シナリオ詳細
眠れぬ塔のラプンツェル
オープニング
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「帰れ、ここはお前たちの来るような場所ではない」
野獣が毛を逆立てて、威嚇すれば、目の前の人間たちは怯え、逃げ出してしまう。
野獣は小さくため息をつくと、踵を返しのそろのそりと階段を上がっていく。
「『帰れ、ここはお前たちの来るような場所ではない』……ですって!!」
少女が両の人差し指で目元を吊り上げ、野獣の声真似をする。野獣は少し居た堪れないように眉を顰めた。
「しかも、なんて棒読み。あなた舞台俳優ならクビよ……もう、おかしいったら!……けほっけほっ」
ひとしきり笑う少女は、突然胸を押さえて咳き込み、喀血する。その様子は重篤な肺病患者のようだ。
野獣は、駆け寄り少女の背をまるでガラス細工を愛でるような手つきで撫でる。少女の発作が収まる。
「あ、ごめんね、またシーツを台無しにしちゃって」
「かまわん、それより無理をするな」
心配そうに頬を撫でる野獣の大きな手に両手で触れ少女は愛おしそうに頬ずりをする。ごわごわした毛が生えるその手は決して心地良い肌触りではないけれど暖かい。
「いいの、貴方が私を外の世界に連れてきてくれて、この塔においてくれて、空を初めてみることができた。 昏い部屋の中なんかよりずっと素敵」
少女はとある貴族の娘の肺病患者であった。外に出ることも叶わず、暗い部屋で死を待つだけだった。そんな折、屋敷に食料を窃盗するため襲撃した野獣と出会う。
――私が死んだら食べてもいい。だから外の世界をみせて。
野獣は訝しんだ。誰しもが恐れる自分をみて少女は怯える素振りもみせない。あまつさえあろうことか、自分に己自身を捧げる契約をもちかけたのだ。
野獣は少女をその館から浚った。宝石や食料を窃盗するときと同じように。すみかである汚い塔の屋上につれてこれば少女はキラキラとした笑顔で見るもの全てに驚き感嘆の声をあげる。
宝物の宝石をみせたときも。戦利品の獣の皮をみせたときも。野獣はそのキラキラとした笑顔をもっと見たいと思った。
まずは肺病の少女の体に触らぬよう、塔の部屋を綺麗に作り変えた。彼女は窓から見える空がたいそうお気に入りのようで、調子がいいときはいつも外をみている。いつの間にか彼女につられて小鳥が窓に来るようになった。興味深そうに野獣が見つめれば小鳥は怯えて逃げる。その度にそんな怖い顔をするからだと少女は怒る。いつしか、野獣にも慣れた小鳥が自分の肩に止まったときには世界が変わって見えた。それはこの少女のおかげだ。
野獣は彼女を喜ばせるために、いろいろなものを窃盗しはじめた。素敵なものをもっていけば、彼女は無邪気に喜ぶ。それがとても嬉しかったのだ。
やがて野獣はこの少女とずっと暮らしたいと思い始め、少女の病気を治すすべを探し始める。薬草、宝石魔法、妖精の生き血、ユニコーンの角。ありとあらゆるものを奪い窃盗し、試してみるが効果はない。
彼女に残された時間はあまりないことはわかる。
「いいのよ。それが神様が私に架した運命だもの。それに私が死ねば貴方が食べる。それでずっと一緒よ」
野獣はいまや、彼女を食べるつもりなんてなくなっていた。だからせめて。せめて少しでも彼女と共にいたいと思った。
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「メロウ・グレイな気分」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3p000004)はイレギュラーズ達に憂いを帯びた視線を向け、依頼内容を話し始める。
「とある貴族の娘さんがバケモノに浚われたのよ。そのバケモノは塔に住み着き、日夜窃盗を繰り返しているみたい。最近襲われたのは錬金術師の薬学工房。随分と高価な物もあったようね。これは情報屋仲間から聞いた話だけど」
はふう、とため息をついて本題に入る。
「依頼者はその娘さんの浚われた、貴族さん。浚われたのは数ヶ月近く前でローレット以外にもこの案件は流しているみたい。まあ、それはいいのだけれども。――依頼内容は『塔の制圧、及び盗んだ宝物の奪取。できれば娘奪取』」
貴方達はその不自然な内容に鼻白む。娘奪取が最優先事項ではないのか、と。
「そんな顔しないで。はぁ、今度はアッシュグレイ。間違っていないわ。『塔の制圧、及び盗んだ宝物の奪取。できれば娘奪取』」
