PandoraPartyProject

シナリオ詳細

カルネと虐殺チェスゲーム

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●オートマトン
 白い部屋があった。
 ベッドも棚もないただの四角い空間に、やってくる子供が十人ばかり。
「ようこそ。こどもたち。こちらは、みらいある、まなびやです」
 おそらく天井からだろうか。耳を塞いでも伝わりそうなほどの大音量で、合成音声が流れた。
「ぜんいん、へやのちゅうしんへ、あるいてください」
 子供たちは何もない部屋の中で流れる合成音声をいぶかしみ足を止めたが、入り口の外からせっつくように入ってきたオートマトン(自動人形)が子供たちを無理に前へ進ませた。
 タイヤひとつきりの、さび付いた金属でできたオートマトンである。
 おおまかなシルエットはチェスの駒に似ているが、側面から何本かの腕を出すことができ、下部のタイヤで移動が可能なようだった。
 出した腕のひとつでマジックアームをがちがちと鳴らし、はやく前へすすめとばかりに威嚇する。
「ぜんいん、へやのちゅうしんへ、あるいてください」
 そしてまたこの、合成音声。
 子供たちはせっつかれるままに前へ進み。
 そして。
「レクチャーワン。みなさんに、かちはありません」
 なにを言うんだ。そんな顔をする子供たちに、合成音声はこう続ける。
「レクチャーツー。ただし、エネルギー源としてのみ、かちがあります」
 激しい回転音。
 驚いて振り向くと、先ほどのオートマトンがはやした腕の先端で回転ノコギリを起動していた。
 オートマトンの後ろで扉が閉まる。
 悲鳴をあげる子供たち。
「ぜんいん、へやのちゅうしんへ、あるいてください」
 回転するノコギリ。
「ぜんいん、へやのちゅうしんへ、あるいてください」
 吹き上がる血。
「ぜんいん、へやのちゅうしんへ、あるいてください」
 悲鳴。
「ぜんいん、へやのちゅうしんへ、あるいてください」
 悲鳴
 悲鳴。
 悲鳴。
「儀式の完了を確認しました。新しいエネルギー源を補給してください」


 重々しい表情で資料を読むカルネ(p3n000010)。
 テーブルの上のコーヒーには、まるで手をつけていないようだ。
 そしてやってきたあなたにも、まだ気づいていないようだった。
 そしてすぐ近くにやってきたことでようやく、あなたに気づいて資料から顔を上げた。
「やあ、今回は君と一緒に仕事ができるんだね。うれしいよ。けど……今回の事件は素直に喜べないな」
 カルネはそう言って、あなたに同じ資料を手渡してきた。

 『モリブデン事件』と題されたそれは、子供たちの集団拉致と虐殺に関する事件である。
「鉄帝スラムでは最近、頻繁に拉致事件が起こっているんだ。
 表沙汰……というか、ニュースにはなっていないよね。夜逃げとか移住とか出稼ぎとか、スラムで人が消えるのは日常茶飯事だし、軍や警察もスラムのもめ事を相手にしない習慣があるんだ。
 ともかく。今回の事件はそういう種類のものだってこと。
 だから、僕たちのような『世界の何でも屋』が出向くことになるし、そうせざるをえない」
 今回担当する事件の内容はこうだ。
 モリブデンにやってきたある慈善団体が、子供たちに住居と学習環境を用意し、その際に家族へ奨学金が支払われるという育成環境試験が行われると説明した。
 鉄帝の未来を明るくひらくための投資として有名な軍人や芸術家や他国の人権派貴族がスポンサードしているというのだ。
 子供が勉強できておまけにお金ももらえるからと、複数の家族が家の子供をその試験とやらに応募させ、まとめてスラムから旅立った……は、いいものの。
 それから一切音沙汰はなく、情報屋がたどっていくと地下の古代遺跡に連れ去られ虐殺されていたというのだ。
「どうも、古代遺跡にエネルギーを送るために『血潮の儀』ってものをしてるらしい。
 子供たちをあつめて血と涙を流させる呪いの儀式さ。
 誰がこんなことを主導してるのかはわからない。けど、止めなくちゃいけないのは確かだ。そうだよね?」

