PandoraPartyProject

シナリオ詳細

パワーブルを止めろ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●馬鹿と鋏は使いよう
 ゼシュテル鉄帝国で持ち上がったニュータウンの開発計画。スラムに替わる住居を用意し、雇用を生み出し、都市の成長の是正を図る。それこそがこの計画を立ち上げた者達による本来の意志であった。しかし、いつの世も計画が崇高な理想だけではまとまり得ないのが世の中というものである。今回も金に意地汚い奴等がこの計画に眼をつけて、好き放題に利権を食い散らかそうとしていたのである。

 無精髭を生やした二人の鉄騎種が、裏通りをぱたぱた歩く。どちらもかなりやせぎすで、ネズミのような印象を与える。機械としての部位も、足にちょっとしたブースターが付いているくらいだ。尚武の気風で鳴らしているこの国において、大手を振って歩けるようなナリの者ではない。
「おい、聞いたか? クリンチのヤツ、ローレットの連中にぼこぼこにされて追い返されたらしいぜ」
「馬鹿だなぁ。いくら筋肉もりもりマッチョマンで腕も金属みたいだからって、自分で正面からギルドの連中に挑みかかったって勝てるわきゃねえだろ。こういうのはちゃんと頭使わねえと駄目なんだ」
 しかし、そんなナリでもこの国でそれなりに長いこと生きてきただけの悪知恵は持ち合わせていた。
「頭使うったって、アイツに出来なかったことを俺達が出来るのか?」
「何で俺達がわざわざ死にそうな目に遭いながら仕事しなきゃならねえんだ? 適材適所だ。矢面にはデカい盾を置いとかねえとな」
 片割れはくつくつ笑うと、豚脂の臭い匂いが漂ってくる店の扉を開いた。すると早速目に飛び込んでくる、太鼓腹の巨漢三人組。テーブル一杯に並べられた食事を夢中で貪り喰らっている。
「うめ、うめ」
「おう食ったか、パワーブル?」
「食った食った。腹一杯。もう食えない」
「で、俺達の金で食った以上、そのお返しに何かするってのはお前らだって当然わかるよな?」
 男は胸を張って尋ねる。巨漢達はこくこくと頷く。
「わかった。なにする?」
「そんならやってもらいたいことがある。簡単だ。ちょっと行ってちょっとぶっ壊して来るだけの仕事だ。お前ら好きだろ? そういうの」
 チンピラがにやりと笑うと、巨漢はにたりと笑って勢い良く立ち上がる。
「おで、壊す、楽しい!」
「よし、そう来なくっちゃあな」

●狂犬を止めろ
 君達はゼシュテルの都心から僅かに離れた、用水路側のスラム街を訪れていた。彼方此方から飯を煮炊きする煙が上がり、むせ返るような焦げ臭さが立ちこめている。ついでに側の用水路も錆臭く、何が流れているやらわかったものではない。スラムを潰して街を建て直そうという話も、これでは当たり前のものと思えた。

「じゃが、わしらはずっとこの土地で暮らして来たんじゃ。今更ニュータウンがなんだというんじゃ? わしらは確かに闘技場では戦えんさ。でもわしらも戦っとるんじゃよ。この地で生き抜くという事が、わしらの誇りなんじゃ」

 そんな事を言って、正式な立ち退き要求まで突っぱねてしまう始末である。そんな心意気がむしろ厄介者の群れを誘き寄せる原因になっているのだが、鼻息荒くするスラムの住人達にそれを指摘するのも中々難しい。
 ならず者もならず者で、ひっきりなしに襲い掛かってくるからである。
「壊す! ガラクタ! うおおおおー!」
 三方から声が響き渡り、巨大な鉄の腕がスラムの彼方からぬっと生える。そのまま家を薙ぎ倒しながら、敵がどんどん近づいてくる。
「ひいい! また来たぞ! 助けてくれ!」
 調子のいいことを言う住人達である。しかし引き受けてしまった仕事だ。やるしかない。

 君達は武器を構えた。

GMコメント

●目標
 暴れる鉄騎種を止める

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 都市郊外のスラム街で戦闘を行います。
 あばら家が密集しており、動き回るのは困難です。隠れやすいのは利点です。
 東は用水路になっています。あまり綺麗じゃないので入らない事をお勧めします。
 敵は三方からスラム街を破壊しにかかっています。

