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シナリオ詳細

<第三次グレイス・ヌレ海戦>酔う岩礁

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、食べて食べて。と茶と菓子を差し出してきた。
「ローレット連名されちゃったよ。女王陛下の声明読んだ? 『遥か外洋を征服せよ。絶望の青を捻じ伏せ、我が国の、国民の誇りをそこに刻まん――』」
 世にいう『海洋王国大号令』だ。各国の官吏試験に太字で出てくるクラスだ。
「目下の課題を近海の平定――頼みとするイレギュラーズの海上での実戦訓練。壮大な夢に向けてできることからコツコツ型で好感が持てます」
 頼られるイレギュラーズ的に。
「で、そういうのに横槍入れてくる奴って絶対いるじゃん。この場合、船の舳先だけど」
 メクレオは、盃に飲み物を注ぎ入れてカプカプ飲み干し、こちらにも勧めてくる。酒でない辺り酩酊を理由に逃げられない。用意周到だ。
「一方の舳先にはどくろがついてる。近海掃討の主な的の一つとされた海賊連合。駆られちゃう方ね。討伐されちゃうぞーってどっかの誰かに煽られて、割と悲壮になってる感じ?」
 お菓子もおいしいよ。と、まりまり食べながら差し出されたのはこの辺りで割とはやりの店のものだ。
「で、もう片っぽはがちがちの鋼鉄製。ゼシュテル鉄帝国。広いけど条件悪くて使えないのとそもそも狭くて使えないのとどっちが辛いんだろうね?」
 どっちもそれなりに辛い。だから、外に出ようとする。
「持ち前の武力を活かし、外洋へ出んとする王国の事業に『一枚噛みに』やってきたというわけだ。いや、噛ませる余地ないから。海洋王国的に、ニトリ勝ちしないとガチやばいからってとこかな」
「そして今回の作戦においては――」
 ごっくん。メクレオは、ナプキンで口元のジャムをぬぐった。
「ローレットは海洋王国側の支援につく事を決めている。という訳で、よろしくね」


「『グレイス・ヌレ海域は大型の軍船が比較的動きにくい手狭な海域です』」
 メクレオは何やら紙を読み上げだした。がsすぐ放り出した。
「小型中型の木造船ばっかなんだよね。海洋王国。強烈な鋼鉄艦を投下してくる鉄帝国とまともにやり合えるわけないよね」
 船数を減らしたくない。広い海にばらまくなら船の数中藤正の数と直結だ。
「だから、意識してこの場で迎え撃ちます」
 もちろん、鉄帝国だってバカじゃない。もっと他の場所での決戦を望んでいた。
「でもね。航路上大回りのルートを取らざるを得なかった事、ソルベ卿の差配によるスパイがいち早く鉄帝国海軍の動きを察知していた事等から、結局はグレイス・ヌレに引きこまれる格好になったわけだ。あれだよね。事前のもにょもにょが結局色々変えちゃうんだよ」
 こわぁい。などと言っているが、そういうこわぁいことにイレギュラーズを引きずり込むのを生業にしている者が言うことではない。
「――今回の帝国のお船もその引き込まれた口なんだけど。その中でもちょうどこの時間帯だとこっちの潮目に乗っちゃうのが一隻いそうなんだよ。えーっと、駆逐艦『ゲドイトゥ』」
 海図をなぞる指が岩礁地帯にたどり着く。
「流された先、人魚が歌うんだよね――比ゆ的な意味で」
 岩礁に磁石鉱が混じっており、微弱な磁界が発生しているらしい。海難事故多発ポイントだという。
「羅針盤がグルグルして、方向が分からなくなって、慣れた船乗りでも船酔いが発生する程度? そういう場所だって知ってれば対処のしようもあるけどさ。まず想定しないよね。そこに勝機があるわけで」
 御自慢の兵装も結局動かすのは人間だ。こちらの目的を果たす余地は十分あるということだ。
「鉄の塊の帝国の船は操船がより難しくなるだろうね。海洋王国の木造船の操船にはほぼ影響なし。近づいてって、あっちの船の甲板に上がって奇襲かな。なるたけ速やかに乗り込んでね。向こうもぶっ放してくるだろうし。乗ってしまえば誤射を避けてそうそう撃っては来れないだろうけど、こっちが隙見せたらその限りじゃないね」
 様々な意味で。
「そして、ここに強力な酔い止めがある。今飲まないでね。陸酔いするよ。それから、船酔いに負けない屈強なネームドもいる訳だから、あくまで戦力的にこっちが弱いっていうのを肝に銘じてね」
 船を壊す。あるいは、船の指揮官に深手を負わせれば、海域を離脱していく。皇帝親征だ。船にはそれなりの身分の者が乗艦している。
「あるのは諸刃の刃の地の利と強力だけど効果時間が短くてそのあと副作用がちょっと厳しい酔い止めだけだよ」
 しれっと、メクレオは聞き捨てならないことを言った。
「沈められるとか夢みたいなこと考えないでね。船から黒煙もしくはネームド――『怒涛を御する』コンスタンツェから血しぶき上がったら勝ったと思っていいから。そしたら速やかに海域から離脱してね。追い返せれば御の字なんだから。あ、鉄帝国にお持ち帰りされたいなら止めないけど、拷問されても俺の名前出さないでね?」
 あ、そうそう。と、メクレオは何かを思い出したように手をたたいた。
「このネームド、情報によると『この親征が終わったら結婚しましょうね』な人だから」

