PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ノルニルは見てるだけ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ちょうど夕暮れ前の事だった。
 依頼でもないかと、イレギュラーズは根城(ぎるどろーれっと)へ足を伸ばそうとしていたのだが。

 雨のにおいを感じて、空を見上げれば案の定。ぽつり、ぽつりと来たものだ。
 そのまま歩ききってしまうには、いささか勢いが強まってきた。
 さてどうしたものかと辺りを見回し、最初に視界へ飛び込んできたのは一枚の黒板だった。

 ――カフェ&ダイニング ノルニル

 少々古めかしいが小綺麗な建物だ。
 黒板に記された価格は、ごく庶民的――よりはもう少し高価ではあるが。
 さしたる出費でもなかろう。
 塗れて風邪でも引くほうが余程問題となろうから、ここは入ってしまうのが吉だ。
 そんな風に思ったかは兎も角、イレギュラーズは重い木戸を引く。
 乾いたベルが鳴り――


「やー。参った参った。助かったよ」
 店に入ったイレギュラーズの後ろから、吟遊詩人が現れた。
「楽器が濡れると困っちゃうんだよねえ」
 勝手にしゃべり続ける詩人は、そのままカウンターに陣取る。
「マスター。ボクに――おっと悪いね。キミがー、そう。先だったね。それじゃお先に。ド、ウ、ゾ」
 急に言われましても。
 視線を合わせた途端、詩人は眉間に皺を寄せる。
「ひょっとしてキミ……というかキミ達。ローレットのイレギュラーズかな?」
 まあ、そうではあるのだが。辺りの客も確かに知ったような顔ばかりだ。
 偶然というでもなかろう。大方ローレットに向かおうとしたのか、あるいはその帰りか。そんな所だろうから。考えることは皆同じという訳だ。
「いやー良かった。ボクはね、丁度ローレットにお邪魔しようと思ってたんだよ。いやーツイてるね。ボクがネ」
 返事も待たずに詩人は話し続ける。そうしなければくたばるギフトでも持っているに違いない。
 無駄に美声なのも腹立たしいが、うさんくさい男である。

 して何用なのか。なんとなく尋ねるのも癪で黙ってみるが。どうせ自分から長々と語るに違いない。そこだけは、否応なく分かろうと言うものだ。
「いやね。最近いーい曲が、これっぽっちも書けなくてね。噂の勇者様方にお話を聞かせてもらおうと思ってサ」
 ほらきた。
「あー。もちろんタダとは言わないヨ」
 報酬は出るらしい。本当か? それで何をすればいいのか。
「ボクはこれでも売れっ子なんだ。ちょっとだけネ」
 うーん。
「あー伴奏は付けるから」
 それはいらねー。
「うんモチロン、伴奏はタダにしとくよ。マスター、演っていいよね?」
 いーらーねーーー。
「あいよ」

 とは言え、何を語ればいいのか。
「そう。お困りのようだネ? たとえばそうそ! 何を語ればいいのか」
 いちいちウザったらしい男だ。
「この店。さっき知ったんだけどネ。『ノルニル』て言うそうじゃないか。運命の三女神様ダネ?」
 ダネじゃねえし。
「そうそうボクはちょっと占いに詳しくてネ、ほら。占いってのは、あー。良かったり、悪かったりする」
 話が逸れてきた。
「うん。そうだね。そういうワケで。キミらに語って貰いたいのは『過去』か『現在』か『未来』のいずれか」
 なるほど。
「例えばーほらほら。誰が好き~とか、色々あるじゃないかって聞いてない? 聞いてくれない? もう説明はいいの、カ、ナ?」

