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シナリオ詳細

<Sandman>砂仕掛けのブルース

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ブルー・ボーイ、熱砂の先に消ゆ
 声にとらわれていた。
 夢にとらわれていた。
 ずっと昔に殺したはずの義弟(おとうと)が、自分を呼ぶ声と夢だった。
 『こんなくだらない世界から抜けだそう』と誘う、声なき声だった。

「――るせえ――うるせえ!」
 眠りから跳ね起きると、馬車の車輪と足音がした。
 声に驚いたらしい、青紫のバンダナを巻いた男が振り返る。
「どうしやした、お頭。また『山賊』野郎の夢でも?」
「うるせえなあ。テメエに関係ねえだろうが」
 吐き捨てるように言うと、男の腰から水筒を奪い取って中身を飲み干した。
 嘘のように青い肌。どっしりとした男らしい体格。
 金の指輪やネックレス、そして奇妙な形のロザリオを下げた彼は、色々な名前で呼ばれていた。
 たとえば『青肌商人』ブルース・ボイデル。
 ザントマンに紹介されたルートから国内外問わず奴隷売買を行ない山のように金を稼ぎ上げた。幻想種は驚くような高価格で取引され、運用に便利な『眠りの砂』や『グリムルート』といった品がザントマンから流れてきたおかげで商売はきわめて順調だった。
 そんな中、同じように幻想種奴隷売買に手を染め始めた悪徳商人たちが現われるのを見て、彼は周囲とは異なる特別な業務形態を手に入れつつあった。
「お頭、ブルーのお頭。そろそろつきますぜ」
 ブルース……いや、『BB山賊団』ブルー・ボーイは、馬車の窓布をめくり外を見た。
 大きな霊樹。幻想種たちが静かに暮らす、森林迷宮の隠れ里。
 走るブルーの馬車の、その後ろに連なる……幻想奴隷たちの詰まった檻。
「ヘヘ、まさしく金のなる木だな」

●ブルース・ボイデル、夢の中に消ゆ
「この写真の男、知っているか」
 ラサのある町、ある酒場の個室にて、テーブルに一枚の写真が置かれた。
 写真に指を立てて示すのは、クリムゾン13というローレットに協力的なラサの情報屋であった。
 向かいに座っているのは、『ローレットの山賊』として名高いグドルフ・ボイデル(p3p000694)である。
 グドルフは腕を組んだまま焼き鳥を喰った後の竹串を咥え、ゆっくりと端を上下させている。
「っ……知らねえぇなあ。なんだこのクソ青いクソデブは。おめえ、またおれにチンケな仕事を回そうってんじゃあねえろうだな?」
 悪態をつくグドルフに、情報屋は小さく息をついた。
 グドルフがこのような対応をとったときは仕事を受けるときだと、経験で知っていたようである。(勿論、都合が合わずに受けないこともあるが)
「こいつはブルー・ボーイといってBB山賊団のカシラを張ってる男だ。
 最近幻想種拉致事件が多発してるだろう? その先頭にたって他の山賊やマンハンターを手引きしてたって情報が出てきてる。
 ナハトラーヴェ、トカフ、メイプルヘイム……あんたらローレットが関わった案件も少なくないんじゃあないのか?」
「知らねえつってんだろ。ローレットの仕事をイチイチおれが把握してるとでも思ってんのか」
「じゃあコイツはどうだ――『ウィンドホールへの奴隷船』。アンタが殺ったんだよな?」
「…………」
 テーブルに写真が追加される。
 『B』字の刻印がされた金色の首輪と砂の小瓶である。

●眠りの砂とグリムルート――そして『Bの首輪』
「あの船から回収されたものだ。小瓶のほうは『眠りの砂』……傭商連合を分裂させたっつーザントマンのもたらしたマジックアイテムだ」
 ラサ傭兵商人連合が奴隷商売に反対するディルク派と推進し深緑制圧を求めるザントマン派で派閥割れをおこしたことは有名なニュースである。
 そのザントマンが魔種であるという情報や、魔種退治ならばとディルク派の商人たちがローレットに多数の依頼を持ち込んだのも有名だった。
 どうやらこの依頼はその一環であるらしく、情報屋が仲介したらしい依頼書にもディルク派閥の連名が書き込まれている。
「問題はな、こっちだ。金色の首輪。ザントマン派の商人どもは『グリムルート』っつう対象を意のままに操れるアイテムを持ってることがあるが、こいつがクソ高価らしい。
 けど『ブルー』はこの技術をパクって量産したうえ他の商人に売りつけていやがる。
 この首輪を使って支配した奴隷を肉盾にしてハーモニアの隠れ里を制圧し新たな奴隷を確保する。でもってマンハントの代金にイロつけた上でよそに売っぱらう。この奴隷商売ブームの中で誰よりも金を稼ぎ上げてやがる。
 そんでついたあだ名が『B(ブルー)の奴隷商人』だ。
 な? ほっとけねえ話になってきただろ?」
「…………」
 依然として沈黙するグドルフに、情報屋はもう一枚だけ写真を滑らせた。
 黙って、ただすべらせた。ブルーの首もとを撮影しただけの、なんてことのない写真である。
「…………」
「傭商連合は別の傭兵部隊と合同で奴の確保に乗り出した。
 次の『仕入れ』を狙って奇襲をかける。
 でもってその間に奴の首輪工場を別部隊が制圧、壊滅させるって作戦だ。
 あんたらにやって欲しいのはブルーへの奇襲だな。
 森に潜んでとおりがかった所をぶち殺せ。
 ――あ、いや、『ブルー以外』をぶち殺せ。
 連合はブルーを生け捕りにして隠し財産も裏ルートも全部絞り出すつもりらしいからよ。まあそこは任せな、奴らもプロだ。薬だ魔法だってえげつねーもん全部つかって吐かせてみせるからよ。気になるならその情報だって仕入れてやるぜ?」
「興味ねえな。金さえ貰えりゃなんでもいいぜ」
 グドルフは依頼書をもぎとって、個室を出て行った。

