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シナリオ詳細

<青海のバッカニア>遊興遊戯の果ての果て

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●うろこ諸島八家紋
 ネオフロンティア海洋王国二十二年ぶりの『大号令』をうけて、諸島各地の海洋貴族たちが次々と名乗りを上げた。
 むしろ国家規模のお祭り騒ぎに乗じなければ海洋民にあらずとばかりに、様々な貴族が外洋遠征に大小様々な支援や直接的参加をはかり、今もその準備に大忙しである。
 そんな中。
 『うろこ諸島』の貴族たちの間である問題が持ち上がった。

 漆の塗られた高級なかごが並ぶ。
 瓦屋根の建物にはいくつも提灯がさがり、五人の老若男女たちが車座になって集まっていた。
「甲羅戯殿、やはり貝塚殿とは連絡がとれませんかな」
 胸に『海老名』の家紋をつけた羽織を着て、座布団に腰掛ける黒髪の老人。
 呼びかけられた『甲羅戯』なる家紋をつけた緑髪の老人はゆっくりと首を振り、手にした煙管で灰皿を叩いた。
「貝塚は治世に長けた一族。現当主のミチサダも例にもれず民を治めることにかけては我ら八家紋の中でも随一。こたびの大号令に加わらぬはずがありますまい。
 まして、我らの招集にすら応えぬことなど……。鰺ヶ沢、糸魚川、お主らはどう思う」
「剛毅で奔放な燕黒家ならばいざしらず、貝塚ならば必ず我らに報を返すはず」
「然様。大乱の際にもわざわざ反乱を起こす旨を書面にしたため我らに配ったほどだ。彼に限ってドタキャンなどありえぬよ」
 背広の紳士と仮面をつけた鎧武者がそれぞれ応えた。
「ならば、調べるほかあるまい」
 『欧鰐』の家紋をのせた長い白髭の老人が、誰よりも威厳のある声で述べた。
「ではどの家に」
「我らはいつでも」
「諜報ならば劣りませんぞ」
「八家紋を守護するはわが一族の務め」
「欧鰐大老――!」
 集まる注目。
 欧鰐はゆっくりと開いた扇子を、音を立てて閉じた。
「燕黒に。いや、ローレットに行かせよ」
「「――!!」」
 集まった物たちに緊張が走った。
 燕黒一族といえば八家紋の中でも裏仕事を仕切る極道一家である。
 そんな彼らに向かわせるということは、つまり……。
「貝塚の身に、なにか物騒なことが起きたと……そうお考えなのですな?」
 場の言葉に、欧鰐はただ黙って頷いた。

●貝塚家領島の暴動
「海洋の南に位置する貝塚島は、貝塚一族が治める島なのです。
 平和で治安もよく住民は穏やか。漁業と農業を中心とした産業で自給率も高いのです。
 統治者である貝塚ミチサダは領民からの信頼もあつく周辺諸島の中で最も良好な関係を気づいていたと言われています」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は資料をぺたぺたとボードに貼り付け、そして振り向いた。
「そんな土地で、全住民によるクーデターが起きたのです」

 船に集められたのは燕黒 姫喬(p3p000406)を始めとするイレギュラーズ。
 向かう貝塚島へむけ、船は進んでいた。
「得られた情報はわずかなのです。
 貝塚ミチサダの兵はみな殺され、ミチサダも屋敷の中で囚われているということ。
 そして住民たちが農具や粗末な武器で武装して、屋敷を取り囲んでいること。
 その二つだけなのです。
 けど、この二つから重要なことがわかるのです。これは――」
「ああ、これは――ただの農民一揆なんかじゃあないわ」
 姫喬が、刀の柄をトンと叩いてギザギザの歯を見せて笑った。
「貝塚の兵ってのはなにもオモチャの兵隊じゃあないんだ。ちょっと民が武装したくらいで皆殺しになんてされやしないのよ。
 しかもそこまでやっておいて外部に要求らしい要求も出してない。
 『調べに来てくれ』と言ってるようなものね」
 このクーデターは罠である。と、姫喬は言っているのだ。
「もしかして、武装した民っていうのは全部男性じゃあなかった?」
「確かに。偵察の際には女性の姿はひとりも見られなかったのです」
「なら、決まりね。彼らは一揆を起こしたんじゃない。『起こすように命令された』のよ。
 それも、こんな回りくどいことがダイスキな連中に、ね……」
 姫喬には、どうやら思い当たる相手がいるらしかった。
「けど、あたしが想像してる通りの人物が関与してるかどうかはまだ分からない。
 結局はこのミエミエの罠に、こっちからかかってあげなきゃあならないのよ」
 何が出るかは、開けてみてのお楽しみ。
 姫喬は船の行く先へ振り返り、目を細めた。

