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シナリオ詳細

<Irrmord>ネヴァー・ネヴァー・ランド

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●セント・ルイス孤児院
「あの、ロージィ。”新しい家族”の話なのだけれど……」
 院長先生は難しい顔をしていた。だから、僕は一足先に察した。
 これは悪い知らせなんだって。
「ええ、そうなの。あの養子の話は、だめだったのですよ。……また今度、良い出会いがあるといいわね」
 ああ。
 湧き上がってきたのは、「やっぱりね」って感情だった。僕はもう年長さんだから、泣いたりなんかしない。ただ、うつむくだけ。
「元気を出してね、ロージィ。あなたの引き取り手は、ぜったいに私が見つけてみせますからね」
「はい、院長先生」
 僕はうつむいて、フローリングの木目を数える。意地でも泣いたりなんかしない。

 家族って何だろう。
 僕は家族を知らない。ちっちゃいころから、ずっとこの孤児院にいたから。途中で親から引き離されるより、そっちの方がマシなのかもしれないけど。
 テレス先生は優しいし、つつましいけれど、食べるものもあるし、着るものもある。
 この孤児院は、もうすぐ閉まるんだって。
 院長先生が高齢だから、ここを維持できなくなったんだって。
(院長先生は心配ないって言ってたけど)
 院長先生は必死に僕たちの引き取り手を探している。
 僕はすごく頑張ってくれてるのを知ってる。
 僕のところにも、今までに何人か見に来たけど、もらわれていくのは別の子だった。
 理由は知ってる。僕は偏屈だから。あがり症で、人の顔もまともにみれないもの。
 僕は身体を動かすよりも、ラジオとか、時計とか、機械を分解して、元通りに直すのが大好き。夢中になったら一日中それだ。
「どうしたんだよ。暗い顔しちゃってさ」
 とぼとぼと部屋から帰ってきた僕を見て、ケンが言った。ケンも売れ残り組だ。体が大きくて、カッとなるとすぐ手が出る。
「可愛くない」。そう言われるのをよく聞いていた。
 でも、彼にだって優しいところだってあるんだ。こういうときとか。
「なあ、なんか見ようぜ。夕飯食べながらさ」

●テレビ
 僕たち5人はセント・ルイスの最後の売れ残り。部屋に集まって、つつましくテレビの前に集まった。
 このテレビは、捨てられていたものを僕が直したものだ。
 それを覚えている子はもうほとんどいないだろうけれど、僕はいつまでだって覚えている。「すごいね」って、みんなが褒めてくれた日のこと。
「お、なんかいい番組がやってるじゃん」
 ケンがチャンネルを変えた。
「レイト・チルドレン・ショー」。……コメディ番組だ。
『やあ、子供たち。今日も一緒に遊ぼう! まずはお手元にガスバーナーを用意して! しーっ、大人たちには内緒だよ』
 案の定、ドカンと爆発。風船がはじけて、スタジオに笑いが広まる。
 僕もようやく笑うことができた。
 あれ?
 こんな番組、あったかなあ。

●秘密のテレビ
 それから。
 僕たちはレイト・チルドレン・ショーに夢中になった。
 黙って深夜にテレビを見るのが、僕たちの日課になった。
「いけっ、やれっ!」
 ケンなんかとっても熱中している。
『何をぼさっとしているんだ! 返事は”サー”だ!』
 ピエロのボブは、ここのところ軍隊風の格好をしていた。僕たちはふざけて、サー、と叫んだ。
『返事は一回!』
「サー!」
『おとなたちの支配? くだらない。自らの手で未来を切り開いてこそ! そうだろ、ケンくん? そうじゃないかな?』
 あれ、どうして、彼の名前を知っているんだろう。でも、皆夢中だった。
『そうだろう! そうだろう! ケンくん。君は勇敢な隊長だ! ほかのみんなは勇敢な戦士。さあ、大人なんて要らないって言ってみよう! せーの!』
「「大人なんていらない」」
 言ってみた。罪悪感がほんのり浮かぶ。
『あっはっは、大人の支配何て最悪さ! そうら! いいものをあげようね!』
 テレビはふわふわ浮き上がって、画面に設計図を映し出した。
『さあ、ロージィ! キミの役割は整備係! みんなをびっくりさせようね!』
 自分にも役割がある!
 僕は、うきうきしていた。
 みんなでおもちゃのマスケット銃を手に取った。