貴族の狙いは病気の娘ではなく、娘の救出にかこつけたバケモノが貯蔵した戦利品の徴用にあるのだろう。
「最悪娘が死んでしまっているのは仕方ない。その場合は塔の制圧を、だそうよ」
ローレットに舞い込む依頼がまともなものばかりとは言わないが、それにしてもどうかと思うことだろう。
「バケモノが戦利品を集めに出るのは2~3日に一度、夜。次の予想される時間はわかっているわ。その隙に娘さんを連れ出すのもかのうだとおもうけれど、娘さんが塔を出ようとしたら、何らかの警報がバケモノに届くらしいから、どちらにせよバケモノと戦う必要はあるわ。でも、そのバケモノは今まで何度も送り込まれた冒険者を返り討ちにしているから、手練ではあるとは思うの。だから気をつけてね」
そういって、プルーは貴方達を送り出した。
- 眠れぬ塔のラプンツェル完了
- GM名鉄瓶ぬめぬめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年03月08日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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梟が低い声で鳴く夜。彼らイレギュラーズは件の塔に向かう。
「ごめんなさい、少し良いかしら?」
その道すがら、カンテラに淡く反射する森の木々に『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)は野獣の帰還を伝えるように話しかける。植物は魔女に敬意を示し自らの実を落とし合図を返す。しかし、残念ながらこれでは屋内で物事を起こす彼女たちには伝わらないだろう。少々の落胆が植物に伝われば、植物もまた悲しげな意識をエスラに送る。
「ああ、いいのよ。気にしないで。貴方達は私に敬意を示してくれた。それだけで十分だわ」
(娘の救出にかこつけたバケモノが貯蔵した戦利品の徴用、ですか……思うところはありますが、娘さんが心配ですし塔に向かいましょう)
その様子を横目で見ながら、『巫女見習い』鳴神 香澄(p3p004822)は目の前の塔に目を向ける。それほど高くはないとはいえ、暗い森ではそれなりの存在感はある。彼女はファミリアーである梟を召喚し、空に飛び立たせた。
「頼みましたよ」
梟はホウと一声鳴くと夜闇に消えた。
(攫われて数か月。もはや死んだも同然と判断してもおかしくはない。正直なのは現実的な証でもあり、割り切りは家族にとって必要です。それはそれで結構な事……)
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は長い睫毛の瞳を伏せてこの依頼の成功条件を反芻する。十分に納得のできる話だ。だけれども……。
――オーダーの達成ラインについては好きにさせていただきましょうか。紫の双眸が見上げる塔の最上階。姫君の未来は明るいものとはいえないだろう。それでも、それだからこそ。
「せめて……そう、残りの時間を好きに過ごさせてあげたいとは思います」
小さな声でも決意は固い。
望まれぬいのち。望まれたいのち。消え行くいのち。それは全て全部同じであるのに。運命の答えは悲劇への片道切符。
『性的倒錯者で快楽主義者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)はフードの奥に見える瞳を曇らせ愛用のメスをくるりと指で回した。
「野獣は討つべきである」
『悪の秘密結社『XXX』女総統』ダークネス クイーン(p3p002874)は瞳を閉じ決定事項かのように断定する。
ピクリと『ナイトウォーカー』クロウディア・アリッサム(p3p002844)が何かいいたそうに口を開こうとした瞬間。
「……依頼は達成する、二人も添い遂げさせる。両方こなさねばならぬのが特異運命座標の辛い所であるな。その方法があるのであれば、それも悪くはない。全く、お節介な事である」
ニヤリと笑いクロウディアに向かってそう嘯けば、クロウディアの険のあった表情が緩み同じように微笑む。
「はい!」
「さてはて、やり方が気に入らないよねー。恨みを残す形で死んで悪霊になられても困るんだよね」
人の魂の輪廻の円環を滞りなく行うために生まれた少女のように見える死神、『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)は塔を見上げ不満を隠すことはない。手にした輪廻転鐘をくるりと振れば、カァンっと澄んだ晩鐘が響く。
