PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Sandman>地下オークションを止めろ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●奴隷の館
 オラクル派一党の、深緑に対する敵対的姿勢は明白となった。ローレットの活躍により幻想種の奴隷売買の多くは阻止されたが、まだ完全とは言い難い。目の前の屋敷の地下には世界の闇の有象無象から集った連中が、舌なめずりして奴隷の『出品』を待ち構えているのだから。

「来い」
 暗闇の中、男の低い声が響く。薄布一枚を身につけただけの少女が、数珠繋ぎのまま無理矢理立ち上がらされる。長いこと暗闇に押し込められていたせいでふらついているが、男は乱暴に鎖を引くだけだ。
「転ぶなよ。少しでも傷が付いたらお前らの価値が落ちるんだ」
 ならばわざと転んでやろう、などという勇気を奮える者はいなかった。真っ先に逆らった少女は傭兵達によってボロ雑巾のようにされ、そのまま何処へとも知れぬ場所へと引きずられていった。少女達から勇気を刈り取るには、それで十分だった。
 階段を手探りで登らされた少女達は、そのまま木組みのお立ち台まで引きずり出される。その耳にはピアス穴があけられ、数字の入った木製の札がぶら下げられていた。競り用のタグである。
「さあ、どこからでもご覧になってください。正真正銘、深緑出身の幻想種です。どうです。入場料を払っただけの価値は既にあるでしょう?」
 ターバンを巻いた商人が叫ぶ。取り巻きの客は、あるものは眼鏡をかけ、あるものは鼻の下を伸ばして、じろじろと値踏みするように少女達を見つめる。既に自分の運命を諦めきってしまったのか、少女達は目を閉ざして外界から目を背け、卑しい視線にも気が付かないふりをしていた。
「皆大人しく従順です。主人に逆らえばどうなるか、先日きっちりと教えておきましたから。鞭の一つでもちらつかせれば、きっと何でも言う事を聞くでしょう。ああ、そうそう。そこにいる誰もが生娘である事も保証しますよ!」
 生娘、の言葉に客どころか用心棒も色めき立つ。
「では競りを始めましょう、まずは一番から……」

 刹那、地下室の入り口が吹っ飛ぶ。男達がどよめいたところに、イレギュラーズがぞろぞろと踏み込んできた。用心棒達は剣やら銃やら抜いて彼らに対峙する。呆然と目を開いた少女は、不意に始まった戦いをただ見つめている事しか出来なかった。

●少女を救え!
「この屋敷です! この屋敷で変態達が幻想種の人身売買オークションをしているのです! 決して許されないのです!」
 数刻前、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は怒りを滲ませて叫ぶ。地図の一点に朱塗りでバツ印が刻まれていた。
「情報網を結集してこの情報を突き止めたのです。逃げられる前に、どこかへ連れ去られてしまう前に、一刻も早く助け出して欲しいのです! おそらく内部には客や商人の雇った用心棒が何人もいるのです! 纏めてぶちのめして、悪い奴らは纏めて捕まえてしまって欲しいのです!」
 ユリーカの剣幕は、事件の重大性を知らしめるには十分すぎるほどだ。君達は程なく気を引き締める事だろう。
「ただ、連れ去られた女の子たちは相当ひどい目に遭っている筈なのです。傷つけないように気を付けて欲しいのですよ!」

GMコメント

●目標
 奴隷市場に現れた商人や客の捕縛。
 用心棒の撃退はマストではありませんが必要になるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 屋敷の地下で戦闘を行います。
 人口密度が高く、武器を振れば誰かに当たります。気にしてられる状況ではないかもしれませんが。
 出入り口は一つですが、照明用の松明の煙を逃がすため、通気口がどこかに空いています。
 誘拐された少女は部屋の中央で並んで立たされている状況です。

●敵
☆商人
 捕まえろ。ほっとくと逃げるぞ。

☆用心棒×20
 商人が雇ったり、客が雇った用心棒です。武器は様々、練度も様々です。まずは組み合ってから優先度を極めてもいいでしょう。
・攻撃方法(以下からランダムに一つ)
→剣、銃、短剣、手斧

