シナリオ詳細
<YcarnationS> 幻の都、楽園のまぼろし
オープニング
●はじまりと終わりは砂塵の向こう
「もうすぐです、もう少しです」
質素な綿のローブを纏い、鎌を杖代わりにした幻想種の女が、後に続く仲間――楽園の信徒たちを鼓舞し導く。
砂漠の昼は火の上ように熱く、夜は氷の中のように寒い。加えて砂の上は歩き難く、一歩踏み出すだけで相当の体力を奪う。
激しい情勢の変動、そして流された血と涙によって、この短期間に『楽園』を求める者は俄かに増えた。女に続く者たちの出自や加入時期、楽園を信ずる理由は、人それぞれにまったく違う。直近に加入した傭兵の一人が、先を行く女に恐る恐る問いかけた。
「俺、つい昨日からなんすけど……いいんすか? こんな俺でも楽園、行っちゃって」
「構いませんよ。■■■■にも記された通り、試練を超えた者はすべて等しく『救われる』のですから」
「そうだよ、遅いとか早いとか関係ないよ!」
女は優しく答えを返し、その傍にいた年若い――まだ十五歳前後といった年ごろの少女も、新参者を元気よく迎える。男や周りの者たちは、その様子に涙した。
巡礼者たちは穏やかに語らいながら、厳しい旅路を、時に笑顔さえ浮かべて進む。
ある者は、奴隷として囚われた際に受けた心身の深い傷から。
ある者は「お前の命そのものが罪」と、皮肉にも楽園の教義に近い言葉を周囲から浴び続け。
ある者は、はかなく散った恋の果て、過去と共に己の名を捨て。
またある者は「過去に殺し奪った者たちが、今度は自分を殺しに来る」妄想に憑かれ、狂いかけたその矢先。
またある者は、信じた仲間に裏切られ、財と仲間と、すべてを失ったその末に。
またある者は生粋の信者で「散る瞬間の為に生きる」事に一切の疑いを持たず。
死(すくい)の下にはすべてが平等。老いも若きも上も下も、あらゆる「差」というものが『楽園』には存在しないと女、司教プルサティラは言う。
彼女のもとで信徒たちは、理由ある者も無き者も、誰にも語ったことの無い身の上を打ち明け合った。それぞれの人生を否する者は誰一人として無く、ただただお互いを受け入れ合いながら。
「ええ、そうです。この砂塵の向こうに在るのは、救いと安息のみなのです」
誰よりも楽園を信じ縋っていたのは、当然というべきか、それとも――他ならぬプルサティラ自身であった。
・・・・
●どうかより良き『試練』を
「生まれ持った色はそれぞれで違うし、どんな色を重ねていくかも自由だけど、できれば鮮やかにありたいものね」
死が救いだなんて、ダスティ・グレーにも程がある。色彩の魔女はいつも通り、楽園の教えを色に例えた。
「さて、『楽園の東側』連中についてだけど……この騒ぎの中で、信徒が増えたのかしら。ある一団が、魔種の連中と同じ――砂の都を目指しているわ」
砂の魔女にザントマン、そして楽園の信徒たち。魔種たちと信徒の目指す場所がまったく同じとは何の偶然か、それとも必然か。
「確か……彼らの教典によると、楽園にとって重要な場所が其処にあるらしいわ。カノンやザントマン以外の魔種も居るでしょうし、都自体にも何があるかは、まだクリアじゃないけど……嫌な予感はするわね」
砂嵐の向こう、待ち受けるものはまだよく見通せない。しかし、とりわけ強い呼び声を持つカノンやその他の魔種の影響は確実にあり、向かった先で狂ってしまう者や、最悪、反転してしまう可能性も決して低くはない。
「彼らの対処をお願いするわ」
平時より淡々としたプルーの口調から、明るい結末を描くのは難しい。
しかし、彼らをそのままにしておけば、恐らくはもっと悪い場所に往ってしまう。
最悪の事態を避けるべく、あなた達は『楽園』へと急ぎ向かった。
- <YcarnationS> 幻の都、楽園のまぼろし完了
- GM名白夜ゆう
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年11月02日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●『生きる』と書いて何と読む?