GMコメント

●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

■依頼内容
 この依頼の内容は『貝塚領一揆事件の真相を突き止めること』です。
 皆さんは調査をすすめる上で、これがただの農民一揆ではないことと、その裏に何者かが関与していることを突き止めました。
 実際になにが出てくるかは、突入してみなければわかりません。

 建物は大きな日本家屋に近く、周囲の民衆は農具その他で武装していますが戦闘能力はあまりありません。

■【突入前半部】
 武装し、死にものぐるいで襲いかかってくる農民たちの中を抜けて貝塚屋敷へ突入しなければなりません。
 最も簡単な方法は、範囲攻撃等を使って農民たちをひとり残らず殺害することです。二度とじゃまになりません。
 そして若干難しいのが、【不殺】属性のついた攻撃で全員倒したり、【怒り】を確実に付与してひきつけ続けたりすることです。
 最も難しいのが、彼らが死にものぐるいで襲いかかるのを説得によってやめさせることです。一人ずつ呼びかけたり足を止めて話したりする余裕は全く無いので、集団に対して威勢と威厳でぶつかるほかないでしょう。
 ※事前にこれ以上の背景を調べたりする余裕はないので、大体ぶっつけになります。

■【突入後半部】
 領民たちは何者かによって一揆させられているようです。
 どんな手段を使ったにせよ、それだけの強制力をもちうる存在が背後にいることになります。
 また、貝塚屋敷の兵隊を皆殺しにできるだけの戦力が、屋敷の中に隠されていると見るべきでしょう。
 このパートでは三つのことに注意して勧めてみてください。

・戦闘能力不明の集団といかに戦うか
・奇襲や騙し討に警戒できるか
・貝塚氏を生きたまま取り返せるか

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • <青海のバッカニア>遊興遊戯の果ての果て完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月05日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
燕黒 姫喬(p3p000406)
猫鮫姫
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
シラス(p3p004421)
超える者

リプレイ

●うろこ諸島八家紋、貝塚領島
 近づく島の港にはまるでひとの気配がなかった。
 ファミリアーによる事前偵察結果によれば、島の住民は(男だけが)領主貝塚ミチサダの屋敷を囲むように配置され、皆農具や粗末な武器で武装しているという。
「なるほどな。農民一揆って割には配置が作為的だ」
 港に船をつけ、桟橋へと降り立つ『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)。
 ここが貝塚の領地であることを示すように、三枚帆立の家紋旗が港にはためいている。もし農民が領主貝塚の統治を破ろうと考えたなら、こうしたシンボルを徹底的に破壊するのが常套。そうでなくとも、島外からの軍事的介入を警戒して港に人員を割くのは当然のはずだ。
「来てくださいと言わんばかりだな」
「姿を見せない黒幕か……厄介な相手だ。一刻も早く黒幕を追うべく、情報を集めなければ」
 『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は船からのびたロープを柱にかけ、腰の剣に手を添えた。
「仕組まれた一揆に、正体不明の敵勢力ですか?
 いいですね。どんな物語になるかとても楽しみです」
 いつの間にか船を下りていた『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)が、風に揺れていた木製の安楽椅子に腰掛ける。
 なにがいるかわからない。
 しかし確実に何かがいる。
 ……とはいえ、一切ヒントのない状況とも言いがたかった。
 貝塚は農業と漁業を中心とした産業でうろこ諸島の八家紋に数えられている名門貴族である。ほかの貴族からも信頼があつく、為政者として信頼があるということはつまり、簡単に一揆が起こるような政治を日頃からしていないことをさす。
 そんな場所で一揆が起これば、島外から調査に訪れないわけにはいかない。
 さらに、貝塚の兵隊が皆殺しにされた上、わざわざ『突破しなければならない脆い壁』として農民たちを屋敷周囲だけに配置しているのは、調査の意図……ないしは調査を行う人間たちのスタンスを計る意図があるように見えた。
 武装した部隊が送り込まれることは必然であり、立てこもっている以上戦闘状況は必至。
 しかるに……。
「余程、腕に自信があるのでしょう。
 悪辣な招待状ですが、楽しみでもありますね。
 それ程に強い相手というのは、そそられますから」

