シナリオ詳細
生贄の洞窟
オープニング
●美味い話には裏がある
「いいんですか、こんなにご馳走してもらっちゃって」
「もちろんです、旅人さん。ささ、ぐっと飲んじゃってください、ぐいぐいっと」
「あはは。いやあ、ありがとうございます。この村は良いところですね」
「これだけが取り柄、みたいな村ですからなあ。なんにもないところですよ」
村長に勧められるままに、旅人は酒を飲み干す。
うまい酒だった。
ここは、レガド・イルシオンのとある辺境の村。
旅をする傍ら、芸人として身を立てている旅人が、ふらりとここへ立ち寄った。
小さな村では、流れ者は歓迎されるときとそうでない時がある。この村は、どうやら後者のようだった。
「こういっちゃなんだが、この村にはなんにもありゃせんよ。旅人さん、どうしてこの村へ?」
「そんなことはないさ。きれいな水、美味しい食べ物、うまい酒。人を集めるのに十分じゃないか。……なんて言いたいところだが、実は旅の途中なんだ」
「と、いいますと?」
「なんでもあの『シルク・ド・マントゥール』が、幻想へとやってくるそうじゃあないか。それで俺も、ちょっとそいつを見て見たいと思ってね……」
「しるくど、ってなあに?」
ひょっこりと、小さな少女が口を出す。
「こら、お前は奥にいなさい」
「おや、お嬢さんは知らないのかい。『シルク・ド・マントゥール』というのはね……」
男は語りだす。世界各国を股にかけるサーカス団。繰り出される華やかなパフォーマンスの数々は、人を惹きつけてやまない。熱狂的な人気を誇るが、その反面。公演中にはなにかと事件が起こる、という曰く付きのサーカスである。
その話を聞いて、少女は目を丸くした。
「俺も、いち芸人としてあやかってみたいと思ってね。自分の目で見るのは初めてだ」
「そうですか……」
村長の表情が、わずかに曇った。だが、旅人はその様子に気が付くことはなかった。旅人はいろいろな出来事を語って聞かせた。
「何、帰りも立ち寄るさ。そう寂しい顔をするなよ、な」
●
夜は更けていく。
旅人はぐっすりと眠っている。不自然なほどに。若い男たちが、旅人を担ぎあげた。
村長は、わびるようにつぶやいた。
「すみませんが、これも、村のためですじゃ……」
●
耳にしたのは、水の音。
ごうごうという滝の音。
旅人は、見慣れぬ洞窟で目を覚ます。
わずかな明かり。
縛られているわけではない。だが、体がしびれてロクに動かない。
嵌められた、と気が付いたのは、少し経ってからだった。
まずい、と思った。
目の前で滝が割れる。現れたのは、双頭の蛇。
旅人は、重い体を引きずって逃げようとした。
耳にしたのは、水の音。
ごうごうという滝の音。
それが、男が最後に聞いたおと。
(ああ、最後に……見たかった……)
旅人を食らうと、蛇は満足してひと時の眠りについた。
●それから数週間後
「ここのところ、とある村付近で旅人の行方不明が多発しているのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、イレギュラーズに向かって古びたリュートを掲げた。
「手がかりは、これです。行方不明の旅人の持ち物が川に打ち上げられたのです。……旅人の友人が、ローレットへの依頼者です」
古びて使い込まれたリュート。手がかりがこれ一つとは、また難儀なことだ。
「リュートには血液が付着していたのです。なにかあったのはまちがいがないのです……。ローレットへの依頼は、こうです。『事件を調べて、友人の仇を打ってほしい』!」
仇。……定義の難しい問題だ。
「もちろん、その友人が助かってたらそれに越したことはないのですが。どうやら、そのリュートは『死んでも手放さない』と言っていたものらしいのです。一度売ってほしいと言ったけれど、断られたんだとかなんとか。……ボクは、上のほうの源流にある村が怪しいと睨んでいるのです」
