PandoraPartyProject

シナリオ詳細

死と絶望のみをくれてやる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●異端者を追うもの
 白いローブと白い仮面をつけた、それはそれは不気味な一団があった。
 彼らは薄暗い裏酒場の扉を開けると、荒くれ者たちの注目を浴びながらカウンターへと歩いて行く。
 数にして三人。
 しかし油断のない、体軸の通った歩き方から、手出しの難しさが悟れよう。
 顔に傷もつ者たちは横目で観察こそすれ、近づきも、まして手出しや声がけもしなかった。
 金で装飾されたブーツが木床を踏み、カウンターテーブルの前で止まる。
 義務で彼らの前に立った酒場の店主がどこか迷惑そうに『注文は』と尋ねると、彼らは美しい刺繍のされた布袋をローブの奥から取り出し、それをカウンターに置いた。
 じゃらりという独特な音から、中身が結構な額のコインであると知る。
 酒場に集まっていた荒くれ者たちが一瞬息をすることすらやめるほど、高い緊張がはしった。
 日の当たらぬ裏酒場。
 荒くれ者たちの集会場。
 そこに恐ろしくできる一団がやってきて、多額の金を出したとき。
 注文は決まっている。
「殺して欲しい連中がいる」

●死が救いであるならば、生命とは煉獄の
「殺して欲しい連中がいる」
 白いローブに白い仮面。男とも女とも、子供とも老人ともとれる不可思議な声で語るのは、今回の依頼人だ。
 幻想アーベントロート領ディープスポット、裏酒場『イエロウカアド』の貸部屋にて、円形テーブルを挟んだ先に彼(?)はいた。
 彼の後ろにはずらりと並ぶ同衣同面の一段。まるで切りそろえたかのごとく同じ背格好ので美しく整列していた。
 一人が紙束をとり、テーブルへと置いた。
 トランプカードでも広げるかのように、左から右へ撫でるように並べていく。
 写真機によって盗撮された8枚の顔写真である。
「彼らはある土地で犯してはならぬものを犯した。それゆえ追われ、この土地へと逃げ込んでいる」
 誰かが質問をした。
 それはどこで、何を犯したのか。それは罪なのか。
 その誰かを、後列の者立ちは白面の奥にある目が血走るほどに見つめた。
 誰一人微動だにしないが、それが余計に部屋の気温が急速に下がっていくかのような錯覚を生んだ。
 テーブルについている彼が両手の平を翳すようにして応える。
「土地についても、前科についても答えられない。また我々についても、詮索を控えて欲しい。唯一言えることがあるとすれば、彼らのうち一人は唯一神を名乗り民を惑わせ罪からの救いを金で売るという詐欺を働いた。我々はこれに死より深い罰を与えんとしたが……この土地の義理は通さねばならない。土地や人種に縛られず、『どこにも肩入れしない』という諸君らこそが、この状況では適任だ」
 そこまで語ってから、彼の翳した手が後列の者たちをなだめるためのものだと分かった。
 手を組み、僅かに身を乗り出す。
「改めて言う。この八人を殺して欲しい」

 ターゲットは自称教祖と組織の幹部、そしてボディーガードたちだ。
 彼らが宿泊している宿はおさえがついている。
 逆に言えば、分かっているのは宿の場所とおおまかな構造、そしてターゲットの顔だけだ。
「『できるかぎり』……部外者に迷惑がかからぬよう、依頼内容を完遂してもらいたい」
 白面の彼はテーブルにコインをいくらか並べると、それを残して席をたった。
「これはほんの気持ちだ。好きなものを注文するといい。……ターゲットの耳を揃え、指定の期日この場に持ってきてくれ」
 白面の者たちは部屋を、酒場を出て行く。
 残されたのは、依頼に参加することになった八人のみだ。

