シナリオ詳細
御伽の魔獣ヤハト
オープニング
●御伽の魔獣
冬来る。
緑に包まれていた深緑も、今は白に染まり始めていた。
この時期になると周囲の森の散策や、迷宮森林での冒険など足を使った移動が大変になる。
深緑東部のカトネ村に住むコロタ少年もその事はよく理解していたが、それでも暖かい家から飛び出して、雪降る森へと遊びに出かけたいと思っていた。
「なんで外に行っちゃいけないの?」
コロタの疑問に祖母が答える。
「雪の積もった森は大変だよ。足を取られて思うように動けないからねぇ」
「そんなの平気さ! 僕は雪道だって走れるもの!」
威勢の良いコロタの答えに、祖母は笑う。
「いやいや、元気が良いねぇ。でもねコロタ。雪降る日に、外を一人で出歩くと異国の人に連れて行かれてしまうかも知れないよ。だって、周りには誰もいない。ザントマンには絶好の機会と言うわけだよ」
そんな祖母の話をコロタは首を振って否定する。
「祖母ちゃん知らないの? ザントマンはイレギュラーズがやっつけたんだ! もうザントマンがヘーモニアを攫うことなんてないよ!」
噂に聞いたイレギュラーズの活躍をまるで見てきたかのように語るコロタに、祖母は困ったように顔を顰めた。
そして言うのだ、怖いのはザントマンだけではないのだと。
「ザントマンはもういないかもしれないけどね、冬の森の怖さはそれだけじゃないんだよ。
……そう、言うこと聞かない悪い子の下にはね、ヤハトがくるよ」
「ヤハト?」
「そうさ。魔獣ヤハト。二本の角に悪魔の瞳を持つ恐ろしい怪物さ。昔々、冬の森を歩くハーモニアを何人も食べてしまったと言われているんだよ。それからさ、冬の森を一人で出歩いてはいけないと言われるようになったのは」
祖母の語りに、思わず身震いするコロタ。そんなコロタを祖母が笑う。
「ふぇっふぇっふぇ、御伽噺もこんな時には役に立つね」
「なんだい! 怖がらせるだけの嘘っぱちじゃないか!」
「いやいや、ヤハトは居るよぉ……コロタみたいな子供を狙っていつも見ているよぉ……そう、ヤハトはね、ハーモニアの耳が特に好物なんだ! お前も耳を囓られてしまうかもねぇ」
脅かすように言う祖母の言葉を聞かないように、コロタは耳を手で隠して強気に話す。
「そんな化け物いるもんか! もういいよ! 僕は外で遊ぶんだ!」
「やれやれ、気の強い子だよ……でもね、本当に危ないから森の奥に行ってはいけないよ」
その言葉だけ聞いて、コロタは家を飛び出した。
この時、コロタも祖母も御伽の魔獣の話など話半分というものだった。
実在するわけがない。そう心の何処かで思っていたのだ。
だが、ヤハトは実在する。
二本の角と悪魔の瞳を持つ魔獣が、森の奥へと進むコロタの姿を捉えていた――
●
「森へと遊びにでた少年が夜になっても帰ってこなかった。自警団が探しに出たところ、少年を見つけることが出来たのだけれど……その少年は見たことのない魔獣に抱きかかえられてたそうよ」
『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が依頼書を手に話す。
少年の祖母は、その魔獣の容姿に御伽の魔獣が出たと話したらしい。
「魔獣ヤハト。冬になるとどこからか現れる、古の魔獣ね。
鬼のような姿形に二本の角。深紅の瞳は悪魔の瞳と呼ばれていて、睨んだ者を麻痺させると言うわ」
体躯は人の二倍はあろうかという巨大な魔獣という。
そんなヤハトがコロタ少年を抱え、今森の中を徘徊しているというのだ。
「自警団では刃が立たなかったようだけど、追跡だけはしているわ。ヤハトはどうやら安全な場所――つまり住処に行かないと食事をしないようだから、森を徘徊している間は少年の無事は保障されているでしょうね」
逆に住処まで行かれてしまうと、コロタ少年が丸呑みにされてもおかしくはないという話だ。
