PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<青海のバッカニア>鉄騎海賊船から郵便貨物船を守れ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 海洋王国女王イザベラの大号令により始まった外洋征服という大事業。その一部に、あまり大きな声では言えない『私掠海賊行為』がある。本来は、私的な船団で王国に無許可で領海を通過した他国船等を襲撃し、積荷を奪う海賊行為なのだが……。
 大号令以後、この『私掠海賊行為』が拡大解釈され、大っぴらかつ大体的に行われるようになった。きちんと交易許可を得た船までが、どさくさに紛れて襲われだしたのである。
 結果、自警の範囲を越えた武装商船が現れ、私掠海賊船を逆に襲い始めたのだ。
「襲撃に対して武装し反撃すること自体は別にいいッス。いや、海洋的にはよくないッスけど」
『運び屋』ミント・シルフィードは帽子のツバを指で挟み、ぐいっと持ち上げた。ちょっぴり緊張しているのか、表情がかたい。尊敬する情報屋「ユーリカ先輩」が近くにいるためだろうか。
「それはさておき、問題は一部の他国籍商船が、私掠海賊船だけでなく一般の漁船や商船までを襲いだしたことッスよ」
 ミントがわざわざローレットまで出向いてきたのは、まさにこの問題の解決をイレギュラーズに依頼するためだった。
「さきほど『一部の』といったッスけど、実はどこの国の船かもう身元が割れているッス。鉄帝の船ッス」
 側面に分厚い鉄板をぐるりと張り巡らしガトリング砲を船の前後に配した武装船は、まるで小型の軍船。乗っている船員も、荒くれ鉄騎種揃いだという。
「みごとに身元を隠す気ナッシングな船ッス。『やられたらやりかえせ』じゃなく、『やられるまえにやってしまえ、相手にやる気がなくともやってしまえ』でもう完全に海賊ッスよ」
 その船の名前は『ビッケ』といい、過去に数回、鉄帝国の港から海洋の港に加工食品(いろんな種類の缶詰)を運んでいる。きちんと海洋国の交易許可を受けている商船だ。
 『ビッケ』号自体は過去、海洋の私掠海賊船に襲われたことはない。同じ食品加工会社に所属していた運搬船が二隻、海洋の『私掠海賊船』に沈められてはいるが。
「実はあたし、とある商人の依頼で、大事な書類と大量の金塊を鉄帝に海路で運ばなくちゃならないッスよ。取引先への支払いで、遅れるとメチャクチャまずいらしいッス。
 モロに『ビッケ』号出没海域を通るので、みなさんに護衛と討伐をお願いしにきた次第ッス。ひとつよろしくお願いするッス!」
 ミントは帽子を脱いで頭を下げた。


