シナリオ詳細
<第三次グレイス・ヌレ海戦>光を食べる巨大な貝
オープニング
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発動された『海洋王国大号令』の名の下に、ネオフロンティア海洋王国の活動は活発化していた。
その一方で、活発化し始めた王国の動きに警戒や別の思惑を持つ者達がいる。
鉄帝国に海賊連合、そして――。
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「無知で生意気な人間たち……本当に困ったものね」
トリダクナはゆるく波うつ藍色の裾を翻し、珊瑚の階段をのぼった。
ガラスのような海面が冬の澄んだ空気を弾き、七色に光を反射する。一部はそのまま海面を通り抜け、淡く輝く光のカーテンとなって、トリダクナの漆黒の髪の上で踊っている。
最上階に据えられた大真珠の前に立ち、白い手をかざした。体内に取り込んでいた光を放出する。
突然、大真珠が巨大なランプのように黄色い光を発して輝いた。
トリダクナが注入した光が大真珠の中でぐるぐると周り、何百、何千層とある薄膜に干渉して強められたのだ。
やがて、大真珠が放つ光は濃紺の海底に、遠く離れた海洋国はグレイス・ヌレ海域を映し出した。偵察に出した魔物の目が捉える映像である。
海面は白と藍のむらになってゆるやかに息をついている。そこへ複数の船が北からも南からもやって来て、波を白く割り、泡立たせ、海中をやかましく渦まかせた。
「アルバニア様が癇癪を起こされるのも道理……この海模様では心穏やかではいらないでしょう」
へその位置にあるブラックホールのような陥没穴から、ゆるゆると海水を吹き出す。
「人間たち、とくに海洋のものたちをこれ以上、『絶望の青』に近づけさせないようにしなくては……遠出はいまいち気乗りしませんけれど、しかたありませんわね」
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「大号令に沸く、海洋国海軍からの要請だ。グレイス・ヌレ海域に出没する魔物を撃退して欲しい」
丸眼鏡を指で押し上げると、『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)はイレギュラーズを近くのテーブルに誘った。
全員の着席を確かめると、脇に挟んでいた海図をテーブルの上に広げた。
「いま、海洋と鉄帝、そして海賊連合がこの狭い海域で争っている。そこに魔種がちょっかいを出してきた。魔種たちは、『絶望の青』を制さんとする海洋国を『とくに』快く思っていない。ま、当然といやぁ、当然だが……」
打ち合わせているわけではないが、結果として、魔種の動きは鉄帝国や海賊連合の動きを利している。海洋国の被害は甚大だ。このまま魔種を好き勝手にさせていると、海洋国は『第三次グレイス・ヌレ海戦』に敗戦してしまうだろう。悲願達成するどころの話ではなくなる。
「今回の作戦においてローレットは海洋王国側の支援につくと決めている。全力で魔種を退けてくれ」
クルールはイレギュラーズの力強い頷きに満足し、撃退しなくてはならない魔種について説明を始めた。
「命からがら逃げて来た者の証言によると、魔種は美しい女の姿をしている。黒髪に深い藍色のロングドレス、両手にオオジャコの殻盾を装備。ロングドレスは腹のあたりか開いている、胸を強調したセクシーなデザイン……っと、これはどうでもいい情報だな」
魔種の名前はトリダクナ。
海中からぬっと現れ、海面に起立した後、自ら名乗ったという。
「美魔女の攻撃は、付近一帯の光を喰らって暗黒にしたのちに、両手の巨大な殻盾をぶつけて船を沈めるというものだ」
暗黒は一種の結界のような物で、トリダクナが解くまで解消されない。結界の中で光を発した途端、すぐに食われてしまうのだ。つまり、ランタンや松明の類はまったく役に立たない。
