シナリオ詳細
<青海のバッカニア>月下航路に光る牙
オープニング
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夜の航路をゆったりと進む、一隻の船舶はキャラックだ。
晩秋ではあるがこの辺りは海流の影響で暖かく、夜だと言うのに潮風に汗ばむこともある。
それ自体は平易、何の問題もない筈のこと。
だがそうではないという情報を得て動く者達も居た。このジーベック――海洋が公式私掠船が一つである。
船長は相手方のキャラックを間違いなく『訳あり』だと判断していた。
「くそっ気付かれやがった!」
船中に緊張が満ちる。キャラックが帆を動かし速度を上げはじめたのだ。
「ありゃ間違いねえな」
「黒ですぜ!」
キャラックが慌てたように上げた旗は幻想の船舶を示すものだった。
「櫂を出せ!」
「アイアイサー!」
船長は相手を密輸船であると踏んだ。
多くが知る所となったが、海洋王国は実に二十二年ぶりの大号令を発布した。
遠き未踏海域――ネオ・フロンティアへの船出を意味する令に、王国中が湧き上がっている。
大事の前には小事への梃子入れがある訳で、海洋王国はまず近海掃討や軍事演習に力をあげているのだ。
そんな時期に密輸とは、勘の悪い奴等である。
●
今回の大号令は、数々の偉業を成し遂げたイレギュラーズの活躍が、海洋王国の背を押したという面も強い。
これまで成し遂げられなかった大号令ではあるが、今回の海洋王国そのイレギュラーズの力添えを強く所望しているのである。
そこで海洋王国は、こうした近海掃討をローレットに依頼し始めたという訳だ。それも大量に。
故に、このジーベックにもイレギュラーズ一行が乗り込んでいるという訳であった。
事情はともあれ。
洋上の時間は緊迫を抱き、されど待つには長い。
相手に気付かれた以上、ジーベックとしては力業に限る。水夫達は総出で櫂をこぎ始めた。
じわじわとした時間の中で、徐々にキャラックの姿が大きくなってくる。
「面舵いっぱーい!」
「来やがんぞ! 砲門あけろー!」
獰猛な肉食獣がぞろりと牙を剥くように、いくつもの砲門が姿を見せる。
「撃てー!!」
同時に爆音。
僅かに遅れて遠方から腹の底に響く音が聞こえた時、敵の砲弾は既に間近に迫っている。
丸太が引き裂けるような炸裂共に、どて腹に一発見舞われた。
船が大きく傾ぎ、波飛沫が甲板を濡らす。
船と船が衝突せんばかりに接近する。
ここまで近づけば誰にでも見える。敵方には三発が命中していた。
「撃て撃てー!」
既に敵方の水夫達の表情さえ見える距離だ。
轟音と振動、水しぶき、引き裂かれる音。
だが――沈める訳にも行かない。
「それじゃ頼みましたぜ! 英雄の旦那方!」
ああ。手渡されたのロープで飛び移れと言うのだ。
- <青海のバッカニア>月下航路に光る牙完了
- GM名pipi
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年12月13日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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月の光を粉々に砕いて、ちりばめた。飛沫。
暗夜のクルーズは、こうして闇に目が慣れたならば存外に明るく感じられ――
――とびうお はねるよ らんららら
みなもを ぴんと なみたたせ
とんださきには なにがある
りょうてにたっぷり とふぃーのやまよ♪
ごちそう一杯。
食べきれるかな?
煌めき踊る船の上『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)は今宵も謳う。
それは美しく、けれど昏い水底から覗かれる様に深淵を頌えて。
この日イレギュラーズ一行は、海洋王国からの依頼により密輸船の取り締まりを引き受けていた。
一行が乗り込むジーベック――海洋王国公的私掠船が一隻――は速度を上げたキャラックをついに捕らえ、幾度かの砲撃を交わして白兵戦に移行しようとしていた。
(死んじゃったら、しょうこ? とかがあがらなくなるのかな?)
