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シナリオ詳細

<青海のバッカニア>昏い海の底へ往く者達

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●良き報せの中で

 ――「号外号外! 遂に来たよこの時が、あの絶望の青を征服する時が!」
 ――「王国大号令だって、先代に続いて我が家もいよいよ――」
 ――「船長! 王宮から召喚令状が!」
 ――「例の私掠船の話か、当面は忙しくなるな」

 ……かくして。海洋王国が発した大号令の声は瞬く間に民へと広まった。
 若き日の、或いは幼き日に懐いていた浪漫譚に自らが立つ。多くの者はその機会に巡り合わせた事に歓喜し情熱を立ち昇らせるのだった。
 海洋国民ならば皆が青き水平線にその思いを馳せる――そんな最中、沸き立つ雑踏を往く黄衣の男は一人、後暗い思いを抱えずにはいられなかった。
(なんということだ。何故こんな時期に被さるというのか、やはり我等が信仰せし海底に住まう御方の意志だとでもいうのか)
 音も無く、男は滑る様に路地の闇へと消える。
(嗚呼、だが哀しいかな。我等が定めたるは命の期限。今更それを覆せよう筈もない……)
 急ぎ準備を進めるしかない、そう小さく呟いた。

●海底信仰
 応接間へと通されたイレギュラーズは依頼担当の騎士と面会していた。
「集まって貰った事に感謝するよ、私は首都近海警備隊員のアルスだ。
 君達に依頼したいのは他でもない――数日後、この首都の近海で人が大勢死ぬのを食い止めて欲しいんだ」
 人が大勢死ぬ。その言葉にイレギュラーズは何事かと目を丸くさせる。
 まずはこの国で起きている事について少し語ろう、と彼は言った。

 現在の海洋王国では22年振りに女王より発された大号令により国中が大きく動き始めていた。
 諸島に散っていた有力な貴族や私掠船を含めた船団の長達は勿論、この期に乗じた商会もまた交易船を通じてコンタクトを取っているのだ。
 当然ながら大いなる進攻に向けて近海掃討の類にも力が入っている――のだが。
 ここで時期の悪い事に、妙な集団が事を起こそうとしている情報が入ったのである。
「『海底信仰クズリュウ』、聞いた事はあるかい?
 旅人の一族から生まれた男が教祖となり、その名の通りこの世界で【絶望の青】の域とされている深海にカルト的信仰を寄せている教団だ。
 けどカルト教団といっても彼等は邪教じゃない。主に長命な海種を中心にした集団で、昔から彼等の目的は『自らの永き命刻を有限とする事で、残った時間を海の底に住まう神々へ捧げる』というものなんだ」
 自らに寿命を定める……その意志は行動や精神にも影響すると騎士アルスは語った。
「彼等はそれさえなければ地元民とも上手くやれている。町の美化に協力したり慈善事業としてスラムへ足を運んだり、時には魔物を駆除して町に貢献している事もある。 
 正直個人的には彼等には死んで欲しくないというのが本音だよ」
「命を深海に捧げるとか、寿命を定めるとか……まさか数日後に人が大勢死ぬって……?」
「そうだよ、"彼等が死ぬつもりなんだ"」

 つまり海洋警備隊、特に首都港湾に船団を抱える海洋貴族からすれば。これから控える大イベント前に訳のわからない連中に死なれるのは縁起でもないという話らしい。
 しかし同時にクズリュウを知る者からすれば、それだけではないのだ。
「難しい話かも知れないが、私達近海警備隊が捕らえようとして抵抗されれば戦闘は避けられないんだ。
 魔物を駆除している、と言ったろう。あの教団の幹部は教祖から魔術を習い受けていてね、並みのゴロツキ集団より強い。加減ができなくなる可能性がある。
 だからせめて、この手のややこしい状況に慣れた君達ローレットが適任じゃないかと思ったんだ」
「加減を求めているという事は、やはり全員生け捕りにしろと?」
「やり方は任せるつもりだ。彼等の多くは長命な海種だからね、よほど酷い攻撃を加えなければ幹部以外を巻き込んでも君達なら可能じゃないかな」
 騎士アルスはイレギュラーズの前で頭を下げる。

「……これは彼等の為とは言うが、言ってしまえばただのエゴだ。でも、それでも。私は彼等のような存在が失われるのは大きな損失だと思うんだ。
 だからこの依頼は半分は私の我が儘になる。どうかお願いだ、せめて戦闘員である幹部だけでもどうにかしてくれれば最悪後は我々が捕縛に動いても良い。だから……」
 その続きは、イレギュラーズが聞いた通りだ。
 君はこの依頼を受ける事にした。