 突入するのは鉄帝自然公園という、公園とは名ばかりの雑木林。その地下に広がる古代遺跡である。
 遺跡内にはチェスの駒めいたオートマトンが無数に巡回しており、こちらを発見ししだい殲滅と排除を行うだろう。
「どんな施設かはわからないけど、壁に地図が書いてあるような優しい施設じゃないのは確かだ。施設内を手分けして探索して、子供たちがとらわれている部屋を見つけて奪還しよう。
 少し危険だけど、この笛を鳴らせば合流できる。子供たちを見つけたら合流してオートマトンを倒しながら脱出だ」
 カルネはそういって笛を手渡すと、さめたコーヒーをその場に残して席を立った。
「僕は、少し先に身体を動かしてくるよ。
 とても……とても、頭にきてるんだ」

GMコメント

■依頼内容
・成功条件:子供たち(約10人)のうち半数以上が生存していること

■古代遺跡への突入と探索
 鉄帝スラムの地下にあるという古代遺跡。
 金属製の壁や天井。石のタイルなどで整えられた古い遺跡です。あちこちほこりだらけですが、オートマトン(自動人形)がたえず巡回しており、何者かの管理下にあることがうかがえます。

 施設内は道が入り組んでおり、あちこち探索して回る必要が生じます。
 もちろん探索のたびにオートマトンと会敵し、戦闘が発生するでしょう。
 探索方法はメンバーによりますが大きく分けて二通りあります。
・全員一塊になって探索:安全ですがとても時間がかかります
・バラバラにわかれて探索:バラければバラけるほど危険ですが、その分探索が早まります

●施設について
 壁や床などには透視無効化処理や物理透過無効処理、また防音処理などが施されており、壁や扉を無視して超広範囲の探索を行うのは難しそうです。
 また空気ダクトなどがあるにはありますが、途中のダクトはとても細くネズミ程度しか通れません。
 
 とはいえ、子供たちの虐殺を行う部屋が複数あったり、待機させておく部屋がいくつもあったりするとは今回の事件の性質上考えづらく、少なくとも過去数回そういったことが行われたと考えるのが妥当でしょう。
 探索のヒントは、主にこのあたりにあります。

■オートマトン
 チェスの駒めいたシルエットをした全長1~2m程度の自動人形です。
 無数に腕をはやし、ノコギリやビームカッター、ビームガンといった熱兵器を主に使用します。
 古代兵器の一種で、武装もまた古代兵器がらみのようです。
 施設内にこれがどの程度巡回しているかは不明ですが、探索していれば結構な頻度で遭遇すると考えておいてください。
 そして隅々まで探索して全滅させようとすれば必然的に子供たちへの危険が増大するので、あまり最大数について考える必要はないでしょう。

■カルネ
 このシナリオにはカルネが同行します
 彼はオールレンジでの攻撃とやや高めの反応、『連鎖行動』のスキルをもちます。
 探索に有利なスキルはあまりもっていないので、主に戦闘面での活動が期待できます。
 探索能力を集めたけど戦闘力にちょっと不安があるなあというチームに配属してやるとよく働きます。
(彼は自分で考えて行動できるので、チーム配属さえすれば行動内容への指示は必要ありません)

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • カルネと虐殺チェスゲーム完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月07日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
シラス(p3p004421)
超える者
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

サポートNPC一覧(1人)