TIPS
☆用心棒はDead or Alive。慈悲などくれてやる必要はありません。
☆商人は一応捕まえる方が好ましいです。


影絵企鵝と申します。
砂男シナリオに参加させて頂く事にしました。宜しくお願いします。

  • <Sandman>地下オークションを止めろ完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月11日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
無限乃 愛(p3p004443)
魔法少女インフィニティハートC
辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
リック・ウィッド(p3p007033)
ウォーシャーク
一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
糸巻 パティリア(p3p007389)
跳躍する星

リプレイ

●いざ突入
 屋敷の扉に辻岡 真(p3p004665)と無限乃 愛(p3p004443)が向かい合わせで張り付く。戸の隙間から微かに溢れる明かりを睨みながら、真は唸る。
「幻想種は俺達の隣人だったハズだ。なのにどうして、無辜の幻想種をまるで家畜のように扱い奴隷売買へ手を染めるのか……」
「それを考える必要はありません」
 愛は首を振る。既に変身を済ませた彼女は今にも扉をぶち破らんとその拳を固めていた。
「重要なのは、今まさに窮地に追い込まれている少女がいるという一つの事実だけです」
「……全くだな。じゃあバシッと決めてくれ」
「ええ、行きます!」
 愛はいきなり固めた拳を振り抜く。閂が吹き飛び、扉が大きな音を立てて倒れた。愛は真っ先に屋敷の中へ飛び込み、壁に隠された隠し扉を蹴破る。そのまま彼女は階段の手すりを踏み越えて奴隷市場のど真ん中に飛び降り、そのすらりとした手足でポーズを決める。
「蟠る闇を切り裂く一閃の愛! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!」
「何だてめえ!」
 剣を抜き放った男が早速間合いに飛び込んで来る。愛は素早く手を翳すと、魔力の詰まったハートを男へぶちまけた。男は吹っ飛び、硬い土壁に叩きつけられ地面にぐったりと伸びる。降りかかる砂埃を払い除け、愛は冷然と辺りを見渡す。
「……さて、皆さん行きましょうか」
 愛の先制攻撃に気圧され、商人も用心棒達もびくりとその身を硬直させる。その隙を見逃さず、アリア・テリア(p3p007129)と一条 佐里(p3p007118)も後を追うように飛び込んできた。
「そこまでですっ! 大人しく捕まりなさいっ!」
 テリアは声を張り上げ、その鋭敏な聴力で反響音を聞き分ける。中央が舞台から部屋中央に向かってお立ち台が伸び、そこに誘拐された少女達が立っている。椅子から弾かれたように立ち上がった客達があちこちで狼狽している。そして舞台袖が妙に引っ込んでいる。テリアはそこを目指して走り出した。気を取り直した用心棒達が、武器を手に取り直して襲い掛かってくる。テリアは指輪を撫でると、彼らに纏めて深紅の光をぶつける。
「欲望を暴き出す魔性の光……この場にお似合いでしょ?」
 光を浴びた用心棒達は、懊悩し呻き転げ回った。しかし、短銃を抜き放った用心棒は、そんな彼女を遠巻きにしたままその肩を撃ち抜いた。黒いローブを溢れた血が濡らしていく。
「くっ……」
「何だか知らねえが、舐めてんじゃねえぞ」
「知らないというなら教えてあげましょう」
 甲高い銃声が響き渡り、銃を握る男の腕を一発の銃弾が掠める。男が咄嗟に腕を引っ込めると、銀の右腕を持つ女が勇ましく踏み込んできた。
「ギルド・ローレットです! 違法取引の現行犯です、全員大人しく捕まってください!」
 眼鏡の奥で鋭く目を光らせ、松明に照らされた男達の顔を右から左まで睥睨した。復讐への意志を燻ぶらせた女の眼には、有無を言わせぬ威圧感がある。白い面布でその顔を覆い隠した男は、並び立つ女子三人組を指差し叫んだ。
「こんな所で捕まってたまるか! 行け! お前等だって死にたくないだろ!」
