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シナリオ詳細

<青海のバッカニア>タイラントマス寿司

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●船の上のマーケット
 セントエルモ・マーケットとは、毎年一月になると開催される『船上の巨大マーケットイベント』である。。
 海の上に複数の巨大な船を接続して作った会場には海洋王国のみならずいくつもの国から沢山の商人が集まり、お互いの露天を楽しむという海洋商人の祭典である。
 いまも来年の開催に向けて準備が着々と進んでいたのだが……。
「ヘェ!? 大号令!? 外洋遠征に!? 今年!? マジでごぜえますか!」
 出店を予定している店舗の配置図や船の接続計画を担当しているディープシーの商人ナマナマズは突然の伝書鳩通知にひっくり返った。
「こうしちゃいられねえ! 国の一大事に仕事しなかったら海洋商人の名折れでごぜえます! いけぃおまえたち! 一斉メールでごぜえます!」
 船で休んでいた沢山の鳩たちが目をギラリと光らせ、足に備え付けたマジックメッセージチップとともに空へ飛び立っていく。

 ――拝啓、大号令の冬。
 ――皆様商売は順調でごぜえますか?
 ――このたびセントエルモ商会は参加店舗の皆様に対し、大遠征出張船へのご案内をいたします。
 ――我こそはという商人はごらんの宛先まで。

●鱒寿司はうまい
「えらいこっちゃあ! こりゃあ来年まで待っちゃいらんね! 船ぇ用意して納品すっちゃ!」
 海洋首都リッツパークに本店をもつ鱒寿司専門店バイザン。
 その社長であるマス系ディープシーのバイザン氏は慌てた様子で酒場へと飛び込んできた。
「ローレットぉ! ローレットはおらんか! 今すぐタイラントマス漁に出てくれるイレギュラーズはおらんかぁ!?」

 と、こんな具合で受けた依頼がこちら。
「海洋王国東北部に生息するタイラントマス。これを倒し、獲得するのが今回の依頼なのです」
 鱒寿司専門店バイザンは外洋遠征時に同行するセントエルモ大商船に店舗を出し、兵士や合法海賊たち相手に鱒寿司を売りまくろうとしているらしい。
 しかしそれには新鮮かつ最高級の材料が必須。
 そのためにタイラントマスを倒し手に入れねばならないのだ。
 これがタイラントマスなのです、といって写真を提示するユリーカ。
 どうやら大きなクレーンによって海面からあげられた状態の写真らしく、ぱっとみフツーのサクラマスなのだが……。
「ここです。ここを見てください」
 今回の依頼人でもあるバイザン氏がダブルピースで一緒に写っている。
 鱒の大きさ、人間と比較して実に三倍。
 ひとのみってほどではないにしろ、人間をぱくっと咥えてどっかもってっちゃえるくらいには巨大な鱒であった。
「これをできるだけ沢山獲得したいそうなのです。
 実のところこのタイラントマスは通りがかる船や人を襲うこともあるらしくて、近海掃討リストにも載っているモンスターなのです。
 それだけ凶暴で強力。漁の仕方もシンプルで、海中に潜ってバチバチに戦闘して倒すという方法なのです」
 つまり、このタイラントマスを何匹も倒すために海中に潜り、巨大魚と海中戦闘をしまくらねばならないということだ。
「ディープシーさんや水中行動可能な方には必要ないですが、バイザンさんから海中戦闘がそこそこできるようになる『魔法の錠剤』を支給してもらえるので、泳げない人や水中で呼吸がでいない人も安心なのです。
 ではええと、こことここにサインをしてくださいだそうです!」
 そう言ってニコニコ出してきた書類には、『タイラントマスに食べられても責任はとれないよ?』的なことが書いてあった。
 なるほど、案外しんどい仕事なのだな?

GMコメント

●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

■成功条件
 タイラントマスを『いっぱい』倒すこと

 海中に潜り、どんどん襲ってくるタイラントマスをとにかくいっぱい倒しまくるという依頼です。
 継続戦闘能力もさることながら、仲間と連携してそれぞれの持ち味や『やりたいこと』を活かし合うとよいでしょう。

 水中行動スキルがあるとグッド。
 なくても水中で戦闘が可能になる魔法の錠剤を支給してくれるのでそこそこ普通に戦うことができます。副作用とかそういうのはないそうです。
 バイザンの出身地が海洋東北部なんですが、そのへんで製造されている赤くてちっちゃい球状の錠剤です。潜玉(もぐりだま)といます。