●声もなきSOS
『夢駆けの』アリスは旅人だ。外見の年齢は、およそ10歳ほど。しかしながら推定100歳を超えている彼女は、練達でも凄腕として名をはせている。しかし今は、孤児院の経営者として有名だ。
『夢駆け』『走破者』『ロリ山姥』『ハーメルン(物理)』『秒で母性に屈した練達の恥』。彼女は島の屋敷に孤児院を構え、数多くの子供たちを育て上げている。
「練達の、セント・ルイスの孤児院がなくなるという話があって。それなら、私の出番じゃない? 私が伝手を辿って、何とかする予定だったのよ」
 アリス曰く、話を進めていたはずの孤児院から、急に知らせが届いた。
「『助けは必要ない。すべて順調。子どもたちのことは任されたし』って言うけど、後任が見つかったわけでもない。何度問い合わせても、これ以降の返事はないの。何かあったかもしれないわ。海洋と鉄帝がにらみ合ってる今、その動きに隠れて練達はどうもきな臭いわ。
イレギュラーズのあなたたちじゃないと任せられないってわけ。というわけで、このいんちょーに何があったか調査して、報告してちょうだい」

●大人が来る
 ボブのごっこ遊びは面白かった。大人の言うことなんて聞くのをやめた。ボブに従って、毎日軍隊の訓練ごっこをする。誰か大人が様子を見に来た時は、テレス先生にくっついていって見張る。口うるさいことなんて言われっこないし……。テレス先生は、なんにもできなかった。
 僕たちのことが大事だからだ。
 ずきりと胸が痛んだ。あれ? 大事だから?
(でも、僕らはもうどこにも行けない)
 だからこの王国にいなくちゃ。
 孤児院のあちこちには、盗聴器が仕掛けてある。おもちゃみたいな、レシーバーだけどさ。ボブに言われて作ったんだ。
『いいかい、ロージィ。君を連れ戻そうとするやつは……』
 みんな、敵だ。
 涙があふれそうになった。僕の居場所はここにしかない。

 テレス先生、ずっとここにいてよ。
 僕を置いて行かないでよ。

GMコメント

イカれたピエロの支配から、子供たちを助けだせ!
布川です。

●目標
・『テレビのボブ』の討伐
・子どもたちの保護

●場所
 セント・ルイス孤児院。
 練達の西の辺境にある、小さな孤児院。

●状況
 一見して、平和な孤児院に見える。
 高齢のシスターである院長は操られた子供に脅されており、対外的に何事もなかったかのように振る舞うように命令されている。
 子供たちは全員が礼儀正しく、表情がない。まるで統率されているかのようだ……。

●登場
チルドレンアーミー×5
「サー・イエッサー! ボブ長官!」
 ボブの影響で、子供たちは操られている。歳は6歳から12歳ほどまで。
 皆、おもちゃのマスケット銃を持っている。改造されていて、威力はそれなりだ。軍隊的で、動きはまるでロボットのよう。
 ボブの影響で、この事態を、遊びの「戦争ごっこ」と認識している。彼らにとっては遊んでいるだけ。
 昼の時間には、決まってみんなでそろって砂嵐のテレビを見つめている。そのことに言及されても不思議そうな顔をするだけだ。
 ボブを倒せば我に返るだろう。

『テレビのボブ』
 ボス。キッチンにある通常のテレビに見える。子どもたちを操っている物体。
 鬼軍曹のような言動をとる。子供たちを突撃させたり、自分を守らせたりなどの行動をとる。いざというときは音量を上げて音波で攻撃する。
 客人がいる時はテレビに擬態するが、客がいないと正体を現す。
※子供たちは手駒なので、子供たちを攻撃することはない。同士討ちもさせない。失敗すれば口汚い悪態はつく。