「オーダーは少年の保護とこの魔獣の討伐。ただ注意してほしいのは、魔獣は複数体目撃されているということ。コロタ少年を捕獲しているヤハトを逃さないようにしつつ、周囲のヤハトを倒さなくてはいけないわけね」
恐らく、魔獣達もコロタ少年を運ぶことを優先するだろう。ボール遊びのように人質をパスで回すことも考えられる。
冬の森ということで足場的にも不利が予想されるがなんとかするしかない。
「御伽噺の魔獣だなんて、恐ろしいものを感じるわね。油断せずに、無事に少年を保護してちょうだい」
イレギュラーズは依頼書を受け取ると、御伽の魔獣討伐への準備を開始した。
- 御伽の魔獣ヤハト完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年01月05日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●雪降る森の追走戦
白銀に染まった森を、八人が走る。
自警団より伝え聞いた、魔獣の居場所。それは連れ去られた少年の住む村から東へと進んだ場所だ。
森へと足を踏み入れた当初は、開けた視界に足取りも軽かったが、奥へと進むほどに、群生する森林がイレギュラーズ達の侵入を拒んだ。
「思っていた以上に深い森だな。それに深雪が足を取って来る……」
ここより先は飛行した方が良いかもしれない。そう判断した『死神二振』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は飛行術式を編み上げて、先行した。クロバを追うように仲間達も飛行の体勢に入る。
「コロタって子、凄く怖い思いをしていると思う……今、卵丸達が助けてあげるんだからなっ!」
長時間の飛行を持たない『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)もブーツに縄を巻いて雪対策を十分に取っていた。有利になるわけでないが、不利にもならない良い雪対策だっただろう。
合わせて卵丸は、群生する木々をエコーロケーションで把握しながら、全力疾走する。ともすれば、木々に邪魔されてしまう進行だが、うまく避けていた。
この情報は同じように飛行を持たない『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)とも共有する。
「ザントマンをやっつけて、深緑の人達も安心して暮らせるようになったと思ったのに……御伽噺の魔物だなんて、本当にいるんだね?」
アクロバットによって木々の枝を足場にして飛走する焔は、コロタ少年を攫った魔物について疑問を持つ。
御伽の魔獣ヤハト。
その名前にはハーモニアである『かつての隠者』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は聞き覚えがあった。
「ヤハトか……、私も子供の頃よく聞かされたわね」
「そうなんだ? 割とメジャーなのかな?」
「どうかしら? でも聞いたことあるなぁって幻想種は多いと思うわ。
きっと今までも本当に度々現れてたのかと思うと、『もっとちゃんと伝えて』と思わなくもないわね!」
あくまで御伽噺。そう思い込んでしまうことが、今回の事件に繋がったと思えなくはない。ただ御伽噺になってしまうほどに、ヤハトという魔獣を人が目にすることは少ないのであろうことは確かだった。
「レアモンスターだったとしても、子供をさらって餌にするなんて許せない! 絶対に助けないと!」
『鈍き鋼拳』橘花 芽衣(p3p007119)が正義に燃える言葉を発すると、『小柄に優しい』ジルベルト・アダムス(p3p007124)が大きく頷き同意した。
「その通りだ!
ショタが魔獣に誘拐されてしまうなど……きっとあんな事やこんな事、それに(倫理に抵触するため削除)されてしまうに違いない!
