シナリオ詳細
此方と彼方を繋ぐ橋
オープニング
●出会い
彼方側と此方側。
そう呼ばれる位には、川を隔てた向こうの村と僕のいる村には交流がない。する必要もないと父である村長は言っていた。
彼方側と此方側は似たような立地故に、産品もおそらく似たようなものだ。故に交易に繋がることもないだろうと。
でも僕は、違う。
彼方側で川へ水汲みする時に同い年くらいの少年をよく見かけた。顔も、名前も知らない。
けれど、生活時間が似ているのか、水汲みの時にいつも見かけるものだから、試しに手を振ってみた。しかし、彼はどこかへと走り去ってしまう。
(嗚呼、どうしよう。変な人だと思われたかな。恥ずかしいな)
そんな僕の思いをよそに、彼はしばらくして戻ってくると、持ってきた枝に、赤いスカーフを結んだ手製の旗を持って振り返してくれたのだ。嬉しくなって僕は、僕も身につけていた青いスカーフを枝に結び、振り返した。
――あの日の感動をまだ、覚えている。
●僕が大人になったなら
数年後。少年アレックスは父の跡を継いだ。村長となった彼が最初にやりたいと思ったことは、彼方側との交易だった。そのために、橋が必要なのだと。けれど、川は広く職人を呼ぶにも、村にはお金がなさすぎた。
「困ったなぁ……」
この村の周りにある森の多くを占めるカンバルの樹は、丈夫かつしなやかなことで有名だ。弓を作るのにもってこいの硬さを持つこれを使って、この村では弓製造の為の木材を輩出していた。カンバルの樹以外の木々は薪として売り出していて、どちらにしろこの森の資源は大事なものだった。
故に、この森を開拓して新たな道を開くことを住民の多くは望まないだろう。自分だって反対だ。
けれど、それ故に決まった行商人だけと取引するのはどうかと思うし、世の中の物価はもしかしたらもっと変わっているのかもしれない。だから、諦めたくはなかった。
あの日、赤いスカーフを振り返してくれたあの名前も知らない少年――今はもう、自分のように大人になっただろうけれど――に出会うためにも。
そして、この閉じた村に新しい風を吹き込むためにも、橋は絶対に必要だった。
●これは絆を繋ぐ物語
「……というわけでね、この世界『ブルケンスタース』のとある町に橋を架けて欲しいの」
ポルックス曰く、この世界はいつも『橋』が大きな役割を果たすカギになっているのだという。この世界の住民たちはそれを認知してはいないが、いつも重大な歴史には必ず『橋』というワードやモチーフが使われるのだという。
「魔法の代わりに『奇跡』と呼ばれている力が普及している世界だけど、
その力を扱えるのはごくごく一部の人たちだけだ。しかも、それは血脈ではなくて
後天性――つまり、その人が何を努力し、成し遂げたかで決まる。
もし、この世界で重大な意味を持つ『橋』を作ったのなら、
もしかしたら『奇跡』がアレックスに宿るかもしれない。
でも橋を作るその時に、もしも彼の抱いた感情が負の感情であれば、
きっと、その『奇跡』は良くないモノになるかもしれない。
……たとえば、そう、『絆を象徴するモノを壊す能力』だとか」
『橋』が重要な存在であるブルケンスタースにとって、
その力はつまり、魔王出現を意味するものだ。
「だからね、ちゃんと協力してあげて欲しいんだ。
もしうまくいかなくても、彼が納得すれば大丈夫。
いちばんよくないのは『橋なんていらない』と、彼を否定することだと思うよ」
- 此方と彼方を繋ぐ橋完了
- NM名蛇穴 典雅
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年10月24日 23時35分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
「ねえ、おじいちゃん。いつものお話を聞かせてほしいな」
ゆらりゆらりとロッキングチェアに座りながら小難しい本を老眼鏡を通して読んでいた老人に、かわいらしい子供がおねだりをする。
暖炉の火がぱちぱちと燃え、暖かい光が照らす孫の顔を老人は覗き込んだ後、いいとも、と顔をしわくちゃにさせて微笑み、その手に持った本を閉じると、愛する孫を膝に乗せて、ゆらりゆらりと椅子を揺らしながら、『いつものお話』を語りはじめる。
―—それは、ごくごくありきたりで、けれど優しい奇跡の物語。
●
それは雲一つない、まるで染め物をした布を広げたように青い青い空の日のことだ。
村に見知らぬ4人の旅人がやってきた。彼らはそれぞれ『サイズ(p3p000319) 』『サンディ・カルタ(p3p000438) 』『華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864) 』『回言 世界(p3p007315) 』と名乗り、アレックスの家にやってきた。彼らはなんでも、村長である彼の望みを叶える手伝いをしに来たらしい。