GMコメント

●成功条件
 A)船から黒煙が上がる程度の損傷。
 B)ネームド『怒涛を御する』コンスタンツェに一定以上のケガを負わせる。
 AもしくはBを達成できれば、駆逐艦『ゲドイトゥ』は撤退を始めます。

●地形およびそこから発生する特殊状況
 特殊な磁石鉱を含む岩礁地帯です。
 敵の操船能力、著しく低下。戦闘できる船員が精鋭の10名くらいしか残っていません。鉄帝国的に大ピンチです。そこにつけこむのを前提にした作戦なので躊躇しないでください。
 主戦場は敵艦の甲板になります。整然としていますが、あちこちに前後不覚になっている敵船員がうずくまっていますので、障害物ありとします。
 撤退できないといけないので操舵室や機関室に手は出せませんが、兵装などを黒煙が上がるレベルまで壊すと船長が撤退を始めます。
『ゲドイトゥ』が動き出したら、速やかに撤退してください。しない場合、一両日後、かなり悲惨な状態で海に浮くことになります。

●敵の情報
 ネームド『怒涛を御する』コンスタンツェ
 鉄帝国軍人。白刃隊指揮官。
 妙齢で高貴な身分の女性です。色々思惑がこんがらがった結婚を控えているので公私共に今死ぬと人が数十人以上死ぬレベルでごたつきますので絶対死ねない立場です。本人も自覚しています。
 小回りの利く双剣を使います。手数を稼いで相手を自滅させるタイプです。
 見た目のたおやかさに反し、非常に頑健です。状態異常はほぼ無効化します。

 鉄帝国駆逐艦『ゲドイトゥ』付き白刃隊×10名
 小振りの戦斧を振り回す歩兵。重装備ではありませんが、その分動きは俊敏です。
 コンスタンツェを死なせてはならないことを全員が肝に銘じています。

*援護射撃
 誤射の心配がない者、例えば接近戦で鉄帝国兵の戦っていない者には、遠距離攻撃が撃ち込まれます。

●酔い止め
 メクレオはああ言いましたが、作戦の間に切れることはなく十分に効果を発揮しますし、副作用も他のシナリオに一切影響しません。
あくまで、フレーバーとして楽しんでください。どんな副作用が起こるかは体質として任意とします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●重要な備考
<第三次グレイス・ヌレ海戦>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』を追加カウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
 尚、『海洋王国事業貢献値』のシナリオ追加は今回が最後となります。(別途クエスト・海洋名声ボーナスの最終加算があります)

  • <第三次グレイス・ヌレ海戦>酔う岩礁名声:海洋0以上完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月02日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
絶望を砕く者
オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)
にんげん
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ルチア・アフラニア(p3p006865)
「Concordia」船長
彼岸会 無量(p3p007169)
ジョージ・キングマン(p3p007332)
亡き者も共に
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