カルネ(p3n000010)
自由な冒険

リプレイ

●モリブデンアンダーグラウンド
「スラムの半分は地下にあるって言われてるんだ」
「古代遺跡に住み着いたんだね」
 カルネ(p3n000010)の説明を半分まで聞きながら、マルク・シリング(p3p001309)は施錠されたドアにあらかじめ用意しておいたピッキングツールを差し込んでいた。
「古代遺跡といっても、それそのままで残ってるわけじゃない。跡から入った人間が改造したり改築したり、とにかく使いやすいように手を入れてる。この鍵もそうみたいだね」
 ドアに取り付けられたディスクシリンダー方式の鍵穴は、(きわめてざっくり述べると)内部の筒を正しい波にあわせた状態でひねると錠が外れるという仕組みである。そしてそれは、相応の知識と技術を持っていれば数分から数十分で解錠が可能であるとされている。
「さ、開いたよ。変なところから入るより、ここから侵入した方が情報をたどりやすいよね」
「いちやはく子供たちを……家族の元へ返しましょう!」
 『歯車の決意』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は腕に接続したハンマーガンパーツをガツンと撃ち合わせると、先端に仕込んだ火打ち石で火花を起こした。
「こいつが地下遺跡、か……」
 後に続く形で地下への階段を下る『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)。
 ジーパンに胸元の開いた半袖シャツという極めてラフな軽装でかつハンドポケットという無防備な風体でありながら、まるで全身を無数の兵器で覆ったかのようなプレッシャーをすでに放っていた。
 混沌において見た目で人を(特に戦闘力を)判断してはいけないのは常識だが、彼の場合はある意味モロであった。
「子供を浚うってのは、よくないな。割りと子供は好きなんだ、俺は」
 怒りや決意が、オーラとなって立ち上っている。
 オーラといえば、同じようにパンツルックに爽やかな色のシャツを着た『悲劇を断つ冴え』風巻・威降(p3p004719)も、貴道と同じようなハンドポケット姿勢でありながら近づけば斬り殺されかねないオーラを放っていた。
 この手の人間はとにかく体幹が通っているので、強さが歩き方に出るという。
 そして達人ともなれば、感情や決意までもが出るとも。
「子供は宝だ。あの子達には可能性が秘められている。
 例え今は弱くても彼らの中から未来のA級闘士や宰相が生まれるかもしれない。
 そんな子供達を犠牲にして得るものはさぞ大事なものなんだろうね……でも興味ないから潰してしまおう。
 俺にとっては未来の対戦相手になるかもしれない子達の方がよほど大事だからね!」
「で、ござるな」
 階段を下り、通路へと出る『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)。
 腰の後ろに保持していた細い忍者刀をすっと抜くと、つや消しした刀身が鈍く光った。
「罪無き子供を贄にするとは……この悪行、たとえ天が見放せど拙者は見逃さぬ。
 心無き機械に罪を問うても詮無き事だが今回の黒幕、いずれ必ずや白日の元に晒してくれようぞ」
 遺跡の通路は、古代の遺物と呼ばれている割にはきっぱりと整った作りをしていた。
 金属と石の中間めいた素材の壁と、ほとんど継ぎ目のない床。壁には等間隔に円盤状のものが取り付けられ、常に白色の光を放っていた。
 人によってはこれを『宇宙船みたい』と表現するのだろうか。
 とはいっても、この世界において施設の有用性など気分以上の意味は無い。
「つまりー? この遺跡を探索して子供を探して連れ帰ればいいわけね?」
 『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はクレバーに状況を把握すると、腰に装着したブレードを掴み、システムを起動。赤く走ったエネルギーラインを確認して両手に一本ずつ刀を抜いた。
「そういえば、この事件の背景ってどうなってるの? ただの誘拐事件じゃないんでしょ?」
「そこなんだが、な……」
 『背を護りたい者』レイリ―=シュタイン(p3p007270)は右手を握って開いてもう一度握り、腕部を開放して格納していた装甲をがちゃがちゃと展開し始めた。
 ライオットシールド二枚分の盾(もとい壁)を作ると、キャスターを地に着けて前進を始める。
「個人の行動にしては動きすぎだ。背後に大きな組織が関わっているとみているが……どうだ?」
「どうって、俺に聞いてるのか? 俺が推理ってガラかよ」
 『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)は片手でコイントスをしてはキャッチする手遊びをしながら話に応えた。
「まあ、そうだな……ガキをスラムから浚うのは賢いよな。国の連中は誰も気にしない。
 けどそりゃ数人レベルの話だろ。こんだけ派手に動けばさすがに足がつく。
 社会的制裁はともかく、スラムの連中に家ごと燃やされるぜ。
 けどそれでもやってるってことは……短い期間でデカい利益を上げる必要があるってことだ。それも、リスクを丸呑みできるくらいのリターンを見込んでるんだろ」
「ほう……?」
「ま、あくまで推測な。証拠なんかねえよ」
 ぱしりとコインを掴んで両面をさらして見せる。両方が『裏』のコインだった。
「裏の裏ってのは裏なんだよ。考えたり手探りしたって出てこねえ。だから表の解決を先にしなきゃならねえ。だろ?」
「無論」
 咲耶たちは頷き、それぞれチームに分かれて探索を開始した。
 目指すは子供たちが集められるであろう『儀式の部屋』ないしは『待機部屋』を目指すのだ。