カタラァナは思案する。加減は得意ではない。
「だから――耳でも塞いでおいた方が良いよ」
「来やがった!」
敵船舶の船員達はぞろぞろと甲板に集まり始めて――それが失敗だった。
紡がれるのは深淵に眠り待つ神を言祝ぐ歌。
ただ一つ受け継いだ、決して理解してはならぬ歌――
キャラックの甲板では早くもうめき声が聞こえ始めた。一人、まるで何かに魅入られでもしたかのように、天へ両手を挙げる者が居る。
「こっちは任せとけよっ、心配すんな。必ず助けてやる!」
気合いは十分に、しかして昏い海に落ちることをついぞ考えてしまった『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)に、ジーベックのクルーは力強く約束してくれていた。
後顧の憂いはない。帆を畳み、水をせき止め、必死そうではあれども。
なに。焔達が勝てば良いのである。
「皆で頑張って海の向こうを目指そうってしてる時に悪さをするなんて……」
カグツチ天火を握りしめ、焔はめいっぱいの決意を籠めた。
「そんな人達はボク達がこらしめるよっ!」
焔はさながら水鳥――或いは火の鳥と呼ぶほうが適切か――のような軽やかさで甲板へ舞い降りる。
好奇に満ちる愛らしい瞳に闘気を宿らせ、焔は愛槍を振るう。燃えさかる軌跡は炎の円を華麗に描いて。
「ちぃっ! 撃て撃て!」
「――させないよっ!」
短く鋭い音を立て、こすれる弾丸の合間を縫うように。
低く下段に槍を構え、焔は走った。
緋燕一閃。弾けるように爆炎が駆け抜け、敵陣を劈く。
一瞬の隙を突いて、イレギュラーズ達が次々にキャラック船へ飛び移った。
●
一方のジーベックでは。
「えっ、このロープで渡るの~?」
握りしめた鉤爪はずしりと重く、『遠足ガイドさん』レスト・リゾート(p3p003959)の視線はのんびりとした声音とは裏腹な色彩を抱いている。
「……危なくないかしら?こう、もっと近づいてからとか~……」
彼我の距離を慎重に見定め。
「って、みんなもう飛び移ってるの!? お、置いていかないで~」
破天荒な観光を強いられたものだが。
覚悟を決めたレストの足先が宙に浮く。風と水しぶきを切り裂いて、大きく傾いだキャラック船の甲板が迫る。
着地と同時に、大きな衝撃。
軋む甲板に食い込んだ鎖爪かんじきが、マルク・シリング(p3p001309)の身を支えている。
速くあるいは遠くへ動くには不向きだが、彼のような術者であればデメリットを割り切るならば、メリットが勝ると云えよう。
一歩一歩を固定し踏みしめるようにしながら、マルクは敵陣に視線を走らせる。
ひとまず滑らなければ良いという狙いは、上手くいきそうだ。
一行は全員が無事にキャラックへと飛び移ることが出来ていた。
(海洋の大号令が始まってこれが何度目かの私掠ですが)
揺れる甲板でなく宙空を踏みしめる『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は戦場を俯瞰しながら心の内に呟いた。
一言に私掠と云っても『攻め』と『守り』とがあるらしい。
斯様に必死な逃走劇の果てに、果たしてどんな積み荷を隠しているのであろうか。人等では無いと良いのだが。
「確かに……」
敵キャプテンを視界に捕らえ、一人頷いた『水天』水瀬 冬佳(p3p006383)は凍てつく氷蓮華を構える。
相手は勘も運も手際も悪いようだ。
海洋王国の船舶と比較して、その動きはまるで洗練されていない。
そも後から慌てて国籍旗を掲げるなど、後ろ暗い目的での航海だと自ずから証明したようなもの。
こんな相手であるならば、後腐れ無く攻撃出来ようというものだ。
柔和な面持ちに決意を漲らせる『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)の士気は極めて高い。
船の縁へ鉤縄、帰路を預けて腕時計に指を添える。
大号令の体現者を自認する史之は、イザベラ女王陛下の名代――その一人――として、海を荒らす者を許さない。
その理由(かたおもい)を語るは野暮であろうが、ともかく依頼の成功に燃えていた。
女王陛下にいいこいいこしてもらおうなんて、そんな不敬を考えていよう筈はないではないか。ないではないか!
