PandoraPartyProject

シナリオ詳細

縁結びの花

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●迷いの森
 霧に満ちた森の中、松明をその手に一人の青年が歩いている。背中には大きな旅嚢を背負い、真剣そのものの顔だ。森の彼方で獣の唸り声が聞こえようが、彼の決意を鈍らせるような事は無い。ある一つの夢を叶えるためと思えば、どんな事も怖くは無かった。

 数日前、彼は一人の娘に求婚した。彼とその娘は愛し合っていたからだ。しかし悲しいかな、二人の父親は隣り合った土地の領主であった。それも先祖代々、治める領土の正確な領域を巡って争いを繰り返してきた程仲が悪い。困った事に、娘側の家には跡継ぎの男児が居ない。つまるところ、青年と娘が結ばれれば、世の習いに従って、娘側の家の領地はいつしか青年の家に吸収されることになる。これほど面白くない事は無い。
 だから娘の父は青年へ言い放った。両家の領地の北を跨るように存在する霧ふりの樹海。その奥地にのみ咲くと言う花を持って来いと。娘は反対したが、青年は引き受けた。その言葉に嘘偽りはないと誓わせて。たとえそれが罠であったとしても、結婚を許すと言わせる、これ以上の機会は無いように思われたからだ。

 青年は森を進む。練達の国から流れてきた高性能の方位磁針すら、森に満ちる魔力の前では役に立たない。手元にある古地図と己の感覚だけを頼りに、彼は歩いていた。
「……この傷、さっきつけたばかりのような」
 彼は古木の肌を撫でて顔を顰める。そこにはナイフでつけられた深い傷がついていた。先程も通った道らしい。彼は溜め息をついた。
「どうしたものか……」
 このままでは帰る事すらままならない。揚々と森に踏み込んだ彼も、いよいよ途方に暮れつつあった。
「――ケケケッ」
 その時、どこからか子供の高笑いが聞こえてきた。咄嗟に振り向くと、燃える炭の入ったカンテラがふわふわと漂っていた。怪しい光景に首を傾げていると、声が聞こえてくる。
「シンベルの花を探しているのかい? 案内してあげようか?」
「そう言って、騙す気だろう?」
「騙さなくたって、どうせ外には出ていけないだろう? それなら信じてみる方がいいんじゃない? ケケケッ」
「……」
 彼は顔を顰める。意を決して、彼はその火を追いかけ始めた。

●青年を救え
「と、森の中に入ったきり、その男の人は帰ってきていないのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3p000003)は君達の前で依頼書を読み上げた。
「つい先ほど、青年の事を探して欲しいと婚約者の人が依頼してきました。森の中には危険な魔獣が生息していますし、入り込んだ旅人を迷わせ、永遠に閉じ込めてしまうという噂のウィル・オー・ザ・ウィスプも出現するというのです。とても危険な状況ですので、迅速に合流して、その男の人を助けて欲しいとのことです」
 薄い木を束ねて作られた古地図を丸め、ユリーカは君達に差し出す。
「この恋物語の結末は皆さんに委ねられているのです。ですが、くれぐれも皆さんが迷子にならないように気を付けてくださいね」

GMコメント

●目標
 霧ふりの樹海から青年を救出する。
 森から脱出した時点で終了となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 深い森の中で探索行動を行います。
 木々の葉が生い茂っており太陽の光が届かず、常にうっすらと霧が満ちています。
 →ただし、その暗さのため下草が育たず、歩きやすい環境ではあります。
 木々の間もそれなりに広く、武器を振り回すには困らないでしょう。

●NPC
☆領主の息子
 幻想のとある領主の息子。婚約を成立させる事を条件に、シンベルの花を求めて単身樹海へと飛び込んだ。
(PL情報)
→森の奥地でウィルオザウィスプに連れ回されています。
→現時点では魔物にも襲われる事無く、無事でいるようです。
→森の中には足跡やナイフで付けた傷など、いくらかの手掛かりを残しています。

