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シナリオ詳細

<青海のバッカニア>ネメシスの商人

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●金貸しの悲劇
 アントニオという男は正義感が強く、高潔な男だった。
 商人の身分であるにも関わらず、貧民達に貿易の儲けを施す事は躊躇わなかった。
 そんな彼を人々は賛辞した。「我が神よ、アントニオに幸運あれ」と。

 その賛辞を喜ばしく思わないものも居る。
 アントニオは卑しい者には軽蔑を隠さない人間だった。特に他人の金銭を搾取する金貸しの人間には彼は格別な侮辱で罵ったのだ。
 金貸しにとって、この状況は面白くない。金貸しは彼を含めて商人達へ度々大金を用立てるのだから。
 確かに、利子は法外かもしれない。だがそれは貿易そのものがハイリスクだからだ。
 海には病気もあれば海賊だっている。少し沖にでれば巨大な魔物に出くわして、たった数分で何十人もの人生を狂わせるほどの損害が出る事もある。
 それで金が払えなくなった商人はどうするか? 首を吊って皆が渇望する天国とやらに逃げ去るほかにない。
 そうなればアントニオやその取り巻きは金貸しへ声高らかに叫ぶのだ。「地獄へ堕ちろこの悪魔」と。

●センシティブな企み
「んー……」
 天義の金貸しと海洋国家の重鎮からの封筒を見比べて、『黒猫の』ショウ(p3n000005)はなんとも言い難い顔をした。
 この手の問題には私情を述べないに限る。そんな顔で、早々に事の内容を説明し始めた。
「海洋国家から他国へ私掠行為を働いてほしいって依頼がやって来てるのは知ってるかい? タイミングよく天義の人から交易ルートの密告があってね。金貸しの人からさ」
 金貸しがそんな情報を持っているのか? イレギュラーズの一人が不思議そうにした。
「金貸しという人間は聡い。どれだけの金を借りたかで、食糧や水夫の具合、そしてどのルートを辿って交易に行くか分かるのさ。そうでなくとも、水夫から借金のカタ代わりに何処へ行くか聞き出す……なんて荒技も出来る」
 ローレットからも再調査してみたら、金貸しの情報は嘘偽りない情報のようだ。
 金貸しと重鎮からの情報を総括すれば、『船を用意するから貿易品と傭兵を載せた天義の大型船を私掠せよ』といったところか。
 金貸しが自国の商人を襲わせるのに協力なんて余程の事情があるのだろうが……ショウが微妙な表情をしている時点でよからぬ事なのは把握出来る。
「察しがいいね。この仕事は海洋にはちゃんと認められた依頼でも、天義からはもれなく悪人扱いにちがいない」
 ショウはやれやれと言いたげに苦笑いした。話を聞いていたイレギュラーズも、彼と同じように苦笑したくなった。

GMコメント

 稗田ケロ子です。

●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

 また、依頼が成功した場合はキャラクターのステータスにおいて天義の悪名が加算されます。

●依頼目標
・セレスティア号の拿捕
・セレスティア号を護衛している傭兵の全滅

●環境情報:
 ネオ・フロンティアの領海(と、ネオ・フロンティアは主張している)。
 提供されているのは中型の私掠船とその船員。速度では貿易船より勝るが、戦闘を行う予定の甲板が狭い。
 船員は基本的にイレギュラーズが乗り込みやすい様にロープを引っかけるなどで乗り込む手段を作る。
 襲撃の時間帯は選べる。視界が利かない夜はお互いに命中低下などの補正あり。
 逃げ切られなければ、襲撃海域ではイレギュラーズや私掠対象以外の艦船による介入はされない。

●エネミー情報
アントニオのセレスティア号:
 エネミーというより戦場環境に近い。甲板は広く、範囲攻撃はあまり効果的ではないかもしれない。
 開戦時は特殊な手段でもない限り私掠船と貿易船が同士が隣接状況にない為、攻撃がお互いに中距離~超遠距離戦に限定される。
 敵の攻撃を掻い潜り、船に乗り込む事に成功した場合は至・近のレンジ攻撃が解禁される。
 イレギュラーズも船に向けて攻撃に加わるとより乗り込みやすい状況になるが、過剰に攻撃すると拿捕する暇もなく沈む。