GMコメント

 地獄からこんばんは、ちくわブレードです。
 イケナイ物を信仰するピーポーをキャッチするミッションです、宜しくお願いします。

 以下情報

●目標
 海底信仰『クズリュウ』の幹部の無力化orクズリュウ信者全員の捕縛

●ロケーション
 海洋首都近海。時刻は推定深夜になります。
 相手の目的と手段は半ば儀式的であり、大仰に見せかけた集団的身投げですので、刺激しないように接近時の策を講じる必要があります。
 水中または水上での戦闘に適したスキル等があると作戦時に効果がありそうです※

●エネミー
 約二十名に及ぶカルト信者達が近海で身を投げる事で海域を汚染するつもりのようです。
 此度の海洋王国が発した大号令と奇しくも重なってしまった彼等の奇行を止める為、特定の【教団幹部】を捕縛して下さい。
 クズリュウの信徒達は数人ずつボートで分かれ、円を描くようにして海上で儀式を執り行います。
 このボートの中に数人の幹部がランダムに配置されており、皆様の妨害が露見した後でゲリラ的に襲撃してきます。
 恐らく戦闘になる事が予想されますので適宜対応を求められます。

 【クズリュウ信者】×12名
 ・銃撃(物近単・低命中)

 【クズリュウ幹部】×8名
 ・水中親和(パッシヴ)
 ・神秘の蔓(神中貫・飛)
 ・神秘の癒し手(自域・HP回復)
 ・緊急通信霊装(エネミーを一体だけ追加・全エネミー中使用できる回数は一度のみ)

※本シナリオに限り、『水中及び空中戦闘におけるペナルティ』を暗視等の対策がされていれば各種機動力10%減のみ。
 暗中での水中・空中戦闘には回避命中防御に大幅な-補正。

☆戦闘以外にも各スキルやアイテム等の使用、その他作戦で状況は大きく変わるのでお試しあれ。

【!】海洋警備隊
 最低でも幹部を戦闘不能にしてくれれば残りの信者の捕縛に動く事も出来るとの事。
 皆様の内一名でもプレイングに【警備隊要請】の文字があれば自動的に動きます、後は状況に応じて参戦後捕縛に動きます。

 『海洋警備隊員』×12名

 以上。

 そんなに暗いお話ではないのでちくわで殴りに行く気持ちでご参加下さいませ。
 特異運命座標の皆様のご参加をお待ちしております。

●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

  • <青海のバッカニア>昏い海の底へ往く者達完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月30日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
武器商人(p3p001107)
闇之雲
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

リプレイ


 海底信仰『クズリュウ』――その名を『名乗りの』カンベエ(p3p007540)はよく知っていた。
 海洋王国は比較的温和な人種が多く、政争を繰り広げていると言えど『マイムマイムしてる』と称される程度には穏やかな国家である。しかし、そうした国家の中にも人々の心を手繰る物が居るのも自明のことである。
「クズリュウねぇ。我(アタシ)が聞き及んでいるモノと同じであればだいぶロクでもないカミサマになるが……」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)は海底信仰を否定す頃はできないと口にした。
 そう、その成り立ちが一人の旅人から出あれど命の物差しが他人と――特に、海種と飛行種という二種が共存するこの国では顕著だ――違うという事は海種たちにとっての精神の基盤を揺るがす事であっただろう。自分だけが世界に取り残される感覚は武器商人の言葉を借りれば『寂しい』のだ。
「レーさん元聖獣で崇められる方だったから信仰は理解できないっきゅ
 でも永く生きてて……他者に置いて逝かれる悲しみは知ってるっきゅ」
 ぎゅっとアザラシを抱き締める仕草を見せた獣人、『二心?二体っきゅ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)は異世界では護り神として過ごした過去を思い返す。神様というのは『縋られる』べき存在であり、そうした信仰に対しての理解をレーゲンは持ち合わせていない。
「思想自体は理解できないというわけでもないのだけれどね。
 でも、やっぱり人の見えるところでするのは迷惑だし……やっぱり、死んでほしくはないもの」
 信仰者を否定する事なく、そして一定の理解を示しながらも『斜陽』ルチア・アフラニア(p3p006865)はその行動に嫌悪を示した。