☆ウィル・オー・ザ・ウィスプ
 霧ふりの樹海に現れる鬼火です。意志を持ち旅人に話しかけてきます。
(PL情報)
→人間をからかって楽しむ傾向があるようですが、完全な敵意の塊というわけでもないようです。
→天邪鬼で、人の言う事には素直に従わない傾向があるようです。
→敵意を見せると反撃してきます。

☆魔獣
 樹海に生息する魔獣です。菌類に侵された熊のような姿をしており、その膂力による肉弾戦及び、撒き散らす胞子によって攻撃してきます。
(PL情報)
→ウィルオザウィスプを怒らせた場合にのみ出現します。
→非常にしぶとく、倒すのは困難を極めるでしょう。

●TIPS
・青年の探索には鋭敏な聴覚などが役に立つかもしれません。見通しが悪く、ただ視界によって探索するのは難しいです。
・現時点ではシンベルの花を見つけられていません。そのまま帰らせれば、結婚はほぼ達成されないでしょう。



影絵企鵝です。
今回はいわゆるロミオとジュリエットのような状況です。ゲルフとギベリンよりは救いがあるかもしれませんが。ではよろしくお願いします。

  • 縁結びの花完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ロゼット=テイ(p3p004150)
言霊使い
アウローラ=エレットローネ(p3p007207)
電子の海の精霊
ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)
戦場の医師
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
庚(p3p007370)
宙狐
ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)
軍医
紅楼夢・紫月(p3p007611)
呪刀持ちの唄歌い

リプレイ

●樹海
 旅装を整え、イレギュラーズは深い樹海へと足を踏み入れる。分厚く折り重なる木の葉の影から、ほんの僅かに白い光が差している。ウェール=ナイトボート(p3p000561)はその光を見上げ、樹海に足を踏み入れた瞬間の光景をその眼に刻み付ける。
「旅人を迷わせ、永遠に閉じ込める……なんて噂が出てるなら、会った人は無事だよな」
「全く根も葉もない噂ってのもあるっちゃあるが、大方は生きて帰ってきた人間の問わず語りに尾ひれがついて完成するもんだからな。噂ってのは」
 煙草に火をつけ、ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)は目の前の樹へ近づいていく。すべすべした木の肌をそっと撫でると、ナイフのようなもので縦線が一本刻まれていた。ウィリアムの背中越しに、ウェールもその印をじっと見つめた。
「そうだ。それに、死者が出るのなら討伐依頼が出たり、噂ももっと害意のある内容になるだろ?」
「なるほどなるほど。確かにそれはもっともです」
 庚(p3p007370)は身に纏う毛皮を揺らしてこくりと頷く。
「ならば今なおハッピーエンドの望みはあるわけですね。是非とも青年を見つけましょう。そして花を手に入れ、ついでに恋する二人に祝福が出来れば最高です!」

「それにしても、好きな人の為に頑張るのって、何だかロマンチックだよね!」
 ウェール達の背中に従いながら、ふとアウローラ=エレットローネ(p3p007207)はくすくすと笑みを零す。彼女の言葉に、紅楼夢・紫月(p3p007611)も深々と頷いた。
「うんうん。婚約者の為に頑張る青年。とってもいいわぁ。その恋が実るように手伝ってあげたいねぇ……」
 ロマン溢れる恋物語、彼女達にとっては好物だった。ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)も、二人に向かって何度も頷いた。
「良いよね、いいよねえ。若いって感じで素晴らしい! ドキドキしちゃう」
 最後にふと女性の遣うような言葉が飛び出す。ジェラルドは咄嗟に咳払いをすると、周囲の大樹を見渡し、辺りを漂う生気に対して神経を尖らせていく。
「……まぁ、冗談はさておき、森で迷って帰ってこないのは頂けないな。体力が底を尽く前に、何とか見つけ出してやらんとならんな」
 言うなり、彼は森の意思に耳を傾けながら、そっと森に刻まれた獣道を辿っていく。辿り着いた樹には、二本の縦線がナイフで刻まれていた。意思が伝えるところによれば、こんな形で何本もの樹に印が刻み付けられているらしい。
「こりゃ相当歩き回ってるようだな……魔獣なんかに出くわしてなきゃいいが……」
「まずは見つけてあげんとねぇ……」
 アウローラも紫月と顔を見合わせ、こくりと頷いた。
「うん。待っててくれてる人の為にも頑張って助けないと!」