GMコメント

※同時参加禁止設定について
 このシナリオは『<Sandman>狂信のピリオド』と同時に作戦が実行されるため、どちらか一方にしか参加することができません。

■成功条件
・成功条件:『ブルー』を生け捕りにすること
※今回、戦闘不能にさえすれば容易に生け捕りにできるものとします

・オプションA:ブルーの部下を全滅させる
・オプションB:ハーモニア奴隷を生きたまま解放する
・オプションC:■■■■を■■する

■背景のまとめ
 これまで起きたハーモニア奴隷売買事件の部分的黒幕として、BB山賊団およびブルー・ボーイは暗躍していました。
 山賊としてハーモニアの隠れ里を襲い奴隷を手に入れ、商人として高値で売りつける。二つの顔をもつことで利益を二重に搾取していたようです。
 更にザントマンから授かった首輪を技術転用した『Bの首輪』を量産し、これらの被害を拡大させています。
 ディルク率いる傭商連合はこの男を重要人物として捕縛し、持ちうる全てを搾り取るつもりでいるようです。埋蔵された資金はともかく首輪の販売ルートや在庫奴隷の隠し場所など、吐かせなければならない要件が山のようにあります。
 そうした理由から、動きを察知されやすい傭商連合とちがってブルーに気づかれにくいローレットへ、ブルー確保の依頼が舞い込みました。

■依頼達成への手順
●待ち伏せ
 森の中で待ち伏せを行ないます。
 うっそうとしており視界が通りづらく、鼻がツンとするような植物が多い場所なので身を隠すにはうってつけの場所です。
 ブルー率いるBB山賊団が通りがかったタイミングで奇襲を仕掛けましょう。
 奇襲に成功すると戦闘の序盤に多くのボーナス判定が付与されます。

●戦闘
 ブルーおよびその部下との戦闘が始まります。
 部下たちはどれも手練ればかりで、例え奇襲に成功してもフツウに戦うだけでは敗北のリスクがあります。
 山賊団はブルー含め『9人』で、これに加えて肉盾にできるハーモニア奴隷を5人支配しています。
 情報屋からうけた部下の戦闘力と特徴は以下の通り。

・巨漢の獣種:高防御高HP。毒・火炎・崩しBSに耐性をもつ。山賊風と同じ動きをし、遠レンジ射撃による【怒り】付与が可能。
・巨大テーブルフォークをもった悪魔:通常攻撃しかできないが、それに【防無】【毒】がついており本人は【反】と高いHPを有する。
・不気味な影を纏ったローブの人物:高いEXFと【反】を有し、【怒り】付与能力をもつ。
・銀色のアンドロイド:高い反応値とそれを活かした高火力、そして高機動&飛行能力をもつ。
・仕込み杖をもった剣士:攻守ともにバランスがよく【必殺】や【防無+溜1】といった強力な攻撃手段をもつ。HPが少なくなると耐久性が増す。
・虹色の魔術師:髪と目が虹色の魔術師。恐ろしく沢山のBS付与能力と呪殺攻撃をもち、命中値も高い。

・飛行種ヒーラー:天使の歌やハイ・ヒールなどの治癒スキルを保有し、いざとなれば戦闘も可能。
・汚れた学生服の不良:召喚術を用いてセンパイを呼び出す。耐久力は低いが高威力の回復、単体攻撃、【識別】つきの神自域攻撃が可能。

・ブルー:高いHPと防御、【反】能力をもち単体に対する【怒り】付与や【防無】攻撃を可能とする。大ぶりなグルカナイフと山賊刀の二刀流スタイル。
 かつてはそうでもなかったが、ここ最近急速にこのスタイルに執着するようになり、部下の能力傾向にまで口を出すようになったらしい。

※ハーモニア奴隷(5人)
 隠れ里襲撃の際に盾や脅しの材料に使うべく持ち込んだ奴隷。
 首輪の効果で無抵抗かつ無気力な状態にあるため、ブルーは望んで盾にできる。盾にしている場合『かばう』効果が発生する。
 耐久力はきわめて低いため倒すことは簡単だが、衰弱もしているため【不殺】以外で倒した場合高確率で死亡する。

■ちょっとした用語解説
・ブルー・ボーイ
 表では『青肌商人』ブルース・ボイデルとして活動し、裏ではBB山賊団を組織している。
 Bの首輪を量産して奴隷被害を拡大させたことから『Bの奴隷商人』とも呼ばれている。
 こんがらがりそうなら略してBBと呼ぼう。

