シナリオ詳細
<第三次グレイス・ヌレ海戦>ダーク・グレイは海に輝く
オープニング
●いざ、開戦
「第三次グレイス・ヌレ海戦が始まるんです」
ブラウ(p3n000090)の言葉をシャルル(p3n000032)が小さく復唱する。第三次、ということはこれより前にも同じことがあったということか。
「天義と鉄帝だそうですよ。鉄帝はこれで2回目ということですね」
「あ、今回も鉄帝国なんだ」
へぇ、とシャルルは大した驚きもなさげに声をあげた。混沌の国同士は特段仲が良いと言うわけでもない。まあ傭兵と深緑はトップ同士の関係柄なんとも言えないが、他は大体そんなもんだ。相手の懐を探り、隙あらば奪い奪われの小競り合い──といったところだろうか?
「何というか、どの国のお偉いさんも落ち着かなさそうだよね」
「そういう立場の方でしょうし、仕方ないんじゃないですかねぇ。……シャルルさんどうして僕を抱き上げるんです?」
「まあまあ」
座るシャルルの膝に乗せられブラウは不服そうに声を上げるものの、逃れようとする動きはない。別の者ならば足掻くかもしれないが、シャルルに対しては諦めの姿勢であった。
だってこれで何度目かだし。諦めって大事。
「それで? ブラウがそういう話をするってことは、依頼が来てるんだよね」
「はい、その通りです」
あれ取ってください、と言われるがままに羊皮紙へ手を伸ばすシャルル。ひよこをいいようにしているのだから、それくらいの手伝いに否やはない。
どれどれ、と内容に目を通したシャルル。その表情は無表情から変わることなく、けれど再度ブラウを見た瞳の奥には『不可解』の文字が踊っているようだった。
「……ブラウ」
「はい」
「鉄帝って書いてないんだけど」
「今回の海戦はそことだけじゃありませんし」
ブラウの言葉に瞳をすがめ、シャルルは再び視線を落とす。
そこに書かれているのは『海賊』の2文字だった。
●時を遡り。
「〜〜♪」
上機嫌な鼻歌が海洋の風に乗る。三つ編みおさげを揺らし、尻尾もゆらり、ゆらりと。常の光景だ。
そんなパスカ・アトラッタが通り過ぎた後に香ばしい匂いが漂うのもいつものこと。イレギュラーズであるプラック・クラケーン(p3p006804)の母が営むパン屋のそれ──タコ串パンの香りである。
「今日はどこにしますかねー?」
彼女の足取りは自由気ままに、その日その日で向かう場所は変わる。連絡船へ乗り込んで他の島へ行くことだって少なくない。
すべては素敵な景色のため。すべては心に響く景色のため。
そんなわけで、彼女は今日もいつも通りに素敵な風景探しをしていた。
「あ、がかのねーちゃんだ!」
「でも見習いなんだろ? かーちゃんが言ってた」
「見習いねーちゃん、今日はどこ行くのー?」
彼女へ声をかけた3人組の子供たちに「どこかですよー」と返しつつ、パスカは人気のない方へ足を進める。この先は崖になっており、世界が広く見える──ような気がするのだ。
3人組が見えなくなり、人気もなくなり、民家などもまばらになり。それでもひたすら歩き続けたパスカは、広がった景色に感嘆の声を上げた。
「わぁ……! うん、今日はここにしましょうっ」
そうと決まれば早速場所を整え、画材を広げる。どんな色を使おうか、どこから描こうか──そんな心躍る思考に、聞き慣れた音が響いた。
「……? 船の音?」
港などでは珍しくもない、船が水の上を進む音。けれどそれは普段聞くものとなんだか違って、それにこの辺りは船が通らない場所で。
「一体どこか、ら……」
きょろきょろと見回しても見つからず、崖の下をひょいと覗き込んだパスカ。視界に飛び込んだドクロマークに彼女の動きはぴしりと固まった。
そんなに大きくもない船だろうか。鈍色の砲台が太陽の光を受けて重くきらめく。甲板には──海賊が2人。ぼそぼそとした聞こえにくい声量ではあるものの、聞こえてきた内容はひどく物騒だ。
(ど、ど、どうしたら……!)
