PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ダスティクラウンへの贐

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Crown
 なんで捨てられてしまったの。
 それは、誰かにとって要らなくなったからだよ。
 道ばたで何気なく問いかけた幼子に、諭すように答える両親がいた。
 ――なんで捨てられてしまったの?
 眼窩にうち捨てられたくすんだ王冠に問いかけても、つるりとした瞳は無言で泥にまみれるだけだった。

 ふと『目が覚めた』。ぼやけた思考が回り始める中、半分はまだ眠っていて暖かい夢に使っているような気分になる。泥濘に浸かるような懐かしい記憶を夢見ていた――気がした。
 最後に人種がこの部屋を訪れたのは、何年前だっただろう。
 記憶は既に古ぼけていて、映像の意味を成していなかった。豪雨に煙る景色のように視界不明瞭で、顔も声もわからない。
 ただ分かるのは、小さくて柔らかい手が『私達』を掴んで離さなかったこと。
 この手を引いたのは、彼の人生において短い間だったということ。
 それでも良かったのかな、なんて自嘲するも薄らいだ記憶ではそれすらも判別が付かない。
 わからない。だから、踊ろう。
 音楽に合わせてステップを踏めば、それだけで立派なダンスになる。間違ったって気にしない、皆で笑えば楽しいパーティーになるはず。
 楽しいことで上書きしよう、だってもうすぐゲストがやってくる。
 遊ぼう、遊ぼう。楽しい、遊ぼう。
 『王様』が『家臣達』に開幕を告げる。それを聞いたぬいぐるみのラッパ隊が気の抜けたファンファーレを吹き鳴らす。

 ――さあ、パーティーを始めよう。

●Clown
「ファントムナイトが近づいてきたわね、皆はどんな衣装を用意したのかしら?」
 ローレットにやってきた『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は、早速イレギュラーズ達へと好奇心の眼差しを向けた。
「鮮やかなオレンジ、ミスティックなヴァイオレット。普段使わない色だって、きっとアクセントになるわ」
 楽しみね、そう微笑むブルーの表情が僅かな陰りを見せた。
「はしゃいでばかりも居られないわ。皆に依頼があるのだけれど……今回は、そうね。ダスティ――鮮やかさを失ったものたちを倒して欲しいの」
 ブルーは一枚の依頼書をテーブルに広げると、その上に玩具の王冠を乗せた。
「もう誰も住んでいない屋敷があるのだけれど、そこでちょっとした幽霊騒ぎが起きているの。調べてみたら寂しがり屋のゴーストが住み着いているみたい。皆には屋敷へ行って、彼らと『遊んで』来て欲しいの」
 ゴーストと遊ぶとはどういうことか。怪訝そうな表情をするイレギュラーズにブルーは続きを語り始めた。
「この屋敷のゴーストは、それぞれ玩具に憑依しているの。『王様』は大人の腿くらいまである木製人形、『兵隊』はブリキ、『ラッパ隊』はぬいぐるみ……という感じにね。彼らは捨てられた玩具を見る人の『もっと遊びたかっただろう』という思いに反応して依代に選んだようね。それはつまり、捨てられた玩具という形がなければ留まれない思いの集合体なの」
 『王様』が声をかけ、『兵隊』が集まり、『ぬいぐるみのラッパ隊』が音で場を彩る。
 誰かに寄り添い続けた「もの」が、誰かに寄り添いたいという願いを呼び寄せてしまったようだ。
「けれど彼らはゴーストと捨てられた玩具達。可愛らしい見た目に反して自分たちを捨てる、壊すものに対して容赦しないわ。王様は剣の様に鋭い瓦礫を、兵隊は槍を、ラッパ隊は音色を。それぞれ武器として振るってくる」
 捨てられた玩具箱に時と埃が堆積し、元の色を失ってしまった彼ら。
「彼らの思いや行動は拙いものかも知れないわ。けれど、加減のない力は十分に人を傷つける力を持っているの。
 ダルブルーのように心苦しいと思うかも知れないけれど、私は皆にお願いするわね。壊れたものは元には戻らないけれど、彼らのパーティーをこれでおしまいにして欲しいの。他ならない、ここにいる皆の力が必要よ」
 よろしくね、と思いを託したイレギュラーズ達を送り出したあと、ブルーはくすんだ王冠を掌に握りしめた。