- 生贄の洞窟完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年03月13日 21時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●『仇』
「さて、今回の件は、仇を探すと」
『魔導神官戦士』ダルタニア(p3p001301) の目が思慮深げに黒く輝く。
「仇を取る……なァ、嫌な予感しか感じないけどねェ?」
『星目指し墜ちる鳥』ヨダカ=アドリ(p3p004604) は、友好的でありながら真意の読めない笑みを浮かべた。
「ともかくとして、こちら的にも、色々と手掛かりが必要にはなるでしょうけどね」
美しいダルメシアンの獣人は、姿勢正しくレイピアを確かめる。
「誰か、もしくは、何が仇であろうと、月の神たる神狼(カムラウ)の名に置いて対処はさせていただきますよ」
「何が潜んでいるか……分からない村」
『彷徨たる鬼火』ウィリア・ウィスプール(p3p000384)のか細い声が静かに響く。
「不安ですが……依頼者さんの為にも。真相を……掴みたいです。調査の皆さんも……どうか、気をつけて」
●調査
「仇か。単純に討てば済む相手なら良いのだが」
『千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831) は冷静に村を一望する。
静かな村だ。
「仇を討ってくれ……か」
『特異運命座標』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630) は、冷たく流れる川の水に手を浸した。
「果てさて、どう転がるかな」
汰磨羈は、しばし水のせせらぎに耳を澄ませる。ピクリと獣の耳が動いた。
イレギュラーズは、いくつかの組に分かれ、村とその付近を調査することとなった。
二人は村には入らず、村の外から調査を進める。
アレクシアの問いかけに応えてやってきた小鳥に、アレクシアは動物疎通を使って話しかける。
楽器。旅人。来た。……こちらは仲間だろう。そして、前にも同じような旅人がやってきたのだという。
アレクシアが情報を集める傍ら、周囲を警戒していた汰磨羈が地面に布切れを見つけた。
「これは……」
血が付いている。旅人のものだろうか?
「誰か来る。村人のようだ」
汰磨羈とアレクシアは一旦身を隠し、村人をやり過ごす。
自然会話で、植物がざわめく。
洞窟。洞窟には、近寄ってはダメ。
「洞窟、か……」
●村を訪れる者たち
ウィリアの歩みに、村人は農作業の手を止めて魅入った。一歩一歩、まるで揺らめく炎のような。
「皆さんと巡礼の旅をしておりまして一晩泊めて頂けませんかァ?」
しばし呆然としていた村人は、アドリの言葉で役目を思い出したようだ。
「巡礼?」
「私たちは……巡礼の旅で、村に……立ち寄りました」
ウィリアはキャンドルトーチを掲げる。
「巡礼といっても……この村に見るところなんて、ねえ?」
「そんなことはありません。水神様をまつる祠があると聞きました」
「祠……ああ、あれか」
村人も忘れかけていたような、小さな祠。
『希望を片手に』桜咲 珠緒(p3p004426)は、予め周辺の巡礼に適した場の知識は仕入れていた。
「路銀は余りないけれど、代わりにこの音色を」
アドリはギターを取り出し、切り株に腰かけた。
のどかな風景に、ストリートビートが木霊する。美しい演奏だ。ウィリアは恥ずかしそうに、その演奏に歌を乗せる。
綺麗な歌声だ。
(ふむ)
ダルタニアは演奏に聞き入る村人の様子を眺めていた。
村人の数人が、暗い顔をしてその場を離れた。それは、演奏があまりに綺麗だったから。そして、二度と聞けなくなることを――知っていたから。
それで良い。
アドリは弦をはじく。自分たちのやることは、村の衆目を惹きつけること。
演奏が終わった。惜しみない拍手が降り注ぐ。
「私まだ詩人として駆け出しで詩のネタがあんまりないんですよォ。この地域で何か伝承とか噂だとか面白い話ないです?」