 言いつつ男は女子達から離れるように走り出す。佐里は咄嗟にその足元に銃口を向けるが、視界の端に別の銃口のぎらつきを捉え、急いで身を翻す。飛んだ弾丸が銀の腕を掠めた。彼女が体勢を崩した隙に、用心棒達が次々に押し寄せてくる。彼女は銀の腕を盾のように突き出し、振り下ろされる剣や手斧の一撃を捌いていく。
「一度失った腕です。その程度の攻撃で傷つけられはしませんよ」
「調子に乗るな!」
 正面の男が力任せに斧を振り上げた時、暗闇の中から放たれた氷の槍が鋭く飛び、男の腹を貫く。蛙の潰れたような声を上げ、男はみるみるうちに凍り付いていった。
「はーい、ご商売お疲れ様ですわー。でも奴隷貿易は禁止なのでー、大人しくお縄についてくださいねー」
 松明の影に立ったユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は魔法陣の穂先に描かれた旗付きの槍を振り回す。魔力を穂先に込め、自らに矛先を向けた用心棒を再び極氷の中へと閉ざす。柔和な笑みの仮面が、僅かに歪む。
「逃げおおせるなんて、絶対に許しませんわ」
 とある『慈善事業』を営む一つの家があった。怪しい噂を聞いて舞台裏を暴き立ててみれば、目の前に広がるこの光景と大差ない世界が広がっていた。それを思い出した彼女は、なおさらこの事件に怒りを募らせていた。
 響き渡る喧騒。椅子の影に隠れた一人の客人が、どさくさに紛れて入り口から逃れようとする。しかしそこへ真が飛び出し、階段上から客や商人を見渡し叫んだ。
「自由を縛るのは心苦しいけれど、ここは心を鬼にしてご忠告!」
 彼は肩に巻いていたロープを手に取り、目の前でピンと張ってみせる。
「悪いことしてる自覚があったらここで大人しく捕まって改心しないかい? 大人しく投降してくれるなら命の保障だけはするよ?」
 彼は愛想のいい笑みを浮かべて男に振り返る。男は息を呑むと、慌ただしく踵を返す。
「うわぁっ」
「投降しなくても逃がさないよ!」
 真は叫ぶと、ロープの先に素早く輪を作って投げつけ、逃げようとした男を捉えて縛り上げた。男は体勢を崩し、そのまま地面へと転げ落ちていく。
 地下室の入り口前に陣取る五人。商人達や用心棒の群れに、波のように動揺が走る。彼らが一瞬立ち竦んだ隙を見逃さず、愛は再び魔砲を叩き込む。
「いくら商売人といえ、欲望のままに人身売買に手を染めるとは……なるほど、その心は既に血と涙そして愛を喪失してしまっているようですね。ですがご安心を。私の愛の一撃をそのハートで受ければ、血と涙の流し方などすぐに思い出せることでしょう」
 ハートなどと可愛らしい言葉を使っているが、顔つきは普通に大人。切れ長の目には歴戦の逞しさを覗かせる。用心棒達さえ、彼女の前には及び腰だ。
「大人しくお縄についてくだされば、手荒い真似はしない事をお約束いたしますわよー」
 メリルナートも槍を振るって冷気を放つ。用心棒は氷像に飛び込んでその一撃を躱す。氷像は罅割れ、深紅の霙をばら撒き砕け散った。
「そうら、さっさと武器を捨てた方がいいんじゃない? その方が君達も傷つかなくて済むよ!」
 役者ばった口調で真が言い放つ。追い詰められた男達は、遂に舞台へと飛び出し、呆然と立ち尽くしている幻想種の少女達を掴んで引き寄せた。
「おい、お前らの仕事はこいつらを助ける事なんだろ? 俺達に手を出してみろ。こいつを殺してやる!」
「……そんな事をしたところで、無駄ですよ」
 佐里は銃を構える。下賤な用心棒が誘拐された少女達を人質に取る事など、簡単に予想が出来た。そしてそんな時には、奴隷ごとその足元を撃ち抜いてやるつもりだった。今日の任務は商人の摘発であって、少女を無事に確保することではないのだから。
 その気勢に用心棒も少女も青褪めた時、不意に煙玉が放り込まれ、濃煙が一気に辺りを包み込んだ。味方も敵も、誰もが視界を奪い去られる。誰もが咄嗟に手を止めて周囲を見渡した。やがて煙が晴れた時、右手を構えた、ヒトデ型パーツを頭の後ろにぶら下げたくノ一少女――糸巻 パティリア(p3p007389)が舞台の上に立っていた。その場で飛んで宙返り、おさげのヒトデからゴム状の鍵縄を放ってぶん回す。
「人を人とも思わぬ外道ども! 闇に葬られる覚悟はあるでござろうな!」
 凛と叫んだ少女は、立ち尽くす客に向かって、鍵縄を鋭く投げつけた。

