PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Sandman>かの砦を討ち落とせ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●共闘
「──というわけで、皆さんにはこの傭兵団たちをやっつけてほしいんです」
 ブラウ(p3n000090)がイレギュラーズたちへ依頼書を見せる。覗き込むとそこには──『ザントマン』の文字があった。
 現在、ラサの情勢は大きく分けて2つ。ラサの事実上トップとなるディルクか、ザントマン──古参商人オラクルか。
 近頃頻繁に報告されている、幻想種を対象とした事件。奴隷売買の裏側にはザントマンと呼ばれる者の存在があった。その正体はラサの商人──そしておそらく魔種であろう──オラクル・ベルベーグルス。彼と、その仲間を明確にすべくディルクは一計を講じたのである。
 結果として敵と味方は明確になり、あとは一網打尽にするだけとなった。
「この傭兵団は当然、敵側……ザントマン側です。その中でも団をまとめる『黒豹』パンターはとても危険な人物となります」
 その名前を、聞いたことがある者もいるかもしれない。ラサの中でも指折りの実力者であると噂される獣種の男だ。
 彼は悪事に手を染めているなどの噂でも有名であったが──そんな男が、ザントマンと手を組んだ。
「彼は魔種の可能性がある……いえ、おそらく魔種でしょう。ザントマン一党によって、その狂気におかしくなっている人は多いです。ですが、」
 彼の周り、傭兵団の面々はその影響が深いのだとブラウは告げた。蝕む狂気も浅いなら救えるが、今回ばかりは救うことのできない者もいるだろう。
 ちなみに、調査にはブラウが向かったのだが──当然、見つかった。
「その時、運良く助けて頂きまして。今回の話を聞いて、力を貸してもらえるそうなんです」
 あちらの、とブラウがローレットのカウンターを示す。そこでは大柄な体の獣種が酒をかっくらっていた。
「ハウザーさーん! こちら、ご一緒に戦うイレギュラーズさんたちですよー」
 ブラウの言葉に獣種が──『凶頭』ハウザー・ヤーク(p3n000093)が振り返る。イレギュラーズたちを見ると、彼は非常に好戦的な笑みを浮かべた。
「パンターとやるんだろう? 俺も──俺たちも混ぜてくれよ」
 『俺たち』とは彼が率いる凶(マガキ)のことだろう。極めて高い膂力と殺傷力を誇る獣種で構成された勢力は、此度の戦闘で非常に力となるはずだ。
 ──だが、何故彼らは傭兵だ。
 何故ローレットへ協力するのかと問えば、ハウザーははっと鼻を鳴らした。
「決まってんだろ。弱いくせに威張りちらすあいつが気に入らなくて、ぶち殺せるチャンスだからだよ」


●acedia
 奴らがやってくるらしい。
 ああ、ああ、面倒だ。
 人身売買の何が悪い? この世界は虐げ虐げられる者で構成されている。
 だと言うのに、相手は正義の味方気取りで刃を向けてくる。それが正しいのだと、間違いないのだと疑わずに。

 ああ、面倒くさい。

 真面目に相手をしなくちゃいけないことが面倒だ。
 けれども相手にしなければこの砦は奪われるだろう。その後のことも、自分たちに起こることも考えれば尚更そちらの方が面倒だ。

 ──嗚呼。面倒だ。

GMコメント

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 また、純種は原罪の呼び声の影響を受ける可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●成功条件
 傭兵団『Dunkel』の壊滅

●フィールド
 岩と石で作られた堅牢な砦。中は薄暗く、道を松明が照らしています。
 中はいくつかの部屋のようになっており、それぞれの場所でDunkelのメンバーがすべき事をしているようです。

●敵軍
・『黒豹』パンター
 真っ黒な肌をもつ獣種の男。ザントマンに同調し、魔種となっています。前々からハウザーのことは気に入らないと思っていたようです。
 実力はありますが、同時にきな臭い噂もあります。今回ザントマンと手を組んでいます。
 素早さと手数が特徴です。魔種である以上、他のステータスも十分に高いです。

・手下×20人
 Dunkelのメンバー。総じてパンターの狂気に影響されており、その近しさもあって狂気の深度は比較的高めです。
 攻撃力・特殊抵抗が高く、次点で回避。命中はそこまででもありませんが、数で押してきます。