橋を彼方側へ架けたいアレックスにとっては願ったりかなったりだ。けれど、見たことも聞いたこともない出身地を名乗り、見た感じ服装の種類もどうも異国風だったから、詐欺ではないかとそれはそれは疑ったものだ。
なにしろ、お金はいらないといったうえ、橋を架けたいという望みは、子供のころに告げてから、ずっとアレックスの心の中でしまっておいたモノだったからだ。
まるで見透かしたように言う彼らに『君たちは占い師か、それtも神の使いか何かか?』と問いかけた瞬間、彼らは少し笑った後、『まぁ。似たようなものかな』なんて答えたものだから、今度こそアレックスは彼らの言葉を信じると、橋を架ける為に協力してほしいと申し出た。
さぁ、そうなると何が必要か。木か、それとも石か。けれどこの辺りには崩れやすくて扱いが難しい砂岩ばかりがあるのであった。ちょっと森の奥のように行くと切り立った崖があり、そこには丈夫な砂岩もあったけれど、森の奥にはたくさんの獣がいたから危険だと、なかなか村人は踏み入れようとはしないのだった。
けれど、旅人『サンディ』は臆せずこう言ったのだ。
「『妖精との橋作り』は後世に残るデカイ仕事だ、せっかくなのだし、丈夫で一番良い橋を作ろうじゃないか。なに、ちょっとした獣くらいなら、俺たちが追い払ってやる。心配するな」
見た目は自分と同じくらいの年齢だったし、身長だって小柄な『サンディ』の言葉にアレックスはきょとんとしたけれど、あんまりにも自信がありそうだったし、頼りになりそうだと直感で感じ取れば、それなら石材でお願いしますと頼み込んだ。アレックスとしても、せっかく作るなら良い橋がいいと思っていた事には違いがないからね。
●
さぁ、じゃあ橋を作ろうじゃないかとなったかって? 残念ながらそうはいかない。村人はなかなか首を縦には降らなかった。いくら村長がうんと首を縦に振ったからと言って、村民は村民で元々抱えている仕事があったからね。木を切り倒し、木材として加工して出す。たったそれだけだが、それでもこの村の大切な財源だ。無得にはできない。
「俺たちには俺たちの仕事がある。そこを補填してくんなきゃ、いくら橋を架けたって俺たちは今年の冬を越えられない」
それなら俺に任せてくださいと名乗りを上げたのは旅人『世界』。彼は森に住んでいた大木の精霊と既に話を付けてきていたようだ。自分が宿るこの木はもう充分に生きたから、どうぞ切り倒してほしい、そのためならば獣もけして邪魔をさせたりしないからと。
弓に使う木は新しいものより、古いものの方が水抜きが楽で加工もしやすい。木材にする手間が本来より幾分か楽になる。さて、そうなると、村の男たちもしぶしぶ頷くしかない。
けれど村の女たちは相変わらず、渋い顔をしていた。冬支度の為に森の中にある食料を加工するのは彼女たちだったからである。けれどこれも、『世界』が提案し、たちまち解決する。
「それなら、ブラウニーを家に招かせよう。クリームひと椀で彼らはすごく働いてくれるから」
クリームは多少高価だが、手が届かないものでもない。それならいいわと村の女たちも頷いた。……そう、お前が昔、乳と間違って飲もうとしたあれだよ。あのクリームはその日からずうっと、毎日欠かさずささげられているのは、旅人『世界』がその村にブラウニーを招いたからさ。ここだけの話、家事がいくらか楽になったからか、村の女たちが次の春にはすこぉしばかり、村の男どもに優しくなれたってものさ。
●
さて、いよいよ石材集めが始まった。村の男どもは良く働いたよ。そりゃぁもう、馬車馬の如く働いた。最初こそ嫌々だったけれど、興が乗ったらやる気を出すのはどこの国の男も似たようなものさ。ましてや、美味い昼飯がついてきたとなったらなおさらね。
旅人『サイズ』は見た目はかわいい妖精のような姿だったが、男たちが削り出した崖にある砂岩をちょっと見ただけで、これは使える、これはダメ、とすぐさま判別するものだから、職人として受け入れられるのは簡単だった。そして、彼らもまた職人であったから、石材の扱いに長けている旅人『サイズ』も彼らを敬った。運搬は彼らが木材を運ぶ際に使っているロバと馬車を使った。
一方、川の上流では、旅人『世界』と旅人『サンディ』が簡易的なダムを木材で作成し、川の勢いをいくらか抑えようとしていた。
……どうしてそんなことをするかって?ははは、賢い子、私の孫よ、よくお聞き。川の勢いが強いと、橋を架けるときにそりゃあ苦労するもんだ。でも、だからと言って『川の流れを止めてください』なんて、流石の旅人『世界』も頼めなかった。じゃあどうするかというと、川の上流の方でダムをつくって、水流をいくらか調節してやるのさ。それに、上流のほうが川が細いから、勢いもあるのだけれど、それは自慢のカンバルの樹。よぉくしなって耐えるんだ。