テレス院長
「ええ、何事も問題ありませんよ。すべて順調です」
「手紙については、何か行き違いがあったのでしょう。申し訳ないことです」
 孤児院の院長。
 正気だが、子供たちに脅され、対外的には何事もなかったかのように振る舞わされている。
 隙を見てイレギュラーズたちに助けを乞うつもりだが、子供たちの誰かがそれとなく院長にくっついて見張っている。
 子供思いで、優しい人物。
 自分よりも子供が大事だ。

●補足:
 工作機械が得意な少年、ロージィが、孤児院のあちこちに盗聴器を仕掛けている。カメラはなし。
 しょせんは入れ知恵されただけの子供なので、そんなに精度の高いものではないが、注意。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 具体的には孤児院の中の様子は開始地点で不明です。引っかけの罠などはありませんが、子供たちの動向には注意しましょう。

  • <Irrmord>ネヴァー・ネヴァー・ランド完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月27日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)
鉄腕アリス

リプレイ

●練達の町並み
 買ったリンゴを落とした子供が、慌てて追いかける。
「ほら」
『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)はリンゴを拾ってやった。子供は礼を言い、母親に手を引かれていった。
「ふふ、気を付けるのよっ」
『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)はふんわりと微笑む。
「練達はどんな所かと思ったが、人の暮らす所には違いないな」
 高度な文明を思わせる建物。それでも人々の暮らしは大きく違うわけではない。
「家があり、家族がいる。正義や国よりも、私はそれが一番大事だと思う」
「そのとおりであるな」
『当たり前の善意を』ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)はうんうんと頷く。
「しかし、一体何があったのであるか……」
「何があってもおかしくはないね。可能な限りの推測を立てて、事件に向かおう」
 マルク・シリング(p3p001309)は、真剣な表情で今までの事件の資料を読み込んでいる。
「練達、最近ずっと物騒だったもんなあ」
 子供に元気よく手を振っていた『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)は、一瞬だけ年相応の表情を見せる。
「そんでもって、子供達まで危険に晒されてるんだとしたら……オレ、ちょっと許せないかも
そーゆーやつはアレだな、鉄拳制裁!! ってやつだな!」
 洸汰がにかりと笑う。
「似たような場所で育った身として、危機が迫っているのなら捨て置けないである! 院長先生(アリス)の代わりとして、ローガン・ジョージ・アリス、全力で力になるのである!」
 ローガンはぐ、と拳を固めた。

●セント・ルイス孤児院
「具体的にどういうものかは分からないけど、一連の事件の原因はおそらく、練達でテレビやラジオと言われている、遠くにいる大勢の人にメッセージを届ける装置が関係している。
なら、早くその原因の機械を特定して、取り除かなくっちゃね」
 マルクはこの事件の裏にも似た存在の影を感じ取っていた。
「ああ。これの例の事件のひとつに思えるが……」
 ラダはそっと耳を澄ませていた。
 にぎやかな子供たちの声。どうやら戦争ごっこをしているようだ。鐘が鳴ると、一斉に孤児院に戻っていく。
「孤児院……息子を思い出すな」
『守護する獣』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は、柔らかい子供たちの匂いをかぎ取った。生活の匂いにほんのわずかに混じる、錆びついた金属の匂い。……不吉な予感。
「まず、子供たちの安全が一番だ」
『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は精霊を呼んだ。
「間取り、人数、子供たちの行動を調べて来てくれないか?」
 用心するに越したことはない。
「院長先生からの遣いである」
 ローガンが名乗ると、ほどなくして院長が現れて中へと通される。
「よかった、とりあえずはお邪魔できそうなのだわ」
 華蓮はほっと息をつく。
「アリスさんの使いとしてきました。子供たちの件についてですが……」
 ウェールが礼儀正しく進み出た。院長はその巨体に驚いていた様子だったが、優しいまなざしに笑みを浮かべた。しかし、すぐに緊張した表情になる。
「菓子を沢山持ってきたんだ」
「よろしく頼む」
 ポテトと『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)はいっぱいのバスケットを持っていた。寄ってきた子供たちは歓声を上げる。
「差し入れがこれ程の量になってしまって……中までお運びしますね」
「よっ」
 隠れていた子供を、洸汰は目ざとく見つけた。
「見慣れない大人が多いもんなー、ちょっと緊張しちゃってるー? まーいいや! そこの君も隠れてないで、一緒に遊ぼうぜ!」
 童心の伝道師たる洸汰のなせるわざ。子供たちは「任務」も忘れ、次々とついていく。
「あの……」
 洸汰を引き留めようとした院長に洸汰は目くばせする。あっけにとられていると、ウェールは頷いた。洸汰ならば大丈夫だ。

