PandoraPartyProject

シナリオ詳細

煙か土かけもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●半人型魔動戦騎元式『鐵鋼号』
「いいかハト野郎よく聞けよ、俺たちシルヴァンスは森ン中のち~~~いっさい沼に住んで芋だのドングリだの食べて生きてたわけだ。
 それをオメー帝国のマッチョどもは木を切るわ基地を作るわでグイグイ来やがる。
 だからこー頭をガッツーンと叩いてやりてーわけだけど」
「オラたちに軍人さんの頭ぁがっつーんする力ばねぇべや」
「だろー? だからどうする。言ってみろ」
「おあー…………」
 首から上がハトの飛行種男は暫く首をひねったのち、クルッポーと言って固まった。
「おなかすいただ」
「バッカヤロウ!」
「あイダッ」
 手に持ったレンチで鳩男の頭を殴りつける、もう一人の男。
 彼は全身もっふりした毛皮に覆われ首から上がタヌキの獣種男だった。
 ハト男と比べてだいぶ小柄で、身長は1mあるかないかといった所だ。
「いいかよく聞けハト野郎! 俺たちシルヴァンスにあるのはなんだ!」
「羽根?」
「頭だ! 頭脳だ!」
 自分のこめかみをつつき、タヌキはハトの襟首を引っ張った。
「俺たちシルヴァンス族にゃあ昔っから手先の器用さとピカイチの頭脳があるんだ。こいつを使って帝国のマッチョどもから武器をかっぱらって、改造して、んでもって更にかっぱらって、また改造して、かっぱらって――」
「かっぱらうばっかだナァ」
「うるっせえ! せっかくノーザン・キングスなんつー連合を組んだんだ。この機に乗じてデカいことやんなきゃ生き残れねえってんだよ!」
「そンな話してただか?」
「してたンだよ! ほら、アレはできたか!」
「おあー」
 ハトはクルッポーといって後ろにかかっていたブルーシートをひっぺがしてみせた。
 そこに現われたのは、なんと。

 ドラム缶状のボディ。
 キャラピラのついた足。
 ガトリングガンやパワーハンドの装備された両腕。
 全長にして3mはある、立派なパワーアーマーであった。

「ほ~あ~。オメーこういうことだけは天才だよな」
「テレるだ、えへへ……」
 ハトはクルッポーといいながら自分の頭を羽根でてりてりかいた。
 アクロバティックな身のこなしで上部ハッチへととりつく、タヌキはそこから筒状のボディへと滑り込んだ。
 両脇から伸びた筒よりブシュウと吹き上がる黒煙。
 ボディ前部に設置された回転式ターレットレンズが切り替わり、右へ左へとスライドする。
 ボディ内部とつながった伝声管から、タヌキの陽気な声がした。
「グルービー! こいつぁいいぜ! これが一機ありゃあ奴らの基地からまたかっぱらえる!」
「え、一機?」
「あ?」
 クルッポーといって首を傾げるハト。
 腕を振り上げたまま固まるタヌキ――もといパワードタヌキ。
「おら、五機も作ってモウただ」
「天才かオメー!!」

●鉄帝軍事兵器保管庫『ノース331』
「代用コーヒーしかないが……まあ、くつろいでくれ」
 粗末な長机にコーヒーらしきものを並べて、軍帽を被った鉄騎種は渋い顔をした。
 片腕は包帯で吊り、顔には包帯が巻かれている。
 更に見るべきは窓の外。
 焼け野原と呼ぶに相応しいグラウンドと、食べかけのガトーショコラめいて破壊された鋼鉄のコンテナが見える。
「お恥ずかしい限りだ。幻想とも天義とも離れた北方勤務地だからと油断していたらこのザマでな。兵員は負傷して送還。代わりの兵員は他国との前線基地に送られるばかりでここは後回しときた。傭兵連中もこの辺りにゃあうま味がないってんで募集にかからねえ。
 あんたらローレットが来てくれなきゃあ、今頃白旗降ってたところだよ」
 傾くパイプ椅子に座る軍人。名をゲルツェーノフという鉄帝軍人であり、ここ軍事兵器保管庫『ノース331』の管理責任者である。
「俺とここの惨状を見てわかるだろうが、兵器庫は先日襲われたばかりだ。
 連中はコンテナを破壊して武器をしこたま持ちだしたが、持ちきれないってんで撤収していった。
 増援がすぐには来ないと踏んでまた今日も来るだろう。
 お宅らに依頼するのは……まあ、言わなくても分かるよな。
 連中――『魔動戦騎部隊』の撃退だ」