●敵
☆パワーブル三兄弟(3人)
 腕や脚が巨大な重機のようになっている鉄騎種です。地上げ屋に駄賃を貰ってスラム街を壊しに来ました。
 頭が空っぽな上破壊に夢中になっているので、とりあえず黙らせるまでは言う事を聞かないでしょう。
 生命力はゴキブリ並みで大抵なことでは死にません。遠慮なく行きましょう。

・攻撃方法
→クラッシュ
 両手を組んでの唐竹割りです。目の前の家どころか向こう三軒両隣まで壊れる勢いです。
→ローリング
 巨体でのしかかってきます。まともにのしかかられると腕や脚の一本は折れるかもしれません。

☆チンピラ×9
 ニュータウン計画にかこつけて一山当てようとしているクズです。こっちはこざかしく物陰に隠れたりしながら攻撃しようとしてきます。大した強さではありませんが、早期解決を望む時は障害となるでしょう。

・攻撃方法
→鉄砲
 ピストルで撃ってきます。それだけです。
→爆弾
 スラムを破壊するために用意した爆弾です。まともに喰らわないようにしましょう。

●TIPS
 スラムだけあって、壊れるのも一瞬ですが直すのも簡単です。


影絵企鵝です。こういう頭空っぽ系キャラを出すのって何気に初めてかもしれない。

という事でよろしくお願いします。

  • パワーブルを止めろ完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月23日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レオン・カルラ(p3p000250)
名無しの人形師と
エマ(p3p000257)
こそどろ
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
黒鴉 拓哉(p3p007827)
!!すらがびた

リプレイ

●暴れ牛を止めろ
「ぬがー! オデ、ガラクタ山、壊す!」
 鉄パイプの骨組みが薙ぎ倒され、屋根代わりの麻布がふわりと宙を舞う。ゴリョウ・クートン(p3p002081)はのしのし歩きながら全身に鎧や盾を展開する。
「ぶはははッ、流石にこの時期に路頭に迷わせるわけにもいかんよなぁ。まぁ任せときな! 俺は北に行くぜ!」
 水瓶やら網籠やらを掻き分けながら、ゴリョウは北へと突き進む。その視線の先には、巨大な機械の腕を持つ巨漢が唸りながら立っていた。ゴリョウは首や肩を縮め、一気に突っ込む。
「ようデカブツ! ガラクタだけじゃ壊し甲斐がねぇだろ!」
 ゴリョウはブルが振り返った瞬間、その顔に盾を叩きつけた。
「壊せるもんなら壊してみな、この俺をなぁ!」

 一方、郷田 貴道(p3p000401)は西へと突っ走る。巨漢が両腕を竜巻のように振り回していた。捻りなど一切ない、ド直球な破壊のスタイルである。
「HAHAHA、シンプルなのは嫌いじゃないぜ! ユー達をKOすればいいだけだろ、面倒が無くて実にグッドだ!」
 数多くの選手を正々堂々打ち倒してきた彼にしてみれば、この上ない相手だ。彼は掘っ立て小屋の骨組みに足を掛けると、空高くへと跳び上がる。大気を思い切り蹴りつけ、貴道は巨漢の頭上から攻め寄せる。
「ヘイ、ファッキンチンピラ野郎! ユーの相手はミーがしてやるよ、光栄に思いなHAHAHA!」
 拳を固めた貴道は、おもむろに空を見上げた巨漢の顔面に一撃を加える。巨漢は仰け反り、その場にどうと尻餅をついた。真っ赤になった額をさすりつつ、ブルはのそりと立ち上がる。
「んんん……なんだぁ?」
 さらに貴道が懐に潜り込んでアッパーを放つ。ブルはでっぷりした腹でそれを受け止めると、そのまま拳を振り下ろす。スウェーで躱した貴道は、再び正面からぶつかり合った。

