PandoraPartyProject

シナリオ詳細

さまよう澱

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 それは、万年雪がちらつく世界だった。ちらちらと降る雪は星屑の様に煌めいている。
 世界は――今日、終わるのだと言われてから何年経っただろうか。
 半分に割れた月、おとことおんなが引き裂かれた胡乱な世界。

 澱暦XXX1――世界は二つに割れた。
 月がぱくりと割れた途端に世界は大きな地響きと共に画用紙を幼子が真っ二つにするが如く、割れたのだ。
 その時、おとことおんなは分断された。
 ただ、虚となったその場所には世界の破片が雪ように降り注ぎ続けるだけ。

 澱歴XX30――愛し合ったおとことおんなが世界を救おうとした。
 二つに割れた月を背負った片翼の堕天使のおとこは科学者であった。
 背の高くひょろりとした手足の彼はおんなともう一度手を取り合うために毎日を過ごしている。


 澱歴XX50の頃であった、片翼の翼のおとこは境界より現れた『特異運命座標(らいほうしゃ)』達を迎え入れた。
「やあ。一先ずは僕らの世界を知ってくれないか。
 おとことおんなが分かれてというもの、新たな命は生まれずもう直ぐこの世界は滅びるんだ」
 滅びに近づくタイムリミットがあると男は大きな砂時計を指さした。
 さらさらと落ちる砂が尽きた時、この世界の最期のいのちが終わるらしい。
「そのまえに、僕らの世界を知って欲しい」
 あわよくば、この世界を救って欲しいのだけれど、と。おとこは曖昧に濁す様に告げて、笑った。
「はは。今日は散策なんてどうだろうか。
 ちょっと変わった世界だろう? のんびりと一日を過ごす――それだけでいいんだ」
 ただ、それだけでいい。
 どうぞよろしく頼むと、片翼の科学者はそう云った。
 誰ぞが彼に名を訪ねたが、彼は最後まで名を名乗らなかった。

NMコメント

はじめまして!イレギュラーズのみなさん!
妹尾はやみ(せおはやみ)と申します。ライブノベル、がんばります!!

●目的
 世界『澱』を散策しましょう

●世界『澱』
 世界の欠片が万年雪の様にちらつくモノクロの世界です。
 この世界の色彩は全てどろりと世界の狭間より抜け落ちてしまいました。
 月はぱっくりと二つに割れ、世界の中央には大きな溝があります。
 おとこ側はスラム街に近い場所もありますが、それなりにロボットなどが住まうモノクロの世界です。
 おんな側は皆、喪服を思わせるワンピースに身を包み日々をしずしずと過ごしているようです。
 池も、川も、森も、全てがモノクロです。只、その中でも皆さんだけは色彩を保てます。
 おとことおんなのそれぞれに分かれてしまい、対立し合う事も無く虚の時間を過ごします。

 -住民たち
 皆、天使のような翼を背に背負っています。飛行種なら普通に馴染むかもしれません。
 来訪者には冷たくすることもありません。只、滅びを受け入れてるので珍しいなあと感じるのかもしれません。

 -やれること
 世界を散策します。モノクロの世界で草木を見たり、お散歩してみてください。
 喫茶店で『モノクロの食事』を食べる事も出来ます。
 文明レベルは現代社会よりも大きく飛躍した未来的な場所ですが、どうしても世界の中心(割れ目)を超えられません。
 呼び寄せてくれた技術者のおとこの案内で世界に踏み入れることができます。
 どうやら、別の世界の住民だからか、男性、女性のどちら側にでも行けるようです。

 -とある噂1
 技術者のおとこは愛しい女の人がいるそうです。
 唯一その人の名前だけ教えて呉れました。名を『カトリーナ』というそうです。
 彼女に会いに行くのも……いいかもしれません。

 -とある噂2
 技術者のおとこの母親が街の片隅にひっそりと棲んでいるそうです。
 彼女は冒険者の話を聞きたいと言っていました。
 よければ今までの冒険の話を聞いてみませんか?

 それでは、よろしくお願いいたします!

  • さまよう澱完了
  • NM名妹尾はやみ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年10月17日 23時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人