「なので納得のいく形で納めたいな、うん」
魂があるべきところに導かれるように。この混沌は彼女の世界ではない。しかし何処であっても彼女が為すは魂の導き。それこそが彼女のレゾンデートル。
「それじゃいこーか」
輪廻転鐘の先でコンコンと塔の扉を叩けば、『蒼壁』ロズウェル・ストライド(p3p004564)がその重い扉を開ける。
「なんともまあ御伽噺にでもありそうな展開ですね」
「御伽噺なら、王子様はロズウェルかもねー」
ケラケラと笑いながらリンネがからかう。
「そんな、大層なものではありませんよ。俺は騎士ですから」
少しずれた答えを返し一同は扉を抜けた。
ロズウェルは最前でいつでも彼女らを守れるように進む。入ってすぐの広間はがらんどうだ。雑多に置かれた荷物にお世辞にも清潔とはいえない、埃にまみれた家具。
その状態にニエルはフードを持ち上げ眉を寄せる。肺病患者がこんなところに……。病状は悪化するだけではないのか、その不安に苛立ちすら感じる。
ホール正面には螺旋を描く階段が遥か上まで続いている。
「コレを登るのであるな」
クイーンが少しうんざりとした声で呟いた。
●
野獣の留守中ということもあり、最上階までは拍子抜けするほどにあっさりとたどり着けた。
ドアの前には、使い魔が陣取っている。
「素直には入れてくれなさそうですね」
距離をとったエスラが魔術書を構える。イレギュラーズは各々の武器を構え、配置につく。
「待ってください。まずはお話を」
ロズウェルは一歩手前に出て、イレギュラー達を手で制すると、使い魔に声をかけた。
「私達は令嬢にお話があって来ました。襲わないのなら我々も攻撃をする気はありません」
声を掛けられた使い魔達は顔を見合わせると円陣を組んでひそひそ話をする。
ニエルはその隙きにと動こうとするが、扉は固く閉じられ、5体の使い魔を出し抜くことは難しそうである。
使い魔達の会議の結果、イレギュラーズを敵と認定して、静止も聞かずに戦闘を始めることを決めたようである。
仕方なしとニエルコンセントレーションで集中力を高め、戦闘の準備を整える。
まずは、戦乙女の槍を携えた迷える旅人、アリシスが銀の髪を翻し、至近距離にいる使い魔に威嚇の術を放つ。それに合わせて、クロウディアも蹴戦を仕掛ける。首にぶら下がるドッグタグがカンテラの明かりに反射し、銀に煌めいた。続いて、香澄の威嚇術も重なり最初の一体の使い魔が戦闘不能になった。
「我が名は悪の秘密結社『XXX』が総統、ダークネスクイーンである!貴様らに用はない故、神妙にせよ!」
クイーンの名乗り口上が吹き抜けになっているホールに高く響けば、使い魔達は彼女に攻撃を集中させる。
「おっと、危ない!」
使い魔の攻撃に晒されたクイーンをリンネは回復させると「私らはお嬢様に危害を加えにきたんじゃないってば!」と叫ぶ。
「なにがあったのかしら?」
戦闘音や、叫び声に気づいた塔の姫君が内側からドアをあける。使い魔たちはびくんとして、4体が各々それぞれに少女を押し返そうとする。
「やだやだ、なによ、私だけなかまはずれ?」
その牧歌的な状況にイレギュラーズはあっけに取られる。
「貴方達はだあれ?」
少女の問いかけに答えるはアリシス。
「私達はあなたの父君の依頼でここに参りました」
「お父様、の?」
「貴様の父が塔の制圧及び盗品の奪還、『ついでとして』貴様の奪取を我々に依頼した!」
クイーンが、嘘偽りなくその残酷な依頼の内容を伝えれば、少女はそう、と一言こぼす。
「だが、貴様の奪取に関しては必須ではない!そして我々には貴様の肺病を治療できる可能性がある!」
「塔の主留守にて失礼を承知の上、押し通させて貰うのであります。お話をきいてはいただけませんか?」
クラウディアが申し訳なさそうに、使い魔を一人たおしちゃってすみませんと続けた。
「お話、ききたいわ」
わやわやと騒ぐ使い魔を押さえ、少女はイレギュラーズを部屋に招きいれた。内部は他の部屋よりは随分と綺麗だとはいえ、やはり衛生面において、十全とはいえない。
「はぁい、こんにちはぁ。医者のニエルよぉ。よろしくねぇ? 病人がここにいるって聞いて来たわぁ。あなたのことかしらぁ? 診察させてもらってもぉ?」
ニエルは前に出て、少女に告げる。
「お医者、様?」
「我々ならば完治は出来ずとも延命は出来るかも知れぬ!」