 ゲルツェーノフの話を要約すると、彼ら『魔動戦騎部隊』は鉄帝北部の永久氷樹地帯に暮らす英知の獣人族シルヴァンスというらしい。
 主に獣種と飛行種によって構成され、知恵がはたらき、器用で、奇襲やゲリラ戦に優れた民族である。
 彼らは少し前、戦闘民族ノルダイン・高地部族ハイエスタ・獣人族シルヴァンスの三部族をもって連合王国ノーザン・キングスを主張。
 ゼシュテル鉄帝国の軍事支配に対して抵抗を続けている。
 とはいえ、ゲルツェーノフが述べたように豊かな幻想や天義とも逆方向で凍った海と森ばかりのこの土地を鉄帝が特に欲するわけでもなく、細々とした兵力しか送らない鉄帝とそれを攻撃するノーザン・キングスという構図ができあがっていた。

「この基地を襲ったのは5機の魔動戦騎と歩兵からなる部隊だ。
 撮影に成功した写真があるが……」
 白黒写真にはドラム缶のようなボディとキャラピラ、そしてごっつい両腕がついた兵器がうつっていた。
 兵器のボディにはペンキで『鐵鋼号』と書かれている。
「奴らはさらなる強奪のために鐵鋼号と歩兵部隊で襲撃をかけてくるだろう。
 恐らくここから奪った上等な兵器も使うだろうから……なかなか戦闘には苦労するはずだ。連中、だいぶ機転も利くようだしな」
 ゲルツェーノフは『魔動戦騎部隊』が前回攻めてきた基地北側に印をつけ、基地の大雑把な見取り図をテーブルに広げていった。
「兵が負傷して手薄になっていると、連中は思っているはず。隙をつくならおそらくそこだろう。俺はこの通り戦えないが……迎撃成功を祈ってる。よろしく頼むぞ」

GMコメント

 ごきげんよう。スチパン鉄帝世界をお楽しみ頂いていますか?
 今日は鉄と消炎の香りを倍増しでお送りいたします。
 パワードアーマーとゲリラ獣人相手に基地を防衛しましょう。

■成功条件:『魔動戦騎部隊』を撤退させること
 基地ノース331を防衛し、魔動戦騎部隊を撤退させてください。
 生死を問わないというか、彼らは死んでまで戦おうとしないのでダメージがある程度かさめば撤退していくでしょう。
 依頼内容が『迎撃』とあるので、武器庫の物資が多少奪われたとしても成功条件にあまり影響しません。
 一応の注意として、物資を爆破したり逆に自分がかっぱらったりするのは普通に依頼が破断しそうなのでナシでお願いします。

■フィールド:ノース331
 地面が雑草だらけの平野に金属製のコンテナがどかどか置かれた場所です。
 武器庫と呼んではいますが、この地方の前線部隊が使用する物資を集中して保管しておくための施設であってヤバい武器やなんかは特に置いてありません。
 元はフェンスと鉄条網で基地が覆われていましたが、北側のフェンスが破壊され今はほとんど開放状態です。
 コンテナの一部もひどく破壊され地面も焼け焦げており、駐在していた兵士たちがそれなりに抵抗したにもかかわらず敗北した様が見て取れます。

■エネミー:魔動戦騎部隊
 鐵鋼号を主力としたゲリラ部隊です。
 アサルトライフルとコンバットナイフを装備した獣種歩兵が10名程度。
 パワーアーマー鐵鋼号が5機程度です。

 鐵鋼号はガトリング射撃による遠列攻撃を主体とし、非常に頑丈なのが強みです。
 一方で歩兵は近接戦闘と鐵鋼号のサポートがメインになると思われます。
 彼らは獣人族シルヴァンス。小柄で知恵の回るゲリラたちです。

●獣人族シルヴァンス
 大森林地帯の北部に住み、知恵が回ることで有名。
 獣種と飛行種が多く、軍から奪った装備を使ったゲリラ戦を得意としている。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • 煙か土かけもの完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年11月18日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