リプレイ


 夢物語の様な世界であった。
 色彩の抜け落ちたその場所に降る白雪の色もまた白く。凍えるような景色の中に温かな空気が流れ込む。舞い踊る光の欠片は地上に灯される一縷の救いを思わせた。
 もう直ぐこの世界は終わるらしい。神という存在が在るのかは分からない。只、漠然とした事実として、『今日、この世界が終わります』という宣言が為されたことは事実だそうだ。
 その証左。それを事実と裏付ける様に世界は二つに――煌々と照らすはずだった冴えた月さえも――割れた。世界の亀裂に吸い込まれるように色彩が失われ、ある色彩はきらりと輝く物だけだっただろうか。深々と降る雪を白魚の指先遊ばせて、アリシスはゆっくりとその場に立った。
 彼方と此方。対岸を見遣れば何不自由なく普通に生活する人が居る。皆、アリシスの様な美しきアメジストの色彩を持たず、曇り硝子をその身に宿したような生気のない彩を纏って。
(――これが、『世界を裂いた溝』)
 おとことおんなを引き裂き緩やかなる滅亡をその世界に訪れさせた現象。未知たるやその場所に立ちながら彼女は深く息を吐いた。吐く息は白く、世界の色彩に溶けてゆく。
 世界が別たれるという事象にアリシスの心は踊った。探求心とは人間を最も其れらしくする欲求だ。自身らが人らしく生きる上で当たり前に存在する基盤が崩れる事は稀有であり、どれほど淑女の心を揺さぶった事であろうか。
「別の世界の何かからの干渉により世界が砕ける……似たようなものを見たことがあります」
 あゝ、それなのだろうかと。色付く唇が言葉を乗せた。手を伸ばす。色彩を全て飲み喰らう強欲の狭間の気紛れな暴食が己には影響を齎さぬのかと自身の身に纏ったシルクを見下ろして。
「成程この世界の異物である私達にはその影響はない。
 ……この世界の『色彩』の概念が世界が割れた時に抜け落ちてしまった、という所でしょうかね。
 概念の浸食とは違う、概念の流出……流出はそれだけで終わっているのか」
 あゝ、それは分からぬ。分からぬからこそ彼女は気になるのだと天を仰いだ。灰霞の空、冴えた色よりも尚、白く。色彩を持たぬ月が割れている。幼子がビスケットを割る様にぱっくりと。
「――『月が割れて世界が割れた』でしたか。
 世界を分かつ溝……越えられない、の意味は気になりますね」
 月が二度と一つに為らぬように。世界が一つになることはないと暗喩するか。アリシスはこの亀裂が何所まで走るのかと見下ろした。
(空間の断絶の虚は恐らく、遥か月から大地の奥底まで続いている……)
 この洞の底まで辿り付いたならばそれは世界の端を知ることとなるのだろうか。
「お嬢さん」
 アリシスは顔を上げる。対岸に片翼の男が立って居た。ひょろりとした長身の、不健康を絵にかいたような男である。
「洞の中が知りたいのですか。……私も、そう思いました。けれど――」
「――けれど、一向に底が分からない、というのですね」
 反響音がしない。遥か深いその奥。世界が何かの桶に入っているならばその底。世界の最下層。
 それを見る事は叶わぬかと目を伏せたアメジストの魔女の傍を蝶々はひらりと舞った。


「なんだか物悲しい雰囲気の世界ですね。
 終わり行く世界というのはこういうものなのでしょうか?」
 ルル家はゆっくりと歩き出す。踏みつけた土さえも色彩が無く、降る雪が只、刹那の慟哭を思わせた。誰もがこの世界の終焉を確信めいて知っている。薄い灰銀の空は海よりも深い悲しみを湛える様に万年雪の涙を流す。
 色彩のないドアノブに手を掛けて、体に張り付く雪の――淡い光の欠片――を払い除けてルル家は「カトリーナ殿ですか?」と柔らかな声音で問うた。色彩の抜け落ちた白い髪に、白い瞳の乙女は御機嫌ようと微笑んだ。
「ルル家といいます。
 名前は知りませんが片翼の技術者――カトリーナ殿を愛しい人と言った人の言葉を聞いて貴女に会いに来ました」
「まあ、ノアの。ふふ、色彩を持ったお嬢さん。きっと、あなたは月の向こうからいらっしゃったのね」
 ケープに身を包んだ優し気な淑女は紅茶を淹れましょうとルル家を家の中へと誘った。月の向こうからという言葉に引っ掛かりを覚えながら、室内へと入れば、色彩のない猫が甘えた声で鳴いている。
「そういえばこの世界の方は男女別れて暮らしておりますし、女性は喪に服しているかのような衣装ですけど、なにか理由があるのでしょうか? あ、言いたくない事はこれに限らず追求しません」
「……最初は同じ場所だったの。けれど、月が割れた時に『そう』なってしまった。
 私だって最初はノアと一緒に居たわ。愛しい人。彼と離れて涙を流したら服は全て変化してしまったの」
 まるでこれから死に逝くという様に。色彩の抜け落ちた花を一輪、手にしながら。
「それじゃあ、ノア殿とカトリーナ殿は『恋愛』をしたというわけですか!
 あ、いえ、拙者も華も恥じらう年頃の乙女でして、そういうことに興味があります!」
 ぱちりと瞬いて、カトリーナがくすりと笑う。世界が二人が共に在ることを赦してくれなかった。
 だからこそノア――片翼のおとこは彼女と共に在る為の世界を求めているのだろうとルル家は小さく息を飲む。
「それじゃあ……突然世界が終わると言われてから」
「ええ。もう、二度と触れられないあの人は『死んだ』と思う事にしたの。誰だってそうよ。誰だって――」