闇夜を切り裂く赤い光が収束し、史之は赤光理力障壁を展開した。
「海洋王国からのお仕事依頼かぁ……。ローレットもいろんな国のお仕事を扱うようになってきたね」
「私も少し前までは幻想しか知らなかったから……」
大剣を構え呟いた『守護の勇者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)に、同じく細剣を抜き放った『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)が応じる。
「よし、行こうっ!」
「うん……っ!」
どこに行っても、出来ることを精一杯やるまで。誓いを胸にルアナは大剣を振り上げる。
海賊達はカットラスや拳銃を抜き放ち、時に足元を滑らせ、マストや網を掴みながらもじりじりと距離を詰めてきている。
(あまり荒事は得意じゃないけど……)
無駄に失われる命を少しでも減らせるのなら、自身がこの場に立つ意味があるのだと信じて――マルクは魔導書を抱える手に力を籠めた。
「これで積荷を巻き込む心配は無いかしら?」
両手を広げステッキを振ったレストは、広域に物品保護の結界を展開する。
「みんなビシバシ暴れちゃって~」
右へ左へ。甲板が大きく揺れる中、一行は駆け出す。
こうして戦いの火蓋は切って落とされた。
●
「おばさん、船が壊れちゃったら悲しいもの」
甲板が揺れている。軋みを立て、しかし船板が割れてしまわないのはレストが展開した結界のお陰であろう。
「ねぇねぇ。わたしの相手して? これでもちょーっとは強いんだよ? 退屈させないよ?」
「こんの小娘……ッ!」
「かかれッ!」
「暫し、ダンスの御相手を御願い致しませう――」
悠然と。
「まあほんの、貴方が倒れるまでの間」
されど強かに。
「てめ……後悔させてやるよ」
中央に進んだルアナとヘイゼルがそれぞれ敵を分断する。
ヘイゼルの美しい指先が触れた、その時。赤い糸が『キャプテン』ブレンヒルを結び――
「て、てんめっ……!」
生命を啜られる怖気と、弄ばれるような屈辱への怒りにブレンヒルの無闇に広すぎる顔面が真っ赤に沸騰した。
敵はヘイゼルと踊るキャプテンブレンヒル。
ルアナに怒りを燃やす数名、それから――
「お、おいっ!!」
数名のクルーが血相を変えて騒ぎ始めた。
――焔の神炎に慌てふためく者達である。
尤もこの炎は宿りこそすれ、焼くことはない。温かく、されど熱くもない。まさしく神なる炎の贈り物ではあるのだが。
こうして互いに切羽詰まった状況で、敵の気をそらすには十分だ。
無論イレギュラーズ同士は作戦を示し合わせており、一方的な結果を突きつける情報戦術となるのだ。
「手筈通りにまいりませう」
「うんうん、任せて!」
ヘイゼルの静かな声音に、アルテナが剣を振るう先。
ルアナに銃口を向けたクルーを無数の氷刃が斬り付け、胸の中心に細剣を突き入れる。
間一髪。クルーは身を捻るが、避けきれずに肩を突かれる格好となった男がうめき声を上げた。
「ありがとう!」
一言述べ、ルアナは剣を横薙ぎに振るう。
「――ガッ!」
たたき込まれた重量がクルーのカットラスを弾き飛ばし、そのまま胸に横一文字の傷を描いた。
「それでは参りましょう」
「ええ」
冬佳とマルクは目配せ一つ。
権能を振るう先は戦場中枢へ。
マルクの掲げる魔術書の、開かれた頁が舞うようにはためき、峻烈なる白光に包まれた。
ほぼ同時に。冬佳は舞うように氷剣――氷蓮華を振るう。
峻厳にして清冽なる氷の刃は宛ら蓮華の如く。足元へ描かれる魔陣に敵がどよめき――刹那。
清冽なる無数の氷刃、その様、宛ら舞散る白鷺の羽根の如し。そして激しく瞬く神聖なる光の裁きと。
マルクの神気閃光、冬佳の白鷺結界は手狭な甲板の乱戦に極めて有効な打撃となる。
顔を腕で覆い、船員達は光と刃の嵐をただ耐え抜く他なく。
「おしまい、か……?」
だが微かな望みは――揮発するように消失するはずの魔陣は、その輝きを失わずに居た。
「制圧します」
冷厳なる言の葉にクルーが戦慄した。
ずたずたに切り裂かれ、逃げ惑うクルーへ。
冬佳は今一度、氷刃の結界をかさねて。
●
戦闘は継続していた。
大きく傾いていた船は水平――とまでは言い過ぎだが――を取り戻し、足場に僅かな安定をもたらしていた。
――見ていて下さい。女王陛下!