 ――長き命に『期限』を与え、その『先』は海底に住まう神々へと捧げる――

 そう、その思想というのは良く或る宗教感なのだ。しかし、其処に付随する行動が常人には理解できなかった。
 命を捧げる。そう、それは『期限の来た命を海へと投げる』、自死するつもりなのだ。
「ある所では自害は他殺よりも重い罪が課されるらしいのう……。
 それが正しいかどうかはわしにはわからんが、それが誰かの心を痛めるのなら良い事ではないのかもしれんな」
「はい。信仰は自由であり、行動に意味を与えるのもまた信仰なのかもしれませぬが、他人に迷惑をかけるのは頂けませんね」
 穏やかに黒き海を見遣った『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)に『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)は頷いた。海底と聞けば彼女の記憶にあるのは昏き底で踊っていた魔種の姿。
 チェネレントラ、とその名を口にして。この深い海にはまだまだ知らぬことが沢山あるという事をいやという程認識された。
 ふと、『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は思い返す。何時かの日、黄衣をその身に纏っていた青年。あの日、『クズリュウ』の代表者だと名乗った彼は――そうだ、あの時も人の命の傍にいたではないか。
「……ヘイワ的に解決出来れば良いんだけれどね」
 平和的な解決か、と『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)は口にする。博識なる彼にとっても『クズリュウ』の宗教観や儀式作法にまで精通している訳ではない。
「ふむ。……儀式というからには相応の作法があるのだろうが……それが妨害出来るものなのであれば楽なのだがな?」


 昏き海の上にてその命を絶つ儀式を続けているクズリュウの許へと船へと乗り込んだ特異運命座標が息を潜めて向かった。黒き帆は夜の闇に紛れる様に。鮮やかな陽の色の髪を黒いフードで隠したルル家は『忍者』らしく息を潜めた。
(あれが――クズリュウでありますか)
 ルル家の傍ら、マーマデュークに誘導してもらいながら進んだ武器商人は『こんなこともあろうかと!』と船の底で待機するシグの様子を伺った。
 その身体を剣と化したシグは海中に適する技能を所有しない事から最短での行動を強いられていた。透視と暗視を組み合わせ、味方とタイミングを合わしての奇襲を狙う。奇襲を仕掛けるうえで一番に必要なのはタイミングだ。
 透視で見遣った空は鮮やかな月を揺らしている。耳を澄ませ、海上での声を聴く。祝詞は海底の神々を湛えるものばかりだ。
「ソンナに良いモノかな……ウルゴの様子を見たダケじゃ分からないか」
 潮の船に乗りながらイグナートはそうぼやいた。宗教というのはいついかなる時も誰かの心を支え、そしてその人生の基盤になることもあるのだ。
 黒いマントにその身を隠しゆらりゆらりと揺れているグリュックの腕の中からひょこりと顔を見せたレーゲンは耳を澄ませてゆっくりと上空へと飛び上がる。シグが海と云うならばレーゲンは宙だ。出来る限りその姿が露見せぬ様にと布を羽織った儘、超聴覚を活かしてタイミングを伺い続ける。
 閃緑の目でしっかりと状況を把握するように見回す潮はポチ二号に布をかぶせ出来うる限り目立たぬようにと偽装していた。イグナートがぐ、と足に力を込めたその動きに潮は構える。
 月に輝く霊水に五種類の希少な薬草を組み合わせた目薬はカンベエの瞳へと明かりを齎していた。カンベエの背後をゆっくりと進んだルチアは魔力を伴い動力をカバーした小型船の上より海上での儀式の声音を聞いた。