「目当ては船に積まれた金塊です。奪った品を闇市で換金するよりも、ずっと手間がかかりませんからね」
 サラリーマン然とした男が濡れた眼鏡を白いハンケチで拭きながら、傲然と言い放つ。
 数か月前、会社が所有する缶詰工場が謎の集団に襲撃されて爆発全焼した。いまだに再建のめどが立っていない。表ルートの資金調達に行き詰っているためだ。
 そこで会社は裏ルートでの資金調達に乗り出した。所属船をすべて武装し、海賊行為を行わせることにしたのだ。
「やるのは構わねぇが」
 『ビッケ』号船長ビッケはごわごわとした赤顎髭に手をやった。
「おもしろくねぇな」
 ぐらりと船が傾ぎ、角を生やした鉄兜に波しぶきがかかった。長年、潮風や太陽光線にさらされてなめし革のように浅黒くなった肌が濡れ光る。
 サラリーマン然とした男――経理部長の林の眼鏡も波をかぶってずぶ濡れになったが、きっちりとオールバックに撫でつけられた黒髪は乱れなかった。
 水滴のついたレンズをキランと光らせ、深海の底よりも暗く冷たい声をだす。
「非武装船を襲うのはバイキングの流儀に劣る、とおっしゃりたいのですか」
「いや、別に……社命であればなんだって襲ってやる。し、しかし、さすがに不味くねぇか。海賊船の撃退は、ほら、自警行為だって言い逃れできるが……」
「そんな心配は無用です」
 折しも海洋国海域では船舶の襲撃事件が相次いでいた。襲われるのは決まって海洋船籍以外だ。海洋は国として関与を否定しているが、裏で手を引いているのは間違いない。
 自警のために武装した他国の船が、襲ってきた海賊船を沈めたからといって抗議はしない、いや、できないだろう。
「我々が間違って非武装船を攻撃してしまったとしても、それは海賊を積極的に取り締まらない海洋国が悪いのです」
 航行する船が疑心暗鬼にとらわれてしまうまで海賊を放置するほうが悪い……という屁理屈である。
「そうそう、退屈だとおっしゃった貴方にいいことを教えてあげましょう。噂ではローレットが数多くの海洋依頼を受けているようです。襲撃予定の『郵便貨物船』にも用心棒として乗り込んでいる可能性がありますよ。非武装だと思ってなめてかかると痛い目にあうかもしれませんね」
「ハハハハッ、そりゃいい! 退屈せずに済みそうだ。ああ、もちろん……イレギュラーズどもはやっちまってもいいんだろ?」
「お好きにどうぞ」
 やれるものなら、と林は胸の内に零した。経理部長として、あれが国に届くことさえ阻止できればその他のことはどうでもいい。せいぜい暴れてくれたまえ。
「では、私は船内に戻らせていただきます。襲撃の際には私も乗り込みますので」
「それは構わねぇが……オレたちの邪魔はしないでくれよな、部長さん」
 林は白いハンケチを内ポケットにしまうと、踵を返して船内に戻った。

GMコメント

●依頼条件
・海賊の撃退
・金塊はもちろんの事、手紙や書類を含め、積み荷を盗まれないこと

●場所と日時。
・海洋沖合、海洋の郵便貨物船
・晴れ
・夕方

●敵
・『ビッケ号』乗組み員/12名
すべて鉄騎種。クラスは『狂戦士』です。
全員男。髭を生やした屈強な戦士。
鉄兜と丸盾、ハンマーや斧で武装しています。
非戦で水泳をもっています。
・『ビッケ号』船長、赤ひげのビッケ
鉄騎種。男。クラスは『狂戦士』です。
「ぽこちゃかパーティ!」「アドレナリン」「バーサーク」
「クラッシュホーン」を活性化
非戦で航海術と水泳を持っています。
鉄兜と丸盾、両刃剣で武装してます。
・経理部長の林
人間種。男。30代後半。切れ者風
ウォーカーぽい名前と服装(ネクタイにスーツ)は、男親がウォーカーのため。
ジャパニーズビジネスマンだったとか。
母親は人間種。練達人で開発研究員です。
林個人の能力など、詳細は不明です。

●ビッケ号
敵が乗っている海賊船。元は缶詰めを運ぶ船でした。
船の下部が倉庫になっており、半分が港に下す缶詰で埋まっています。
もう半分に、小型艇と一人乗りの小型潜水艦が積まれています。
船の前後にガトリング砲を装備。
積み込み用の小型クレーンを後ろ積んでいます。
海賊たちは、このクレーンを梯子がわりにする他、縄ばしごをかけて郵便貨物船に乗り込んできます。

●海洋の郵便貨物船
海洋国から各国へ手紙や貨物を運ぶ船です。
6層からなる大型船です。
最下層はバラストと機関室、第5層と4層に重貨物、第三層に軽い荷物、第二層はデッキと船室、および客室、その上は操舵室です。
船員は全員が海種です。戦闘能力はほとんどありません。モップを振り回す程度。

