シナリオ詳細
<Sandman>いざ往かん、我らが楽園へ
オープニング
●さあ往こう、より多くと共に
「あっ、タムジさんいらっしゃい! 今日は何のご用で……ぎゃあ!?」
タムジとは、この闇市を牛耳る商人の名だ。その要人が現れたと思った次の瞬間、出迎えた商人は頭を棍棒のようなもの殴られ、その頭は砕けひしゃげて、売り物のカーペットを赤く汚した。
「……成る程、これが救い、か」
死こそが唯一の救い、という楽園の教えは、彼の価値観にあまりにも馴染む。たった今殺したのも得意先の取り引き相手だったが、罪の意識はいっさい無い。
言うまでもなく、これは救いだ。
死こそ救いならば自分だけでなく、より多くを救おう。
ところで、タムジは多少だが頭の回る男だ。もし彼が冷静な状態だったなら、ここまで極端な思考には行きつかなかった。
果たして、彼を歪めたのは一体「誰」で「何」なのか?
それを問う間もなく、ある闇市での惨劇が幕を開ける。
●救われる(くるう)前の私は
あらゆる利害や思惑、何より悪意が行き交うこの世界に生まれては、心休まる時などとても無く。
生きる為なら何でもやったさ。多くの人間から数えきれないほどの金銭、命、或いは人生そのものを奪っては壊し、奪っては壊し。看過出来ないルール違反も多分にあったが、いちいち覚えていられる訳も無い。
使い捨ての傭兵から怪しげな物売りまで、何でも我武者羅にやってきたお陰か。いつの間にやら、私の手元にはそれなりの価値ある品や奴隷があった。このまま隠居しても、手元の蓄えと偶の売り買いだけで充分にやっていけるだろう。
もう充分か。私はもう疲れた。身を隠して何処かで静かに、怠惰に暮らそうと思っていたのだが……その時だった。
『このままいきるのですか』
何処からか……いや、耳の奥から直接流し込まれているような、声が聞こえたのだ。
おりしもラサでは、ザントマン派とディルグ派に分かれて何やかんやしている所で。私も一応ザントマン派だが、深く関わるような立ち位置でもない。
『このままぶざまにいきて、ぶざまに、むいみにしぬのですか』
それでも良い、とは思う。何しろもう、私は疲れた。もし早くにくたばるような事があれば、それはむしろ本望だ。
『おくるしいのですね。だいじょうぶ、わたしなら、そのくるしみからすくってさしあげられます。そのねがいを、とてもよいかたちでかなえてさしあげることもできます』
どういう訳か、その声は私の思考を完全に読み、私を救うと言ったのだ。
「……どうすればいい?」
私はほんの気まぐれで、或いは一縷の望みを懸けてだろうか、正体不明の声に耳を傾けた。
それが私の、非常に大きな転機となったのだ――
・・・・・・
●楽園と原罪が呼ぶ
「溺れる者は藁をも掴む……だったっけ?」
いよいよ黒幕を追い詰めようかという時に――ある程度予想はできたものの――第三勢力の介入があったとの報を、ショウが持ち込んできた。
「楽園の東側連中でそこそこ有力な商人のひとりが、手下と一緒に暴徒化して、自分の縄張り……闇市を襲って回ってるんだ」
楽園が先か原罪が先か。ともかく、闇市への被害が出ている事は確実だ。
「商人の名前はタムジで、一応はザントマン派だね。あとは護衛の傭兵と、どさくさで闇市から連れてきた幻想種の奴隷が5人ずつぐらい……かな。呼び声で狂ったか楽園の教えとやらか、はたまた両方……? とにかく手当たり次第に殺しまくってて……まったく、酷い有様だったよ」
ラサ全体を揺るがす大激突に、周りで蠢く無数の思惑。イレギュラーズ達のすべき事は多岐に渡るが、このオーダー自体は比較的シンプルだ。
「タムジ一派をどうにかして、闇市での暴動を止めてきて。奴隷の幻想種も連れてるんだけど、その子達も出来る限り助けて欲しい」
信じた者が救われるかは分からないけど、君達には「可能性」がある。
気を付けて行ってきて――と言い残し、ショウは再び偵察へ向かった。
- <Sandman>いざ往かん、我らが楽園へ完了
- GM名白夜ゆう
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年10月10日 21時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●何に祈り、何を信じ、何に縋る?