「残念ながら、何もない村でして……お恥ずかしい話ですが……」
「あたししってるよ!」
小さな少女がぴょこんと手を上げた。
「わるいこはへびにつれていかれちゃうんだよ!」
「こら!」
「ヘビかあ、そりゃァおっかないなあ」
「すみません、子供の戯言と思ってくだされ」
間違いなく緊張が走った。アドリはわざとその話を続けず、興味がないように装った。
「他に何かない?」
「それでは、川にまつわる言い伝えが……」
しばし歓談する。
「一方的にお世話になるのも心苦しいもの。何か、お手伝いできることなどあれば、仰っていただきたく思います」
珠緒の申し出に、村人は笑って答える。
「あはは、それじゃあ、野菜の収穫などをね……それでもって、今日は泊って行って、我々に面白い話を聞かせてくれるってのはどうだい?」
「よろしいのですか?」
「それはともかく、旅の途中なので、ありがたくいただく次第です」
やりとりを黙って聞いていた鳥がいた。まるで言語を介するかのように。……アレクシアのファミリアだ。
「はァい、こんにちは。ちょっと買い物したいんだけど良いかしら」
『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675) は、気さくな調子で村人に話しかけた。
「……よそへ行け」
「あら不愛想、ここは傭兵なんてお嫌い?」
「傭兵だと?」
「腕は確かよ、だから女でもやっていけてるの」
村人は手を止め、夜の体現であるかのような宵色を纏う女を見つめた。金色の目がこちらを見返してくる。
「何か困りごとがあればいつでもどうぞ、荒事は歓迎よ」
村人は何か言おうとして、止めた。
無駄だとでもいうように。
「きれいな川だ」
『虹の騎士』エレム(p3p003737) の言葉に、村の若者は照れ臭そうに笑った。エレムは地図を書き足してゆく。依頼でこの辺の地図を作りにきた、という体だ。
森番の若者は、外の世界が気になって仕方がないらしい。仲間たちが目を引き付けている間に、それとなく声をかけた。偶然にも、リノが声をかけた男の息子だった。
「外の世界はすごいな。あんたみたいなきれいな髪、見たことないよ」
ボロを纏い、極力目立たないようにしていたが、ちらちらと見えるエレムの虹色の髪が日に透ける。
外の世界の話が聞きたいという若者に、エレムは差し支えない範囲の話を語る。代わりに、村の話を聞いた。
地図を描く手が止まった。
「もう書けたのか」
「名残惜しいが、お別れだ」
「ありがとう。……あんたのことは言わないから、もう、戻ってこないでほしい」
若者の言葉に、エレムは答えなかった。
●隠された場所
「岩戸か。こんな所に人工物とは……何か、あるのか?」
川の上流をさかのぼっていった汰磨羈は、不自然な岩戸を見つけた。注意してみればわかる。
汰磨羈が見張りを続ける中、アレクシアが命の灯火を使用する。
生き物の気配。
這いずりまわる、何かの気配。――いる。巨大な何かが!
眩しいほどの命の輝き。
ファミリアを通じて聞き取った、ヘビという単語。
蛇。
何か巨大な生物がこの奥にいるのだ。
しばしその場にいると、気配は遠ざかっていった。
「大丈夫か?」
アレクシアは頷く。ふと、我に返って洞窟の前の足跡を消した。
誰か来る前に場所を離れる。
●日は沈む
夕刻。
(はあ……それにしても流石に歩き通しは身体に堪えるな……)
隠してはいるが、アレクシアの身体はそう強くはない。
調査のために村に訪れていた一行が次々と集合場所に集う。
エレムは隠しておいた鎧と武器を拾い上げる。
「生贄ねぇ」
一足早く集合場所に訪れていたリノは、沈む日を悠々と眺める。夜行性であるリノにとって、夜こそ心地が良い。
「与えられる餌に満足してるようじゃたかが知れてるわ。でもペットにするには少し可愛げがないんじゃないかしら」
「人の目から隠された洞窟があった。強い生き物がいる気配もある。おそらく旅人はそこで……」
汰磨羈の言葉に、一同は頷く。