 正面切って派手にぶつかり合うゴリョウに貴道の背後で、ロゼット=テイ(p3p004150)が身を低くしてスラムを駆ける。雑多に並ぶ家の中と外とを器用に出入りし、足音を忍ばせ巨漢へと迫る。
「人の家勝手に壊してんじゃないよ、ロクデナシ」
 傍若無人に振舞うならず者達に怒りこそあれ、それでも彼女は冷静沈着に振舞う。両手に持った刃を素早く振り回し、巨漢の脇腹目掛けて魔力の波を叩き込む。頭の弱い敵には効果覿面だ。ブルはその身を大きく引きつらせる。
「おげえ、目が回る……」
 足下がおぼつかなくなったところへ、更にハロルド(p3p004465)が巨漢の懐へと踏み込んでいく。剣を振るって周囲に保護結界を張りながら、彼は一気に巨漢の目の前へ踏み込んでいく。
「行くぜ、デカブツ!」
 ハロルドは剣に光を纏わせ、一気に宙へと飛び上がる。巨漢が混乱している隙に、彼は剣を力一杯に振り下ろした。刃に溜め込まれた雷が弾け、巨漢の額をかち割った。
「いでえ……いでえよう……」
 巨漢は呻き、金属の拳をぶん回す。ハロルドはその足元を素早く潜り抜け、剣の柄へ埋め込まれた宝玉へと手を翳す。流れ込んだ魔力が剣に再び光を纏わせ、巨漢を包み込むように結界を一つ呼び出した。光に暴れた巨漢は闇雲に暴れ、辺り一面を殴り始める。
「はははっ! おら、かかってこいよデクの坊! もっと楽しもうじゃねえか!」

 別の四人が、猟犬のようにスラム街の中を駆け巡る。エマ(p3p000257)はその柔軟な身体を駆使して、雑然としたスラムの中でも一切物音を立てずに走り回っていた。
(国は違えどスラムはスラム。こういう複雑な場所こそ私のホームグラウンドです。お任せくださいよ、ひひひひっ)
 心の中で卑屈に笑いながら、エマは物陰で短刀を抜き放つ。耳を澄ませて、パワーブルの雄たけびと、それ以外の音を耳の奥で選り分けていった。
 ジェイク・太刀川(p3p001103)はそんな彼女の目の前をつかつかと歩いていく。二丁の拳銃を片手に、彼はスラムの雑然とした風景を見渡し叫ぶ。
「奴らは西以外の方角から来てる。出来る限り西に寄っとけ!」
 彼は叫ぶと、そっと片目を閉ざす。解き放った鼠の群れと視野を共有しながら、潜り込んだチンピラの姿を探していく。
「俺だってガキの頃は生きることが戦いだった。スラムの連中の言い分は、俺にも痛いほどわかるぜ」
 鼠の一匹が、こそこそと歩き回る一つの影を捉えた。ジェイクは銃を正面に構えると、影に向かって疾駆する。
「居たぞ、あそこだ!」
 ジェイクは次々に引き金を引く。
「ヒャッハァ! スラムから汚物を一掃しようぜ!」
 嵐の如く襲い掛かった銃弾が、二人のチンピラを物陰からあぶりだした。
「やりやがったなテメェ!」
 早速ジェイクとチンピラの間で銃撃戦が始まる。その間に、黒鴉 拓哉(p3p007827)はいそいそとトタンの屋根へと上る。
「これ以上悪い事はさせないっす! イレギュラーズ! 黒鴉……」
 名乗り口上を挙げようとするが、チンピラ達はジェイクへの応戦に必死だ。拓哉は思わず顔を顰める。
「ちょっと! どっかんどっかんうるさいっすよ! 正義の味方の変身と名乗りはちゃんと……って無視すんなやゴラァア!」
「うるせーよ!」
 別の方角から再びチンピラが飛び出し、拓哉に向かって癇癪玉を投げつけた。爆風が巻き起こり、トタン屋根が崩れて拓哉は地面へ放り出される。
「痛っ! 何すんだぁ!」
 拓哉は怒りを露わに、チンピラへとキックで飛び掛かっていく。突然の反撃に、思わずチンピラが仰け反る。そのまま拓哉は密着しての乱打戦に持ち込んだ。
「ひひひひっ、そのままそのままっすよ」
 エマはそんなチンピラの背後へと回り込む。抜き放った短刀を逆手に構えると、影から飛び出しその背中へ刃を突き立てた。
「ぎゃっ」
 突然の出来事に身を庇う事も出来ず、男はその場へ力なく倒れ込む。拓哉は素早く跳びつき、ピストルと癇癪玉を手に取った。
「これがあれば、登場シーンを無視されることも無いっす……」