GMコメント

 水平彼方です。
 今回は捨てられた玩具と、寂しがり屋のゴースト達のパーティーにご招待します。

●成功条件
 『王様』『兵隊』『ぬいぐるみ』の破壊。
 依代となっている玩具を破壊することでゴースト討伐も同時に達成します。

●ロケーション
 雨天の昼下がり。廃墟となった屋敷のホールで戦闘です。
 大きな窓があるため室内は明るく視界明瞭です。幽霊の噂もあり人が訪れることもありません。
 元は煌びやかな屋敷でしたが、現在はすっかり見る影もなく幽霊屋敷の名にふさわしい襤褸屋です。
 所々壁や照明が崩れ落ちておりますが、戦闘に支障はありません。
 
●敵の情報
 玩具の兵隊とぬいぐるみ、そして王様からなる「かつて誰かの宝物」だったもの達です。大切にされていたことが分かるように、経年劣化であちこちが破損しています。

『王様』×1体
 「もっと遊んでいたい」という思いを持つゴーストが木製人形に憑依しています。長い間埃と泥を被った所為でかなり白っぽく、元の色彩を失っています。
 剣を持っていますが、ポルターガイストのように物体を飛ばして攻撃します。
・踊れ、歌え:周囲の瓦礫を操り単体を攻撃します。
・剣の舞踏:剣のように鋭い物体を操り、単体に大ダメージと【出血】を伴う傷を与えます。

『兵隊』×10体
 所々錆びて動くときしんだ音がする、王様を守るブリキの兵隊達です。勇猛果敢に槍で攻撃します。
・突き:槍による刺突攻撃。
・振り回し:近接する敵一列を薙ぎ払います。

『ぬいぐるみのラッパ隊』×4体
 ラッパを吹き鳴らす、所々擦り切れて綿が飛び出たぬいぐるみ達です。布の端切れで穴を塞いだり、繕われた形跡があります。
 ロバ、ネコ、イヌ、鳥の4体です。
・へなちょこラッパ:気の抜けたラッパの音で近接周囲を攻撃します。
 
●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 皆様のプレイングをお待ちしております。

  • ダスティクラウンへの贐完了
  • GM名水平彼方
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月21日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
銀城 黒羽(p3p000505)
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを

リプレイ

●贐の宴
 街から外れ、脇の小道を進んでご覧。その先には幽霊達が住む屋敷があるんだよ。
 子ども達の間で囁かれる噂の通りに道を進めば、確かに屋敷が存在した。
 その屋敷は贅をこらしたのだろう。精緻な装飾に鉄柵の嵌められた柵と門、それらは全て風化により元の形を失っていた。
 最早だれにも思い出されることもなく、雨と霧のベールに埋もれるようにして眠っているようにも見える。
 ドアノッカーを叩いて、反応を待つ。待てども誰も応えがない。仕方が無いなと扉に手をかけ力いっぱい押して開く。大仰な音を立てて開いた隙間から顔を覗かせると、埃の積もったエントランスに落ちたシャンデリアが曇天の淡い光を受けて光り輝いた。
 静まりかえったいエントランスにはそのつもりが無かったからか、訪れた一行を迎えるものは誰も居ない。
 それでも構わず、彼らは奥へと進んでいった。
「こんにちは」
 先頭を歩くクラウンが、ぺこりとお辞儀をしてご挨拶。
「王国のみなさん、一緒に劇をして遊びませんか!」
 クラウンに扮した『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が高らかに来訪を告げる。掲げるカラーガードの旗をくるりと回せば、楽しいことに目がない王様はひょこりと顔を覗かせた。
「ボク達は王様達と一緒に遊びたいんだ」
 衣装の先に縫い付けた氷鈴が歩く度に愛らしい音を鳴らす。王様が両手を振り合図を送るとブリキの兵隊が急いで整列し、ぬいぐるみが歓迎のラッパを吹く。ふにゃりとした音に合わせて『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)はアコーディオンの鍵盤に指を滑らせ、重ねるようにネーヴェ(p3p007199)が可憐な歌を披露する。
「ご一緒に劇など、如何でしょう?」
 題目は『カーニバル』。悲しみに沈む王国に笑顔を取り戻すために、カーニバルの一行がやってきた。
 ネーヴェの誘いに、家臣達は諸手を振って歓迎の意を示した。
 それから瞬く間に瓦礫のホールは、劇場の舞台へと変貌を遂げた。
「お望みの曲があればどうぞお気軽にリクエストしてくれよ。王様達を楽しませるためにやってきたんだからさ」
 楽しげな音色に体を揺らす家臣達を見て、そらきた、とペッカートはネーヴェへ合図を送り軽やかな舞踏曲へと曲を変えた。二人とぬいぐるみ達の合奏に合わせ、リュカシスがお目通りが叶った喜びを手拍子足拍子! ぱちぱちと打ち鳴らして表現する。ネーヴェも合わせて手拍子を送れば釣られて彼らも真似し出す。
 『ド根性ヒューマン』銀城 黒羽(p3p000505)が光り輝く星を散らせれば、王様と家臣達は小さな体を目一杯伸ばしたりその中を駆け回ったりして大盛り上がり。黒羽に身体から溢れ出る闘気を実体として捉え見えない足場にし一歩一歩慎重に踏み出せば――空中歩行の大技にオーディエンスの熱が上がる。
 歓声の中を『チアフルファイター』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が軽やかなステップを踏み、するりと観客の前へと降り立った。一人ずつ目配せをすれば、逆上せたようにパタパタと手を振るものまで現れる。通り過ぎ名残惜しげに見つめる視線を微笑んで受け止めながら、上手へと歩を進めるミルヴィ。
「(可哀そうな玩具達……このまま終わらせるなんて嫌ダナ……。なら! 最後に送り届ける気持ちでパーッとやろ?)」
 思いは胸の内に秘め艶然と微笑む仮面を被ったミルヴィは、王様の前までたどり着くと恭しく膝を折り悪戯っぽく片目を瞑る。
「必ず王様だけでなく皆を楽しませることを誓いますから……王様もヨロシクねっ♪」
 その言葉に王様は嬉しそうに何度も何度も頷いて返した。
「見てくださいっす王様! 世界の花々を集めてきたっす!」
 商人に扮した『他造宝石』ジル・チタニイット(p3p000943)は駆け寄ると、腕いっぱいに抱えた花束を勢いよく差し出した。
 旅の果てに集めたのだろう成果を持って、旅装のマントをそのままに宝石の瞳を輝かせるジル。
 鮮やかな花に王様と家臣達は手を上げて驚き、そっと花束を受け取ると飛び跳ねて喜んだ。足が縺れないように気をつけながら、ジルも混ざって喜びの踊りを披露する。
 楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていき、ネーヴェは次なる演目も告げる。
「わたくしたち、踊りやお歌だけでなく、武芸もおさめているのです。よろしければ、こちらもお付き合いくださいませ」