そーっと、そーっと顔を引っ込めて。一目散に走り出したパスカは、混乱した頭で必死に考える。──とはいっても『どうしたらいいのか』という言葉の繰り返しだが。
不意に視界へ飛び込んだ人影にパスカはびくっと肩を震わせるものの、その相手が先ほどの3人組であることに気づいてほっと安堵の息を漏らす。逆に3人組は先ほど去っていったばかりのパスカが戻ってきたことに目を瞬かせた。
「ねーちゃん、今日はいい場所見つかんなかった?」
「あー、あるよなーそういう日」
「うめーもん食べるといいってかーちゃんが言ってた!」
それは3人組からの励ましのつもりなのだろうが──パスカはそれどころではない。
「た、助けてください!」
は、と3人組が目を丸くする。突然のことだからさもありなん。けれどもパスカはひとまず誰かに言わねばならないと、先ほど見た一部始終を──わかりやすく説明できたかはさておいて──話した。
まあ当然、子供たちだけでは処理できない。どうにもできないことは子供たちも理解する。──ならば、誰を頼るのか?
「大変な時はローレットのイレギュラーズを頼るんだ、ってかーちゃんが言ってた!」
「なんかスゲー人たちがいるとこだっけ」
「そうそう、この前出された……えっと、だいごーれーも手伝ってくれてるんだって」
へー、なんて場違いな雰囲気が流れ始める中、パスカがイレギュラーズ、と小さく呟く。そしてばっと勢いよく顔を上げた。
いるじゃないか。自分の身近な繋がりにも、イレギュラーズが。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/20830/bebe5b0e9d9adf2e5b93a69c44edd421.png)
- <第三次グレイス・ヌレ海戦>ダーク・グレイは海に輝く完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年01月03日 22時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
(帰ったらパスカにゃ、サービス券のプレゼントだな……こりゃ)
危なかったぜと『幸運と勇気』プラック・クラケーン(p3p006804)は心の中で独り言ちる。パスカがたまたまここを訪れていなければ、あと数刻で港は大混乱だっただろう。
その考えには『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)も全くの同意だ。港には通常の漁船を始めとして、此度の海戦に関わる海洋船とその関係者、逆に全く関わりのない一般市民もいる。そこへこのような火種が投げ込まれたら確実に少なくない血を見る事だっただろう。
様々な勢力が動く中、確実に人手が足りない。そのような中で一般市民が海洋軍やイレギュラーズに協力してくれる姿勢はとても好ましいものだった。
まだ崖の天辺には遠い。けれども相手は警戒をしているだろう、とイレギュラーズ達は極力静かに坂を登って行く。『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は道中の手ごろな石を拾い上げた。両手で持って重さを確認し、1つ頷くと脇にしっかり抱える。プラックとアンナもまた自らが持てる大きめの石や岩を拾いながら坂を登った。
『この辺りでいいかしら』
『ああ、いいんじゃねぇか?』
ひそひそと言葉を交わし、3人はゆっくりと腰を下ろす。そっと崖の下を見れば──いた。
崖へ隠れるように停まる船の上では船員がこそこそと動いている。もう少しもすれば港へ突入するからだろうか。耳を澄ませば何やら話し声も聞こえるが、パスカが聞いたと言うほど声がはっきりしていないのは警戒を強めているからかもしれない。