おお……何とうらやま……もとい罪深い!」
「いま羨ましいと言いそうになりましたよね、この人」
『はらぺこフレンズ』エリス(p3p007830)の突っ込みをスルーするジルベルトは、邪教で名高い『エヴァ・クルス教』の教祖である。
たとえこの依頼を解決してヤハトの悪魔の瞳が閉じられても、傍にこの幼児愛好者の瞳があるのでは、それはそれでコロタ少年の身を心配してしまいそうになる。
「心配には及びません。我等『エヴァ・クルス教』の教義は《YESロリショタ! NOタッチ!》。コロタ少年には指一本触れませんよ!」
そこは指一本触れさせません、と言って欲しいところではある。
「ショタコンの人は置いておいても、魔獣ヤハトには興味が尽きないね。
《悪魔の瞳を持つ獣》とは、色々親近感を覚えるね」
薄く笑う『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の正体こそは、まさに『獣の悪魔』であり、《悪魔の瞳を持つ獣》とは彼女を指していてもおかしくはないところだ。そんなシンパシーを感じた彼女がこの依頼に参加出来ていることは、運命の数奇さを感じさせるところではある。
そんな八人が雪の森を進んでいると、先行していたクロバが声を上げた。
「足跡だな。まだ新しい……」
「大きい蹄のような形ですね。それに数も多いです」
目の前の足跡をエリスが言葉にすると、一行は頷き合って、足跡の進む先へと視線を向けた。
「植物たちも大きな影を見たと言ってるわね」
「ンン! これは濃厚なショタの気配!」
「そんなセンサーに頼りたくはないが、間違いはないようだな」
「近いね。急ごうっ!」
走り出したイレギュラーズ達が、五つの鬼影を見つけるのは、それからすぐの事だった。
●御伽の魔獣ヤハト
禍々しい紅玉が一斉に、背後に迫るイレギュラーズを捉えた。
二本角の鬼の面様に、毛深く剛骨な体躯。四本指は細く長く、蹄のような足は深く積もった雪をものともしない。
深緑に住まう幻想種の子供達が一度は目にする絵本の魔物。ヤハトは実在していたのだ。
「悪魔の瞳、ね。少し脚色しすぎなんじゃないかな? 魔力を持っているようだけれど、”本物”には到底劣るよ」
ヤハトを捉えてすぐ、”本物”である所のマルベートが一番近いヤハトを鋭く睨み付ける。
悪魔の瞳と呼ばれる二つの深紅がぶつかり合うと、それは即ち命のやりとりを促した。あまり知られていないことだが、ヤハトの瞳にも相手をすくみ上がらせ身動きを封じる力がある。それこそが悪魔の瞳の所以でもあるが、この時ばかりは相手が悪かった。
マルベートの本物の悪魔の瞳が、呪術的力を伴って、ヤハトを死地へと誘う。興奮と同時に、自らに忍び寄る死の影を感じ取り焦燥と不安に苛まれ、意味も無く両の拳を雪に叩きつけた。
「こいつは受け持つよ。残りを追いなよ」
「助かるっ! コロタ君、今、助けてあげるんだからなっ!」
追う者と追われる者。彼我の距離は見る間に縮まる。
ヤハト達はコロタを絶対に手放さないと言わんばかりにマーク、ブロックを行うそぶりを見せながらイレギュラーズの進行を防ごうとする。イレギュラーズも立ち位置を変えながらヤハト達を追走する。
そして、ある程度進んだところで、木々は多いが一手用いれば接近できる距離まで来た。卵丸は温存していたジェットパックに火を入れる。
深雪を飛び越えて、一気にヤハト達へと飛び込む。狙いはコロタ少年を抱える個体だ。
「掛かれ虹の橋……蒼・海・斬!」
虹色の斬撃が白銀の森を走る。
この技の狙いはヤハトではない。その先にある木々の枝だ。斬撃を受けた枝が次々に切り落とされる。それは積もった雪の落雪を招き、ヤハトの動きを止める。
「もらったぞっ!」
足を止めたヤハトの前に、ジェットパックによる簡易飛行で回り込む。進行を止め、注意を引きつけようとした。ヤハトは必死に逃げるルートを探す。だが、道筋は見つからない。そう判断した瞬間――ヤハトが思いもがけない戦法をとってきた。