●院長室にて
 問題はない、と、それが院長の返事だった。
「問題ないというと家計の方も大丈夫なんですか?」
 ウェールはそこで諦めず、身を乗り出す。
 しかし核心に触れぬよう、自然に話を持っていく。
「よろしければ育ち盛りの子供たちの為にアリスさんから経費や食品の援助などは? 
明日のおかずが一品増えるのはいいですよー」
 書類を見せ、相談を持ち掛けるふりをしながら、ウェールはハイテレパスを用いて話しかけた。
『助けに来たローレットです』
 院長は息をのみ、頷いた。
『このまま続けてください』
 ウェールはひとしきり和気あいあいとした雑談を繰り返した後、さりげなく切り出す。
「子供たちの様子はどうですか?」
『最近の子供達に異常な行動に心当たりは?』
 院長は首を横に振った。
「子供たちはとても元気です。いつもテレビを見ているの」
 テレビ。
 マルクが言っていた。……気になるワードだ。
 ウェールはすかさず、リゲルに伝える。
「テレビ、か……。こちらが食堂のようだ」
 ポテトの精霊の導きに従い、リゲルはそっと壁を見る。
「……いや……」
 彼らが見ているのは、砂嵐のテレビ。何も映っていないテレビだ。
「明らかに、異常な事態だな」
(ボブはこの孤児院を普通の孤児院であると偽りたい……。ならば正面から正式に訪問した者に対して、即座に手荒な対応をする事は無いはず)
 華蓮はぎゅっと手を握る。
 決意していた。

●遊び相手
「うーん。上手く音が入らないよ……」
 遊び場でささやきかわす子供たち。と、そこへ、マルクの即興のドラムロールがあたりに響き渡った。おもちゃのドラムでの即興だ。
「注目、である!」
 ローガンの声が響いた。
「これよりイレギュラーズの訓練を行うのである!」
「さあ、歌おう」
 マルクが笑いかけ、勇ましい軍歌を指揮する。
 これは、なんだろう?
 子供たちは次第にわくわくとしてきていた。
「よし、競争だ!」
 洸汰につられて、子供たちは歓声を上げていた。

「攻撃はこうやって、受けながすである!」
 ローガンの手本の演技に、子供たちがきゃっきゃと喜ぶ。ローガンはひょいと子供たちの突進をかわして、ポンと放り投げてしまう。それにマルクが勇ましい軍歌を合わせる。
 戦うのが得意ではない子供は、マルクと一緒に口ずさんでいる。
「リクエストはある?」
「へへーん、こっちだ!」
 洸汰は孤児院の中を駆け回り、鬼ごっこをしながら、盗聴器をさりげなく回収していた。物騒な庭の手入れの道具も必要ない。万一のことを考え、位置を把握する。使わせないように遠ざける。
「筋がいいな」
 子供たちに稽古をつけてやったラダが汗をぬぐう。
「最近物騒だし、君達がいるなら先生も頼もしい事だろう」
 子供たちは誇らしげな表情を浮かべた。
 今すぐに安全な場所に連れ出してやりたい。けれど、それは危険を背負わせることになる。
「大丈夫なのだわ」
 華蓮は、こらえて、ぎゅっと抱きしめる。
「いつもは何処で遊んでいるの?」
 目線を合わせて尋ねる。
「えっとね……」
 子供たちは、不意に立ち上がった。
「テレビの、時間だ」