裂帛の気合いと共に、史之は腕の障壁をクルーに叩き付けた。
距離は十分に。今こそが好機。船の片側で孤立した数名の中心に立つ史之は、理力障壁のエネルギーを一気に解放した。
力場は斥力となり、赤いプラズマが荒れ狂う。
「や、野郎っ!」
劈かれたクルーの一名が倒れ、動かなくなる。呼吸は荒く、命はあるようだ。
「ちぃ……」
ブレンヒルは奥歯を砕けそうなほど噛みしめるが。
表情一つ変えぬまま自身を弄び続けるヘイゼルの魔力糸に翻弄され続けている。
「撃て! 沈めやがれ!」
何も出来ぬままに、ブレンヒルは部下へ向けて破滅的な令を飛ばす。
このような状態で撃ち合えば、互いにどうなるか知れたものではない。
戦闘力は味方が有利。だが味方船としては積み荷を確かめるまでは沈める訳には行かず、相手とすればそうではないという状況の不利は初めからあった。
恐れていた事態は、この窮鼠が猫を噛む瞬間だ。
「んふふ~、悪い考えはぜ~んぶ、お見通しなんだから~」
この状況に先手を打ち込んだのがレストだった。
「キャプテン! 使い物になりやせん!」
「んなっ!?」
炸裂する強大な意思の力が、最後の砲門を木っ端微塵に打ち砕く。
「あらあら、んふふ~」
頬に手を添え朗らかに微笑むレストは、先んじて全ての大砲を破壊してしまっていたのである。
再び船が大きく傾く。
かんじきを踏みしめ、マルクは聖光を再び解き放つ。
イレギュラーズの猛攻は止まる所を知らず、一人、また一人とクルーは戦意を喪失していった。
交戦の中でイレギュラーズはいくらか傷を負い、危険な場面もいくらか存在したが。
「産めよ増やせよヒドロゾア――」
波の同調――カタラァナは歌声と共に治癒の波濤を送り込む。
カタラァナ、冬佳とヘイゼルによって最大の窮地は未然に回避されている。
倒れた者が居ないというのは、彼我の戦力差に加速度的な差が付き続けるという事を意味していた。
また交戦開始からしばらくの間、ルアナによる敵の引きつけが功を奏し、敵戦力は見事に分断されていた。
「行くよっ!」
「ざっけんなよ! 小童!」
勝ち気な宣言と共に、ルアナは霊樹の大剣に意志抵抗力を漲らせ――なぎ払う。
「ねっ、強いって言ったでしょ?」
破壊の力を叩き付けられ、吹き飛んだクルーが背を打ちカットラスが転げた。
「武器を捨てて投降してくれれば命までは取らないよ?」
次のクルーの首元へ、ルアナは剣を突きつける。
「ッチ……」
乾いた音が響く。
憎悪の視線を滾らせて、クルーの一人が甲板へ武器を落とした。
「はいは~い、縛るわね」
「てめ……ッ!」
レストを威嚇したクルーであったが、カタラァナの「落とそう」という提案に竦み、両腕を差し出す。
「良い子でおばさん嬉しいわ」
「あと何人かな!?」
理力障壁をたたき込んだ史之が声を張り上げた。
「二人、と。船長だよ!」
応じた焔はカグツチ天火の柄をクルーにたたき込む。
「今、一人にしたけどね!」
煌めくような神の子の笑い。どうと転げたクルーは無論、その命を手放してはいない。
「さてさて、どうするのでせうか」
舞うようにステップを刻み、魔力糸で翻弄を続けるヘイゼルが問う。
積み荷をどうするのか。玉砕覚悟の衝突か、それと――
非戦闘員は維持に手一杯な様子に見えるが、万が一不穏な動きがあれば対処せねばならない。
しかし所詮は幻想商人の船、どうにかいっぱしの航海技術はあってもネイティブ(かいようのたみ)とは違うということか。
「ではそろそろ――大人しくさせて御縄について貰うのです」
ヘイゼルが突きつけた厳然たる事実は、もはやクルーに戦闘力が残されていないということ。
「ちいいいいっ、っざけやがって、てめえら」
「海賊の時間だよ、やふー」
カタラァナは小首を傾げる。
今少し危険があれば敵を振るいにかける――波間に落としてしまうことも考慮していたが。
この様子ではそれすら不要となりそうだ。
「運がなかったね、おじさんたち」
「生かして捕らえるべきでしょうね」
徹底して不殺を狙っていたマルクであったが、行動は功を奏している。
甲板に動かなくなった者も居るが、おそらくまだ命はある。
カタラァナはヒドロゾアの対象をそれら戦闘不能者にまで広げ、その生命を保護していた。
死者は居ない。
無論マルクは、生かすことで背後関係の調査や人質交換等に利用価値があるという目的を承知している。
しかし心情として――こんな『奪う・奪われる』の戦いの中で、無駄に命をこの海原に散らせたくはなかったのだ。
冬佳はそんなマルクを横目に、思わぬ成果に嘆息した。
出来るだけ――程度に期待はしていたが、それ以上だ。
そして揺らめく火。
「これで終わりっ!」
燃えたぎる爆炎を纏うカグツチ天火、焔の一撃がブレンヒルの脇腹にたたき込まれた。
身体をくの字に曲げたブレンヒルは目を剥き、そのまま横に吹き飛んでマストに叩き付けられる。
「グ、ガ…小娘ェ!!」
