞ!』――随分と貧相な小屋じゃあないか。これでは狼は防げないぞ」
 ダカタールは子豚の家を壊す勢いで狼の息吹を放ち、まだ僅かに残っている催眠ガスの白い結晶をこの場から完全に吹き飛ばした。
「……何と言うことだ!? ガスが吹き飛ばされただと!?」
「ええい、狼狽えるな! ガスがあろうと無かろうと、『血潮の儀』までここを死守せねばならんのだ!」
 リーダーと思しき鉄帝軍人の叱咤も虚しく、レンを除く鉄帝軍人達の間には動揺が広がっていた。

●レンを、止める
「……止まれえっ!」
 レンの動きを止めるべく、ラルフのクロノプリズンが放たれる。しかし、今度も直撃には至らず、ダメージこそ入るもののレンの動きは止まらない。
「メートヒェン、回復を!」
「ありがとう、世界殿!」
 世界は、メートヒェンをミリアドハーモニクスで回復する。メートヒェンの受けている傷は、ほぼ掠り傷同然となった。
 そのメートヒェンは、入口を塞ぐように陣取る。果たして、反対側からガトリング砲を離れて中に入ろうとする鉄帝軍人二人が、行く手を塞がれた。
「大丈夫か!?」
 上階から降りてきた鉄帝軍人二人が、レンを援護するべくアサルトライフルでラルフを撃つ。だが、弾丸は明後日の方向に飛んでいった。
 アレクシアは最も深手を負っている鉄帝軍人に不撓の香花を直撃させ、戦闘不能に陥らせる。
 レイリーはブロックを継続し、鉄帝軍人の足を止め続ける。鉄帝軍人からの攻撃も、難なく回避した。
 エッダは目前の鉄帝軍人が倒れたため、ブロックの対象をこれまでブロックしていた一人とリーダー格の鉄帝軍人に切り替える。そして、リーダー格の鉄帝軍人に睨め付けるような視線を浴びせながら、口を開いた。
「やってしまったな、貴様等。近頃の兵の質の低下は目も当てられぬ。子供を拐かし、贄とすると? それは財だ。資源ではない」
「財だと? 資源だと?」
「――資源とは貴様ら、そして我々だ。軍人とはその為にあるのだ。恥じるが良い」
「何を、わけのわからんことを! 俺達は命令に従っているんだ! 恥じる必要など無い!」
 リーダー格の鉄帝軍人は、虚勢を張って叫び返す。だが、催眠ガスと言う防御策を無にされ、戦況も芳しくない状況では迫力に欠けた。
「――そうか。では、敗北を待っていろ」
 エッダは深く嘆息すると、そのまま鉄帝軍人達の動きを封じ続けた。

「――!?」
「……もう、アンタはまともに動けませんよ」
 アベルの狙撃――インターセプトⅢ――が、レンに直撃する。俊敏だった動きが止まり、様々な状態異常に陥ったのが明らかに見て取れた。
「――く、ぅっ」
「――ぬうっ!」
 それでもレンは渾身の力を振り絞り、ラルフに手刀で斬りかかる。半ば不意打ち気味の一閃は、ラルフの鳩尾を横一線にスッパリと斬り裂いた。
 上階から降りてきた鉄帝軍人達を、ダカタールはきさらぎ経由の特急鉄道で跳ね飛ばす。警笛と共に現われた特急列車に跳ね飛ばされた二人は、軽くはない傷を負うもののまだまだ戦闘可能であるようだった。
 メートヒェンに足止めされた鉄帝軍人達は、メートヒェンに斬りかかるものの攻撃を当てることさえ出来なかった。

 レンは誰に攻撃するべきか迷うそぶりを見せつつも、ラルフを手刀で斬りつける。だが、ラルフは何なく回避する。
 メートヒェンは足止めしている鉄帝軍人の一人にバックハンドブロウを直撃させて、昏倒にまで追い込んだ。
 世界はラルフをミリアドハーモニクスで回復し、ラルフは魔狼襲でレンの腹部を貫かんとする。だが、必殺の抜き手はレンの脇腹を深く斬り裂いたものの、貫くとまでは行かなかった。
 アベルは再度レンを中心にプラチナムインベルタを放つ。渾身の一撃はレンに深手を与え、エッダとレイリーがブロックしている鉄帝軍人達を切り刻んで大地に倒れ伏せさせた。
(護るべきものを奪う命令まで聞くべきかどうか、自分で考えて欲しかったけど……)
 少なくとも、精神的に正常な状態でない今、その問いを発するのは酷であろう。既にレンが満身創痍となっている以上、せめて戦闘が終わった後に考える機会を得てくれれば。アレクシアはそう願いつつ、不撓の香花を放った。黄色い花弁を模した魔力の塊が、レンの身体に叩き付けられる。
「――まだ、っ……」
 一度は地面に倒れ伏したレンが、よろよろと立ち上がる。
「君と言う物語の結末となるか、ならざるか――しかし、この章はもう終わりだ」
 ダカタールの魔哭剣が、レンを袈裟に斬る。今度こそ、レンは倒れ伏して動かなくなった。