●優しいウソ
「わかった。テレビが原因だ」
 ウェールは、院長に事情を説明する。
「任せてくれ、貴女の子ども達は必ず助ける」
「けれど……」
 子供たちは次々と食堂へ集う。
『キミたち、ちょっとたるんでるんじゃないの!?』
 ピエロの下品な声が響き渡っていた。
『規律を守れない奴には……』
「そこまでだ!」
 リゲルの声。
 言葉の途中で、イレギュラーズが駆け込んできた。ボブは慌てて身を隠そうとするが、もう遅い。
「何あの性悪テレビ。黒幕オーラすげーのである!」
『ぐっ』
 子供たちが一斉に構える。
 一触即発。
(子供達に怖い思いをして欲しくない……)
 華蓮の声は震えなかった。決意を秘めていたから。
「ふふふー、貴方達……軍隊として沢山訓練を積んでいるみたいじゃないの」
 ごっこならば、ごっこでいい。
「ならば相手になりましょう……私達を倒してみろー! がおー!」
 子供たちは楽しそうに銃をとった。
(笑顔でこう言えば子供達は「戦争ごっこ」の延長だって思ってくれる……怖い思いをせずに済むって思うのだわ)
「大丈夫です」
 リゲルは扉を開き、優しくテレスをドアへと庇う。
 すぐそばに、子供たちの弾丸が発射された。
『もう、ちゃんと狙って!』
 子供たちになんてことをさせるのか。
 許せない。ギアチェンジで数段反応を高めたリゲルは、恐ろしく早かった。
「身勝手な鬼軍曹め。速やかに鎮圧し、戦争を終わらせる!」
 あっという間に体制を整え、銀の剣を構える。狙いはボブのみ。銀の剣の切っ先がひらめき、静かなる断罪の斬刃がテレビを斬りつける。画面にノイズが走った。
 ウェールが、吠えるように同時に動いていた。灰銀狼が発した三色の炎が、辺りをぐるぐると回る。曼珠沙華。赤と白と黄色の光、燐光。……優しかった。温かかった。
「本当に大人なんて、テレス院長なんていらないのか? 今日まで一緒に暮らしてきた家族がいらないのか!」
 子供たちの動きが、ためらう。
『いらないにきまってるだろ!』
 ボブに、ウェールは思い切り爪を振り上げた。狂化の残照。こいつに手加減はいらない。
「チャンスである!」
 ローガンが思い切り食堂を走り抜け、標的のみにレジストクラッシュを食らわせる。保護結界を展開し、的確にテレビのみを打ち砕く。
「此処は彼等の家であるからな!」
『勝てる気でいるのかい!』
「不用品じゃないものに穴をあけたら大変である」
 さらに、もう一度。レジストクラッシュが豪快にボブを打ちのめす。
「さあ、俺と勝負だ!」
 洸汰はにっこりと笑い、元気よく名乗り口上をあげる。
「ここは通さねぇからなー!」
 洸汰の通せんぼは、隙がない。通ろうとすればフェイントで、すぐに回り込まれる。どうやっても抜けない。銃を構えるには距離が足りず……。
 そして、的確に子供たちを戦場から遠ざけている。子供たちをさばきながら、まだ余裕があった。身をひるがえして、ボブの相手だ。
「よしっ、元気チャージ!」
(なんだこの……これは!)
 なだれ込む元気に、ボブは思い切り疲れを感じた。
『お前、ただのガキじゃないな!』
「どーだか? さあ、続きだぜ!」
 子供たちの攻撃ともいえない攻撃は、当たらない。
「くっ、二等兵も隊長もやるな……だけど、我が軍もお前達に負けずとも劣らず、なんだぞー!」
「よし、行くよ」
 マルクの神気閃光が、子供たちに降り注ぐ。激しく瞬く神聖の光は子供たちを峻別し、手ひどく傷つけることはなかった。
 子供の1人が倒れる。
『逃げるなんて許さないぞ!』
「こっちだ」
 ポテトが耳を優しくふさぎ、子供の手を引き、戦線から離脱させる。
 ボブの攻撃を、ラダは机を盾にして防いだ。
「倒れたら一回休み、だ」
 ラダがそっと部屋の外へと連れ出した。
 ボブのテレビの音があたり一面に響き渡る。
 子供たちの表情に不安が浮かんだ。打ち消すように、華蓮は天使の歌を歌う。なだめるように、優しい歌声で。
(これは、戦争ごっこなのだわ。あなたたちの意志ではない。大丈夫……)
『そういうの、求めてないんだよネェ!』
 ボブは音量を上げる。
 けれど、華蓮は負けなかった。攻撃を受けてなお、気丈に立つ。
 立つ。
 立ちふさがった。

