庭花を手折るなら貴様の指と交換だ

オープニング

●花の蜜
　豪華絢爛な幻想王国なれど、皮一枚はがせばそこもすっかり闇の街である。
　暗殺ギルドが堂々と立ち並び怪しい魔術結社や宗教団体、しのぎを削りあうマフィアたち。毎夜のごとくあがる死体はどこへともわからぬ場所へ消え、その日常っぷりときたら死体処理屋がスタンプカードを作るほどである。
　だがそんな街も……。
「暮らしてみればなんてこたぁないさ。貴族だろうが貧民だろうが同じ肉の塊さ。
　飯食って女抱いて寝る。私ぁいい意味で非差別主義者なんだよ」
　孫娘に絵本を読み聞かせるような甘い声で語る、女。
　首や手首にういた皺が老齢さを示すが、声の美しさと赤い唇と、そして何より今だ輝きを失わぬ宝石のような目が、彼女を未だに『女』たらしめていた。
　ヴォルピア。通称マダム・フォクシー。
　貴族たちにすら愛された元高級娼婦。
　今では幻想の裏街にいくつもの娼館をもち、街の顔役として一代派閥を築いていた。
「だからねェ……」
　パイプをくわえ、たばこを吸い込む。
　腰を下ろし、目の前で土下座する男の頭髪を掴んで持ち上げた。
「私の飼猫たちをちょろまかそうって奴ぁ、それがたとえ王様であろうと追い詰めるよ。アンタのその役にも立たない部位をエッグスライサーにかけてやろうかい？」
「ひい！」
　鳴いておびえる男の顔に、ヴォルピアはたばこの煙を吹き付けた。
　これは、そんな彼女の日常である。

「よくきたね、礼拝。仕事は順調かい」
　広い屋敷の応接間。
　両サイドに恐ろしく屈強な黒人男性を侍らせ、美しい老婆がソファで足を組んでいる。
　よく手入れされた黒狐の尻尾があやしくゆらめき、かざしたたばこに男が火をつける。
　所作のひとつひとつに、年齢を超越した色気があった。
　対して。
　向かいの椅子には沁入 礼拝 (p3p005251)が腰掛けていた。
　人類の欲望をラッピングしたかのような麗しき脚をさらけ出し、かわいらしく斜めにかたむけている。
「はい、マダム・フォクシー。皆様のおかげで、今日もこうして生きております」
「優しいねえ、あんたは」
　パイプをくわえたまま、唇の片端だけで笑うヴォルピア。
「優しいのはいいが、たまには身近な奴を疑ったほうがいいね。
　あんたのシマを管理してた男が持ってたモンさ」
　ヴォルピアが指で合図をすると隣の黒人男性がそっとコインの詰まった袋を差し出してきた。
「あんたのトコの紹介料と称して、だいぶくすねていたみたいだねェ。
　仕事もずいぶんサボってくれて……『花代』の踏み倒しもずいぶんなもんさ」
「つまり……私に？」
「そういうことさ。これもアンタにゃいい勉強だよ。自分のシマの始末を自分でつけてきな。うまくやれたら、その袋の中身はアンタにやるよ」