夜を照らすランプと、変わらぬ月が惨劇の闇市を照らす。
静まり返った市場の中をふわり、小さな兎が駆けて跳ぶ。
『孤兎』コゼット(p3p002755)がいち早く惨劇の原因、狂信者の集団に接近し、跳挑発止と戦いを挑んだ。
(さらわれて、奴隷になって、あやつられて……)
おかしくなった連中はどうでもいいが、その傍ら、操られる奴隷の幻想種たちは彼女の過去と同じ――まではいかなくとも、幾らか重なる部分がある。救いたい一心で、兎は跳ねる。
「こんな子兎いっぴき殺せないで、楽園になんか、行けるとおもってるの?」
「何だと……? 貴様も同じだ、『救ってやる』!」
挑発に引かれた者が集まってくる。後続が接敵する頃には、かなり多くの傭兵や奴隷がコゼットの側に向かっており、タムジへの道はかなり拓けていた。
「ったく、いい加減にして欲しいもんだ」
その道を駆けるのは『ド根性ヒューマン』銀城 黒羽(p3p000505)。
「何だ、貴様……っ!?」
黒羽が放つ闘気は、怠惰な口調と裏腹に堅い。被害者の奴隷たちとは異なる向きへとタムジを縛った。
「その馬鹿げた教え、ここできっちり絶ってやるぜ」
やれるだけやる。全部救ってやる。ヒーローの決意は今日も堅い。
後方よりタムジに向けて真っ直ぐに、手前の奴隷たちを巻き込んで、淡い光が放たれた。
喰らっても痛みは無く、ただ力だけが抜けていく。不可思議な感覚に、タムジは勿論、奴隷たちも困惑の色を示した。
女神エウメニデスの力を以って放つ『ピオニー・パープルの魔女』リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)オリジナルの魔術だ。
「楽園ではないけど、わたし達ローレットが助けにきたわ! もう安心よ!」
立て続けに起こる事件の所為で、魔術の勉強も碌に出来やしない。リーゼロッテは毒づきながらも「あの子達の家族」の事を思う。彼らの為にも、完璧にオーダーをこなして見せよう。宝石を散りばめた羽根ペンで、空間に鮮やかな術式を描き出す。
「……!」
楽園は向こうにあった。首輪の呪縛で発声もままならない幻想種たちの表情に、希望の色が浮かぶ。
「ほざけ! 救いは『楽園』、『死』以外にあり得ん!」
「うるせー!」
魔女の言葉を強く否定したタムジに、小さな風にして『帰ってきた牙』新道 風牙(p3p005012)が素早く迫る。しかしあと一歩、前衛の奴隷が障害となり、タムジの至近には至らず。
(この人達は巻き込まれただけだ。とにかく、アイツさえ斬れれば!)
少し離れたタムジに向けて、年季の入った長剣を思い切り振るった。
「死が救済だって? ふざけんな!」
飛翔する斬撃と言葉が、タムジのもとに至る。
「なら真っ先に、自分の首でも刎ねてろ! 生きたい人の道を阻むな!」
「……成る程。確かに正論――良い目をしているな、少年。実に真っ直ぐな……嗚呼、君は幸せに育ったと見える」
タムジの目が風牙を捉える。その目の色と発するオーラは、ただひたすらに昏く重い。
「ならば、幸せなままに『救わねば』。これから二度と、苦通を受ける事が無いように」
「ぶっちゃけ吾輩、ザントマンだの、宗教の事だのはよくわからんのであるが……」
「ローガンお兄、お姉……お母……さん? ともかく、救いの形はいっぱいあるよ。人それぞれだし、とやかく言えないって私は思うな」
『聖妹』時裏 結美(p3p006677)を構成する妹の中には、救う、或いは救われる為に死を選んだ者も在り、彼女たちが結美に囁く。
「とりあえず死ぬなら一人でどうぞ、ってとこだよね」
「全くだ。信じる自由は在れど、他人に押し付けるのは愚の骨頂じゃ」
リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)も結美に同意し、タムジへの射線が通る位置より集中後、虚像の弓から灰色の矢を放つ。祈り(しんこう)を打ち消す怠惰な呪いが、狂信者を揺らがせた。
黒羽がタムジを、コゼットが他の多数を引きつけたものの、拘束を逃れた傭兵や奴隷たちが『教えに殉ずるため』止まらず仕掛けてくる。魔力を纏う結美の剣と傭兵の振るう棍棒が、激しい音を立て交差した。