●『運び屋』ミント・シルフィード
運び屋。
国や地方を跨いで彼方此方に手紙を配達したり荷物を運んだりして、日々過ごす為の稼ぎをとりつつ情報屋を夢見る少女。
同じ飛行種で年上のユリーカ・ユリカ(p3n000003)を「ユーリカ先輩」と呼び慕っている。
トラブルを引き寄せやすい体質らしい。

 ※ミントは第二層の客室にいます。
 依頼主から預かっている大事な書類はミントが持っています。
 金塊は第四層に荷馬車とともに保管されています。
 戦闘にはまったく加わりません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●重要な備考 <青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。  この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

  • <青海のバッカニア>鉄騎海賊船から郵便貨物船を守れ!完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月06日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
彼岸会 空観(p3p007169)
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
桐神 きり(p3p007718)

リプレイ


「みなさーん、こっちッス! あの船ッスよ」
 声の主は『運び屋』ミント・シルフィード。本件の依頼人だ。鉄帝船籍の貨物船もとい海賊船『ビッケ号』から、海洋船籍の郵便貨物船を守るのが今回の仕事である。
 青く抜けるような冬空の下で、『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)は白く輝く船体を仰ぐ。
「さすがは女王陛下の船」
 厳密にいえば違うのだが、海洋船籍であることには間違いないのだし、大きな括りで女王の船といっても別にいいだろう。ま、細かいことはどうでもいい。
「美しい……」
 史之はため息をつく。
 白鳥が羽根を休めているような、気品漂う優雅な佇まいだ。とても郵便貨物船とは思えない。
 『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)も同じようなことを考えていたようだ。
「すごいな。豪華客船と間違えて乗る人がいるんじゃないか?」
「間違えるも何も。カイトさん、この船には客室もあるッスよ」
「そうなんだ。客船でもあるのか……。俺も立派な航海士になって、いつかこんな船を動かしてみたいな」
 ミントは一人一人に乗船チケットを配った。
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は渡されたチケットを確認した。
 割り当てられて船室は二等だった。二等船室は二人~三人の相部屋、と書かれている。
「オレたち三人で一部屋っスね。海賊対策で寝ている暇があるとは思えないっスけど」
 葵は見張りのときも休みのときも、ボールをドリブルしながら甲板を回るつもりでいた。
 海の上でボールを思う存分蹴ることができる機会なんてそうそうない。欲を言えば、ボールさばきの鍛錬に波で揺れてくれるといいのだが、これだけ大きな船になれば嵐にでも巻き込まれない限りはムリだろう。
「それでも鍵のかかる部屋に荷物が置けるのはありがたいっス」
「女子は……ミント殿を入れてちょうど六人、半々に分かれるでござるな。拙者がここで部屋割りしてもいいでござるか?」
 誰も異議を唱えなかったので、『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は独断で部屋割りを決めた。
 咲耶が同伴に選んだのは、『百錬成鋼之華』雪村 沙月(p3p007273)と彼岸会 無量(p3p007169)の二人だ。
 部屋割りについて咲耶に他意はない。あえて言うなら『和』しばりか。
「じゃあ、ミントちゃんはボクたちと同部屋だね」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は、桐神 きり(p3p007718)に笑顔を向けた。
「よろしくね」
「こちらこそ。よろしくお願いします。ミントさんもよろしくお願いしますね」
 メインマストに出港を示す旗が翻った。その周りをカモメが群れを成して飛ぶ。運び込まれる貨物と一緒に、航海士やキャビンボーイが続々と乗り込んでいく。
「それではみなさん、とっとと乗船手続きに行くッスよ」
 沙月はミントの横を歩きながら、白亜の郵便貨物船を見上げた。船尾にかかれた船名を読み上げる。
「HELADO……エラード号。ミントさん、どういう意味かご存じですか?」
「ぜんぜん知らないッス」
 無量が呟く。
「この響き、舌に心地よい冷たさと甘さを感じます」
 私も、ボクも。感じるよ、と女の子たちが手を上げる。
 エラードとは、某世界のアルゼンチンという国の言葉で、アイスクリームのことをいう。無量たちは知るよしもないことだが、言葉の響きだけで冷たさ、甘さを感じるとは……恐るべし、イレギュラーズ女子のスイーツ力。
 そんなこなんでワイワイいいながら乗船手続きを済ませ、イレギュラーズたちは乗船口へ向かった。
 タラップをあがっていくと入口、弦門に濃紺の制服を着た男性が二人待っていた。
 手前に立つ海種の男性は袖章が黒字に金筋が四本。船長だ。その後ろに立つ、三本の袖章をつけた飛行種の男は一等航海士だろう。甲板部の責任者で、船長に次ぐ立場だ。戦闘時は彼と甲板長に、船員や乗客の避難指示を頼むことになる。
 カイトが船長たちに憧れの目を向ける。
「ようこそイレギュラーズ。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。お世話になります」
「みなさんがいれば、海賊など恐れるに足らずですな」
 船長に差し出された手を強く握り返し、仲間を代表して史之が宣言する。
「お任せください。海賊たちに女王陛下の船は傷一つつけさせませんとも! もちろん、船の荷物も守りぬいてみせます」
 最高の笑顔で白い歯をキランと光らせた。
 まったくの無傷というのは、さすがに無理っスよ、とか思いつつ……葵以下、他のイレギュラーズたちもぎこちなく笑顔を作った。