●花摘み
「……と、いう次第でした」
　所変わってここは幻想の裏酒場。
　裏仕事が次々舞い込むことと店主の料理がマズイことと通う連中がだいたいバケモンじみてること意外は普通の酒場である。
「なるほどなあ」
　ジョセフ・ハイマン (p3p002258)はその一言を述べる間に出せるだけの拷問器具を取り出し両手の指間に挟むと顔の位置に掲げた。
「リストをくれ。全員ねじ切ろう」
「早い早い早い。なんだよジョセフ、あんた礼拝のこととなるとほんと気がはええな」
　ジョセフの手首を掴んで『ばんざいなしよ』の姿勢に変えてやると、シラス (p3p004421)は改めて礼拝のほうを見た。
「つまりだ。ツケを踏み倒しまくった奴にそのマダムがおキレあそばされたから、アンタに徴収を命令したってわけだな」
「ンガガ……ッ」
　椅子にもたれかかって寝ていたグドルフ・ボイデル (p3p000694)がじぶんのいびきで目を覚ました。
「寝てたろアンタ」
「あ？　寝てねえよ？　全員殺しゃあいいんだろ？」
「間違ってねえのがムカつくなオイ」
「にゃによぉ……」
　それまで突っ伏して寝ていたアーリア・スピリッツ (p3p004400)が顔を上げた。髪の毛が泡立つ綺麗な黒ビールの色をしていた。
「私のお酒が飲めないっていうのかしらぁ！？」
「一言もいってねえよ。オイ！　俺にばっか酔っ払いの世話させんな！」
　シラスに小突かれ、ひとり優雅にグラスを傾けていた夜乃 幻 (p3p000824)が『おやおや』と声を上げた。
「僕に彼女たちを制御しろなどと、無理な相談でございます。それより依頼の話をしては？」
「えっなにこれ依頼の相談だったの？　やっべフツーに飲み会だと思ってたわ。スマンスマン、あっビールとフィッシュアンドチップスこっちね！」
　マイペースに飲んでた伊達 千尋 (p3p007569)が振り返り、全く同じテンションで飲んでいた艶蕗 (p3p002832)もまた運ばれてきたチップスをかじって『マズっ！』といって吐き出した。
「えぇ、なんでやんすかこれ、常識の三倍マズイ」
「おいおいフカしてんなよ芋揚げただけのモンがまずくなるわけ――マッズ！」
　秒でグドルフたち酔っ払いコンビにパスするドープなコンビ。
「で、なんの話でしたっけ……次の注文？」
「ソーセージたのもうぜ。それならハズレねえだろ」
「ちげえよ」
　なんなんだよアンタら、と顔を覆うシラス。
　礼拝はよどみゼロパーセントのおっとりとした顔で頷いた。
「踏み倒された花代の徴収に参ります。とはいえ、大変な案件が多いようですので、皆さんにもご一緒いただければ、と」
　報酬はこのとおり。と、コインの詰まった袋をテーブルの真ん中に置いた。

　さて、ここからやっと本題である。
　娼婦街のドンことマダム・フォクシーから間接的に花代回収の依頼を受けたイレギュラーズたち。
　彼らは手分けして三つの案件にあたることになった。

　まず第一の案件。担当はグドルフ、シラス、アーリア、幻の四人。
　裏街でもそこそこ名の知れた傭兵チームが『みんなでバックれれば怖くない』の精神でまとめて花代を踏み倒した。
　六人組のチームで、ボスの『ネイガラ』とその部下五人で構成される。
　花代の徴収を行おうとした別の担当者は翌日ボコボコにされてゴミ捨て場で発見されたらしく、純粋な暴力以外の解決法はないと思われる。
　オールラウンダーのネイガラを筆頭に、火力特化型剣士、素早くてＢＳ攻撃が豊富な忍者、特殊抵抗とＨＰが鬼なタンク男、金に汚くほか全員に嫌われてるヒーラー。の五人構成だ。
　全員ぶちころがしていいから金目のモン片っ端からもってこい、とのオーダーである。

　そして第二の事件。担当は千尋と艶蕗。
　裏街でそれなりの規模になりつつあるヤンキーチーム。
　金もねーのに風俗に飛び込んでもちろん払えないので逃げてきたという連中。
　ヘッドの『ヘラサワ』という男がマジヤベーっていう勢いだけで結託しているチームで、徴収を行おうとしても周りの連中がイキり散らすので近づくのも一苦労である。
　が、豪快に飛び込んでかっこよくヘッドだけをピンポイントで殴り倒せば彼らの勢いがそがれ、ヘッドもおとなしく金を払うだろう。
　ここで重要なのは強さじゃない。派手さとかっこよさ、そしてなによりもインパクトだ。

　おまちかね第三の事件。担当は礼拝とジョセフ。
　マゾヒスト趣味の変態貴族『ラインスキー』からの徴収である。
　ここでは戦闘力でコトを運んではいけない。貴族は生かしてコネクションをつないでおけというのがマダム・フォクシーのオーダーである。
　彼の家に押し入り、貴族ラインスキーと『お話し合い』をして金を払ってもらおう。
　なお、ラインスキーは痛みを快楽にかえるという能力……？　いや性癖があるらしい。特に脚系の攻めに対しては真摯である。らしい。