 ――神よ――


「その命を神に捧げることなんと高尚な行いか! しかし、しかし! その命、もはや水底と己がだけの物ではなし!
 このわしカンベエが! その命御預かり致す! 皆連れ帰って、直々に性根叩き直して進ぜようじゃァありませんか!!」
 堂々と、その声音は響き渡る。何時ものより多めの口上は彼の許へと視線を集めるためのものか。奇襲を仕掛ける仲間達を支援するように鮮やかに輝かせたランプが堂々と彼の翳を海へと落とす。
「ウルゴォ! オレはローレットのイグナートだ! 覚えているか!?
 前に言っていたろ?機会があればツグナイをしたいってさ。今回の大号令を良い機会ってことにしないかい?」
 堂々と叫んだイグナートの言葉に幹部たちは何かと周囲を見回した。黄衣の男の姿を隅から隅まで探す。どうやら、彼はイグナートの声を聴いてすぐ様に姿を消したようだ。今回は都合が悪いという事か。
「なに、大丈夫、大丈夫、焦らなくてもいいよ。
 キミたちはいつか、きっといつか、死ぬのだし――『海はいつでも、キミたちがかえるのを、待っている』」
 朗々と歌う様にそう言った武器商人の言葉と共に、蒼い焔が揺れる。顔を上げたクズリュウの信徒たちの瞳には不吉な青が蝶々の様に舞うのが見えた。
「宇宙警察忍者、夢見 ルル家。死なない程度にお命頂戴致します」
 飛び上がり、ルル家は幹部――しかし、其処には黄衣の男は存在していないかと周囲を見回した――へ向けて宇宙ぢからを発揮して暗器を放つ。出来うる限りの最大のパワーを込めたのは長引けば長引くほどに現状が不測の事態に陥る可能性があるからだ。
「這い寄る混沌は『乙女の秘密』でありますよ! これも母上(ぜんちぜんのうのかみさま)パワーであります!」
 深海から呼ぶならば自身の母の仕事だとでも言う様に冗談を交らせてルル家は笑った。船より飛び降りようとする者がいないかを尋常ならざる視力、聴力、嗅覚を活かして探す。サイバーゴーグル越しに見た幹部の顔色はどこか暗く映った。
 幹部たちがルル家を見遣ったその刹那、レーゲンが放った光線は世界の改革を行う様な聖なる光を宿している。海を焼く様に周囲に展開されたその光に僅か目を瞑った男の横面へとイグナートが飛び込んだ。
 瞬く光を放った潮の周辺より彼の生命力を味方の力に変える強化の響きが広まってゆく。光輝いた彼におり、眼前を塞がれたと幹部たちが慌て、信者たちもぴたりと止めた動きによって祝詞が止まったとざばりとその身を躍らせたはシグ。
「襲撃はまず信号弾から始めるのが作法ではないかね?」
 目標地点を定めた。着弾まではゼロ。飛び込んだ雷弾が周囲にびりりと広がった。その鮮やかなる色彩の中、剣よりその姿を変えたシグが手帳をぺらりと開いて幹部らを見遣る。
「ヒヒヒ! いるかもわからぬ、いても役に立たぬカミに命を捧げるなど馬鹿らしいにも程がある。無駄死に極まれりよな」
 シグの背後より飛び出したは武器商人。長い髪を月色に晒し、美しき緑の翼を羽搏かせる。

 ――“アレ”を存在させてはいけない――

 奥底より沸き立つ其れを口にする様に、深海の神々への祝詞にかぶせて指先手繰る。唇に乗った笑みに内包された怠惰に嫉妬、憤怒は胸の中にぐるりと掻き混ぜて。幹部たちを見下ろした。
 幹部たちもやられてばかりではいられないと神秘の蔓をぐるりと特異運命座標へと伸ばす。幹部たちだけではない。信者たちは皆、朦朧したように意識に靄をかけ乍ら銃を構えて特異運命座標を見詰めている。先手必勝と言わんばかりに幹部の捕縛を行う特異運命座標達へと降る銃弾をシグは「成程?」と受け止めた。
「幹部を護る様に行動するとは実に愉快な忠誠心だ。だが――」
 武器商人へと視線を搔き集めるシグのサポート。武器商人は実に愉快だと言う様に口元に袖口宛てた。
 ああ、よく考えてみて欲しい。あれ程までに海の底を焦がれ護るべくと幹部に攻撃を放って居た彼らは今やだれとも知らぬ旅人に銃を構えているのだ。
「愉快さ。ヒヒヒ、実に愉快。カミへの信仰心なんて『眼』を奪われてはあっけないものさ」
 武器商人が堂々告げたその声に潮は目を伏せる。信仰というモノは脆いガラスのようなのだ。
 信者を逃がすまいとルル家がその手をひっぱり、海へと飛び降りんとする男は海中であれど潮が追い縋る。イグナートは幹部を相手にしながら以前出会った男の姿を探した。
(逃げた? 都合が悪い――?)
 自分がいる事を知っている相手が居たからであろうか。これも神の采配だ。自身こそがクズリュウの代表者であるとボルケーン卿の一件で語った彼はイグナートとの今回の対話を拒否したのだろうか。その思惑は分からぬが多くの命が失われんとしたことは確かだ。
「ッ――今は、防ぐダケだ!」
 ぐん、と至近距離詰めて。その一撃をサポートするようにキュキュッと森アザラシの実力見せたレーゲンの背後でルチアが小さく息を吐く。ぐい、と潮を袖で拭い信者たちへと視線を送る。
 緊急通信霊装――それは彼らにとっては神様に希う様なものだったのかもしれない。ルチアが「いけない」と告げたそれに頷いてカンベエが堂々と声を響かせる。
「手を引いて差し上げます、もう帰る時間です」
 声を張り上げたカンベエ。武器商人とカンベエで手分けして攻撃を受け流す。堂々と手を鳴らしたカンベエは只、攻撃を受け止めた。じりじりと体力が削れる気配へのサポートが背を暖かにさせる。
(誰かが泣く場面なんてごめんです。
 神であろうと『呼び声』にその身を捧げるだけならば、それは魔物、魔種同然……奉仕の心を持つ方々ならば、未熟なわしの呼び声にも応じて欲しい)
 深海から呼びかける声がすると言うならばそんなもの縋ってよい神様ではないのだ。邪神と呼ぶにも相応しいその存在の代わりにカンベエは声を張り上げ続ける。
 はっと顔を上げた幹部がカンベエの声に影響されんとする信者たちに祝詞を唱えさせんと口を開けばシグはゆっくりと声かけた。
「……反応はさせんさ。最初から全力、である。
 これも追加である。水中に電流……有効であるとは思わんかね?」
 びりり、と熱い気配がする。そうして、幹部の視界が眩んでいく。倒れながら幹部の男が見たのは深い海の様に暗い色をした空と、その中でも一層輝いて見える月であった。