●歓迎
「どうぞ遠慮なく」
一行は、村長宅での歓待を受ける。表向きは非常に和やかだが、どうも気ぜわしい。アレクシアのファミリアが窓辺に止まり、じ、と食べ物を見つめている。
(なるほどねェ……)
アドリはちらりとダルタニアのほうを見て、飲み物を一気に飲み干した。
ウィリアは酒を勧められたが、食べ物だけに留める。村長たちがまた何かささやき交わした。
珠緒は体が弱く、健啖に食事を行うことはできない。
ゆっくりと、少しずつ。そのしぐさに視線が注がれる。
珠緒が食事を口に運ぶ手が止まった。
「どうか、されましたか?」
「いえ、とても、美味しいです」
この味を知っている。
珠緒は知っている。元の世界で、神性ありきと認められ、儀式と言う名の投薬・実験が行われてきた。
薬の味。
おそらく、体の動きが効かなくなる。
「……」
「それはそれとして、なんだか、眠くなって……」
仲間たちが倒れていく。不自然に見えない程度に、珠緒はゆっくりと目を閉じた。
「すまんな……」
消え入るような声。
鳥が、飛び去って行った。
●生贄の洞窟
聞こえたのは、水のせせらぎ。
珠緒が真っ先に起き上がり、仲間を起こした。ウィリアの発光が、あたりを照らした。
洞窟だ。
「ふむ。こう来ましたか。村長は黒ですね。さて、麻酔薬とは、やってくれましたね。では、こちらにも考えがあります」
ダルタニアのキュアイービル。聖なる光が、仲間たちの体調不良を打ち消していく。
何かが這いずるような音が聞こえた。
同時に、近づく影があった。影はじわじわと、そして加速して、イレギュラーズに迫る。
巨大な双頭の蛇。
その名は、スイクン。
●スイクン
「双頭の大蛇……何気に、こちらに」
ダルタニアはじりじりと間合いを計る。
「まさかだと思いますけど、コレが絡んでいるのですか?? ともかくとして、コレに飲まれたってことですかね??」
珠緒が魔弾を浴びせ、一歩下がる。スイクンが口を開け、鋭い牙を覗かせた。突進でもしようかと言う勢いで迫る。
ウィリアとダルタニアへと、二つの頭が牙を振り下ろす。
「腹をくくってやるしかないねェ?」
アドリのギターの調べが仲間たちを奮い立たせる。勇壮のマーチ。ダルタニアは距離をとり、ライトヒールを唱える。珠緒も同時だった。治癒の光が洞窟を飛び交う。
「……そうですか。あなたが、今まで」
ウィリアは前衛を引かない。防御に集中し、仲間たちの合流を待つ。
時刻にして、洞窟に運ばれた一行が目を覚ます少し前。
仲間たちが運ばれていく様子が、ファミリアを通じてアレクシアに伝わる。
夜の生き物であるリノの金の目が、闇を裂き、エレムの闇光の虹眼が暗闇を見通す。
だから、迷いはしない。……こんな夜であろうとも。
村人たちが、岩戸を閉める。彼らが離れるまで待ち、こじ開ける。
「いくぞ……」
汰磨羈の掛け声に従い、岩戸を押し開いた。
一筋の光が洞窟を照らす。
金色の目。
「あらあら、不細工ぅ。こんなのに餌をやってるなんて物好きねぇ」
闇に紛れ、リノは圧倒的に素早かった。双頭の蛇をかいくぐり多段牽制を仕掛ける。二刀流のダガーが容赦なくスイクンを切り刻む。スイクンは抗おうと牙を巡らすが、あまりに素早い。
スイクンの双頭が、左右からリノに襲い掛かる。
一発はよけた。だがもう一発は食らった。傷をかき消すように、珠緒が再びライトヒールを巡らせる。
リノはいったん後ろへと下がる。
隙間をふさぐように、エレムが前に出、ディフェンドオーダーを誓いながらラージシールドを構える。
ブロックの構えをとれば、蛇の猛攻は恐れるに足りず。
「いくよォ」
アドリのギターの曲調が変化した。勇ましい曲調は、いつしか静寂のバラードへと変わる。
ウィリアのキャンドルトーチが、燃え盛る炎を上げて蛇を焦がす。
「はっ!」
アレクシアが、ミスティックロアにより増幅した魔力を思い切り叩き込む。魔力放出。純粋な破壊力が蛇の片方の鱗を傷つける。
ダルタニアのライトヒールがリノの傷を癒す。