天義の傭兵:
 光の魔法や治癒術など、遠距離戦に長けた神官兵。八人ほど。
 火力が高く耐久が脆い如何にも後衛魔法使い的なステータスだが、艦隊戦が長引くと彼らに有利な間合いが続く事になり厄介。

『アントニオの友』サレリオ:
 光の魔法や治癒術がからっきしの傭兵。だがしかし、近接戦ならセレスティア号の中では誰にも負けない怪力無双。力任せにメイスを振り回して艦船に乗り込んできた者を吹き飛ばそうとする。
 泳げない意味でカナヅチ。友の為に無理して護衛を買って出たらしい。

  • <青海のバッカニア>ネメシスの商人完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

リプレイ

●大後悔時代?
 青空を映す大海原。貿易船セレスティア号の船旅は今日も快晴で、このまま順調に行けば大量の交易品を持って天義に帰り着く事が出来そうだった。
「これも我らが神のご加護あってこそか……い、いやしかし……」
 セレスティア号を護衛するサレリオという大男は、その巨体に似合わずガタガタと震えての帆柱にしがみついていた。
「いい加減慣れなさいサレリオ。帰り道もそうしているつもりですか」
 仲間の神官兵からそう茶化されるが、首をぶんぶんと振って帆柱から離れなかった。
「い、イヤだ! 万が一海に投げ出されてしまえば俺はおしまいだ!」
 情けない声でそんな事を叫んだ。大海原に投げ出されて溺れないようにするなんて、相応の訓練を積んだものか海種でもないと難しい事だが……サレリオは格別、泳ぎが苦手だった。
 彼は散々海の恐ろしさを喚いていたが、ふと何かを海原に見つけてその声が止んだ。
「……なぁ、あの船。こっちに向かってきてないか」
 高速でセレスティア号に接近して来る船。船首にイザベラ女王の彫像がある方は、海洋所属の船舶であろうか。……セレスティア号の乗員は漠然と悪い予感を受けた。警戒しておくに越した事はない。神官兵は迎撃の構えを取る。
 向かってきた船の指揮官らしき飛行種――『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)が、セレスティア号に向けて大声で発する。
「ここは海洋領海だ! 大号令に伴いこの船を接収させてもらうぜ!」
 カイトが掲げているのは海洋王国の発行した『正規海賊』の証明である私掠許可証。
「そんな馬鹿な、此処は海洋の領域ではないはずだ!」
 セレスティア号の乗員はどうにか弁解しようとした。しかし相手は悠長にそんな暇を与えてくれない。
「降伏の意思は無いと見做す!!」
 イレギュラーズは形ばかりの勧告を終え、セレスティア号へ向けて速攻戦を仕掛けた。

