PandoraPartyProject

シナリオ詳細

超大型巨蟹

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●国家を荒らすは悪徳商人だけにあらず
 『赤犬』ディルク・レイス・エッフェンベルグ。
 ラサ傭兵商会連合の事実上のトップ。彼はそんな立場の人間にも関わらず近頃の奴隷問題について自ら各地へ足を運び、奔走していた。
 それだけこの問題は国家の信用を揺るがすものであり、対応を誤れば国全体のパワーバランスにまで影響を及ぼしかねない。ディルクは休むわけにいかなかった。
「隊商が襲われた?」
「はい、人的被害は出ていませんが、香辛料の品が……」
 一つの傭兵駐屯地へ補給で寄った際、部下の一人からそのような報告がなされた。
 昨今の奴隷問題に付随したモンスター増加の件だろうかと思い、部下に続きを促した。しかしどうにもそれとは違うらしい。
「いえ、こいつは無関係みたいです。ただ……」
「十メートル級……巨大生物の類か。人員が要るタイプだな」
 ラサには、たまに好き好んで食品を輸送する隊商を襲う生物がいる。巨大な生物にはそのタイプが多く、それが現れる事も特別といえるほど珍しい事ではない。普段なら意気揚々とこなせる傭兵仕事の一つだ。
 しかしディルクは周囲の傭兵達を見回した。部下達は皆、疲弊しきっている。先に見える問題の為に、出来る事ならばここで少しの休憩と食事を与えてやりたい。
 ディルクはいくばくか考えてから、ふとイレギュラーズ達の顔が思い浮かんだ。
「奴らを頼らせてもらうか」

●蟹バリずむ!!!
「赤犬ディルクから直々に蟹パーティーのお誘い……なら僕も喜んで参加させてもらったんだけどね」
 依頼の報告書を確認して、苦笑いする『黒猫の』ショウ (p3n000005)。依頼書を見るにどうにも討伐対象は10メートルかそこいらの体長がある大型怪物クラスの獲物らしい。特定の香辛料を好き好んで食べるそうで、今回襲われた理由もそれを運んでいたせいだろう。
「ラサにとって、香辛料も立派な交易品さ。香辛料欲しさに地獄の環境にも等しい砂漠を渡って行く……っていうのは有り得る話だね」
 旅人(ウォーカー)の話では何処ぞの世界はコショウが金と等倍のレートで交換、なんて噂もあったりする。何にしても(輸送手段が発達した世界ならいざ知らず)香辛料というのは貴重であり、美味しく料理する為には重要であり、大概重宝されるものなのである。
「このまま放置しておいても人的被害は出ないかもしれないけど、香辛料を狙って襲われるのは大局的に見て経済的な打撃に成り得る」
 昨今の状況を鑑みるに、彼らにとってそれはよくない。金は入り用だろう。……であるからして、我々はなんとしてもその蟹を討たねばならぬ。それがイレギュラーズとして正しい行いだ。
「……うん、お察しの通りこいつは食えるよ。しかも貴重な香辛料をたらふくお腹に溜めて、ね。ラサの為に蟹を倒しちゃうのが正しい行いだけど、それを僕達が食べちゃっても何の支障も無い。WIN-WINの関係さ」
 イレギュラーズの表情を見て、おおいに頷くショウ。その顔は明らかにイレギュラーズのお土産を期待しているようだった……。

GMコメント

 稗田ケロ子です。蟹だァー!!!!!!!!

●環境情報:
 討伐時間はお昼頃。砂漠の真っ只中で視界に支障無し。遮蔽物も無い。ただし暑い。
 現場は町から大きく離れており、戦闘において一般市民の被害は気にする事は無い。
 戦闘に勝利した場合、その場で調理パーティー出来るかも。非戦技能の使い所。
 ……『料理(悪)』は持ってくると酷い事になるぞ!!!

●エネミー情報
巨大蟹:
 10メートル級の巨大蟹。その図体に相応の高いHPと攻撃力持ち。ただし回避と命中率劣悪。抵抗が低くバッドステータスにも弱い。
 ……食う予定なのに【毒】とかバッドステータス使うと酷い事になるぞ!!!

