シナリオ詳細
黄昏時の喫茶店
オープニング
●日が傾いた頃
空を見上げると真っ赤に染まっている黄昏時、小さな紙きれの地図を見ながら路面電車の線路の上をゆっくり歩く。煉瓦造りの時計塔、和と洋が入り交ざった不思議な館、大きな看板を掲げている小さな劇場
普段見慣れない建物を横目に、目的地である喫茶店にたどり着いた。屋根には瓦が敷き詰めてあるが、硝子窓から覗く店内はテーブルがあり、ソファーがあり、大正モダンを思わせる内装だ
取っ手に手をかけた瞬間、ふんわりと珈琲豆の香りが鼻を優しく撫でた。カランカランと戸に付けてあるベルの音が店内に響いた
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
と、髪がすっかり白くなってしまった年寄りが微笑んだ。年寄りはカウンターの内側でグラスを丁寧に一つづつ拭いている。恐らくこの喫茶店のマスターだろう
店内は窓から射す黄昏の明かりで照らされており、ゆったりとした葡萄茶色のビロードのソファーに腰を下ろすとその明かりがなんとも心地よく感じる。蓄音機で再生されるレコードの音楽は静かな女性の唄声だ。恋をする娘のことが歌詞になっている
暫くの時間が経ち、マスターが紫檀のテーブルに「失礼します」と水が注がれたグラスを置いた
「ご注文が決まりましたらお声かけください」
そう言うと、マスターはまたグラスを拭きにカウンターに戻っていった
テーブルの端に立ててあるメニューを持ち上げ広げる
『Menu
スープ ワッフル 珈琲
オムレツ ホットケーキ 紅茶
ビフテキ カスタプリン ココア
ライスカレー アイスクリン ミルク
ビーフシチュー 菓子 ミルクセーキ
野菜サラダ 果物 』
万年筆で書かれているであろう文字は所々擦れていてだいぶ使われているようだった。どれも魅力的なものばかり、だがどれにしようか悩めば悩むほどに時は進み腹は減っていく。「今日はこれにしよう」と決め、手を挙げると、マスターが顔を上げゆっくりと頷いた
「只今ご注文をお受けします」
――――
●日々の疲れに一息ついたら
「君達は、特異運命座標として日々奮闘しているけど、偶には落ち着いた喫茶店で美味しいものを食べて英気を養ってもいいんじゃないかな」
境界案内人のカストル・ジェミニはそう言うと微笑んで読みかけだった本を開いた
「大正時代って知ってる?日本っていうどこかの世界にある国が、異国の文化を沢山取り入れた頃の時代だよ。今日はそれによく似た世界へ遊びに行ってみない?レトロな喫茶店でゆっくりお茶するのもいいよね」
そう言ってカストルは本に挟んでおいた一枚の紙きれを一人一人に手渡した
「それじゃあ楽しんできてね」
- 黄昏時の喫茶店完了
- NM名伊与太
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年02月12日 22時45分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●
「へぇ、風情がある喫茶店だな」
『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)はカウンター席に座り、店内をぐるりと見渡した。
「……いや、むしろ、カフヱーって言った方が良いのかな」
「まァ、細かいことは別にいいだろウ。今日は羽を伸ばす日ダ。ゆっくりのんびり、過ごそうゼ」
赤羽の言葉に大地の口元が緩み「そうだな」と、少し古びたメニュー表を開いた
「いろいろ悩むけど、甘いものがいいかな。ふかふかのホットケーキ……うん、これがいい」
大地はカウンターに立っているマスターに呼びかた
「ホットケーキと珈琲を」
「はい。珈琲にミルクやお砂糖は」
「大丈夫だ」
マスターは「畏まりました」と軽く頭を下げた
大地は料理がくるまで蓄音機の静かな音に耳を傾けておくことにした
暫く経ってから運ばれたホットケーキは分厚く、五センチくらいありそうだ。それが二つ重なっており、その上に乗っているバターはとろりと溶けて、蜂蜜と絶妙に混ざり合っている。ナイフとフォークでホットケーキに切れ目を入れると、溶けたバターと蜂蜜とがじんわりと皿に広がる。一口頬張ると、ふわっと焼き上げられたホットケーキの甘い香りが口いっぱいに広がる。バターのしょっぱさも相まってとても美味しい
後から運ばれてきた珈琲をこくんと口に入れれば、甘いホットケーキと苦い珈琲が混ざり合って幸せな味がする