「楽園に行けるように、お祈りぐらいはしてあげるよ」
狂信者共はどうでもいいと言っても、一人でも多く救われる方が良い。これは結美の、そして彼女を形づくる妹たちの祈りだ。
「成程……死こそが救い……そこにだけは同意なのだ」
やり取りを聞いていた『《力(ストレングス)》』ネメアー・レグルス(p3p007382)がうんうんと頷く。しかし彼女が奉ずるのは、楽園と似て非なる神。
「死とはイーゼラー様の救い! 魂をイーゼラー様に捧げる尊きもの!」
女性らしい体つきが、言葉とともに大きく膨れ上がる。
「楽園なんて無い! 死したら、イーゼラー様の元に行くに決まってるのだ!」
膨張した体格と筋肉は精悍な黒羽のそれを超え、メンバーで一番の巨躯を誇る『当たり前の善意を』ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)までに迫る。
その様子を間近で見た傭兵は一瞬怯むが「華々しく散れ」とタムジの鼓舞を受け、斧を持ってネメアーに迫る。タムジを直接狙いたいが、この異教徒が邪魔だ。
「楽園の東側……異教徒の分際でイーゼラー様を愚弄する者達よ」
その罪は万死に値する。遅かれ早かれ全員潰す。ならば、今潰したとて同じ事。
「我が名【《力(ストレングス)》】の名において――」
何という事もなく、ただ純粋な『力』をもって異教徒を殴りつける。その名に恥じぬ一撃が、敵の右腕を破壊した。
「必ず異教徒共を滅殺し、その魂をイーゼラー様に捧げよう!」
向こうの敵と近くの味方、それぞれの狂信者を交互に見やり、ローガンは戸惑いつつも、この状況を捨て置いてはならぬと思う。それは『当たり前の善意』。
「死ぬのも奴隷になるのも狂ってしまうのも、誰も幸せになれないのである!」
彼の目標も同じくタムジ。近くの傭兵がローガンの接近を阻むが、彼は味方後衛を守るべく、壁として立ちはだかる事を選ぶ。
射線自体はまだ通っている。最近使えるようになった銃ならば届く。聖なる大型拳銃に体内の気を集め、タムジに向けて放った。射線上の奴隷をも巻き込み、その中の一人が倒れ伏す。
「ひと足先に『救われた』か。栄誉ある奴隷の娘よ」
タムジが倒れた娘を祝福するも、彼のあらゆる攻撃には善意が宿る。彼女はまだ『楽園』には至っていない。
「何が救いである! 死ぬのも、奴隷になって狂ってしまうのも、誰も幸せになれないのである!」
「……楽園では、すべてが平しく幸せになるのだ。分からぬというなら、貴様も『救って』やるとしよう」
「黙るのである! 今、優しくぶちのめしてやるである! 待っているである!」
ごく当たり前の善意を持って、ローガンは慈悲深い拳に力を込めた。
●今はただ真っ直ぐに疾れ
コゼットはなお独り、タムジから離れた場所へそれ以外を誘う。回避に優れる彼女に並みの攻撃はそう当たらないが、今回は多勢に無勢、孤軍奮闘。相手の数が多すぎる。奴隷の一人が放った魔術を避けきれず、兎はいよいよ昏倒しかけた。
「……! ……!」
彼女を手にかけた奴隷は申し訳なさそうに何かを言いかけるが、兎はそれでも倒れない。
「……だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。あなたの、せいじゃないから」
きっと助ける。可能性を使い、可能性に懸けて、可能性を信じて。孤独な兎は再び「はねる」。
「大分しぶといが……これならどうだ?」
タムジが黒羽に刃を振るう。タムジの目には今「倒せない」黒羽以外が映らない。黒羽は強打に屈するも、傷はそのままに立ち上がる。
「……死は誰も救わねぇ。死が寄越すのは、楽園でもなければ地獄ですらねぇ」
「分かった風な口をきく。貴様は、確かめた事があるというのか」
楽園の教えと真逆の言葉。幾度叩き伏せても立ち上がってくる邪魔者。じわじわと、タムジの中に苛立ちが募る。
「人を殺しといて救いだ救われたいだ……笑わせんな。全然道理が通ってねえ」
だからこそ生きろ、と。真正面から言い放つ。男にとって生きる事は苦痛でしかないが、それでも、承知の上でなお。