 絶妙にイラっとする感じだが。
 まあ。雨が止むまでの暇つぶしにはなる……のかもしれない。

GMコメント

 pipiです。
 ちょっと一休みしましょう。

 最近新しくローレットへ入った方も、何度も依頼をこなしている方も。
 あるいは歴戦の勇者も。
 せっかくなので自分自身を見つめてみませんか。

●カフェ&ダイニング ノルニル
 小さな喫茶店です。
 お客は例のウザい詩人と皆さんしかいません。

●目標
 最低一名ぐらいは自分について語ってあげること。

●出来ること
 出来る限り具体的に語りまくるのが良しでしょう。
 難点として。皆に聞かれちゃうし、ひょっとすると歌になっちゃうんですけども。

『自分語り』
・過去
 過去、あなたが何者だったのか。
 どこから来たのか。
 生い立ちや故郷のことでもよいでしょう。
 思い出でもなんでも結構です。
 つまり『設定を煮詰める』時間なのだ。

・現在
 今、あなたが何者なのか。
 普段何をしているのか。
 日常でも冒険でも構わないでしょう。
 印象に残った依頼の話などでも良いでしょう。
 つまり『所属ギルド』や『思い出のシナリオ』『装備』を語る時間なのだ。
 ※参加していないお友達については、名前は伏せられちゃうかもしれません。

・未来
 あなたは何者になりたいのか。
 目指すべきもの。目指すべき場所。
 つまり『目標を定める』時間なのだ。

『ティータイム』
 お茶やケーキがあります。お友達とおしゃべりしてもいいでしょう。
 軽食やお酒もいけるようです。パスタとかサンドイッチとか。
 詩人を無視してもいいですし、食べながら相手してもいいでしょう。

 未成年の飲酒喫煙は出来ません。UNKNOWNは自己申告です。

『その他』
 カフェで出来そうなことは出来ます。

●詩人クライサー
 うっさんくさい吟遊詩人です。
 ヘッドが二股の珍しいリュートを抱えています。
 無駄に美声。
 イラっとくる性格です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • ノルニルは見てるだけ完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年11月08日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
円 ヒカゲ(p3p002515)
マッドガッサー
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
彼岸会 空観(p3p007169)
エミール・オーギュスト・ルノディノー(p3p007615)
月明かりのアリストクラット

リプレイ

●『遠足ガイドさん』レスト・リゾート(p3p003959)の場合
「あら、ローレットの子のお話を聞きたかったの?」
「そうそ、そうなんだよ」
 詩人はティーカップをどけながら、リュートを取り出す。
「それを歌にしたいってワケさ」

「お話するのはいいけれど……良かったらあなたのお名前を教えていただけないかしら?」
「ああ、これは失礼」
 レストの言葉に詩人は大げさな身振りで両手を広げる。
「ボクは、ンー、そうだね。クライサー。しがない吟遊詩人だよ」
 なぜ言いよどんだのか、この詩人。
「クライサー…クライサーというのね?」
 レストの念押し。その視線に詩人は、それとみて分かるほどにたじろぐ素振りを見せるが――
「ええ、おばさん覚えたわ」
 もう一度念を押す。
「おばさんはレストというのよ、よろしくね~」
「ううーん。ボクのほうからもヨロシクネ。レストお姉サン」
「あらあら」
 さて。では語る前に大切なことを。
 レストはふわりと微笑むと振り返り。

「ますたぁ~、ここで一番スペシャルなパンケーキをお願い~。この、クライサーちゃんのおごりでね~」
「あいよ」
「ぇ、ぁ~……うん、任せて、くれたまえよ」
『イイネ☆』

 まずは未来のお話を――
 レストの父母はホテルや観光地の経営をしていたと言う。
 仕事には移動が付きもので、彼女は小さな頃から一緒に旅行をしていたそうな。
「それがきっかけかしらね?」
 彼女が旅を好きになったのは。

 特異運命座標となりローレットで仕事をすることになって、始めた戸惑ったと言う。
 だが今では、いろいろな場所に『お出かけ』出来る喜びを知った。

 この世界にももっと、ホテルや観光地を作りたい。
 その地の住人には何気ない日常でも、旅行者にとっては宝物のような時間が過ごせることを、彼女は知っているのだ。
「誰かが素敵な旅をする為のお手伝いがしてみたくって~。
 それと、お仕事で出会った優しい怪物や、行くアテの無い子を従業員として迎え入れる計画もしているの」
「へぇ! 魔物をですか?」
 世界を旅し、観光地を増やす。素敵な従業員も増やして――