　これら三件の回収を無事に終え、マダム・フォクシーのもとへ戻るのだ！

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（8人）

リプレイ

●花の香りかたにもルールはある
　『おやおや』とつぶやいてグラスのワインを飲み干す『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻（p3p000824）。
　からっぽのグラスの中では花の妖精がくるくると踊っている。否、妖精にみせかけた幻術と、それをグラスの屈折を利用した錯覚による偽りのダンスである。
　今回の依頼内容を一通り聞いた幻は『ネイガラ傭兵団』の資料へと目を落とす。
「花を愛でる雅な趣味の方がお花代を踏み倒されたので御座いますか。
　そんな趣味をお持ちなのに、お金を踏み倒さすなんて所業は、随分お下品ですね
　花は僕にとっては奇術の大切な小道具。
　そして花と蝶は切っても切れない縁（えにし）の下にあるもの。
　花があって、蝶がいる。
　蝶がいて、花がある。
　僕の大切な花達をみだりに踏みにじったことを後悔させて差し上げます」
「ハナァー？　ケッ、食えねえ花に興味はねえや」
　鼻をほじりながらテーブルにかかとをのせる『山賊』グドルフ・ボイデル（p3p000694）。
「まぁしかしアレだ。オンナ一人にカネも落とせねえなんざ、男として情けねェよなあ。
　落とし前はキッチリ付けて貰わなきゃなあ。ゲハハハッ！」
「……チッ」
　横で、『ラド・バウD級闘士』シラス（p3p004421）が小さく舌打ちをした。
　『アァ？』といってグドルフが振り返るが、シラスは声のトーンを低いままにして続けた。
「クソ面白くもねえ。要はぶち殺せば金になるんだろ。ばん、ばん、ばん、ちゃりーんだ」
「ンだよやけに機嫌わりいな」
「別に」
　そっぽを向いたまま黙るシラスに、グドルフは一瞬だけいつもと違う目をしたが、すぐに鼻から抜いた指をぴんとやった。
「まぁったく……」
　冷えかけた空気を暖めるように、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ（p3p004400）が服の肩紐をつまんで人差し指でくりくりとまわした。
「イイ思いをしたらちゃーんとお代を払うのなんて当たり前でしょ？　ねぇ？
　ぱぱーっと片付けて、また飲み直しましょ。みんなとっても強いし、私はお外でお酒飲んで待ってるわぁ」
「うるっせ、働け」
「おめーも働け！」
「わかってるわよぉ」
　仲良くヤジを飛ばし合うのをよそに、幻は『足女』沁入 礼拝（p3p005251）たちのほうを見た。
「ジョセフ様とお仕事なんて少し照れてしまいますね。うふふ……」
　頬に手をつけ、うっとりと微笑む礼拝。
「それは、いいですね。ジョセフさんは？」
　『異端審問官』ジョセフ・ハイマン（p3p002258）は不気味な鉄仮面の内側でぷるぷると首筋を震わせた。
「礼拝殿は素晴らしい女性だよ！　まるで母のような人だ！　大切な友人だ！」
「うふふ」
「私が悩み苦しんでいた時、彼女は慈しむ愛をもって導いてくれた。私が礼拝殿と愛しい人との間の関係に嫉妬し、威圧的な態度を取ったにも関わらずだ」
「うふふ」
「中には彼女にぼったくられただの、『燃える石』の弁当を送りつけられただの何だのと言う輩も居るが、そんなのは事実無根だよな！　そうだろ礼拝殿！？」
「うふふ」
　表情に一ミリの変化もなく同じように笑う礼拝。
　ジョセフはジョセフで上機嫌の極みといった様子だった。
　その一方で、『風前の塵』艶蕗（p3p002832）は『チームヘラサワ』の資料を見ながら顔を左右非対称にしかめていた。
「派手さかっこよさ衝撃……あっしの様な三下にゃ酷な注文でやんすなあ。
　シカタナイナー。此処は千尋さんが如何にマジヤベーかを盛り立てる方向で！」
「お、マジ？　やっちゃう？　俺の雷人スタイル見せちゃう？」
　被っていた帽子をくいくいとやってみせる『Punch Rapper』伊達 千尋（p3p007569）。
「えっなんでやんすかそれ」
「知らない？　カミナリ族。俺の生まれた……その、なに、四十年くらいまえに流行ったゾクのハシリってやつ？」
「むしろなんでそれで千尋さんが知ってるんでやすかねえ」
「こっちの世界にもゾクがいてバイクがあんなら原点は通じんだろ。みせっから、マジヤベーの」
「ヒュー！」
「ってなワケで俺ら先行くわァ！　オツカレー！」
「やっすー！」
　二人はぱたぱたと手を振り、素早く酒場を飛び出していった。
　金は払わなかった。
「あンのやろ……！」