●少女を救え
 十分ほど前。商人の邸宅の裏側に、こっそりと三人のイレギュラーズが忍び込んでいた。見張りに立っていた用心棒達は揃ってボコボコにされ、彼らを止めるものはもはや誰もいなかった。掌で荒れ狂う小さな鎌鼬をそっと吹き消し、オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は眼を三角にする。
「もう。人身売買だなんて、ホントろくでもない人たちね! そういうの元の世界じゃされる方の種族だったから余計に腹が立つわ。だからこそ全力で止めるのだけど、ね!」
 オデットが頬を膨らませながら言うと、彼女を見上げてリック・ウィッド(p3p007033)も力強く頷く。
「ああ! 女の子達は全力で助けて、ついでに悪事を働いた奴等にもちょっと痛い目見せてやらないとな!」
 パティリアは庭から井戸のように突き出す円筒、そこに覆い被さる金網に飛び乗り、ぴたりと彼女は身を伏せた。耳を澄ますと、商人の売り文句が微かに聞こえてくる。
「やはりここから地下室へ直接迎えるようでござる。さすれば準備を始めるでござるよ!」
 パティリアは袖の内側からするすると触手を伸ばし、金網に何本も巻き付けていく。磯の香りがするその紐を束ねて握り、リックが力一杯に引っ張る。その間にオデットは再び鎌鼬を走らせ、金網の縁を捩じ切り外した。ゴムの弾力で金網は吹っ飛び、庭に伸びている男の一人に直撃した。
「さ、行こうぜ」
 リックは縁に飛び乗ると、じっと耳を澄ませる。突入部隊が地下室へと飛び込んだのか、にわかに喧騒が通気口から響き始めた。
「どうやらみんなも始めたみたいね!」
「早速下りるでござるよ。おなご達を救うのは早いに越したことがないでござる」
「ええ!」
「行こうぜ!」
 三人は頷き合うと、一斉に通気口へと飛び込む。パティリアは土のレンガで作られた梯子をするすると降り、通気口の影に立って中の様子を窺う。味方の魔法や敵の銃弾が飛び交う混沌とした戦況の中、少女達は何が起きたかも呑み込めない様子で、ただただ青褪めて立ち尽くしている。追いついたオデットは、そんな様子を見て息を呑む。
「マズいわね。……このままじゃ流れ弾に当たりかねないわ」
「拙者が気を引くでござる。二人はおなご達を!」
 パティリアは懐から煙玉を三つ取り出すと、部屋に向かって鋭く放り投げる。繭玉のような形をしたそれは、四方八方から煙を噴き出し、誰もの視界を奪い去る。その隙にパティリアは通気口から飛び出し、煙の中をくぐって一足飛びに舞台へ向かう。
「人を人とも思わぬ外道ども! 闇に葬られる覚悟はあるでござろうな!」
 パティリアは叫び、用心棒達の視線を一手に引き受ける。商人も突然現れた彼女を見上げてぽかんと身動きを止めている。彼女は目の前の客に向かって紐を投げ放つと、今度は身を転じてステージ上の商人へと手刀で殴り掛かった。
「ひぃ! 誰かアイツを何とかしてくれ!」
 商人が叫ぶと、用心棒達は煙を掻き分け一斉に彼女へ襲い掛かる。銃弾が背中に襲い掛かるが、彼女は構わず商人へ手刀を振り下ろす。首を打たれて昏倒する商人を見下ろし、彼女は背中に張り付いた蜘蛛型の絡繰りを放り出し、自分は用心棒達に向き直った。
「さあ、来るでござる!」
 彼女と用心棒がぶつかり合う隙に、オデットとリックは煙の中に立ち尽くす少女達へと近寄った。気付いた少女は青褪めて身を縮める。
「大丈夫。私達は味方よ」
「あ、う……」
 まともに言葉も出てこない。オデットはその手を引き、蝶のような翅に太陽の光を纏わせる。土埃に塗れた彼女達は、ぼんやりとオデットの翅を見つめていた。リックも彼女の足下から飛び出し、その鋭い鮫の牙で彼女達を結び合わせる鎖を噛み切る。
「ほら、行こうぜ!」
 彼が力強く牙を剥くと、ようやく少女達も希望を実感したらしい。力無くこくりと頷き、オデットに手を引かれながら通気口へと歩き出した。
 パティリアの撒いた煙が晴れ、逃げ出そうとする少女達の姿が露わになる。用心棒達は、彼女達を狙って次々に押し寄せてきた。
「もう仕事は終いだ! こうなったらお前等だけでも!」
「ふざけないで。そんな事させないわ!」
 振り返ったオデットは、男達の鼻先狙って指を鳴らす。甲高い音と共に光の珠が放たれ、男達の目の前で爆竹のように破裂した。
「ぎゃっ」
 鼓膜を突き破る爆音に、男達は一斉に目を回す。男達が脚を止めたところに、テリアも正面へ回り込んで右手を翳した。
「この子達が味わった苦しみ……貴方達も味わいなさい!」
 テリアは握りしめた宝玉を用心棒達に向かって突き出す。放たれた深紅の光が男達を絡め取り、恐懼へと突き動かす。悲鳴を上げる彼らに向かって、追い討ちのようにテリアは呪歌を歌い始めた。極海のように凍り付いたその声色を浴びせられ、男達は白目を剥いてひっくり返る。
「容赦なんてしないわ。それだけの事を貴方達はしたの」
 彼らは無様にひきつけを起こしていた。テリアは背後の少女達に振り返って叫ぶ。
「早く脱出して!」