リプレイ

●冷めたコーヒーは泥よりまずいと、あの人は言った
 焼け焦げたスチールコンテナ。格納されていたはずの兵器は持ち去られたか片付けられたかして。わずかに焦げた匂いを残すばかりである。
 周囲はもともと雑草だらけであったのだろうが、グラウンドも今や真っ黒に焼け襲撃当時の様子を彷彿とさせた。
 当時居合わせた兵士が魔導感光板で焼き付けたらしい白黒写真をぺらりとめくり、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は低く唸った。
「ふむ、新勢力との接触か。ふふっ、歴史が動く瞬間を目の当たりにしているのかも知れないね。これは楽しみだ……」
 コンコン、と破壊されたコンテナをノックする『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)。
 コンテナ切断面は光熱のブレードで強引に切断されたようで、切断面にその特徴が出ていた。
「鉄帝にいた頃に、こちらの方は特に厳しい環境だと噂では聞いていたけど、まさかこんな事になっているなんてね。
 理由はどうあれ、襲撃して物資を奪うなんてことをしては盗賊と変わらないし……面会予定のないお客様にはお帰り願おうか」
 そう述べると、メートヒェンたちは切断されたコンテナの中へと入り込み、身を隠し始めた。

「へいへいへい! 面白いもの発明したじゃん!!! いいね! 熱いね! そういうの好きだよ!!!
 とはいえ今は敵として戦わなくちゃいけねぇ!! ――おっと、むぐむぐ」
 『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)はいつもどおり大声ではしゃぎながらその場をぐるぐる回っていたが、今回は身を隠さなければならぬと両手で自分の口を塞いだ。
「……なんとなくだけど、あのぱわーあーまー、だっけ。……ほしくなるよね」
 とはいえその気持はわかるのか、『小さな騎兵』リトル・リリー(p3p000955)が破壊されたコンテナに身を隠しながら語った。
 実のところ、別に珍しいというほどでもない兵器である。あるところにはあるというか、随分前に練達から輸送された覚醒超人壱号なる二足歩行式パワーアーマーの強奪事件にローレットは関わった事がある。他にも数件ではあるが、似たような事件はあった。
「うーむ……いっそ技術を手に入れられないものだろうか?」
 『流麗の翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)が基地管理管のゲルツェーノフと交渉を行っていた。
「おいおい勘弁してくれ。奴らうちからパクッた兵器であいつを組み立ててるんだ。実質的な横流しになっちまう。まあ、どうしてもって言うんなら解析を手伝ってもらってもいいぜ? 物資はやれねえが、自前でどっかで組み立てる分には文句も出ねえだろう」
「ふむ……あまり現実的ではない、な」
 説明書どおりに組み立てたとてそのとおりにならないのがこの世界のルールである。もし説明書どおりになってくれるなら、今頃練達がとんでもないことになっているはずだ。
「ぶはははっ、それにしても剛毅なもん作ってくれてんなぁ。
 俺の『牡丹』とどっちが硬いか、比べてみるのもまた一興ってやつだな!」
 などと言いながら、基地の掃除用具ロッカーに自分をぎゅうぎゅう押し込んでいく『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。
 もとの体型からしてまず入らなそうだが、ぶしゅーと蒸気を発しながら己を閉じ込めていた。
 それを見ていたレイヴンの脳裏に『スモークウィンナー』という単語が浮かんだが、頭をふってかき消した。
 その一方。
 『名乗りの』カンベエ(p3p007540)はゲルツェーノフから借りた軍服に袖を通していた。
 まあ軍服といってもちゃんと規格されたものではないらしく、この基地周辺の部隊に一括で配給されている防寒着であるらしい。
 これを来ていればここの兵隊に見えるだろう、とのことである。
「しかし、ちょいと袖があまりますね。ワシが小柄だからでごぜえましょうか?」
「カンベエが小柄なら、私はもっとですわ」
 『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はあまり過ぎてだぼついた袖をぱたぱたと上下に振ってみせた。
「ここの兵隊さんはだいぶ大柄でしたのね……」
 ヴァレーリヤはサイズの大きなシャツとジャケットをだぼついたまま着込むと、袖を折って軍帽を被った。
 見る人が見るとだいぶキュンとする絵面である。
 それに急に配備されて制服のサイズがあってないようにも見えて、今回の偽装にはちょうどよかった。
「ついでに怪我の偽装もしておきましょう。カンベエ、腕を出して」
 手や顔に包帯を巻き付けて、いかにも怪我をしていますというふうに偽装していく。ついでに人相も隠せて一石二鳥だ。
 そうこうしてると、リリーのあげていた観測ファミリアーが基地に近づくパワーアーマーを発見。
 総員に作戦開始の合図を出した。
 パワーアーマーの接近は北から3機、東から2機。武装した鳩系飛行種が針葉樹林の上を飛行し、ファミリアーへの牽制射撃を行った。偵察できたのはここまでで、歩兵の所在はわからなかった。
「回り込んだ伏兵の危険もあるか……。いや、それでもこっちの作戦は変わらねえ。せっかく鉄壁なメンバーなんだ。活かしていこうぜ!」
 と、掃除用スチールロッカーは語った。