「嗚呼、ああ。今日はとても良い日です」
渇いた熱風が吹き荒れる砂の都。女司教、プルサティラが詠い上げた楽園の伝承歌を始まりの合図に、華々しき戦いが始まった。
「……死を憶え。だったか」
持ち前の機動力で真っ先に接敵、後方の魔術師と女司教を射程に捉えたのは 『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)。
「今を生きろ。今を楽しめ。生を噛み締めろ」
海上にあっても砂上にあっても、無法者に約束された明日は無い故に。「何を言っている」と、信徒たちの目つきが険しくなる。生きる事こそが罪で罰だというのに、男はそれを楽しめと言うのだ。
「ああ。その通りだ――俺はジョージ・キングマン。挑む勇気があれば掛かってこい!」
無法者が切った口火に反応した信徒たちが、一斉に彼に向け駆け出す。強固な信仰を抱く者たち故か、完全な引きつけには至らなかったが、その布陣には隙間が出来る。
その空間。後方に控える魔術師へ斜線が通る瞬間を『Jaeger Maid』シルヴィア・テスタメント(p3p000058)は見逃さない。
「Flow My Blood――」
遠方より、癒しを赦さぬ致死の弾丸が魔術師を穿つ。手応えは予想通りだ、奴はあまり頑丈ではない。それでもなお戦意を失わず、こちらを見据え向かってくる。
シルヴィアは、地獄から来た猟兵だ。もしこの場があの世界のような場所であれば、直ちに『駆除』を進言していた所だが。
「成る程、分かるよ」
――納得が欲しいんだろう?
生きるも死ぬも。己の人生に理由を求めるその気持ちが、幾度となく生と死の間を行き来した彼女には、分かるような気がしたのだ。
「死が救い、なんて、世迷い言でしかない……!」
死は全てからの解放だが、同時に何も得られない事の裏返し。『慈剣の騎士』カイル・フォン・フェイティス(p3p002251)は到底納得できず、半ば怒りに任せた雷撃の一突きを繰り出し、前方の信徒ごと魔術師を貫いた。
「そちらこそ……世迷い言を……!
強烈な騎士の一撃に、前衛の信徒は膝をついた。秩序を守れ、落ち着いて務めを果たせ。若き騎士は、真っ直ぐな想いで戦場に立つ。
続いて『ド根性ヒューマン』銀城 黒羽(p3p000505)女司教へ向け駆け出す。まだ傷が癒え切っておらず度々痛みが走るが、気にしてなど居られない。
「……!」
女司教の手前、信徒の一人が黒羽を阻んだ。個々の練度はともかく、数だけなら信徒たちは冒険者の倍以上ある。この数の差は、決して無視できるものではない。
それでも、と。信徒を挟んで、プルサティラに声をかける。
「素晴らしい死、なんて、この世には存在しねぇのに……!」
「司教様に向かって、知った風な口ぶりを!」
手前の信徒が激昂する。それに対して黒羽は「知ってるからな」とだけ返し、女司教に接近する機を再び伺う。
「だから、意地……何としても、通させてもらうぜ」
『慈愛のかたち』恋屍・愛無(p3p007296)は信徒の出方を伺いながら、ふと呟く。
「失った物の代わりは、もうあるのではないか」
信徒たちは寄り添い、お互いを「救う」事なく在る。その一線を超えられない彼女は、まだ止まれるのではないか。人間を模した異邦人は、そう俯瞰し呟いた。
「いいえ、いいえ――死ぬ時は、華々しい死でなければならないのです。貴方がご存知ないのも、無理は無いでしょう」
そういうものか、と愛無は頷く。運命座標も一枚岩ではなく、狂気に堕ちれば言葉も交わせぬ。ならば今は戦う時。最適なタイミングで動こうと、引き続き冷静に状況を見つめる。
粗末な武器を手にした信徒たちと、本格的なぶつかり合いが始まった。
「ふわー、自分から向かって来てくれるなんて! これってお友達になってくれるってことですよね? ですよね?」
以前の世界で家族を失った『たーのしー』美音部 絵里(p3p004291)は、友達を増やそうと「やる気」満々で夢幻の短刃を構え、跳躍。剣を持った戦闘員目掛けて刃を振り下ろす――と思いきや、その振りはフェイクだ。刃が傷つけたのは持ち主。飛び散る血飛沫が、鋭い刀となって戦闘員を襲い、失った以上の血を奪った。
「よーし、この調子でいっぱいやるぞー」
「ま、まあ待つのである」