その他:
ショウ「馬車やパカラクダがあると蟹を持ち帰ったり駐屯地の傭兵達にもお裾分けしやすいだろうね。……いや、なに。こっちの話さ」

  • 超大型巨蟹完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年10月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

リプレイ

●香辛料街道
 とあるウォーカーが言った。私がいた世界のキャラバンは絹や香辛料を得る為に地獄のような砂漠を日夜超えていた。
 大荷物を積載して辺境を渡るというのは労力は尋常ではない。交易品よりも多くの飲食料が必要という場合が殆どだ。人を養う食料を運ぶ為にロバを使い、そのロバを働かせる為の膨大な食料を運ぶ。そうすると隊商は亀になり、アキレスに追いつけない。
「食材も機材も山盛り準備おっけー!」
 追いつく為に必要なのは最大限の現地調達だ。冒険心溢れる『守護の勇者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)の先導で砂漠のオアシスに立ち寄って、調理器具や食材が詰まれた馬車に満杯の水を積み込んでいた。
 今回のロバことHMKLB-PM(ハイパーメカニカル子ロリババア量産型)は増えた荷物にイヤな顔一つしない。内心どうなのかはさておき。
「ぶはははっ、デカブツ相手たぁ実に俺好みの相手じゃねぇか。腕が鳴るねぇ!」
 水の入った大樽を片腕で抱えながらそう気合いを入れる、ロバの飼い主こと『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。
「かにさんには悪いけど、わたし達のご飯になって貰わなきゃだね」
 ルアナの本心としては、追い払うだけで済ませたいところ。『叡智のエヴァーグレイ』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)が、彼女の表情から察してなだめるように諭した。
「なに、食べる事も含めての依頼みたいなものだ。食材等は大量に用意してある故、大抵のものは作れるだろう。期待すると良い」
 ルアナはウンウン唸って、難しい顔をしながらうなづいた。
「うん! かにさん……残すところなく食べるのが供養だよね」
 相手も命を持つものだから完全に割り切れぬ。とはいえ、それを退治する事はラサの人達の為になるだろう。
「……そうだな、食べられて良かったと蟹が思うよう、吾輩も腕を振るうとしよう」
「おうとも、俺達に任せな。取って食うからには無駄にゃしねぇからよ!」
 この幼い勇者の為にも、まずい料理は作れないな。グレイシアとゴリョウは顔を見合わせてからそう思うのであった。

●熱砂行軍
「交易商の方にとっては大変なお話でしょうが……下味も自らつけているとは、実に、いい蟹ですね」
 目的地に向かいながら何処か期待するように語るイレギュラーズ。『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)。ラサの香辛料、ラサの料理。普段中々目にする事がない。内心気になるところであった。
 しかし大型生物は、味に癖が出るという話は多い。ショウは食えると言っていたが、自分達の口に合うだろうか。
「安心しろ。味は良いぞ。砂漠地帯の甲殻類は乾燥を防ぐ為に身も詰まっている」
 雪之丞の考え顔にそう言葉を向ける『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)。
「わかるのですか」
「わかるとも。甲殻類は好きだ。見るのも食べるのも。なんとなく愛着がわくゆえに」
 愛無は蠍は食い損ねただの、タイムリーだのと色々呟いている。それが何の事かはともかく……魔物と料理の知識がある愛無の言う事だ。その見聞に間違いはないのだろう。
「ディルク様らも、最近の騒動でお疲れの様子ですし、手土産に蟹を持ち帰れば、丁度良さそうでございますね」
 仲間の口からディルクの名前が出て、ピクリと反応する『氷結』Erstine・Winstein(p3p007325)。
「巨蟹……やっぱり美味しいの? ……あのショウさんが楽しみにしてるくらいだし……」
「えぇ、そのようで」
 Erstine――エルスティーネのそわそわした様子に、なんとなく察する雪之丞。ますますまずい料理は作れなくなったという顔をしている仲間がいるのはさておき、上手い料理を傭兵達にふるまえば、いくらか傭兵の英気を養える。しかも今回のイレギュラーズは、料理の腕前があるもの達ばかりだ。
 エルスティーネは先行きを想像して少し嬉しそうな表情をする。
「食材にする為の討伐はあまりした事ないから力加減が難しいけれど……私も出来る限りを尽くすわ……!」
「うん! みんなでおいしくたべるぞー!」
 少女達は意気揚々と士気が上がったところだが、なだらかな砂の丘を超えたところでいくらか呆然としたものに変わった。
 蟹がいたからである。もちろん、手のひらサイズといったものではない。話に聞いていた通り十メートル級……例えればシャチかクジラほどもあるか。彼女達の小躯など軽々一飲みに出来るサイズ。加えて、甲殻類というのは昆虫に近しいものもあって。こうデカいと遭遇する分にはギョッとするものがある。
 やはり食材である前に巨大生物で、モンスターなのだ。仲間達が武器を一様に構えるのを見て、少し悩ましげにする愛無。
「……だが、なぜ人間の文化圏では概ね甲殻類は不遇な扱いなのだろうか。解せん」
 これはこれでわりと愛着が湧く姿形をしていると思うのだが。そう不思議そうに思うのであった。