「光という光が食われる。船に積まれているレーダーも見えないから、魔物が攻撃せずとも船同士が衝突、あるいは岩礁にぶつかって沈没する船が続出しているそうだ」
耳、鼻、皮膚……目以外の器官をフル活用しなくては、魔種の位置すら特定できないだろう。
「そのほか、超強力な水鉄砲をヘソの穴から出すようだ。ようだ、というのは、この攻撃を食らった時、証言者は盲目状態だった。攻撃が当たった位置から考えると、魔種のヘソ当たりから発射されたようだ、ということだな」
イレギュラーズは海洋国の軍船に乗って、出没海域へ向かう。
「お前たちは魔種を退けることに集中してくれ。この魔種についてはまたまだ解らないことが多い。無理をして倒そうと頑張ると危険だぞ。グレイス・ヌレ海域から追いだして、海洋が鉄帝や海賊連合との戦いに集中できるようにしてくればいい。
じゃあ、頼んだぜ。イレギュラーズ」
- <第三次グレイス・ヌレ海戦>光を食べる巨大な貝完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年01月03日 22時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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空は晴れているが気温は低く、冬の海を渡る冷えきった空気がチリチリと頬にしみる。
『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)はデッキの手摺りに手をかけて目を閉じ、新たに体得したスキルの技術向上に励んでいた。
魔種を前にして、いきなり本番で使うのが不安でたまらない。波の音で反響音が妨害される海での使用となればなおさらだ。うまく敵の位置を特定できればいいのだが、できない場合は確実に仲間の足を引っ張ってしまう。そんなことになったら――。
「いま吹いているそれ、なんていう曲ですカー?」
「へっ?」
すっきりとした声に一悟が横を向くと、『放課後のヴェルフェゴール』岩倉・鈴音(p3p006119)が手をふきふきしていた。
「ゆる~い感じがいいですネ」
「え、えっと、オレ、いま……」
エコロケーションのつもりだったのだが、どうやら普通に口笛を吹いていたらしい。自覚がないのでタイトルを聞かれて困る。
とりあえず、鈴音にどんな感じだったか再現してもらった。
「あ、それな。あるSF映画に出てくる偉大な悪役のテーマ……なんだけど、ちょっと……」
「偉大な『悪役』の?」
スローテンポのそれは、『やる気のないダー○ベー○―』のテーマだった。元曲を知っていて聞くと脱力間違いなしなのだが、あいにく鈴音は一悟と元世界が違う。
すぐ近くにいた『自分と誰かの明日の為に』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)もまた同じく。さっきから一悟の口笛を聞いていたはずなのだが、脱力するどころか、レーゲンもレーゲンが繰るグリュックの体も緊張でガチガチになっていた。
「レーゲン君、戦いの前に出してすっきりするといいのだヨー。この船のトイレは狭いけどとーっても清潔でした」
鈴音が声をかけると、レーゲンはびくりと体を震わせた。
「大丈夫っきゅ、ありがとう……魔種と戦うのは初めてだきゅ。だから、ちょっと緊張していたんだきゅよ」
ぴこぴこと前足を振ったレーゲンの真上で、船室から出てきた『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)が大声をあげた。
「海だ!!! 海は良いよね! 何かほらいいよね、ほら、あれよ、その、こう、大きいし!!」
ね、と百点満点の笑顔を下に向けた。
「あれ、どーしたの? 元気ないね。もしかして、お腹すいてる? ダメだよ、ちゃんと食べなきゃ。睡眠、食事、これ大事!」