●速攻戦
 いの一番に行動したのは、飛行種のカイトである。艦隊戦に入ったと同時に、己が翼で飛翔して大海原の上を駆けて行く。
「えぇい、クソ! 撃ち落とせ!!」
 神官兵は船舶へ乗り込もうとするカイトへ光弾で撃ち貫こうとする。しかし、それより先に私掠船側から何かしらの魔術が飛んできて、神官兵一人の詠唱が不発。
「振る舞いには気を付けないとねえ……いくら気に入らなくても、金貸しを敵に回しちゃあいけないぜ」
 封印の術が上手くいったのを見て、手元のククリをなめずる『緑色の隙間風』キドー(p3p000244)。神官兵は、キドーの物言いに驚きながらも憎々しげに叫んだ。
「金貸し?! だとすれば天義の身内からか!! あの薄汚い金貸し含めて貴様もその脳天かち割ってくれるわ!!」
 なんつーか、恨みつらみの匂いがするねぇ。キドーはうすらそんな事を感じながらも、停戦するつもりは全く無かった。
 心は痛むが、是非もない。仲間のやり取りを見て同調する『烱眼の』恋屍・愛無(p3p007296)である。
「それでは一つ。虐殺といこう」
 キドーの攻撃が成功してから間髪入れず、ダメージを負った神官兵に粘膜で生成した杭を投げつけた。
 他の神官兵が治療しようとするも間に合わず、そのまま杭に撃ち貫かれて倒れ伏した。絶命だ
「おのれ、おのれおのれ! そこまで金が欲しいか傭兵どもッ!!」
「金の重みが命の重みゆえに。生きるという事は。奪うとゆう事ゆえに」
 神官兵の慟哭に、表情一つ変えずに言い返す愛無。
 お互い人間一人の死によそ見をしている暇は無い。イレギュラーズの一人がセレスティア号に乗り込む寸前なのだ。
 神官兵は残りの者達で、カイトへの集中攻撃を試みた。
 一つ、二つ。迫ってきた光弾を軽々と回避するカイト。しかし、三つ四つと立て続けに撃ち放たれた光弾が彼の赤羽を掠り始めた。
「チィ、こいつはちょいと数が多いか……!?」
 そうして後続の光弾がマトモに当たり、体勢を崩して甲板へと墜落する。
「やったか!?」
 うつ伏せに倒れているカイトへ追撃を加えようとする神官兵。カイトの翼が羽ばたいたかと思うと、次の瞬間には神官兵の喉元に三つ叉槍を突き付ける。
「猛禽類は獲物を逃さないんだぜ」
「船上街の、『風読禽』――!」
 喉をかっ切られる寸前、神官兵は水夫達の間に広まっている噂を思い出す。だからといって、喉を切られてしまえばそれはもう手遅れであった。