「ねぇねぇ、楽しそうだと思わない~?」
「いい歌になりそうです」

 そんな頃。
 パンケーキの美味しそうな香りが漂い始めた。


●『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の場合
「それじゃ、お次は?」
 しかしこんな所で雨とはついていない事もあるものだが――
「ふっふっふ……私ですわ!」
 クライサーを前にしたヴァリューシャは、なにやら不敵に笑う。
「何か良いことでも?」
「こんなチャンス、滅多にありませんもの!」
 そのワケは。
 あわよくばクラースナヤ・ズヴェズダーの歌を作って貰い布教の足しにしてもらう算段がついたのだ。
 まさに『主のお導き』である。
「いやあーハハ。教義とか歴史はー、売れないんだよねえ、これ」
「そんなあ……」
『エエー、イイジャン♪』
 がっくりうな垂れる彼女だが、すぐに気を取り直す。
「うーん、では私自身のお話ではどうかしら。教派のお話も少し絡むけれど、これなら良いでしょう?」
「それなら是非! よろこんでお伺いしましょ」

 彼女の名はヴァレーリヤ。クラースナヤ・ズヴェズダーの司祭である。
 鉄帝国は力無き者が生きづらい国。
 だがいつの日か、誰もが豊かに暮らせる国に出来たら、そこへ一歩でも近づけたらと思っている。
「そこはー。ボクの知る通りだね」
「まあ!」
 知っているのか、クライサー。
「これでも吟遊詩人だからね。ウン、続けて」
「最近変わったことと言えば……そうですわね。大きな農場が出来ましたわ!」
 彼女は言う。募った寄付の使い道は、炊き出し等の施しだけではないのだと。
 資金を元手に働ける場所を用意することを始めたという訳だ。

「いやあ、キリギリスの性分には耳が痛いね」
「生き方は人それぞれ、誰しも――」
「あー、説法は。その。本題を。どうぞ続けて」
 こほん、とヴァレーリヤは話を戻す。

 最近までただの湿地だった場所も、切り開き、開墾し、麦を植えたなら。
 収穫の秋。一面に広がる黄金の波は――
「ものすごい眺めですのよ? 今から、収穫の時期がとっても楽しみでございますわー!」
「そいつはイイじゃあーないか!」
「夏になったら、きっと来て下さいまし!
 豊かに実った麦の海をお見せしますので!
 スチールグラードの近くだから、きっとすぐに分かりますわっ!」

 なるほどなるほど。詩人が唸る。
 これは来年が楽しみだ。

●『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)の場合
 ため息交じりのサンディと視線を合わせた。
 せっかくレディ達と雨宿りなんてタイミングで、変な詩人に捕まってしまったものである。
 いや、だが。
(むしろ今のうちから詩で広めてもらえば……?)
 ワンチャン!

「それじゃあキミは。過去? 現在? それとも……ミ・ラ・イ?」
「……っつってもなぁ」
「さあさ、どうするどうする?」
 しかしこの詩人。絶妙にイラっとくるヤツだ。

 ともあれ。まず過去はどうか。
 イレギュラーズとなる前は孤児、そして盗賊。『良い話』ではない。
 面白みもないと彼自身は思う。
「いやいや、クワシク。そこんとこ、クワシク」
「食いつかれてもな」
「あー、ちょっとでいいから」
「それよかあれだろ?」
 練達の凶悪ロボット『Hades01』を倒した話。
「聞きたいだろ?」
「あー、イイ! それもスゴク、イイ!」
 詩人が食いついた。
 歪だが隙の無い装甲。ナパームボム。ホーミングミサイル。最強の砲塔――イクリプス・レーザーを受ければひとたまりも無い。
「しかもあれだぜ? 魔種でも退治しにいくなら良い装備なんだろうが、コイツの造られた目的なんだったと思う?」
「なんだったので?」
「『思い人が振り向いてくれないから周囲ごと一度冥府に送る』だぜ?」
 とんでもない話だ。
「冥府から連れ戻す方法はその後考えるんだと。
 まー確かに、マッチポンプじゃなきゃ多少はドラマチックかもしれないけどさ」
 そんなロボだが内部からの衝撃には脆かったようだ。
「なるほど、なるほど」
 仲間が死力を尽くせるよう、サンディは身を張ったという訳だ。