●別れは雷鳴のように
 舞台袖では『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)はマントの下に剣の姿になった『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)を隠し様子を窺っていた。シグは興味を引かれたのか兵隊達の構造を具に観察していた。
「玩具が気になるのかい?」
「……私は結局科学者なのでな。こういう事には興味があるのさ」
 そういうものかとグリムペインが答えていると、舞台の上で少女が時を告げた。
「子供の遊びに大人が出るのも無粋であるが仕舞いの時間だ」
「さて行こう」
 『夢』という楽しい劇の幕を引くために。
「おっと失礼、零時の鐘が鳴った。パーティは此処までだ」
「……さて、国を破壊する一撃である。どうするかね?」
 舞台の上へと駆け上がる。シグはグリムペインの背から離れると、ふわりと宙に浮き体から炎を象った破壊エネルギーを纏いその身を振り下ろす。
「悪いなここからは俺のステージだ。キミたちの演奏はお終いの時間だぜ」
 ジルはマントの下に隠したが魔力を高め、ペッカートは呪符を飛ばしラッパの管を詰まらせる。
 傷を負ったことに怒り武器を向ける家臣達を見て、それでもネーヴェは裾を翻し笑顔でステップを踏む。ここから先は戦を交えた舞台。彼らを倒す為に武器を構え、戦うために。
「“最期”まで楽しく、遊びましょうか」
 爪先でイヌのラッパを弾いたネーヴェに迫る槍の前に黒羽が立ちはだかる。
 捨てられた彼らに哀愁を感じずには居られない。だが放置すれば彼らは無垢な人を傷つけ――玩具としてはいけないことをしてしまう。何よりこのままでは家臣達の時間も悲しみに沈んだまま動くことはない。
「……だから、ここで『夢』はおしまいなんだ」
 全盛だったころを思わせる力を全身に漲らせ黒羽は槍の切っ先を受け止めた。鎖を檻のように編み上げると兵隊とラッパ隊を纏めて絡め取り、一斉に注意を奪う。
「――!」
 傷つけられた怒りを顕わにさせた兵隊とラッパ隊が黒羽へと一挙に押し寄せる。槍とラッパの音色を全て受け止め肯定するかのように黒羽は立ち続けた。
 まだ遊びたかったろうな、等と言うのはいつだって人間だ。
「夢を見るのは構わないが、それを以て人の身体を使うものではないよ」
 借りたものは返さなければならいと、叱られただろう。人形として、玩具としての彼らが最期を迎えるために。
「返して貰おう」
 砂利を蹴り上げ小槌を振るえば、巨大化したそれらが降り注ぎぬいぐるみの手足をもぎ取りブリキの肌を凹ませた。
 音を立てて倒れた継ぎ接ぎの鳥を見て、リュカシスは戦槌を握りしめた。誰かが傍に居る、それはきっと幸福なのだろう。
 だからリュカシスはここに居るのだ。炎を打ち出したその先ではじけ飛んだロバの体が崩れる瞬間に、笑ってくれる存在である為に。
「ありがとう」
 最後まで遊んでくれて。悲しい別れにしたくないからと、場にそぐわないと分かっていても少しでも楽しい雰囲気を残すために、リュカシスは懸命に踵を打ち鳴らす。火の粉よ舞台を彩れと、クラウンは戦槌を降り舞い続ける。
 臣下が倒れ思わず身を前に乗り出した王の視界を艶やかに舞うミルヴィの指先が掠め取る。こっちを見て、と仕草で誘い視線がかち合えばウィンクひとつ。
「王様ーアタシはこちらっ、音に合わせて踊りましょ♪」
 仲間の沈み込みそうになる気持ちを支えるようにミルヴィは舞い、リズムを取りながらギターを奏でる。振りかぶられた剣すら戯れるようにすり抜けて踊り子は舞い歌い続ける。アタシを見て、夢中になって。だって――アタシは壊すのも殺すのもまっぴらだから!
 ミルヴィに夢中になれば王様の指揮は疎かになる。
「(皆が戦えるからだからアタシはアタシの誇りにかけてここにいる皆に楽しんでもらう!)」
 旋律を受け取ったネーヴェは戦場をぴょんと跳ね、動作に似合わぬ一撃を放つ。最期に残ったネコの擦り切れた布が、ぱんと弾けて散らばった。黒羽の傷を癒やしながら、彼らの最期の姿を見てシグは思案する。
 シグの本質は『剣』である。死の今際に契約し肉体を再生した、そう言った意味ではとても似ている、かもしれない。
「……ふむ。同じ意志を持つ無機物として、せめて最後は……と言った所か」
 その答えを見出すために、まずは戦いを終わらせるべく前を見る。
「成る程、それがシグ君の見立てかね」
 それを隣で聞いたグリムペインが雷撃を一直線に走らせ、数体の兵隊と鉄くずと変えた。幼子を傷つけぬようにと丸みをもたせたパーツが砕ける様を見て、彼らが誰かを思って作られ『大切な友達』になっていたのだと改めて思う。
 私達の多くは人を見守り、手を引くものではあるけれど。
「同時にいつかはその背を見送るものと自らを知っているからね」
 幾許かの寂寥感を胸に、その成長を喜びながら手を振るのだ。
 さらば愛しき君達。寄り添い歩むことはないけれど、次合う時は語り手として、新たな聞き手と共に会えることを。
 夢を終わらせ、今日を門出の日とするために。
 どんなものにも終わりが来る。なら最期は盛大に……『遊んで』壊してやろうか。
「もう夢の終わりか。さぁ、もっともっと遊ぼう。本番はこれからだ」
 残る兵隊も数は少なくなってきた、王手をかける瞬間を待ちわびて死角から兵隊を切り裂きペッカートが笑う。
「遊びに怪我は付き物だ。ちょっとくらい危ない遊びをしないと面白くないだろう?」
 乱暴な扱いになるかもしれないが、良いスリルを楽しんでと悪魔が誘う。
 一方、ギターを傍らに置き剣へと持ち替えたミルヴィは、次の踊りを王様へと披露する。
「これはアタシのママが教えてくれた踊り……思い出せないらしいケド王様に捧げる踊りなんだって……ぴったりだね♪」
 元は古代の偉大な王国の神と王に捧げる秘伝の舞だったという。流麗で情熱的な剣舞は相手を幻惑し無防備な精神を引きずり出していく。ダメージは疲労のように蓄積し、徐々に体力を削いでいく。
「王様はミルヴィさんが引きつけてくれてるっす。残りの兵隊もちゃちゃっと終わらせるっす!」
 ミルヴィと黒羽。二人が攻撃の手を引き受けた事により、戦況はスムーズに進んでいく。
「どうにか堪えて欲しいっす!」
「ああ、任せろ」
 黒羽に刻まれた無数の傷を、ジルが治癒魔術で癒やし激励する。怒り黒羽に槍を突き出そうとした兵隊を、リュカシスは光の柱で撃ち抜いた。
「もう少しです!」
「なら先に片付ける」
「了解、おりゃーっす!」
 シグの炎の斬撃とジルの毒薬が、ブリキの兵隊を飲み込んでいく。黒羽の前に居た沢山の臣下達は遊びを終えて、永い眠りについていった。
 