●艦隊戦
 何合かの遠距離戦を終え、お互いの船舶は白兵戦を行える距離まで接近する寸前だった。
 飛翔して乗り込んできたカイトに向けて、サレリオは高々と名乗りをあげる。
「我が名はサレリオ! 高名な戦士とお見受けし、貴殿に正々堂々の一騎打ちを申し立てる!」
 後ろから殴りかかって来なかったのは天義の傭兵なりの流儀か。だが、大きな負傷を抱えたカイトにその申し出は荷が重い。
 本人が受けるか否か考えている暇もなく、ナイフ状の何かがサレリオの顔面に飛来する。咄嗟、サレリオはそれを武器で振り払った。
「……仕事は仕事。悪く思ってくれて構わないよ!」
「天義に恨みがあるわけではないけど、これもお仕事だからね」
 コーラヴラヴ、『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)がそういう体でサレリオの挑発を突っぱねた。『堕天使ハ舞イ降リタ』ニーニア・リーカー(p3p002058)も、その間隙を縫ってフェアリーを飛ばし、カイトの負傷を治療させる。
「それもよかろう!」
 サレリオはそのままカイトに近接戦を挑む。カイトはギリギリでそれを防ぎ、武器の迫り合いに持ち込まれた。
 戦況を窺っていた様子を見ていた神官兵は、サレリオの白兵戦に乗じて一斉にイレギュラーズの船舶に対して光弾を飛ばし始める。
「作業中の水夫は、俺達の後ろに隠れろ!!」
 水夫共々一網打尽にする作戦だと読んだイレギュラーズ、『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は水夫達に対してそう命令を発した。
 実際、その読みは正しかった。かばいきれなかった水夫の一人二人が光弾の爆発に巻き込まれ、海に転落する。
「……溺死されたら寝覚め悪いですし」
 『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)はグレイシャーバレットで神官兵に反撃しながら、投げ出された者に浮き輪やらロープやらを投げて寄越す。たった今マリナに撃ち落とされた神官兵に対しても例外ではない。
「別に我々は冷酷非道な海賊とかではないので……無益な殺生はしねーのです」
「敵も必死か。しかし作業の邪魔をさせない」
 愛無は何か思うところある様子ながらも遠距離戦の手を止めて、水夫の護衛に加わる。
 神官兵にとって接近戦が苦手である以上、艦隊戦の時点で削り取る事こそが勝機だ。非戦闘員に対しての作法など、この際は気にしていられない。彼らはいささか躊躇いつつも、矢継ぎ早に攻撃を加えた。
 いくらかイレギュラーズの被害が増大していき、水夫も巻き添えで狙われる。そんな時、光弾の間に立ちはだかるイレギュラーズ、『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)。
「女王陛下からお借りした水兵、これ以上失うわけにはいきません」
 これ以上の被害は出すまいと、理力シールドを展開して光弾を完璧に防ぎきった。神官兵が再び詠唱のタイミングに入り、その隙に各々の動きをみせるイレギュラーズ。
 エイヴァンは相手の船舶にアックスガンを撃ち込んで牽制しながら、仲間にどう打開するか話を向けた。
「どうする? この距離のままやれない事もないが」
「しかし近接戦に持ち込みたい所だな。この距離は相手に分があるゆえに」 
「船頭多くしてなんとやらなので、私は船に残って遠距離主体で戦います」
 短い時間でイレギュラーズはあれやこれや言い合った。しかしその話をよそに、史之は一人で何か逡巡している。
「……船を囮に使うのは気が引けるが……これも海洋のためと思えばお許しいただけるだろうか……」
 再び神官兵の攻撃が始まろうかという瞬間、史之はグレイスフルイザベラ号に対して「フルセイル!」と全速力の指示を出した。
 その指示にはセレスティア号の船員、私掠船の水夫達すらも顔色を青ざめさせた。
「まさか……」
 距離にして中距離の間合い。そんなところで全速力を出せば、当然衝突する。ラムアタックだ。イザベラ女王陛下の船首が衝角まがいにセレスティア号にめり込み、セレスティア号の船員は強い衝撃で体勢を崩す。
「や、野郎! やりやがった!!」
 その行いを批難している時間などない。イレギュラーズや水夫達は乗り込み準備を続々と完了させて、白兵戦を仕掛けてきたのだ。
「いの一番はゆずっちまったが、神官兵を散らしてやらあ!」
 小躯のゴブリン、キドーはセレスティア号に軽快な動きで乗り込むやいなや、ライトフォースで自身の防御を補強して広い甲板に躍り出た。
 周囲の神官兵は慌てて攻撃を集中させようとするが、懐に潜り込まれて攻撃がマトモに当たらない。当たったとしても、両手の刃物で物の見事に防がれる。
 攻撃が止むとキドーは再び神官兵に近づき、刃物を交差するように滑らせて、相手の胴を切り裂いた。切られた神官兵は激痛でうめくように倒れ込んで、戦闘不能となる。
「懐に入られたらこんなもんかい。海は俺の担当じゃねぇが、このままたいらげてやらぁ!」
 高笑いするキドーに向かって、何者かが突撃してくる。サレリオだ。
「亜人の賊徒め! そのまま海に叩き落としてやる!」
 サレリオという傭兵は、その豪腕で鈍器を振り回す。キドーの小躯は弾き飛ばされ、あわや海に転落といった寸前。しかし、身軽なキドーは甲板の端でどうにか受け身を取る。
「へっ、お前の戦術とやらは折り込み済みさ。小鬼をそう簡単に振り払えると思うなよ」
 いきり立つサレリオを相手に、キドーはにたりと笑いながら両腕の刃物を構え直した。