(貝塚様はご無事なのでしょうか。
 状況が不明な点が多く、不安で御座います。
 ですが、蓋を開けなければわからないこともありますから、例え不安だからといって向かわない理由にはなりません。
 例え何があろうとも奇跡を起こして魅せましょう)
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は念のために警戒をしつつ、貝塚屋敷までの道を歩いていた。
 拳をごきごきとならす『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)。
「しっかし盾になるのが一般ピープルどもか……やれやれ、踏み潰さねえように気をつけなきゃなぁ」
「領民達をばたんきゅーさせた後、正体も戦力も不明の敵と戦う……。
 大変だけど、誰かが亡くなって悲しむ人が少しでも減るよう、レーさん頑張るっきゅ!」
 腕をふってみせる『二心?二体っきゅ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)。
 彼らは基本方針として、貝塚屋敷を守る農民たちを不殺攻撃を中心に強制鎮圧し、素早く屋敷へ突入するという作戦を立てていた。
 (この選択をとった後に屋敷内部は慎重に警戒しながら一丸となって移動する作戦をとっていたが、それがどう影響するかは後に実地で述べることとする)
「ま、依頼されたからにゃあおつとめは果たさなきゃあね」
 刀をがちんと噛むと、『猫鮫姫』燕黒 姫喬(p3p000406)はうろこのように光る刀身を振り上げた。
「さぁさぁ正体不明の誰かさん? 燕黒の当主が邪魔するよ! 祭は終いさぁ!」