GMコメント

 いらっしゃいませ、こちら裏酒場『イエロウカアド』。
 安酒と軽食をご用意できます。それでは会議をしながら、追加の注文をどうぞ。

【依頼内容】
 ターゲット8人の死亡。
 宿へ襲撃し、戦闘をして全員倒しましょう。

 依頼主はこの土地を治める貴族に義理を通しているため、その請負先であるPCたちに悪評はつきません(裏酒場で名が売れるので正サイドの名声はつきます)。

【ターゲットの宿屋】
 一般的な宿屋です。
 木造二階建て。老いた夫婦が経営しており、部屋数は六つ。
 一階に小部屋が四つと二階に大部屋が二つ。このうち『二階の大部屋×2』にターゲットが4人ずつ宿泊しています。
 他に宿泊客がいる可能性がありますが、少なくとも二階部分は全員ターゲットのはずです。

 宿屋の建物は隣の建物とやや隣接しており、飛行や跳躍または相応の技術があれば屋根伝いに移動が可能です。
 時刻は定められていませんが、どちらかと言えば夜のほうが人目につきづらいでしょう。

 ターゲットは全員強く警戒しています。自分たちが命を狙われていることを自覚しているようです。
 教祖と幹部とボディーガードという組み合わせですが、誰が誰かは知らされていません。

【情報確度B】
 場所と人数と顔だけわかっています。
 詳しい戦力が不明ですが、なにかしら調べる能力があった場合事前知識を仕入れたものとして『味方全員のクリティカル値』に相応のボーナスがつきます。
 逆に調べ方がおかしかったりいたずらに警戒を強めてしまった場合『味方全員のファンブル値』が上昇します。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 死と絶望のみをくれてやる完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月09日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
メド・ロウワン(p3p000178)
メガネ小僧
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
セルウス(p3p000419)
灰火の徒
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
芦原 薫子(p3p002731)
白銀 雪(p3p004124)
銀血
ロキ・グリサリド(p3p004235)
侵森牢河

リプレイ

●イエロウカアドの軒先には、この世のなにかがたまっている
 立て付けのおかしい木製ドアが開く、とっくに鳴らなくなったウェルカムベルが揺れる。
 奇妙な臭いのする道路に出て、薬品臭い空気を吸う。
 おなかをさすってうぃーと笑う『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)。
「あの人たち、どこのひとでしょうね? 『噂』だともう少し話が通じない輩かと思いましたが、噂は噂という事でしょうか」
「……」
 彼女が言外に何を言っているのかを察して、『メガネ小僧』メド・ロウワン(p3p000178)は眼鏡のフレームをつつくようにして位置を直した。
 『あなたはどう思います?』と視線だけで感想をパスしてみる。
 対して、『夜星の牢番』セルウス(p3p000419)はマイペースな表情をしてみせた。
「まあ、血相変えて余裕のない人達だね。金儲けでも、信じる者が救われるなら僕は別に良いと思うけどね。誰かにとって当人が神であれば、それで充分だからさ」
「カルシウム足りてなさそーな人っしたね。皆あーなんスかねえ……はあ、やだやだ。のほほーんとしてくれたら世界平和にもなるんじゃねっすかねえ」
 セルシウスに付き合う形で肩をすくめてみせる『侵森牢河』ロキ・グリサリド(p3p004235)。
 酒場から出たからというわけでもないが、本人たちがいないせいか少し本音寄りのトークになっているようだ。
 そんな彼らの会話に区切りをつけるように、石動 グヴァラ 凱(p3p001051)がコートの襟をたてる。
「理由など。金さ、え、払うならば、其れで」
 然り。
 誰もが頷く、その一言。