「自死などやめておきなさい。まずは彼らと話し合うべきです」
「神の為なら――」
 俯く信者たちへとイグナートは彼らが信ずる教えを導く男の名を呼んだ。
「ウルゴはどこかにキエタみたいだけどさ、どうせ行くならば絶望ってやつの先にある海底まで行ってみないかい?」
 そうして既知の様に囁いた彼の言葉に信者たちはぐ、と息を飲む。絶望の青――大号令で遙か新天地(ネオ・フロンティア)を目指す国家が特異運命座標に協力を乞うたことは『変化について行けぬ長命』達にとっては大きな不安になっただろう。ぐ、と息を飲んだ信者たちにレーゲンはぱたりと手を動かした。
「ドロップアウトなんて認めないっきゅ! 別れは終わりじゃない。悲しくても忘れず、ずっと思っていれば傍にいるっきゅ。
 それに信者さん達が死んだら悲しむ人がきっと首都にいっぱいいるっきゅ! それでも死にたい奴は森アザラシバレットの痛みで考え直せっきゅ!」
 MA(森アザラシ)の力を振り絞らんとしたレーゲンに信者たちは膝をついた。頼るよすがを失ったような、曖昧な顔をして。囚われた幹部たちを一瞥して潮は訥々と語って見せる。
「自ら命を絶つことで日頃の行いにより感謝している街の人がきっと心を痛めるでだろう。
 それに、依頼を受けたものが現時点で心を痛めている事……そのような結果をそちらが信仰する存在が良しとするのか」
 深き海を警邏する海洋警備隊員たちの助力を得ながらボートへと信者を救援してシグは上空を見遣る。美しき月が照らす深海には神々というモノが存在するか――それは、科学的にも立証できない事だろうか。
「さて、森アザラシの子は『信仰』については分かったかい?」
「キュッ」
 武器商人がちらりと見遣ればレーゲンは首を傾いで見せる。縋られる者は果たして信者たちの中にある不安を理解しただろうか。長い髪を揺らした武器商人はその唇を三日月歪めて小さく笑うだけだった。
「次回の奉仕活動にはワシも同行します。今回の件、皆さんを待つ方々への謝罪もしなければならんでしょう」
 穏やかなカンベエの言葉に緩やかに頷く信者たち。日常生活をのんびりと過ごす彼らの平穏を傷つけぬ様にとカンベエは小さく息を吐いた。
「さてさて、真に討つべきは神か教祖か……」
 イグナートが呼んでいた黄衣の男ウルゴはどこに消えたかとルル家は昏き海を見回した。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。シナリオの代筆を担いました夏です。
 この度は弊社クリエイター都合によりお客様には執筆担当変更のご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした。

 皆さまの素敵な冒険がこれからも続きますように。
 楽しんで頂ければ幸いです。

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