 沢山よってくるように撒き餌をしております。
 なので最初はフツーのタイラントマスが集まってくるのですが、あんまり大量に倒しまくっていると主レベルのタイラントマス・キングがやってくることがあります。
 継続戦闘がかなーり長くできた時にやってくるやべーやつだと思ってください。

■タイラントマス
 猛烈な突進と食らいつきによって餌をめっちゃ食う巨大なマスです。
 戦闘能力に大差はないのですが、たまーに【麻痺】もちや【出血】もちや【乱れ】もちがいるので気をつけてください。

 継続戦闘がかなーり長くできたばあい、タイラントマス・キングがやってくることがあります。
 ほかのタイラントマスを食っちゃうくらい馬鹿でかいマスで、水圧を操って周囲の相手を銃弾みたいに打ち抜く技や必殺のマッドマスキュラーアタックによって獲物を食いちぎったりします。
 基本的に隙がなくHPがめちゃめちゃ多いという個体なので、あくまでチャレンジオプション程度に考えてください。こいつは倒せなくても全然OKなやつです。

■おまけのお弁当
 現地まではバイザンの船で行くことになりますが、特製の鱒寿司がお弁当に出ます。
 宗教的な理由でお魚食べれないって人には鱒部分がだし巻き卵になった卵寿司もあります。これうまいよまじで。
 現場につくまではこのお弁当をもりもり食べて元気をつけましょう。

 補足になりますが、ここでいう鱒寿司というのは21世紀地球富山の郷土料理である鱒と酢飯による押し寿司と同様のものです。
 木製のまあるい箱(わっぱ)の底に放射状に笹をまいて塩漬けした鱒の切り身で酢飯をサンドするように押し詰めて蓋をするというもので、日持ちするしうまいしでほんとおすすめだから今度コンビニとかで見つけたら食べてみて。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • <青海のバッカニア>タイラントマス寿司完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月11日 23時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ユルリッヒ・ペンオルト(p3p003348)
筋肉呼吸法
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ニル=ヴァレンタイン(p3p007509)
引き篭もり魔王
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!

リプレイ

●鱒寿司ほんとおいしいからたべて
 円形のケースにぴったりとはまったおなじく円形の木蓋。
 この時点ですでにちょっとおいしそうな感じがするのが、鱒寿司のいいところである。
 蓋には海洋でもブイブイ言わせている鱒寿司ブランドメーカーである『バイザン』のロゴマークが焼き印されており、その気合いがうかがえる。
 『砂竜すら魅了するモノ』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)はほんのりとかおる酢飯とお魚の香りにどこかうっとりとしながらも、いただきますと手を合わせた。
「なんかいっぱい出るらしいですね、マス。
 このマスを大量に持ち帰れば、皆のお腹は膨れますよね。
 つまり、ぼくを食べようという気は失せるわけです。
 それじゃあやるしかないですね!」
「その前に俺らの腹ごしらえをさせてもらうかね」
 『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は満を持して箱の固定ひもをほどいた。
 揺れる船の上。
 窓から見える空と遠い地平線。
 現地到着までのお弁当として各自一個ずつ支給された鱒寿司を、早速いただこうという時間である。
「にしてもマスの海種が売る鱒寿司って滅茶苦茶シュールだよなァ。
 タイラントマスつったか? アレ1匹で幾つ鱒寿司作れるンだ? こりゃあ面白くなって来たなァ」
「旨さを知ってから働きに出るというのも乙なものだな。どれ……」
 『特異運命座標』ユルリッヒ・ペンオルト(p3p003348)は鱒寿司の蓋をぱかっと開いてみた。
 笹の葉でくるまれたことでほんのりと香る笹。一説にはこの笹には防腐のほかに匂いが広がるのを防ぐ効果があるとされ、この時点ではまだいい香りの箱である。
「妾などこれが楽しみで来たと言っても過言では……コホン」
 『夢想の魔王』ニル=ヴァレンタイン(p3p007509)はゆるみそうな顔を一度引き締め、割り箸でそそっと笹の包みを開いていった。
 例えるなら全方向に葉っぱの先を突き出すよう円形に重ねた笹に平たいパイのような形の鱒寿司をのせ、はっぱを折るようにして包んでいくというのが鱒寿司の基本的な梱包方法だ。
 そのため葉っぱを一枚一枚花開くかのように箸でひらくことになるのだが……。
「……ほほう?」
 開くたびにふわっと広がる鱒の香り。
 お刺身の香りではあるが、塩漬けされたことで臭みはなく、お魚の脂とうまみによるいい香りだけが酢飯に混じってたちのぼる。
 鱒寿司部分はピザのように均等に放射状カットされており、一ブロックずつ箸でつまんで食べることが可能だ。酢飯部分もわりとぎゅっと押し固められているので、つまみあげても崩れることがそうそうない。
 『Punch Rapper』伊達 千尋(p3p007569)はその感覚をチョット楽しみつつ口に運んでいったが……。
「うっお、バチクソうめえ! 寿司じゃん!」
 鱒寿司。保存食でありながら生食というややかわった食べ物である。魚のぎゅっと凝縮されたうまみと油が堅すぎず柔らかすぎもしないちょうどいい酢飯の食感と相まって、どこかピザのように口の中でほぐれていく。
 食感。味わい。そして香りと見た目。どれをとっても一級品の郷土料理だ。
「これがマス寿司。平たい丼のようだが、酢飯で締まった味わい……お酒欲しい」
 口いっぱいに鱒寿司を頬張って、『背を護りたい者』レイリ―=シュタイン(p3p007270)が遠くの幻をうっとりと見つめる目をした。
 酢というのは酒からできる調味料だ。古来には鱒をアルコールを飛ばした日本酒でしめる調理法もあったとされるが、大人から子供まで食べられるライトな味わいとして酢飯スタイルが今は主流。しかし塩漬け魚がのっているというだけ合って日本酒との相性は抜群である。
「あまりお腹に詰め過ぎますと、後できますわよー。これから激戦なんですからー。けどー……」
 おいしいですわー、といって気づいた頃には箱に詰まった鱒寿司を一週まるっと食べきってしまう『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)。
 ちなみにこのまるい箱に詰まった鱒寿司の総重量は450g。お茶碗いっぱいの白米が150gといわれているので『ご飯三杯いける』を地で行くお弁当なのだ。
「今回、これを獲れば獲るだけ遠征でこの寿司を食える人が増えるというわけだ。これは張り切らねばならんな!」
「いかにも! 笹の爽やかな青味と鱒と酢飯の濃厚な味わいが口の中へ流れ込む! 脳裏に春の小川が映る様で御座い鱒! ます!」
 『名乗りの』カンベエ(p3p007540)もぺろりと1箱食べきると、親指をぺろりと舐めた。
「わしのバイト先の居酒屋にも何匹か融通していただきたいところ! 大漁となればもう1箱都合していただけやすかねえ!」
「それは働き次第」
「いざ――」