●友軍
・ハウザー
 ラサの武闘派一大勢力、そのトップを担う獣種の男。非常に攻撃力が高いです。
 パンターの元へ向かいます。

・凶(マガキ)
 ハウザーの率いる武闘派集団。総じて高い膂力と殺傷力を誇る獣種です。
 手下たちの元へ向かいますが、狂気に影響を受けた敵は対等にやりあってくるでしょう。

●ご挨拶
 愁と申します。NPCハウザーとともに傭兵団をぶっ潰しましょう。
 尚、レベル制限はありませんが死亡判定、及び原罪の呼び声がかかる可能性があります。十分にお気をつけ下さい。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • <Sandman>かの砦を討ち落とせ完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年10月12日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵

リプレイ


「あなたがハウザーさん? ルアナって言います。よろしくね」
 『守護の勇者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が挨拶をすると『凶頭』ハウザー・ヤーク(p3n000093)が「ああ」と短く返事する。それは興味がないのか、はたまた──それよりもかの魔種との交戦に気が行ってしまっているのか。
 他のメンバーも挨拶をほどほどに交わし合い、突撃前の打ち合わせを始める。
「交渉不可能な競合他社には、こう相対する他ありません」
 隊列を組む、と説明する『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)。ルアナがハウザーへ先頭を任せたいと告げ、『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は凶のメンバーへ顔を向けた。
「貴様らは後方だ。その後ろ、殿を我は担当しよう。
 なに、後方の警戒は任せよ。貴様らの頭部が視界に無い分、こちら側の方が"視やすい"のでな」
 とん、と目元を指差すリュグナー。そこは包帯によって隠されているが、視界は悪くないらしい。
 最終確認の輪に交ざりながらも、『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)はつと視線を落とす。
(Dunkelのパンター……か)
 彼女はラサの民だ。恐らく、聞いたことがあるのだろう。その名も、そして付随する噂も。
 魔種になったのならばいよいよもって、という所だろう。罪には罰が下され、甘い蜜にはそれ相応の苦渋が付くものだ。
 さて、どこか緊張感の溢れるこの場において──何やら1人、味方を警戒するような姿があった。
(赤犬さんからの依頼ですか……あの人いまいちわかんないですよね、レオンさんと似た雰囲気有りますし。
 ハウザーさんはハウザーさんでちょっと怖いですし……)
 ちらっと『見た目は鯛焼き中身は魚類』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)がハウザーを見ると、偶然にもばっちり目があった。慌てて、けれどなるべく不自然に見えないよう視線をそらす。
 獣種は鼻の利く者が多いらしく、初対面ではとんでもない目で凝視された。今も視線が刺さる気がする。
 美味しそうな体臭は不可抗力というか自分のせいではないのだが。頼むから食べないでくれ。ブラウは代わりに食べていいから。
 などと思ってはいるが、まだ今の状況なら口に出すこともない。それに彼らも傭兵だ。戦力として十分に期待できる者たちであり、戦場に足を踏み入れたならベークを気にする余裕もないだろう。
(……無いですよね? 相手仮にも魔種ですから、1人といえどもあまり余裕はないですよ、僕)
 まさか味方が敵になるかもしれないとは──ベークは悪寒を感じた気がして、ぶるっと体を震わせた。
 突入からその後までのすり合わせを終え、砦へ踏み込むまでの短い時間。ルアナは岩陰から砦のほうを眺めた。
「傭兵団の壊滅……かぁ」
 彼らは確かに対価を受け取り、それに見合うだけの様々な仕事を請け負っているのだろう。それでも人身売買は許容しがたいとルアナが思う反面、『叡智のエヴァーグレイ』グレイシア=オルトバーン(p3p000111) (は冷静に彼らとそれ以外の者に対しての違いを考察する。
(人身売買は、此処混沌においては認められないものらしいが)
 それでも欲に忠実に、決まりを破ってでも人身売買を行う者がいる。律する者と溺れる者、その違いはどのようなものなのか。人間としての出来や能力で分かれるとも思い難い。
 例えば──とグレイシアは砦を見やる。堅牢で丈夫そうなその砦は一朝一夕で得たものではあるまい。だからこそ思うのだ。
「……流石というべきか」
 ──立派な砦だ、と。
 その感心した声音に、傍らにいたルアナが眉を吊り上げる。
「向こうを褒めてどうするのっ。これから進んでいかなきゃなのに」
 どうやら彼女を勘違いさせてしまったらしい。グレイシアは小さく眉を上げ、瞳を眇めた。
「それだけ、攻めるに難いという事だ。気を抜く事の無いように」
「うん! さ。いこっか」
 グレイシアの言葉にルアナは頷き、後方を振り返る。そこには凶のメンバーやその頭であるハウザー、そしてイレギュラーズの仲間たちがいた。その中で『赤ん坊の守護者』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は伏せていた視線を上げる。
(──想いだけじゃ叶わないから、強くなったんだ)
 過去は彼も虐げられる側、襲われ売買される種族の一員だった。だからこそ思うことがある。