・Bの首輪
 ザントマンから授かったグリムルートというアイテムの劣化版量産品。
 装着させた人物をずっと催眠状態にできるが、ぼうっとしたまま抵抗しなくなる程度の効果しかもたず支配力も弱い。
 それでも奴隷商売にやたら有効なうえグリムルートに比べて安価なため山ほど売れた。
 なお、グリムルート同様ザントマンが倒されると力を失う。

  • <Sandman>砂仕掛けのブルース完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年10月12日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
アト・サイン(p3p001394)
観光客
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アウローラ=エレットローネ(p3p007207)
電子の海の精霊
ミドリ(p3p007237)
雑草
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
加賀・栄龍(p3p007422)
鳳の英雄

リプレイ

●空が遠い気がした。世界が膨らんだのか、自分が小さくなったのか。それとも何かが消えてしまったのか。
 地面を浅く掘り進む『一兵卒』コラバポス 夏子(p3p000808)。
 頑丈なスコップやショベルカーでもあればな、と重いながらも黙々と手を動かした。
 細かい話を理解するのは少々困難だったが、どうやらこの浅くて長い溝の多重構造が敵の逃走を防いでくれるというらしい。
 誰がそう述べたのかと言えば、他ならぬ『観光客』アト・サイン(p3p001394)である。
 罠による逃走への牽制。これが活きるのは本当に最後の最後だが、詰めを軽んじればし損じて負けるというのはボードゲームの常識である。手を抜く理由も勿論ない。
「BB弾って知ってる? 子供だましのオモチャの銃弾。けどオイタが過ぎれば叱られる」
 土を掘り返していた槍を突き立て、汗をぬぐう夏子。
 へし折って削った枝を浅溝へ等間隔に突き立てていたアトがちらりと顔を上げる。話の続きを促しているのだろうか。
 夏子は片眉を上げて見せた。
「そも此方が超大激怒なんだよ。
 平和を乱すだけならまだしも、最悪なことしでかしやがって。
 幻想種に向けた行為をまとめてお見舞いして、幻想種の幸せ勝ち取ってやろうな」
「みんな、そろそろだよ」
 地形把握のついでにと監視を行なっていた『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)が、卵の落ちる歌をやめた。
 近づく三台の馬車を観測したためである。陣地構築作業を行なっていた仲間たちに呼びかけ、ぴょんと枝から飛び降りた。
「やれやれ。まだ途中だってのに」
「けどま、牽制には充分かな」
 逃走手段が馬車である以上、馬が動けない地形を作った時点で阻止は完了したようなものである。
 仮に走って逃げることができたとて、永久に平面の続く舗装道路でもあるまいに、追いついて殺すことはそう難しくない。
 奇襲のための体力を失わないようにじっと呼吸を整えていた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が、閉じていた目を開いた。
 ずっと遠く、同じ空の下で、誰かがウッドベルを鳴らしたような気がしたのだ。
「『青肌商人』『Bの奴隷商人』『BB山賊団』……ブルー・ボーイ……あの人がナハトラーヴェの皆を攫おうとしてた山賊たちの黒幕にいたんだよね」
 必ずたどり着いて、必ず倒す。決意を再び胸に抱き、焔は値に突き立てていた槍を抜いた。
 同じく咄嗟の動きに、そして要求されるであろう急速な重労働に備えるべく身体を休めていた『電子の海の精霊』アウローラ=エレットローネ(p3p007207)てぴょんと飛ぶように立ち上がった。
「元気回復! 幻想種を奴隷にするなんて許せないんだよ!
 生命を軽んじる輩はアウローラちゃんが成敗してやるー!
 一緒に頑張ろうね! ミドリ君!」
「PiPiPi! PiPiPi!」
 頭から伸びた葉っぱをぱたぱたとやってアウローラに同意する『雑草』ミドリ(p3p007237)。
「PiPiPi……PiPi……?(それに耳長の子達、あれはひどいよ?)
 PiPiPi! PiPiPi! PiPiPi!(絶対助けてあげようね!)」
 一方で、草を結んだスネアトラップの設置を黙々と手伝っていた『人生葉っぱ隊』加賀・栄龍(p3p007422)が作業を中断して銃剣を手に取った。
「俺は兵士だ。どんないきさつがあろうが、与えられた任務は遂行するぜ」
 いつでも飛び出せるように茂みに伏せる栄龍。
「このトラップ、要するに地雷原だよな……。敵の動きを制限するってことは、安地を悟られないためにこっちも動けねえってことだ。こりゃあ、思ったように立ち回れねえかもな」
 まあそんときゃあそんときだ。
 栄龍は獣のように息を殺し、獲物がやってくるのを待った。