 なるほど。今日は戦わないお仕事らしい。周りの仲間達の話に耳を傾けながら、ロゼット=テイ(p3p004150)はふわりと欠伸をした。近づく者を呑気にさせる彼女だが、今日は誰よりも彼女が呑気だった。
「いやはや、どんなイタズラものか、中々楽しみであるよ」
「そうですか? ……私としては、その幽霊が一体どんな者か、少し心配でもあるのですが」
 雪村 沙月(p3p007273)は小さく首を傾げる。ロゼットはくつくつと笑った。
「会った事の無い者に会うのは冒険者の醍醐味のようなものだろう? この者、砂漠はともかく森は中々不慣れであるから、妖精との出会いに全力を注ぐつもりであるよ」
「ふむ。ならば私は道に迷わぬよう精一杯取り組むとしましょう。……花も見つける事が出来ればいいのですが」
 彼女達が歩みを進めるごとに、木々の隙間からふわふわと這い出してきた霧がイレギュラーズを包み込んでいく。沙月は傍の樹を拳で打つと、その反響音を鋭敏な聴覚で確かめた。霧に隠れた木の影に目を凝らしながら、彼女は小さなペンを取り出して羊皮紙に樹海の地図を描き込んでいった。

 沙月の描いた地図と古地図を照らし合わせたり、青年が樹に付けた傷跡を探し求めながら、イレギュラーズは霧が濃くなる一方の森の中を練り歩いた。ウィリアムは先頭近くに立って、遠くを見渡す仲間達の代わりに、仲間達の足下をじっと見つめていた。
「む……?」
 ウィリアムはふとその場に屈み込む。隣を歩いていた紫月も足を止めてくるりと振り向いた。
「どうしたのかしらぁ?」
「これを見てくれや。この足跡は乾いてない。まだ新しいぞ」
 彼が指差したのは、彼より少し小さいくらいの足跡だ。他にここへ迷い込んだ者がいないなら、それは即ち青年の足跡というわけだ。紫月はそっと顔を上げ、じっと耳を澄ます。カラコロと微かに音が響き、紫月は慌ててその音を追いかける。仲間達も一斉にその後を追いかけた。
 やがて霧の彼方に、幽霊に連れられ辺りを彷徨う一人の青年の背中が見えてきた。
「お兄さんお兄さん! 止まって!」
 アウローラは大声で青年を呼び止める。枝を杖代わりにしてよろよろ歩いていた青年は、疲れ切った顔でぐるりと振り返った。アウローラは彼へ手を振り、パタパタと駆け寄っていく。
「君の名前は? ブルンズヴィク家の人間で合ってるよね?」
 その顔をあちこちから覗き込み、アウローラは手元の人相書きと青年とを見比べる。青年は木にもたれ掛かって座り込み、ぽつりと溜め息をついた。
「どうして……僕の家柄を知ってるんだい?」
「それはもちろん、君のことを助けてくれって言われたからだよ!」
「助けに? そうか。また僕は、彼女に迷惑をかけてしまったのか……」
 嘆息する青年のそばに歩み寄ると、ジェラルドはすぐさま跪き、首筋に指先を当てる。体温はやや低いが、脈拍は正常の範囲だ。少々体力は消耗したらしいが、どうやらそれだけに留まったらしい。ジェラルドは安堵の溜め息をつくと、腰に提げていた水筒を青年に差し出し、ついでに旅嚢から白パンを取り出す。
「とりあえずこれでも飲め。ついでにこれも食え。そしたら一旦眠れ。見張っといてやるから」
「しかし……」
「休憩しろ。ただでさえ、こんな得体の知れない霧で埋め尽くされた場所だ。自分すら見失ってしまうぞ」
 見た目は若々しくとも、齢百に達しているジェラルド。その瞳には有無を言わせぬ凄みがあった。青年は小さく俯くと、そっと水筒を手に取る。
「……わかりました。では、しばしお言葉に甘えさせていただきます」
 腹の底から息を吐き出し、木の幹にそっと身を預ける青年。そんな彼の姿を見下ろし、ふわふわと浮かんでいた幽霊がカラカラとカンテラを鳴らす。
「ふうん……今日は次から次にお客さんが来るなぁ!」
「あらあ、あなたが森の幽霊さん?」
「そうさ!」
 銀髪の一房をそっと揺らし、紫月は幽霊を見上げる。黒い靄で出来たその身体をボロ布で包み、ぼんやりと浮かぶ蛍火が、目と口の代わりに揺れていた。

