シナリオ詳細
<Sandman>怠惰なる銃弾
オープニング
●幻想種救出作戦
ザントマンなる存在によって、幻想種の奴隷売買事件が頻発している。
それに伴ってラサではディルク派の計画によってザントマンの正体であるラサ古参商人であるオラクル・ベルベーグルス一派のあぶり出しが行われた。
対してオラクル派も深緑との同盟破棄を提案し、大々的な侵略開始を宣言する。
ラサは今、ディルク派とオラクル派に二分するかのような様相を見せていた。
「ザントマンの正体はラサの有力商人オラクル・ベルベーグルスであり、そして恐らくはオラクルは魔種であることも予想されているわ。
そうなると、当然ローレットの――イレギュラーズの出番となるわけね」
『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)は新たな依頼書を手にそうイレギュラーズに伝えた。
「ディルク派とオラクル派の衝突は避けられないわ。ローレットは立場場中立だけど魔種となれば話は別ね。それに懇意にしてるディルク代表様からの依頼だもの。断る理由はなかったわ。
やるべきことは幾つかあるけれど、今回頼みたいのは幻想種を閉じ込めている地下施設から救出して欲しいものよ」
資料を広げるリリィは地図のある一点を指した。
「ネフェレスト郊外の砂漠、そこに古びた遺跡の入口があるの。砂漠にポッカリあいた洞穴のようなものね。そこに手を加えて奴隷にした幻想種を”保管”しているらしいわ――飼育場とも言えるのかもね……なんにしてもそこへ潜入して捕まっている幻想種を助け出すことがオーダーになるわ」
地下施設は三層構造で、下に行くほど警備は緩くなるようだ。恐らく侵入時点と、脱出の最後がキツくなるだろう。
最初に警備を全滅させるか、幻想種達の確保を優先するかの判断が必要になってくるはずだ。
「警備はオラクル一派の傭兵達だけれど……どうにも様子がおかしいわ。そうその状態はまるで『呼び声』の影響を受けているようにね。
オラクルが魔種であろうとは推察されているけれど、”彼以外の魔種の影響”も考えられる。容易い救出依頼とはならないと思うわ。十分に気をつけて」
リリィの夢見た予感は外れることがない。断片ながらも得られている情報は魔種との遭遇を想定したものだった。
砂漠の地下施設への潜入救出依頼。
難易度の高いものとなるが、依頼された以上成功させる努力をするのがローレットでありイレギュラーズだ。
依頼書を受け取ったイレギュラーズは、成功させるべく策を練り始めるのだった。
●怠惰なるもの
砂漠に似つかわしくない黒いスーツを着込んだ長身細身の男が深くハットを被り直す。目深に被ることでその視線は読めないが、どこか鋭さを感じさせると相対する傭兵達は思った。
「……で?」
黒スーツの男が小首を傾げて言う。傭兵達は何を求められてるのか分からず押し黙った。
「……言葉が少なかったな。悪ィね。俺は何をするのも面倒でなァ……。
……で? なんで商品が死んでるんだ?」
対峙してるだけで命が削られている感覚に、傭兵達は脂汗を流す。低くやる気のない声は責任の所在を求めていた。
意を決して一人の傭兵が説明した。
「例の首輪を付けようとしたら、コイツが暴れやがったんです……俺達も抑えに掛かったんですが存外強くて、でも俺達の仲間が二人も喉を噛みきられて殺されたんだ! 止めるには殺るしかなかったんだよ!!」
必死の弁明を気怠そうに聞く黒スーツが面倒そうに首を振る。
「……話にならねぇ。殺しちまったらまた用意しなきゃいけねぇじゃねぇか……。
ああ、いやだ。面倒だ。
俺はね、怠惰に平穏に暮らしたいの。だから面倒な仕事はスマートに済ますんだよ……わかるか?」
そう言って黒スーツが腕を伸ばす。人差し指と親指を伸ばして”銃”を形作る。
その瞬間傭兵達が身に降り注ぐ殺意に堪えきれず悲鳴を上げて脱兎の如く逃げ出した。
「……責任は取れよなぁ……面倒事押しつけやがって……」
銃の形を模した黒スーツの指。それが見る間に変質して、金属めいた銃口を形づくり腕も巻き込んで一本のライフルを作り出した。
目深に被ったハットの奥で禍々しい瞳が光る。砂漠に響き渡る銃声は刹那の間に十発。傭兵達の数も十人。人が命を失い倒れる音も――また十だ。
「……ああ、めんどくせぇ。一人残しとけば片付けもできたか?