●獣の狩りは成功を確信できなくなった時点で終る
 イレギュラーズの作戦の巧みさを語るべくあえて、獣人族シルヴァンスのひとりフレアナットの視点から語ることとしよう。
「やっこさん、慌ててバリケードなんざ組んでやがるぜ。俺らの接近に気づいて悪あがきってか?」
 小型コンテナの残骸を一生懸命押して北側フェンスの穴を埋めようとする赤髪の女性がひとり。大声をあげて慌てふためく黒髪の男性がひとり。
 どちらも軍服を着慣れていないことから間に合わせの兵士だと、フレアナットは判断した。
 アーマー内に設置された伝声管から小声で周囲に呼びかける。
「おめえら、一気にいってあの二人を潰せ。でもって完全鎮圧の後に物資をいただく。いいな?」
 パワーアーマー鐵鋼号3機が、ガトリングガンやヒートブレードを構えた姿勢でキャタピラの足をはしらせた。

 さて、視点は戻ってカンベエ。
「き、来た! もう……もう駄目なのかーーッ!!」
 林を切り裂き飛び出してくる3機のパワーアーマーに対し尻もちをついてみせ、手をかざす。
 恐怖に歪んだ表情。カンベエを確実に狩るためか、至近距離まで迫った鐵鋼号がヒートブレードを振り上げた――その瞬間。
 カンベエの表情がにやりと不敵な笑みに変わった。
「――!」
 奇襲の察知。
 フレアナットは操作レバーを素早く動かして急速に後退した。
「ぶはははははッ!」
 掃除ロッカーの蓋を吹き飛ばし、まるでロケットのように飛び出した身体を丸めたゴリョウが回転しながら飛び、後退しはじめた鐵鋼号たちに閃光弾を打ち込んだ。
「着弾んんん……今ぁッ!」
「ぐおお!?」
 大きく傾きつつも姿勢を立て直すフレアナットの鐵鋼号。
 同行していた2機も同じく姿勢をもどしたが、一方は踏ん張りきれずに転倒した。
「引き返せ、罠だ!」
「フン、罠だってんなら、かかっちまったらそれまでよ」
 鐵鋼号の中で小柄なカンガルー獣種が血を吐きながら笑った。
 ごう、と炎が燃え上がる音。
「そのとおり、ですわ!」
 空中にブルーとイエローの錯覚現象を起こしながら尾を引いた光熱のメイスが、カンガルーの機体を激しく殴りつけた。
 ヴァレーリヤのメイスアタックである。
 打撃とともに走った炎が波となり、フレアナットは機体に仕込まれた展開式増加装甲を前方展開。ガードにかかった。
 と、この段階で目を細めるゴリョウ。
「歩兵がいねえ。東側の2機も出てこねえ。なんだ……!?」
「北側の罠にかかった様子もない。あっちから来たのはパワーアーマーだけだったか? ……まあいい」
 コンテナに身を隠していたゼフィラが飛び出し、閃光弾が打ち込まれた地点めがけて飛び込んでいった。
 ニードルガンによってダークムーンの魔術杭が打ち込まれ、周囲に闇の力が広がっていく。
「『脅威にならない程度の待ち伏せ』と認識させる作戦には成功した。だから正面から主力の半数以上が攻め込んできた。そうだろう?」
 頑丈なパワーアーマーを完全に破壊するにはまだ足りない。
 リリーとレイヴンはそれぞれ飛び出し、さらなる苛烈な攻撃を打ち込んでいった。
「ころしちゃったら、ごめんね。でも、くるのがわるいんだよっ?」
 リリーは『百合式式符・黒炎烏』『XLINE/アルラトゥ』『サモン・ヨルムンガンド』『呪術』をひとセットにした最短四ターン(40秒)のコンボアタックを仕掛け、一方のレイヴンは二体のパワーアーマーを撃ち抜ける位置に肉薄して大弓を構えた。
「ゲリラは其方の十八番だろうが……今回は奇襲される側だ……!」
 打ち込んだ魔砲がパワーアーマーを撃ち抜いていく。
 流石にここまでの襲撃をうけて全機無事でいられるはずもなく、カンガルー獣種の機体が爆発。コックピットから緊急離脱した獣種は『あとは任せたぜ』と言って一目散に逃げ出した。
 なんという逃げ足。追いかけるのも諦めたくなるほどの素早さで森を抜けていく。
 が、もとより追いかける必要はない。
 撃退できればそれでいいのだ。
 しかし残る兵力が気になる……と思っていたその矢先。
「行ぐダ!」
 上空にスタンバイしていた鳩飛行種の男がサブマシンガンを両手に持って急降下射撃を開始。
 命中率こそ低いものの、その場にいるレイヴンたちを足止めするのが目的であることは感覚でわかった。
 つまりは……。
「あっちも囮か!」
 振り返る。
 東側のフェンスが打ち破られ、2機のパワーアーマーが突入してきた。
 こちらに目もくれずにコンテナの切断を開始。ぎゃりぎゃりと激しい音をたてて外装を切り裂き、火花を散らす。
 だがこちらとて伊達に囮作戦をたてたわけではない。
 残存していたメートヒェンとハッピーがそれぞれ基地東側へと急行した。
「おっとお!」
「お嬢さんどこ行くのー?」
「僕らと遊んでよ」
 身長1m程度の、小柄なネコ獣種三人組がコンバットナイフを手に立ちふさがった。
 それだけではない、新たに現れた残りの歩兵たちが小銃やナイフを手に合流。一部は北側の援護へと走った。
「なかなか『愚かじゃない』判断をするじゃないか」
 走るのをやめ、戦闘の姿勢をとるメートヒェン。
「んーーーーー! 作戦変更! こっちはなんとかするから誰か来てー!」
 ハッピーはそれまで我慢していた大声をここぞとばかりにあげると、自分をマークする猫獣種たちへと掴みかかった。
 その上を飛び越えてナイフを突き出すネコ獣種。メートヒェンは飛び蹴りでナイフの軌道を強制的に捻じ曲げ、さらなるスピンでネコ獣種を蹴り飛ばした。
「多数。獣種。それに知恵の回るゲリラ……か。なかなか手ごわいものだね」