「……何度『もう死ぬ』と思ったか分からねぇ」
「実にドラマティックじゃあーないか!」
「うーん。やっぱ『俺がヤツの動力炉を貫いた』とかのほうが格好いいかな。ま、うまくやってくれよ!」
「そこはモチのロンで! やっておきますとも! ね!」
「なんだかなあ」

 無意識に『devil's proof』を起こしているサンディであったが。
 果たして『記録』されるのか。
 それはここでは語られぬ話であれど――

●『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)の場合
「今までわたしは、海の中の、素敵なものを、いろんなところで、語ってきましたの」
 それはそれで聞いて欲しい話ではあるのだが――

 次に促されたノリアは、そうしてぽつりぽつりと話し始める。
「記録、そういうのもあるんだね! いいのかい? ボクが!?」
 もしもローレットで見せて貰えるなら、それで事足りよう。
 だから彼女が選んだものは。
「きょう、お話することは、まだ、誰にも話していないこと……」

 それは空想に近い。将来の夢。

 ノリアは海も。この通り空中も泳ぐことが出来る。
 少しばかりなら『物の中』、その気になれば『もっと高い場所』とて同様。
「でも……ふと、思うことが、ありますの」
「それは?」
 もっと様々な泳ぎ方を知り、もっと空高く、あるいは海や土深くを泳げるようになったなら。
「いったい、どこまで、ゆけるでしょうか?
 どんな、素敵なものを、見つけられることでしょうか?」

 語られたのは、まさに未知への探求である。

「考えたことはー、なかったネエ!」

 前人未踏の旅、一人は不安だ。
 そんな時に、もしも『いつも隣』に『大切なひと』が居てくれたなら――
「ほんとうに、命尽きるまで、どこまででも、ゆけそうですの……」
 ノリアは瞳を伏せる。
「なぁーるほどね!」
 彼女は――自然の掟のただ中を泳ぐ、何よりも儚い生物に思える。

 そして境界図書館に行った後のこと。
「だんだんと、いっそう、そんな気持ちが、強くなって、きましたの」
 今とて海も陸も、泳げていない場所ばかりであれど――
「きっと、詩人のかたにとっては、昔のことばかり話すより、ずっと、聞きがいのあるものになったと、思いますけれど……」
 ノリアが顔を上げる。
「いかがでしたでしょうか?」
 詩人が身を乗り出す。
「その、それ、それだよその。
 境界図書館って、ボクぁ気になるな! くわしく!」

 お後がつかえていらっしゃるようですので。

●『月明かりのアリストクラット』エミール・オーギュスト・ルノディノー(p3p007615)
 時々思うことがある。
 家族は今頃どうしているだろうか――と。
 語り出すエミールの面持ちは優しげで、しかし瞳の奥に宿す光は昏い。

 彼の家は、とある貴族階級であった。
 貴族とは言っても没落寸前で、ほとんど財などない。
 彼は運命に身を任せて生きていく気など、まるでありはしなかった。
 家から金――路銀と装備を調達するための、ほんの些細な――を持ち出した彼は、そのまま家を飛び出し冒険者になったのである。

 そのように飛び出したからには、そもそもエミールはあまり家族を好いていない。
 優秀な長兄は鼻持ちならず、両親の愛は偏り、元から居場所などなかったのである。

 唯一。姉だけはエミールを気にかけてくれていた。
 だから彼は姉のことだけは好きだったのだ。
 家から出るように促したのも姉だったと言う。
 姉は教養もあり、賢かった。家が没落したとて、良家息女の家庭教師として食い扶持があるから――大丈夫だと『思います』。

