PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<DyadiC>ウォーキャット

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ウォークアンドスリープ
「いくら侵略をしたとしても、いくら接収をしたとしても、いくら鹵獲をしたとしても、あたらと人命を奪う行為には賛同をしかねる。そうは思わないかね、諸君?」
 その人物は集結した兵の前、自慢の髭を撫でながらそう言った。
 彼らはイオニアス・フォン・オランジュベネ配下の部隊のひとつである。本体と合流を計るべく、進軍中に立ち寄った村を制圧し、小休止を行っているところだった。
 制圧と言っても、死者を出してはいない。反抗した男衆には何名か重傷を負わせたものの、命に関わる怪我を負わせてはいなかった。その彼らにも、兵らが休憩に入る前に治療処置を行わせている。
 武力を持って要求したものは水と食料だ。イチ部隊を満足させるだけのものとなると、小さな村では経済的な負担は大きい。しかし、暴力に任せて人命を散らし、建物を壊し、女子供を攫っていく野盗の類と比べれば随分寛容と言えた。
 これは全て、兵長マオの支持である。
 マオはペルシャ猫のブルーブラッドであることに加え、成人男性よりも頭3つは上という巨体であるため、非常にずんぐりむっくりとした印象を与える。
 その大きな体の肩と頭に子猫をそれぞれ、計3匹乗せたまま、配下に支持を出していた。
 配下もまた猫である。二足歩行を行い、大人の胸程の身長を持った屈強の兵であった。
 と。
 マオの頭の上で丸まっていた猫が首を上げ、にゃあとひとつ鳴いた。その時だ。
「猫の化け物め、オイラ達の村を返せ!!」
 マオに向かい、叫んだのはまだ幼さ残る少年だった。どこから手に入れたのだろう、自分の身長と変わらない程の長剣を手にしている。
 嗚呼、これは危険だ。少年は剣の重さに体の自由を奪われ、ふらついている。型もなっていない。きっと刃筋も出鱈目だろう。このままでは、周りはおろか、少年自身さえも傷つきかねない。
 向かってくる少年。しかし意志に蹴躓き、転びそうになったところをマオがひょいと持ち上げた。それこそ、猫にするかのように襟をつまんで持ち上げたのだ。
「勇ましいのは良いことだ。将来が楽しみであるな、少年。しかし、今は眠っておれ」
 マオの両肩の猫が身を起こし、少年を見つめ始める。なーおとひと鳴きすれば、少年は意識を失い、剣は地面に転がった。
 後ろから駆け寄ってきた女性――おそらくは彼の姉だろう――に少年を渡すと、部下に指示をして剣を転がった剣を回収させる。
「勇気がある良い弟さんだ。姉君も美しい。ここで散らすなどとてもとても」
 懐から花を出して少年の姉に贈る。子はあやすもの、美しいものは褒めるもの。マオの矜持であった。
 命を奪わずに侵略する。例え相手がまっとうな剣術を修めていないとはいえ、歴然とした実力差がなければそれは不可能だ。
 敵対する相手に配慮すること、余裕を見せること、紳士であること。それらが全て、彼らが強靭な部隊であることを示している。
 彼らがイオニアスの本体に加われば、来たるべき決戦はより危険なものになるだろう。彼らは小休止を終えると、再び進軍を開始――しなかった。
「日差しが良い。今日はそれほど暑くもないし、日向で昼寝と洒落込もうか」
 部下の兵たちが歓声をあげる。待ってましたとばかりに茣蓙を敷いて場所取りを始めた。
「あの、い、いいんですか? 追手とか、こないんですか?」
 少年の姉があっけにとられ、マオらが侵略者であることも忘れて問いかけた。彼らに剣呑な気配が感じられず、毒気を抜かれてしまったのだろう。
「ああ、よいよい。合流しようがしまいが、戦うことには代わりないのだ。来るならば来ればいい。強者であればなおのこと良い。我らとて兵。戦狂いの奴原よ。しかし今は、この日向がなんとも心地よい」
 そう言うと、マオは肩と頭の猫と一緒に、丸まって寝息を立て始めた。