リプレイ


「嫁入り前に戦争か。鉄帝のレディは、実に剛毅だな」
『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は、肩をすくめた。
「その心意気は嫌いじゃないが、だが、ハネムーンの下見には少し、場所が悪いな」
 彼岸会 無量(p3p007169)は、わかっておりますが。と切り出した。
「敵将は殺してはいけないのでしたね」
 周囲は、そうだ。と、大きく頷いた。禍根を残しすぎてはいけない。
 生き延びることにかけては天下一品の『斜陽』ルチア・アフラニア(p3p006865)は、
「だめよ」
 若干食い気味、はっきり口に出して言った。
 そうなったら、この駆逐艦は本来なら一番近い港に入渠するべきところを、沈むまで激戦区に転身し、弔い合戦とばかりに大暴れするだろう。
 ルチアとしては考えただけで総毛立つ。生き残る確率が0になる。
 もちろん、無量はわかっている。
「心予めておかねば間違ってしまいかねないので、確認を」
 事に当たる前に懸念路潰しておくのは大事なことだ。
「音には魂が宿りますから、言葉に出しておくのは大切です」
 まっとうな者は、くわえて来るべきが首か腕かの区別もつかないモノに銭を払ったりしない。

 所々から岩が付きだす岩礁。駆逐艦の転進にも時間がかかる。その間に本国への撤退を決断させなくてはならない。
「人魚が歌う……」
『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は、胡散臭いあっせん者を思い出してこめかみをもんだ。
「実に詩的な表現ですが実際に現場に立つ身としましてはたまったものでは無いですね」
 方位磁針も繊細な計算機器も影響を受ける。たっぷり沈んだ船の金属部品がまた磁気を帯び、より影響が広がるのだ。
「まあ、敵方はより強い影響を受けるおかげで鉄船一隻を一隊で追い返せるのですが」
 そのとおり。と、紳士は言った。
「人魚が歌うこの場所は、船の墓場だ。鉄帝の船には、縁起が悪いこの場から、手早くご退場願おうか」
 真っ向からあたるなど正気の沙汰ではない。
 そのために飲んだ酔い止めは、それはひどい味だった。
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は、ぐえぇと体を二つに折る羽目になった。
「こいつぁまた強烈な酔い止めだねぇ。口直しの一つでもしたくなるくらい苦み走った後味を感じるぜ!」
 舌の奥と歯ぐきまで苦い。果たして、今日の夕食はまっとうな味がするだろうか。それもこれも海の藻屑にならなければ。の、話だが。


 ローレットの面々は、自分達の船が木造でよかったと胸をなでおろした。
 磁石鉱による誤作動誘発と知らなければ、機関担当者たちの一斉蜂起と勘違いしかねない。教会の鐘の引き紐に発情期の猫をぶら下げたとしてもとしてもこんな音はすまい。
 鉄帝国側はこの異常を海洋王国からの攻撃とみなしたらしい。自然現象なので濡れ衣だ。ここで戦うのは単なる地の利である。酔い止めは単に準備がいいだけだ。
 基本的に薄い装甲、要所の装甲だけを厚くした白刃隊が、散開陣形で甲板に展開している。磁石鉱の影響はほとんど受けていないという情報は正しかったようだ。甲板にしゃがみこんではいずっている水夫たちを尻目にきびきび動いている。
 只一人双剣装備をしているのが『怒涛を御する』コンスタンツェだ。たおやかな容貌だが、軽装備に覆われた首から下もそうだという保証はない。
 船を破壊するか、コンスタンツェを襲うか。
 検討の結果、後者が選択された。
「コンスタンツェから白刃隊を引っぺがして、早々に退場願おうと」
 一太刀入れればお帰り願えるのだ。親征団の警護をするのが一隻でも少なければ陣形が手薄になる。鉄帝国の軍師達の転進を促すものになってほしい。撃沈したら復讐だの倍賞だの面倒は話になる。取り返しがつかないことでの国民感情の爆発は避けたい。