「海賊に好き勝手させるわけには参りません。護衛任務をしっかりと果たしてみせましょう。とはいえ、何も起きない方が良いのですが……」
 沙月はベッドの上に荷物を降ろした。
 丸窓の向こうに港の景色が見える。部屋の装飾はいたってシンプルだ。基本、貨物船なのだから仕方がない。
 無量が荷を解きながら返す。
「今回の依頼は色々ときな臭さを感じますね」
 短時間で荷解きを終える。
 三人とも荷物らしい荷物を持って来ていなかった。とくに咲耶は、小さなカバンすら持っていない。忍者はいつでも身一つ、余計なものを持たないのだ。
「海賊がでるのは、港を出てから約五時間後でござったな。それまでの間に船の中をざっと見て回っておくでござるよ」
 三人は連れ立って部屋を出た。
 同刻。海側のデッキを、焔ときりがミントを護衛して船室に向かっていた。
「海だー」
 無意識にだした大声に乗客の視線が集まってしまい、きりはいたずらが見つかった子供のように笑った。
「のんびり船旅といければ良かったんですが、護衛の依頼って事でそうも言っていられませんね」
 この貨物船の数少ない乗客のほとんどが商人だ。中にはミントのような運び屋もいる。
 途中で乗船してくる客もごくまれにいる、とミントから聞かされて焔は驚いた。
「他の船から乗り替えるってこと? 海の上で? そんなことがあるんだ。ところで、ミントちゃんは夜ごはんも部屋で食べるの?」
「そのつもりッス。大事な書類を預かっているッスからね」
 ごぉん、ごぉんと船全体が唸りだした。エンジンの振動が、出港の興奮を高める。
「いよいよだね」
 大きな汽笛が港全体に響き、船が岸壁から離れ始めた。
 それから数時間、平穏な船旅が続いていた。
 葵は巧みな足さばきでサッカーボールを運びながら、右舷前方の階段を下りていた。
 水平線の彼方に小さく光るものを目にして顔をあげる。じっと見ていると、どんどん光点が大きくなっていく。船だ。まだ大きさや種類まではわからない。
(「……怪しいっスね」)
 エラード号がいま行くのは国際航路なのだから、途中で他の船とすれ違うこともあるだろう。だが、いまこの辺りの海にはエラード号以外の船はない、二等船員からと聞いている。
「海賊のお出ましだ。中に入れ!」
 カイトがマストの上から大声で、甲板員や客たちに避難を命じた。
 やはり海賊船か。
 葵はまた階段を上がると、操舵室へ急いだ。
「おっと、あぶない!」
「だ、大丈夫っスか?」
 操舵室のドアを開けた途端、操舵室を出ようとしていた一等航海士とぶつかった。操舵室でも海賊船を見つけていたようだ。
 一等航海士の翼の後ろから、史之が声をあげる。
「船内放送でみんなに集合を呼びかけます。葵さんはフロントデッキへ向かってください」
 葵が背を向けると同時に、史之はマイクのスイッチを入れた。休憩中、あるいは巡回中の仲間たちに、至急フロントデッキへ向かへと告げる。
 正面のガラスに大きな影が差した。カイトだ。翼を広げ、海賊船に向かっていく。
 史之は船長に頷きかけてから操舵室を出た。