●人力の極地
 貴道はファイティングポーズをとったまま、すり足でゆっくりと進んでいく。
 目はしっかりと前を見て、前進がぐっと緊張しただ停止しているだけでも汗が噴き出るほどである。
「彼は何をしてるの?」
 後ろを歩くカルネが、威降に耳打ちをして訪ねてみた。
 『さあ?』という対応をしてもよかったが、彼だけわからないのもかわいそうかと思い直して威降はあげかけた肩を下ろした。
「肉体をセンサーにしてるんだよ。カクテルパーティー効果ってわかるかな」
「カクテル……? ええと、群衆の中から自分に関係のある言葉だけが聞き取りやすくなるって効果だったかな」
「まあ、そんなとこかな」
 威降は地面や壁についた車輪やひっかき跡を調べながら説明を続けた。
「人間にはもともと聞き分ける力っていうのがあって、極度の緊張状態にあると望んだ音だけを選別して他全てをカットするってこともできるんだ。
 特に顕著なのが、格闘戦だね。相手の足音は当然のこと、呼吸や服のずれや腕や足を振る風切り音を聞き分けることで視覚情報よりもずっと高い感知と反応ができるようになるんだよ。とくにボクシングなんて一瞬の駆け引きだからね」
「そっか……すごいんだね」
 カルネは『君もできるの?』といいかけてやめた。威降の余裕そうな振る舞いから、愚問だと感じたからだ。
 威降は今回、担当を分けることにしたらしい。
 貴道は主に肉体の技を、威降は主に手先の技を使うというわけかたである。
 フィジカル面でもだいぶ強い二人である。カルネは『もしかして僕の出番はないのでは』と思ったが、そんな彼らにも穴はあるので、そこを埋める努力をすべきと思い直した。
「音がする。車輪だ。敵が来るぞ」
 早口につぶやいた貴道は、すり足をやめものすごく長い歩幅で飛び出していった。
「えっ」
「援護射撃はたのむね」
 普通に歩いていた威降も一歩目からトップスピードで走り出し、(割と素早いほうの)カルネをおいていった。

●工夫と技術
 通気ダクトの中を走るネズミ。
 スラム街に一番多くいるとすらいえる小動物ことネズミ。狭いダクトなど彼ら専用の通り道のようなものである。
 そんなネズミの視界を共有していたリュカシスは、うーんとうなりながらマルクたちの後ろを歩いていた。
「どうかな。なにかわかった?」
「通気口がすごく暗いっていうのを忘れてました……。けど、所どころ明るいところがあるので……あ、目が慣れてきたかもデス」
 リュカシスは通常の通路とは別に、部屋と部屋をつなぐダクトをたどってピンポイントで各部屋の状態を探るという手段に出ていた。
 そして、子供たちのものらしき話し声を聞きつける。
「マルクさん、秋奈さん! この先です。問題はルートですが……」
「そうよね。壁をまあるく切りながらまっすぐ行けるならそうするけど?」
 刀を振り上げて見せる秋奈の肩を、マルクがちょんちょんと控えめにつついた。
「ホコリをたどるのはどうかな。オートマトンは車輪で移動するけど、子供は二足歩行でなおかつある程度の集団だよね」
「……あっ」
 ぽん、と刀の柄で手を叩く秋奈。
 一度刀を納めると、地面に顔を近づけてホコリのあとを捜索してみた。
 ただ捜索するより対象をしぼったほうが断然効率が良いものである。
「たしかにあったわ。オートマトンの車輪はもとから沢山あったけど、この通路はもっと無秩序にホコリが散ってる。これをたどればいいわけね!」
「そういうこと。片道切符とはいえ何度も通行してるなら痕跡が強く残るだろうからね。とはいえ……今度は家に帰してあげないと」
 マルクはぎゅっと拳を握り、足早に痕跡をたどる秋奈を追って歩き出した。