「壊れた卵が戻れないなら、精算するしかないよ。ね、おじさん」
 カタラァナは振り返り、切り株に腰掛けた『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)を見やった。
 浅黒い胸板の肌を露出させ、ぼさぼさとした白髪と髭をたくわえた山賊グドルフ。
 しかしその目には、ただの山賊とは思えない何かが渦巻いているようにも思えた。
「助太刀致します。グドルフさん」
 剣を抜き、誓うように水平に翳してみせる『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)。
(不正義を糺すのは元より……父親代わりともいえる彼の因縁の相手。逃がしはしない!)
 リゲルは瞳に決意の光を宿し、奇襲に備えた姿勢をとる。
 同じく伏せた姿勢を取ったウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)がビッと親指を立てて見せた。
「イレギュラーズ最強のグドルフさんが率いる我々ですよ! 負ける筈がありません!
 全力でぶっ潰してやりましょう!」
「おう……」
 多くの者にとって、これはマンハンターたちの黒幕を狩るための作戦である。
 『Bの首輪』を製造し、山賊たちを動員してハーモニア狩りを推進していた男、ブルー・ボーイ。
 彼の身柄と所有施設を押さえることでディルク派の力とし、ザントマン派閥に大打撃を与えるというものだ。
 しかし一部……ほんとうにごく一部の者にとってのみ、この戦いは別の意味をもっていた。
 ヒツジをねらうヒョウのような獰猛さと静けさで、グドルフは地に伏せた。
 遠い記憶にこびりついた鉄の味を思い出す。泥の感触を思い出す。
 懐のロザリオとロケットが、あの日を忘れるなと叫ぶようだった。
(確かめねばならない。あの男が、己が生涯を掛けて探してきた男なのかを)
 やがて、馬車が近づく音がする。
 全員がぴたりと、息を止めた。

●手足が震えて進めなかった。祈ることしかできなかった。力とはきっと、手の震えを殺して突き進むことを言うのだろう。
 天を見よ。
 飛び立つ鳥のように羽ばたく青い魔法の光が見えるか。
 弧を描き渦を巻き、馬車へ殺到する魔法の海鳥たちが見えているか。
 馬車の御者席に座っていた不良風の男は目を剥いて手綱を引いた。
「お頭、奇襲だ!」
 耐ショック姿勢。
 ミサイルのように殺到する光と爆発によって大地は破壊され先頭馬車は激しく横転した。
 後続の二台は急停車。戦闘態勢を整えていなかったブルー含むBB山賊団の面々は慌てた様子で馬車から転がり出ていく。
「クソッ! 計画が漏れていやがったか!」
 一方、飛び出したカタラァナは胸に手を当て、びしりと最後尾車両を指さした。
「おじさん、ハーモニアたちはあの馬車だよ」
 鉄格子で仕切られた馬車の内側では、ぼうっと虚空を見つめるハーモニア奴隷たちが膝を抱えて座っていた。
 これだけの騒ぎにも反応しないということは首輪の支配が効いているに違いない。きっと呼びかけたところで言葉は届かず、自主的に逃げるどころかBB山賊団の盾になってこちらを妨害しはじめるだろう。
 が、そんなことはもう関係ない。
「オラァ!」
 猛烈なグドルフのタックルが馬車へと炸裂。
 鉄格子が拉げるほどの凄まじい勢いでぶつかると、車体を強制的に転倒させた。
 素早く飛びつくアト。天井部分の幌を切り裂くと、仲間の突入する道を作った。
「奴ら、奴隷どもが狙いか」
「大人しく渡すほど我々が親切に見えますか」
 銀色のアンドロイドと錫杖剣士がブルーを庇うように飛び出し襲いかかるが、それを振り返ったグドルフが二人同時に受け止めた。
 斬撃を山賊刀で、跳び蹴りを斧でそれぞれ受けると、ごろんと後転し巴投げの要領で二人まとめて放り投げる。
「おう、どうした。山賊ごっこに混ざりてえか?」
 斧をぽんと放り投げ、二回転させてからキャッチしてみせるグドルフ。
「今だ、みんな!」
「抵抗しろ奴隷ども!」
 ブルーが慌てて叫ぶも、もはや手遅れであった。
 首輪を通して命令を実行するより、奇襲によって先手をとったウィズィニャラァムたちが奴隷たちを鎮圧する方がずっと早い。
「ごめんね、邪魔しないで――ねッ!」
 まるでカーテンのように開かれた幌から突入したウィズィニャラァム。細腕で掴みかかろうとする奴隷たちの手を逃れ、巨大テーブルナイフを壁(今や天井)の鉄格子にひっかけ鉄棒の要領で飛び上がって二人まとめて蹴り飛ばした。
 そうしてぺたんと鉄格子部分に張り付くと、追って飛び込んできたリゲルと夏子がそれぞれの武器を握りしめる。
「傷つけて済まない……必ず救うから!」
 剣に銀の光を纏わせ、激しく横一文字に払うリゲル。
 走った光がハーモニア奴隷たちを突き抜け、馬車の床底と彼女たちの意識だけを切り裂いていく。
「必ず助ける! 今は、休んでてくれ!」
 更に馬車内に投げ込んだ夏子の槍が激しい火花を爆発させ、馬車もろとも破壊してしまった。
 吹き飛ばされたハーモニア奴隷たちが地面を転がる。
 が、みな気絶しただけで誰一人死なせてはいなかった。
 先程の爆風で一緒に吹き飛ばされたリゲルとウィズィニャラァムがくるくると回転し、両足と片手で滑るように着地。
「よっしゃ! その子たちは頼みましたよ! 丁寧にね!」
「まかせて!」
「PiPiPi!」
 アウローラとミドリが倒れたハーモニア奴隷たちに駆け寄り、担ぎ上げていく。
 数にして5人。いくら衰弱したとはいえ結構な重さと『持ちづらさ』のある物体である。が、運搬にとにかく集中するのであれば無理というほどでもないだろう。
 アウローラは一人のハーモニアを抱え上げ、馬車の進行方向とは逆向きに走って行く。
「ミドリ君、その子をお願いね!」
「PiPi!」
 同じくミドリも頭から生えた葉っぱでハーモニアを一人巻き取って抱え上げると、小さい足を小刻みに動かしてアウローラのあとを追って走った。
「オイオイ、どこ持ってく気だ」
「商品の窃盗は犯罪よォ?」
 巨漢の熊獣種と巨大テーブルフォークを持った青肌の悪魔が追いかけようとするが、足下に打ち込まれた牽制射撃に足を止めた。
「かっぱらったガキどもに輪っかつけてなァにが商品だ畜生が」
 栄龍が射撃姿勢のまま突撃――と見せかけて、すぐさま銃剣を背中に回しハーモニアを担ぎ上げる。一人を背負い、二人を両脇に抱える。低く見積もって一人30キロとしても重量にして90キロ以上。自身の装備も含めたらなかなかにえげつない重量だったが、栄龍は気合いでそれらを保持したまま走り出した。
 これだけでは当然追いつかれてしまうスピードだが……。
「この子たちは渡さない。もう二度と」
 割り込むように陣取った焔が、槍で地面に豪快な曲線を描いた。
 描いたラインにそって炎が燃え上がる。
 何も焼かない見せかけだけの炎だが、その勢いが焔の強い意志を思わせた。
 炎の壁をまたぎ、くるくると槍を回してみせる焔。
「これまでの精算、させてもらうよ」
「おもしれえ」
 ブルーが目を剥き、そしてその場にいるイレギュラーズたちをじろりと一通り観察した。
「有名人がごろごろいやがる。オレもとうとう天下のローレット様のマトにかかったってかァ?」
「嬉しいだろー? 俺らのコトよーく研究したみたいだしね。サインあげよっか」
 焔と並んで槍を突き出すように構える夏子。
 同じく並び、剣をにほん抜き、攻防一体の構えをとるリゲル。
「Bの奴隷商人、そしてBB山賊団のリーダー、ブルー・ボーイ。
 幾多のハーモニア拉致及び卑劣な奴隷売買の罪、償って貰う」
「…………」
 深く呼吸を整え、山賊刀を突き出すように構えるグドルフ。
 ブルーもまた、山賊刀を突き出すように構えた。
 全く同じ、まるで兄弟のような構えに、アトが『そういうことか』と独りごちた。
「奴隷線事件の時もそうだったけど、ようやく合点がいったよ。意識しすぎて『とらわれた』な? 僕らという『伝説』に」
「うるせえ……」
 首を振るブルー。
 突然の襲撃にしばし混乱していた不良風の男や虹色の目をした魔術師、そして彼らを復旧した飛行種の男が加わり身構える。
 一方でウィズィニャラァムやカタラァナも加わり、正面からにらみ合う形となる。
 静寂は、一瞬たちともない。
 ブルーが獣のように、歯をむいて叫んだ。
「こいつら全員――ぶっ殺せ!!」