船の様子に気付かれていないと判断した3人は、これまた静かに持ってきたものを下ろし、奇襲の準備を整え始めた。
「同居人、しっかり捕まっていろ。本機も船上戦闘は久し振り、である」
『白亜の抑圧』シフト・シフター・シフティング(p3p000418)にひと撫でされ、同居人──小さなねこがミィと気持ちよさげに鳴く。その体同様に小さな声はゆっくりと進む船の音にかき消された。静かにしていろ、と同居人へ声をかけるシフティングは船に乗る仲間の中でも恐らく最も大きい。自覚のある彼は船の後方、それも崖に面する側でなるべくギリギリまで見つからぬようにと佇んでいた。
何の因果か、最初に受けた依頼も甲板上での戦闘だった。乱戦であったと記憶している前回から判断するなら、乗り込ませるよりは乗り込む方が望ましい。最も時と場合には依るが。
彼の傍らで『死の香りを纏う守り人』結々崎 カオル(p3p007526)は船の進む方向を見つめ、小さく瞳を眇める。
(海上訓練の後に海賊相手か……何だか騒がしい感じがするな)
何か大きな事を成す時には障害が立ちはだかるものだが、それにしてもと思わざるを得ない。事は大きいが、先ず何よりは町の住民に被害を出さないことだ。
海上訓練があったとはいえ甲板上での戦闘は心許ない。けれど、とカオルは船に乗る仲間たちを見渡した。自分より年若そうな者もいるが、皆頼もしく心強い。このメンバーなら何とかなるだろう。
不意に船が止まる。イレギュラーズたちがはっと正面を向く中、操舵していた海洋民は顎で崖の方を示した。
──崖が途切れている。もうすぐそこが裏側だ。
(そろそろ時間だな)
奇襲班もそろそろ崖裏に着いている頃だ。3人は視線で示し合わせ、集めた物を手に取った。
「ここから出ていきなさい!」
アンナが声を上げ、同時に船の上へ石や岩、果ては火炎瓶などが落ちていく。途中で割れた火炎瓶は爆発し、崖の岩を崩していった。
「女の声がしたぞ!」
「上だ、上にいる!」
乾いた複数の銃声にアンナたちは身を引き、崖を盾にしてやり過ごす。こちらが怯んだ、と思わせて──。
「さあ、Step on it!! 一気に吹っ飛ばしますよ!」
奇襲班の船が勢いよく崖の死角から飛び出してくる。『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は射程に海賊を捕らえると、淡く光を帯びた武器を投擲した。炸裂する光彩に海賊たちは束の間防御姿勢を取るしかできないようで。
「いくよー! 乗り込めー!」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の言葉と共に船が横付けされ、イレギュラーズ達が敵船へと乗り込んでいく。
(上手くいったみてぇだな)
崖の上からそれを見ていたプラックはニッと笑みを浮かべる。そして最後の石を投げ落とすと「さて」と呟いた。同時にゴリョウが鎧をバリスタ形態へと変化させ始める。
「一丁、ド派手に初名乗りをさせてもらうぜ」
アンナが飛び降り、続くように崖を蹴る。彼女は直前でふわりと衝撃を殺し、甲板へ降り立ったが──。
(俺はアレを使って着地するか)
飛行スキルの取得ができなかったプラック、広げられた帆をクッション代わりに甲板へ着地する。無理ならば足が少しダメになるだけだ、と思っていたが無事着地し、プラックは甲板の誰もに聞こえるよう声を張り上げた。
「俺がっっ! 蛸髭だぁぁ!!」
「……蛸髭だぁ?」
胡乱な声を出したのは如何にもな装束を見に纏った男──恐らくあれが『大烏賊』デーカイだ。男はプラックの姿を上から下まで見て、そして顎に生えるソレを見ると目を瞠った。