チッ……めんどくせぇなぁ……『ザントマン』にも会いに行かねぇといけねぇのに……」
黒スーツの男は気怠そうに砂漠を歩き出す。
魔種コイル・コークス・コードナー。
砂漠に潜む地下施設を管理する『怠惰』に連なる魔種である。
- <Sandman>怠惰なる銃弾Lv:15以上完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年10月12日 22時10分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●強行突入
その地下施設は砂漠のど真ん中に口を開けていた。
周辺に人影はなく、まるで警戒していない様子が見て取れた。
「罠――って感じではなさそうだな」
様子を伺っていた『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)が合図をだし、イレギュラーズは揃って地下施設前へと集まった。
「なるほど、考えたものです。物資ならともかくここに奴隷が集められているなんて考えつかないものです」
地下への入口を覗き込みながら『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が言う。
古びた土作りの遺跡は所々風化し脆そうにも思えるが、よく目を凝らして見てみれば、人の手により補強されているのが見て取れる。きっと内部は想像以上に手が加えられ、頑丈な作りになっていると思われた。
「飼育所……もう完全に家畜か何かの扱いなのですね……。若いのが羨ましいのかは知りませんがザントマン一派とやら、かなりのワルって奴ですねぇ?」
施設の様相を見て、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は『飼育所』と感想を漏らした。それは実に的を射ていて、この地下施設は商品としての奴隷を飼育する場に違いなかった。
「急ごう。魔種の気配も予感されてるし、幻想種の子達も気になる。時間が経てば経つほど不利になるよ」
『青の十六夜』メルナ(p3p002292)は武器を構えて、地下施設へと歩みを進める。イレギュラーズ達は後を追うように歩み出した。
一番後ろ、『トラージャーハンター』ソア(p3p007025)が悲しげに目を細める。それに気づいた『抗う者』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)が心配になって声を掛けた。
「ソアは、大丈夫? 余り、無理とかしたら駄目だからね」
自身も緊張しているのだが、それを隠し元気づける。ソアは頷いて気持ちを吐露した。
「うん、ちゃんと気をつけていくよ……ねえ、エスト、
人間同士で酷いことしてるの、どうして?」
エストレーリャは答えに窮する。
人の欲望は底知れない。自らの欲望を満たす為ならば人は悪魔にだってなってしまう。
純粋なソアにそんな人の闇を見せたくないと、そう思った。
言葉にはできない。代わりにソアの手を、強く握った。ソアもまたその答えを聞くこと無く、繋いだ手のぬくもりを強く感じながら、揃って地下へと下りていく。
遺跡の内部に入ると、予想した通り人の手によって作られた近代的な通路が見えてくる。
「整然とした通路……迷うことはなさそうだけど、同時に隠れて進むことも難しいね」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が周囲の様子を確認しながらそう判断すると、『猫鮫姫』燕黒 姫喬(p3p000406)が「わかっていたことさぁね」と歯を剥き出しにして笑った。
イレギュラーズ達は作戦を確認し合うと行動に移る。まずは地下二階までの強行突入だ。
「頼もぉ~~~! Heーy! お邪魔しまぁ~す!!」
姫喬の名乗りと共に放たれた飛翔斬が警備兵の一人を傷つける。一気にどよめき立つ警備兵達にイレギュラーズが襲いかかった。
「景気づけに、派手に行かせてもらいましょう。さぁ私に力を貸してちょうだい」