 一方、あちらこちらで弾ける癇癪玉の中を、人々が泡を食って逃げ回っていた。レオン・カルラ(p3p000250)を手にした少女はそんな彼らの真ん中に立ち、人形達を右へ左へ向ける。
『皆さん、水路の方が安全なので其方へ避難してくださいね』
「でも水路に飛び込んじゃだめですよ。どうなるかわかりませんからね」
 人々を避難誘導する間にも、人形は双眼鏡を取り出して周囲を見渡す。雑然として視界は悪いが、仲間達がチンピラと衝突を続けていた。転がった水瓶の陰に隠れながら接近し、人形二人は少女の力を借りて身を乗り出す。
「暴れる悪い子」
『そそのかす悪い子』
「悪い子には」
『おしおきが必要……』
 人形達は突然極海の如く冷え切った歌を唄い始める。押し寄せた寒風が、突然チンピラ達を取り巻いた。
「ひぃっ!」
 震え上がるチンピラ達。呪いの出所に気付いた一人が、歯を剥きだして少女へ詰め寄る。
「てめえぇ……舐めた事してんじゃねえぞ!」
『近づいてきたわよ』
「追い払わないとね」
 人形の少年少女は頷き合い、迫ってきたチンピラへ向かって飛び出す。レオンが喉元を突いて勢いを殺し、少女がチンピラの背後へ回り込んだ瞬間、カルラが素早く背中に一撃を加える。息を詰まらせた男は、そのままその場に転がった。
「悪い子は」
『少し反省ね』
「おやすみなさい」
『また後で』
 人形は側に転がっていた縄を手に取ると、するすると縛り上げてしまった。

 拓哉もチンピラ達と渡り合っていた。これがイレギュラーズとなって、すなわちヒーローとなって初めての戦い。少年の身ではチンピラ相手一体相手するのも大変だが、持ち前の根性で食らいついていた。
「どんなに粗末な家だって、そこには人が暮らしてるんすよ! 壊すんならちゃんとした工事としてやるべきっす! しかもどさくさに頭の弱い人を騙したり、それに紛れて火事場泥棒までしようなんて……ゆるさん!」
 しかし、チンピラの放った銃弾がその太ももを撃ち抜いた。血が滲み、拓哉はその場に崩れ落ちる。
「まだまだ、こんなもんじゃ……」
 それでも戦いを続けようとする拓哉。ジェイクは素早く跳び込み、チンピラの腹を蹴りつけ吹き飛ばす。
「やめとけ。これが初めての戦場なんだろ。これ以上無理して大怪我ってんじゃ意味ねえぞ」
「でも……」
「まあ見とけ。最初は見て学ぶもんだ」
「カッコつけてんじゃねえぞ、てめえ!」
 チンピラが起き上がると、足下のスプリングを生かして宙高くへと飛び上がる。ジェイクもそれに応じて跳びあがった。
「力づくで勝った奴が正義だってんなら、俺達が正義だよな!」
 ジェイクは足を宙で振り抜くと、男の足を払って体勢を崩させる。何も出来ずに墜落した男を追って地面に降り立ち、そのまま背中に銃弾を叩き込んだ。チンピラは一声呻くと、そのままぐったりと動かなくなる。それを目の当たりにした別の男は、じりじりと後退りを始める。
「くそっ。覚えてろよ!」
 そのまま踵を返し、男は脱兎のごとく逃げ出そうとする。しかし、彼が走るよりもいっそう早く、黒い風が忍び寄った。
「逃がしゃしないですよ。反省して下さい!」
 少女は鋭く言い放つと、刃を風のように振り下ろす。延髄を斬られた男は、勢い良く倒れ込んで水瓶の中に頭を突っ込む。水瓶が受け止められなかった血が、どろりとスラムの地面を汚すのだった。