 もう2度と、襲われることのないように。
 誰かが襲われていたら、止めて助けてあげられるように。

 その思いを実現するために、ムスティスラーフは強さを求め、手に入れたのだ。だから今度こそ、止めて見せる。
「さて……行こうか」
 ルアナの言葉に応じ、『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)はそう呟いた。口癖にも近く、つい出てしまった「さて」の言葉が皆の視線を意図せずして集める。そこへ真っ先に応えたのは『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)だった。
 そう、正義の味方で何が悪い。皆、自らの正義のために戦うのだ。
「さあ、さあ、さあ。我らローレット。正義の味方を大いに気取りて──」

 ──いざ、参りましょう。



 今から突入するのは敵の砦だ。当然見張りもあり、何も対策をしなければ見つかることは必然。砦の中に走る緊迫感を身に受けて、一同は中へと足を踏み入れた。暗視対策をしてきた者、敵との遭遇を警戒する者、さまざまである中『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)も隊列の中心で味方をいつでも支援できるよう準備を万全にしている。
(武人だろうと傭兵だろうと知ったことではないけれど、良くない流れに乗っていく人物に対処するのは必要なことだよね、うん)
 リンネにとって、相手の正体などなんだっていい。特に恨みもなければ彼らの被害に遭ったわけでもないのだから。それでも──道を外れたが運の尽き、というやつである。
 寛治は暗視効果のある眼鏡のブリッジをくいと上げながら、周囲を慎重に観察して進む。入口からかすかに風が入り込み、唯一の光源である炎を小さく揺らした。ムスティスラーフの視界にはそこだけが赤く、熱を持っているように見える。
(明かりを消しての奇襲も考える必要がありそうですね)
 寛治は冷静にそう断じた。情報屋から得たものがあるとはいっても、地理では圧倒的に向こうが有利だ。けれども明かりを消すならばそれなりの距離にいるという条件がある。それならば、他の者も気づく可能性はあるだろう。例えば──。
「……何かの臭いは掴めまして?」
 小声でそう問いかけるのはタントだ。仲間たちから離れぬようにとくっついて移動するタントに、声をかけられた凶のメンバーが首を振る。その答えに頷いたタントは、ふと視線を巡らせた。佐那が小さく声を上げたからだ。
「……音が、」
 注意深く耳を澄ませていた彼女の、何かしらの声が聞こえたとの言葉に一同は警戒を強める。この先には確実に何か──パンターか、その手下かはわからないが──いるようだ。
「ああ、確かに聞こえるな」
 グレイシアもエコーロケーションとエネミーサーチで敵の存在を感知する。そして鋭い聴覚を持つシャルロッテも。
 交戦を目の前にして、張り詰めた糸のような緊張感とともに薄暗い道を進む一同は、ルアナの声に立ち止まった。眼前にはただの暗闇が広がるばかりで、明かりは1つも存在しない。
「罠とかあるかもしれないね」
「なら、わたくしが道を照らしましょう」
 タントが仄かに発行し、砦の中を照らす。そうすると道の先に不可思議な板のようなものが落ちていて、罠だと判断したルアナがしっかりとした視界で危なげなく解除した。さらに進んだ一同は、岩へはめ込むようにぴったりな扉を前にした。
「よし、行くよ!」
 ムスティスラーフが大きく息を吸い込み──全力! 全開!!
 口から放たれた──吐き出されたともいう──緑の交戦が扉を突き破り、室内まで飛んでいく。複数のうめき声と悲鳴が響く中へ、真っ先に踏み込んだルアナが声を上げた。もちろん効かないかもしれないという可能性を考慮したうえで、だ。