●約束の花
 霧の深まる樹海の中を、イレギュラーズと青年が古地図だけを頼りに歩いていく。ランタンを手にした幽霊も、炭をからころ鳴らしながらそんな彼らの周りをふよふよと浮かんでいる。アウローラはそんな幽霊をちらりと見上げた。
「君は、この森に人が来たらいつも迎えに来るの?」
「そうさ。その辺で死なれたら困るんだよ。すぐにこの森の生き物達が食い散らかして骨だけにしようと群がってくるんだから。そんなの見てられないさ! 僕って優しいのさ」
 高らかに言い放つ幽霊。ウィリアムは青年から古地図を受け取って眺めながら、幽霊に尋ねた。
「お前さん、ずっとこの樹海に住んでるのかい? 外に出た事は?」
「無いね。ずっとボクはここにいるのさ」
「そうかい。外の世界も悪くないもんだぜ。いつか機会があったら、外に出てみたらどうだ?」
 顔を僅かに上げ、幽霊の表情をじっと窺う。すると幽霊はやれやれと首を振った。
「興味ないよ。そんなの」
 幽霊はどこかつまらなそうにランタンを振り回している。すかさずロゼットがそんな幽霊に向かって踏み込んでいった。ランタンの光を浴びて、その眼がキラキラと輝いている。
「ふふ、この者はね、君とお話しする為にここへ来たんだよー」
「ンンン」
 いきなり詰め寄られた幽霊は咄嗟に縮こまる。ロゼットは猫じゃらしに飛びつかんばかりに身構えると、幽霊へお構いなしに捲し立てた。
「君はいつ頃からここにいるの? この森に美味しい木の実とかあるのかな?」
「ボクはここで生まれたのさ。そして死んでいくのもここなのさ。こんな樹海に美味しい木の実なんてあるわけないね。毒を毒とも思わないような連中だけがこの森の中で生きていけるのさ」
 気を取り直した幽霊が、影に浮かぶ表情をみるみる歪めて脅しにかかる。しかしロゼットはその顔を少しも歪めない。一層興味津々で、ロゼットは幽霊を覗き込んだ。
「ふーん? どんな動物がいるんだい。どこの森にもいる、熊や鹿のような類はこの森にもいるのかな」
「いるさ。この森の毒を食べて生きていけるようなヤツだから、みんなみんなバケモノみたいなのばっかりだけどさ。見てみたいかい?」
「それもいいね。ついでに君がこの森で一番好きな場所に案内してくれたら、もっといい」
 ロゼットはいかにも愉しそうに尻尾を揺らす。しかし、押せ押せな彼女に当の幽霊は当惑したらしい。黙り込んだまま、幽霊はふわふわとロゼットの前から飛び去った。
「んー……少し構い過ぎたようだな……寂しいものだよ」