●教わったのは殺し方なんかじゃない。けれどもう、それしか残っていない。
 最適解である。
 イレギュラーズたちが求めた今回のブルー・ボーイ生け捕り作戦依頼における自主的な着地点。
 そのうち自主達成条件の一つであった『ハーモニア奴隷全員の生存と保護』を確たるものにすべく、彼らは奇襲の第一手をそれのみにそそぐことにした。
 元々別の馬車に収容されていたハーモニア奴隷たちを徹底的に攻撃し、三人がかりで安全圏まで運搬する。
 ブルーたちがどんな命令を出そうとも、ハーモニア奴隷たちがどんなリアクションをしようとも、一切合切関係ない強制的かつ確実な保護手段である。
 これによって、イレギュラーズたちが完膚なきまでに敗北するのでも無い限りはハーモニア奴隷に危険が及ぶことはないだろう。
 重ねて述べるが、ハーモニア奴隷たちを保護する目的に対する最適解が、行動によって示された。
 一方。
「待ちな、そいつを置いてけ」
 魔導書を広げ、虹色のプリズムマジックを行使する虹色魔術師。
 空中に開いた魔術砲門から次々と発射されるプリズムミサイルが栄龍たちへと迫る。
「チッ、痛いところを突いて来やがる……!」
 ハーモニア三人を抱えた状態で防御も回避もままならない状態で何とか走る栄龍。
 アウローラとミドリは抱えたハーモニアに攻撃が及ばないように身を挺して庇いつつ、砲撃範囲外めがけて走る。
「Pi! PiPiPi~!」
「首輪は外してあげられないのかなっ」
「無理じゃあねえが、時間はかかるな。安全な場所まで運ぶので精一杯だ。それ以上留守にはできねえ。なにせ……」
 歯噛みする栄龍。
 彼を先に行かせるべく、魔術師たちの進行を阻んでいた焔やウィズィニャラァムが槍と巨大テーブルナイフを交差させた。
「命が惜しいなら邪魔をしないことですね」
「通してくれたらイイコトしてあげちゃう」
 巨大テーブルナイフで突撃をしかけてくる悪魔。同じく刀によって突きを繰り出す剣士。
「通すわけ無いでしょ!」
 槍のスイングと連続突きで牽制をしかける焔。
 ウィズィニャラァムは巨大テーブルナイフをフォークの間に挟んで捻るよに持ち上げた。
「よっしゃあじゃあ勝負だ! 負けた方が後で何でも言うこと聞くってどうかな!」
 イレギュラーズたちはハーモニアの保護を確実にすることと引き替えに、陣形と戦術のアドバンテージをブルー側に譲る形になっていた。
 相手は九人。こちらは三人をハーモニアを連れた安全圏までの撤退に割いて七人。
 ローブの人物や熊獣種たちの【怒り】付与のチャンスを譲るだけでなく、アンドロイドをはじめ剣士たちのマーク選択を譲ることになる。
 色々省いて端的に述べると、こちらが倒したい優先順通りに敵を集中砲火で倒していくという作戦がとれなくなったのだ。
 対してブルー側はこちらの戦力詳細を殆ど把握してはいない。バラバラに戦力を分散させることで各個撃破を狙おうとしているようだ。
 ここしばらくは、個々人の戦闘力と立ち回りがモノをいうだろう。
「手加減できないよ。皆を守るためだから……!」
 焔の槍が、腕が、身体全体が炎に包まれ、剣士の脇腹を切りつける。
 剣士は燃え上がりながらもまっすぐに突っ込み、焔の胸へと刀を突き立てた。
 ずぶずぶと刀身を沈め、身体をぴたりと密着させてくる。
「もとよりいりません。殺し合いましょう」
「――ッ!」
「こらえて、なんとか支えてみる」
 焔も錫杖剣士も、そして悪魔とウィズィニャラァムも、みな相手の防御を無視してダメージをねじ込むスタイルのアタッカーである。(もっとも焔はそれ以外に様々な戦闘スタイルが可能な器用さをもってはいるが)
 それゆえそれぞれのダメージはかさみ、カタラァナが回復の手を緩める暇がまるでなかった。
 更に言うなら【怒り】をはじめとするBS系統の高速治癒手段がミドリのキュアイービルしかないため、ミドリが戦線に戻ってくるまでの間はこちらがBS類に毒されきらないように祈るほかない。
 少しでも引けば、少しでも踏み外せば負ける。
 そんな緊張の中で、カタラァナは天使の歌を歌い続けた。
 しかしその危うさは敵も同じこと。飛行種ヒーラーは悪魔と剣士を治癒することに集中している。
 できれば今すぐにでもヒーラーを殴り殺したいが、夏子とアトは熊獣種とローブの人物に無理矢理引き留められていた。
 棍棒をくるりと回す熊獣種。
「どうした。動きが鈍いぞ」
「鈍らせてるんだろ。嫌みなやつだなあ」
 アトから普段通りの余裕が消えつつある。
 逃走阻止の罠は機能するべき時に充分に機能しそうだが、相手が逃走をまず考えない間はそれ以外のカードでしのぐほかない。アトはショルダータックルを仕掛けてくる熊獣種に突き飛ばされながらも、自らが罠にかかってしまわないように転がって拳銃を連射した。
 さらなる突撃を仕掛けようとする熊獣種を追い払うべく割り込む夏子。
「これ以上! 信頼損ねて……ったまるかあ!」
 振り上げた槍にばちばちとスパークをおこし、思い切り投擲。
 熊獣種に直撃――するかと思われたが、ぬるりと割り込んだローブの人物が槍を身体で受けてニヤリと笑った。
 致命傷のように見えるがまるで死んでいる様子が無い。
 こちらに手を翳し、ニタニタと笑いながら手招きをする。
「やりずらっ! なにこいつ!」
「奴らこっちに対応してきてる。流石にアタマも雑魚じゃない、か……」
 ナイフを構えるアト。
 夏子と並ぶと、『気合い入れてしのぐぞ』と呟いてナイフを放った。