 とはいっても理性と理屈は別のところにあるもので、『白き旅人』Lumilia=Sherwood(p3p000381)はどうにもこの空気に慣れないようだ。
 『魔物も人も、同じとは言い難いですが、罪のない人に害を為すものは、魔物と差などありませんから』と自分の中に折り合いをつけて、呼吸を整えている。
 それを別の意味にとったのか、『雷迅之巫女』芦原 薫子(p3p002731)が片眉を上げて問いかけた。
「ぞくぞくしますね?」
「え……」
「しませんか。いや、ははは」
 立場の違いとでも言おうか。薫子は自分が『命を狙う側』であることに少なからず高まりを覚えているようだった。
「殺害依頼」
 マフラーを引いて口元を隠す『銀血』白銀 雪(p3p004124)。
「迅速に処理を。尽力する」
 受けたからには、やるほかない。
 やるほかないなら、成功させなければならない。
 気持ちは違えど目的はひとつ。
 八人のイレギュラーズは一路、例の宿屋へと向かった。

●より賢きものたちの網
 ふわふわと影が舞う。
 銀と黒と赤の影が、スラムの粗末な屋根に降り立つ。
 ぎしりと嫌な音がしたが、階下が騒ぐ様子は無い。
 このあたりでは屋根の上を走るのが常識だとでもいうのだろうか。
 雪は無表情のままその場に寝そべり、目を細めた。
 見るべきは道を挟んで反対側……から更にもっと先。
 宿屋の二階だ。カーテンの隙間から頻繁に誰かが外を覗いている。
 見ているのは、おそらく宿屋の前にいるミュージシャンだろう。
 いや、ミュージシャンというより……。

 銀色の金管楽器。
 笛の音が宿屋の前をゆく人々の耳に入り、時には足を止めて眺める者もあった。
 Lumiliaは流れの演奏者のふりをして笛を吹いている。
 横目に宿の二階を見やれば、カーテンの隙間からこちらを見るスキンヘッドの男と目が合った。
 サッとカーテンが閉じられる。
 こうして演奏をしていることによって直接得られる情報は少ないが、囮としての効果はとても大きかった。
 なぜなら宿の裏手で息を潜める存在を、通りの誰一人として認識しなかったのだから。

 賑やかなLumilia周辺の空気に隠れるようにして、ルル家は木造の壁に背をつける。
 足音を殺し、息を殺し、まるで自分がその場にはえる雑草かなにかになったような気分で耳を澄ます。
 そうすれば宿の中で交わされる客たちの会話もまた、少しずつ聞こえてくるというものだ。
 宿の安普請に、今は感謝。
 そんな中、聞き覚えのある声がした。
 メドの声。それも、子供っぽく若干トーンをあげた声だ。

「ねぇ、ここにはどんな人が泊まってるの? 子供がいるなら友達になりたいな」
「子供はいないわねえ。お友達になれそうな人にも、ちょっと心当たりがないわ」
 宿の老夫婦、というか婦人のほうに問いかけるメド。
 子供の立場を利用したというよりはむしろ、メドのコミュニケーション能力がうまく働いたというべきかもしれない。
 婦人は比較的快く彼の質問に答えてくれた。
 個人情報保護法とかないんだな、とは誰も言わない。
 言わない代わりに、凱が『どんな客ならいるんだ?』と車を押した。
 ただ尋ねるだけでは流石に渋ったかもしれないが、宿屋の婦人はメドが滑らせた口をそのまま滑らせていく要領で話し始めた。

 さらりと会話に混ざった凱ではあったが、なにも最初から宿屋にいたわけではない。
 町のあちこちを回って、情報を足で稼いでいたのだ。
 世には報われぬ努力も叶わぬ願いもあるというが、今回は違う。情報収集をすればするだけ価値があり、その価値に自分の足というリソースを沢山振り込んだ分、やはり価値は生まれた。
 特に雰囲気の異なる者や、見慣れない者、そういった目撃情報をかき集めたのだ。一つ一つはアテにならないほど小さいが、かき集めれば価値をもつ。砂金のようなものだ。
「スキンヘッド、サソリのタトゥー、義眼の男……。恐ら、く、この三人は、用心棒、だ」
 宿を出るさなか、宿屋のそばで聞き耳を立てていたルル家に話しかける。
 手元には八枚の顔写真。
 そのうち三つに、マークがつけられた。
 戦える人間とそうでない人間を区別する。
 それは戦闘の始まりを大きく左右する要素だ。