●古びた王冠は夢を見る
 それでも、ただ遊びたかった。もう一度、それだけを願って待っていた。
 そうして、彼らがやってきた。この世界でたったひとつ、世界一のカーニバル。
 待ち望んだ彼らを目の前に、予感じみた思いが頭を過ぎる。
 王様も、臣下と一緒に行かなくてはいけないのだろうかと。
 
 残るは王様ただ一人。劇の最後を彩るため、カーニバルの一行は王の下へと馳せ参じる。
 ネーヴェはもう一度歌を歌い、軽やかにステップを踏み駆けていく。
「王様。さあ、さあ。兎はこちら。おいかけっこも、如何ですか?」
 ふわりと舞い降りたネーヴェは愛くるしい歌声と仕草を見て、リュカシスが戦槌を振るい色とりどりの光を撒いた。
「綺麗な光でしょう」
 楽しいことばかりを見てといわんばかりに、リュカシスは声を絞り出した。光の中を少女が舞う、絵画のような幻想的な光景だった。
「壊れるくらい遊ぼうぜ。覚悟してくれよ王様?」
 夢からは醒めなければならない。死角へと伸ばした影で腕を乱暴に引き裂いて、それでも遊ぼうとペッカートは口の端を釣り上げて笑った。
 彼が最後に見るペッカートの姿は、悪いくらいがちょうど良い。
「もうそろそろ幕引きだ」
 シグの血鎖が足下に鮮やかな赤を添え、グリムペインの疑似生命体が王様の剣を奪う。
「こんな話はご存じかな? 一度履けば死ぬまで踊り続けなければならないという、そんな御伽噺だ」
 それを見たグリムペインはひとつ物語る。広く知られた少女と呪いの靴の物語。
「安心したまえ、シグ君も先ほど言ったとおり――もうすぐ終わりが来る」
「王様!」
 ジルは声を張り上げて王様に呼びかけた。
「王様も、兵隊もラッパ隊の皆も。きっと、とっても愛されてたんだと思うっす。だから忘れられない……そんな気がするっす」
 ジルもきっとこの先覚えているからと、捧げた花に願いを込めた。最後に見るものが、美しく鮮やかであるように。短い一生の中で光り輝く、昔日の様に。
 花と光が降る中を、ミルヴィが最後の舞を踊る。
「一人ぼっちは嫌だよね、こんな辛くて悲しい事はないもの……」
 優しく語りかけるように、言葉であやすように語りかける。
「貴方達を使っていた子供達も巣立って行って貴方達は残された……。ケド貴方は一人ぼっちじゃないよ……私達が送ってあげる」
 たとえ傷だらけになっても、ミルヴィは笑顔を崩さない。
 シャンデリアの硝子片を振りかざす王様に、黒羽が闘気の光で弾き返した。
「アタシを見て」
 ――ああ、その光は夜明けであり、安らかなる時の始まり。
「お休みなさい、王様」
 木が折れる甲高い音が、ホール全体に響き渡った。それは人形が話す最期の言葉。
 ――ありがとう、と。
 そう言い残して、永い眠りについた。