大地は注文したホットケーキをつまみながらお気に入りの本を開く。都会のコーヒースタンドとは違う、微かに聞こえる話し声と音楽は穏やかに読書をするには丁度いい。そんなことを考えているとカランカランと店の戸が開いた
「新しい客か?」
●
銀色の髪を揺らしながら、『その手に詩篇を』アリア・テリア(p3p007129)は煉瓦が敷かれた道を歩いていた
「へえ! なんだか不思議な雰囲気の街並み! あ、あの女の子の格好、かわいいなあ。ああいうのが流行りなのかなあ」
袴にブーツ姿の女学生達を見てアリアは目を輝かせた。アリアは近くにあった服屋に入り、彼女等を真似て着飾ってみる。紺の袴に、矢羽根模様の桃色の着物、焦げ茶色のブーツの爪先をトントンと地面に落とす。アリアはどこから見ても「ハイカラ」な女学生だ。姿見に写った自分を見たアリアはふふんと鼻歌を歌いながら喫茶店に向かった
●
「このまち、ふしぎなたてものがいっぱいだね?見てるだけでワクワクするな。色いろ見てまわりたいけど、今日はきっさ店にいくんだもんね。……あっ、爺はついてこなくていいんだから! 今日はおるすばんだよ!」
斜め前に座っていた執事に人差し指を向け、『バッドステータス坊ちゃま』リオーレ(p3p007577)は金の装飾が施されている馬車からぴょんと降りた。喫茶店から少し離れて止まらせたので、大正モダンな街を少し堪能しながら歩く。道すがらリオーレが今まで見たこともない不思議な建物に何度も出会う
その不思議な建物を追っているうちにいつの間にか喫茶店の前に着いていた
「ここかな」
リオーレが店の戸に手をかけようとした時
『大正浪漫な喫茶店でお茶会なんて素敵だわ! 楽しみだわ!』
「俺は嫁殿が楽しそうで嬉しいよ」
可愛らしい鈴を転がしたような声と、男性の落ち着いた声が聞こえてきた
「あ、ほおずきお兄ちゃんとおよめさんのお姉ちゃん! こんにちは」
リオーレは嬉しそうに声を弾ませ『お人形さんと手品師』黒影 鬼灯(p3p007949)と、そのお嫁さんに駆け寄った
『あら、こんにちはリオーレさん。これから入るところだったの?』
お嫁さんはにっこりとリオーレに微笑んだ
「うん!」
「それじゃあ入るか」
鬼灯が店の戸を開けると、カランカランという音と共にカウンターに立っているマスターの「いらっしゃいませ」という声が聞こえる
「あ、あそこの席がいいよ。きれいなお花がかざってあるとこ」
どの席に座ろうか考えていると、リオーレが奥にあるテーブル席を指さした
「そうだな、俺もそこがいい。嫁殿に店内を見せてやりたいしな」
嫁殿に店内を見せるためか、鬼灯は少し歩く速度を落とす
「まぁ、綺麗なシャンデリアに、絵画……見て鬼灯くん、カウンターの壁に沢山のティーカップが並んでいるわ!」
楽しそうにはしゃぐ嫁殿を眺めながら、鬼灯は幸せを感じた。「今日も嫁殿は可愛いな」
三人はソファーに腰を下ろすと、カランカランと戸が開いた音がする。入ってきたのはハイカラな衣装に身を包んだアリアだった
「アリアお姉ちゃんだ! こっちこっち」
リオーレの呼びかけに気づいたアリアは嬉しそうに三人の座る席に歩いてきた
「皆早いのね、私はちょっと寄り道しちゃった」
アリアはリオーレの隣に座りながら少し恥ずかしそうに笑った
『アリアさんのお洋服素敵ね! 私も着てみたいわ』
「うん、にあってるよ」
「ふふ、ありがとう。ここの雰囲気にいいかなって思ったの」
「嫁殿はこういう服も好きなのか……? 俺もとっても似合っていると思うぞ」
――それから一同は暫く談笑した後にメニュー表を開いた
数ある魅力的なメニューの中からあれもいい、これもいい、と悩む
そうして、ようやく決まると、鬼灯が手を上げマスターを呼ぶ
「ご注文はお決まりになりましたかな」
「ボクは、ミルクセーキかな! あとは、アイスクリン? っていうやつ!」
「ビフテキと、カスタプリンと、私もミルクセーキください!」
『あのマスターさん、このお店はスコーンは置いてらっしゃるかしら?』
「ございますよ。……ですが、普段はお客様にお出ししないので、内緒にしていただけますかな?」
マスターは、人差し指を口元にそっと当て、ふふと子どものように微笑んだ
『えぇ、勿論! あと紅茶ね! 暖かいのがいいわ!』
「俺はマスター殿のオススメがいいな、何がいいだろうか?」
「では、当店自慢のライスカレーなど如何でしょう」
「じゃあそれで」
「畏まりました」
マスターは頭を下げ、カウンターに戻っていった
料理が来るのはまだ暫く時間がかかりそうだ