「その度し難さ――何としても『救って』やらねばな!」
タムジと組み合っていた黒羽のもとにひとつ、小さな風が吹く。風はその速度を増しながら、全体重を乗せてタムジに「楔」を打ち込んだ。
「お待たせ、銀城さん! オレもやるよ!」
「ああ、助かる! ……コゼットも心配だしな」
楔を受けたタムジはよろめきながら、飛んできた風牙に対してゆっくりと獲物を構える。
「……舐められたものだな、少年。そう簡単に私を『救える』と思うか」
「ああ、やってやるさ! それがオレの使命だから!」
みんなの命と平穏は必ず守る。守って見せる。小さな牙の決意は、どこまでも真っ直ぐに――
「――え?」
何の前触れもなく、黒羽と風牙の視界からタムジの姿が消え。
「ぐ……っ!」
音もなく至近に迫ったタムジの刃が、風牙の懐に食い込んだ。毒に闇討ち、汚い彼の生き方そのもの。風牙は呻き声を漏らし、可能性の欠片を幾らか落とす。
「愚かな……ここで救われておけば、もう苦しまずに済むものを」
「バカ言うな……っ! こんなの、救いなもんかっ!」
風牙たちは踏み留まる事を選び、対するタムジは終わりを望む。それぞれが歩んできた路については、勿論お互い知る由もなく。ただ譲れないと、ぶつかり合うのみ。
「死後の世界に楽園なんてないじゃろ、あるのは無ではないか?」
「同感。……わ、タムジの目が怖くなってきたわね。何食べてるのかしら」
後方で魔術を編んでいたリーゼロッテと、集中して狙いを定めていたリアナルが呟く。他の傭兵たちや、自由を奪われた奴隷の顔つきも険しい。
「……特に操られてる子は、なるべく安心させないとね」
術式はほどなく出来上がる。魔法陣から慈愛神の腕が伸び、すべてを無差別に抱き込みながらタムジへと迫り、その体力を再び奪った。
続けてリアナルの準備が整い、限界まで研ぎ澄まされた全力の矢が放たれる。静かながらも、離れても感じる確かな手応え。必殺の一矢は、タムジに浅くない傷を負わせた。
少し離れた場所で、奴隷の一人がローガンに向け幻惑の炎を放つ。しかし彼に絡め手はそう効かず、傷を負わせるに留まる。コゼットの挑発が多くを捉え、マークが外れた今が好機。ローガンはタムジに向けて走り出し、気力を込めて殴りつけた。
「貴様……!?」
殺意が無く、慈愛すら感じる一撃にタムジは面食らう。
「悪い奴だとは思うが、別に殺すほどの恨みは、吾輩にはないである」
「殺さず生かして、苦しみを長引かせようと……なんと残酷な」
戸惑ったタムジに向かい、進路上の傭兵ごと巻き込みながら、魔力の砲撃が迫りくる。戦場を行き来して的確な治療や支援を行っていた結美が、今が機と放つ必殺の一撃。
「おかしくなったら戻りそうにないし、個人的には、死んだ方がいいと思うんだよね」
狂気から戻って来られなかった妹の欠片が、そう囁いたのだ。
邪魔な傭兵を文字通り粉砕したネメアーもタムジへ迫り、これで詰めかというところ。
タムジが懐から小瓶を取り出し、ぱちり、と蓋を開けた瞬間。勢いよく毒の霧が噴き出して、手下の傭兵ごと冒険者たちに襲い掛かった。
呼吸を詰まらせ咳込みながら、ローガンが状況を確認する。
不意打ちの毒は広範囲に被害をもたらしたが、コゼットや黒羽の誘導が功を奏し、奴隷の中で巻き込まれた者は一人も居ない。
「良かった……のである」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんたち。私に任せて」
無数の妹たちの祈りが、前衛が受けた毒と傷を同時に癒した。あまり連打は出来ない大技だが、そろそろ「来る」と見た結美は、いつでも使えるよう備えていた。
「感謝なのだ! これで異教徒を思い切りぶん殴れるのだ!」
イーゼラーの徒として、異教徒の息の根は何としても止めねば。ネメアーは強い決意のもと、タムジへとシンプルな暴力を放つ。受け止めたタムジの獲物がぐにゃりと歪み、攻撃の重さが獲物越しに伝わる。
ここで押し切れ。風牙が痛む身体を押し、剣を両手でしっかりと構え、真っ直ぐにタムジへと踏み込む。
「もっかい言うけど」