「そういえばなんだかお腹が空いたような気がするっきゅ。深緑風リゾットを持ってきているから食べてくるっきゅ」
レーゲンと入れ替わるように、『堕天使ハ舞イ降リタ』ニーニア・リーカー(p3p002058)と『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)が甲板に出てきた。
そろそろ、問題の海域に船がさしかかる。二人は水平線に目を向けた。
「ここに蹄鉄とか海賊とかが絡んで来たら……、騒がしいなんてもんじゃないよね」
二―ニアが何気なく零した言葉を、大丈夫でしょう、とエンヴィが軽く受ける。
「出港直前の情報にも出てきませんでしたし」
「よかった。魔種一体を相手にするだけでも大変だもんね」
デッキを回り込んできた『雷精』ソア(p3p007025)が、二人の会話に加わる。
「今回ボクたちが戦う魔種といえば、両手にオオジャコガイ! おへそから水ビーム! 聞けば聞くほど面白い美人さんなんだな!」
「それに、広範囲の光を封じるなんて厄介な能力を持ってる……妬ましいわ」
「ボクは魔種のこと大嫌いだけれど、今回の彼女は一目見てみたい……!」
「じゃあ、しっかり目を開いて暗くなる前に見つけないとね。本当に美人かどうか確かめましょう」
「太鼓腹でべそからお水ビュー、だったら面白いな!」
「それ、美人台無し。美人と称されるからには、やはり腰はきゅっと締まっていてほしいわ」
ニーニアは二人の男の子のような会話に笑いながら、フクロウを空に解き放った。
海と言えはカモメだが、魔種が作りだす暗黒結界の中を飛ぶため、夜目がきくフクロウを召還したのだ。
「あの子の夜目と僕の暗視でなんとかなればいいけど」
「ダメでも大丈夫だよ! そのためにみんな対策を立ててきたんだから」
「そうね。事前に知らされていなければ、暗黒展開からの奇襲でなす術もなく壊滅しかねなかった……。情報を持ち返ってくれた生存者に感謝だわ」
ソアはマストの上の物見やぐらを仰ぎ見た。
360度、周囲を警戒していた桐神 きり(p3p007718)が、じっと東北の方角を見つめて動かない。
きりが何か見つけたようだ、と二人に告げようとしたそのとき、大音声が振り落ちて来た。
「魔種発見! 海の上を……ものすごい速さで『歩いて』くる!!」
警告を発しながら空へ飛び立ったきりを追って、鈴音もデッキを飛び立った。ポケットに手を入れて目薬とポーションを取りだす。
「うーん、餡が充満してジューシー」
ハッピーはレーゲンを呼びに船室に駆けこみ、エンヴィとニーニア、ソアは軍船に曳航されていた二隻の小型船に急いで向かう。
「全力で海域を離れろ!」
一悟はあたふたとデッキを走り回る水兵に怒鳴りつけると、手すりを蹴って船から飛び出した。
警鐘が激しく打ち鳴らされ、海はにわかに騒がしくなってきた。
●
「あら、お出迎えしてくれるなんて、うれしいわ」
魔種は海洋軍船を飛び出してきたイレギュラーズを前に、濃紺のドレスの裾を持ち上げてお辞儀をした。
「はじめまして、わたくしトリダクナと申します。お会いして早々に申し訳ありませんが、アルバニア様のため、みなさんには海の藻屑となっていただきます」
蠱惑の笑みを見せつけたのち、トリダクナは全速力で戦闘海域を抜けようとしている海洋軍船に向けて高圧水流の槍を放った。
「きたよ!」とソアがエンヴィに警告する。
「私がいる限り、沈ませないわ。フルアヘッツー!!」
エンヴィが操舵する小型船が猛スピードで、トリダクナと軍船の間に割り込んだ。
トリダクナが放った攻撃は、水面より上に当たり右舷後部に着弾。外板を貫いてエンジンルームに到達した。
その瞬間、ソアは体がふありと軽くなる感触を味わった。手すりから手が離れ、デッキに体が打ちつけられる。
「エンヴィさん! ソアさん!!」
ニーニアの小型船から一部始終を見ていたハッピーが、大音声で仲間の安否を気遣う。
幸いにして火災は起こらず、エンヴィの小型船は低速ながら大きく弧を描いて魔種に船首を向けた。