クイーンの言葉に少女はおずおずと、家で治療を受けていた時と同じように胸元を開ける。
「あっ、こら、ロズウェル、向こうむけよー」
リンネがぴょんと後ろから飛びかかりロズウェルの目を塞げば「す、すみません」と反対側を向くロズウェル。
――やがて診療が終わる。結果は……。
「無理ねぇ……なんとかしてはあげたいけれどぉ」
ニエルが苦々しい顔で告げる。彼女の命は持って数ヶ月。野獣の民間療法で小康状態を保っているとはいえ、一過性のもの。死の肺病は彼女に強く根付いている。手術をしようにもこの場所では衛生状態が良いとはいえない。移動して治療しようにも野獣という存在がそれを許さないだろう。それに成功するかどうかは随分と分の悪い賭けだ。
「もし長く苦しみたくないなら、楽に死ぬ方法もあるわぁ。もちろん、タイミングは貴女が決めていい」
時間がたっぷりあるとは言えなかった。
「来ました!」
香澄が五感を通わせていたファミリアーの目を使い、野獣が帰ってきたことを感知すれば、イレギュラー達は戦闘の準備を整えた。
程なく扉が開かれる。使い魔達から知らせをうけた野獣が帰ってきたのだ。
「お前たちは何者だ!」
「違う、彼らは私のお友達。お医者様とその、助手のひとたちよ」
目配せをしながら少女が叫び、そして咳き込む。その背を香澄とエスラが優しく撫でる。
撫でながら、エスラは少女にだけ聞こえる声で伝えた。
「二人には最期の時まで一緒にいさせてあげたいって思うわ…それが私のエゴだとしても」
はた、と少女はエスラを見る。エスラは少女の血に染まった手を優しく包む。
「ありがとう」と呟いた少女の声はエスラに聞こえただろうか。
(幻想の医療水準では、肺病の扱いも仕方ない。死病――眼に苦しめられていた子供の頃を思い出しますね)
己の昔と少女の苦しみの共感にアリシスは痛ましい目を向ける。だからせめて。助からないのはわかっているのだ。せめて、救われるピリオドを。
「彼女のため追求も終わりにしたくありませんか?」
「随分と剣呑な空気を持っているな。そんな医者がいるか。人など信用できぬ」
ぐるる、と野獣が威嚇する。
「人は信用出来ない、あなたの考えも尤もかも知れません。あなたが返ってくるまでのあいだに彼女を私たちは殺すことはできた。それをしなかった」
背中にリンネをぶら下げたままロズウェルが野獣を諭した。
「あのさー、正直このままここにいても貴方達が心休まることはないとおもうよー」
そのままリンネが続ける。自分たちだけではなく数々の追っ手がこの塔に迫っていると。そんなことになったらあなたたちには後悔するような未来しかないと暗に告げる。そうなってもらっては困るのだ。未練は魂を濁らせ、留める。仕事の上がったりだ。迷惑甚だしい。
「野獣よ、聞くのであります。我々は依頼主の望みである盗品の返還と塔の受け渡しが完了さえすれば娘までは奪わない。それは約束するのであります!」
まっすぐに野獣の目をみつめたクラウディアが語気荒く叫ぶ。
「そして今後あなたの行動にも関与しません。しかし再び盗みを働き、今後討伐の依頼が出された時は、今度こそ命の保証はないと覚えておくのです」
「私達の仕事はここをあなた達から奪い取ること……見逃すことは出来ないの。仮に見逃しても、同じ指令を受けた誰かが次々と攻めてくるわ。でも、もしこのままここを去ってくれるなら、あなたの命は奪わないし、ご令嬢を引き離したりもしないわ」
「貴様の集めた盗品では彼女は救えぬ!」
エスラが、クイーンがまくし立てる。その真意は皆同じ。野獣と、そして少女の長くはない幸せな未来への祈り。
「すみかでしたら、その、ツテをつかって調べておきました。ここみたいに立派な場所ではありませんが静かなところです。だから……!」
クロウディアは事前に変わりの住処を調べてきていた。ここからそれほど遠くない場所にある静かな所だ。病気の少女にその旅路をさせるのは少々無理があるかもしれないが、ただ追い出すよりはマシだ。
野獣が低く唸る。彼女らの思いは野獣に伝わった。悪意がないことも。だからこそ、彼は引けないのだ。
「貴様らの言い分は判った。しかしはいそうですかとひくわけにはいかんのだ」
それが悪徳を為してきた野獣の挟持。奪い人を殺めてきた自分は簡単に許されてはいけない。
「男ってばかだなー」
リンネがその真意に気づきため息をついて、ロズウェルを促す。
「どうしても駄目なら倒れてから強引にその手を取らせて貰いますよ」
「ならば仕方ない。俺を倒せば、貴様らの言い分を聞こう」