四人はそれぞれこの世界で気になったものや、これから運ばれてくる料理のことを話した。それから鬼灯の名演技による忍者として忍び込んだ時のちょっとした面白エピソードも。敵忍者が手裏剣と間違えておにぎりを投げつけた下りは皆思わず吹き出してしまった
楽しい時間を過ごしていると、あっという間に料理がテーブルに並べられていた
「これが、ミルクセーキかな」
リオーレがクリーム色の液体が注いであるグラスを持ち上げる。ストローで一口飲むと甘い牛乳の様な、ちょっと変わったプリンの様な、不思議な味がする
「冷たくて美味しいわ。次はこのビフテキを食べてみようかしら」
ミルクセーキのグラスを置いたアリアの目の前には、鉄板皿に盛られた牛肉のステーキがじゅうじゅうと音を立てている
「ビフテキって、ビーフステーキのことだったのね」
『どれもこれも美味しそうね。鬼灯くんのもとっても美味しそうよ』
嫁殿の言葉に鬼灯は頷き、ライスカレーをスプーンですくい上げパクリと口に入れる。濃厚なルーとじっくり煮込まれた根菜が口の中で溶けた
「これは美味い」
それから四人はお互いの料理をシェアする。皆で食べているからか、美味しい料理はいつもより尚美味しく感じた
「……よかったら俺も混ぜてくれないか?」
先程まで読書をしていた大地だったが折角だから一緒に話そうと自分のホットケーキと珈琲を持って、四人に話しかける。鬼灯はすすっと奥側に詰め大地の座るスペースを作った。大地は鬼灯の隣に腰を下ろし、持っていたホットケーキと珈琲をテーブルに置いた
「ねぇ、みんなはすきなものとかある?」
アイスクリンを口に運びながらリオーレは言った
「ボクはね、おいしいものがすき! あまーいやつがすきだなぁ。まえ、チョコっていうあまーいやつたべたの!すっごいおいしかったんだぁ」
そうしてリオーレはうっとりとした表情を浮かべた
「好きな物……やっぱり私は音楽と歌かなあ。歌ったり演奏したり」
何か演奏できそうな楽器はないかとキョロキョロ見渡すと、小さなピアノが飾ってあった
「マスターさん、これ少しお借りしてもいい?」
ピアノを指さしたアリアに、マスターはにっこりと頷いた。アリアがピアノの鍵盤を押すと、高く可愛らしい音が鳴る。そしてアリアが奏でる大正浪漫を思わせるメロディーに一同は耳を傾けた
『素敵な曲ね! 凄いわアリアさんはピアノが弾けるのね』
弾き終えたアリアははにかみながらピアノを元の場所に戻す
大地はお気に入りの本を手に取り
「俺が好きなのは本だ。この中につづられた、人の思い。何を考え、何のために動くのか、何を話したいか
それを読み解き、著者の描いた世界に入らせてもらう……その時間がたまらなく楽しい」
大地は表紙を優しく撫でる
「好きな者ならば無論嫁殿だな。世界で一番大切な方だ」
鬼灯は抱きかかえた嫁殿を見つめると、嫁殿は一生懸命その小さい手でスコーンを持ち、鬼灯の口元に運ぶ。鬼灯はそれを嬉しそうに食べるが……何故か口元が見えない
「さっきのライスカレーの時もだけど、なんでほおずきお兄ちゃんの口元が見えないんだろう」
何気なくリオーレはぽつりと呟いた
「任務先で彼女と出会わなければ、俺は恋だの恋愛だの見下したままだっただろうな」
鬼灯は懐かしむように嫁殿との出会いを思い出した
『私もね! 鬼灯くんが大好きよ! ずっと硝子のケースで眠っていたから外を知らなかったの! 前の持ち主はきっと私のことを大事にしてくれてたのだろうけど……今の方がずっといいわ! これからも一緒よ、鬼灯くん!』
幸せそうな二人を見て三人も嬉しそうにうんうんと頷いた
「なぁ、時間はまだまだたっぷりあるシ、好きな話をしながら、好きなものを食べよう」
赤羽の提案に全員賛成する。そう……何故なら今日はゆっくりする日なのだから
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こんにちは、はじめましての方ははじめまして、佐茂助と申します
今回、キャンペーンに便乗してオープニングを書きました。二作目のライブノベルとなります
【目的、目標】
喫茶店で楽しく過ごすことです
マスターとお喋りしても大丈夫です
他なにかしたいことなどがあればお気軽お書きください。大正浪漫っぽいことなら喜んで書きます
グループ参加も歓迎です
まだまだ至らぬ部分も多いですが、皆さんの参加をお待ちしております。どうぞよろしくお願い致します
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