 ――タイラントマス漁へ!

●タイラントマスは泳いでとれ!
 ダイバースーツをまとった千尋がヘルメットを被って海中へとダイブ。
 光がまばらに差し込む青白いグラデーションの世界へと沈んでいく。
「へえ、海中でもだいぶ喋れるんだな。さっすが海洋、便利な道具あるじゃん」
「わしなんぞは海で呼吸をできるようになってるもんでごぜえますがね」
 腕組みとあぐらの姿勢でまっすぐ沈んでくるカンベエ。
「マジで、え、なにどうやってんの?」
「それはわしにもよくわからねえんで。バイトの先輩に教わってなんとなくできるようになったんでごぜえますよ」
 顎をなでるカンベエ。例えるなら自転車に乗る感覚を他人に説明できないアレでごぜえます、とかそれっぽい説明をした。
 その横を、水中ダンベルスクワット(より負荷の高い水中でダンベルを下ろし適切な上下運動を行うことで足腰を総合的に鍛える筋力トレーニング。足のつかない場面ではウェイドアンクレットなどを用いるがとにかく上級者むけ)をしながらペンオルト。
「簡単なこと。筋肉を鍛えれば自力で酸素を作ることとて可能」
「俺の知ってる筋トレと違う」
 とか言っていると、彼らを見つけたタイラントマスの2匹が早速猛スピードで接近をかけてきた。
「うお! 来た――っていうかデケぇし怖ぇ! 想像の五倍怖え!」
「案ずるな。筋肉を鍛えれば巨大魚とて仕留められる!」
 フンと叫んでダンベルを投げ捨てると、ペンオルトはドルフィンキックでタイラントマスへ接近。突き出した両手を槍のようにしてタイラントマスを貫くと、反対側から飛び出してきた。
「このように倒すのだ!」
「いやできるかンなもん」
「わしが魚を引きつけやす。その間に、千尋様! ドルフィンクラッシュを!」
「えっなにこれ名前あるやつなの!? 有名なの!?」
「サアサア――!」
 カカン、と音もないのに見栄を切り、カンベエは手のひらを強く突き出した。
「聞かれず名乗るもおこがましいが、手前は名乗りのカンベエと申しやす。
 鱒寿司業者の依頼を受けて、はるばる船は海原の、新たなマスの肉をとり、ァ――おかわりほしさの、大物狙いでごぜえやす!」
 グイン、とカーブをかけるタイラントマス。
「かかりやした!」
 突っ込んでくる個体を自らの身体でキャッチすると、千尋へと目配せをした。
「今でごぜえます!」
「ドルフィンクラッシュだ!」
「ええ!? やるよ!? いいの!? つっこむからな!?」
 千尋は言われるがままドルフィンキックでタイラントマスへつっこみ。
 そして。
 そして!
 頭から膝までぱっくりといかれた。
「あっ」
「「千尋(君)(様)ーーーーーーーーーーーーーーー!」」