 リリーたちによる現状への分析を語ろう。
 北側に負傷兵に偽装した二名を配置し油断を誘う作戦。これは充分に成功した。
 が、この時点で『成功させすぎてしまった』とも言えた。
 パワーアーマー鐵鋼号5機+歩兵10人で襲撃にあたろうとしていたシルヴァンス魔動戦騎部隊は兵士二名程度なら他の兵を温存したまま鎮圧できると踏んで、鐵鋼号3機のみで襲撃を開始。
 その様子を上空から観察していた鳩獣種がなんらかの通信手段(ハイテレパスだと思われる)で東側の兵に温存を命令したのだろう。
 鐵鋼号3機を撃破するにあたって5名のイレギュラーズ戦力は充分すぎたが、逆から言えば時間稼ぎができる程度の戦力差でもあったようだ。
 魔動戦騎部隊は3機を囮にして東側から襲撃。物資を取れるだけ取って撤退する作戦に切り替え始めた。
 これに対し残存兵力であるメートヒェンとハッピーが東側に急行。随伴歩兵たちがこの二人を足止めする形で、現在は動きが止められた状態にある。
 この状況を打破しこちらの勝利条件を満たす方法はいくつかある。
 足止めの歩兵を鎮圧し、東側への攻撃を開始すること。彼らも戦闘状態に入れば強奪の手を止めざるを得ない。
 もしくは囮となっている北側戦力を高速で撃滅し、東側の戦力をも撃滅すること。強奪をある程度許すが、敵の目的が『基地の壊滅』ではなく『物資の強奪』であるため北側戦力壊滅の段階で撤退するだろうという見込みも出る。
 このうち、イレギュラーズたちは二つの間をとることになった。