『お道化て咲いた薔薇人形』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が周囲の自然物よりエネルギーを引き出して、集約したエネルギーを暴風として放つ。地下空間に放たれた荒ぶるエネルギーが轟音と共に施設全体を揺らした。
「手っ取り早く数を減らさせてもらうよ!」
土煙が舞う中を『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)が疾走る。ハイセンスによる状況把握は視界が悪い状況にあっても優位を保つことができる。慌てふためく警備兵の側面から上空を奪い構えた銃から放たれる銃弾が次々に獲物を仕留めていった。
「わかりやすく壁に道案内されてるぜ。地下へはこの先の道みたいだ」
壁に記されたマーキングを確認しながらサンディが言う。この期に及んで罠という可能性は低いだろう。イレギュラーズは警備兵達との戦闘を繰り返しながら先へ下へと進んでいった。
●陽動戦
地下一階フロアを突破して、地下二階へと踏み込むと、戦闘力をもたない奴隷商人達と出くわした。これを引き倒して奥まで進めば、すぐに地下三階への階段が見えてきた。
「あとはよろしくね」
「そっちも、気をつけて」
そこでイレギュラーズは二手に分かれる。
囚われの幻想種達を救い出す救出班と、残存する警備兵達を引きつける陽動班だ。
救出班が地下三階へと下りたの確認すると陽動班は反転して地下一階へと戻り始める。警備兵達はどうにも正気じゃないようだ。目に見える者を追いかける。姫喬の挑発と合わせて、上手く引きつけることができた。
「まだ警備の数の方が多いね。はぐれないように注意しよう」
陽動班として残ったスティアが敵の注意を引きつける姫喬を回復しながら仲間に声をかける。特段の防御技術を持つスティアだ。たとえ挑発的なスキルを持たずとも最前列に立てば自ずと狙われる。耐久面にやや難を持つ姫喬をフォローして、二人で敵の攻撃を引き受けていた。
そこにメルナが光刃を走らせる。
「やぁぁ――ッ!!」
地を走る光の刃が、居並ぶ警備兵達を貫いていく。悪逆を断つ斬光の一閃は、十分なダメージを稼ぎ出し、陽動班の攻撃の要となっていた。
戦いながらリースリットは思う。どこかおかしいと。
「正気を失った傭兵達だけが守る地下施設――オラクルとは別の魔種がどこかに居るという話は、間違ってなさそうですね」
「だとするとどこかで見ているのかね? この状況を」
「或いは、私達が出てくるのを待ち構えているか――」
施設内で出くわさないことを祈りたい気持ちは大きい。退路を塞がれるのはかなり危険だからだ。
四人ができることは、とにかく警備の者達を沈黙させ、救出班が素早く戻ってくるのを待つだけだ。
一人、また一人と警備兵を倒していく最中、姫喬は警備兵達の異常に気づく。
「……まずいぞ……コイル・コークス・コードナーに殺される……捕まえなくては、侵入者を……」
「コイル・コークス・コードナー……誰だいそれは?」
「いやだ、死にたくない死にたくない……!」
質問に答えず警備兵が襲いかかる。まるで冷静さを欠いた男達は、意識を失ってもなお動きを止めず、事切れるまでイレギュラーズへと襲いかかる。
その異常性に、イレギュラーズは戦慄を覚えた。
コイル・コークス・コードナー。
恐らくこの場所を守る魔種である可能性は高い。危険性を孕んだ敵の名を知り、イレギュラーズは掛かる未来に待ち受ける脅威を想像するのだった。
●グリムルート
陽動班が、見事に陽動を成功させてる頃、救助班の一行は地下三階へと辿り着いていた。
狭いフロアに、一つの部屋。まさに飼育場と呼ぶべき簡素な牢獄がそこにあった。
「こいつはひどいな。すぐに鍵を開ける、待ってろ」
サンディが入口の鍵を破壊する。
扉を開くと、首輪を嵌められた幻想種達が十人いた。皆一様に暗い表情で、頭を垂れている。どこか呆とした様子の幻想種達に、イレギュラーズは痛ましさを覚え、すぐに助けてやろうという気持ちが湧いてくる。
「さ、助けに来ましたよ! ……おや」
利香が首輪を見定めると同時、幻想種達が一斉に飛びかかる。特に集められていた幻想種は皆戦闘に長けた面々のようで、その瞬発性は高く力も強い。