「その子は返して貰うんだからなっ……って、ああっ!?」
「う、うわああ――!」
なんとヤハトがコロタ少年を左前方へと投げたのである。コロタ少年が悲鳴を上げながら放物線を描いた。
「おいおい、マジかよ――! あとで拾えばいいってことか?」
「いや、違うよ! 見て!」
追いすがる焔が指さす。そこにはまるでそのパスコースを知っていたかのように別のヤハトが走り込んでおり、移動を止めることなくコロタをキャッチした。
「ラグビーの試合じゃあるまいし、どんな連携なの!」
側面から回り込んでいた芽依が驚きと共に声をあげる。
「ショタを玉のように弄ぶとは、なんて卑猥な……いや、外道なことを! これ以上の非道はぜひご相伴にあずからせて――もとい、絶対に許さんぞ!」
色々と本音が漏れてるジルベルトも、コロタ少年を追いかけ走る。
「パスして走り抜けるなんて予定外だが、やることに代わりはない――焔! そっちの二匹を殺るぞ! パスコースさえ潰してしまえば、こっちの作戦は通る!」
「了解! 逃げようたってそうは行かないんだから!」
焔が炎の斬撃を飛ばす。斬撃は雪を溶かし水蒸気を上げながら、右側面を走るヤハトの進行を妨害する。
「炎神の子、炎の巫女、炎堂焔ここに推参! だよ!」
続けて名乗り口上をあげ、二体のヤハトの注意を引く。そこに――
「時間はかけてられないからな、最初から全力でいくぞ――ッ!!」
白き世界に黒の残影が疾走する。
クロバの放つクロスエッジ・フルバーストが極限の剣戟を振るって爆炎の嵐を巻き起こす。
「パスして回すなんて妙にチームワークがあるというか……餌にするにしたって、ずいぶん執着するじゃないの。
仲間にでもするつもりじゃあないでしょうね、絶対連れて行ったりさせないわよ!」
アルメリアが用意していた某聖剣なギルドのドーナツをぱくりと食べる。俄に信じていなかったが、ドーナツを食べたら本当に空を飛べてしまった。まったくもって驚く話ではあるが、今はそれどころではない。
「足止めは任せて貰おうかしらッ!」
アルメリアのソーンバインドがフリーのヤハトへと襲いかかる。魔性の茨は強靱な力を持つヤハトすらも抑えつけ自由を奪った。
「これで、もうパスはできないだろっ! 今度こそ少年を返してもらうぞ!」
「そうそう。正義のヒーローは必ず子供を守るんだ!」
「予想以上に知性に長けている魔獣のようでしたが、この人数差を覆すことはできませんね」
「ええ、そう。ここまでだ。ショタを攫う忌むべき獣め……どうせ獣的なスケベな事するんだろ! 同人誌みたいに! 同人誌みたいに!
畜生! そんなの……最高じゃないか! どうして俺は……獣じゃないんだ! 俺だってヤッてみたかったぞ!」
一人完全に煩悩だだ漏れの危険な奴が紛れているが、コロタ少年は聞かなかったことにした。まあ一応ヤハトの注意は引きつけられているしね。
「た、たすけてーっ!」
助けを求めて叫ぶコロタを脇に抱えたヤハトが、怒りの咆哮を上げた。
「なんだい、その悲鳴のような咆哮は。まるで群れから離れて不安になっているかのようだよ」
最初に一匹を引きつけたマルベートが、笑うように言う。
互いに看過出来ない程に傷を与え合っていた。ヤハトの強力な一撃は、直撃をもらえばそれだけで細身のマルベートの身体は砕けてしまうだろう。実際、危ない瞬間もあったと言っていいだろう。
だが、マルベートは余裕を崩さない。自身が圧倒的上位であることを知らしめるように、ヤハトへとその紅血の瞳を鋭く向ける。
それは脅威の再生力と、相手の血肉を喰らい己が生命力へと還すマルベートの力に裏打ちされているといってよい。
「安心しなよ。お前も、お前の仲間も全部私が喰らって私の糧にしてあげるよ。お前達も知っているようにこれが弱肉強食、自然の掟だ」
マルベートの支配的な言葉に、ヤハトはいまいちど悲しき咆哮を上げた。