●同着
 チームの最後尾。周囲の気配を敏感にサーチしながら、咲耶は通路を進んでいく。
「それにしても、不気味なところでござるな。ここまで広く作られているのに人間の気配がほとんどしないとは」
 スラム街のなりたちを考えるなら、ここまで安全で居住性の高そうな場所はまっさきに人が住み着きそうなものだが……。
「感情のサーチにはかかってねえのか?」
「未だ、なにも」
 こうなるとオートマトンの敵意もサーチできるかあやしくなってくる。というか、センサータレットみたいな物体に敵意とかあるんだろうか、とも考えてしまう。(今回はAIの敵対認識がそのまま敵意として感知できそうな気がするが)
「だいぶ奥のほうまで来たな。痕跡のたどり方はこれでいいのか?」
 一応防御を固めながら、周囲の捜索を続けるレイリー。
 シラスはただ彼女たちの間をハンドポケット姿勢のままゆったりと歩くのみ……なのだが。
「遺跡が古代からあって、しかも人が住み着いてない。てことはホコリがたまり放題だと思うんだよな。
 オートマトンが定期的に清掃してる可能性もあったし実際そういう箇所もちょいちょいあったが……『そうでない箇所』の方がずっと多かった。ここの連中も長い間誰も使わない通路のホコリをとるのに飽きたのかもね」
 このあたりの発想はマルクと同じだが、シラスは通常扉から入ってすぐにその方法で探索を始めていた。
「もし俺がガキを大量に浚ってなんかするなら、入り口から待機部屋に一旦連れ込んで、その後なんかするための部屋に連れて行く。準備が整わない間に暴れられても面倒だからな」
「と、いうことは……」
 シラスの指示通りにホコリがより多く散っている道を選んで進んでいたレイリーが、扉の前で立ち止まった。
「この先が、待機部屋だというわけか」
「だが安易に行かせてはくれぬようでござるな」
 ヒューンというスマートな音をたて、チェスの駒めいたオートマトンが曲がり角の先から現れる。
 がちゃがちゃと展開した腕からビームサブマシンガンを取り出すと、咲耶たちへと構えた。
「ゆっくり相手をしている暇はござらん。押し通る!!」

●奪還
 マシンガン二丁を連射するオートマトンに対し、引き戸をがっちりと閉じたかのようなライオットシールドで突進するレイリー。
 防御にモノをいわせた戦い方が最近の彼女の定番スタイルだ。
「だいぶこの戦い方が板についてきたな……。だが、もっと効率が上げられるはずだ。スタンドアローンを求められない現場ならば、あるいは……」
 防御したままオートマトンの直前で停止。すると同時にレイリーの後ろから飛び出した咲耶が壁を蹴った三角飛びでオートマトンへと斬りかかる。
「この先の扉でござる!」
「りょー――かい」
 シラスは後方宙返りをかけ壁に足を突くと、カッと顔を上げて壁を蹴りつけた。
 水泳でいうクイックターンの背面クイックターンの動きで飛ぶと、とんでもない速度で通路の端まで移動。反対側の壁に『着地』すると、そのまま勢いよく走り抜けて目的の『待機部屋』前方で警護していたオートマトンを蹴りつけた。突然現れてあらぬ角度から蹴りつけられたオートマトンは錯乱。おかしな方向にビームマシンガンを展開し自分のボディめがけて乱射してしまった。
 そうしてよろめいたオートマトンの一部をがしりとつかみ、再びの膝蹴りをたたき込むシラス。
 彼の魔力コーティングされた蹴りはオートマトンの装甲をたやすく打ち破り、内部をメチャクチャに粉砕していく。
 蹴りつけるようにして扉を開くシラス。中では困惑した子供たちが助けを求めるようにこちらを見ている。
「レイリー殿。子供たちを頼めるか。追っては拙者が食い止めるでござる」
 印を結び、耐性を低く取る咲耶。
 オートマトンをひきつけようとしていたレイリーは頷き、子供たちをかばうような構えで部屋から連れ出し始めた。
(引きつけや防御も全てひとりでこなす必要は無い。仲間に引きつけさせて代行防御に徹するのもまた連携。このチームでの私の役割は、もっとも弱い子供らを守ることか)
 レイリーはオートマトンとの戦闘をシラスたちに任せ、走り出す。
「紅牙斬九郎、子供達の未来を救う為にここに参上でござる! さぁ機械の駒共よ、覚悟は宜しいか!」
 咲耶の鋭い叫びが、オートマトンを引き寄せる。