「思う――んだね?」
「……いや、どうでしょう。私がそう思いたいだけかもしれません」
「なるほど、なるほど!」

「だから、時折彼らのことを思い返してしまう訳です」
 エミールが出奔した後、彼等は本当に没落してしまったのか。
 案外、持ち直して幸せに暮らしているのかもしれない。
 或いは――
 暗い予測が的中したとして、あざける気持ちはない。
 ただ――
「ただ『どうしているだろうか』と、思わずにはいられないだけです」
 途切れる言葉に合わせ、詩人は小節の切り替えにフィナーレを添える。

「それじゃあ、どうだろう。家名を伺っても? こっそり、こっそりでいいからサ!」

 そう言って耳を近づける詩人に、エミールは――

●『フェアリーミード』ティミ・リリナール(p3p002042)の場合

 一同の視線がティミに集中する。

「――私」

 彼女が語るのを、耳を澄ませて待っている。

「私、は……」

 けれど彼女の視線は、詩人の瞳から卓上に下がり、そのまま靴先へ落ちる。

「あの、その……」

「ああー。ごめん、ごめんね。そんなつもりじゃないんだ」
 詩人がしきりに両手を振る。

 そんなティミの過去――

 記憶の中で、最も古いものを手繰るなら。
 それは暖かな日だまりと、やさしい子守歌だった。
 頭を撫でてくれる大きな手。
 幸せな。さながら『繭』のような、ふわふわとした光の中。
 兄と姉が、ティミを育ててくれた。
 毎晩、覚えることも、疑うこともなく。
 無条件の希望を持って眠りにつくことができた。

 ――それは、決して戻ることのない。
 消えてしまいそうで、握りしめて放すことのない追憶。魂の支柱。

 兄と姉は、眼前で死んだ。殺された。
 手を伸ばしても泣き叫んでも、もう動かなかった。
 こうしてティミは『ご主人様』に買われることとなった。

 やさしい『ご主人様』は、とても優しかった。
 泣けばどこからともなく現れ、抱き上げ、涙を拭いてくれた。
 彼女は少しずつ、暖かな気持ちを取り戻していった。
 好きになっていた。

 初めの違和感は、奴隷仲間のマリーが倒れた時だ。
 マリーを助けているとき、ご主人様は嗤っていた。

 それからだ。
 大好きな『ご主人様』は突如ティミを叩き、怒鳴る。
 なのにその後、とても優しい『ご主人様』に戻る。
 別人のようで。
 けれど、どんどん分からなくなった。

 ご主人様の命令で奴隷仲間を殺した。
 ご主人様の命令ならこの身を捧げた。

 支配されていたと自覚したのは、ほんとうにごく最近の事。
 今でも悪夢を見る。
 今もどこかで見ているのではないかと。
 見つかってしまうのではないかと。

「まだうまく言えなくて」
「いいよ、いいよ。けど、いつか聞かせて。ネ!」

 肩を震わせるティミに詩人はおどけた。

 過去を縛り付ける鎖は、その棘は、いまも刺さったままで――――

 詩人の眼差しは、ご主人様とはまるで違う。
 けれど。その目はどこか――

●『天義の希望』彼岸会 無量(p3p007169)の場合
「己の事すら儘ならぬ私が私を語るのは滑稽ではありますが」
 無量は一つ『今と此れから』を語る心算であるが。
「先に詩人さんにお聞きします。自身の未来はどう在ると、どう在るべきとお思いでしょうか」
 目指すべき境地を問う。

 詩人は口をすぼめて目を見開き、己が顔を指さした。
「ボクはね! 印! 税! 生! 活! かな!? 最後は、孫に囲まれてー」
「――なるほど」
 おそらく詩人は嘘をついているが、無量は涼しい顔で受け流した。
「それよりそれより、お願いッ!」
 仕方在るまい。

 この世界に召喚された無量は、何を知るより速く、為すべきを為した。
 かの有名な天義争乱の折、彼女はまず『佰捌つ』を斬り伏せたのである。
 理由という理由などありはしなかった。
 ただ己が驕りを断ち切らんが為に、其れを斬ったのである。