 ロゼットから離れた幽霊がふらふらと飛んでくる。ジェラルドもちらりと見遣った。
「なぁ、あんたはその明かりでこの森を隅々まで照らして回ってたんだろ? きっとこの森で知らない事は無いはずだ。教えてくれよ物知り幽霊。この森にしか無いっていうシンベルの花ってのは、本当にあるのかい?」
「あるさ。案内して欲しいなら案内してあげるよ? さっきからずっと言ってるんだけどね!」
 幽霊はカラカラとランタンを揺らすが、沙月は静かに首を振った。
「申し出は有難いですが、それには及びませんよ。手間を駆けさせるわけにはいかないですから」
「へ?」
「そうです。別に手伝わなくて構いません。カノエ達は自分で見つけられるのです」
 庚も早口で言葉を重ねる。シンベルの花を見つける当てなどないのだが、同じ燐火の精霊に出会えた事が嬉しかったし、彼のような存在の性質はよくよく理解していた。押してダメなら引いてみろである。ツンデレ作戦だ。幽霊は首を傾げる。
「そうかい? じゃあもう僕の案内とかもいらない?」
「別にあっち行けとは言ってないでしょう? 別にもう少しお話ししてもいいのですよ。寂しいとか怖いとかじゃないので、勘違いしないでいただきたく思いますけれど!」
「ふーん。やっぱり僕の助けが必要なんじゃないの?」
 庚と幽霊の焦らし合い。口では釣れない事を言いながら、耳と尾をぐるぐる動かしてその本心をはっきりとアピールするのだ。
「……でも手伝いはご遠慮願いたいのですよ!」
「もー、メンドクサイ奴だなぁ! そんなに手伝って欲しくないんなら、無理にだって手伝ってやる! こっちに来ればいいさ!」
 カンテラを振り回して叫んだ幽霊は、するすると森の中を突き進む。庚は確信めいた笑みを浮かべると、ひょこひょこ跳ねてその後を追いかける。
「行きましょう皆さん! せっかくのご厚意をふいにする手はありませんよ!」
 仲間達は顔を見合わせると、半信半疑でその後を追いかけていった。

 そして。

 ムキになった幽霊に連れてこられたのは、美しい泉。深い樹海の中で唯一光が差し込み、美しく水面が輝いている。その泉を取り囲むように、小さな白い花が群れて咲き乱れている。青年はその花を目の当たりにした瞬間、思わず息を呑んだ。
「これは……!」
 青年は慌てて白い花へ駆け寄る。沙月も傍に跪き、懐に入れていた小さなスケッチと見比べる。
「なるほど。これがシンベルの花のようですね」
「ああ。花は確かにあった……!」
「ふん。良かっただろ。僕が助けてやる気になってさ。感謝しなよ」
 幽霊は蛍火の眼を三角にしている。どうにも素直にはなれない性分らしい。紫月は幽霊を見上げると、かくりと首を傾げた。
「ねえ、このシンベルの花、一房貰って行っていいのかしら? 婚約成立のために、このお兄さんが必要なのよ」
「いいよ。花束作るくらいなら、ぜんぜん持って行ってよ」
「ありがとう」
「しっかり自分の手で持って帰って、意志を示せよ?」
 ジェラルドはその肩を力強く叩く。青年は頷くと、飛び切り上等な花を一つ一つ摘んでいく。その姿を眺めて、幽霊はぽつりと呟いた。
「……そういうヤツがいっぱいいたんだ。ボクの事を魔法でイジメて、無理矢理場所を聞き出そうとするヤツばっかりだったさ」
「あらあらぁ。大変な目に遭って来たんやねぇ」
 紫月が溜め息をつくと、幽霊はけらけらと笑う。
「全部トモダチの餌にしてやったけどね。この花は昔から『約束』の花と言われてきたんだ。ボクのことをイジメて手に入れようなんて、絶対におかしいのさ」
「約束、ねぇ」
 風が吹き込み、シンベルの花が小さく揺れた。