後ろにいた海洋の軍船も無事だ。ぐんぐん小さくなって遠ざかっていく。
トリダクナは黒髪の上から耳を手で押さえた。
「なんて品のない大きな声。耳が痛くなってしまったわ」
眉の間に不快感を漂わせ、体をゆるりと回す。――と、またへそから海流の槍を放った。今度はニーニアの小型船が標的だ。
「わわわ!」
慌てるハッピーとは対照的に、冷静なニーニアは主舵を切って魔種の攻撃を回避する。
目標をそれた海流の槍は、数百メートル先の海面に突き出ていた岩を砕いた。
「ふう……びっくりしたー。こんどはこっちの番だよ! ……って、と・ど・か・な・いー。ニーニアさん、急いでー!!」
「わかってる」
ニーニアは舵を繰って船を魔種へ向かわせながら、フクロウと視線をリンクさせた。
初手に暗黒を広げるかと思っていたが、意外だ。いまの内に状況を把握しておこう。フクロウの目を通じ、高みから戦場を広く俯瞰する。
海洋の軍船が遠く離れた場所にあるのを確認して、二―ニアはほっと息をついた。
大回りさせられた自分たちよりも早く、一悟や鈴音、きり、ニーニアが魔種に接近しそうだ。
「ちょこまかと落ち着きのない人たちね。では、その目を奪いましょう」
トリダクナは巨大なオオジャコガイの盾をつけた両腕を広げた。
光が筋を引いてトリダクナに集まっていく。急速に闇が広がり出した。
「すごい、本当に真っ暗になった!」
立ち上がったソアが、空を見上げて感心した声をあげる。
「真っ暗になったら、せっかくの美人顔がよく見えねぇぜ!」
一悟はトリダクナにトンファーを叩き入れた。白く大きな胸の上でぱっと花火のように炎が弾ける。
「まあ……素敵な炎の花。だけど女の胸に飾る時にはもっと優しくするべきね」
「あ、ごめん」
バカ素直に謝った一悟の頬を、固い貝の殻がぶち抜いた。魔種の攻撃をまともに食らった一悟が、爪先で波を割りながらすっ飛んで行く。派手に水しぶきをあげて海に沈んだときには、あたりが真っ暗になっていた。
「魔種め、ドレスよりも半纏だろ。海底で盆踊りをシテロッ!」
あたりが暗なってすぐ、鈴音はエコロケーションを開始していた。正確に、トリダクナのヘソの位置を捕え、毒蛇を食らいつかせる。
「題して、『ゴマとり反撃』だ!」
ばすっ、と音が聞こえた瞬間、鈴音は反射的に頭を下げた。
頭の上を水がものすごい勢いが飛んで一時的に気圧が低くなり、髪がすっと引っ張られるように持ち上げられる。遠くで何かが壊れるや音がした。
ぱらり、と頭に降って来た者を手にとる。バラバラになった式神の毒蛇だった。
「盆踊り? ダンスがお望みかしら? 生憎とわたくし、お相手は厳しく選びますのよ。ごめんなさいね」
闇の中で身を強張らせる。
下から突き上げるように、顎をオオジャコガイの盾で打ちあげられた。真っ暗なのに、目の中で星が飛んだ。
そのままぐんぐんと飛ばされていき、ついには闇のドームを突き抜ける。
「あた、た……。あご……が、しゃくれてアゴーンになるトコロだったゾッ」
それにしても、と赤く腫れた顎をさすりながら独りごちる。
「あねさん、意外とブトー派だな」
暗黒結界の中では、敵を見失ったレーゲンが慌てていた。
「敵はどこっきゅ?」
イライラとヒレをばたつかせる。
攻撃しようにもすでに真っ暗だ。仲間から魔種の位置を教えてもらえなければ、攻撃できない。下手に撃てば同士討ちしてしまう。
「落ち着いて」
驚かさないように、きりはレーゲンの耳元に口を寄せ、柔らかく囁きかけた。同時にそっとグリュックの体に触れて安心させる。
「きりさん、魔種の位置がわかるっきゅか?」
「任せて」
暗闇の中で特殊能力を持たない目は役に立たない。だが、きりには感度の高い耳と鼻がある。それと合わせてサーモセンサー能力を発動させていた。
グリュックの腕を取ってトリダクナがいる方角を教える。
「一緒に行きましょう」
波が体に触れるか触れないかの低空で飛ぶ。
きりには暗闇で青い塊を携え、赤く体を光らせるトリダクナが振り返るのか分った。