 さて、場面は戻って宿の中。
 トイレや食堂から耳をすますメド。なぜ彼が『警戒されないような立場』を演じることができたのかといえば、セルウスがその保護者のように振る舞ってみせたからだ。
 ただの子供が一人で宿にやってきたら、警戒の対象になっていたやもしれない。混沌には子供の容姿をした数百歳の者もよくいる。
 時を遡ってみると……。
『こんにちは、部屋を借りたいんだけど、女性もいるし個室と……大部屋でも良いから空いてないかなあ?』
『大部屋は埋まってるんですよ。小さい部屋が一つだけ空くけれど、だめかい』
 といった具合だ。
 セルウスは提案を受け入れ、薫子とメドを同行者として宿の宿泊客とした。
 その振る舞いたるや見事なもので、セルウスを怪しむ様子などみじんも見られなかった。
「他所の国の人達かな? サーカスも来るし、観光かもね」
 宿の主人に話しかけるセルウス。
 主人は少し渋い顔をした。
 金を握らされ、自分たちのことを喋らないように言われていたのかもしれない。
 金貨でも渡して内緒話をさせるか? と考えて、セルウスはそれをやめた。
 その様子が相手に知れれば、『ただの宿泊客』というカバーが無駄になってしまう。
 セルウスの直感が、よい方向に働いたのだ。
 それから暫く雑談を交わした。サーカスのこと、盗賊の噂、この町の不穏さや、あれこれ……。

 セルウスの話し声が聞こえてくる。
 薫子は宿の粗末なベッドに腰掛けて、じっと目を瞑っていた。
 意識をむけるべきはセルウスたち……ではなく、真上だ。
 天井をはさんで上の階では、ターゲットとなるうちの四人がいる。
 薫子は手元の紙にさらさらと記号を書いて、窓から外に投げた。
 紙をぱしりと受け取るロキ。
 数歩下がって宿の外観を観察してから、木箱やパイプを伝ってするすると隣の屋根へ登っていく。
 音を伝えないように深呼吸をひとつ。
「……そっち、っすか」
 皆の調査における注目の的。教祖の泊まっている部屋の情報が、確定した。

 さて、これは皆が耳をすませて探り当てた音声情報である。
 できるだけ忠実に書いていくことにしよう。
 ――カーテンを閉じる音。
『外の奴と目があった』
『気にしすぎだ。流れの吟遊詩人かなにかだろう』
『証拠でもあるのか? 奴にだってなにかあるかもしれない』
『お前は人をみるたび暗殺者だと疑ってるぞ』
『俺の言うことが信じられないのか? あの眼鏡のガキだって、こっちを探ってた』
『それこそ気のせいだ。遊び相手を探してるだけだろう』
『見た目なんでアテになるか。前にチョコレートケーキに食われそうになったばかりだぞ』
 ――床を歩き回る音。
『窓を閉めておけ。狙撃されるかもしれない』
『言われなくても閉めている。カーテンもな。あと窓に近づくな』
『この町は安全じゃなかったのか?』
『町にはダチがいる。何かあれば話が伝わってくるさ。宿屋の主人にも金を握らせてるから、何かあれば分かるだろう』
『ああ、それなんだが、怪しい奴をみたかどうか尋ねて回った奴がいるそうだ』
『そんな奴はどこにもいるだろう。俺たちの顔写真を見せたりでもしたのか?』
『いや……そういうことはなかったらしいが』
『そんなどうでもいいことをイチイチ報告してくるな!』
 ――硬いものを床に投げつける音。
『いいからお前らは、俺を守っていればいいんだよ! 俺と、幹部の連中がいれば宗教くらいどこでも作れるんだ。稼げばお前らにもまた甘い汁を吸わせてやる! それでいいだろう!』