 ローレットの初手は容赦ないものだった。
 ヘイゼルは精霊に命じる。一粒一粒が熱を帯びた砂を躍らせろと。
 海軍さんはあまりなじみがないかもしれない。
 骨身に応える無数の殴打が白刃隊と甲板のあちこちに突っ伏していた水兵を襲う。
「人魚の歌に砂嵐のコーラスを追加なのです」
 いつの間にか甲板にいた赤い三日月宗近を頭部に刻した黒い影は唐突に言葉を紡いだ。
 追って、無量が総刈り取りの刃を放つ。
「我等『物語』は此処だ。貴様等の激的な蹂躙を受け止めて魅せよう。Nyahahaha――」
 向こう三日はうなされる。
 きしむきしむきしむ世界がきしむ具合が悪いから世界がきしむのか世界がきしんでいるから具体が悪いのかただここがいつもの世界と違う何かがいたりあったりして具合が悪くて世界がきしんで。
 いつもなら息を吸って吐くくらい自然にできることが何もできないそもそも息を吸って吐くとはどういうことだったか体中が苦しい痛いきしむ。
 オラボナが壁なのだ。
「喰らえ。肉の味は塗料だと理解せよ。物語を始めるのだ」
 白刃隊はともかく、水兵達はその場で歯を食いしばりうずくまり続けることで精いっぱいだろう。
 もしも恐怖に駆られて叫びだしたら、士気を下げた。と、速やかに処理されかねない。