●手腕
 誰よりも先手で動いたのは『楽しく殴り合い』ヒィロ=エヒト(p3p002503)であろうか。
「おぉーでっかい……食べ甲斐ありそう!」
 そう陽気に言う彼女であるが――速い。実戦経験のある他のイレギュラーズ達でさえも、目を見張るほどだ。彼女は、即座に狐火を複数体召喚し、蟹の巨躯へ連打するように叩きつけた。
 ――相手は脚の関節部に上手く響いたようで、開幕機動力に支障が出た様子である。
「狙い通り!」
「ぶはは! やるじゃねぇか嬢ちゃん。相手に動き回られなけりゃ、俺らもやりやすいってもんだ!」
 それに続いてゴリョウが身を乗り出すように蟹の目の前に躍り出て、威嚇するように声を唸らせた。力強く響く声。それに反応したのか、蟹は目の前のゴリョウめがけて大腕を振り回す。予測しきっていたゴリョウはソレを武器で防いだのだが――。
「――ッ! こ、こりゃ見かけ倒しでもねぇみてぇだな」
 上手く防ぎ切ったというのに、ゴリョウの太い腕がミシミシと音を立てて悲鳴をあげた。マトモに食らいたくはないが、後衛が狙われると運が悪ければ一撃で意識を持っていかれかねない。「楽は出来ねぇな」とゴリョウは苦い顔をする。
「つらくなったら、わたしもいけるよ!」
「危なくなったら代わりますゆえ」
 防御術を詠唱しながら機を窺うルアナと、ゴリョウの具合を様子見しつつ相手の甲殻に刃を叩きつける雪之丞。
「おう、信じてるぜ。っつっても……」
 二撃マトモに食らった目の前の蟹は、倒れる様子は全く無い。動きをいくらか阻害する事に成功しているのは救いだが……。
「長期戦は覚悟の上ゆえに」
 愛無は全身の粘膜をバッと蛇の形に変形させて、また相手の懐に飛び込んだ。纏わり付くようにして装甲の薄い部分を食いつき、薄殻ごと肉を破る。
「うむ、悪くない」
 相手の体力も無尽蔵というわけではなさそうな感触を掴み、そう述べる愛無。あぁしかし、いつもの様に毒や出血の類いといった絡め手を使えないのは中々面倒な相手だ。
「悪くないが、この味を台無しにしてはいかんな」
「あぁ、ちくしょう!! その通りだッ!」
 食材として確保する事も視野に入れてる以上、その類の使用はイレギュラーズ側は控えている。
 再度、ゴリョウに向けてその巨腕が振り上げられ、二度、三度、立て続けに叩きつけるように殴りつけられた。
 鈍い音が響く。ゴリョウは歯を食いしばる。これは、まずい当たり方をした。
「ちぃ!」
 危険を悟ったゴリョウは即座に雪之丞と位置を入れ替わる。今の様に連打される事は、雪之丞にとってもあまり宜しくない。宜しくないが……獲物を逃がすのはもっと宜しくない。
「私達を倒して、逃げ切れるなどと思わぬ事です。そんな良い匂いをしているのに」
 何処か涼しげな表情で、雪之丞は相手をまっすぐ歩み出た。