 実に三人以上の人員をさいて把握した音声情報を共有して、八人のイレギュラーズは互いに頷きあった。
 やるべきことは定まった。
 逃げ道も把握した。
 連中はこちらに警戒していない。
 確信できる。
 もはやこの依頼、失敗はない。

●雷はノックをしない
 速攻。
 Lumiliaの襲撃はそう表現するのに相応しかった。
 演奏を終えるとチップを求めることなく跳躍、飛翔、雑貨屋二階の壁を仮足場にすると両腕をクロスさせ身体を丸め、宿屋の角部屋窓、閉じられた窓めがけて一直線に突撃した。
 人間一個分の質量に加えて魔術のエネルギーを上乗せし、窓をフレームもろとも粉砕して屋内へ強制突入。
 瓶で酒を飲んでいた用心棒も、ベッドに腰掛け貧乏揺すりをしていた教祖の男も、誰もが対処に遅れた。
 畳んでいた翼を広げ、息を大きく吸い、銀の笛に唇をつけるだけのいとまは充分にあった。加えて頭を割るような高音を放つまでの時間も。
 唯一反応の早かった用心棒が手元の剣を手に取る直前、Lumiliaの音撃を受けて頭を押さえた。
 好機。隣接した建物から助走をつけて飛んだロキはLumiliaが突入したのとは別の窓の縁に一度手をかけ、振り子キックの要領で屋内へ強制突入をしかけた。
 よもや窓から、それも二つある両方から飛び込んでくるとは思わなかったのかロキへの反応にも遅れる。というより、混乱で数秒の隙ができた。
 絨毯を一度ごろんと転がってから体勢を整え、剣をとった用心棒の足を掴んで持ち上げる。
 ロキはそのまま投げ落としの姿勢に入った。
「御近所迷惑になりますし、3カウント前に死んでくれたら良いんスけど」
 などと語る余裕まで見せてだ。
「宗教って色々あるんだよ。だからさ、まー、諦めて?」