 歯を食いしばり目を見開き、山賊刀と山賊刀をぶつけ合う。
 グドルフの繰り出す斧をグルカナイフに引っかけて固定し、腕が開いた状態の所にブルーの頭突きが繰り出された。
 鼻っ面をたたきつぶされたグドルフ。が、半歩たりとも退くことなくブルーの顔面に自らの石頭を叩き込む。
「ま……まち、がい、ねえ……!」
 食いしばった歯から絞り出すように呟くブルー。
「ぐど、るふ……テメェ……グドルフの……!」
「ああ、そうだ。俺は『グドルフ』の亡霊だ。あいつには感謝しなくちゃな。この名前がお前を引き寄せてくれた。さぞかり寝付きが悪かったことだろうよ」
 鼻血を流しながらにやりと笑うグドルフに、ブルーは噛みつかんばかりの勢いで膝蹴りを繰り出した。
 が、そこでグドルフは風になびく柳のごとく飛び退いて回避。
「で、おめえはそうやって隙を晒す」
「――!?」
 ブルーの眼前にあった影が伸びる。
 否、跳躍し白銀の剣を振りかざしたリゲルの影である。
「この鉄の剣は、グドルフさんから受け継いだ剣。この剣に懸けて、貴様を倒す!」
 まっすぐに繰り出された剣がブルーのがら空きになった背中を切りつけた。
「ぐおお!」
 転がりながら防御を整え直すブルー。
「奴隷どもが居れば今頃は……クソッ」
 ハーモニア奴隷をいち早く保護したのはなにも身を慮ってのことばかりではない。
 ブルーたちが盾にできるカードを根こそぎ奪うことで彼らの緊急回避を不可能にしたのだ。
 山賊刀を突き出すグドルフ。
 剣を突き出すリゲル。
 その二人に挟まれ、ブルーは呼吸を荒くした。
 胸にさがるロザリオへ無意識に手を伸ばし、強く握りしめた。
「カ……■■■……」
「なんだと?」
 聞き慣れぬ単語に目を細めるリゲル。
 だが一方で、ブルーは猛烈な勢いで斬りかかってきた。
 恐いものなどないように。
 もしくは、もっと恐ろしいものを知っているかのように。