「──聞いた事があるぜ! ジュニアがイレギュラーズになったってな! そうかそうか、おめーさんか! ということはおめーさんら皆イレギュラーズってことか!!」
呵々と笑うデーカイ。海洋での何処かの活躍を耳にでもしたか。
「ジュニアだってなんだって構わねぇさ」
プラックは真っすぐな瞳でデーカイを睨む。大切なのは蛸髭であることだ。
「来いよ海賊! 俺がぶちのめしてやる!」
その言葉と共に突如、大波が甲板へ乗り上げる。それは海賊たちの密集した場所へ降り注ぎ、飲みこんだ。波が引き、プラックを睨みつける海賊の1人へ接近するは──死の香りを纏う者。
「すまない、あんたらに恨みはないが看過はできないからな。大人しく倒されてくれよ」
カオルが1歩、そしてまた1歩。ステップを刻む。そこへアンナの声が響いた。静かに──けれど不思議と響くような声が。
「私の名はアンナ。ローレットの名において、あなた達を殲滅するわ」
「イレギュラーズだからって俺たちを侮るなよ、小娘!」
海賊たちがアンナへ向かって行く。その様子にやれやれと肩を竦めたのは『蒼き深淵』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)だった。
全く持って、どこもかしこも祭りでもないのに騒がしい。どこかが落ち着けば別の場所でドンパチが始まるのだから、一向に平穏とは遠いものである。
「ま、依頼は依頼か」
ヘレディウムで難なく甲板へ着地したルーキスは、アンナを追いかける海賊たちへエメラルドの宝石魔術を撃ちこむ。船長撃破という一点突破もアリだろうが、だからと言って取り巻きを放置しておくわけにもいくまい。
「1つ1つ、確実にね」
棘が海賊たちを苛んでいく。その合間をスティアの放った魔力がふわりと飛んでいき、アンナを優しく癒した。
ぴょいと船へ飛び込んだウィズィはデーカイの姿を認めると接近、バカでかいナイフを振る。肌に赤い筋を作りながらもデーカイは楽し気に笑みを浮かべた。
「おめーさん、イイ武器もってんじゃねーか!」
「船長さんもセンスいいですね! 揃いの黒バンダナ、カッコ良いじゃないっすか!」
倒しちゃうの気が引けるなぁ、なんて告げるけれどウィズィの目に迷いの光はない。するべきことを決めている者の瞳である。
不意に甲板へ影が落ちる。はっと多くが顔を上げる中、茜色の空から落ちてきたのは──。
「ぶははははぁーッ! 見るが良い、この輝けるオーク式フライングボディプレスをッ!」
ドォン!!! と重い音が響き、船が揺れる。甲板の中心部へ降り立ったゴリョウはその存在を見せつけるかの如く登場した。
──さあ、この狭き戦場に全員が揃った。これからが始まりだ。
●
(1つの国が動けば他所が待ったをかけるのは人間の習性かなぁ。甘い汁を嗅ぎ付けた輩はすぐ群がるからね)
そう心の中で呟くルーキスが放つは呪いのルビー。甲板に咲く紅き花は海賊たちの精気を容赦なく吸い上げ、術者へと還元する。カオルは1人ずつ、確実に倒すためにステップを踏んで。
「くっ……何だこれは!」
どこか奇妙な、嫌な予感。何とも言い難いそれに海賊の1人がカオルを睨みつけた。対するカオルは真剣な表情で海賊の視線を受け止める。
「俺はやれることをやるだけ、だ」
ふとその背後から剣が迫る。カオルはハッと驚いた表情を浮かべたが──ここでやられるわけにはいかない。
その攻撃がカオルに届くことはなく。甲板中心に立つスティアが自らを中心に天使の福音を響かせた。同時に彼女は動き出し、今にも移動しようとしていた刀持ちの男へと立ちはだかる。
「ここから先は行かせないよ!」
「ちっ、邪魔すんじゃねぇ!!」