その出来レースともいえる茶番にクイーンは苦笑する。
「貴方は家にかえらなくてもいいのですか?」
アリシスが少女に問えば、少女は首を振る。全てのピースが繋がった。
「さあ、来るがいい! 野獣よ! ダークネスクイーンが貴様を屠ってやる」
クイーンの名乗り口上を皮切りに戦闘がはじまる。
野獣がニヤリと笑って、「手加減はせぬ」と嘯いた。
●
アリシスとリンネが傷ついた使い魔と野獣を癒やす。
「癒やせばこの後俺はまた盗みををするかもしれない。それでもいいのか?」
「その時はきっとその時にローレットから依頼があるでしょう」
「それとコレとは別だしねー。私達は野獣を倒したし、令嬢はもう死んでいた。めでたしめでたしだねー」
「それってめでたしなのでしょうか?」
リンネの軽口に香澄が軽くツッコミをいれた。
「お人好しにも程がある」
野獣は呆れた声をあげる。そんな野獣にロズウェルはテントセットとお弁当をまとめて、二人に渡す。
「あなたの命に希望の光が有らんことを願います、ご令嬢」
「ありがとう。騎士さん。貴方は私の騎士の次にかっこいいわ」
野獣に抱かれた少女が笑顔で返す。使い魔たちも野獣の背にのり、イレギュラー達に手をふった。
「野獣殿……いえ、騎士殿も最後まで彼女を守り抜いて下さいね」
「いわれずとも」
「貴方達の道筋に光あらんことを」
牙付きの魔女が彼女らに魔除けの祈りを唱える。遠い昔に聞いた古い古いおまじない。彼らの行く手を邪魔するものに山査子の棘があるように。
「ちょっとまってぇ」
蠱惑的な声で、ニエルがつま先立ちして少女の頬に触れる。実行されるは『命の譲渡(サクリファイス)』。
がくり、とニエルがその場に崩れるのを香澄が支えた。
「完全とは言わないし、タダの対症療法だけどぉ。これは私の医者としての挟持よぅ。少しだけならこれで時間は増えたとおもうわよぉ……残りの命、大切にするのよぉ……」
ギリギリまで命を譲渡した彼女はその喪失感に性の――生の――快楽を昂ぶらせ、恍惚とした表情で気絶する。
「礼をいう、医者よ」
そして二人は去っていく。
死んだ娘の代わりにと、貰った少女の髪の一房を握りしめ、クイーンはそんな二人を男泣きして見送った。
「さてと、お仕事かんりょー」
リンネの鐘が晩鐘を鳴らす。ごおん、ごおんと鐘がなる。彼らの未来に幸あれと。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
参加ありがとうございました!
二人の行く末は決して幸せなものではないでしょう。それでも彼らは救われました。
ほんとうにありがとうございました。
GMコメント
鉄瓶ぬめぬめです。塔にとらわれる令嬢と野獣。
野獣と令嬢の間にはただならぬ関係ができているようです。
成功条件は『塔の制圧、及び盗んだ宝物の奪取。できれば娘奪取』
必然的に、塔を守る野獣との戦闘はあります。が、討伐だけが成功条件にはつながりません。
最近の野獣は不思議と、返り討ちにした冒険者の命は奪ってはいないようです。(ですが、再起不能程度のダメージは追わせてはいます)
登場人物
令嬢
今回依頼する貴族の令嬢です。彼女の命についてはもともと病弱で余命も幾ばくもないので、生死を問いません。
死んでいるのならしかたないというスタンスです。
金髪の少女。なにもかもがはじめてで純粋に喜びます。野獣が自分のために盗みをしていることはあまり理解していません。
死んだら野獣に食べられることを約束しています。
エネミー
野獣
大柄でゴワゴワした毛の生えた、3mほどのバケモノです。
大きな手での吹き飛ばしや、なぎ払い。単体を握ることでのダメージと束縛。
高い体力と膂力を誇ります。
使い魔
野獣の使い魔です。それほど強くはありませんが、令嬢を守ったり、回復したり、遠距離攻撃をしたり。ちょっと厄介です。
5体程度。
ロケーション
とある森にある、其処までは高くない見晴らしのいいものみの塔(大体ビル10階建てくらいです)
令嬢は一番上にいます。
外からもアクセスできますし、内側から入っていくこともできます。
突入タイミングはOPの通りにしていただいても、別の時間にしても構いません。別の時間ですと普通に頂上の部屋に野獣もいます。
なんともいろいろなことが考えれる依頼ですが、貴方の思うようなピリオドをつけてあげてください!
よろしくおねがいします。
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