 地下室の扉の前でも激戦が続いていた。押し寄せた用心棒達が、入り口に立ちはだかる真に武器を振るい続ける。銃弾を撃ち込み、剣で斬りつける。
「どけよ、おら!」
「そんなわけにいかないよ。むしろ、君達がさっさと諦めた方が色々スムーズに片付くと思うんだけど?」
 真は銃弾をその身で受ける。刻まれた傷は彼の魔力で埋め合わせ、逆襲の柳風崩しを目の前の男に叩き込む。投げ飛ばされた男は、そのまま階段を転げて落ちていく。
「ほらほら、逃げようとしたって痛い目見るだけだって。いい加減お縄についたら?」
 真はしたり顔で階下の用心棒や客に向かって言い放つ。
「うるせえ、そう簡単に捕まってたまるかよ!」
 用心棒は叫んで斬りかかろうとするが、その脇へと愛が素早く回り込み、弓を引くようにその腕を構えた。
「さあ、これより貴方達は目撃者となるのです。魔法少女の留まるところを知らぬ進化。その目撃者に!」
 真を小さなバリアで包み込むと、そのまま愛は魔力のハートを叩き込む。弾けたピンク色の光が、用心棒達を宙へと舞い上げた。倒れた男達は皆くたびれた人形のようになっているが、それでも彼らは生きていた。愛は拳を握りしめ、男達を見下ろしながら言い放つ。
「味方を巻き込まず、敵の命をも救う不殺の一撃……今度こそ、この私に死角はありませんわ」
 松明の光を浴びて、ピンクの装いがぎらつく。用心棒達はもう立ち上がる気力さえ残っていなかった。