 一方、ハロルドとロゼットは相変わらずパワーブルの三男を二人掛かりで翻弄していた。ハロルドは屋根を蹴って飛び上がり、肩口目掛けて剣を振り下ろす。再び稲妻がブルに襲い掛かった。
「んあー! 痛い! やめろ!」
 ブルは叫ぶと、身体を丸めて鞠のように跳びあがり、辺りを纏めて押しつぶそうとする。二人は一斉に飛び退いた。吹っ飛んできた鉄板を半身になって躱すと、ロゼットは短剣を擦り合わせながら一気に間合いを詰めていく。
「上の人間は、どうせ邪魔な人間を大義名分付けて潰したいだけなんでしょうよ」
 ブルの振り回す腕を躱し、無防備になった腕を掴んで飛び上がる。
「君達も小遣い稼ぎで尻尾振った時点で同罪」
 尻尾を巻きつけて腕の上に降り立ち、至近距離からブルの脳天に光の束をぶつけた。強烈な光で視界を奪われたブルは、呻きながらその場に倒れ込む。
「……そりゃ、貧民なんて金持ちにとってはゴミだろうけど、さ」
 気を失ったブルを見下ろし、ロゼットは深々と溜め息を吐いた。

 パワーブルの次男は貴道を相手にその剛腕を力任せに振るい続けていた。貴道はその場で踏ん張り、心拍数を高めてフルパワーをブルへと叩き込み続けていた。
「どうしたどうした。そんなもんか、HAHAHA!」
 ブルの攻撃をピーカブースタイルで受け止めつつ、貴道は挑発を繰り返す。ブルはイノシシのように鼻を鳴らして呻くと、鋭いストレートを貴道へ叩き込んだ。みしりと骨が軋み、貴道はその場に仁王立ちしたまま沈黙する。腕の隙間から溢れる血を見て、ブルは豚のように呻きながら肩を落とす。
「……ファイトは10カウントまで油断しちゃいけないんだぜ?」
 しかし、貴道はパンドラの力で耐えきっていた。力の抜けたブルの顔面へ、渾身のフィニッシュブローを叩き込む。
「ぐげっ……」
 ブルは呻き、その場にぐったりと崩れ落ちた。

 ブルが両腕を振り上げ、頭からゴリョウを殴りつける。盾を突き出して一撃を跳ね返すが、あまりにも重すぎる衝撃は、ゴリョウの巨体さえもぐらりとよろめかせる。
「うおっと……やっぱり重てえパンチを叩き込んでくるもんだぜ……」
 ゴリョウは右手を胸元に当て、罅の入った骨を素早く修復する。
「ぶあー! お前、邪魔!」
「邪魔なら壊せばよかっただけだろ? それが出来なかったってのは、お前もまだまだ実力不足だったってわけだな、ブハハハッ!」
「ぬー……」
 ブルは口ごもる。その隙にゴリョウは懐へ突っ込み、全体重を乗せた体当たりで突き飛ばした。
「ま、とにもかくにも悪い事はするもんじゃねえって話だな! 弱い奴ばっかり相手をしてちゃ、いつまでたっても強くなれねえぞ!」
 彼が言い放った時、待ち構えていたイレギュラーズが一斉にブルへと襲い掛かる。衆寡敵せず、ブルはそのまま地面へ叩き伏せられたのであった。

●引き際を弁えて
 数珠繋ぎにされたチンピラの群れが、スラムの前にずらりと並べられる。怪我の手当てを終えた拓哉は、チンピラの背後に回り込むと、鋭いローキックを彼らの脛に叩き込んでいく。
「反省しろ! お前らのやった事は決して許されないっすよ!」
「いてえっ! こんなのは横暴だ!」
「だったら反省するっす!」
「わかったわかった! 誰かこいつを止めてくれぇ……」
 音を上げた彼らは再びその場に倒れ込む。それを見下ろし、拓哉は満足げに頷いた。
「なんだかまた一歩英雄に近づけた気がするっす!」
「何なんだよこいつ……」
 呻くチンピラの目の前に、ロゼットが静かに屈み込んだ。軽く爪を立てて一人の頭を引っ張り上げ、じっと男の顔を覗き込んだ。
「さて、この者には気になる事があるのだけれど」
「何だよ? その爪を立てるのをやめてくれ……」
「やめるかどうかは君達の態度次第だねえ。君達は一体何の目的があって人の住処を破壊しようとしたんだい? 君達だってこういった場所を住処にしていたんだろうに」
「目的? そんなの、仕事だからに決まってるだろ! スラムの奴らを追い出してやりゃあ、その後に立つ集合住宅の部屋をくれてやるって言われたんだよ」
「なるほど。そういった手法で君達を駆り出し、自らの手は汚さずに悪事を果たしていたというわけなのだね」
「ひどい人たちですね。貧乏人から家すら奪って、自分達はのうのうと暮らそうってんですから」
 ぐったりと倒れているチンピラを見下ろし、エマ(p3p000257)もすかさず仲間に合わせて言い募る。相変わらずの臆病者である。一人が鋭い視線を向けた瞬間、エマはぶるりと震えてロゼットの後ろへ引っ込んだ。
「そんなのは俺達だって同じなんだ。黙ってたら役人どもがやってきて、何だかんだと難癖付けて俺達の住処を奪っていこうとしてきやがる。悪いのは俺達じゃない」
「そ、そんなのは言い訳ですよ。皆が再区画化の波にのまれようとしてるのに、自分達だけ助かろうなんて浅はかっす。みんなで何とか渡り合おうとか、考えないんすか?」
 つっかえつっかえエマは喋る。殺し文句になったのか、チンピラはその場で呻いていた。