 咲耶と沙月は、海賊船発見の報を受けとってすぐ、行動を開始した。
「拙者たちが守る入口を除いて、金塊以外の荷物やテーブルを動かして、内側から塞ぐようにお願いしてたでござる」
 あくまで時間稼ぎのための応急処置でしかないが、船内に侵入されるとやっかいだ。やるとやらないとでは、防衛に大きな差が出る。
「……とはいえ、封鎖された入口に集中されると、そう長くは持ちこたえられないでしょう。海賊は一人一人確実に倒して、あ――」
 二人が降りる階段の下を、焔がフロントデッキへ向かって駆けていく。
「焔さん! 入口を通り過ぎていますよ」
「いいの。近づかれる前に少しでもダメージを与えておきたいの!」
 焔はそのまま走り去っていった。
 階段そばの入口から、無量ときりが出てきた。ドアの影からミントも顔を出す。
「とりあえず私たちもフロントデッキに向かいませんか。海賊船が左右どちらに接舷するか分かりませんし」
 無量としては海賊と切りあうチャンスを少しでも増やしたい。船長や操舵士の腕を信じていないわけではないが、こちら側に海賊船を確実に寄せると断定するのは危険だ。
「接舷されなかった側の入口も、念のため封鎖した方がいいですね。あ、出入口の封鎖はミントさんにお願いしてあります」
「さっき部屋できりさんに頼まれたッス。知らせを受けたらすぐにここ……か、反対側の入口を中から塞ぐッスよ」
 入口を封鎖したらすぐに部屋に戻るようミントに言って、四人はフロントデッキへ向かった。
 カイトは空を飛んで、ボディに描かれた『ビッケ』という船名が読み取れるほど、海賊船に近づいた。
 敵もカイトを撃墜しようと、何人かが船の前方でガトリング砲に被せた糊付け帆布を外している。
「俺らの海で好き勝手にはさせないぜ!」
 撃たれる前に船の真上に移動して、緋色の翼を大きく広げた。
 操舵室の上にいる見張員が大声を発した。
「鳥野郎が真上にきた! 何か落とそうとしていやがる」
 舵を取る海賊の頭は、それが何にせよ回避不能と判断したようだ。
「中に入れ!!」
 大声で手下たちに隠れろと呼びかける。
 カイトが投下した羽根爆弾は、海賊船の甲板を突き破り、内部奥深くへめり込んで爆発した。
 たちまち、黒い煙が上がる。だが、航行不能にすることはできなかったようだ。速度を保ったままエラード号に突っ込んでいく。
 葵はフロントデッキの先端にサッカーボールを置いた。迫りくる海賊船との距離を測りながら、ゆっくりと後へ下がる。
「ルールを悪用するのは許……すワケではないっスけど、隠す気ナシはどうなんスか。遅刻厳禁らしいし、きっちり守り通すっスよ!」
 走り込んでボールを蹴った。強烈な無回転シュートだ。
 ボールは波の上を滑空するカモメのように飛んでいき、むき出しのガトリング砲に当たって爆発した。
 焔が歓喜の声をあげる。
「ナイスシュート、葵君!」
 炎が上がり、煙が海賊船の操舵室を包んだ。船内に引っ込んでいた海賊たちが、咳き込みながら甲板に出てくる。
 だが、依然として海賊船は進路を変えない。まっすぐ向かってくる。
「危ない! ぶつかる、みんなつかまって!」
 焔は衝突の衝撃で海に投げ出されないよう、手すりにつかまった。
 海賊船は正面衝突ギリギリのところで右に舵を切ったようだ。エラード号の側舷をこすり、ガリガリと嫌な音をたてながら、右へ流れていく。
 遠くから史之の悲鳴が聞こえて来た。女王陛下の船がどうのこうの――。続いて罵声が海賊船に落とされる。