視線と視線がぶつかり合う。まるで火花が散るようだ。
その背後ではゴリョウが海賊たちの視線を引きつける。最初のインパクトから圧倒的な存在感、彼の放つ全てが『彼を倒さねば』と思わせるのだ。
剣を振り下ろされ、銃を向けられ。しかしゴリョウは安定した防御でもって最低限のダメージへと抑えていく。
不意にその脇を茶髪の影が抜けていく。甲板上でアンナを追いかけるのは半数もの海賊たちだ。デーカイから引き離していくように動くが、甲板上では──距離的なことを言ってしまえば、自分たちの乗ってきた船であっても──デーカイの声はよく届く。
「おめーら乗せられてんじゃねーぞ! そのガキばっかり追いかけてんじゃねぇ!!」
船長の声に海賊たちが我へ返る。しかし自らの力を引き上げているアンナはすぐさま自分へと注意を戻した。
「何度だってこちらへ引きつけるわ。それが仕事だもの」
水晶の剣を構え、真っ直ぐ見据えるアンナ。その淡い煌めきは彼女に勇気を与えて1歩を踏み出させる。
「くそ、あんのガキ……!」
忌々しげに彼女を睨みつけたデーカイは、不意に振り上げられたナイフに赤を散らした。
「船長さん、よそ見しちゃって大丈夫? そんなことしてると──いつのまにか船員さん、1人消えてるかもよ?」
ウィズィの言葉とともにプラックが強烈な一撃を向け、次いでシフティングのブロッキングバッシュがデーカイへと叩き込まれる。その間にもウィズィは船縁にいる海賊をラカラビで海上へと吹っ飛ばした。
デーカイはシフティングを見ようとしたが、その背後から差す夕日に顔をしかめる。咄嗟に後方へ退いたデーカイはウィズィが追随してくる前に、夕日で戦いを邪魔されぬよう立ち位置を変えた。
ブラックドッグを海賊へとけしかけたルーキスは「あー」と小さく声をあげた。
そういえば、魔術の類に馴染みがないと聞いた気がする。そう思っている間にもルーキスへ向けられる視線は恐怖にも似たそれへと変わった。
「あ、やめ、もう戦えないから、だから、」
近づくルーキスに、腰を抜かした海賊が必死に助命を請う。そんな男へ、ルーキスはやれやれと肩を竦めた。
「犬の餌にはしないであげるよ、お腹壊しそうだ」
敵を縛り苛む棘の魔術が展開される。男はそれに囚われ気を失った。
「……さて。燃費が重いのも考え物だ」
くるりと振り返り、ルーキスは次の敵を見定める。相手から吸収して自らのものとしなければ、今扱っている魔術などそう連発できない。
アンナは優雅なるステップと共に海賊へ切り掛かりながら、ちらりと視線を移す。
(命令を飛ばさない……意味がない、と?)
自らの選択肢を潰すくらいならば、味方を犠牲に自らが立ち回ろうとでも言うのか。しかし──それならばそれでも良い。あちらはあちらで仲間が足止めをしている。
「私たちが動く海洋で、簡単に悪巧みはできないという事をここで知らしめましょう」
なんとしても、絶望の海へ進出するのだ。
不意にアンナの前から1人、敵が外れていく。アンナがはっと視線を戻すと同時に聞こえた声は仲間のものだ。
「ぶははっ、オメェさんだけで頑張らなくていいんだぜ! 俺もいるからな!」
どっしりと構えたゴリョウへ海賊が向かっていく。スティアの援護もあって、彼はまだまだ耐えられるという姿勢だ。そこへカオルが執拗に攻撃を向けていく。
頷いたアンナは向けられた発砲音に体をよじった。薄皮1枚犠牲にして、彼女は自らが気をひく敵へ視線を戻す。
(大変な時に限って悪い事をしようと企む人達ってなんなんだろう)
ふつふつとこみ上げるのは、怒りだろうか。スティアは自らの全力を以って味方を癒す。まだいける。力が足りなくなったら体を張って味方を守れば良い。
なんとしても、悪い者達にはきついお灸を据えねばならないのだ!