 一方。
「大粉砕!」
 炎をふいて突撃し、両腕のハンマーハンドを思い切りオートマトンに叩きつけるリュカシス。
 火打ち石がばちばちと火花をあげ、がしょんと開いた銃口から散弾をゼロ距離発射していく。
 とんでもない破壊力によろめくオートマトン。
 反撃に繰り出されたレーザーカッターがリュカシスの腕をすっぱりと切断するも……。
「大丈夫。子供たちは無事だよ」
 マルクが逆行魔法をかけて腕のパーツを素早く再構築させた。
 オートマトン単体の与えられるダメージ量ならばマルクのミリアドハーモニクスで充分事足りるのだ。これが複数に増えると危ないが……。
「皆さんよく頑張りましたネ。もう安心ですよ! この人と一緒に逃げてください!」
 虐殺部屋にいち早くたどり着いていたリュカシスたちは、今まさに虐殺を行おうとしているオートマトンを破壊。追っ手が来る前にマルクを中心とした誘導で子供たちを逃がし始めていた。
「『ここはまかせて先に行け』的なやつ? そーゆーのはほら、適材適所でしょ」
 リュカシスの肩を掴み、思いのほかパワフルな腕力でぐいっと引っ張ると、秋奈がオートマトンの前へ出た。
 奥の通路から無数のオートマトンが迫るが……。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
 ストライカーからエネルギーを噴射。勢いよく敵集団に突っ込むと、派手に名乗りをあげた。
「探索もできて防御もそこそこ。私ってば知的ね。なーんて……『あの子』がいたらなんて言うかしら」
 秋奈は満面に笑うと、いつものように鼻歌を歌い始めた。
 繰り出されるレーザーカッターを剣で受けつつ突きを繰り出し、相手の装甲を易々と切り裂いていく。
 『そっちはよろしく』のウィンクをうけて、リュカシスは子供たちをおって走り出した。
 すると……。
「みんなとまって!」
 マルクが子供たちをかばうように立ちはだかった。
 進路上に複数のオートマトンが出現。マシンガンを突きつけたのだ。
 マルクひとりではかばいきれない。子供たちを狙われたら……と最悪の想像をした、そのとき。
「HAHA――!」
 ものすごいスピードで角の向こうから飛びだしてきた貴道がパンチ一発でオートマトンの頭部を吹き飛ばした。
 ……だけではない。素早く全身をひねって左拳の攻撃にシフト。サブマシンガンをアームごと粉砕していく。
「貴道サン!」
「みんなの声を聞きつけてね。こっちに来ると思ったよ」
 風のように走り、手刀でオートマトンのマシンガンをたたき落とす威降。
 さらなる手刀でオートマトンの頭部装甲を切断していく。
「みんな、今のうちに外へ!」
 カルネが中距離から徹底的な射撃を加え、火力を重ねていく。
 そして――。

 イレギュラーズたちは、子供たちを皆無事に外へと連れ出すことに成功した。
 これには効率的に敵を引きつけられる味方の存在や、音で危険を回避できる味方の存在などが影響したことは言うまでもないだろう。
 全てを終え、マルクは遺跡を振り返る。
「『血潮の儀』……いったい、誰が何のために?」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 任務完了。
 子供たちを全員無事に救出することができました。

PAGETOPPAGEBOTTOM