血を流したまま獲物をぶんぶん振り回す少女を軽く窘めたのは『当たり前の善意を』ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)。
(以前のはともかく、今回の彼らは、色々考えた上で死にたがってるんだよね? であるとすれば、無理に止めるのも如何なものであるか……)
それなりの考えがあって其処に至ったのであれば、全て否定してしまう気にはなれない。そう考えている間にも信徒は迫り、鈍器でローガンに殴りかかるが。
「……全然痛くない、である」
ローガン自身が頑健な事もあるが、多数を占める信徒の練度はこの程度。ならば。
「このまま向こうに行かないように、しっかり止めるのである!」
聖なる大型拳銃で信徒を殴りつけ、一撃で昏倒させた。
「わ、つよーいのです! この人はさっそく、絵里のお友達にするのです」
「いや、積極的に殺す理由も無いし……である」
「えー、残念なのです」
強烈な一撃にはいつものような、当たり前の慈悲が込もっていた。
「俺はプティーちゃんらが間違ってはるなんて思わんし、ジブンらが正しいとも思わんよ」
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)が軽やかに影のステップを踏みながら、女司教を呼んだ。思わぬ呼び方をされた女司教は、僅かに面食らった様子でそれに応える。
「プティー……愛らしい呼び方ですね。私には、私には勿体なく……」
「死ぬんは悲しい。でも生きるんも苦しい。よぉわかるよ」
弱い心。ヒトはそう強くない。拠る辺無く生きられる者は、果たしてどれだけ居るだろう。
「死が救いや安寧になる人も、そりゃあいるやろね」
「ええ、ええ。貴方はお分かりなのですね」
だから、彼がするべき事といえば。迅速な制圧、一人一人の確実な無力化。
今の最適解は、至近距離の信徒への、信徒自身の血で書く別れの言葉。
「……希死念慮に苛まれた先に意味があるんなら、苦しんで生きたことにも価値が生まれるやろ」
司教や魔術師を始め、大勢の信徒たちと混戦状態となってきた頃を見計らい、愛無が信徒たちへ名乗りを上げる。
「恋の屍……ですか」
聞いた名に何か思う事があったのか、女司教と一部の戦闘員、練度の高い者らの注意が愛無へと向かう。受ける傷も多そうだが、それでいい。今は戦う時だ。
「愛と平和とは綺麗事ではなく、覚悟の形ゆえに」
誰より早く。誰より多く。ただ倒すために往こう。
●砂漠に咲いて、散る華のように
信徒が放つ捨て身の体当たりがジョージを襲う。素人であっても、後先考えない攻撃は痛打となりうる。これは本気だと、荒事慣れしたジョージは感じた。命がけならば相応に。無法者の流儀を持って、信徒たちに応える。
その身一つの回し蹴りは暴風を伴い、魔術師を含む周りの信徒を大きく崩す。その一撃で魔術師は瀕死となり、数名の信徒が地に伏した。
「これを試練というには、修練が足らん」
絶海武闘の二つ名に恥じぬ戦いの技術は、生殺与奪まで思いのままだ。
女司教が生み出す光の翼から舞い散る光刃が、対峙する愛無を中心とした前衛を切り刻み、怒りに囚われた周囲の信徒を正気に戻す。正気に戻った戦闘員が後方のシルヴィアへ向かおうとした所へは、ブーケが素早く割り込んだ。
「個人的には、死んだ後にまで楽園なんてけったいな世界にいたくないなぁ。記憶、感情も、惑う心……全て捨て去って輪廻から外れたいんよ」
「輪廻……生まれ変わり……そうする事もなく、何処へも行かず、ですか?」
「ああ。だから、理解はするけど共感はできへんね……ううん」
そう言ったきり、ブーケの姿と気配が忽然と消える。惑う戦闘員。次の瞬間、その背に
強い衝撃が走り。振り返れば、消えたはずの黒兎。音も気配もなく死へと誘う、不吉な月のすがたが在った。
「……俺はプティーちゃんらが生きるべきか死ぬべきかを判断できるほど、偉うないからね。ご判断は任せるよ」
完全な奇襲が、戦闘員に致命傷を負わせる。
「死にたいんなら殺してあげる。生きたいなら生きなっし。……手伝わせては、貰うかんね」
攻撃のみに徹した狙撃手が、後方より鉄の雨を降らせる。地獄より飛来する弾丸は破壊的な威力と精度をもって、魔術師を中心とした敵のみを狙い降り注ぎ、その体勢を大きく崩した。
「ヤワな奴が、何人か逝ったかな……」