一方、デーカイの元では3人のイレギュラーズが奮闘していた。決してヤワな敵ではないが、部下の指揮系統を正そうとして奮闘した分イレギュラーズの方がダメージを与えられている。
プラックの攻撃は流星の如く、魔術による推進力で強烈な一撃となる。それを受け止めたデーカイは攻撃の感触に小さく笑った。そこへ間髪入れずウィズィがナイフでの攻撃を繰り出す。
「中々しぶといっすね、船長さん!」
「だが殺戮する、である」
シフティングが格闘戦を仕掛け、デーカイが応戦しながら反撃した。しかしやはり疲れか──それとも蓄積されたダメージか──ぐらりとかの体が崩れ落ちかける。まだまだ、というように足を踏ん張ったそこへ迫る影が1つあった。
「往生際が悪いのは好きだけどよ、そのまま寝てくれ」
プラックが猟犬の如く、執拗に食らいつく一撃でデーカイへトドメを差す。床へ叩きつけられたデーカイは、ぴくりとも動かなくなった。
船長撃破の声を上げれば海賊たちの視線が一様にデーカイへ集まる。マジか、嘘だろと呟く声が聞こえた。
「さあ! まだ吹っ飛ばされたい奴はいるか!?」
高らかにウィズィの声が上がる。ぴきりと固まった海賊たちは緩慢に甲板へ視線を巡らせた。
我らが船長は倒され、幾人かも伸びている。対するイレギュラーズたちは傷つきながらも立っていて。
ガシャン、と武器を落とす音が響いた。
生き残った海賊たちをとっちめ、イレギュラーズは顔を見合わせる。
素直に撤退させるか。それとも殲滅し尽くすか。しかるべきところへ突き出すか。
「うーん。いっそ聞くか」
ねえ、と海賊たちの前へ立ったのはルーキスだ。服の上からでも分かる抜群のスタイルを見上げ、呆ける海賊たちへ彼女は問う。
「君達、自分の命と船とどっちが残ってほしい?」
にっこりと告げられた言葉は死ぬか生きるかの二者択一。ざっと顔を青くした海賊たちは必死に顔を振った。
「嫌だ死にたくない!」
「めっちゃ見てスイマセンでした!」
「こ、こ、殺さないでくれ!」
「うん? 何かヘンなの混じったけど……まあいっか」
首を傾げたルーキスは、けれど彼らに対しての措置が決まったので満足そうに頷いた。
気づけば日もすっかり暮れかけて、空には藍色の帳が降りている。イレギュラーズたちは戻るための支度を始めたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。この島もこれで一安心ですね。
海賊の措置に関してはまとまっていないようでしたので、リプレイ上のような描写とさせて頂きました。
流れ舞うように戦う貴女へ。執拗なる引きつけが結果へ繋がりました。今回のMVPをお贈りします。
蛸髭の貴方へ。いつかJr.ではなく、貴方が蛸髭だと呼ばれる日を楽しみにしています。称号をお贈りしていますのでご確認下さい。
それではまたのご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
GMコメント
●重要な備考
<第三次グレイス・ヌレ海戦>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』を追加カウントします。
この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
尚、『海洋王国事業貢献値』のシナリオ追加は今回が最後となります。(別途クエスト・海洋名声ボーナスの最終加算があります)
●成功条件
海賊の撃退、或いは壊滅
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●海賊×10名
荒波にも慣れた海種の男たち。黒烏賊団を名乗っています。皆、黒いバンダナをどこかに身に着けています。
船はあまり大きくありませんが、その分小回りを利かせてくるようです。
サーベルを持つ者が6名、銃を使う者が4名。いずれも魔術系には疎く、その分物理系に特化しています。
船長は『大烏賊』デーカイと言います。時として海賊たちへ指示を出し、時として指示系統を正し(BS解除)、時として自らも戦いに身を投じます。彼に関しては他の海賊と同じように見てはいけません。十分な注意と殺意を持って戦いに臨んでください。
●フィールド
船の甲板になると思われます。乗り込むか乗り込まれるかで変わってくるでしょうが、戦闘をすれば船体が揺れる事、イレギュラーズ8名と敵が同じ船にいれば乱戦必須となるのは共通です。海へ落とされないように気を付けてください。
天気は良く、風は多少あります。日は傾きかけており、方向によっては敵を視認しづらい状況となります。
また、パスカが発見時点では船が一時的に身を潜めようとしていたこと、そして彼女の聞いた情報の中に『日の沈む頃を狙う』とあったことから、日中の時間は情報収集として充てられました。
敵船は崖のすぐ裏に潜んでおり、ギリギリまで崖を死角に接近することが可能です。また、大回りとなりますが崖の裏手側へまっすぐ接近することも可能です。
●ご挨拶
愁と申します。
今回は甲板という狭い空間での戦いとなります。船体は揺れますし、乱戦にもなるでしょう。海賊たちはそれらに慣れた海の男たちです。どうぞお気をつけて。
ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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