「きたぞ」
「面倒な」
「邪魔そうなやつからだ」
「攻撃してくるやつもだ」
「めんどくせえ」
「ああ、面倒だ」

(やっぱり効かないかな。それなら仕方ないっ)
 すぐに判断したルアナが戦法を変えるべく思考を巡らせる。そこへ素早く寛治が小さな何かを放り投げた。カラン、と転がったのはオイルライターのようにも見える──が。
「ただのオイルライターではありませんよ」
 次の瞬間それは手榴弾のごとく敵を襲う。眼鏡越しに鋭い視線が敵の傭兵たちを見据えた。
「多少回避が高い程度で、私の銃口からは逃れられない……失礼、これはライターでしたか」
「くそっなんだあのメガネ」
「面倒なやつから片付けちまえ!」
 戦況は、戦場は目まぐるしく変化するもの。それを前にしてシャルロッテが恍惚とした表情を浮かべる。
「戦況の一手一手が謎とパズルに満ちている……ああ……とても楽しい」
 前衛が敵とぶつかることになろう、とエンピリアルアーマーを付与して。さあ次の一手は。その次は。
(そう、本音を言えば……いっそのこと本当に戦争になればいいのに)
 さらに多くの戦場で謎解きを楽しむため。軍師として戦場で楽しむために。けれど──立場上、そうもいくまい。
 後方を警戒していたリュグナーがはっと後ろを振り返る。さらに数人も。その警戒した先──今先ほど通ってきた道から部屋へ、”それ”がやってくる。

「──おいおい、めんどくせぇなぁ。ネズミと犬が入ってきてやがる」



 気だるげで、酷くダルそうな、男の声。ハウザーが威嚇するように喉を鳴らす。イレギュラーズからも、凶からも一身に敵意を浴びて──パンターはやはりダルそうに呟きながら、剣を抜いた。
「嗚呼、めんどくせぇ。こちとらてめぇらに構ってられるほど暇じゃねぇってのによぉ」
「はっ。う思っていられるのも今のうちだ」
 ハウザーが嘲笑とともに挑戦的な言葉を吐き、その傍らをとても美味しそうな匂いがすり抜けていく。……もう1度言おう。とても美味しそうな匂いがすり抜けていった。
「魔種1人程度なら、耐え抜いてみせますよ……!」
 パンターの前にその身を躍らせたのはたい焼き──ではなく、甘く香ばしい香りを発するベークだ。まあ当然、奇異の目で見られる。そうして注意を引き付けることが本命ではあるけれど、食べられたくない身としては複雑であった。
(怠惰ならそのまま怠けてくれればいいものを)
 だが、そう上手くいってくれないのが現実だ。早速訪れた一撃、さらにもう一撃を耐えながらベークは内心ため息をつく。
 その間にもイレギュラーズたちは凶のメンバーとともに手下を掃討する側と、パンターと相対する側の2手に分かれる。パンターが目の前に立ちふさがった数名を見て嘲笑った。
「この人数で挑むたぁ、舐められたもんだ」
「オーッホッホッホッ! 耐えきってみせますわ! だってこのわたくし──

   \きらめけ!/

   \ぼくらの!/

 \\\タント様!///

 ──が! いるのですから!!」
 拍手喝采大合唱とともにベークへ贈られるミリアドハーモニクス。ベーク自身の自己回復力も合わせれば、それは敵にとって易々と通ることのできない強固な壁となる。
「ああ、戦争を防ぐべく、一つ一つの仕事を成功させていかねばならないね。彼が手数を持ち味とするのなら──その動きを封じてしまえばいい」
 だろう? とシャルロッテが見た先にいたリュグナーは口端を吊り上げる。その唇から漏れる言葉は「任せておけ」と。瞬間、黒いキューブ上の物体にパンターが閉じ込められる。その中に収められるはあらゆる苦痛。
「何が正義か、何が正しいかなど、我は知らぬ」
 その言葉を真とするならば、リュグナー自身も自らが正義であるとは言わないのだろう。そしてパンターのことを咎めることもありはしない。
 けれどこの状況を見て言えることがある。これまでは彼が虐げる側であった。それが、今は。
「此度は貴様が『虐げられる』側だった……それだけのことなのだろう」
 黒が消えゆき、顔をゆがめたパンターへハウザーが鋭く肉薄する。好戦的な光を目に宿し、残虐な表情を浮かべて。
「──無様じゃねえか、なあ!!」