「では、厄狩りといこう。――その素っ首、頂戴する!」
柄杖の両端に、光刃が出現する。スイクンは思わず首を引いた。だが無駄な努力だ。飛翔斬。飛ぶ斬撃が、首を思い切り切り裂いた。
狙う派、力のかかっている視点。仲間を食らおうと伸ばされた、その首。
有無を言わさぬ斬撃が、スイクンを容赦なくのけぞらせた。
次に動いたのはエレムだった。盾を構えて、一歩も引かない。
ウィリアが猛攻を加える。炎。水の、撥ねる音。蒸発する水。焼け焦げた鱗が剥がれ落ちる。ウィリアは呼吸を整え、間を置かずに炎をぶつける。
スイクンは狂乱していた。片方の頭がアンバランスに傷ついている。しっちゃかめっちゃかに頭を振り、岩肌に頭をぶつけながら、でたらめに牙を剥く。
エレムは前へ出て、片方の攻撃を防ぎ切った。リノは、かろうじて片方の攻撃を避けた。
だが、もう一撃。
ウィリアの胴体に、思い切り牙が食い込んだ。
致命の一撃。
だが。
「っ……」
それでも、ウィリアは立ち上がる。
「今まで食べた、命は……還ってきません。だから、その命……灼き斬ります」
それは。パンドラと呼ばれる力。
スイクンは困惑する。確かに、しとめたはずだったのだ。
「そう簡単には行かない次第で」
ダルタニアのヒール。また、珠緒のヒール。立ち上がる。体制を立て直す。スイクンはまだ生きている。ぐるり、と大きくのけぞった片方の頭が、ダルタニアへ。珠緒へ。
「……かはっ!」
珠緒が倒れ、また、立ち上がる。血を吐きながら。衣類を赤く染めながら。なぜ立っているのか、スイクンは理解できなかった。ただ、牙を振り下ろす。
すんでのところで、アドリがスイクンを吹き飛ばした。
衝術。
稼げたのはわずかな時間。だが、それで十分だった。ダルタニアがヒールを浴びせる。治癒の光。
横から回り込んだ汰磨羈の暗黒剣が、暗く一方の首を落とした。
半身を失い、スイクンは暴れだす。
連撃。牙の連撃。エレムは正面から受け止めた。だが、肩口をえぐられる。
エレムが退き、体勢を立て直さんとする。こんどは、リノが前衛へと。スローイングナイフを浴びせながら、戦線へと躍り出る。
アレクシアの魔力放出が、鱗を砕き、傷を広げる。
スイクンはじわじわと、壁際へ追い詰められていっていた。
「終わりだ」
待ち構えていた汰磨羈が一刀両断を放つ。
暴れまわっていたスイクンに、それを避ける術はなかった。
何人もの旅人を食らってきた双頭の巨大な蛇は、その首を失い、ぴたりと動かなくなった。
●終幕
「あんたたち、一体どうやって……!」
村に戻ってきたイレギュラーズの姿を見て、村人はざわめいた。
「知られたくないなら子供は下がらせておきなさいな」
リノはどさりと包みを置いた。蛇の首だ。
「スイクンが……」
「まさか、そんな……馬鹿な……倒した、のか?」
アレクシアは頷く。村人たちはほっとしたというよりは、呆然とした顔をしていた。
「どうして……私たちを……閉じ込めたのですか?」
ウィリアの問いかけは淡々としていた。観念した村人たちは語りだす。
蛇が住み着き、川が荒れたこと。
自分たちでは、どうしようもできなかったこと。
退治しに出かけた者が帰ってこなかったが、しかし、その間しばらく、スイクンは暴れなかったこと。
一時的でも、被害をそらす方法を思いついたこと……。
懺悔するように、村人たちは頭を下げる。
「私達は、仇討ちを依頼された。この意味、分かるな?」
汰磨羈の声は冷静だった。それだけに、圧がある。
村とスイクンの関係だと、村は被害者側。
しかし、村と生贄の関係で見ると、村は紛れもなく加害者側である。
「さて、そこにいる村長とやら、今回の案件は許しがたき事例です。わたくし達はいいですよ。でも、今回の依頼は、仇をとれって話です。さて、どうしてくれましょうかね」
「ひい……」
「どうか、どうかお許しください……!」
「やぁねぇ、悪いことしてる自覚あったんでしょ? 中途半端は止めといた方が良いわよ、オジサマ」