 一方その頃、メドは自分たちが宿泊していた部屋の扉をどかんと開け放ち、大声で呼びかけた。
「2階で暴れている人たちがいます! 皆さんすぐに避難してください!」
 経営者の老夫婦はともかく、宿泊客の全員が無力な一般人というわけではない。それまで子供の立場を利用して警戒を解いていたこともあって、聞きつけた別の宿泊客は子供の遊びだと一瞬思ったが……本当に二階の窓がかち割られる音がしてすぐに身を伏せた。
 襲撃の時間と手順をしっかり話し合っていたがゆえに実現した、ぴったりのタイミングである。
 勿論タイミングぴったりなのはメドだけではない。宿屋正面の扉を乱暴に蹴り開けると、雪は長銃の狙いを二回の扉に向けた。
 階段を上がって一直線の通路。その奥が教祖と用心棒の部屋。手前が幹部たち(と用心棒一人)の部屋だ。雪はそのうち幹部たちのいる部屋の扉を狙って銃撃した。
 隣の部屋への襲撃を聞きつけて扉をあけた幹部の一人に命中。銃弾は足を抜け、対象は膝を突く。
 慌てて扉を閉めようとする相手にもう一発。頬を掠めた銃弾が相手の冷静さを見事に奪っていく。
 誰がいつ出てくるか、それを把握した上での完璧な銃撃だ。
「こいつ……俺を誰だと思ってるんだ。ぶっ殺してやる!」
 手近な酒瓶をとって飛び出し、手すりを乗り越えて宿屋の受付テーブルの前へ着地する男。仮に幹部Aと名付けよう。
 雪にとっては得意距離より内側すぎるが、構うことは無い。制止しようと飛び出そうとした別の幹部や用心棒を押し込めるべく部屋の入り口に銃撃を続けていく。
 幹部Aの担当はメドだ。酒瓶を振り上げた彼に魔弾を叩き込む。かなり距離に無理はあったが、飛び込んでくるならこの位置と最初から分かっていたので見事にヒットした。
 後頭部に直撃をうけ、泡を吹いて気絶する幹部A。
 仲間たちは既に動いている。
 薫子はメドが出て行くのと同時に受付テーブル前へとやってくると、助走をつけてジャンプ。幹部Aの飛び降りとすれ違うように、そして途中から壁や手すりをよじ登るようにして二階通路へショートカット。部屋から飛びだそうとしてきた教祖を一旦蹴りつけて部屋に押し戻すと、刀をすらりと抜きは放った。
 眼鏡のレンズが光を反射し、唇の左端だけをついっと上げる。
「お命頂戴……ふふ。悪くないですね、このポジション」
 横から飛び込んできた義眼の用心棒が刀で切りつけてくる。
 瞬時に反応した薫子は刀の振り上げで相殺。
 地面を這いずるようにベッドの下へ逃げ込む教祖……を無視して、義眼との斬り合いに発展する。
 幹部たちの部屋では、教祖を見捨てるかどうかの話し合いがなされていた。
 教祖がいなくても組織は再編できると主張する者とそれに反論する者。話し合いは生き延びてからだと怒鳴りつける用心棒――の耳をがしりと掴む凱。
 力任せに引きちぎる。
 『順序が逆になった』と呟いて、耳を押さえる用心棒の手の上からハイキックを浴びせた。
 酷く脳を揺らされたようだが、すぐに起き上がって組み付いてくる。用心棒は伊達では無いということか。
 腰に組み付く用心棒に肘を入れつつ、窓から逃げようとする幹部たちを見た。
 慌てて追いかける必要……はない。
 飛行によって直線ルートで追いついてきた雪や階段を駆け上がるメドが部屋に飛び込み、幹部たちを始末し始めたからだ。『取引する手間すら省けた』と、凱は用心棒の顔面に膝を入れながら呟いた。
 メドの後ろをどこか悠々とした足取りで進むセルウス。
「僕らも鬼じゃないから、教祖か幹部を出せば命は助けるかもよ?」
 などと言いながら攻撃を始める。
 応じる様子はない。わかっている。すこし浮き上がったベッドを見下ろした。
「あんまり無様だとさあ、君を信じた人達に申し訳なくない?」
 返事はない。まあそんなものだ。
「ま、鬼じゃなくて人間だから。もっと性質悪いよ」
 セルウスは炎を燃え上がらせると、ベッドの下に潜り込んだ教祖を焼き始めた。
「くそっ、やめろ……!」
 ナックルダスターをはめたスキンヘッドの男が襲いかかってくるが、横合いから飛び込んできたルル家のスピニングドロップキックが炸裂。
「哀れと思わぬではありませぬが、これも因果応報。お覚悟なされよ!」
 その状態から器用に語ると、反動で宙返りをして着地。両手に炎を纏わせる。
「宇宙警察忍者の戦闘術――ギャラクシー忍法! 火遁の術!」
 立てた二本指を突き出すやいなや、スキンヘッドの身体を炎で包んでいく。
 悲鳴を上げてころげまわるスキンヘッドに、御免とばかりに平手を翳した。

●エンドロールは流れない
 がらんとした宿屋。
 せめてもの迷惑料にと死体を自主的に片付け、宿賃を多めにカウンターへ置いていく。
 布袋に人数分の耳をつめ、ぶらさげて宿を出る。
「慣れませぬな、どうにも」
 開かれたままきいきいと音をたてる宿屋の扉。
 ルル家は一度だけきびすを返し、なむあみだぶつと唱えた。
 このお話は、ここでおしまいである。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 踏み込みすぎず、しかし作戦に必要な情報をきっちりと集めきるお手際、大変に見事でございました。
 描写にもあるように、あちこちでクリティカル判定が発生しております。

 それではまた次の依頼でお会いしましょう。
 ごきげんよう。

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