守護の誓いを込め振り下ろす剣が、タムジを捉え。
「アンタの言う所に、救済なんてある訳ない!」
これで「救い」かと思われたが――
「リーゼロッテ! 頼んだ!」
「ええ、頼まれたわ!」
羽根ペンで描き出すのは、今までと違う魔法陣。同じ女神の別の側面、厳しさを伴った白き雷が生じ、タムジを激しく撃った。
「――罪に罰を。罰に愛を」
タムジは倒れて動かなくなるが、慈愛の女神による裁きは、安直な『救い』を赦さない。
●兎は月見て「はねる」
「コゼットさん!」
独り戦うコゼットのもと、タムジを倒したその足で風牙が駆け付け、その背を守るように剣を構えた。
「……だいじょうぶ。ひとりぼっちは、慣れっこだから」
ずっと一人で多勢を引き受け続けた彼女は、言葉とは裏腹、状況相応に傷が深い。
「ひとり、じゃないだろ! オレ達も頼ってくれよ」
「……うん。そうだね。商人の人を、やれたなら……」
「残りは雑魚と奴隷の子だけだよ。お姉ちゃん」
結美がコゼットの傷を癒す。彼女がここまで立っていられたのは、結美の支援があってこそ。
本当にひとりぼっちだった日は、もうだいぶ遠いか。ありがとうと礼を述べ、月の兎はもう一度、月に向かって高く跳ぶ。タムジを下してなお、残党は教えを信じ向かってくる。
「ちょっと痛いけど、しばらく眠ってて」
敵全体のコントロールが効いているなら、攻撃に回って早く場を収めよう。戦場をはね、目の前の傭兵をはね。跳挑発止の戦いも、あともう少し。
「散るのは好きにすれば良いけど、幻想種の子とか街の人を巻き込むのは止めなさいなのよ!」
リーゼロッテは己の血を鞭と変え、少し離れた傭兵を撃つ。縛ろうが傷つけようが、彼らは一向に止まらない。
そういえば戦場の只中に一人、倒れたままの奴隷が居る。巻き込まれては大変だ。
「これだから現在の呼び声と宗教ってやつは! できれば一生関わりたくないやつだったわっ」
リーゼロッテは変わらず毒づきながらも、倒れた被害者の保護に向かった。
「我が筋肉を見よ! この筋肉もイーゼラー様の教えの賜物! この筋肉に包まれて、イーゼラー様の元に逝くがいい!」
残りの邪教徒を殲滅すべく、ネメアーがその筋肉を振るう。リーゼロッテの働きもあって、犠牲者を巻き込む心配も無い。
邪教に染まった時点で同罪。一片の許しなく死を与えんと、闘気の刃を放つ。闘気だけで傷を与える其れは、狂信の賜物だ。
邪教徒をまた一人下したネメアーはふと、殺せなかったタムジを気にかける。
(あれだけの攻撃を受けて生き残った、という事は……イーゼラー様が、こいつをお認めになったのか?)
何より尊ぶ教えの中には、そういった一説もある。ならば後で正しい道を説いてやろう。そんな事を考えながら、最後まで闘気と狂気を振るい続けた。
奴隷は既にあと一人。首輪の呪縛は健在。傷つきながら向かってくる彼女に対し、リアナルはすっと弓を構えた。
「操られてるのに同情はするが、それはそれとして容赦はせんよ?」
放つは慈悲なき灰色の一矢。奴隷はその一撃で倒れたが、息はある。
これの呪いは怠惰なものだ。信徒でない者を殺すのは、後味が悪い。
「信徒連中はまだ居るか……まったく、こんなのが居るから碌な世界にならないんじゃ」
故に、殺す時には是非とも苦痛を。残り僅かとなった傭兵に向け、再び弓を引き絞る。
「――たたっ斬る!」
最後の傭兵に対し、余力の限り風牙が攻め立て瀕死に追い込む。あと一歩。しかし追い打ちはせず、後に続くローガンに譲る。
「うむ。では、優しくお仕置きするのである!」
慈悲を込めた拳をもって、最後の一人を昏倒させた。
●俺なりに救う
「これで、首輪、こわしやすい、ね」
「ええ。結構頑丈だから、そのまま壊すのはちょっと怖いし」
リーゼロッテが魔術で被害者たちを優しい眠りへ落とし、コゼットと共に拘束の首輪を壊していく。壊した首輪の数は5つ。
さてと傍らを見れば、拘束された楽園の信徒たちと、その横で何やら喚き散らして――祈っているのか、味方の狂信者の姿と、傷だらけのヒーローの姿が見えた。
黒羽がタムジや信徒に近づき、目線を合わせて語り始める。