だが、この奇襲に対して、イレギュラーズは十分な警戒を持っていた。事前に嵌められた首輪が洗脳ないしは操ることのできる力を持っているということを知っていた。距離を取って奇襲を躱すことに成功する。
「やっぱり首輪はどうにかしないとだめそうですね」
利香が魔眼を光らせて、幻想種達の動きを止める。
「首輪に衝撃を与えればいいのかしら? だめそうなら一度無力化するしかなさそうね」
「戦える人達ばかり集めたってやっぱり悪い予感が当たったね。大丈夫手加減は得意なんだ。大人しくさせてすぐ助けてあげるからね」
ヴァイスとソアが幻想種、その首輪を狙って攻撃を始める。小さな部位だ狙いは難しかったが、高い命中力を持つヴァイス、天十里、ソアが揃っていた。加減しながら攻撃を繰り返すと、二、三撃与えたところで首輪にヒビが入る。
「大丈夫、いけそうだ。この調子で壊していこう!」
状況的に先行きが不透明であるが、笑顔を絶やさない天十里が仲間を元気づける。
「周囲の精霊に感応していますけど、まだ魔種と思われる敵は来てないようです」
精霊疎通と、ファミリアーを動員して、十分な警戒をするエストレーリャが、状況の変化を逐一知らせてくれるお蔭で、イレギュラーズは焦りを持ちつつも冷静に行動することができる。
囚われていた幻想種の動きは戦闘慣れしていて、素早く御することが難しい相手ではあるが、主立った武器も無く力任せに抑え込んでくるだけだったので、対処するのにそう時間は掛からなかった。
首元を狙った攻撃で、次々に首輪を破壊していく。そうして、全ての首輪を破壊し終わると、幻想種達は頭を押さえながら立ち上がった。
「……くっ……すまない、助かりました。……貴方達は?」
「囚われの姫達を助けるナイトさ。動けそうかい? そう身体に傷はつけてないけれど」
「ああ、心配ない。おかげさまで走る程度は問題なさそうだ」
サンディの確認に幻想種達は皆力強く頷いた。
「それなら急ごう! 上で警備の人達を押さえてくれているみんなに合流しなきゃ!」
「できたら魔種とも遭遇したくないところですね」
ソアとエストレーリャの言葉に幻想種が一つ確認をとる。
「黒いスーツ姿の男を見なかったか? この施設を取りまとめる男のようだが、あの力、恐らく魔種と思われる悪鬼羅刹に他ならない」
「来るときは見なかったわね……彼女も感知してないようだし、今この場所にはいないんじゃないかしら?」
ヴァイスはエストレーリャの精霊疎通でそれらしい人物が居ないことを確認する。エストレーリャは頷いて、その言葉が間違っていないことを示した。
「ならば、急いだ方が良いでしょう。あのものから無事に逃れられるとは……残念ですが思えない」
幻想種の重い言葉に、イレギュラーズは警戒を高めた。
六人は幻想種を連れて上層へと引き返し始める。
地下二階はすでにもぬけの殻だ。その場にいた奴隷商人達は倒されるか、逃げ出したか。少なくとも動く者はいなかった。
そのまま地下一階へと戻ると、僅かな戦闘音が聞こえた。一行は走りながら音のした方へ向かうと、地上への入口前で、陽動班の四人が最後の警備兵を倒すところに出くわした。
「首尾はどうだい?」
歯を剥き出しにして尋ねた姫喬に、救出班は親指を立てて応えて見せるのだった。
●コイル・コークス・コードナー
警戒しながら、慎重に、しかし迅速に地上へと出たイレギュラーズ一行。
砂漠へと飛び出して、すぐに状況的な危機感を感じた。
「やっぱり、タダで返してくれるとは行かないみたいだね……」
恐るべき気配を感じてメルナが歯噛みする。
砂漠の先に、黒い影が朧に揺れていた。影が腕を前に突き出したかと思えば、イレギュラーズの足下に、幾つもの銃痕が刻まれる。馬車に乗り込んでいた幻想種達は緊張と恐怖で強ばる長耳を押さえるように頭を抱えた。
「……そいつは警告だ……今すぐ商品を置いて帰れば、命だけは取らないっていうなぁ……」
間延びした声からは想像出来ないほどの圧力がイレギュラーズの肌を粟立たせる。剣呑雰囲気を待とう黒スーツがイレギュラーズを捉えていた。
「そう言われてはい、そうですかとは行かないんだよ!」