●白兵戦
 手を貸すべきか。
 サレリオとゴブリンの武器が咬み合い、火花を散らすのを見て神官兵達は思考した。
 ゴブリンの側は、これまでの攻撃によりサレリオよりも断然負傷の度合いが高い。治療か攻撃で手を貸せば、少なくとも討ち取れる状況のはずだ。
 キドーへ向けて詠唱を始めようとした彼らの目の前に、突如船上に現れた剣士。それは即座に神官兵を切り払おうとした。
「召喚術の類か!」
「郵便屋さんは届けることがお仕事だからね」
 ニーニアの呼びだした剣士の攻撃を、神官兵はどうにか杖で防ぐ。しかし乗り込んできたイレギュラーズ側の攻撃はそれで止まない。
「戦術的だが、それだけに動きが手に取るように分かる」
 杖で防いだ隙をついて、その腕を掴みかかる愛無。神官兵は振りほどこうとしたが、その前に甲板の板へと脳天から叩きつけられて気絶する。
 これで神官兵は残り三人。サレリオ加えて四人。彼らの勝ちの目は、サレリオを援護してこの略奪者達をどうにか海に叩き落とす事だろう。
 その行動を防ぐべくしてか。史之は自ら名乗りをあげて、一種の挑戦状を叩きつけた。
「すべての海は女王陛下のもの! 大号令の体現者、秋宮史之が貴様らを駆逐してくれる!」
 史之の思惑に同調し、威嚇するように武器をその場に叩きつけるエイヴァン。衝撃は、流氷押し寄せる大波が如し。神官兵の一人が腰をよろめかせて、思わず海に落ちそうになった。
「海洋王国軍人エイヴァン。逃げも隠れもしない」
 近接戦において神官兵達も冷静さを失ってか、あるいは海に落とされてはかなわんとみたか、標的が史之やエイヴァンに向いた。
 エイヴァン達も艦隊戦で受けた負傷が大きいのもあって、万全とは言い切れない。
 一人の神官兵が史之の脳天目掛けて杖を打ち下ろした。理力シールドでそれを防ぐ史之。
「不忠者が! もらったぞ!」
 他の神官兵が、シールドが解かれた瞬間を狙ってその顔を殴打する。度重なる負傷で意識が飛びかけるが、それも折り込み済みだったのか。複数体の神官兵が史之を取り囲んだ直後、史之を中心にドーム状にプラズマが広がった。
「斥力、発生……っ!」
 赤いプラズマが荒れ狂い、神官兵達は思わず怯んで防御が崩れた。他のイレギュラーズ達は、その隙を見逃さず攻撃を仕掛ける。
 遠方からの弾丸が、神官兵の足を撃ち貫く。マリナのグレイシャーバレットだ。
「積極的に殺したりはしないようにします……目的は船ですので」
 片方の神官兵が戦闘不能となり、それでももう片方の神官兵は体勢を立て直そうとする。
 だが、彼よりもエイヴァンが動く方が早かった。
「可能な限り殺さないように加減はする」
 上段に振り上げた相手の両腕を掴み取ると、そのまま2m程の巨躯でのしかかるように相手を押さえつける。神官兵は抵抗むなしく、あえなく拘束される事になった。
「さて、残りはお前だけだ」
 一人の神官兵に詰め寄る愛無。神官兵は、思わず助けを叫んだ。
「さ、サレリオ!! サレリオ!!! お前だけが頼りだ!」

●【飛】
 史之やエイヴァンが神官兵達を引きつけている頃合い、引き続き一騎打ちを繰り広げていた。
「お仲間を助けなくていいのかい」
 茶化すように言ってみせるキドー。正直、彼としては不利な状況での一騎打ちを続けたくなかった。マトモに喰らえば、いつ海に叩き落とされるかも分からぬ状況である。
「まずはお前を倒してからだ。賊徒!」
 挑発を見透かしたようにメイスを振り回す。キドーはナイフを突き出して、咄嗟にそれを防いだ。ギャリギャリと音を立てて互いの武器が火花を散らす。
 まずい、腕の感覚がなくなってきた。
 どうにか状況を打開しようとするが、相手が予想外な動きでキドーの脇腹に追撃を加えた。
 キドーは、その衝撃によろよろと膝をつく。
「小鬼(ゴブリン)に見合わぬ堅牢さは賞賛しよう。だがしかし、賊徒は滅びる運命よ!」
 一騎打ちだけはどうにか勝利を得たとみて、意気揚々と声を荒らげるサレリオ。