「人を救えるのは人の心だけなんだ。人だからこそ幸せを感じ苦しみを感じる。人だからこそ人の幸せを願い、手を差し伸べるんじゃねぇか」
「……何も知らぬその口で」
「ああ。俺はお前じゃねえから、細かい事は分かんねえが……」
黒羽がタムジに触れる。その瞬間、タムジの苦痛がすっと和らぐ。
「一体……何を!?」
黒羽のギフトは癒しではなく、あくまで『肩代わり』でしかない。それを感じたタムジが、驚きに目を見開く。
「こうやって、分かち合う事ぐらいは出来る。それが人、ってもんだろ?」
その後も彼は信徒たちの間を周り、すべての苦痛を肩代わりしていく。苦難は上等、それが彼の在り方だ。
生きている限り、死してもなお、救いの在処は分からない。
だから人は身を寄せ合い、手を取り合う。楽園はきっと、其処にあるのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
ご参加、誠にありがとうございました。
大毒霧ぶわぁー! といった感じで考えてたのですが、怒りでの位置取り分担がお見事で、
被害状況はご覧の通りです。実にお見事でした。
思い浮かんだ称号があったので、いくつかお送りします。喜んでいただければ幸いです。
救い出された幻想種は、あなた達にとても感謝しています。
今回はそういった障害もある中、勇気を優しさを持ってまっすぐ当たられた方が多く、
損耗も相応に出ております。特に重傷の方は、どうかお大事になさって下さいませ。
GMコメント
信じる者は救われる……のでしょうか。
初詣と正五九参りは割と欠かさない方の白夜です。
・・・・・・
●目標
1:タムジ一派の鎮圧(※生死不問)
2:幻想種奴隷の可能な限りの救出(努力目標)
●ロケーションなど
タムジが縄張りとしていたある闇市で、時間帯は夜。
いたる所に灯ったランプのおかげで明るく、戦闘に支障はありません。
一般(?)の闇商人も居ましたが、惨劇を見て周囲の全員は逃げたか、
既にタムジ一派に殺されています。
●敵
『タムジ』×1(純種)
迷えるラサの元? 悪徳商人。楽園の教えと原罪の呼び声が合わさり、
相当な狂気に陥っています。本人が振りまく狂気も強いです。
自分以外にもより多くを楽園に送るため、自らの命は勿論、
仲間の命をも顧みない戦い方をしてきます。傭兵上がりで戦闘力はそこそこ。
・大毒霧:物至扇/小ダメージ【毒】【窒息】【弱点】
・インサイドダークネス:物中単/やや大ダメージ【毒】【暗闇】【災厄】【移】
など、物理系や剣技を繰り出してきます。
『タムジ傘下の傭兵』×5(全員獣種)
元からタムジに雇われて護衛をしてきた者達です。全員が物理前衛から中衛。
タムジからの狂気と教えに染められきっています。
比較的修羅場慣れしている面子ですが、楽園の教え通り「華々しく戦って散る」為に戦います。
・シールドバッシュ:物至単/中ダメージ
・肉薄戦:物近単/中ダメージ【乱れ】
辺りの、近距離物理系スキルを使ってきます。
『操られる奴隷幻想種』×5
闇市から(より多くを楽園に送るため)タムジが回収した奴隷たちです。
もともとの楽園信者ではありませんが、グリムルートで操られています。
魔法や弓など後衛系の構成をしていますが、タムジの命令次第で前にも出ます。
傘下の傭兵よりも戦闘経験はやや少なく、まったくの未経験レベルも1人居ます。
・魔弾:神中単/小ダメージ
・ファイアフライ:神近単/中ダメージ【火炎】【暗闇】
・キュアイービル:神遠単/BS回復60【治癒】【万能】
・ライトヒール:神遠単/HP小回復【治癒】【万能】
などの神秘スキルを使います。低レベルの者はキュアイービルと魔弾のみ使います。
接触時の初期配置は前衛に傭兵5人と奴隷3人、すぐ後ろに奴隷2人とタムジ、
となっています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
・・・・・・
以上、よろしければご参加くださいませ。
今回もよろしくお願いいたします!
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