●彼らに花束を
 破壊された玩具達の残骸を手分けして拾い集め、できるだけ元の形になるよう整えながら王様が座っていた辺りへと丁寧に並べていく。
「(…………ここで水を差すのはやめようか)」
 ペッカートは作業を手伝った後、するりと輪から抜け出した。悪魔の冗句は要らないだろう、ここで役目は終わったとばかりに舞台から下りた。
 シグは新しい花束を、改めて彼らに捧げた。その横でネーヴェは一人一人を優しく抱きしめて、お休みなさいの挨拶をする。
「……お前さんたちも私も、人の為の道具であった。……お前さんたちも他者に頼らぬ自分の目的を見つけられたのならば、或いは違った道もあったのかも知れんな?」
 感慨に耽るシグはもう一つの可能性を語る。
「……例えば、王様を本当の王にして……国造りなども一興。私はそう思うがな?」
 秩序ある集団として機能できていたのなら、もしかしたら。
「玩具は時間と共に捨てられ忘れられる宿命かもしれねぇ。だけど、それだけじゃねぇだろ?」
「おもちゃって、心のなかの小さい自分の傍にいてくれるものだと思うんだ。だから、ボクがもっと大人になってからも、全部を忘れてしまうことはきっとない」
 黒羽の思いに、リュカシスもまた頷く。彼らの姿はもう元には戻せないけれど、記憶は糧となり、経験は人として確かな土壌を生む。そして次の世代を育む礎となるだろう。
「お疲れ様」
 今はただお休み。黒羽の大きな手がずれた王冠をきちんと頭に載せた。
「王様、兵隊サン、ラッパ隊サン、それにたくさんのおもちゃ達。今までたくさん遊んでくれてありがとう。
 とっても楽しかったね。きっとまた遊びましょう」
「また何処かで会えたなら、遊んで下さいっす」
 花に埋もれて眠る彼らにリュカシスは敬礼し、シグは彼らの一番幸せだった時を思い、少し不格好になった部分を指先で整えた。
「お休み、僕等の銀幕スター。いついつの日か。何処かで誰かに逢えます様に」
 感謝と、叶うなら再会を。今度は楽しいカーニバルでまた会いましょう。
 カーニバルも、楽しかった時間ももうおしまい。
 花の鮮やかな色彩に埋もれて、お休みなさい、良い夢を。

成否

成功

MVP

ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥

状態異常

銀城 黒羽(p3p000505)[重傷]

あとがき

 お疲れ様でした。玩具達と最後の一時を楽しく彩ってくださり、ありがとうございます。
 予想を超えるアイデアだったのですが、プレイングいっぱいに思いを詰め込んでくださり、彼らを大切に思ってくださったことがとても嬉しかったです。
 彼らとはお別れとなりましたが、このシナリオを通して感じてくださったことが皆様の中で息づいてくだされば、これ以上のことはございません。
 MVPは王のお相手をしてくださり、最後まで寄り添ったミルヴィ・カーソンさんへ贈ります。
 参加頂き、ありがとうございます。またローレットでお会いしましょう。

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