「酸素変換システム正常。海中装備展開開始。水圧耐久モード」
 レイリーはフットパーツを展開すると、スクリューを足先に出して回転を始めた。
「オールグリーン。いつでもいけるぞ」
 仲間とは別方向へ警戒しつつ、レイリーは海中に視界を絞った。
「ふむふむ。想像はしていたがだいぶ寒いのぅ」
 腕組みの直立姿勢のままスゥっと垂直に降下してくるニル。
 ニルの周囲には魔法の球体フィールドが展開しており、呼吸もその中で十分に可能なようだった。
「……便利そうな魔法だな?」
「妾の水中戦仕様というやつじゃ。そちもだいぶキレッキレのサブマリンじゃぞ?」
「局地に対応するのは戦いの基本だからな」
「いかにも」
 などと会話を交わしていると、レイリーははじかれるようにふりかえり、180度転身した。
「来るぞ」
 急速接近をかけてくるタイラントマス。
 レイリーの横を抜けてニルめがけて突っ込んでいく。
「早い、抜かれたか――」
「問題ない」
 ニルは両手をタイラントマスへかざすと、赤紫の魔力砲を発射。赤い螺旋のはしった魔力の渦が、タイラントマスをものの見事に打ち抜いていく。
「もう一匹くるぞ。レイリー、奴らに対してチャフをまくことはできるか」
「欺瞞情報によるパッシブデコイか。ほう。やってみよう」
 レイリーは両腕の装備を一度収納し、別の装備を展開。その場で回転しながら小さなチップ状の物体を周囲に散布しはじめた。
 視覚や嗅覚といった感覚情報を『目立たせる』形でごまかし、自らを優先して攻撃させるように仕向けるチャフである。
 タイラントマスは無数に分裂して発光したように見えたレイリーめがけて食らいつくが、かじったのはレイリーの1m横。食らいつく衝撃でやや流されそうになった程度で、レイリーのダメージはきわめて軽微であった。
 直後、先ほどの魔力砲撃がタイラントマスを打ち抜いていく。

「おおおおおおおお海最高おおおおおおお! 僕魚類! 鯛! 鯛焼きじゃない! 身体タンパク質! ノット炭水化物ーーーーー!」
 水を得た魚のたとえのごとく、テンションマックスで泳ぎ回るベーク。
 ぱっとみ巨大な鯛焼きだしこんなの泳いでたらタイラントマスじゃなくっても食らいつくだろうなってみんな思ったしなんならあまーい餡子の香りが海中にもかかわらずした。どうなってんだ。
「ま、今回はだいぶいいデコ――タンクがついてくれたなァ。特に三人がかりってのがいい」
 レイチェルはパイプを加えてにやりと笑った。
 魔術の煙がこもったパイプは海中であっても燃え続け、吸った煙がそのまま酸素の代わりになるというレイチェル専用魔術媒体である。
「万一食いちぎられてあんこがはみ出ても回復してやるから、安心して食われてくれ」
「食われませんけどね!?」
「なんだか今日は楽しく戦えそうですわねー」
 ユゥリアリアはにこにこしながら海中を優雅に泳ぎ回った。
 さすがシロイルカのディープシー。泳ぎもアクロバティックで実に優雅である。
 ユゥリアリアは早速歌をうたいはじめると、自らの周囲に特別な空間を展開していく。 水中で歌、というと意外かもしれないが。ある海洋生物学者によるとイルカやシャチは子守歌をうたうとされる。空気中よりも海中のほうが彼女たちの音が伝わりやすく、そしてより強い『歌の力』をもたらすという。
「さあかかってきなさウワーーーーー!?」
 早速ベークがムシャられたが、ムシャられたそばからいきなりむにむに肉体が回復していく。
 ユゥリアリアの歌の力と、ベーク自身の自己再生能力である。もっというと食べたものがなんか思ってたのと違ったせいでタイラントマスが混乱し、喉につまらせてもがいていた。
「さあ、どうぞー」
 チャンスを作ったベークとユゥリアリア。
 仕留めるのはレイチェルの役目だ。
「どれ、それじゃあひとつ――」
 レイチェルは指先を少しだけ切ると、水中へ煙のように広がっていった血に魔術を流した。
 血がそれぞれ海中成分を取り込んで凝固し、無数のピラニアになってタイラントマスへと食らいつく。
「あとで俺らも食うンだ。うっかり食い尽くすじゃあねえぞ?」