 焔は真下を通り過ぎていく海賊船に火炎弾を投げ入れた。
 着弾と同時に弾け、炎の波が甲板を走る。
 火だるまになった海賊が二人、悲鳴をあげながら海へ飛び込んだ。
 海賊船が乱暴に当ててきて、エラード号が揺れた。長く伸ばされたクレーンの先が、デッキにつけられる。少し離れたところには縄梯子がかけられた。
 残ったガトリング砲が火を吹き、イレギュラーズたちを牽制する。
 海賊たちは缶詰を投げつつ、クレーンを登ってエラード号に乗り込んだ。
「ちくしょう。よくもオレさまのビッケ号を! こうなったらこの船ごと頂いてやる。野郎ども、右だ。お前らは右に行け!」
 角の生えたヘルメットに赤髭の男、海賊ビッケは手下をフロントデッキ方面へ向かわせると、自分は左を向いた。眼前に立ちはだかる史之に極太の人差し指を突きつける。
「そこをどけイレギュラーズ、邪魔だ!」
「どけといわれて素直に動くと思ったか。だとしたらおめでたい」
「なんだと、このガキ……」
 低く凄む海賊ビッケに、史之は怒りの目を向ける。
「かかってこい、おまえらこそ海賊だということを骨身に叩き込んでやる! 俺は秋宮史之、女王陛下の大号令の体現者!」
 史之の回りから光が失われてゆき、怒りに染まった闇が広がった。足元で赤いプラズマが火山噴火のように爆発し、ビッケに襲いかかる。
 丸盾を構える暇を与えなかった。プラズマで胸を焼かれたビッケが、身もだえしながら手すりを越える。空いた手で縄梯子を掴み、落下を免れた。
「こんなこともあろうかと――」
 ポケットから取りだしたのはサバイバルナイフ。脳天を突き抜けた怒りで無表情になったまま、手すりにかかる縄梯子を切り始める。
「おい、よせ……やめろ」
 水というものは、静かなときにはとても柔らかいものだ。しかし、勢いがあったり、ぶつかる面積が大きいと、非常に固くなる。この高さから海面に叩きつけられれば、無事ではすまないだろう。
 史之は無表情のままナイフを動かし続け、無慈悲に縄梯子を断ち切った。
 一方、フロントデッキは混戦の最中にあった。
 最初は数で押されていたが、伝令に走ったきりが戻ってくるころには、十人いた海賊が六人に減っていた。
「降参するなら、命だけは助けてやってもいいでござるぞ」
 咲耶は黒い焔に包まれた鴉羽を、めちゃくちゃに腕を振り回して焔たちを叩く海賊の一人に投げた。鴉羽が渦を巻いて海賊を取り囲み、身動きを封じる。
「きり殿、いまでござる!」
「よくも焔さんたちを! 海賊め、我が断罪の拳、受けるがいい」
 勢いよく踏み込んで、黒い焔に包まれる海賊に重い拳の一撃を叩き込む。衝撃波が海賊の体を抜け、縛る黒い焔を吹き飛ばす。
「きりちゃん、後ろ!」
 振り向きざま、仲間を助けに来た海賊にメイジオーブを突き出し、魔砲を放った。
 焔がカグツチを振るって炎の刃を飛ばし、魔法に貫かれた二人を纏め切りにする。
 海賊が二人、混戦の中を抜けて操舵室へ向かった。
 このままではやられる一方。誰か……船長を人質にしてイレギュラーズたちを無力化するしかない、と考えたのだろう。
 沙月は冷静に海賊たちの進路に立ちはだかった。
「目の前で傷つけられるのを許容するわけにはいきませんので」
 袖が触れるか触れないかの距離で海賊たちの間をすり抜ける。その一秒後、海風のつぶやきの中にはっきりと玉の割れる響きがして、緋色の衝撃波が広がった。
 カイトと葵が残りの二人を組み伏せる。