 ステージ上では商人の雇った用心棒とパティリアの激戦が続いていた。彼女は一人一人を音速の手刀で叩き伏せていくが、流石に用心棒は数で勝る。破れかぶれで投げつけられた手斧を腹に喰らい、思わず彼女は膝をついてしまった。
「ぐっ……」
「このアマ、さっきはよくも!」
 止めを刺そうと用心棒が剣を振り上げるが、パティリアは不意に立ち上がって刃を受け止めた。パンドラの力が、彼女の傷を埋め合わせていた。
「この程度ではくたばらないでござるよ!」
「くっ……」
 刹那、メリルナートの放った氷の槍が男の背中を貫く。倒れる男を尻目に、彼女はぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさいね、ちょっと回復が追いつきませんでしたわねー……」
「構わんでござる! あと一息でござるよ!」
 逃げ惑う男達の間をちょこまかと駆け回りながら、リックは高らかに吼えた。赤い闘気が周囲を満たす。
「行けーッ! 全員そのままとっ捕まえちまおうぜ!」
「もちろんです」
 佐里は銃に弾を込め直し、武器を構えて及び腰の男達へ銃を向ける。放たれた弾丸は舞台や壁で跳ね返り、用心棒を次々に射貫いていく。足元を崩された男達の眉間に銃を突きつけ、佐里はずんずんと歩み寄る。
「さあ、これ以上の抵抗は無駄と思いませんか。あなた達にお金を払う人はもういません、戦うだけ損ですよ」
 男は青い顔をする。しかし、彼女の涼しい視線は、その引き金を引くことをためらうように見えなかった。彼らは武器を捨て、両腕を頭の後ろに回して項垂れる。抵抗しようという者は誰もいなかった。
「……ふむ。任務完了ですね」

●アフターミッション
 パティリアと真が揃って商人や用心棒達を縛り上げていく。放心状態の者、商人や用心棒に恨み言をいう者、様々だ。パティリアは真に尋ねる。
「この後はどうなるのでしょうか?」
「とりあえず商会に突き出して取り調べ、じゃないかなあ。まだ背後関係が全部明らかってわけじゃないしね」
 佐里は銃口についた煤を布でふき取ると、ホルスターに収めて溜め息をつく。
「これを機に、何かわかればいいのですが」

 おぼつかない足取りの少女達を支えて、オデットとリックは通気口から外の世界へと引っ張り出す。
「もう大丈夫だぜ、安心しな!」
「悪い奴らは全部私達がやっつけてあげるからね!」
 二人は少女達を励ますように言うが、少女達は口元を僅かに振るわせるばかりで、声が出てこない。テリアはそんな彼女達に駆け寄ると、そっとその腕で包み込んだ。
「怖かったよね……でも、もうすぐお家に帰れるからね」
 幻想種にそっくりの外見をした彼女。少し安心したのか、少女は肩を震わせ泣き出した。
「友達が、友達が……」
「うん、うん……」
 慰めるように、テリアは彼女達の背中を撫で続けていた。

 ラサの傭兵達に引っ立てられていく商人達を見送り、愛は拳を固めて呟く。
「ザントマンとやら……やはり許し難いですね。正義の魔法少女としては、やはり鉄槌を下さなければ落ち着きません」
「どんなに狡猾な商人でも、証拠を掴んで逃げ場を失くして、ゆっくり追い詰めてやれば、確実に……ですわねー」
 再びかつての出来事を思い出し、メリルナートはぽつりと溜め息をついた。



 おわり

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

影絵企鵝です。この度はご参加いただきましてありがとうございました。少女への配慮も忘れない、堅実な戦いぶりだったように思います。

ではまた、ご縁がありましたら宜しくお願いします。

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