「んー。駆逐艦が動くまでに倒せないってことは、かなりの強さってことだよね。流石軍人さん……というところかな」
 こんな事態じゃなければ、正々堂々とお相手願いたかったなぁ……と、『守護の勇者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は残念がる。
「ねぇねぇ。わたしとお手合わせしてよ。子供だからって侮らないでよね?わたし、強いんだから!」
 援護射撃をする隙を与えない。ルアナは、白刃隊に肉薄しては位置取りを調節する。他のものが俊敏に動かない分、白刃隊の誘導はルアナのフットワークに一任された。
 結婚間近の花嫁を守る騎士達を引きはがさなくてはいけない。
 ゴリョウほど、白刃隊を引き付けられる逸材はいなかった。
 オークと戦場に立つまもなく結婚する娘。フラグが立っている。吟遊詩人が一曲ホラー系悲恋モノを仕立て上げて、ご婦人の涙と怖気を誘ってしまうくらいの叙情性を秘めている。
 しかも、ゴリョウは意識してその様にふるまうことを技術として確立しているのだ。つまり「討伐対象として魅せられるオーク」である。
 ガントンファーを担いだ筋肉の盛り上がりが。口の片方だけ釣り上げてむき出す歯並びが。踏み出し甲板を踏みにじる足さばきが。白刃隊の「隊長を守らなくては」という命題を「こいつこそを倒さなければ」と書き換えてしまう。
『果ての絶壁』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は、にじり寄った。
「破壊か飛沫か。何方にせよ我等『物語』の存在は肉の壁だ。常の如く刃と鉛、神秘と物理。遍く痛みを悦と見做すのみ――Nyahahahahaha!!! 船酔いは困るのだがな」
 人のようであからさまに人ではない者は恐ろしい。それが人間臭く船酔いなどというと更に恐ろしい。理解できないモノが理解し得る地続きに存在しているのだ。
「海洋の敷居を跨いだ、混乱を齎した。ならばもはやその命ここに置いて行ってもらう他なし!」
『名乗りの』カンベエ(p3p007540)の謂れは伊達ではない。
「何も申すか、侠客風情が。こちらにおわすは貴様ら風情がお目通りかなう方ではない。ましてやお命などと片腹痛し。そっ首差し出しわびと差し出せ!」
「異な事を。ならば引き返すが宜しいだろう。鉄帝人は頭まで火薬で出来ていると見た」
 カンベエとて敵のいきさつは知っている。親征に同行しなければ御家危うし。さりとて死ぬればまた家中が荒れる。
 しかし、これは戦である。苦しい事情を持ったところを狙った奇襲である。油断ならぬ相手、心ある相手と思わばこそ相手の怒りに更なる油を注がなくてはならない。
「30近くある戦場の一つでいくつか船を押しとどめた程度の戦果では帰っても笑われるだけでしょうがね!」
 追い返すが精いっぱいのところに虚勢を乗せ相手のしくじりを引き出すのがカンベエに任された役回り。
 きっちり対峙してこその義理立て男立てである。
 その間をかすめ飛ぶようにして、無量は刃を振るった。
「戯れに会得した空を蹴る技ですが中々どうして便利です。が、この揺れの中持ち堪え動けるだけはある、強健ですね」」
 なかなか崩れない白刃隊に更なる殺意を当て続ける。数を減らすのではなく全体に負荷をかける様相を呈していた。
 ある者は引き付け、ある者にはひざを折らせ、あるものは切り捨て。
「白刃隊、だいぶ数が減ってきた。ここはわたしが引き受けるから、軍人さんのほうへ!」
 ガキリと組み打つ戦斧の刃を鼻先に感じながら、ルアナは叫んだ。
 その言葉にうなずき、ヘイゼルが真っすぐにコンスタンツェに走り寄る。
「申し訳ありませんが、傷物になって帰って頂きます」
「まあ」
 可憐な、しかし思ったより良く通る声だった。
「魔導士と目しておりました」
「主に旅人です」
 無手なれど身に着けた装身具とたっぷりのせた魔力に裏打ちされた一撃をコンスタンツェはしのいだ。
 白刃隊をはがしさえすればすぐだと思っていた。
『怒涛を御する』コンスタンツェ。 怒涛とは何を意味するのか。
「全てを受け流しましょう」
 この身に降りかかる重圧も、運命も、襲撃も。
 どこまでもしたたか、かつ、しなやかに。しかし、コンスタンツェも無傷という訳ではない。立て直す余裕を与えてはならない。
「ようこそ海洋へ。ハネムーンの下見なら大歓迎だ」
 その紳士からは海の匂いがする。
 繰り出される拳も蹴りもコンスタンツェの内臓を痛めつけるのが目的だ。一方の剣が要所をかばい、一方の剣がカウンターでジョージを脅かす。悪手を打てば嵐の海に沈没する。
「お心遣い痛み入りますが、領内をめぐる予定になっておりますの」
 ここがどこかのサロンなら、しゃれた外交になったろうに。
 満身創痍でなおローレットに食い下がる白刃隊はジョージを八つ裂きにせんとする勢いだ。
 少しでも冷静さを欠けば、こちらの思うつぼだ。というジョージの策は当たった。
(結婚祝いに贈る品に、勝利の美酒は贈れない。贈らせるつもりも、無い)
「――お願いいたしますわ」
 二人をいなすには限界があると見たコンスタンツェは、ゆるりとテンポを変えた。そこにいつの間にか白刃隊が収まっている。
 コンスタンツェは、あくまで部隊の一員として自分を布陣し、陣形を変えたのだ。
 白刃隊もただの壁ではない。彼らは帝国海軍の海兵隊。戦斧を振るう者なの達だ。彼らの長が敵をいなしたらそれを撃破するのが彼らの絶対命題。組織の性質上、即席の連携を余儀なくされるローレットにはない強みだ。
『怒涛を御する』コンスタンツェ。
 敵の猛攻を御し、帝国の猛者を御する者。
 『怒涛』なのは、別に指揮官である必要はない。
「なるほど。まさに怒涛の攻めだ。海兵隊を率いるに相応しいレディだ」
 ジョージに襲い掛かる白刃隊の戦斧のきらめきもまた波濤のごとく。
 立ちふさがるものを叩き切る。
「だが、俺も退けん立場でな。船出の邪魔立てはさせん!」
 前歯を血に染めつつ吠えるジョージの傷は速やかに癒された。
 ルチアは、ずっと控えていた。
 自分が攻撃することで前線の間を邪魔することははばかられた。その間ずっと艦橋からの援護射撃にさらされていた。傷を負っても決して倒されることなく、いつでも最大限に動けるように備えていた。
 彼女の足元には撃ち込まれ、治癒した体外に排出された数えきれない弾丸が転がっている。
 そして今、この時がルチアのなすべき時だった。
 矢継ぎ早の範囲治癒、行動力賦活治癒、ヘイゼルがミリアドハーモニクスの詠唱に切り替え、それにゴリョウもミリアドハーモニクスを重ねた。
 それまで散々切り付けていた傷がみるみる癒えていく。
 拮抗した戦況で圧倒的な回復を見せられた刹那、徒労感と無力感に襲われるのを回避するのは強制付与される攻撃でない分難しい。
「悪いが最後まで付き合ってもらうぞ!」
 牙をむき出して笑うオークが話しかけたのは、満身創痍だった侠客であったのを理性は理解しているが、「最期までつきあってもらうぞ」と「自分に」冷水を浴びせかけられたような顔をした白刃隊に、今度こそゴリョウは傷一つないピカピカの腹を見せつけていった。
「ぶはははッ、その戦斧は飾りか? んなへっぴり腰じゃ俺を倒そうなんざ百年早ぇぜ!?」
 コンスタンツェが部隊の下がる士気を鼓舞しようしたその時、それまで白刃隊を切りに切っていた無量が不意に転進した。
「死ぬ事も許されずに戦場へ駆り出される、不憫ですね」
「生きろと命じられる恍惚をご存じない? お可哀想ですわ」
 真正面から突っ込んだ無量の防御を無にする一刀両断。
 技の反動に無量も無事では済まない大技。
 コンスタンツェの双剣の片側が欠け、その掌画酒骨が割れているのが見えた。