「ここで斬るとは言わんさ。ただ――主導者に、相応の責任は取って貰いたい」
イレギュラーズの言葉に、村長はがくりと膝をついた。
やむを得なかった事情は理解するし、特定個人を『仇』とはしない。それが、一同の方針だった。
「皆様も苦しまれたことでしょう。それを少しでも減じる為に、どうすべきか。お考えを」
「……」
珠緒の言葉に、村人はしばし沈黙した。どうするべきか。どうするべきだったのか。
「……生贄なんて出さず。次があれば……ギルドを、頼ってください」
「罪悪感だけじゃ死者は救われないわよ」
「真剣に……考えてみます。いろいろと、ありがとうございました……」
イレギュラーズたちは村を後にした。
イレギュラーズは、村人たちを裁かなかった。だが、何らかの方法で罪を償ってほしいと思う。
(……私達がもう少し強くて知名度があれば、未然に防げたのだろうかなあ……)
アレクシアは、遠ざかった村を振り返る。
(ローレットへの依頼体制構築を勧めなくてはなりませんね)
珠緒はローレットへの意見書をまとめた。
……のちに、イレギュラーズは「村の代表らほか数名の首謀者がギルドを訪れ、いままでの所業を告白した」という話を聞くことになる。
村人たちは公に罪を認め、旅人たちを弔った。
一番新しい墓の前に、依頼人は立っていた。
「俺のところにも、村人が会いに来たよ。あいつの仇をとってくれて、ありがとう。そうか、あいつは……やっぱり……そうだよなあ」
仇を討てと言いつつも、生きていてほしかった。依頼人は寂しそうに笑い、墓にリュートを供える。しばし黙祷して立ち上がり、思い出したように。
「そうだ、もしよかったら一曲弾いてもらえないだろうか。あいつはなんたって、歌が好きで……」
美しい声と、ギターの演奏が響く。
鎮魂歌(レクイエム)。
もう二度と、あの村で生贄が捧げられることはないのだ。もう二度と。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
イレギュラーズのみなさま、お疲れ様でした。
この依頼がどのような結末を迎えるのか、私自身とても楽しみにしておりました。
素敵な冒険を、どうもありがとうございます!
またいずれ、機会がございましたら、ご一緒いたしましょう。
GMコメント
●成功条件
仇を撃つ。
(最終的な目標は『スイクン』の討伐。)
●場所
源流の村……川の恵みを受けて生活する辺境の村。
いつしか川に棲みついたスイクンに恐れをなし、定期的に旅人を生贄に捧げるようになった。歓待する村人たちはにこやかだが、この風習に懐疑的なものはむしろ、旅人に冷たく、「早く帰れ」と言うのみである。
また、幼い少女など、村人の中にはこの事実を知らないものもいる。
洞窟……スイクンが住み着いている、村の少し上流にある。水が流れている。出入口は一か所。
とれもキレイな場所だ。
大まかにぐるっとロの字になっており、スイクンは中を徘徊するか、奥まった滝の裏で寝ている。この洞窟から流れ出る川が村へと注いでいる。
●登場
スイクン……狂暴な双頭の蛇。動きは遅いが、連撃が厄介。奇しくもイレギュラーズがやってきたときに活動期となる。
●展開
・過度に怪しまれるような行動をとらない限り、村長一行に歓待される。
食べ物と酒で、食べ物のいくつかには痺れ薬が入っている。
行動不能になれば、夜のうちに洞窟に放り出され、岩戸を閉められる。岩戸は何人かで協力すれば開けられる。
独自に調査して、直接洞窟に向かっても構わない。
・もしもあからさまに調査しすぎ、疑う様子を見せれば村長は若い衆に見張らせ、牢獄(といってもそんなに堅牢なものではない、地下牢)に閉じ込めようとする。
村長たちをはじめとする村の有力者は、イレギュラーズを捕らえた場合、処遇をどうするか揉める。そのうちにスイクンが目覚め、村へと降りてくる。
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