 地図と幽霊の案内を頼りに、一行は森の外を目指す。最初に救助へ向かった時よりも、ずっと順調だった。
「お前はすごいな。俺だったらこの森に一人っきりだったら夜には寂しくて死んじまいそうだ。お前は寂しくないのか?」
 ウェールは幽霊へ静かに尋ねる。幽霊はふわりふわりと浮かび、相変わらずけらけらと笑った。
「人間だけが友達だと思ったら大間違いさ。ボクにはこの森にたくさんトモダチがいる。寂しくなんかないさ。まあ、こんな森に迷い込んできたお前達は寂しいだろーから、ボクはこうして遊んでやってるけどね」
「そうかぁ。お前は強いんだな。俺なんか寂しがり屋だからさ。お前みたいなヤツが家にいてくれたら色々頑張れそうなもんだと思ったんだが……」
「ご生憎だね。ボクはこの森の庭師みたいなもんなのさ。君が幾ら寂しくたって、この森を離れる事なんて出来やしないね。残念残念」
 幽霊は両目を爛々と光らせる。ウェールは尻尾を軽く丸め、耳を伏せて幽霊を見遣った。その声色の幼さが、かつていた息子を思い出させた。
「なら、俺がたまにこっちに通うから、話に付き合ってくれないか?」
 そこまで言うと、幽霊はやれやれと首を振り、口から影を舌のように突き出した。
「物好きなヤツ。ほら、もうすぐ外に出るよ」
 幽霊はランタンを掲げる。深い霧はすでに晴れ、木々の狭間にはだだっ広い草原が広がっていた。ふわりと空へ浮かんだ幽霊は、ふらふら飛び去っていく。
「……気が向いたらまた来なよ」
 イレギュラーズは、幽霊が消え去るまで、その背中をじっと見送っていた。

●新たな未来へ
 シンベルの花束を抱えて、揚々と帰還したイレギュラーズと青年。娘はそんな彼らを涙ながらに出迎えた。
「ありがとうございます。何とお礼をしたらいいか……」
「いいってことよ、嬢ちゃん。それよりも今日はたっぷりといい知らせを持って来たんだ」
 新しい煙草に火を付けながら、ウィリアムはにやりと笑って青年をせっつく。青年は頷くと、憮然としている娘の父親に向かって、青年はシンベルの花束を差し出した。
「ご覧ください。約束通りに花を摘んできました」
「むむむ……」
「今更約束を無かったことにしろ、などとは仰いませんよね。聞くところによれば、ただ一人の力で、などという条件も申し添えていなかったはずです」
 沙月はすかさず助け船を出す。苦虫を噛み潰したような顔で唸っていた領主だったが、やがて小さく頷いた。
「仕方あるまい。約束を守らぬほど落ちぶれてはいない。……しかしだな。我々も跡継ぎがいないのでは困る。故に、お前達の間に生まれた長男……それを我が家の養子にするなら、お前達の婚儀を認めよう。それが最大限の譲歩だ」
 長男を養子に。となると、彼らの世継ぎは二人目以降になる。これもこれで並の条件ではなかったが、娘は全く怯まなかった。
「我々は結ばれるのです。これ以上何をか望みましょうや。一人で足りなければ二人でも三人でも産んでみせますとも。そうでしょう?」
「ああ……!」
 青年も頷く。その笑みを見比べて、アウローラは満足げに何度も頷いた。
「うんうん! みんな怪我も無かったし、最高の結末だったよね!」
「ええ、ええ。ハッピーエンドなのですね。きっと」
 庚も頷く。夫婦は、イレギュラーズ達へ揃って向き直る。
「ありがとう。君達のお陰で、考え得る限りの良い結末を手に出来た。どれだけお礼をしてもしきれなさそうだ」
「そうねぇ。これからは無茶して、あんまりお相手を心配させないようにねぇ」
「せっかく掴み取った幸せのチャンスなんだぜ。取りこぼしたりするなよ?」
 紫月はふわりと微笑み、ジェラルドもにっこり笑う。青年は少女と固く抱き合うと、力強く頷いた。
「ああ、勿論だ」

「人の門出を祝えるのは俺達にとっても幸せな事だな」
 ウェールは噛みしめるように呟く。ロゼットも彼を見上げて、尻尾をゆらりと振った。
「良かった良かった。この者も嬉しく思うよ」



 その後、二家の婚儀が執り行われた事で、小競り合いを続けていた関係は小康状態を迎える事になる。その将来は、正にこの夫婦に委ねられているのである。

 おわり

成否

成功

MVP

庚(p3p007370)
宙狐

状態異常

なし

あとがき

この度はご参加ありがとうございました。
シナリオの中でもウィスプが呟いていますが、ドボンのトリガーは直接危害を加える事でした。ですが皆さん優しくて、こちらも嬉しく思います。

またご縁がありましたら、よろしくお願いします。

PAGETOPPAGEBOTTOM