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

イオニアス配下の部隊が本体と合流すべく進軍、その行軍中に見つけた村を侵略、制圧しました。
彼らは確かな実力者であり、本体と合流されることは非常に危険です。
これを撃退し、本体との合流を妨げてください。

【エネミーデータ】
■兵長マオ
・非常に大きな猫のブルーブラッド。HPと攻撃力に優れており、近・遠距離の攻撃を使い分けます。
・両肩と頭の猫がマオとは別々に行動します。猫のHPはマオと共有します。
・それぞれの猫は以下の特徴を持ちます。

◇頭の上の猫
・索敵に優れています。
・この猫がいる限り不意打ちは通じず、ブロック・マークには3名以上を必要とします。2名ブロックが可能な場合、それは2名分として計算されます。
・マオのHPが7割以下になると消滅します。
・ミケです。

◇右肩の上の猫
・補助術式に優れています。
・近距離範囲回復。近距離単体封印。猫パンチ(無・魅了・近・単)を気まぐれに使い分けます。猫パンチは出たらレアです。
・マオのHPが5割以下になると消滅します。
・黒で足だけ白です。

◇左肩の上の猫
・補助術式に優れています。
・遠距離単体回復。遠距離呪縛。スーパー猫パンチ(物無・必殺・ブレイク・万能・遠・単)を気まぐれに使い分けます。スーパー猫パンチはシナリオ中1回しか使えません。
・マオのHPが3割以下になると消滅します。
・茶トラです。

■配下の猫兵
・7名います。
・4名が前衛・3名が後衛。
・回復スキル持ちはいません。
・それぞれが2~3依頼をクリアしたイレギュラーズくらいの強さをしています。

【シチュエーションデータ】
・数十人規模の小さな村。
・住人は全員避難しており、被害が出ることはありません。
・昼間です。

  • <DyadiC>ウォーキャット完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月03日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
陰陽丸(p3p007356)
じゃいあんとねこ

リプレイ

●エネミー
 好き好んで兵となり、好き好んで将となるのなら、戦狂いでなければ始まるまい。民を守る。御大層なことだ。主君に忠義を誓う。御大層なことだ。その結果が死地に身を投げ出し、敵の血で己を染めることだと言うのだから、これを真っ当だと誰が言えよう。誰かのために殺し、誰かのために殺される。狂うておるというのなら、声に呼ばれずともとうに我らは狂うている。