●戦い終わりて
 ガスを喪い、レンが倒れたとなると、残りの鉄帝軍人達はただ討たれていくだけとなった。しかも、メートヒェンによって入口で分散させられているため、各個撃破されたのである。

 戦闘を終えたイレギュラーズ達は、生き残りの鉄帝軍人に尋問する役と、住民達を捜索する役の二手に分かれた。
 鉄帝軍人のうち、リーダーは死亡、レンは重体、その他も大半は死亡。
「さて、君達は鉄帝の軍人の筈だ。何の儀式か知らんが、軍が不法に民の命を奪うのは奇妙だ。そうでなくとも最近鉄帝の動きがおかしい、何かが裏で誘導しているようにな」
 まともに話せるのは二人だけであり、やむなくラルフやエッダはその二人にいろいろと尋問したものの、作戦を指揮しているリーダーではないこともあり、結果は芳しくなかった。だがそれでも、これらの動きの裏には鉄帝将校ショッケン・ハイドリヒがいるらしいと言うことはわかった。
「……これ以上は出てこない、か」
「部隊長が死んだ以上、無理もないでありますね」
 ラルフとエッダは、嘆息しつつ尋問を打ち切ることにした。

(将校ショッケン・ハイドリヒ。スラムに関する一連の事件の黒幕……)
 尋問を終えたラルフとエッダから聞き出した名前を、メートヒェンは内心で何度も反芻する。これまでも今後も、ショッケンが引き起こす事件に関わることを思うと、当面はこの名前を忘れることが出来そうになかった。

(……良かった。皆、無事のようだ)
 住民を探して二階に駆け上ったレイリーは、縄で拘束され床に転がされている人々の姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす。眠らされてはいるが、命に別状はないようだ。
「彼らを縛る縄を、解いていこう」
 世界が、次々と人々を縛る縄を断ち切っていく。レイリーと世界も、それに続いた。
「……あれ? ここは何処だ? 確か、シャイネンナハトで……」
「落ち着いて聞いてほしいんですが、実は……」
 目が覚めて不思議がる人々に、アベルが事情を説明する。全員の拘束が解かれ、目を覚ましたところで、イレギュラーズの引率によって攫われていたスラムの住民達は無事にモリブデンに帰された。

(……全く、肉が食えるかと思ったら、不味そうなスラム住民かブリキの人形しかいないとは!)
 期待外れの状況に憤慨しつつ、ダカタールはゴミのポイ捨てはよくないとばかりに、死亡したブリキの人形こと鉄帝軍人の鉄騎種達を埋葬していた。それでも、全く役得が無かったわけではない。
 死亡した鉄帝軍人の中にはカオスシードも少数ながら居たようで、ダカタールは彼らの肉を夜食にするのを楽しみにしていた。

(あの子、大丈夫かな? 厳罰はないと思いたいけど……)
 事件より数日後。アレクシアは窓の外の暗闇を眺めつつ、レンの今後を案じていた。事件の実行犯として責任を問われ、処罰されるのはまず避けられない。しかし、命令の意味を理解していないであろう身に、あまり重い罰が科せられるのも酷なように思えた。
 ――物憂げに外を眺める、アレクシアの視線の先。窓の外には、本物の雪がしんしんと降り始めていた。

成否

成功

MVP

回言 世界(p3p007315)
狂言回し

状態異常

なし

あとがき

 この度はシナリオへのご参加、大変ありがとうございます。
 また、執筆の遅れからリプレイの返却が遅くなってしまいまして、大変申し訳御座いません。

 さて、今回はガトリングは盾役にきっちり止められる、ガスは完全に吹き飛ばされてしまう、レンは複数回行動が全く発生しない上にラルフさんにまともに当てられないと、ほぼ完封された感じでした。
 中でも、ガスを吹き飛ばしにかかるのは完全に想定外でした。特に、アイテムとスキルとエスプリを組み合わせて説得力をしっかりと持たせてくれた世界さんのプレイングには、「あ、はい。じゃぁ、ガスは大半が吹き飛びますね」となるしかありませんでした。
 と言うわけで、今回のMVPは世界さんにお送り致します。

 それでは、お疲れ様でした。
 楽しめて頂けましたら、幸いです。

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