●タイラントマスの王、キングタイラントマス!
 巨大な鱒を殺し、船からぶら下げた捕獲網に放り込んではまた殺す。
 そんなことを、イレギュラーズたちは的確にテキパキとこなしていった。
 特によかったのはベーク、レイリー、カンベエが『三人がかりで』名乗り口上を散布していったところだろう。
 たとえ命中精度が鬼高くなくとも試行回数を増やせば当たるというのが確率ってぇもんで、それを一度に複数回こなせば当然成功確率は引き上がる。
 もっといえば、(ちょっと偏りがでるにしても)三人でダメージを分配することになるので著しく激しいダメージを受けすぎてしまうリスクも少なかった。
 名乗ラー(名乗り口上をする係)が三人以上そろうことがそうめったにないので、今回はメンバーに恵まれた状況と言ってもいいかもしれない。
 特に、ベークやレイリーのように常人の二倍くらいの高HPをもっていないカンベエには、非常にやりやすい環境だったろう。
 合体することで何倍も強くなるというのも、連係プレイのひとつの形である。
 一方でユゥリアリアと補助のレイチェルというヒーラーの布陣があったおかげでBSやHPで数ターン不足に悩まされることもほとんど無く、アタッカーのペンオルト、千尋、ニルが的確にタイラントマスをたこ殴りしていくという安定したサイクルができあがっていた。
「っかー、だいぶとったなあ。大漁大漁」
 パンパンになった網をたたいて笑う千尋。
 だいぶ疲れてきたし、そろそろ引き上げてもいい頃かな……思った矢先。
「む、この気配は」
 ニルが猛烈なプレッシャーに振り返った。
 無理からぬ。
 水を押しのけるような巨大さで、海を黒くそめるような強引さで、とんでもなく巨大な鱒……キングタイラントマスが急接近をしかけてきたのだ。
「なんと巨大な筋肉! 仕留めるか!?」
 ペンオルトがサイドチェストの姿勢で振り返る。
「いいえー、無理は禁物ですわー」
「その通り、だいぶ皆さんのAPも減りましたし、ここが引き時ですよ」
 ユゥリアリアとベークがうなずき、一方のカンベエが身構えた。
「けど、黙って逃がしてくれる雰囲気じゃあごぜえやせんね!」
 カンベエは海面めざして泳ぎながらもキングタイラントマスへと見栄を切った。
 激しく突っ込むタイラントマス。
 はじめは体当たり。弱ったところを食いちぎる――つもりのようだが、猛烈な速度で割り込んだベークが自らを食いちぎらせることでカンベエの致命傷を回避。
「ユゥリアリアさん!」
「つかまってくださいねー」
 ユゥリアリアはベークのおでこ(?)を掴むと猛スピードで海面へを上昇。しつつ、ベークに高度な治癒魔法を送り込んで肉体を緊急修復させていく。
「悪ぃが、ここは退いてくれや!」
 千尋の海中ムーンサルトキック。
 更にペンオルトのドリルドロップキックが炸裂。
「たたみかけろ!」
「心得た」
 レイリーは腕の装備をドリルに変更すると、キングタイラントマスの胴体めがけて打ち込んだ。
「活路を開いた。打ち込め」
 一斉にキングタイラントマスから離れ、海面を目指して上昇するレイリーたち。
 ニルは同じように上昇しながら、凍結魔法を発射。
 キングタイラントマスに直撃した魔法は傷口から入り込み、その動きをじわじわと、しかし確実に阻んでいく。
「――!?」
 キングタイラントマスは身をよじり、反転。そのまま深い海の底へと逃げていく。
「ふむ……逃した魚は大きいか。だが、それでも大漁」
 ニルたちはうなずき合い、海上へと戻っていった。





 こうして、タイラントマス漁は成功のうちに幕を閉じた。
 外洋遠征の際には海軍や協力する海賊たち、そしてローレットたちに激安価格で鱒寿司が振る舞われることだろう。楽しみが、一つ増えた。

成否

成功

MVP

ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫

状態異常

なし

あとがき

 任務完了!

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