●人の命の使い方
「HAHAHA――さぁて、と」
 空想してみてほしい。
 もし遠くから少数の人間が徒歩でやってくるとして。
 こちらは顔を見知った数十人の仲間がおり、殴れば血が出そうな堅い棒や長い刃物を手にしているにも関わらず、つい自分の足が後ろにさがってしまうとしたら。
 相手の顔が、目が、足取りが、一切の躊躇もミスもなく、まるで放たれた弾丸が突き刺さるさまのように、貴道というひとりの男が自分たちの頭蓋骨を拳で粉砕すると確信できたとしたら。
「ヒッ――!」
 本能的に声をあげた若者が、またも本能的に草刈り鎌を突き出したその途端。
 圧倒的なフットワークで距離をつめ、鎌による攻撃が不可能な肩側へ回り込みながらも方向を整え、突き出した肘だけを――貴道はピンポイントに殴りつける。
 それだけで若者の腕は曲がってはいけない方向にへし折れ、骨が露出し、悲鳴をあげてその場に崩れ落ちた。
「ギブアップはいつでも受け入れるぜ? まったく……ミーも気をつけるが、頼むからうっかり死なないでくれよ? HAHA……」
 『歯だけ』で笑ってみせる貴道。
 圧倒的暴力によって、周囲の人々は攻撃そのものを躊躇した。
 そこへ、あまりにも当然のように四音が飛び込み、農民たちの間を駆け抜けていく。
 まるで自らの肉体に一切の興味が無いかのごとく、草原で蝶を追う少女のようにほがらかな笑顔をはりつけたまま、『さあいつでもどうぞ』といった具合に農民たちに手招きをした。
 彼らの振るまいから、踏んだ場数の違いを思い知る。
「私達の実力やあなた達を死なせたくない心情は戦ってみてある程度理解できたはず。
 ここで味方同士、無為に争うのは止めませんか?」
 ここは混沌。たとえ異世界の大魔王だろうが小学生だろうが同じところから始まり同じだけ強くなれる世界。ある意味で平等な世界。だが、それゆえに埋まらない差が生じる世界でもあった。
「頃合いね」
 姫喬はあえ刀を鞘に収めると農民たちめがけてかけだした。
「燕黒の当主、姫喬! まだやる気なら、かかっておいで!」
 屋敷へ近づく彼女を阻むように、農民たちが立ち塞がる。
「や、やめてくれ燕黒さん。いくらアンタでもこの屋敷に近づくのは……」
「へえ、それはどうして?」
「い、言えねえ! そんなことは!」
 乱暴に振り込んできたクワをかわし、姫喬は相手の手首をとった。
 さらには足を払い、地面に叩きつける。
 と同時に、雪之丞が跳躍によって彼女たちのうえを飛び越え、農民たちの中央へ着地。
 パチンと絶妙なタイミングで柏手をうつことで注意を引きつけると、自らにつきつける長い木製の棒に囲まれた。
 いわゆる蛇を追い払うための用心棒だが、そんなもので武装しなければならないほど、彼らは戦いになれていないようだ。
 ゆえに、一斉に突きをくらっても雪之丞はまるでかすみのごとくそれらを回避し、農民たちの間らゆらゆらと踊り続けることができた。
「これ以上やるなら、無事では済まないでしょう。
 もし、助けたい方々がいるなら、武器を下ろしなさい。
 下ろさぬなら、この先、向かってくる者全て敵と処断します。
 それが例え、村の女でも」
「女……」
 『村の女』というワードに敏感に反応したところを見て、リゲルが猛烈に斬りかかった。
 彼の抜く剣のスピードについてこれる農民など一人とていない。気づいたころにはほぼ無防備に胴体を切り裂かれていた。
 ――否。
 切り裂かれたと思ったのは彼らの霊体のみであった。意識だけを切り取られ、気を失って倒れる農民たち。
「女子供が……家族達が人質に取られているのか? 俺達が助けてくる。
 だから今は、命を大事にしてほしい」
「そ、そんなもん! しんようできるわけが……!」
 半狂乱になった男がつかみかかるが、レーゲンがMA・Bを発射。
 魔力をみなぎらせたレーさんをグリュックの腕力で投擲。ため込んだ魔力が解放され、ぱちぱちと線香花火のようにはじけたことで村人たちは意識を失い、次々に倒れていく。
 そこへ駆け寄る幻。
「現在、貝塚様はどういう状態か分かりますか。
 敵はどういう攻撃をしてるか教えて頂けますか。
 敵は何人ほどなのでしょうか。
 敵は何か兵器を持ち込んでいるのでしょうか」
 早口に質問をしてみたが、村人は質問に対して拒絶の反応をみせた。
 恐怖や弱みによって支配されている人間のみせる反応である。
 時間をかけて彼らの心理状態を和らげるなどすれば聞き出すこともできたかもしれないが、状況がそれを許さないようだ。
 この場に時間をかけている余裕はない。という、作戦である。
「ま、行くなと言われても俺らは行くし、危険だと言われても行くのはやめねえ。
 要約すると――『邪魔はするな』」
 シラスは魔力銃を発生させると、門前に固まった村人たちめがけて連射。
 連射しつつ突撃し、銃撃を食らって崩れ落ちようとしている村人の肩を踏み台にして跳躍。
 集団の背後へ着地すると、慌てて振り返る彼らにさらなる銃撃を浴びせた。
「安心しな、『峰打ち』だよ」
 銃弾で峰打ちとはおかしなことをと思うやもしれないが、彼の言うとおり銃弾は彼らの肉体を切り裂くことなく、平面的な衝撃だけを与えて気絶させていた。
「おしゃべりしてる暇がないわけじゃあなさそうだが……?」
「いえよしましょう」
 幻が首を振った。レーゲンへと振り返る。
「貝塚さんや中で待ち構えてる敵が気になるっきゅ」
「その通り」
 姫喬は今度こそ刀にてをかけると、目を細めた。
 恐怖で人を支配し、まるで試すように配置する。
 いざとなれば彼らをミンチにして突き進んだかもしれない現状を考えて、『ある顔』を脳裏に思い浮かべた。
「遊興……ね。この悪趣味な感じ、覚えがあるねぇ」