「さ、サレリオ!! サレリオ!!! お前だけが頼りだ!」

 後方から助けを呼ぶ声が聞こえて、サレリオはメイスを構える。
「あぁ、こいつにトドメを刺したらすぐそっちに向かう!!」
 振り上げたメイスが叩き込まれる直前、キドーは朦朧とした意識の中で何かに気付いてニヤリと笑い、目潰しの魔術、キルザライトを唱えた。
「む、あ……ちょ、ちょこざいな!!」
 盲(めくら)の中、どうにかメイスで殴りつけてサレリオはキドーを海に叩き落とす。そして、とうとう“ソレ”に気付く事はなかった。
 すぐ仲間の救援に向かおうとしたサレリオは、体がふわりと浮いた感覚を覚えた。かと思うと強い衝撃を受けて甲板の端まで吹き飛んだ。
「乙女の、愛を拒絶するというならば――」
 …………まさか、まさか……! 敵が何をやらかそうとしているのか悟って、サレリオは顔面蒼白になった。
 仲間の救援とは関係なしに、甲板の中心に逃げようとする。全力で防御の姿勢を取ろうとする。
 だが、それよりも彼女……ウィズィが次に動く方がずっと早かった。
「――お前も吹き飛べ! もう一丁! もう一丁ッ!!」
 反応速度の勝負において、サレリオは負けた。目が眩んでいる彼のハート目掛けて、狙いを付ける。
「やめろォォオオオオオ!!!!」
 恐怖に絶叫するサレリオ。ウィズィはこれを止める気はない。
「Like a rabbit――私の邪魔をするのなら、遥か空まで、お吹っ飛べ!!」
 光を纏った武器は軌跡を描いて、サレリオの胸元に突き刺さる。
 分厚い鎧なぞものともせず、サレリオごと大海原へ叩き落とした。
 カナヅチのサレリオは先の激戦とは打って変わって、呆気なく海の中に沈んでいくのであった……。

●後処理
 残り一人。もはや“死に体”の状態で震えている神官兵である。
「息のある傭兵は、全て捕食。命は粗末にはできぬゆえ」
 目の前のウォーカー、愛無は相手の胸ぐらをつかみあげて、イヤに恐ろしい事を言った。つまりは非戦闘員まで皆殺しにする算段である。
「やるからには徹底的に……だ」 
 セレスティア号の水夫や生き残った神官兵を縛り始めたニーニアやエイヴァン達は、それを制止した。
「恨みがあるわけでもないから、命までは取らないでおこうよ……」
「然り。天義に送り返しても職を失うかもしれないし、リクルートでもするか?」
「別に天義に戦争とか悪事に使うわけじゃないんだ。国公認の仕事だし。こいつらを皆殺しにして口封じしろ、ってこともない」
 仲間達は、どちらかといえば生かしておくといった考える者の方が多い。私掠船の船員達は、生殺与奪についてはイレギュラーズ達に委任しようと口を出す様子はなかった。
 その内、海面にて何かが大きく息を吸う声。何事か確かめるべくイレギュラーズ一同が覗いてみると
「お、重たい……」
 泳ぎの得意なディープシーのマリナが、キドーやサレリオなど海面に投げ出された者を救出している様子である。
 愛無は熟考するように、口に手を当てる。
 どちらにしてもメリットデメリットはある。ならば多数決に従った方が後腐れないだろう。
 目の前の“食糧”を食べ損ねた事をとても残念そうしながら、愛無は神官兵の胸ぐらを離してやった。
「……わかった。だが人命以外は全て持って行くぞ」
 イレギュラーズ達は捕縛者達のあてがう先を考えながら、愛無の主導で略奪品をかき集め始めた。

成否

成功

MVP

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

称号:
キドー(p3p000244)⇒『目眩ましの』

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