 一方。
(本命はまた後に、ね)
 パンターから視線を外し、佐那は残像を描きながら手下の1人へ肉薄する。それはすでに寛治が鋭い視線で竦ませた相手。けれども彼女の中に手加減などという言葉は存在せず──切り付けられた男は火炎に飲み込まれた。
「あちぃ、あちぃよお!」
 男は火炎を抜け、その勢いのまま佐那へと突っ込んでいく。ああ、わかってはいたがそう易々と倒れてはくれないらしい。
「やあぁっ!」
 気力たぎる連撃に傭兵が崩れ落ちる。それを見届けたルアナは「いち!」と声を上げながら次の標的へ視線を向ける。
 深く狂気に呑まれているが故か、彼らはなかなか注意をひとところに向けてこない。ならば乱戦覚悟で少しずつ倒していく他なかった。
「そこ! 攻められるよ!」
 敵の集中が薄い個所を的確に指示し、自らの生命力を犠牲に味方を鼓舞し続けるリンネ。そこへ瞬間的に視線が集まるも、途中から凶のメンバーが飛びいってこちらも乱戦が始まる。リンネは救いの音色を奏で、彼らの余力を少しでも伸ばそうと奮闘していた。
「呼び声なんて吹っ飛ばしちゃえ!」
 ムスティスラーフが放った緑の交戦が室内を走る。それは圧倒的な火力で、明確に手下たちの体力を削いでいることが見て取れた。
 しかし、手下の傭兵たちはどうやら小細工を好まないらしい──どちらかといえば、味方を支援する仲間たちが狙われているらしい、と敵の攻撃を回避しながらリンネは判断する。
「これで10人目っ! あと半分だよ!」
 ルアナの声が大きく響く。もう少し減らせば凶のメンバーだけでも任せられるだろうか──そう思った矢先で、それは突然のことだった。
 部屋の中に光が満ちる。瞬間的なそれはイレギュラーズなら見たことのある者もいるだろうし、事前の打ち合わせでも伝えられていたタントの発するそれ。その合図は──危険であると知らせるもの。
 さあ、どうする。どう動く。手下たちの対応は。誰がパンターのもとへ向かうのか。一瞬の思考が、迷いが、仲間の命運を定めていく。
「ああ、めんどくせぇな。まだいるのか」
 心底迷惑そうな、面倒そうな言葉を吐いて武器を振るうパンター。1人、2人と倒れていくイレギュラーズの姿に、真っ先に動いたのは佐那だった。
「──それなら、次は私と戦ってもらえるかしら?」
 不意に翻る赤。体をひねりながらパンターは目の前に立ちふさがった佐那を見てため息をつく。
「次から次へと、まったく」
「当然でしょう? ラサの民は自由だけれど──それ故に、自らの行いには相応の責任が伴うものよ」
 刺突と斬撃がパンターを襲う。その反撃もひらりひらりと躱す佐那は、彼の強さに思わず口端を上げた。
(強い。魔種だからなのか、それとも)
 いずれにせよ、実力名高い者ではあったのだ。剣を交えている、その事実に言いようもない高揚感を感じながら佐那は刀を振り下ろす。同時に感じるのは──未来に待つ、敗北。
 まだ1人で魔種と立ち向かうだけの強さには追い付かず、さりとて今戦える仲間だけでも足りない。
「人身売買を是とする奴らなんかに、負けてたまるか!」
 ムスティスラーフの渾身の一閃がパンターを貫いて、けれどそれでも魔種は止まらない。

 ──そう、彼は『魔種』なのだ。

 その後方より支援を、そして引き続き手下の掃討をしていた仲間たちが援護する。けれども彼女の肢体が揺らいで──一同は、撤退を決めた。
 倒れた仲間の体を支え、背を向けるイレギュラーズと凶をパンターは追わない。頭がそう判断したのだから、よろめきながら立ち上がった手下たちもまた然り。……最も、手下たちに戦う余力はもうないようだったが。


 ──嗚呼、めんどくせぇ。めんどくせぇ──

 パンターの声が背後から聞こえてくる。それは段々と小さく、そしてふつりと聞こえなくなって。

 けれどもまだ──砦は確かに、ここにある。

成否

失敗

MVP

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者

状態異常

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)[重傷]
防戦巧者
リュグナー(p3p000614)[重傷]
虚言の境界
緋道 佐那(p3p005064)[重傷]
緋道を歩む者
御天道・タント(p3p006204)[重傷]
きらめけ!ぼくらの
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)[重傷]
ロクデナシ車椅子探偵

あとがき

『嗚呼、嗚呼、めんどくせぇ。何もかもだ、何もかもがめんどくせぇ!

 てめぇらにも、2度と会わねぇことを祈るぜ!!』

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