姫喬が見得を切って黒スーツの注意を引く。それと同時に馬車を走らせた。
尻尾を巻いて逃げ出す一行を見て、黒スーツ――魔種コイルは盛大にため息をつきぼやきはじめた。
「……あぁ……まじ勘弁してくれよぉ……どうして、こう面倒なことばかりおこるかねぇ」
肩を落とし頭を垂れたコイルが、深く被った帽子の下で赤い瞳を光らせる。
「……めんどくせぇ……ああ……めんどくせぇ……! 後始末を考えただけで、頭が痛くなりそうだ……。
はぁ……仕方ねぇ……やれるだけのことはやったという行動の証を見せなきゃなぁ……」
そう言うとコイルは両の手を伸ばした。瞬間二つの腕が金属めいたライフルへと姿を変える。
「奴さん撃ってきそうですよ! パスですよ、パス。兎に角急いで逃げましょう!」
施設周辺は砂丘に囲まれている。
魔種コイルが銃撃に優れた攻撃方法を持つのであれば、砂丘を越えれば逃げおおせることができるだろう。
逆に言えば、砂丘を越えるまで、確実に狙われるということになる。
「……四十秒だ。
本気の戦いはとにかくめんどくせぇ……その間に逃げ切れるなら俺も見逃すことにしよう。だがそれ以上この場に残るなら――誰一人逃さねぇよ。
四十秒。やれることをやってみせるんだな」
その言葉の端々から魔種コイルの自信が取って見える。周囲に飛び交う狂気と力の圧力がそれを証明するかのようだった。
砂丘を登りきるまで百秒――いや、早めに出発できたお蔭で八十秒と言った所か。残り四十秒をどう凌ぎきるか、それが勝負の分かれ目と言えた。
イレギュラーズは各個人、幻想種を乗せた馬車を守り切ることを優先して行動を開始した。
最速で動き始めたのは天十里だ。
燃え上がる意思を光となして身体を強化すると、続けて意識によって活性化された紫影のルーンの魔弾を躊躇することなく動きを止めたコイルへと発射する。
放たれた魔弾がコイルの身体を貫く。傷痕から鮮血が飛び散り炎獄となれば、コイルの身体を延焼させていく。
「挑発はないけれど……BS漬けは嫌でしょ?」
「ああ……くそ……痛ぇなぁ……ああ言われたら素直に帰るもんだろ普通。なんで仕掛けてくるんだよ……くそっ」
愚痴るコイルはしかし、微動だにしない。いまだダメージはかすり傷のようなものだと言わんばかりである。
「ふふ、期待を裏切るようで悪いけど、手は出させてもらうわ」
馬車の中からヴァイスが魔力編みコイルへと向けて射出する。高い命中力と超大な射程があればこその援護だ。ライフルを構えるコイルの胸を貫き、確実なダメージとした。
「今のうちだ、急いで行け」
走る馬車の後ろから、サンディの操るもう一つの馬車が追走する。
自らを遮蔽物とする作戦は十分に機能したものと言って良いだろう。僅かながらでも馬車が無傷でいられる時間が増えたはずだ。
そうして先手を仕掛けてから撤退戦を開始したイレギュラーズ。
四十秒という時間は、長いようで短い。仕掛けた者も馬車を追い撤退を開始しないといけない中、約束の時間になろうとしていた。
「……四十秒だ。
まあ、逃げ切れるとは思ってなかったがね……」
コイルが呟いた瞬間、殺意が膨張するのがわかった。それだけで命を刈り取られる錯覚に陥る。逃げる背筋が絶対的に氷付いた。
「――!!」
同時に、無数の銃声が弾けた。ライフルでありながら、まるでマシンガンのような多段の発射音。そして空を裂き、命を摘み取ろうとする魔弾の雨が、横殴りに押し寄せる。
初撃で、サンディの馬車が破壊され幻想種を乗せた馬車ががら空きになる。馬車を追っていた殿のイレギュラーズ達の多くが狙い澄ましたかのような致命傷を受けてその肌を鮮血に塗らした。
「全員の命は天秤に出来ない。さぁさ狙いなッ! 燕黒の家背負うにゃこんくらい伊達でなきゃあねぇ!」
姫喬が飛び出してコイルの狙いを絞らせる。
「狙いはこっちにも在りますよ!」
姫喬を守るように利香もチャームでコイルの敵視を奪う。
二人の身を挺した防御は確かにコイルの狙いを逸らすことに成功しただろう。だがその代償は大きい。体力の少ない姫喬は重大な傷を負って倒れた。利香とサンディが抱え起こしながら逃げ出す。