叫び立ち上がろうとするブレンヒルが、カットラスを取り落とす。
「大人しく、お縄についてよね! さもないと」
懐に飛び込んだルアナが大剣を振り上げた。殺すつもりはない警告――だが本気だ。
腰のカットラスを抜いたブレンヒルに大剣の平がたたき込まれた。
ブレンヒルは白目を剥いて仰向けに倒れる。
今度こそおしまいだ。
「は~い、悪い子捕まえたわよ~」
のんびりとした声音で、レストは手際よくクルーを縛り上げて行く。
こうなれば武装商船員も形無しだ。
「さて――」
冬佳が、呟いた。あれから併走するジーベックへ戻らねばならない。合図を送ればよかろうが。
それから敵クルー達の治療も必要だ。ここまでやっておいて死なれては困る。
「ねえね、おばさん聞きたいんだけど~」
朗らかに微笑むレストが、クルーの前に座り込む。
「あ? 言うわけねーだろ」
「あら、いいのよ? 教えてくれないのならリーディングで思考を覗いちゃうんだから~」
クルーの顔が盛大に引きつった。
密輸ルートの解明、その手助けになれば幸いだ。
結局ブレンヒル一党は、幻想の商人であるらしい。
阿漕なやり口で他者を騙すように金を稼ぎ、大きな財と引き換えに取引先を失ってしまった男だ。
金はあったのだから悠々自適に暮らせば良かったのかもしれないが、欲が深かったのだろう。
ならばとその大財を叩いて船を手に入れたようだ。
しかしてそこまでは良かったものの、今度は首が回らなくなり赤珊瑚の密漁に手を出した。
その結果がご覧の有り様である。
船倉の積み荷は一財産となろうが、全て没収されることになる。
引き渡されたブレンヒル一党の処遇は、言わぬが花であろう。いずれにせよ捕縛された海賊の末路など知れたものだ。
程なく近づいてきたジーベックから数人の水夫が降り立った。
このまま海洋国の手近な拠点へ移動することになるようだ。
縛られた男達囲んで、イレギュラーズはようやく交戦の終わりを実感する。何せまだ船の上なのだ。
マストに背を預けた史之は長い溜息を一つ。
あえて語るまいが、籠められた想いは疲労のためだけではなかろう。
予想より抵抗されたが――
しかし絶望の青も、その向こうも、こんなものではないだろうから。
(女王陛下……)
そっと写真を手に取って。
(俺は――もっとがんばります)
意思と決意を紡ぐ史之へ。
その艶やかな微笑みに祝福されたようで、史之は写真をそっと胸に押し抱――くのはあまりに不敬に思えて天を仰いだ。
暁暗。空は徐々に白ずみ始めている。
塔の灯りが見えてきた。
島が近づき、カタラァナは旅の終わりを謳う。
――また少し、終わりの刻が近づいたかな。
きっと皆、あの惧れの海に来てしまうんだよね。
嬉しいような、哀しいような。
コン=モスカ領に隣接する、かの海域。
――あの海。
――――絶望の青へ。
一行の航海は徐々に近づいているのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした。
MVPは危機を未然に回避させた方へ。
それではまた皆さんのご参加を願って。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
のりこめー。
かなりシンプルな内容で、敵も悪人です。
暴れに暴れてやりましょう。
●目的
敵船舶を制圧しましょう。
相手を捕ら、積み荷を抑えるのが作戦目的です。
戦力ではこちらが優位です。
逆に相手としては、こちらを沈めるか逃げるかという必死さがあります。
窮鼠猫を噛まれると大変ですね。
敵の生死は不問ですが、生かして捕らえればより良いです。
特に敵の船長です。
●ロケーション
揺れに揺れるキャラック船の上です。
ロープでひゅんと乗り込んだ所からスタートです。
●敵
『キャプテン』ブレンヒル
金に汚いケチな船長です。
陸では盗賊とつながりがあるようで、主に幻想国内での盗品を取り扱っているようです。要するにぶん殴っても怒られない相手。
カットラスやピストルで武装しています。難易度相応に強いです。
『クルー』×14
カットラスやピストルで武装したクルー達です。
キャプテンを守るように果敢に行動する人達。
『他のクルー』×そこそこ
必死にいろいろしています。情景とでも思って下さい。
●同行NPC
『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
両面型。剣魔双撃、シャドウオブテラー、ディスピリオド、格闘、物質透過を活性化しています。
皆さんの仲間なので、皆さんに混ざって無難に行動します。
具体的な指示を与えても構いません。
絡んで頂いた程度にしか描写はされません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
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