腕が伸ばせば触れそうな距離で、きりの左目が青く光る。
「いまです、レーゲンさん」
「きゅ!!」
鋭く振り抜かれたレーゲンのヒレから、回転する魔力の刃が放たれた。
暗黒を切り裂いて飛ぶ森アザラシのクロスカッターを、蒼き閃光が包み込む。
「そんなの……ムダよ」
トリダクナは、オオジャコガイの楯を二つ合わせて殻の中に閉じこもった。
蒼い光をほとばしらせたクロスカッターが、口を閉じた貝の表面にぐるりと傷を刻みひびを走らせる。だが、割ることはできなかった。
「ど、どうなったきゅ? いまの、攻撃が当たった音きゅ?」
「ええ、当たった。けど、ダメージを与えるまではいかなかったようね」
青い色の巨大な塊が左右に割れて、間に赤い色が覗き見えた。
「――!!」
きりはグリュックの体ごとレーゲンを力いっぱい突きとばした。
二人の間を黒く冷ややかな流れが飛んでいく。
「あぶなかったきゅー」
「まだ! 油断しないで」
警告は間に合わなかった。
オオジャコガイの楯がグリュックの体を襲い、その腕の中からレーゲンを吹き飛ばす。
繰人の見えざる糸を断ち切られた体は、飛行の能力失い、冷たい海へすとんと落ちた。
ニーニアの小型船が救助に駆けつけるが、すでにグリュックの体は海面下に沈んだらしくどこにも見当たらない。ニーニアは懐中ポストを召喚した。郵便妖精――月光クラゲが飛び出し、傷を負った仲間たちを癒す。
直後、レーゲンを抱きかかえたきりが駆けつける。
「グリュックは泳げないの、アザラシなのに?」
「グリュックはアザラシじゃないし、レーさんは森アザラシだきゅ。でも、一緒ならなんとか……」
海中でぽうっと体を光らせる月光クラゲが、沈降する尻尾を一瞬、照らし出した。
「あ、あそこにいたー!」
ハッピーは真っ暗な中で月光クラゲが集まる場所を指さしながら、大声でさけんだ。
「いま助けに行くっきゅよ!!」
森アザラシは海のアザラシとちがって泳ぎが得意なわけではない。だが、レーゲンは迷わずきりの腕の中を飛び出し、海へダイブした。
突然、船体を激しく揺さぶる衝撃とともに舷側が砕け散った。
木っ端音が闇に残響を残す中、エンヴィの小型船が沈んでいく。
「きゃああああ! お気に入りのスカートが濡れちゃうー。ヘルプ・ミーだよ! ハッピーちゃんに救いの手をさしのべてー!!」
きりは船のへさきに立って大声で叫ぶハッピーを助けに行った。
「美人の魔種はどこだ!」
エンヴィの小型船から飛び立ったソアが、左右に首を振って魔種を探す。
「やい、船ばかり狙って! もうボク達には敵わないって降参か!」
暗視にある程度助けられて目が利くとはいえ、広い海で一度見失ったものを探すのはなかなか困難だ。こうなってはどこから狙われるか分かったのではない。
ソアはきりきりと奥歯をかみしめた。
「ソアさん、集中線よ。光の集中線の先に魔種がいるわ!」
トリダクナは周囲の光を急速度で体内に取り込むことにより、広範囲の闇を作り出していた。エンヴィは常に極細の光の筋がトリダクナを指し示すように闇の中で引かれていることに気づいていたのだ。
(「……といっても、暗視がなければ拾えないほどのか細い光の線なのだけど」)
エンヴィは舵を手放すと海に飛び込み、レーゲンを助けるべくグリュックの救助に向かった。
ソアは言われた通り、光の線が集まる場所を探した。
「海の中か!! それは気づかなかったぞ!」
集中線が集まるギリギリまで降下して近づくと、ソアは固く握った雷拳で海面を割った。雷光が弾け、水しぶきを羽根のように背負った稲妻が飛び跳ねる。
「これならどうだ!!」
海面が大きく盛り上がったかと思うと、水を吹き飛ばしたオオジャコガイの盾がソアの腹に食い込んだ。
●
肺を空っぽにされたソアが、海に落ちる。
トリダクナは再び水中に潜った。
「どこに――」
「軍船だ! やつは軍船を追いかけてる!」
一悟は全速力で飛んで、トリダクナを追いかけた。足止めを狙い、カツオ型爆弾を走らせて魔種の前で爆発させる。