 一方、貴道や少女は倒れたブル三兄弟の様子をじっと窺っていた。鼻や額から血を流して横たわっていたが、揃っておもむろに起き上がる。
「うう……いでえよぉ……」
『あら。生きていたわね』
「随分手ひどくやられたのに」
 レオンとカルラは少女の手元で顔を見合わせる。彼らを見て、貴道は豪快に笑った。
「HAHAHA、タフガイだな! 線香をあげる必要はなかったらしい」
「せんこー?」
「ソーリー、こっちの話だ。何はともあれ、怪我が治ったらもう少しマトモなことにその図体を使うんだな!」
「まともなこと? でもオデ達、闘技場じゃ勝てない……」
 寂しそうに肩を落とす三兄弟。ジェイクは思わず苦笑してしまった。
「まあ……いいとこまではいくんだろうが、お前らアホだからな。闘技場じゃ勝てねえだろうよ」
 技巧派の戦士に翻弄されて、そのままKOまで持ち込まれる。そんな光景が容易に想像できた。
「ま、図体を使う仕事なんて他にも色々あるだろ。それこそそれだけの力があったら、政府が正式に発する土木作業でもそれなりに重宝されるんじゃないか?」
「ドボク? チョーホー?」
「もっとクレバーな奴らの下でそのパワーを使えって事だ! HAHAHA!」
「うーん?」
 良くも悪くも考えなし。ブル達はじっと首を傾げていた。

 彼女達がチンピラ達を構っている間に、ゴリョウは意気揚々と住処の再建に取り掛かっていた。ガラクタの中からまだまだ使えそうな鉄パイプを拾い上げ、再びテントを組み上げる。
「……どうだ。前よりもう少しは暮らしやすい家になったんじゃないか?」
 ゴリョウは少年に尋ねる。少年はおずおずと頷いた。
「うん。ありがとう」
「じゃあこんなもんだな! これ以上の補強とかは自分でやってくんな!」
 少年の背中をバシバシ叩くと、ゴリョウは新たなテント作りへ取り掛かる。そんな彼の背中を見ながら、老人は唸る。
「やれやれ。困ったもんだ……ニュータウンなんて、余計なお世話だろう」
「そんなことを言うお前らもお前らだぜ」
 ハロルドは出し抜けに振り返る。老人は頬を掻きながら首を傾げた。
「今回は俺達がいたが、そう何度も何度もお前たちの為に戦ってやれるわけじゃない。スラムの襲撃が組織がらみのもんなら、また奴らみたいなのはやってくるぞ」
「うむむ……」
 口ごもる老人。ハロルドは深々と溜め息を吐き、一歩一歩詰め寄っていく。
「また襲われる前に、そろそろ折れとけ。スラムを離れてからの住処や仕事の世話くらいは国がしてくれんだろ」
 ハロルドの言う事は尤もであった。彼の言葉に理があることは、誰が聞いても明らかである。だが、老人は黙りこくったままだ。
「そんなにここが大事か。スラムの事情ってのは全く分かんねえなぁ……」



 かくして、スラムの安寧は保たれた。その後の行方はまだまだ見守る必要がありそうだが……

 おわり

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

影絵企鵝です。
皆さんご参加ありがとうございました。
皆さんのおかげでこのスラムは守られました。その後については御想像にお任せします。シリーズの展開に任せるとも言います。

ではまた、ご縁がありましたら。

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