●オリジンを忘れるな。いつもそいつはお前の後ろに立っている。
「ここまでくればいいだろう」
 草むらに気絶したハーモニアたちを寝かせ、栄龍は立ち上がった。
 おびただしい汗が顎から落ちるが、それを袖でぬぐって振り返る。
「さァ、早く戦場へ戻らねえといけねえぜ」
「Pi!」
 ミドリはハーモニアに蜜を呑ませると、ぴょんと身体ごと反転して走り出した。
 ミドリの力がばちばちと身体にたまっていく。
 安全圏まで逃れるには時間がかかるが、戻るのはずっと早い。
 ミドリは跳躍すると、まず目視できた虹色の魔術師めがけて魔砲を発射した。
「もう戻ってきたか。まだこっちは片付いてないってのに」
 ミドリの砲撃に対して魔術障壁を展開する魔術師。
 それでも破壊された障壁を突き抜けていくように、アウローラのチェインライトニングが雨のように走った。
「奏でるは魔法の重ね唄!」
 流れるように魔曲・四重奏へシフト。密集したエネルギーの雨が魔術師めがけて殺到していく。
 反撃の魔術砲撃をしかける魔術師だが、すぐさま大地から飛び出した土塊の拳が魔術師を殴り飛ばした。
「潰れちゃえー!」
 土塊の拳と同じ動きをして拳を突き出すアウローラ。
「皆お待たせ! もう大丈夫だよ!」
「PiPi! ……PiPiPi!」
 一方でメガ・ヒールを開始するミドリ。
 戦線が立ち直った……がブルーたちBB山賊団もまた手強い相手だった。
「センパイ、たのんます!」
 大量の幻影を召喚して突撃してくる不良風の男。
 アウローラやミドリたちがたちまち呑まれていく。
「お頭、『仕入れ』どころじゃねえッス。ここは撤退したほうが――ぐお!?」
 振り返る不良の胸を、焔の槍が貫いた。
 悲鳴を上げながら燃えていく不良。
 崩れ落ちるのを待たずに、焔はその場から大きく飛び退いた。
 すぐ後ろの樹木が斜めに切断され、ずるずると倒壊していく。
「よそ見をするとは、随分余裕がありますね。さあ、続きをしましょう」
 剣を振り抜いた錫杖剣士が張り付いたような笑みで焔を見た。
 見逃してくれそうはない。
 が、ここへきて退くつもりもなかった。
「いいよ、わかった……」
 焔が手を水平に払うと、焔と剣士を中心としたサークル状の炎が燃え上がった。不退転の意思表示である。
 片手で槍をかまえ手招きをする焔。
 剣士は糸目のまま、一瞬で距離を詰めてくる。
 首をはねるのにジャストな間合い。
 槍よりも内側の間合い。
 とったと剣士が確信したその瞬間、刀身が焔をすり抜けていった。
「――」
 思わず目を見開く剣士。
 斬ったのはただの蜃気楼であった。
 刀の間合いよりももう少し先。
 槍の間合いに、焔はいた。
 炎が弧を描き、剣士の首をはねる。

 回転しながら飛んでいく剣士の首。
 それを横目に、ローブの人物はうっすらと笑った。
 そんな相手に突撃し、ぴたりと肩をつける栄龍。
「あっちは片付いたみてぇだな。どうやら、間に合ったらしいぜ」
「うん、助かったよ……」
 血まみれの服で横転した馬車に寄りかかり、ナイフの刺さった脇腹を押さえるアト。
「待たせて悪い」
 栄龍はローブの人物を蹴倒し、銃剣を引き抜いた。
「戦果ァ! 敵撃滅せり!! 次はどいつだ!!」
「俺だ」
 熊獣種が繰り出す棍棒が栄龍の後頭部に直撃するが、栄龍はまるで関係ないという風に振り返った。
 顔が血にまみれていく。
「なあアンタ、どこの国の兵隊だ。見たことねえ軍服きていやがる」
「知らねえかい。なら、思い知らせてやる」
 獣種の放つナイフ――を一切かわすことなく、栄龍はまっすぐに獣種へと突撃。
「祖国鳳圏のために!」
 獣種の心臓をしっかりと突き刺した銃剣の刀身。零距離で小銃の引き金をひき、獣種にデスダンスを踊らせた。
「ほう……けん……まさか……」
 肩に手をかけ、ずるずると崩れ落ちていく獣種。
 栄龍は胸に刺さったナイフを抜き、乱暴に放り捨てた。