「ええい、鬱陶しい!」
「うっとおしくて悪かったな!」
一悟はあげられたオオジャコガイの盾に渾身の一撃を打ち込んだ。炎が広がり、海が一瞬、赤く照らされる。
奮闘するイレギュラーズたちを称える英雄賛歌が天から降り注ぐ。
黒天井を割って、鈴音が帰還した。
「帰りの船を沈められては困るデスネー!!」
イレギュラーズの体に力がみなぎっていく。
「これでも食らえっ」
追いついたニアが、一悟の反対側に回った。持ち上げられたもう片方の盾に雷撃を叩き込む。
炎と雷の乱れ太鼓に、オオジャコガイの盾が激しく降る終える。
一悟とソアが一息ついた瞬間、蒼い閃光が森アザラシのクロスカッターがつけたひびに撃ち込まれた。
「お、おのれよくも!」
右のオオジャコガイの盾が砕け落ちた。もう片方の盾もボロボロだ。
ハッピーがファイアフライを飛ばし、守りを失ったトリダクナの右腕を焼く。
それを合図に、イレギュラーズたちは一斉に攻撃を放った。
トリダクナも海流の槍で応戦するが、多勢に無勢、徐々に覆いつめられていく。
「ほんとうに腹が立つ子たちね。鬱陶しい海洋の船はどこかへ行ったようだし……もういいわ。あなたたちの相手は飽きました」
「それ、ほんと? それがほんとうなら……君を届ける宛先はこっちじゃない。引き返してもらえるかな?」
まだまだやれる、と荒ぶるソアと一悟を制して、ニーニアが休戦を申し入れる。
「そうね……。でも、後をつけられたくないのよね」
「目をつぶるきゅよ!!!」
海面からエンヴィとともに飛び出したレーゲンが叫ぶ。
その瞬間、ビックバンのごとき閃光がイレギュラーズの目を焼いた。
「美人の魔種はどこだ!」
痛む両目から涙の粒をこぼしながら、ソアが叫ぶ。
闇のドームは跡形もなく消し飛び、視力を取り戻したイレギュラーズは穏やかな海の上にいた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
成功です。
魔種は逃げ出しました。
舐めてかかっていたのでしょうか、イレギュラーズ以上に体力と気力を消耗したようです。
近々、また現れるかもしれません。
今度は手下を連れて……。
ご参加ありがとうござました。
GMコメント
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●依頼条件
・魔種『トリダクナ』の撃退
・海洋軍船の保護(沈没させなければOK)
●日時
・海洋国、グレイス・ヌレ海域
・晴れ、微風
グレイス・ヌレ海域には大小さまざまな島が点在し、大型の軍船が比較的動きにくい手狭な海域です。
●魔種『トリダクナ』
アルバニア下の魔種(主属性嫉妬)です。
長い黒髪に、深い藍色のロングドレスを着た色白の美魔女(目撃者談)。
両手に巨大なオオジャコガイの盾を装備、攻守ともに使います。
現在判明している攻撃は以下の通り。
【光喰結界】……半径500メートル範囲の光を喰らい、暗黒状態にします。
【殻盾】近単……左右の手に持った巨大なオオジャコガイで殴ります。
【海流の槍】遠単貫……ヘソ穴から高圧縮された水流を飛ばします。
【???】遠列
【海面歩行】……海面を歩くことができます。
●その他
イレギュラーズは海洋の軍船に乗って、魔種の出没海域に向かいます。
●重要な備考
<第三次グレイス・ヌレ海戦>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』を追加カウントします。
この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
尚、『海洋王国事業貢献値』のシナリオ追加は今回が最後となります。(別途クエスト・海洋名声ボーナスの最終加算があります)
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