そして三射目。
「やらせない、やらせないよ!」
ソアが幻影を生み出して馬車の射線を覆う。絶対必中と思われるコイルの射撃は、しかし視界を遮られると命中力が下がるようだった。
いくつかの弾が幻影を抜けて馬車に届くも、エストレーリャとメルナが幻想種を庇い、守り切ることに成功する。
そして砂丘を登りきった最後の時、四射目の連続放火が馬車を襲う。
多くの者が互いを庇い合い、傷付いていた。あとはもう祈るようにしながら、頭を伏せる以外になかった。
そうして、銃声が鳴り止んだ頃、目標を見失ったコイルが両腕を下げた。
「……ちっ、なんだありゃ、以外に頑丈か? ただの人間じゃねぇな……くそっ」
悪態付くコイルは深く帽子を被り直し、その場から姿を消すのだった。
「なんとか逃げ切れましたね……」
リースリットが安堵から深くため息をつく。
被害は甚大なれど、その被害はイレギュラーズだけに留まった。
状況次第では救出した幻想種達の全滅もありえただろう。イレギュラーズ各人の奮闘がこの結果を手にしたと言って良い。
しかし、魔種コイルは今だその力の全てを見せていない。
次会うときは――起こりうるかもしれない悲惨な未来を振り払い、イレギュラーズ達は幻想種達と共に帰還するのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼お疲れ様でした。
MVPは姫喬さんに送ります。おめでとうございます。
次なる展開をお待ち下さい。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
地下施設に閉じ込められた幻想種達。
魔種の守るこの施設に潜入し脱出しましょう。
●依頼達成条件
幻想種を一人でも助け出す。
●情報確度
このシナリオの情報精度はCです。
情報に不確かな部分があります。想定外の出来事も起きるかも知れません。
●地下施設について
三階層の遺跡を改造した施設。
逆ピラミッド型構造で、フロアは下に行くほど狭くなる。
地下一階に大部分の警備が常駐しており、地下二階は奴隷商などの会議室が主。地下三階に攫われた幻想種が捕まっている。
入口周りは警備も少ないので侵入は容易いが、地下一階は戦闘を避けることはできないでしょう。
陽動によって施設から外に出すのは難しいかもしれません。施設内での陽動は可能だと思われます。
迷路にはなっていないので、中に入れば地下三階までの道はすぐにわかるでしょう。
●警備の傭兵達について
数は二十人。
オラクル一派の悪徳傭兵達。戦闘能力はそこそこ高めで、イレギュラーズに及ばない程度の強さをもっています。
多くの者がザントマンまたは魔種コイルの『呼び声』によって狂っているようです。
施設内に散り散りに配置しており、大きな物音などに反応して集まってきます。
●幽閉された幻想種について
数は十人。
少女や女性のみで構成されていて、皆一様に首に古めかしい奴隷の首輪を嵌められています。
深緑より拉致されてきた者です。特に戦闘経験豊富な者が集められているようです。
どこか苦しそうに、そして呆然としたようで大人しく捕まっています。
●魔種コイルについて
コイル・コークス・コードナーを名乗る黒いスーツを身に纏ったカオスシードの魔種。
『怠惰』に連なるためか、とにかく面倒事は嫌いで、通常時の行動は鈍い。
ただし戦闘となるとその正確無比な射撃で戦場を蹂躙する。
現在わかっているのは、『戦闘行動を開始するまでに時間が掛かる』、『肉体を銃に変える』、『戦闘中常軌を逸したの反応速度』、『三回以上の連続攻撃』。
また、イレギュラーズが施設侵入時にはまだ施設には帰ってきてないようです。
●戦闘地域について
屋内と屋外砂漠での戦闘になります。
屋内も広く、戦闘行動は自由にできるでしょう。
屋外の砂漠は遮蔽物が一切無く、砂丘を越えるのに十ターンかかります。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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