一方、焔、クロバ、アルメリアの足止め班も一進一退の攻防を繰り広げていた。
強力無比、そして野獣のように後先考えない勢い任せの格闘が敵視を持つ焔を襲う。
「好き勝手……攻撃してぇ――ッ!!」
暴風のようなパンチを紙一重で躱す焔。
回避力に優れた自身ではあるが、捌き続けられるという保障は一切無い。事実、すでに何発かもらっていたが、その痛みはそうそう忘れられるようなものではなかった。
「無理はするなよ! 右の奴はもうすぐ仕留められる――ッ!」
「わかってるよ! ええい、邪魔!」
焔がヤハトの追撃の蹴りを身を翻して躱すと、同時に愛用の槍に火焔を纏わせ振るい上げた。火焔が走る。たとえ浅い切り傷だったとしても、その災厄齎す業炎はヤハトの身に燃え移り身体の内部から燃やし尽くそうと猛った。
「耐久力がありそうな見た目だけれど――こっちも出し惜しみ無しなのよ! 限界は近いでしょうッ!」
アルメリアが雷を操りヤハト達を数珠つなぎのように感電させていく。広範囲に及ぶ雷撃も識別付ならば自在に放つことができる。
青白い稲妻が迸る中、クロバが静かに集中する。
「もう一つ、死神の放つ閃雷を見せてやるよ――ッ!!」
クロバのフラムエクレールに漆黒の稲光が纏う。
ヤハト達が気づいた時にはもう遅い。刹那の間に放たれた黒雷の一閃が青白い稲妻と重なりヤハト達の魂を刈り取っていく。
苦悶の呻きと共に、一匹のヤハトが力尽きて倒れた。
「――次ッ!」
魔獣達を威圧するように、気合いの入った声が森に響いた。
コロタ少年を抱えたヤハトは追い詰められていた。
ヤハトの習性として、手にした獲物は新鮮なまま食べるというものがあった。故にコロタ少年を傷つけるようなことはせず、生かして住み替えと持ち帰りたかった。
故に、戦闘行動では脇に抱えたコロタを盾にするどころか、身を挺して守るそぶりを見せる。
ただでさえ数的不利にある状況でありながら、これでは満足な反撃を行うのも難しいだろう。
結果として、イレギュラーズの狙い通りコロタ少年を奪い還すのにそう時間はかからなかった。
これは最小の人数で周囲を固めるヤハト達を引きつけ、数的優位を作り出すイレギュラーズの作戦が優れていた結果に他ならない。
「もう大丈夫ですよ。私達の後ろに下がっていてください」
エリスに促されて、救い出されたコロタは涙目ながらに頷いた。
「オォ……ショタの清らかな涙がこぼれ落ちようとしている。拭わねばならない。早くコロタ君の聖水をぬぐい取り舐め上げ……いや、綺麗にしなければ」
「……訂正です。あの人からは離れて私達の後ろへ」
「う、うん……」
「ヌォォ……そのようなへんたいふしんしゃさんを見るような目で見ないでください! 私は清廉潔白な聖職者であります故、魔獣のように小さい子供達を攫うなどということは、そりゃしてみたいですが、いえいえ我等『エヴァ・クルス教』の教義は守り通すことから、即ち危険はないのです」
「うーん、魔獣と一緒に葬り去った方が世のためかもしれない。そんな気がするよ」
芽依の言葉に卵丸は苦笑して、
「悪い人じゃないとは思うけどね」
とフォローした。
そんな卵丸や芽依も、ジルベルトの守備範囲な気がしないでもなかった(小柄だし)。
コロタ少年を奪い還してからは、順当にヤハトの撃破が進んだ。
「正義は勝つ!!」
芽依が腕を突き出し光線を放つと同時、ジャンプからの急降下キックを決めて、爆発と共にヤハトを一体打ち倒す。決めポーズもしっかり極めれば、コロタ少年の目が輝くのも自然の話だ。
「喰らえ、音速の一撃……轟天GO!」
目の前のヤハトを倒した四人はそのまま仲間達のフォローに入る。卵丸の放つソニックエッジが援護となって、クロバの連撃を決めさせた。
「精霊達よ、お願いします」
エリスの操る四大属性の精霊達が、残るヤハトに襲いかかり、様々な状態異常を付与していった。
「行先はお前らの穴倉じゃないよ。もれなくゼロか地獄かの片道ツアーさ!!」