●盗人と守人
「ぶはははっ、どうした鐵鋼号!豚一匹ハチの巣に出来ねぇのか!くっ付いてるそいつぁ豆鉄砲かぁ!?」
「そのパワーアーマーを置いていくなら穏便に手を引くけど?」
 ゴリョウ、レイヴン、リリーの3人は引き続き北側の残存鐵鋼号2機を相手取り戦闘を続けていた。
 ゴリョウがはじめに述べたようにこのチームはタンク担当が多い。ゴリョウのハイウォールで2機を同時にブロックしつつ、レイヴンが遠距離攻撃でダメージを稼いでいく作戦が容易にとれた。
 が、それだけだとレイヴンたちがガトリング射撃の的になってしまうので、招惹誘導によるヘイトコントロールをひたすらに連発していた。
 リリーは変わらず例の四ターンコンボを繰り出し、レイヴンは魔砲による2機同時攻撃を集中。レイヴンはともかくリリーは攻撃射程距離が短いため、ゴリョウのヘイトコントロールから外れた鐵鋼号や射撃支援を行う歩兵たちの攻撃を受けやすかった。
 それでも、敗北するほどの状況ではない。

 一方でカンベエ、ヴァレーリヤ、ゼフィラの3人は東側から援護に来ていた歩兵たちの撃退を担当。
 というのも、ゴリョウたちタンク担当が歩兵にサンドされて拘束されたら浮き駒化してしまうためである。
 数で押されることだけは、今は避けなければならない。
 ゼフィラは陣形の中心からダークムーンでの識別範囲攻撃を数発打ち込み。APが尽きたところで通常攻撃にシフトした。
「さてさて、あまり戦力にはなれないが上手く立ち回ろうか」
「ここはワシが――」
 カンベエは小銃を構える歩兵たちの前にずずいと出ると、手のひらを上にして名乗りの姿勢をとってみせた。
「なんと、わしが名乗りのカンベエで御座います!!
 自らの主張の為手を取り合い立ち上がったその意気良しや
 しかし、闇雲に力を振るうは蛮族も同義! ここはひとつ成敗なされよ!」
「こ、こいつ……!」
「攻撃ダ! 攻撃するだ!」
 低空飛行状態で旋回する鳩飛行種の号令に始まり、カンベエめがけての至近距離からの集中砲火射撃が開始される。
 カンベエはそれを気合で防御。
「伏せてくださいまし!」
 コンテナへよじ登り、助走をつけてジャンプしたヴァレーリヤがメイスを高く振り上げた。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを』――」
「ああっ――!?」
 上を取られたことを察して振り返る鳩飛行種。
「『憐れみ給え』!」
 打ち込まれた茜色の砲撃が、鳩飛行種と別の獣種たちを巻き込んでいく。
「て、撤退! 撤退するだ! 命あってのモノダネだべ!」
 ばたばたと怪我した腕をかばいながら走っていく鳩飛行種たち。

 その一方で、ハッピーはネコ獣種たちの集中攻撃にさらされていた。
「わーーーーー!?」
 たちまち蜂の巣になるハッピー。
 とみせかけて、しゅいんと穴がふさがった。
「ど、どうなってんだ!?」
「ごめんね私幽霊だから! 幽霊ってこういうものだから!」
「説明になってねえ!」「畜生倒せねえならせめて取り押さえろ!」
 両側から腕を掴まれるハッピー。しかし真横にいるネコ獣種の耳元でワーッと大声を上げることでネコ獣種を気絶させた。
「こいつ、まともな戦い方が通じねえぞ」
「どうする、今の装備じゃ手に負えねえ」
 と、言っている間に横を駆け抜けていくメートヒェン。
「色々段階を飛ばして――大物狩りをさせてもらうよ」
「――!」
 接近を察した鐵鋼号が振り返りガトリング射撃。
 メートヒェンは地面に片手をついての宙返りをかけながら急速接近。弾幕をすりぬけるよに走り、コンテナ側面を蹴って跳躍すると、鐵鋼号のターレットレンズを膝で蹴り潰した。
 同時に、鳩飛行種の『撤退!』という声が響く。
「チィ、まだ全部いただいてねえのに……仕方ねえ! ズラかるぞ!」
 鐵鋼号はキャタピラの足を左右逆に走らせ急速反転すると、その場から猛烈な速度で逃げ出した。




 こうしてノース331の防衛に成功したイレギュラーズは相応の報酬を受け取り、北鉄帝より帰ったのだが……。
 これが最後の出会いになるとは、とても思えなかった。
 ノーザン・キングス連合王国。これからも、彼らと鉄帝の戦いは続いていくだろう。
 そしてローレットの次なる出番も、きっと近い。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ノース331の防衛に成功しました
 獣人族シルヴァンス魔動戦騎部隊の情報を獲得しました

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