 敵兵の侵略にあった、とするには村は異常なほどそのままだった。建物の破損はほとんどなく、道に血痕や死体があるわけでもない。
 ひとつ大きな違いがあるとすれば村人の姿が見えないことだが、これは彼らが殺されたとか拐かされたとかそういうものではなかった。人の気配は感じている。おそらくは、それぞれが自分の家に閉じこもっているのだろう。誰かが安全の為にそうせよと指示を出したのだ。
 狂った兵隊が暴れた後とはとても言えぬ光景に、『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)は首を傾げた。
「呼び声の影響を受けていないようだが……」
「いやいや、受けておるよ?」
 ラダの独り言に返す声があり、慌てて横を向くとそこに大きな猫のブルーブラッドが居た。
「煩うて、ろくに昼寝もできんと困っておる。どうにも寝たりんよ」
「一概に悪いとも言えないんだよな……」
 その場で丸まった彼を見て、ラダは内心戸惑っていた。
「堕ちたイオニアスに従う悪の兵団め、魔種がそんなに怖いのかー! お前らなんかボク達が絶対撃退……あ、あれ? お昼寝中……?」
 想像していたものと違ったのか、静かな寝息を立て始めたブルーブラッドの男に『楽しく殴り合い』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は素っ頓狂な声を上げた。
 肩と頭に猫を乗せた大きなブルーブラッド。彼が兵長マオで間違いはないのだろうが。
「と、とにかく、力ずくででも止めるよ!」
「制圧した村を略奪するでもなく、過度に傷つけないようにしてお昼寝とはのぅ……」
 敵である筈の自分たちを前にして堂々と眠り始めたマオに呆れたような声を出す『ゆるっと狐姫』枢木 華鈴(p3p003336)。
 だがそれは自信の表れでもある。相手を気遣いながら制圧できるだけの実力差がそこにはあったのだ。
 こうして丸まっていると大きな猫にしか見えない。態度も紳士的だと言うのなら、今ここで寝首をかこうとするのは悪手だろうか。
「おねーちゃん、ねこさん……じゃなくて、見た目に惑わされちゃいけないよね。頑張らなきゃね」
 どうやら『ふんわりラプンツェル』桜坂 結乃(p3p004256)はそのもこもこしたマオの姿にかなりやられてしまったらしい。
 確かに直様切った張ったとはいかぬ空気になってしまっている。これを意図して作り上げたのなら恐ろしいものだが。
「うむ、見た目は可愛く紳士的であっても、彼奴らが魔種に加担しておることに間違いはないのじゃ」
「実際に矜持のある戦士で、簡単に剥がれる仮面でなければ、なおよしかな」
 本当に奪うでも殺すでもなく昼寝をしているのだなと、『魔眼の前に敵はなし』美咲・マクスウェル(p3p005192)は感心してみせた。
 戦うのなら後腐れなく、互いに望むものであった方が好ましい。
「絶命させて惜しくないと思える相手って、相対して楽しくはないものね」
「物騒な話だが、我らは戦狂い。わからぬではないなあ」
 寝てんだか、起きているんだか。
「なんだか調子が狂いますわねー」
 狂気に侵され、進軍する逆賊。そのようなイメージとはかけ離れたマオに、『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)も少々困ったような顔をする。
「出会い方が違っていれば、もう少し違った関係もあったでしょうにー」
「いやいや、我らは兵よ。このような戦地でもなければ、君のような美しいお嬢さんと出会うことなどなかんったろうさ」
 いつの間に身を起こしたのか、その手には小さな花が一輪握られていた。
「こいつら、なかなかに漢じゃねぇか……っ!!ミ☆」
 いたずらに民草を傷つけることを良しとしない矜持。そこに感動したのか、『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)はぐっと拳を握りしめて打ち震えていた。
「やぁーってやろうじゃねぇかこのやろー!!!」
「やるのはいいが、もう少し後でも良いだろうか。本当に、この時間は日差しが気持ち良いのだ」
 叫ぶハッピーに、マオは体をほぐすように肩を回し始めている。
「みゃーん!」
 でけえ猫がもう一匹いた。『破壊の猫』陰陽丸(p3p007356)である。彼は思いっきり猫の言葉で話すが、安心してほしい。ここは混沌である。だいたい聞き取れるのだ。
「うなーぉ!(若輩者ですので大した事は出来ませんが、ボクに出来る精一杯の力でお相手致します!)」
 すごい長い意味が込められてるぞ猫語。マスターするの難しそうだぞ猫語。
「それは頼もしい。戦うのなら強く、信念を持った者が良いのだ」

●ウエイカキャット
 それでも気狂いなりに矜持はあるものだ。我ら、民より奪わず。血に塗れるのは兵の仕事だろう。ならば血で汚れるのも兵の役目でなければならない。人を奪うな。彼らは血を流す責務には就いていない。国を奪え。それは兵に課せられた職務である。ほうら、気狂いの理論だろう。

「んんー……」
 大きな猫がストレッチしている。その後ろで小さな猫も何人かストレッチしている。
「もうちょっと待たんと起きてこんのだ」というマオの言葉通り、マオ配下の猫兵らはきっかり一時間後に『伸び』をしながら起きてきた。
「さて、またせたな諸君」
 大きな猫、マオが言う。
「それでは戦を始めよう」
 途端、殺意が膨れ上がった。

●トゥルーマントゥルーマン
 よって我らはこれで良い。我々が我々を兵であるとしたのだ。兵であると決めたのだ。血を流そう。血を流させよう。戦狂いを止めたいか。ならば槍を突き立てれば良い。我らは身の上によって兵にあらず。我らは義務によって兵にあらず。我らは戦に狂うてこそ兵である。戦をしよう。来るが良い。強者であれば尚も良い。