「ひえー……あんまり当たりたくないなぁ」
 至近距離の仲間が倒されかけただけに、戦々恐々とするヒィロ。自分も護衛に入るべきであろうか。特に仲良しの知人がやられるのは。
「何にせよ、まずは倒さないと。でしょう?」
 彼女の心境を知ってか知らずか、淡々と言う『魔眼の前に敵はなし』美咲・マクスウェル(p3p005192)。そのまま蟹に向けてライトニングを撃ち放った。
「それに、こういう手合いだったら私たちの得意分野よ」
 相手はその魔術で感電したのか、いくらか動作が鈍った。その仲間の会話や戦術を洞察するエルスティーネ。
「そういう風に仕留める算段ね。だったら……」
 相手の脚元を牽制するように、手元の武器を大きく振るう。ガリガリと嫌な音を立てて甲殻が刃を弾く。大したダメージは与えられないが、その狙いは別にある。
 後列に控えていたグレイシアも、その仲間達と同じようにタイミングを伺っていた。
「長々痛めつけるというのは道理ではない。そうだろう?」
 彼はそう言いながら死霊弓をゆっくりと構えて、小さな勇者にそう問いかける。ぐっと頷き、一気に踏み込むルアナ。
「れじすとくらーっしゅ!!」
 ならばせめて苦しまないように。そう頭で考えながら相手のハサミを打ち上げるように殴打する。
 瞬間、相手は防御の姿勢を大きく崩した。そこを狙い澄ましたように。グレイシアの矢が片腕の関節を貫き、その一本を千切り飛ばす。手応えあった。だが、まだ足りん。
 蟹はあまりに動きを阻害され続けた事にたじろぎ、一旦距離を取るべきか逡巡する。
「絶好のちゃんす!!」
 相手の隙を逃さず、ヒィロが即座にブルーコメット・TSを撃ち放った。蟹は残った巨腕で必死にそれを防ぐ。そのまま立ち塞がっていた雪之丞を挽き潰そうと巨体を動かし始めた。
 しかしヒィロの合図を受けていた美咲が、それよりも先に大技を叩き込むべく構えを取っている。
「美咲さん!」
「えぇ、おかげでとても狙いやすいわ」
 片腕がもげ落ちて、全く無防備になっていた側面を狙い撃つようにして魔術の弾丸を放つ。その弾丸の威力は絶大で、足間接の纏めて吹き飛ばす形で穿たれた。
 イレギュラーズに向かって突進して始めていた蟹は体勢を崩し、倒れ込む。勢いそのままずるずると砂上を滑り、やがて不動の雪之丞の寸前で止まった。立ち上がれず、身動きが取れない蟹は残った足だけでもがいている。
「大当たりだけど、もう一発は必要なさそうね」

●どれにする?
 そうして、形勢が決まったイレギュラーズは一気に解体作業に取りかかった。
 ひっくり返されて死に体の蟹を見て、少し複雑そうな表情をするルアナ。
「苦しませたくないなら早々に仕留める事だ。味も落ちん」
 愛無は作業をしながら淡々とそう言う。落ち込んだ仲間の様子に少し思案してから、再び付け加えるように口を開いた。
「命の重みが金の重みとはいうが、どちらも感謝して頂く。それが人間というものだろう」
 残すところなく食べるのが供養と言ったルアナ。……物思いに静かに手を合わせる。そうして、思いっきり叫んだ。
「おなかすいた! ちょびっとでもいいから何か食べたいよー!」
 同時に「ぐぎゅるるる」と、彼女の腹が鳴った。

 調理作業の準備をしつつ、その光景を遠目に見守っていたグレイシア。
「相変わらず若いのは元気があるな。……それにしても、そちらは大丈夫かね? 怪我したばかりだろう」
「ぶはは! なぁに、これくらいいつもの事さ。それにあいつらに料理振る舞ってやった方がいいだろう!」
 やたらそわそわしているルアナ……と。エルスティーネを指さしてからゴリョウはそう言った。彼女達それぞれ理由が違うのだが、拒絶する理由もない。静かに同意するグレイシアである。

 さて、いかに調理したものか。料理の知識があるもの同士はそれぞれ案を出し合った。
「拠点に戻って鍋料理などはどうだろう。幸い、水やコンロは持って来ている。甲羅を使った料理も乙だ」
 まずは硬派な意見を述べるグレイシア。ローレットに戻れば寒い時期だ。香辛料の利いた体を煮込んで出汁を取ったり、甲羅の上から火で炙った香ばしい匂いの身を頂くというのは想像するだけで中々良い。
「素材のままの味。刺身などはいかがだろうか。この場で食うのなら悪くないゆえ」
 腕を組んでそう語る愛無。……というより、先の味見で個人的に気に入ったようだ。元々調理するといった必要性が薄い種族の彼(女)らしい。
「蟹料理は本で調べてきたわ。カニ鍋の他にも拠点とかで作るならカニクリームコロッケ? とか、かに玉? と言うものが作れそうかしら? 材料があれば試しましょ!」
 何処かキラキラとした表情でいうエルスティーネ。やたら新品の料理本を大事そうに抱えている。実際、一部の仲間が気を利かせてそれらの材料も持って来ているのであるが……。
 見事にバラバラだ。これはどれを採用したものか。先んじて軽くつまめるものを振る舞う為に調理を始めていたゴリョウが、それを面白おかしそうに快活に笑った。
「ぶはは、じゃあ依頼人の傭兵も巻き込んで蟹パーティーといこうじゃねぇか! どうせ俺達じゃ食べきれねぇほどあるんだ!」
「お野菜、ある。おこめ。ある。かに。ある。こっそりとほにくも、はる、はまほもはるほ!(こっそりとおにくもある、ある、たまごもあるよ!)」
 脚一本丸々使い、バターで揚げ焼きをもぐもぐと食んでいるルアナ。バターのコク、蟹の旨味、香辛料の風味。えらく気に入ったらしく、腹も減っていた事も併せて当初の予定通り美味しくいただけている。
 ……確かに。食材としては十二分な量がある。別々に作ったとしても、とてもではないがイレギュラーズだけで処理しきれるかどうか怪しい。贅沢な悲鳴である。
 成る程と、落ち着いた風に頷くグレイシア。
「仕留めておいて大量に腐らせるのは道理に反する。吾輩も他の調理を拝見したい」
「そう、ね。蟹を台無しにしたらもったいないし……傭兵さん達にも振る舞ってあげましょう。うん!」
 その意見に大きく頷くエルスティーネ。蟹を食べつつ、その様子を微笑ましく眺めるルアナ。
「エルスティーネさんすっごく嬉しそう。あの人もかにさんが大好きなんだねー」
 少し違う気もするが。仲間達はそう思いつつも、何も言わないでおいた。