ここまでくればイレギュラーズの手番が途切れることはない。ヤハトは逃げることも叶わず倒れた。
そして、最後にマルベートがひょっこり顔を見せた。どうやら無事ヤハトを倒したようだった。その口元についた血がマルベートの物ではないことに気づくのは、そのすぐ後のことだった。
●御伽噺は嘘じゃない
「助けてくれて、ありがとう!」
コロタ少年を村へと連れ帰って、祖母の元へと送り届けるとコロタ少年は嬉しそうにお礼をいった。
ヤハトを倒しきってすぐ、マルベートが次々に倒れたヤハトを食していったことで、御伽の魔獣の痕跡は食べれなかった骨や爪が残るだけとなった。まあ伝説の生物の末路など、案外そういったものなのかもしれなかった。
「うんうん。ショタからお礼は実に気持ちがよい。もうこれからは無茶な行動はしちゃダメだぞ、コロタ君。では無事だったことを祝してこれをあげよう。ああ、共に戦った君達にももちろんあげよう」
そんなことを言ってお菓子を配るジルベルト。
「なんだ、俺には配らないのか」
別に欲しくないのにそんなことを言うクロバに、ジルベルトがサングラス越しに視線を向けて、
「これはロリショタ……もとい、私が愛すべき人に贈るものですからね。小柄になって出直してきて下さい」
「なんだか子供扱いされてる上に、危険な嗜好の対象にされてる気がするよ!」
焔の突っ込みに「ハハハ」と笑うジルベルト。笑ってごまかしてはいるが、お菓子を無理矢理渡された、マルベート、焔、卵丸、芽依は狙われているぞ。気をつけろ!
「何にしても無事でよかったですね」
「うん。間に合って良かった。助けられないなんてヒーローに合っちゃだめだもんね」
エリスと芽依が笑い合って、コロタ少年の頭を撫でる。卵丸も同じように頭を撫でて、
「よく頑張ったんだぞ。……これからはちゃんとお祖母さんの言う事聞くんだからなっ」
と、言うと、コロタ少年は何回も頷いた。
「うん、もう御伽噺を嘘っぱちだなんて言わないよ! 今度は僕が御伽噺をいっぱい調べて、みんなに伝えていこうと思うんだ!」
「あら、素敵ね。
ええ、この深緑には色々な物語、伝承があるもの。まだまだ未知の存在がいてもおかしくないかも知れないものね。
いっぱい本を読むといいわ。きっとコロタの成長に繋がるから」
アルメリアの言葉に、コロタは満面の笑みで頷くのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした。
MVPは焔さんに贈ります。おめでとうございます。
ご参加頂きありがとうございました。次の依頼もよろしくお願い致します!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
冬来る。
雪降る森に現れた御伽の魔獣を討伐し、少年を助け出しましょう。
●依頼達成条件
魔獣ヤハトを全て撃破する。
コロタ少年の保護
●情報確度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は起こりません。
●魔獣ヤハトについて
二本の角に深紅の瞳をもつ鬼のような魔獣。
現在森に徘徊しているヤハトは五体。コロタ少年を抱える一体を囲むように四体が展開している。
強靱な腕力と脚力から振るわれる打撃はかなりのもので、クリティカル率が高い。
またマークやブロックを多用し、少年を抱える一体へと近づけさせないように立ち回る。
少年を盾にすることはないが、少年を抱えてるヤハトは逃亡を行うことが多いはずだ。
●戦闘地域について
深緑の森林地帯での戦闘になります。
雪積もる森の中での戦闘で、足を取られやすく立ち回りに慎重さを求められます。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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