 ここが分水嶺。これ以上の痛手は駆逐艦の引き際をあやまたせる。
 欲をかいては事を仕損じる。
 数瞬のにらみ合い。駆逐艦が動き出したのが契機になった。
「此処が定めか。早々に退くのが良好」
 もっとも新しい「物語」が動く。
 追撃をいなしながらの撤退が最も難しい。
 各々の盾になりながら、ローレットは艦上から引き、海に飛び込むのだ。本命の脱出艇が駆逐艦の砲撃に会っても、カンベエ口利きの脱出艇にすぐ引き上げられる手はずになっている。
 白刃隊も再び秩序を取り戻し、愛剣を失ったコンスタンツェの防護に徹した。
「オメェさんらも無理せず帰んな。命あっての何とやらってやつだぜ……ま、俺らが言うことじゃねぇかもしれねぇけどな!」
 ゴリョウが声を張り上げた。
 失血に血の気を失いながらも、白刃隊長は令嬢然として笑った。
「戦果を上げず帰途に就くのは心苦しいですが、たまたま航路をはずれた駆逐艦の一乗員にすぎない私の婚儀まで作戦に組み込むだけの情報網を確立していると報告をすることでせめて国に報いましょう」
 当事者であるコンスタンツェが生きているからこそできる報告だ。
「これ以上この海域にとどまり、守るべき艦を傷めるも愚策。王国の思うつぼとなるのは本意ではありません。ごきげんよう、驚嘆すべき方々」
 海に慣れた者、傷の少ない者から飛び込んでいく。辛うじて航行できるようになったものの、機器の調整や兵装を操る乗員はまだ船酔いに苦しんでいるようだ。火を噴く気配は感じられない。
「さあ、捕まっておくんなさい」
 カンベエはゴリョウを引っ担いだ。
「おっと、俺が担ぐ方だと思うがね」
「いやいや、別にゴリョウさんが弱っているとは思ているわけじゃごぜえません。ただその装備じゃ海の底に引っ張られちまいます。王国のために尽力して下すった方を人魚の餌にするのは不義理が過ぎるってもんでごぜえましょう。ここはワシの顔を立てて、浮き輪代わりにしておくんなせえ」
 ゴリョウは、そこまで言われて固辞するほど無粋なオークではなかった。


 駆逐艦『ゲドイトゥ』が遠ざかり、点となり、気配となり、主砲をぶっ放されても十分に対処できる距離がとれた頃。
 思ったより親切処方だったそれはほぼ同時に効力を失った。この辺りを航行する水夫たちは慣れたものだ。突然の水泳と副作用に顔色を失う面々に速やかに紙袋が渡される。圧倒的な脱力感と回る視界。妙に消極的作戦だったのは『駆逐艦を沈めるにはあまりにも短い効果時間とリスキーな副作用』と判断されたのだろう。
 無量の体が腰からがくっと半分に折れた。顔面とひざが激突する壮絶な折れっぷりだ。
「大丈夫です。眠っても人間は切れます」
 切れるだろうが、せめて目を覚まして相手を選んでほしい。
 オラボナは一切の予兆もなく下を向いた。名状しがたき音とともに名状しがたき物質が口と思しき割れ目から発生している。ただ止めどもなく何かが出ている。そして体表面が水に貼った油膜のように刻々と暗黒が暗黒のまま七色に色を変えた。10秒以上凝視した者は船酔いの深度を1上げること。
 特に症状が重かったオラボナは船尾に隔離された。作戦区域から離脱する船の軌跡にはどこまでも光り輝く何かが線を引いたのだった。

成否

成功

MVP

ジョージ・キングマン(p3p007332)
亡き者も共に

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
「ゲドイトゥ」は戦闘海域から離脱しました。
みなさんの今後のご武運をお祈りいたします。

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