 投げ捨てられた血まみれのナイフが石のうえをはね、回転しながらある二人の間を滑っていく。
 粗い呼吸と、荒い呼吸。
 地面に巨大フォークを突き立て、悪魔は頬を赤くした。
 肩や脇腹や腕におびただしい血を流し、額から流れた血を舌で舐めとる。
「すっごく楽しいけど……もう、終わりにしないとねェ」
「そう思いますか、やっぱり……」
 地面に巨大テーブルナイフを突き立て、寄りかかるように前髪を垂らすウィズィニャラァム。
 流れる汗と血が、彼女のエプロンドレスを赤黒く染めていた。
「帰ってお喋りってわけには?」
「いかないでしょォ?」
 踏み出す二人。
 引き抜かれるナイフとフォーク。
「「――ァァッ!!!!」」
 お互いの身体の中心を貫くフォークとナイフ。
 ウィズィニャラァムは巨大フォークを腹に刺したまま仰向けに倒れ、悪魔はナイフに貫かれ横向きに倒れた。
 目から光を消していく悪魔。
 一方で。
「……私の、勝ち!」
 ウィズィニャラァムだけが、拳を天に突き上げた。

「こうなれば我々だけでも生き延びるべきでは?」
「そんな気がしてきました」
 銀色のアンドロイドと飛行種男性がきびすを返し森へと飛翔を始めた。
 が、その直後に木の枝にしかけたトラップが発動。
 彼らの動きが一瞬だが鈍った。
「逃がさないよ。そのための舞台だ。何のためにわざわざこんな戦い方をしたと……」
 咳き込み血を吐きながらも、アトはにやりと笑って見せた。
「そういうこと!」
 夏子の投擲した槍が飛行種の身体を貫き、激しい炸裂が隣のアンドロイドをはじき飛ばした。
 樹幹にぶつかり、転がるように落ちるアンドロイド。
「これで店じまい。……だけど、も一個おまけにもってきな!」
 夏子は小石を握りしめると、拳にばちばちと火花を散らした。
 咄嗟に防御姿勢をとろうとしたアンドロイドの顔面に叩き付け、強引に粉砕する。
「超えちゃならん一線……ってのはあるんだ」
 墜落し、槍を押さえる飛行種。
 カタラァナはそんな相手に歩み寄り、ついっと指を上げた。
「や、やめてください。命だけは」
「ごめんね」
 カタラァナは歌うこと無く、『掻き抱くブライニクル』の魔術を行使した。
 ぱきぱきと音を立てて氷結した飛行種が、もろいガラス細工のように砕けていく。
 ぶらんと腕を下ろし、振り返ること無く声をかける。
「さあ、精算の時だよ。グドルフおじさん。
 僕は貴方に何があったのかなんて知らない。
 知らないけれど、ずっと哀しい音を出しているのは知っている。
 その傷は決して癒えないけれども、新しいものを積み上げるためにまっさらにはできるんだから」
 深く息を吸い込み、今度こそ、詩を読むように声を張った。
「応報するんだ、おじさん。
 たぶんそれは、とっても素敵なことだよ」

 ブルーの繰り出したグルカナイフが、リゲルの腕を貫いていた。
 ぐ、と腕に力を込めるリゲル。
「グドルフさんは、貴様などには負けはしない!
 だから俺も、倒れてなるものか!」
「こいつ……!」
 ナイフを引き抜こうとするも、がっちりと固定された刀身を動かすことすらできなかった。
 やむなく手を離し、山賊刀を振りかざすブルー。
 リゲルはそれを読んでいたかのように剣を振り、山賊刀を打ち上げる。
 タイミングよく繰り出された打撃はブルーの手から山賊刀を奪い、刀は回転しながら数メートル先の土へと突き刺さる。
 リゲルの蹴りによって突き飛ばされ、ブルーがごろごろと転がっていく。
「ま、待て、待ってくれ」
 尻をついたままじりじりと後退し、木の幹に背をつけるブルー。
 グドルフはそんなブルーを追い詰めるように、一歩一歩詰め寄っていった。
「俺の負けだ。悪かった。奴隷もやるし、金もやる。許してくれ……」
 この通りだと言って地面に手を突き、土下座の姿勢をとった。
「頼むよ……なぁ!」
 グドルフの足首を狙った不意打ち。
 足の筋を切断しようと繰り出したナイフ――が、根元からばきんと砕かれた。
 まるでそうすることをずっとずっと前から知っていたかのように、グドルフの斧が打ち込まれていた。
「ぁ……」
 思わず顔を上げたブルーの首を掴み、木の幹に後頭部を叩き付ける。
 喉に山賊刀を押し当てた……ところで、ブルーが涙と涎を流して呻くのが分かった。
「たのむ、たのむ、ころさないでくれ、たのむから……」
「…………」
 グドルフは沈黙し、目を細める。
「グドルフさん……」
 後ろから声をかけるリゲル。
 彼から表情は、見えない。
「ヘヘッ、分かってるよ。生け捕りだろ? 小汚ェクソブタ一匹、勢いで締めたりはしねえよ。金が貰えなくなるからな! ゲハハッ!」
 後は任せたぜ、といってブルーから離れていくグドルフ。
 ブルーの首から何かが無くなっていたように思えたが、リゲルは何も言わずにブルーに縄をかけた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

アト・サイン(p3p001394)[重傷]
観光客
アウローラ=エレットローネ(p3p007207)[重傷]
電子の海の精霊
ミドリ(p3p007237)[重傷]
雑草

あとがき

 ――『Bの奴隷商人』の生け捕りに成功しました。
 ――BB山賊団の全滅に成功しました。
 ――ハーモニア奴隷の救出に成功しました。

 ――同時刻に決行された首輪工場制圧作戦の結果報告を待っています。

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