●宴
「美味しい蟹お腹いっぱい食べられて、報酬もらえて、人助けにもなるなんて……こんな夢の食材、毎日でも出現してくれればいいのにね!」
 報酬が詰まった袋をざくざくと鳴らしながら、にんまりとした顔をするヒィロ。
 イレギュラーズ達は依頼人がいる駐屯所に向かい、そして傭兵達に大荷物を持って来た事に驚かれた。それと同時に歓迎され、報酬の受け渡しと共に快く迎え入れられた。
「おぉ、いいぞー!」
「甲羅酒とやらもやってくれ!!」
 今はイレギュラーズの調理担当が各々、傭兵の目の前で料理を実演している最中だ。
「毎日でも出て欲しい? それは商人さんらが泣いちゃうから、月一くらいにしてあげてね?」
 少々呆れ顔の美咲だが、こういう光景が見られるなら巨大な獲物を狩るのは悪くない。
 さて、イレギュラーズ達として気がかりなのはとある仲間の調理である。
「……落ち着いて。慎重に、慎重に……」
 真剣な眼差しで、蟹の身を揚げ易いように切り分けているエルスティーネ。
「あの嬢ちゃん。一生懸命作ってくれてんなぁ」
「違うギルドの傭兵の為にあんな風にとは、ありがてぇな……」
 いやそれは違う。愛無は内心そう思った。正直なところ、エルスティーネとしては赤犬のディルクに手料理を振る舞いたいのだろう。ディルクは傭兵を志すの少年少女の憧れであると共に、エルスティーネが憧憬を抱いている相手でもあるのだ。
 しかし、それだけに緊張するのだろう。調理する手が震えている。まずいなぁ、と愛無は難しい顔をした。あぁいう女心はあまり分からないが、少なくとも安易に手伝いを申し出たらいけない気がする。
「ぶはは、なんだ。砂漠歩いた疲れが出て手が震えてるじゃねぇか」
 周囲に聞こえるよく通る声で、ゴリョウがそんな風にエルスティーネへ話しかけた。
 疲れてなんてないわ、と彼女が咄嗟に言い返そうとしたところだが、ゴリョウは矢継ぎ早に大声で言う。
「ぶはははっ、俺がやるのはあくまで補助だ。っつー事で、細けぇとこは手伝うぜ!」
「お、なんだ。オークの旦那が手伝うなら俺達も手伝うぞ」
「油を運んでくりゃいいのか? あとで俺達にも食わせてくれ!」
 蟹料理をやってくれるという事もあって、やらせるだけなのは悪いとあれやこれや傭兵達が集まってくる。ラサ傭兵達の手前、「自分だけでやる」とはエルスティーネは到底言い返せなかった。なれば、流れに乗って自然に振る舞うだけだ。あくまで落ち着いた振る舞いをしようと、咳払いを一つ。
「……あぁ、えぇっと……そうね。もちろん皆さんにもご馳走するわ。それに……ディルク様も、お忙しそうだし……そう、居たら……ええ、居たら……ほら、あの方が一番お疲れでしょう? 食事も美味しいものを……」
 エルスティーネのシドロモドロとしたのを見て、微笑ましそうな表情になる傭兵達。

「彼らも人が良いのか悪いのか。どう思うかね?」
「……砂漠に生きる者は、家族のようなものゆえに。それにあぁいうのが人間というものだろう」
 人間達、もとい砂漠の傭兵達のいささか豪快なやり取りを多少苦笑いしながら眺めるグレイシアと愛無であった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れ様でした。
 お土産ちゃんと持って帰ってもらってショウさんもご満悦。

PAGETOPPAGEBOTTOM