●マジッベーエモさがガチ神ってっすセンパイマジ
「ヘラサワさんマジヤベーっす！」
「チョーエモいっす」
「昨日ー？　二時間しか寝てねえわ。キバキ全巻読んだわ」
「マジッベー」
「ヤベーでやんす」
「えっオマエ誰」
「艶蕗でやんす」
「あそっか。でよー、昨日オナ中のベヘロいてよー、カツアゲしたったわ」
「マジッベー」
「チョー神っす」
　古い湾岸地区の広場に、暴走族のヘラサワたちがたむろしていた。
　魔道バイクやら電気式バイクやらエンジン式バイクやら馬やらロバやらがまわりにとめられており、彼らは今からイキりちらしに夜の街に繰り出そうってぇつもりであるらしい。
　ヘラサワに言わせると『夜を呼吸しに行くんだよォ』だそうである。
　あと読者諸兄にはもうおわかりだと思うが、艶蕗がしれっとチームにまざっていた。同じ調子でマジヤベーマジって言い続けていたらなんか誰も気にしなかったらしい。そんなことってある？
「センパイ、誰か来るでやんす！」
「アァ！？」
　そんな艶蕗があさっての方向を指さすと、ヘラサワとその子分たちはこぞって同じ方向を見た。
　ヴォンヴォンというエンジンを吹かす音。ズッズッズというくぐもったエンジン音はおそらく魔道バイクのものだろう。

　伊（ドッドパ！）
　達
　千
　尋
　！
　見（ドッドドパ！）
　参
　！

　板の傾斜を駆け上がったバイクが夜を飛ぶ。
　シートに水平になって乗る姿はまさにカミナリのそれである。
　千尋はそのままヘラサワをかっさらう形で無数のバイクと廃材がある場所に突っ込んでいった。
「や。やべぇ……」
　素でつぶやく艶蕗。
　千尋は廃材の中から平気な顔して立ち上がると、ジャケットのホコリをぱたぱたとはたいた。
「どーーーもぉ……フフ、取・り・立・てに……参りましたぁ」
　と言いながらそこらのバイクを蹴倒す千尋。
　子分たちが振り向くと、ヘラサワが廃材に埋もれていた。
「う、うう……」
　ゆっくり起き上がるヘラサワ。
「おやおや折角蹴り倒したのが起き上ってきました、ねッ」
　振り向いて顔面を蹴り飛ばす千尋。
　上唇を舐めながら眉を左右非対称にしかめ、小刻みに頷く。
「や、やべえぇ……あ」
　艶蕗は素から復帰し、どこからともなく取り出したマイクに向けてボイパを始めた。
「そして夫の愛は熱光線！（ドッドパ！）」
　ガソリン燃料式バイクのタンクにマッチの火を放り込んで爆発させると、千尋は両手を広げて見せた。
　一斉に財布を取り出す子分たち。
「おやおや？　もう払っちまいますか？（ドッドドパ！）」