●戦争ごっこ
 ボブの周囲が、凍った。
 一瞬、ボブは動きを止める。
 リゲルの放った、凍星-絶対零度。生命の核を真っ直ぐに貫く、研ぎ澄まされた一撃。庇わせようとするが、遅い。
 ウェールはリゲルの速度に追いついた。視線が交わされる。背中を任せ合う。
 テレパスを使うまでもない。今、互いのタイミングが分かった。
「もしも院長と、家族と離れるのがどうしても嫌なら……そんな物騒なおもちゃなんて持たずに言葉で伝えろ! 自分の意志で望んだ未来を掴み取れ!」
 嫌だった?
 そう、嫌だった。離れるのが嫌だった。それは……。
『憎いんだロォ!』
「違うもんなー」
  洸汰が子供たちの攻撃を受け止める。
「そうよ。みんな院長先生が大好きだから、なのだわ」
 華蓮のミリアドハーモニクスが、仲間を癒していく。
「だから、離れたくないの」
 ラダのバウンティフィアーが、ボブをけん制する。ポテトがゆっくりと歌声を乗せる。ローガンへの、スーパーアンコール。
「声援にお答えするのである!」
 ローガンは胸を張り、声を張り上げる。
「そりゃあ、一緒に暮らしてた家族とは離れたくなかろうである。まあ、ウチの院長は居ない方がデフォルトだったが。それでも、吾輩はあの人の子供なのである。沢山愛情を貰ったのである」
 ローガンの表情に、誇らしげな様子が浮かび、そしてきり、と真面目な表情になった。
「君達にとってのテレス先生がそうでないなど、絶対に言わせんのである!
さあ、孤児界の先輩からの、お説教とげんこつの時間なのである……!」
 子供たちの攻撃は、ローガンに届いていない。うまくさばいて、放り上げる。
「以上、子供らへの『名乗り口上』である!」
 そして、ローガンはにっこりと笑った。
「そっちに手加減はしないよ」
 マルクの攻撃は、ボブのみに痛烈なダメージを与える。狭い部屋でも狙いをすまして。
 ラダがゴム弾で武器を弾き飛ばした。
 無力化のための攻撃。1人、また1人と子供たちが戦場から離脱する。
 子供たちはもうほとんど立っていられないようだ。それでも、ボブは立たせようとする。駒にしようとする。
(させないのだわ)
 華蓮の慈愛の雷がほとばしった。
(気絶させるだけ……それだけでも、これほど嫌な気持ちの攻撃は他に無いのだわ……)
 ボブが既に言葉になっていない悪態を叫ぶ。
「必ず守る。子供たちの未来を潰させはしない!」
 リゲルの流星剣がさく裂する。非戦闘地帯、キッチンへと吹き飛ばされた子供を、 洸汰が受け止めてぐるりとそのまま外に。
「よし、こっちだ」
 ラダの姿が変化する。まとめて子供たちを背に乗せ、院長の元へ一気に搬送する。テレスは安堵して崩れ落ちた。
「ああ、神様! みんな……みんな無事で」
「大きな怪我はないと思うが、一応見てもらえるか。私は原因排除に戻る」
 ラダは身をひるがえし、再び戦場へと戻る。
「ここは家族が過ごす場所だからな、上官殿にはお帰り願おう」