最優先目標の魔術師は倒せたようだ。出来れば不殺を心がけたいが、まだ敵の数は多い。事は急がねば。
Good luck,そう呟いて、愛銃に再び弾を込めた。
死の弾丸の雨上がり。信徒が多く倒れた今こそ。黒羽がその身に信念を纏い、女司教へと迫る。死は何も救わないと言った男に、女司教が問い返す。
「どうして、どうしてそう言い切れるのですか」
「俺は一度死んだんだ。名前以外の全ての記憶を失った。俺って男は、その時に死んだんだ」
「存在としての死……ですか」
「そういうこった。で、どうなったかって? 地獄だったさ。何かに縋る余裕さえ無い位に、な」
だから、彼女達にはそうなって欲しくないと。八方から飛んでくる刃や投石を受けながら、手を差し伸べようと立ち続ける。
「行きますよ! 黒羽さんは、お気を付けて!」
カイルが手にした魔剣には憎悪が宿る。それを慈愛へと変えて、女司教を信徒ごと貫く。
正義を体現する真っ直ぐな一撃で、信徒の一人が倒れ伏す。
「これで、楽園へ……」
華々しき最期だと、歓喜を全身で表しながら。
しかし、彼の生死を気にかけている余裕は無い。ここで彼らを食い止めなければ、最悪の結末――もっと酷い場所に堕ちてしまう。その最悪を止めるのが、騎士たる彼の務め。
「……」
それでも胸はちくりと痛む。この痛みは、まだ割り切れない証か。
怒りに囚われていない者も、華々しい死を求めて臆さず向かってくる。
足止めの矢も毒の刃もかなりの頻度で飛んでくるが、愛無の異形はその全てを「呑み込み」、ローガンは何事も無かったかのように受けて立つ。ローガンはその強固な意志を破壊力へと変え、刃持つ信徒を強かに打った。相手は戦闘員か、まだこれからという風で倒れない。
「ああ、もう! 聞き分けが無いであるな!」
続いて絵里が吠える。破壊力すら生じる一喝に、一般信徒はひとたまりもなく打ちのめされる。
「わっ! 身体が痺れるですよー」
確かな手ごたえ。場慣れした信徒でも、耳の奥でわんわんと反響する声に幾分かペースを狂わされた。絵里が楽しそうに跳び跳ねる。
そろそろか、と、様子を伺っていた愛無がいよいよ動き出す。
影のように蠢く身表粘膜が、無数の触腕に形を変えて周りの信徒たちを捉え、その力を奪う。征服するは我にあり。混沌外の異相に想起されるは死のイメージだが、それとは裏腹に、この触腕は殺す機能を持たない。
「これが、らぶあんどぴーす……という事だ。きっと」
それが人間なのだと思う。思うが故にそう在ろうと、異形の心でそう思ったのだ。
●決死、不殺、迫る二択
戦闘員が捨て身で放つ、毒の刃がカイルを貫く。癒し手不在のパーティに在っては、敵の数だけダメージが蓄積する。カイルを始めとして、制圧の方を意識したメンバーが居なければ、数に押し負けていた可能性すらあった。
「……まだ、です!」
果てる寸前、騎士はその可能性を燃やし立つ。大技を出す気力はもう無いが、急がなければ、更なる惨劇が齎される。
「だから、今は、俺に出来ることを……!」
ただ単純に、返しざまに叩き込む剣。カイルと刺し違える形で、戦闘員が倒れ伏した。
物量にものを言わせた撃ち合い。後方射手の射程は長く、スリングもそれなりの数が来る。シルヴィアも一度膝を折るがすぐさま立ち上がり、獲物を構え直した。
「どうして、どうして貴女はそうまでして……生きるのですか」
理解出来ない。楽園の司教が問う。
「ん? どうしてかって?」
弾はほぼ撃ち尽くした。一発ずつ撃つしかない。たった一弾、されど必中。当たれば良くて致命傷、運が悪ければ必殺の弾丸。
「――死んだら負けな気がしたからだ」
砂塵に再びの銃声が響いた。
女司教の至近に立ちはだかりその挙動を見ながら、黒羽はある考えに至る。
「なあ、プルサティラ。お前のその、光の翼って……」
それは味方を決して傷つけず、癒しさえ与える魔導の技だ。それは彼女が無意識に、この世にまだ救いがあると思っている証拠ではと、彼女に問う。
「……いいえ、いいえ。これは、全力で戦い華々しく散る為、その為なのです。ああ。きっと。貴方とは分かり合えない」
女司教が、鎌を大きく振りかぶる。
「――どうか、素晴らしき死を」
女の決死、そして必殺の魔力を帯びた一撃は、不屈の盾をも打ち崩す。
黒羽が地に伏すと同時、女司教も多量の血を吐いて。