●骨の鳴る音
 農民たちを倒し、屋敷への侵入を果たした四音たち。
 島ひとつを領地とする貴族だけあって屋敷は広く、正面玄関から入ってはみたがまるで迷路のように入り組んでいた。
「余所からの襲撃にそなえた設計、といった所でしょうか……」
 このうちのどこに貝塚氏がとらわれているかわからない。
 というより、この屋敷の中に相当な実力者が集団で存在しているという予測のもと、彼女たちは動いていた。
 そしてその予測は、おおむね正解であった。
「もし、あなた。助けに来た八家紋の方では」
 後ろ手に拘束された使用人の女性が小さく声をかけてきた。
 す、と手をかざして警戒の構えをとる四音。
 女性はこちらの中から姫喬の顔を見ると、『燕黒のお姫様!』と声をあげた。
「やっぱり、八家紋の方が来てくださったんですね。突然島の皆さんに襲われてわけもわからず……」
 敵意は感じられない。が、巧妙な偽装の可能性もかんがえて四音は慎重に近づき、おかしな動きをしないようによく観察しながらけがの手当をすることにした。
「敵が混じっているかもしれません。拘束を解くことはできませんが――」
 と、そこまで述べたところで、天井を抜け色黒の巨漢が降下してきた。
「暗所に隠れていたか……!」
 剣を振り込もうとしたリゲル――よりも早く男は接近。
 目を奪われるほど美しく素早いフットワークで至近距離に立つと、最高のフォームで絞った拳をリゲルの顔面へ……。
 たたき込もうとしたその瞬間、横合いから貴道の手が伸びた。
 男の顔面を掴み、強引に押しのける。
 男とともに障子戸を破って中庭へ転がり出ると、『先へ行け!』と鋭く叫んだ。
「こいつは一人で出てきた。つまりは足止めだ。ってことは――」
「貝塚氏が危ない!」
 走り出すリゲルたち。
 リゲルは目をこらして屋敷の壁を透視していく……が、そのなかで使用人の女性と同じように拘束された子供の姿を発見した。
 幼い少年である。身なりがよく、三枚帆立の家紋がはいった和服を着ていた。
 走りながら仲間たちに相談するリゲル。
「あの壁の向こうにある大部屋。この家の子かもしれません」
「救出いたしますか?」
 幻が問いかけてくる。暗に『無視して通り過ぎるか?』と訪ねたのだが……。
「センサーには助けを呼ぶ声があちこちから聞こえるっきゅ。全部助けていたらキリがないっきゅ」
「しかし家の子なら貝塚氏の連れて行かれた場所がわかるかもしれません。偽装の可能性は?」
「巧妙に隠してたらわからないっきゅ。けど近くまで行けば……」
「決まりです」
 通路を回り込み、戸を開いて部屋へと押し入るリゲルたち。
「おじさん、たすけて! ひどいんだあいつら、はやくこの痛いのを解いてよ!」
 こちらを見るなり、子供が呼びかけてくる。
 が、しかし。
 子供がこちらに見えない位置で武器を抜いた音をレーゲンは鋭く察知した。
「敵だっきゅ!」
「こっちもです!」
 気配そのものを消して身を隠していた女が、押し入れの戸を開いて飛び出してくる。
 幻をガードするように立ち塞がるリゲル。そして戦闘態勢にはいる幻とレーゲン。
 飛びかかる少年に、目をこらす。