「みんな、大丈夫か。俺はだいぶん殴られちまったけど……あれ、無量は?」
 無量は海賊の一人を切り捨てた後、血をしたたらせる大太刀を携えて、左舷へ回っていた。
 人切りの感とでも言おうか。無量は仲間たちが海賊たちの始末をしているとき、手すりから身を乗り出して、クレーンを使って登ってくる海賊が他にいないか確認した。その時、沈みゆく海賊船の下から黒い影――小型潜水艦が出て、エラード号の下にもぐっていくのを見たのだ。
 無量は微笑みを浮かべて、前方から来る背広姿の男に声をかける。
「林さんとお見受け致します。『恋文』でもお探しでしたか?」
「すみません。なぜ私の名前を? どこかで貴女と名刺を交換したことがありましたでしょうか」
「いいえ、これが初めて。申し訳ありませんが、降りていただきます」
 無量は大太刀を振り上げた。
 風に流される柳の葉ように、林はゆらりと軽く体を後ろへ飛ばして刃を避けた。
「これは失礼いたしました」
 林は手に持っていたアタッシュケースを開くと、一通の封筒を取り出した。
 慇懃に差し出してくる。
「エラード号の乗船許可書です。どうぞ、お改めください」
 見てわかるわけがない。もとより、無量に真贋を確かめるつもりはない。
 今度こそ、林を一刀両断にしてやるつもりで朱呑童子斬を薙ぐ。
「え!?」
 空中で、二つに断ち切られた封筒の中から上下に切れた紙が零れでる。ひらり、ひらりと舞って、デッキの上に落ちた。そこに林の姿はない。
「海の上ッス!」
 葵の声で顔を海へ振り向けると、林が平然とした顔で浮かんでいた。が、カイトの姿を見て顔をしかめる。
「時間切れですね。お暇するといたしましょう。それにしても、仕事のできない人たちだ。リストラするよう雇い主に進言しておきましょう」
「まて、林! 一体、何を盗ろうとしていた?」
 駆けつけた史之が手すり越しに問い詰める。
「進行中のプロジェクトに関することですので、詳細はご容赦ください……。それでは失礼します」
 一直線に飛んできたカイトを自由落下でかわし、林は小型潜水艦の中に消えた。
 沈降する潜水艦に焔が火炎瓶を投下したが、逃げられてしまった。海中深く潜られてしまえばお手上げだ。イレギュラーズに追いかける術はない。
「何が目的だったんだ……」
「まあまあ。ちょっとこすれてしまいましたが、船も積み荷も無事。不埒な海賊も撃退できたことですし、のんびりと船旅を楽しむ出ござるよ」
 そのとおり。まるでそう言ったかのように、エラード号が汽笛を鳴らした。

成否

成功

MVP

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結

状態異常

なし

あとがき

海賊船の撃退に見事成功いたしました。
何一つ盗まれていません。
無事、ミントと預かり荷物を鉄帝に届けることができました。

航海中に捕まえた海賊に、海賊行為の真の目的について尋問してみましたが、二人は下っ端らしく、何も教えられていませんでした。
ビッケに、海洋船に襲われた仲間のかたき討ちをする、とだけしか聞いていなかったようです。
林とも港で初めて顔を合わた、と言っています。
なお、二人の海賊は港で鉄帝の憲兵に引き渡しました。

MVPは女王陛下の忠実なるしもべに。
ともかく、お疲れさまでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM