シナリオ詳細
<青海のバッカニア>マドンナ・ブルーより
オープニング
●海洋大号令
たたたた。たたたたっ。
たた、どしゃっ。たたたたたっ。
「……ブラウも、他も。忙しそうだね」
右へ左へせっせか足を動かすブラウ(p3n000090)へ、『Blue Rose』シャルル(p3n000032)が呟く。彼女の言葉にぴたりと足を止めたブラウは「ええ、そりゃあもう!」とつぶらな瞳をきらきらと輝かせた。
「海洋王国の大号令ですよ? あちらはみーんなその号令を待っていて、今はもう真夏並みの大騒ぎですから!」
「……で、どうしてウチ(ローレット)が忙しいのさ」
海洋の大号令にローレットは関係ないだろう──シャルルはそう言いたいのだ。そんな彼女へブラウは勝ち誇ったようなドヤ顔をしてみせる。
「シャルルさん、知らないんですか?
今回はローレット……イレギュラーズも援軍として、外洋征服に参加するんです!」
すでに依頼は出され、形となり、次々とイレギュラーズの前へ公開されている。ブラウもその準備に忙しい、ということだった。
「へえ、そうなんだ」
「そうなんです……シャルルさん? どうして僕を抱き上げるんです? あの顔モニモニするのはやめぴよよよよよよよ」
ブラウの顔に両手を添え、もにょもにょわしゃわしゃするシャルル。ひよこが目を白黒させる。
ドヤ顔が気に入らなくてやり始めたのだが──これはいけない。ちょっと楽しいかもしれない、とシャルルは彼を見下ろしてひっそり思った。
「それで? 依頼は出せるようになった?」
シャルルはブラウを膝に乗せたまま問う。できてます、と彼女に弄られながら答えたブラウはその手から逃れるように飛び降りる。
べしゃ。
顔が地面と邂逅を果たしたブラウ。束の間沈黙が流れた。
「……ぴぃ」
「……言ってくれたら降ろしたのに」
黄色いお尻を見ながら、シャルルの呟きが零れ落ちる。
海洋はお祭り騒ぎであるし、ローレットも大賑わいであるが──ここばかりはいつも通りな光景であった。
閑話休題。
「というわけで、海洋は外洋征服のために下準備を始めました」
ブラウが依頼内容のしたためられた羊皮紙をテーブルに置く。そこに載せられているのは海洋にて時折騒ぎを起こすモンスターの討伐だ。
そのモンスターの子どもは海沿いの町などに現れ、何もかもを闇色へ染める。それ以外の被害はないし、うまく捕まえられれば食用にもなる。そのため、子どもは程々に放置されていた。
「でも親モンスターは別です。たまにしか現れないそうですが、その被害はとても大きいですから。
ちょうど今、海上へやってきて暴れまわっているらしいです。必死に何人かが泳いで帰ってきて、今は治療を受けていると」
「ブラウくらいはぺろりといけるらしいよ」
「ぴっ!?」
シャルルから挟まれた言葉は大変物騒で。けれど実際、そうなのだ。ひよこの1匹どころかヒトの子1人だって簡単に喰われるだろう。
本来ならばすぐにでも討伐しなければならない凶暴なモンスター。これまでされなかったのは『できなかった』とも言えるし、その行方がしれなかったということもあった。
ふるふると震えるひよこ。イレギュラーズたちを見ると「僕は食べられません……」と震える声で呟く。
ブラウが食べられないかどうかはさておいて──海洋の主戦力たちが外洋征服へ出ている間、そのような被害を出されたらたまったものではないだろう。故に、不安要素は早々に潰しておきたい。
「行くなら気をつけて。海は荒れやすい、って聞くからさ」
「僕も未来のお天気までは情報収集できないですね……」
ブラウが申し訳なさそうに呟く。先の話ばかりはどうしようもないことだった。
●ヨーソロー!
時は遡って──。
青い海、青い空。……体感温度、低め。
そんな大海原に、突如として白く長い何かが生えてくる。飛んでくる水しぶきは冷たい。
うねるそれに骨はなく。軟体動物の触手の如く、海から生やしたそれか獲物を求めて海面を彷徨う。
──その実、軟体動物なのだ。
「や、や、やべぇ」
「あいつだ!」
居合わせた船乗りたちは大慌てで方向転換、全力でその場を離脱する。その後ろから勢いよく出現したのは──巨大なイカ、だった。
ビタァン!! と勢いよく海へ叩きつけられた触手。最も近くにいた船が犠牲となり、左右に割れたいくつもの船を飲み込む。まだ残る船も激しく揺れ、触手の勢いが海流をも乱した。
不幸にも──モンスターとの遭遇自体が不幸ではあるが──船から落ちた者は暗く深い、マドンナ・ブルー(海の底)へ。
まだ生きている者はあの触手の餌食とならぬよう、船を動かしあるいは木片に捕まって泳いで陸を目指す。
──死にたくない。
波がまた船を飲み込む。
──死にたくない。
触手が人間を捕え、海の底へ向けて振り下ろす。
──死にたくない。死にたくないんだ!!
その願いが叶ったのは、ごく僅か。
- <青海のバッカニア>マドンナ・ブルーより完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年12月04日 22時10分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
「波が荒いな」
「まあ、この程度ならまだ私の敵では無いよ」
『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)の言葉に『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が任せろと言うように船を操る。その姿は言葉に嘘偽りなく手馴れたもので、エイヴァンはひとつ頷くと周辺を見回した。
操舵の手助けが要らぬのなら、あとは天気に気を使うのみだ。考えられる天気の中で最も危ないのは霧──敵味方問わず視界を塞がれるもの。
(晴れやすいなら蒸発霧の類か。それなら何度も発生しないはずだし──)
つらつらと考えてみるものの、本当にそうであるのかは体感してみないとわからない。黙考するエイヴァンの傍ら、『夢想の魔王』ニル=ヴァレンタイン(p3p007509)は正面を睨みつけるように見据えていた──が、見えてきた姿にぎょっと目を見開く。
イカだ──予想していたよりも、ずっと大きなイカ。遠目から見ても大きいと思うのだから、さらに近づけばもっと大きいに違いない。
(何がどうしてここまで大きくなったのかや??)
突然変異のような何かか、それとも純粋に生きた年月か。ともあれ、あのような大きさなら船の1隻や2隻沈ませることなど造作もない。
「船を沈ませる海の魔物……なんだか似たような伝説や映画を見たことがあるような気がしマスねぇ」
『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)もイカを見つめ、そう零す。どこか現実味のない話は遠いどこかの出来事のようだったのに、まさか自身がそれと戦うことになるとは思いもしなかった。
「これは驚いた……本の挿絵で見た怪物にそっくりだね」
モデルかな? と興味津々な『未知の語り部』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は船から若干身を乗り出すようにしてイカを観察する。記憶にある挿絵と面白いくらいに瓜二つだ。もしかしたら挿絵を描いた人間はアレと遭遇し、命からがら逃げかえった者なのかもしれない。
イカの姿は当然、彼らの前を行く船からも見えるもので。
「これで良し、っと」
船の各所に掴むためのロープを結んだ『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)は、額に薄ら滲んだ汗を手の甲で拭って立ち上がった。その体を冬の潮風が撫で、動いた熱を奪っていく。
何とかイカとの接敵前に間に合った。船が大破してしまえば元も子もないが──そこは『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)に与えられた恩恵と、何より彼女自身の操船技術にかかっている。
「命綱はつけておけよ!」
振り返って告げれば、船のあちこちから返事が上がった。
(いーですね、海のギャングとガチバトル)
マリナは舵を操りながら、小さく口角を上げる。海の男として──女だけれど──燃える戦いだ。
「沈められた船の敵、必ず取るんだぞ……今、この旗の下に!」
『湖賊』湖宝 卵丸(p3p006737)は海の男としての正義に燃えていた。冒険するのも漁をするのも、安全な航海ができてこそ。その平和を守るのは海の男であり、蒼蘭海賊団の団長である自分の務めなのだ。
ちなみに蒼蘭海賊団は現在卵丸1人。団員募集中!
空を仰げば快晴で、ウィリアムが放っていた鳥が1羽ついてきている。まだイカとは距離があるから、何か他の備えもできようか──そんな折、不意に卵丸は海の男が持つ勘を発揮させた。
小さく、けれど確かに聞こえた波間の音。それは大きなモノが蠢くそれ。
「皆、近づいてきてるぞ!」
「ええ……必ず勝ちますよ。そうすれば海の男としての格が上がるってもんです」
マリナの言葉に卵丸は俄然やる気を出した。これは勝たないわけにいかない。海の平和と自分のために。
イカの移動によって波が立ち、船体が傾げてしまわないように2隻はイカへ近づいていく。
なるべく船が傷つかないようにと保護結界を張った『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619) 。その傍らに『砂竜すら魅了するモノ』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が、いつでも庇えるようにと立った。
「補助だけお願いします……全力で護りますが、あまり期待はしないでくださいよ?」
誇れるのは何が何でも生きていたい食べられたくないという生への渇望とそのための生命力。あのイカに対してどれだけ耐えうるのかはまだ、何とも言い難い。
船の上へ、ひらりと1羽の鳥が舞い降りて。
頷いたムスティスラーフの射程圏内にイカが入り──彼の投げキッスと共に、光の矢が敵へ向かっていった。
●
(デカくてヤバイイカですか……食いではありそうですが)
食べられるのだろうか、と今しがた自分の身を打った触手を見ながらベークは思う。
イカはアンモニアで浮くのだと聞いたことがある。そうであれば食べられない──が、ここは混沌だ。この世界の生物は他世界と一線を画するようだし、旅人から教えてもらったその話もアテにはならないかもしれない。
いつもとは立場が逆転しているが、だって仕方がないじゃないか。目の前には自分の代わりに食べられてくれそうな食材(候補)があるんだから。
(──なんて全然思ってはいないんですけどね!?)
やだなぁあはははは、と心の中で必死に弁明するあたりその本心は伺いしれる。
度重なる触手の攻撃をそんなベークが受ける中、敵の注意を引き付けているのはその背に庇われたムスティスラーフだ。彼の角が淡く光り、蒼碧の輝きがベークの傷を癒していく。
「喰らえ、音を超えたドリルの一撃!」
ビートを刻むような踏み込みから卵丸が素早くドリルを突き出す。ぬるん、と軟体動物らしい動きを見せるイカの眼前にアランは跳躍した。
「海での戦いは慣れてねェんだよクソが」
小さく呟きながらアランは大剣を振り上げる。その得物は炎をまとい、アランの肌も薄く焦がすよう。
慣れぬ場所、凶悪な敵。長引けば長引くほどこちらの不利は目に見える。
ならば、そうなる前に倒すまで。
「お前に罪はねぇけどな、俺達(にんげん)のワガママだ! 海の底に沈むのは……てめェの方だァッ!!」
振り下ろされた一閃はイカの急所を狙い、しかしその触手に阻まれる。
(だが、浅くはねェ)
与えた傷を確認しつつ着地したアラン。そこへ追撃せんとマリナは魔導銃を突きつけた。
「その触手で船を壊すのはやめてくだせー。小さくても大事な船なんで」
凍てつく魔力弾が発砲される。尚蠢く触手へ、不意に後方から魔砲が放たれた。
「勇者の乗る船に手出しはさせぬ! その足を引きちぎってイカ焼きにしてくれるわ!!」
ニルが声高々と叫び、そこへすかさず美弥妃が敵に神の呪いを与えんと動く。イカは振りほどくように体を揺らし、イカを中心に波が起こった。
舵を握っていた汰磨羈は波を交わすように船を動かすと、素早くイカとの間に障害物がない場所へ移動して見えぬ力を波動として放った。それは海を抉り、波を裂き──イカの足元を狙って飛んでいく。
しかしびくともしないのは、やはり一筋縄でいかない相手と言うべきか。
(私の世界にはクラーケンという魔物がいるが、それとよく似ていそうだな)
味の方はいかほどか──そればかりは、食べてみないとわからないが。
「近くまでくると本当にでかいね」
海はびっくり箱だ、と呟くウィリアム──けれどその姿に感心してオーダーを忘れているわけではない。その巨大なイカの頭上より落ちた雷は守りなど一切無視して突き抜ける。
びたんびたんと触手を叩きつけるイカはまだまだ元気な様子だが──イレギュラーズたちも然り。戦いはまだ始まったばかりだ。
2隻の船は優れた操舵手によって波の間をすいすい進む。イカの主な攻撃手段となる足を攻撃しながら、前衛船に乗るムスティスラーフは懸命に引き付け続けていた。彼を守るベークは自らの役目を全うすべく、『全員』ではなく『彼1人』に攻撃が当たらぬようひたすら庇い続けていた。
「……っ」
「ベーク君!」
何度目かの触手に打たれたベークの体が傾ぐ。だが、倒れると思われたその体は自らの足でもって支えられた。
(この程度じゃあ、倒れていられませんよ)
ぐっと踏みしめて、顔を上げる。
できることは限られているけれど、できる限りは精一杯やりたいじゃないか。自分だって海洋の民なんだ!
再びムスティスラーフを庇う位置に入ったベーク、しかしイカは2人に向けて触手を伸ばす。
(このイカ、なんで襲い掛かるんだろう)
子供を捕まえられ、食べられた怒りだろうか。そうだとしたらその怒りは当然のことだが、だからといってやられるわけにはいかない。
──死にたくない。
──死ぬのは僕じゃない。
「死ぬのはお前だ! 告死!」
剣の形状へと姿を変えた幻想が、その一閃で迫っていた触手を両断する。もう一方の触手はマリナのアンカースロウによって弾き飛ばされ、イカが怒ったように他の触手を海面へ叩きつけた。
「周りのロープに掴まれ!」
船へ括り付けられたロープへしがみつき、大きな波で海へ放り出されぬよう凌いだ一同。顔を上げたアランは霞み始めた視界に小さく舌打ちした。
「霧か」
あっという間に霧は濃くなり、敵味方関係なく隠していく。アランは船を見遣り、明かりが灯っていることを確認した。そして自らが変わらず発光し、その場所を知らせているだろうことも。
「そっちは大丈夫か」
「任せてくだせー。絶対に逃しませんよ」
舵を握った視線を向けずに告げる。その瞳は薄ぼんやりと、けれど確かにそこにいる敵の影を確りと捉えていた。そのそばで卵丸もまた耳を澄ませ、イカの動く水音を捉えてマリナへ知らせる。
──一方、後衛船。
こちらも用意された明かりが灯り、また前衛の船にある2つの明かりを確認していた。
「戦いは……続いている、みたいデスかねぇ?」
美弥妃は疑問符をつけて呟く。戦闘をしていないわけではなさそうだが、先程から聞こえるのは触手が海面を叩く音ばかり。波の起き方でどの辺りに触手が振り下ろされたのかは把握できるが、あちらの船が激しく揺れる様子はなく──。
「ふむ? 船を進めているのか」
「霧の中で船を進めるなんざ、自殺行為だ」
「向こうにもいるんだろうさ。私と同じように、敵の位置を知ることのできるやつが」
あるいは、接近しているが故に目視できるのかもしれない。
汰磨羈はエイヴァンにそう返しながら敵と、そして味方の船の様子を注意深く見ながら船を操る。こちらからははっきり見えぬが、彼女のエネミーサーチは敵をしっかりと感じ取っていた。いつでも火力支援できる距離だ。
「妾は少し近づくとしようかの」
ニルはふわりと飛び立ち、前衛船より距離をとった位置へ向かう。敵の姿ははっきりと見えるわけではないが、船にいるよりはいくらかマシだろう。
見えにくい中での戦いは、しかし長くは続かない。良くも悪くも海の天気は変わりやすいのだ。
「……風が吹いてきましたねー」
マリナが舵を取られんとしっかり握る。風が出てきたということは、船が──そして霧も押し流されていくということ。
「私の乗る船は滅多に沈まないって評判ですので……安心してドーンと構えてくだせー」
風に流されぬよう、マリナはその流れを読んで舵を切る。船乗りとしての技術によって、イレギュラーズたちは間も無くしてイカの姿をはっきり捉えた。近づく中、頭上から触手が差し迫る。
「ちょっと荒っぽくなりますよー、衝撃に備えてくだせー」
大きく船体が動く。そのすぐ近くに触手が振り下ろされ、水しぶきがイレギュラーズへ降りかかった。
「掠りましたねー」
「木っ端みじんよりマシです……まあ泳げますけど」
間髪入れず向かってきた触手をいなしながらベークが呟く。後方からの魔砲が前衛船へ迫ろうとうごめく触手の1本をはじくように放たれた。
「冷凍イカになるんだぞ!」
卵丸のソニックエッジ、そしてマリナの魔力弾がイカを追い詰めていく。敵はなお暴れまわり、船は大きく揺れた。
船がぎし、ときしむ。所々に傷を負った船は、船である限り──そしてマリナがいる限り沈まない。けれど船の形でなくなれば、イレギュラーズをあっという間にマドンナ・ブルーへ引きずりこむだろう。
味方の状況をファミリアー越しにいち早く察したウィリアムが仲間へ伝え、後衛船がイカを引き付けんと前へ出る。エイヴァンの名乗り口上がイカの目をぎょろり、と後衛船へ向けさせた。
加えて──ウィリアムの放った異能の炎は逃れられたものの、あぶられかねないという危機感は注意を引き付けるに十分だったらしい。
「これはこれでぇ攻撃チャンスというものデスかねぇ?」
美弥妃の持つ妖刀が神性の力でもって敵を薙ぎ払う。近くまで船が寄ったことによって振り下ろされた触手は、汰磨羈の手腕によって見事回避され──そして起きた波をも利用して船はイカの近辺から離脱した。
「昔取った杵柄とは言うが。よもや、こんな所で役に立つとはな!」
時間稼ぎのように離れていく後衛船をイカが追いかけ始める。追いかけられながら、並走しながら攻撃を加えるイレギュラーズの目には、明らかに動きの鈍くなったイカが映っていた。
後衛船へ叩きつけられる触手はエイヴァンがしのぎ、誰かが海へと落とされても素早く立て戻す。
前衛がいくらか立て直したことで再び後衛が下がり、前衛で引き付けながら戦い続ける──しかし。
ベークとムスティスラーフが触手に囚われ、海へ叩きつけられる。溺れてなるものかとムスティスラーフは必死に手足を動かした。だが、その体力は底が見えていると言っていい。
その様子に同じく海へ放り出されたベークが気を引き付けんとイカの周囲を泳ぐ。その甘く香ばしい香りはイカにも効いたのか──かの触手がベークを捕らえんと動き出した。
一方、ムスティスラーフはアランが速攻で投げた浮き輪に捕まり、命綱を手繰り寄せられ救助される。それをちらりと確認しながら、マリナはイカの攻撃に当たらないよう舵を切った。
「あまり無理はできませんねー」
そろそろ船が壊れかねない、と舵を切りながらマリナが呟く。あと何度イカの起こす大波を潜り抜けられるだろうか。
こちらが沈むのが先か。イカの体力が尽きるのが先か。
「なら、沈む前に倒せば良いんだろ!」
アランの声と共にイレギュラーズの勢いが強まる。ベークへ集中するイカに向けて、渾身の力を込めた攻撃が向けられた。ベークが触手に捕まって持ち上げられると同時、ニルが全力で放った魔砲がイカの体勢を崩す。たい焼きを捕らえる触手がわずかに緩まった。
その隙を逃すわけもなく、ベークは身をよじってその拘束から抜け出す。同時にダン、と力強く甲板を蹴る音。アランが跳躍し異形の武器を振りかぶった。
「くたばりやがれぇぇええええ!!」
人でいう眉間に当たる場所へ大剣が吸い込まれていく。確かな手応えと共に──周囲へ、ひと際大きな水しぶきが上がった。
●
「うわっ」
「しょっぺぇな!?」
ばらばらと降り注ぐ水は海水だ。ある者は下を向いて目を守り、またある者は顔をしかめる。
しょっぱいそれらが降らなくなると、あたりは静寂に包まれた。
とても、とても静かだった。今までの戦いが嘘のように、ただただ穏やかな波の音がイレギュラーズの鼓膜へ響く。
「終わった……?」
「終わりましたかね……」
ぐったりと、ぼろぼろになったベークが仲間の手助けを経て船へ上がる。イレギュラーズの目の前には──今までの戦いが現実だと知らしめる、巨大な白い体。もはや暴れまわることのない亡骸。
──勝ったのだ。
──私は、俺は、僕は、生きている。
じわじわと滲んだその実感に、あるいは唐突に理解するような感覚に。イレギュラーズたちは武器を握っていた手の力をようやく緩めたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
無事にイカ討伐となりました。
ちなみにイカは美味しく頂けたようです。
たい焼きのあなたへ。美味しそうですね。間違えました。自らの役目を貫かんとしたあなたへ今回のMVPをお贈りします。
それでは、またのご縁がございましたらよろしくお願い致します。
GMコメント
●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。
『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
●成功条件
ビッグスィールイカの討伐
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
目撃情報が少ないことから情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●ビッグスィールイカ
とても大きなイカです。モンスターが本気になれば、船1隻程度は簡単に海の底へ沈みます。
その戦闘力はほとんど不明です。これまで奇跡的に生き残った者の証言により、以下は判明しています。
・触手が海上を叩きつけると津波が起き、その下にいた船は木っ端微塵になった。
・吐くスミは有害である。また、体が重くなった。
・反撃も試みたが、奴は見た目に反して俊敏だ! 度重なる攻撃で奴に近い船からやられていった!
●周辺情報
海です。船でモンスターの付近まで近付き、船上か海中から戦うことになります。
船はアイテムなしでも乗れますが、アイテムありの方が性能自体は良いと考えてください。
また海は寒く、天候が変わりやすいです。予想される天候は以下の通り。
晴天:晴れ
濃霧:非常に見通しが悪く、至近距離でないと見えません。
暴風:船が流されそうです。
暴雨:海上と海中で連携が非常に取りにくくなります。
スミ(海中限定):有毒で体の重たくなるスミが海中に拡散しています。また、視認性も悪いです。
●ご挨拶
季節が冬なのでシャルルは冬ver.になりました。愁と申します。
スィールイカに関しては既出だったりします。『闇色へ染めるヤツ』というシナリオ名なので、気が向いたらちらっと見てみるといいかもしれません。
それでは、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
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