さてさて橋を作ろうかと川に向かった村民は、そりゃあもう驚いたってもんだ。だって、彼方側にも、同じくらいの人がいて、みぃんな橋を作ろうって頑張っていたんだから。一体何がどうなってるって混乱もするものさ。そこへ上等な籠をもった旅人『華蓮』が鳥のように舞い降りた。
なんでも、彼方側の村民も、橋を作る協力をしてくれるんだという事だ。そうなると此方側の村民も、負けちゃいられないと、その目に炎を灯したもんさ。馬鹿みたいな話だが、男ってものは競争が大好きで、勝っても負けてもそりゃあはしゃぐものなんだ。春に生まれた小鹿の方がまだ落ち着きがあるってもんだよ。
でもね、それも仕方ないってもんさ。昼の飯時に、森で取れたきのこのシチューのほかにお前さん、何が出たと思う? ……白いパンだよ! それも、牛の乳で作った極上のバターをふんだんに使ったパンさ。きのこのシチュ―ももちろん美味かったが、王都じゃなければ食べられないようなその美味いパンを口にしたとあれば、猪だって曲がることを覚えるだろうね。
それにしたって美味いもんだから、村の女たちはこぞって旅人『華蓮』にパンの作り方を習いに行った。おいしい料理は夫を喜ばすのに一番だったからね。
そうして、村の男たちにおねだりをして、橋に使う石材が余ったら石窯を作ろうって話になったのさ。お前の母親が週末によく行く、あの共同石窯は、その時につくられたんだ。この村に伝わる白いパンもその時、快く彼女が教えてくれたから食べられるんだから、このパンが大好きなお前は旅人によぉく感謝をしないといけないね。
さて、男たちはそれはそれは働いた。その日の宵には怪我1つないまま、橋の半分まで出来上がっていた。当時の男たちはそりゃあ不思議がった。なんていったっていつもより体がよく動いたからね。こうしたいと思っても体がなかなか動かないこともあるもんだが、その日は思った通り、いやそれ以上に仕事ができたのさ。きっと、旅人たちにはそういう『奇跡』を使うものがいたんだろう。あるいはもう、すでにあの日、アレックスには『奇跡』が宿っていたのかもしれない。
旅人が夕飯と酒と、それから菓子をふるまったその宵に、突然良い音が響いたんだ。それは、彼方側から聞こえる音楽だった。お前はもう知っているかもしれないが、当時、彼方側じゃ、ギターが名産品だったのさ。ジャンジャカ鳴らしては鼓舞する音に、此方側の男たちは木こり歌を歌って見せた。
今じゃ有名な『通鳴弾(カヨイメビキ)』がその夜、川越しに生まれたのさ。
『コォルコル、響けよ 刃
コォルコル、轟け 斧よ
お前は良き弓 良き薪
風と炎に聞こえるように
コォルコル、斧をば ふれよ
コォルコル、産声 あげろ』
……さて、あとはお前も知ってのとおり、アレックスは無事にやってのけた。
2つの村人総出で作り上げた橋は翌々日にはできあがったんだ。馬車だってすれ違うことができるくらい大きいうえ、妖精の石像が通行者を見守るこの橋は、そりゃあ立派なもので、のちに世界三大大橋に数えられ、『ティタニア橋』と呼ばれるようになった。彼方側と此方側。確かにアレックスの父が言うように立地はとてもよく似ていたが、向こうにはカンバルの樹は無く、代わりに楽器によく適したレーラの樹が生えていた。さて、そうしたら旅人が、とても素敵な置き土産をくれた。『ヴァイオリン』や『セロ』と呼ばれる弦楽器がそうして村に普及すれば、双子のようにすくすく育ち、今じゃ立派な音楽の街になったってもんさ。
アレックスかい? 彼はね、彼方側の『赤旗の少年』を探したんだが、『出会いたい人に出会うことができる奇跡』をもった彼の力を持ってしても、『少年』——男は見つからなかった。
——なぜかって? 笑い話のような本当の話だが、『赤旗の少年』は『青旗の少年』に嫁いだからさ。……そう、『赤旗の少年』は女の子だったのさ!
●
そうして、ブルケンスタースには『ヴァイオリン』という楽器が生まれた上に、2つの村は一つになって、今もなお、世界に最先端の音楽を届ける運命の出会いを迎えられる奇跡が謡われる音楽の都『コンツェルト』となったのだという。
ポルックスは本を閉じ、旅人たちをねぎらいながら、にっこり笑ってこう言った。
「めでたし、めでたし」
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
非戦シナリオです。
村の周りには木々があるので木の橋を作るのには材料には困りませんが、
工夫をしないと長くは持たないでしょう。
石材を使って橋を作る場合は
何か特殊なスキルがなければ難しい環境にあります。
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