 敵が小出しに襲ってくる。
 これらを各個撃破すればこちらの被害は抑えられるが、それでは達成目標であるところの『貝塚氏の保護』が達成できない。
「まぁ、貝塚は切欠さぁね。役割終えたって殺すつもりだろうしねん」
 ギザついた歯をみせて笑う姫喬。
「農民への対応で、貝塚を人質にする価値もないと判断したろうし、今頃処分を始めてる頃かな」
「それを阻むには、『そうしている場合ではない』速度で駆けつけるのみ」
 いつでも戦えるように構え、全速力で走る雪之丞とシラス。
 姫喬は貝塚がいざとなったときに逃げ込むであろう隠し通路を見事に探り当て、隠し部屋へと乗り込んでいく。
 そして。
「早かったな」
 四つん這いの状態で拘束された貝塚を椅子にして座り、キセルで煙をふかす男。
 胸の家紋で、姫喬はすぐにわかった。
「八十神……劫流」
「姫が一人釣れれば上等と思っていたが。存外、面白くなりそうだ」
 八十神の手から燃え上がる炎。
 シラスと雪之丞は、本能で危険を察知した。

●死闘、化骨衆(かこつしゅう)
 猛烈なパンチが互いの肉体を粉砕する。
 黒人ボクサーの腕がへし折れ、貴道の肩がおかしな方向に曲がった。
 鍛え抜かれた彼の肉体を破壊できるだけのパワーが、相手にあると言うことだ。
 骨が露出するほどの痛みを、しかしアドレナリンで吹き飛ばす。
「貴道さん!」
 一方で四音は自らの皮膚からカラフルな菌を湧き上がらせると、貴道の傷口に浸食させ無理矢理肉体を補完していく。
「この俺様にこんな面倒な真似させやがって……何処のどいつだか知らねえが、殺すっ!!」
「気が合うなァ、タフガイ。アンタも誰だか知らないが、ここで死ね!」

 一方、レーゲンと幻は部屋を立体的に跳ね回りながら次々と銃撃をたたき込んでくる少年の攻撃を、奇術『夢幻泡影』の反撃とレーゲンのメガ・ヒールによって迎撃していた。「へー、すごいすごい。お姉ちゃんたち強いじゃん。サメにーちゃんが釣り糸垂らすわけだよねー」
「まことまこと」
 クスクスと笑いながら銀色うろこ状のボディスーツに身を包んだ女が忍者刀で斬りかかる。
 リゲルはそれを輝く剣で打ち返した。
「一体何が狙いだ。領民を盾にしてまで我々を誘い出すなど……」
「狙い? しれたこと。この世界で唯一愉快に生きられるもののため。ただひとつ笑って死ねるもののため。それは――」

「『遊興』」
 ギリ、と歯を食いしばり八十神は青い炎を解き放った。
 巨大なサメが食いちぎるかのように部屋の壁をえぐっていく炎。
 雪之丞はそれを真っ向から切り裂き、その勢いのまま八十神へと斬りかかる。
 が、雪之丞の剣は八十神の握ったキセルによって止められた。
 と同時に、彼が先ほどまで椅子にしていた貝塚が起き上がり、どろどろと人相や体格を変化させていく。
「チッ、やっぱニセモンかよ!」
 その可能性を予測していたシラスは素早く銃を向け発砲。
 偽貝塚の突き出した魔銃と弾が交差し、互いの胸に直撃した。
 さなか、まっすぐに突撃する姫喬。
「さあ踊ってやるさ。言葉で足りねぇってんなら、あたしの胸でも刺してきな!」
 八十神の手刀が姫喬の身体に突き刺さり、一方で姫喬の刀が八十神へと突き刺さる。
「いっひひ!!」
「ククッ……!」
 両者目を見開き、そして同時に飛び退いた。
「面白い。面白い。『話に聞いていた』よりずっとだ」
 そうつぶやくと、八十神は背後の壁を破壊して撤退を始めた。
「この遊技場は狭すぎる。いずれ会おう、ふさわしい盤の上で」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――完了報告
 八十神劫流ひきいる武装集団はほとんどの痕跡を残さずに撤退。
 しかし地下倉庫に生きたまま隠された貝塚の背に『化骨衆(かこつしゅう)』という文字が刻まれていました。

 貝塚氏および領民の生存が確認され、ローレットは八家紋からは高く評価されました。

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