●凡夫たちの末路
　木造のあばらやに五人組が暮らしている。
　粗末な二段ベッドと穴の空いたソファ。
　五人はテーブルを囲んで賭けポーカーをしていた。
「ネイガラぁ、家賃の徴収今日だよな」
「知るか。ぶん殴っとけ」
「それよりボクの貸した２０Ｇ返してくださいよ」
「うるせえ」
「家賃はワリカンって話じゃなかったのかよ」
「ボクだけ１０Ｇ多く払ってるの納得できませんけど」
「うるせえよ」
　陰険なやりとりをしながらカードを出す戦士風の男。
「よっしゃいい手札になった。勝負だオラ、俺様の――！」
「邪魔するぜェ！！」
　扉を猛烈に蹴破って、グドルフが飛び込んできた。
「ゲェ！？　『山賊』ゥ！？」
　咄嗟に武器を取るネイガラ傭兵団。
　ヒーラーのポポイはソファに立てかけた杖をとろうと手を伸ばしたが、幻術の刃がで首を切るほうが早かった。
「ぎ――！？」
　風通しのよくなった戸口からスッと顔をだす幻。
「さぁ、ショウタイムのお時間です。僕の奇術で存分に蝶と花を愛でて下さいな。
　それが貴方方の最後の光景になるでしょうから」
　窮地に追い込まれたヒーラーのポポイを、しかし誰も助けようとしない。
　ネイガラと残る傭兵たちは武器をとって自分の身をしっかりと守った。
「あ、あんたたちねェ……！？」
　ヒステリックに叫ぶポポイを封じるように、シラスが室内へと転がり込む。
　飛び込み前転をかけて器用にかがんだ射撃姿勢へとシフトすると――。
「アーリア」
「はぁい」
　アーリアは不思議な色香をまとって室内へと入ると、ポポイにだけ聞こえるように空気の伝達路を作った。
「メ、メガヒ――」
「だぁめ」
　耳元でささやくように、唇に指を押し当てるかのように、距離をのりこえてポポイの治癒行動を封殺した。
　シラスは厄介な忍者風の男に魔銃の狙いをつけようとした……が、いつの間にか視界から消えている。
　気づけば、忍者は自分の真上の天井に張り付いてシラスへ奇襲攻撃をしかけてくる所だった。
「チッ！」
　繰り出される毒のクナイを肩に受けつつ、至近距離から銃撃を連射。
　追撃の刀を転がってかわすと、そのまま窓から飛んで野外へと離脱。追ってくる忍者めがけてさらなる銃撃を連射した。
「フン」
　グドルフは出て行った忍者を見ながら、手斧を投擲。
　狙いは回復ができずに手首を押さえるポポイ。
「アンタら、ぼぼボクを――」
　何かを言う前に、ポポイの首がはねとんでいった。
「おっと、要件を言い忘れてたぜ。花代徴収だ。代金はてめぇらの命でいいとよ」
「命プラス、全財産ですよグドルフ様」
「そうだったか？　まぁかわんねえだろ、ゲッハハハハ！」
　そう言って忍者を追って窓から出ようとするグドルフに、大柄でひげずらの男がショルダータックルを仕掛けてきた。
　かっさらわれるように部屋の隅においやられるグドルフ。
「グドルフ様――」
「かまわねえ、あっちを追え！」
「そうはさせるかってな」
　剣士が鋭い剣術で幻へと斬りかかる。
　大量の蝶の幻術を展開して防御を試みる幻。
　その一方で、ネイガラがアーリアめがけて強烈な回し蹴りを仕掛けてきた。
　腕をかざし、蹴りを防御するアーリア。
「分断されたわねぇ」
「ひとつ飛ばして戦うまででございます」
　幻は腕を切りつけられながらも、入ってきた戸口から外へ飛び出す形で広い場所へと移動していった。

　銃の連射をしかけるシラス。
　忍者はそれを刀ではじくようにしながら接近をかけ、シラスへと斬りかかってくる。
「こいつが面倒だな――ったく」
　シラスは忍者の攻撃を展開したナイフで受け止めると、あばらやの窓から抜く形で魔力弾を発射。
　グドルフと組み合っていた大柄な男を衝撃によって吹き飛ばす。
「でかしたァ！」
　フリーになったグドルフは窓をフレームごと突き破って野外へ飛び出すと、シラスと戦闘中の忍者めがけて勢いよく斬りかかった。
　回避――しようとする忍者の手首をつかみ取るシラス。目を見開く忍者。
　……の、一方で、剣士の攻撃を身体をはって受け止めていた幻が、至近距離から幻術を発動。
　剣士の意識をぐちゃぐちゃにかき混ぜると、首筋にスッと指をあてたアーリアの呪いがしみこんで剣士は白目を剥いた。
　崩れ落ちる剣士。振り向くと、グドルフが忍者の死体を窓から中へ放り込み、飛びかかる大柄な男をシラスを二人がかりでたたき伏せていた。
「テメェは生かしてやるよネイガラぁ。スピーカー役として、これからしっかり周りの連中に伝えまくれよ。あの店には、この山賊グドルフさまがバックに居るってな」
「チィ……！」
　歯がみし、逃げ出そうとするネイガラ。
「お花を愛でるのに貴方の指はもう要らないですよね？」
　が、逃げようとしたところで幻の放った糸が指にからみつき、人差し指を切断してしまった。
「まだ気絶しないで下さいね。今から貴方は男ではなくなるんですから」
「……ねぇ、私一回だけやってみたいことがあるんだけどぉ……ヒールで男性の大事な所踏むのって、イイ女の嗜みじゃない？」
　手を押さえてうずくまるネイガラの頭を、幻とアーリアが踏みつけた。

●暴力支配をなぜ欲す？
　貴族ラインスキー。裏街の顔役の一人でありブラックマーケットを仕切る商人気質の男である。
　ラサの大手傭兵団から引き抜いたという身の丈３ｍの用心棒を両脇に控えさせ、今日も花代をツケにさせる。
　そんな彼が、いま。
「ア、アアア！？　んぎぎ、ぎ！？　――ンンン！」
　悲鳴をあげる口をガムテープで塞がれていた。
「私は拷問具になるのだ。私を扱う為にその小さな手で触れる必要は無い。鏡のような黒い瞳で私を見つめ、ただ思うがままに命じれば良いだけだ。私はそれに応えよう」
「まあ、なんて……」
　たのもしい、とは言わず。礼拝はジョセフの耳元に小さくささやきかけた。
「――御意」
　ラインスキーが行きつけとするきわめてディープで刺激的なリラクゼーションハウスにて、ジョセフはかわった形の椅子のレバーをきるきるとまわし始める。
　ガムテープごしに悲鳴があがるが。
（責め苦の最中に言葉は不要。道具に顔も舌も必要ないのだ。その為にこの仮面がある。
　ああ、しかし、この浮ついた気持ちは抑えきれないな。
　楽しい楽しい拷問遊び。その上、恩義のある礼拝殿の役に立てるなんて。
　――楽しい。ああ、たのしいなあ。たのしい。たのしい。どうせ切ろうと潰そうと、すべてはすっかり元通り）
　きわめて致命的な音がラインスキーの背骨から響くが、礼拝はそれをじっと見つめながらただささやくように治癒魔法を詠唱していた。
　椅子に腰掛け、脚を組み替える礼拝。
「まだおやめにならないんですね。素敵でございます。なんと気高い志かしら」
　清らかに微笑みながら、礼拝はあえて大股に踏み出し、テーブルへと登る。
　スカートの裾をつまんで、片足をラインスキーに触れるか触れないかのところでかざすように止めた。
「ラインスキー様？　これは遊び。遊びなのです。素敵な抵抗ごっこだと思いませんか？」
　ほんの数センチほど首をかしげる礼拝の動きに、『もっとされたいか？』という意図を察したラインスキーはガムテープの内側で叫んだ。
　その心理を目と欲望の輝きで悟った礼拝は、彼の下腹部にゆっくりと体重を移していく。
　ゆっくりと。
　ゆっくりと。
「うふ、うふ、うふふ……うひゃひゃひゃ！」
　ジョセフが手をたたいて高く笑うほどに。

●対価と報酬
「ゲハハッ、いいって事よお。何せおれぁこの店の常連だからねェ。
　だがまあ助けた礼って事で、これからは特別価格的な割引なんて──ハハハ、ま、待て待て冗談だってウソウソ」
　コイン袋を投げてわたすグドルフ。
　アーリアやシラス、幻や千尋たちは飲み直しだといって酒場に戻ったようで、グドルフも『用は済んだよな』と言ってさっさと部屋を出て行った。
「へい、そんじゃああっしもこれで」
　艶蕗も回収してきたコインの袋をテーブルに置いて、帽子を被り直して部屋を出て行く。
　マダム・フォクシーはたばこの煙を吐いて、ゆっくりと肩を落とした。
「『お友達』はしっかり働いたようだねぇ、礼拝」
「ええ、とても」
「それで。ラインスキーのボウヤはどうだい」
「……」
　礼拝が目配せをすると、ジョセフがロープを引いて部屋に入ってきた。
　両手両足を拘束服によって固定されたラインスキーが、顔をはちきれんばかりに高揚させながら礼拝の足下で上向けに転がった。
　孫を寝かしつける老婆のように微笑み、深く一度だけ頷くマダム・フォクシー。
「『優しさ』を武器にする方法が、わかったみたいだね。いい働きだ。こいつはお駄賃だよ」
　回収したコイン袋のひとつをつまみ上げ、マダム・フォクシーはジョセフめがけて放り投げた。
「これからもうんと働いて、まわりを幸せにしてやんな。もし花を勝手にもぎ取ろうとした奴がいたら……わかるね？」
「はい」
　礼拝はスカートをつまんでみせた。

成否

成功

ＭＶＰ

なし

状態異常

なし

あとがき

　――mission complete！