「有難うございます……一度死んだ、お優しい方」
あかく染まる黒羽の視界。遠ざかる意識の中でも、手を伸ばす事は決してやめない。
それが今、自分に出来る精一杯なのだから――
(これは、そろそろ拙いか)
黒羽が倒れた事も受け、愛無が状況を見渡す。あと一発あの術を使えば、女司教は恐らく絶命する。他の信徒も、凡そその位か。
手数を回避で耐えていた絵里も消耗が激しい。深呼吸で体勢を整えてから再び、血で血を奪う刃を信徒へ向け放つ。
「私のお友達になってくれるかなー。どうかなー。たのしみだなー」
犠牲者は未来のお友達。その血が力と癒しになる。
「一人じゃないって素敵なのです。みんなもそう思うよね? ……死んだら楽園へ行く?」
倒した信徒の返り血を浴び、無邪気に笑いながら絵里が言う。
「行かないのですよ。死んだらみーんな私のお友達になります。ほら、見えるでしょ?」
聞こえるでしょう? その声が。
「どんな人だってみーんなお友達になれるのです。だから――」
安心して死んで大丈夫、ですよ?
確かに感じる死の気配。楽園を目指す彼らにとって、彼女の「お友達」として捕まる事はとても恐ろしい。
「さてさて、どう思う? 華やかに散りたいなら、そう動いたるけど」
追い打ちをかけるように、ブーケが信徒に二択を迫る。命を蝕む赤と黒。行きつく先は両方とも死。しかし、片方にはこっそり生存の切符も仕込んで。
「お友達云々はさて置いて。……君達はまだ止まれると思う。ゆえに、こうする」
差し違えを試みようとした信徒に対して、愛無が首を喰み昏倒させる。女司教とは、まだ距離がある。
「彼女は精神的支柱なのだろう、殺すのは避けたい。ジョージ君が一番近いし確実か。頼んでいいか」
「ああ」
ジョージが女司教に向けて鋭く踏み込む。
守りを打ち崩す、海洋式の格闘術。嵐の前兆? 知らないはずの海の音? そんな錯覚が、女司教に沸き起こる。
続け様に放たれた暴風の蹴りが、周囲の信徒ごと彼女を昏倒させた。
●横たわる恋のしかばね
全員ではないものの、一命を取り留めた者は決して少なくなかった。生き残った信徒、助からなかった信徒。両者について、愛無は思いを馳せる。
救いと理由をつけて死に方を選ぶ彼らは、逆説的に生へと執着し意味を見い出していたのでは、と。
「お前達の信仰は否定しない。海に出れば死んだ方がマシな事など、幾らでもある」
「救えなかった」責任は持つ。仁義は通す、と、ジョージは続けて言った。金に暴力、権謀術数の世界に生きる彼の言葉は、信徒たちに重く響いた。
黒羽が傷だらけのままギフトで信徒たちの苦痛を負おうとしたが、同じく傷らだけの女司教が、それをそっと制する。
「お気持ちは嬉しいのですが……この痛みはあの人との絆。だから、持っておきたいのです。それに、それ以上の苦痛は……お身体に触ります」
「あの人とな?」
気になる言葉だ。ローガンが詫びに詳しく聞かせろと迫り、女は訥々と語り出す。
熱砂に伝わる伝承にも少し似た、ありふれた恋のものがたり。はかなく散った恋。想った相手は「楽園の向こう」で。もう、姿を見る事すら敵わないのだ、と。
「私よりお苦しい方は沢山、沢山居るというのに、ですが……ええ、これが私の苦しみです」
「ふむふむ。その人を追う為に楽園へ……?」
女は黙って頷く。苦しんで、考え悩んだ末の答えなら、否定するものでも無い。ローガン本人も戦災孤児だ、大切な者を失くした気持ちはよく分かる。
「うーん、一言言わせてもらうなら……」
――プルサティラ殿も他の皆も、これまで頑張って生きたな、である。
たった一言。何もかもを否定せず、諭しもしない。一番欲しかった言葉に。
プルサティラと、生き残った信徒たちは皆、大粒の涙を流した。
●楽園を遠く離れて
カイルらがラサの有志を頼り、生存者たちに治療を受けさせ、その後。
ある者はジョージの伝手を頼って海洋へ、ある者は何を思ってかローレットへ。散り散りとなっていく。
「死が救いなら。試練が必要ならば。望みとは逆の最も大きい試練を――ゆえに、生きてみるのもどうだろうか」
愛無が最後にかけた言葉。それを胸に、かつて死を望んだ者たちは新しい路を探り始めたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加、誠にありがとうございました!