 色彩が抜け落ちた。アレクシアにはその世界が物寂しいものに見えた。咲く花も可愛らしい煉瓦の家さえも色彩を有さないだけで心を騒めかせ、落ち込ませていく。昏い、昏い思いを感じながら魔女はふと「どうするんだろう」と呟いた。
「『あわよくば、この世界を救って欲しい』――かあ」
 ゆっくりと、片翼のおとこの母の家へと向かう。冒険譚を昔から好み、寝物語としておとこにも聞かせていたという母は色彩を有するアレクシアを甚く歓迎した。
「金の穂の色に、空の色。私が忘れた色彩じゃないか。あゝ、死ぬ前に見れてよかったわ」
 穏やかな母の言葉にアレクシアの胸奥を指した死と謂う概念。椅子に腰かけて差し出されたティーカップに揺れる波紋も色彩を有してはいなかった。
「冒険のお話が聞きたいって聞いてきました。
 まだまだ未熟だけど、これでもイレギュラーズとしてある程度頑張ってはきてるんだしね!
 どんなお話がいいかなあ。みんなで魔導書探して遺跡を探検したお話とか、ワイバーンと戦ったお話とか、色々とお話できそうなことはあるけど! お母さんはどんなのが好きですか?」
 にんまりと笑ったアレクシアに彼女はワイバーンってどんな色をしているの? と問い掛けた。
 色彩。失はれたもの。美しきかな、その色を思うように彼女はうっとりとアレクシアの話に聞き惚れた。冒険譚は何時だって心を躍らせるから。その中に、アレクシアは『母の瞳に僅かな色彩があった』気がしてぱちりと瞬いた。
 心を躍らせる様にして、物語の中に或る彼女に見えた僅かな色彩にアレクシアは目を細める。
「お母さんは元は赤い瞳をしていたの?」
「……ふふ、よくわかったねえ」
 にこりと笑った彼女の物哀し気なその瞳には、もう、色彩は乗ってはいなかった。まるで、その色を忘れたようにアレクシアに話をして遅れてと彼女は乞うた。


 切なく、悲し気で――滅びを受け入れ待つだけの人々がこの世界には生きていた。
 月が割れて世界が終わると言われたその時に、彼らはそれを受け入れた。
 もう二度と、救いはないのだと達観した彼らの生きた証を覚えておきたいと沙月は世界を歩いた。
 色彩無くした庭園に咲く花は物哀し気に揺れている。花を見詰めてしゃがみ込んだおんなは沙月に気付いて「綺麗ね」と笑った。
「色彩を持っているのね」
「はい。この花は、元はどんな花だったんでしょう?」
 おんなは首を振る。さあ、と。もう色なんて忘れてしまったとでも言うように悲し気に――喪の色をその身に纏って。
「私はもう、色彩何て忘れてしまったわ。きっと、誰だってそうよ。
 世界の中心を穿つ洞が私達から色彩(こころ)を奪ったの。悲しむ事も、すぐに忘れてしまうから」
 囁くその声音に沙月はこの世界は酷くもの悲しく。けれど、誰もがそれを受け入れてるように思えた。
 色彩。こころ。彼らは誰もがそれを忘れてしまった。世界が終わるという漠然とした事実を受け入れて、老いて死ぬだけなのだとでもいうように。
 あゝ、案内人の男はどうであったか。色彩は乏しいが、しかし、恋人ともう一度手を取り合いたいと願った彼は、確かに――『色』を識っていた。

 ルル家の案でカトリーナの家で食事会をすることとなっていた。アレクシアはサラダを口に含んでその味わいが混沌世界で口にする者と変わりないことに気づいた。
「味は彩と一緒に褪せてはいないんだね」
 沙月はその言葉に頷いた。普段は食べれないような豪華な料理も色が無ければ味気ないと呟くルル家に沙月は「けれど、味は普通なのですね」と穏やかな口調で言った。
「不思議な感覚がします。サラダも、ステーキも、デザートさえ。
 色がないだけで味気なく感じてしまう。いえ、味覚で感じる味は確かに『それ』そのものなのですが」
 不思議だと瞬く沙月は食事の時間は出来うる限り楽しい時間を過ごしたいと願った。
 アリシスが洞に蝶々を舞わせた事、カトリーナとおとこの恋物語。それを交えてふと、沙月は外を見る――色彩のない世界はもうすぐ終わるらしい。
 割れた月が戻ればきっとこの世界は元通りになるのだ。神様がいるのかどうかは分からない。
 沙月はふと、呟いた。真理に迫る様にたっぷりの色彩を乗せて。
「―――誰が、世界が終わると言ったのでしょう」
 その言葉に返すものはなく。色素のない月が灰銀の空で嗤っていた。

成否

成功

状態異常

なし

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