●VS.ボブ
 D・ペネトレイションがボブを打ち砕く。ラダのSchadenfreudeの銃口は、もはやボブにのみ向けられている。
 液晶が割れた。黒い液体がにじむ。
 ノイズが混じる。吠えるような一撃。
 つんざく悲鳴を打ち消して、マルクとポテトの天使の歌声が辺りに響き渡る。
 どこか厳かな光景だった。
「さあ、もう手加減する必要はないな」
 ウェールの狂化の残照がボブへと襲い掛かる。
 絶叫が響き渡る。
 リゲルの黒星が、テレビの映像を両断した。
 またしても、絶叫。
 しかし、イレギュラーズは一歩も引いていなかった。
「元気の勝負なら負けないぞ!」
 洸汰は少しでも長く、ボブの前へと立ちはだかる。ポテトのミリアドハーモニクスと、華蓮のミリアドハーモニクスが交差し、仲間を癒した。
「これで……終わりである!」
 組みついたローガンのアリスアーツが、ボブの姿勢を崩した。
 マルクの声が転調し、仲間へとスーパーアンコールを送る。
『そんな声聞きたくないんだよォ!』
 ラダのバウンティフィアーが、ボブを追い詰める。
「……トドメだ!」
 ウェールの狂化の残照が、ボブを貫いた。
『アアァアアア……アァアア!』
 ボブは小さく絶叫し、その場で爆発する。
「っと、こんなもんであるか」
 ローガンの保護結界が、孤児院を守りぬいていた。
「片付けは骨が折れそうであるな」

●日常、再び
 ボブが去った子供たちは、すっかり正気に戻っていた。
「これで全部だな」
 リゲルは銃を集め、泣きじゃくる子供にそっとマントをかける。
「何か言うことがあるのではないか?」
 ローガンが腕を組んだ。
「ご、ごめんなさい」
「む。そっちも、であるかもしれないが」
 子供たちは顔を見合わせる。
「ありがとう」
「止むを得ずとは言え痛かったろう。大丈夫か?」
 ラダがしゃがみ込み、顔を覗き込む。
「平気だよ、強いもん」
 彼らが無事なのは、イレギュラーズたちのおかげだ。涙をこらえていたとしても、ラダはただ頷いた。
「強いのだわ。もう怖くないのよっ」
 華蓮が次々と子供たちを抱きしめる。
「テレス、先生……」
「良かった。本当に……」
「テレス先生は、皆を守ってくれていたんだ。これからは皆も、先生を守るんだよ。何かあったら、力になるからな!」
 リゲルが頷く。
「遅くなったが、差し入れだ」
 ポテトは改めてバスケットを広げる。
「リゲルと一緒に作ったクッキーとパウンドケーキだ。みんなで食べよう」

 子供たちはテレスに思いのたけをぶつけた。
 ずっと一緒にいたかったこと。
 ここを去るのが嫌だったこと。
 院長先生が大好きだ。
「良く言えたな」
 ウェールが優しい目を向けた。
「新しい孤児院でも皆は一緒にいられるし、きっとテレス院長も時々は来てくれるよ。旅立ちを、恐れないで。ね」
 マルクは優しく、子供たちの表情を見回した。
「はい」
 どこか、背伸びしたような返事。

 新しい孤児院では、イレギュラーズごっこが流行っているのだという。誰かを守り、決して傷つけない、「本当の強さ」に憧れている。
 院長からの手紙はそうしめくくられていた。

成否

成功

MVP

華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

状態異常

なし

あとがき

洗脳された子供たちの救出、お疲れ様でした!
死傷者0人。どころか、この件がトラウマになった子供もいないようです。
めでたしめでたしですね!
徹底的に子供たちへの優しさで挑んだイレギュラーズたちの活躍の成果であることは間違いありません。
彼らはイレギュラーズが大好きなようです。
機会があったら、また一緒に冒険いたしましょう!

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