真っ正面から変化球までの様々なアプローチ、とても興味深く拝見させていただきました。
MVPは縁の下の力持ち的に働きつつ、最後にクリティカルな一言をくださった貴方へ。
当初の私の予想とだいぶ違う後味と結末になりましたが、こちらはMVPの方以外にも、
皆様が色々な形で働きかけてくださっての結果です。凄いなあ……!
重症の方は、どうかお大事になさって下さい。
それでは、またいずれ何処かで!
GMコメント
白夜です。今回はハートフルボッコ風味でお届けしてみます。
・・・・・
●目標
楽園信徒を15ターン以内に全滅させる
●ロケーションなど
場所は砂の都の大通り、時刻は昼間。広さや見通し、足場などすべて良好です。
都の中には魔種の狂気や呼び声が飛び交っていますが、到達直後は、
楽編への信仰(別の狂気)が狂気伝搬を食い止めています。
プルサティラ一派は都の中央を目指しているようですが、イレギュラーズの皆さんが
現れたと知れば教えの通り『華々しく素晴らしい死』を求め、
全力で戦いを挑んでくるでしょう。
●情報精度:A
取得した情報に間違いはなく、短時間(15ターン以内)に対処できれば
想定外の事態は起こりませんが、もし長引いた場合は……?
●敵
『はかなき導き手』プルサティラ(幻想種)
楽園の司教。名前は通称で、本名ではないようです。
楽園の徒である事を除けば穏やかで優しい女性で、信徒たちを導いてきました。
戦闘では術具を兼ねた鎌を振るいます。主な使用スキルは以下です。
・信仰蒐集:信徒たちに強く慕われています
・英雄叙事詩:R2以内の味方の最大HP増加
・光翼乱破:神自域/中ダメージ【混乱】【識別】【BS回復中】
・『素晴らしき死を』:神中単/大ダメージ【弱点】【必殺】【反動中】
『楽園戦闘員』×5(種族雑多)
ある程度の戦闘経験を持った信徒たちです。
物理前衛系が2人、両面系の射手が2人、魔術師が1人います。
主な使用スキルは以下です。
・血意変換:自単/BS、AP回復【反動40】
・『いざ楽園へ』:物至単/大ダメージ【猛毒】【反動中】
・ワイズシュート:物遠単/小ダメージ+高命中【足止】
・天使の歌:神自域/HP回復
『楽園信徒』×10(種族雑多)
戦闘経験がほぼ無く粗末な武器しか持っていませんが、彼らも教えに従い、
力量差も一切気にせず、素晴らしい死を求めて挑み掛かってきます。
・楽園信仰(P):特殊抵抗がやや高いです
・殴打:物近単/小ダメージ
・スリング:物中単/小ダメージ
・差し違え:物近単/中ダメージ【反動大】
接触時の初期配置は前衛にプルサティラと戦闘員2人、信徒7人。
すぐ後ろには後衛系戦闘員3人と、信徒3人が居ます。
★Caution!
OPの描写通り、ほぼ全員がとても強く「死は救い」だと信じています。
彼らの価値観を変える事は不可能ではありませんが、困難を極めるでしょう。
もちろん皆様のプレイング次第になりますが、基本的な後味などは
悪めになると思いますので、ご注意の上でお越しください。
・・・・・・
慮るも淡々と斬るも、皆様しだいです。
よろしければ、ご参加くださいませ。
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