「其れらには親兄弟や伴侶等も当然居りましたでしょう」

 命乞いをしたモノ。同情を誘おうとしたモノ。
 善を斬れば痛む第三の瞳を抑えた彼女は、かの国に――
 あろうことか『天義の希望』と称された。
 ただ己が理の為に命斬り伏せた彼女を、天義の民はそう呼んだ。

「仏……天義で言う神に近しいものの教え、智慧に十二光と言う物があります。まるでそれに縋る様に」
 私には業しか無いと言うのに。
「で在れば」

 ――目指す所が自身の眼から見て絶えず同じでも。
 その時、その場所、見る者の視点に因って己の在り様を変えられてしまうと言うのであれば。
 未来の己が在り方すらも諸行無常となりましょうや。
 なれば私に目指すべき境地は在らず――

「貴方は先程私達を指してこう仰りましたね」

 噂の勇者様方と。

「今貴方の目に、私はどう映って居られますか」
 勇者でしょうか、其れとも……
「詠って頂けますか? クライサーさん」

 無量は詩人の瞳に宿る、微かな喜悦を見逃さない。

「私、とても愉しみです」

「それじゃあ、あああ~。それは~希望!」

 下手な唄だ。
 だが――

 これは。この詩人は。
 ああ、同類――とまでは言わないが。
 におうのだ。

●『マッドガッサー』円 ヒカゲ(p3p002515)の場合
 コーヒーを飲み、足を組み。
 彼女は優雅に相槌を打っていたが。
「それじゃあー、キミの番、カナ?」
 さらりと記した文字は『オッケー☆』。
「イイね。続けて続けて」
 促す詩人に、ヒカゲはガスマスクを外した。

「まぁ、今回は俺の未来について話してみようかなと思う」
「おや、また違う。いいよ続けて!」
「……結論から先に言うと俺は俺でありづけること。何物にもならないこと。それが俺の目標だ」

 日本という平和な世界からやってきた彼女(との呼称は、或いは不適切かもしれないが)は、はじめ大層喜んだらしい。
 だがこの世界で過ごすと、ここではいとも簡単に人が死ぬことを知った。
 それが何よりもきつかったと述べる。
 詩人は何も言わない。その瞳はただ真っ直ぐにヒカゲを見据えている。

 依頼で人を殺した。
 その時の光景を――未だ毎晩夢に見る。

 その一方で、それを楽しんでいる自分も居る。
 ただの男子大学生だった自身でなく、『円・ヒカゲ』としての自身は、確実に楽しんでいる。

 じっと聞き入る詩人から、ふいに目をそらして。
 精神というのは、身体につられてゆくものかもしれない。
 日に日に、円・ヒカゲとしての意識が強くなっている気がするのだ。

「だから、男子大学生である俺を見失わずに俺は俺であり続けること――何物にもならないことが俺の目標だ」
 そう結び――
『まぁ、全部嘘なんだけどね☆』
 再びガスマスクとフリップボードに舞い戻る。

「そうそ! ってウソ!? ウソはないよー!」
『ウソ☆』
「ええ~~!? ホントはぁー!?」
『内緒だよ♪』
「ちぇえ~、いいもんいいもん。それじゃボク、ウソを歌っちゃうからね!」

 はてさて。どこまで本気なのやら。


 ――それで。

「詩人は?」
 一行があたりを見回す。
「あらあら。おばさん、約束したのに。どこにいっちゃったのかしら?」
『あれあれ? なんで?♪』
 誰もが。ほんの僅かな時間。詩人から視線をそらした気はする。

「詩人? どうしたんだ急に」
 きょとんとしたマスターの声に、一同は顔を見合わせた。
「さっきまで」
「ん?」

 テーブルには、いつ誰が置いたものかも分からない袋がある。
 中身はずしりと重い銀貨で。
 さて――どうしたものだろう。

 いつしか空は晴れ、夕日には虹が浮かんでいた。

「そういや知ってるかい。『虹の精』の話さ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 不思議なことですが、きっとあまり悪いモノではないでしょう。

 それではまた。皆さんのご参加を心待ちにしております。pipiでした。

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