 その銃声は一度にどれだけ聞こえたか、ラダの掃射攻撃が敵兵の体を薙ぎ払っていく。
 毛皮でもっこもこの相手であるのでヒットポイントが判断しづらいが、少なくとも命中はしているようだ。
 頭部は狙わない。狙うときには鉛のそれから、ゴムでできたものへと入れ替える。こうすれば、痛みは激しくとも死ぬことだけはない。
「あたら命を奪うものではないのだろう?」
「お心遣い痛み居るとも。しかし君等ほどの相手となると、我々の方に余裕はないな」
 流石に耳聡い。銃声からこちらの場所を直様把握したのだろう。視線をめぐらせれば、既にマオは目と鼻の先にまで距離を詰めていた。
「いいや、最近猫のようなものを飼い始めたからか、銃口を向けるのに気が重くてね」
「ヒトに向けられれば十二分にこちら側だとも」
 身を翻し、マオの爪を皮一枚の距離で回避する。しかし、回避した先には黒い猫が待っていた。
 避けられないタイミング。浴びせられる攻撃。猫パンチ。
 痛みはまるでないが、ふにっとした感触が彼女の心を揺さぶった。

 剣による横合いからの強襲。
 ヒィロの剣とマオの爪がぶつかり合い、金属同士が擦れ合うような音と火花が散った。
「ボクはヒィロ! 魔種の手から皆を守る者の一人だよ!」
 名乗りを上げる。
 先程までの昼寝姿からは想像もできぬほど、今のマオからは殺意を感じている。鳥肌が立ち、心がざわつく程のそれを受け、ヒィロは強敵との戦いに胸を踊らせていた。
「ボク程度の強さじゃご不満かもだけど、一手お相手願おー!」
「美しいお嬢さんの相手ができるというのに、不満などないさ。改めて、マオという。この部隊を預かる者だ」
 二度三度、巨体ということもあり、ブルーブラッッドから繰り出される攻撃は思いもよらぬ確度からやってくる。
 その度にヒィロは受け、流し、時に掠め、或いは肉を割かれながらも渾身の込めた攻撃を返していく。
 刺突を頬の皮一枚を代償に避け、その腕に沿ってマオ自身へと刃を振り下ろした。
 戦いの高揚が頬を上気させる。
「殴り合いはやっぱりこうでなくっちゃ!」

 小さな槍衾の隙間を流れる水が抜けるように、華鈴の剣は猫兵ひとりの肉を裂いていた。
 今の所、彼らの行動は『戦場における』正々堂々の域を守っている。
 それは正面からぶつかるばかりを良しとするわけではないが、人質など非戦闘員を巻き込む形での選択肢を取っていないということだ。
「魔種の手勢にしては、随分紳士なようじゃが……何故なのかのぅ?」
 攻撃をいなしながら疑問を口にする。戦いのさなかにそれが返ってくるとは思っていない。ただ注意を惹ければ良いという程度のものだ。
 だがそれ以上に、なんだか律儀に応えてくれそうな、そんな空気をマオに感じたのである。
「ただの戦狂いなら、何も堕ちた貴族に付く必要は無いじゃろ」
「自己の判断で戦う側を決めるというのかね。それはもう兵とは呼べぬだろう」
 そして、やはり律儀にもマオは答えを返していた。無論、誰の手も止まってはいない。殺し合いは続いているのだ。
「我らは戦狂い。一個小隊の兵であるのだよ」

「遠くにいるものから狙うのが、吾輩の思う戦いの鉄則だ。本来なら、お嬢さんには花を用意するべきであるがね」
 仲間の傷を癒やしていた結乃であったが、マオに目をつけられたようだ。
 ずんぐりむっくりした身体はもこもこ感が非常に心の何かを掻き立ててくるが、しかし巨体が近づくことはやはり威圧的でもあった。
「貴方たちがむやみに命を奪う事がなかったように、ボクも無駄に命を奪うことは避けたいんだ。だからこの先に進むのは、諦めてくれないかな?」
 適当に事故にでもあって決戦には加われなかったことにすればいいと結乃は提案する。戦い全体に積極的であるならば、こんなところで昼寝などしていない。イオニアスへの忠誠心で動いているのではない筈だ。
「それは出来ん。出来んのだよ。我らは兵。血を流し合うことでしか互いの理を通せぬのだから」
 通したいのならば、血を流すことだとマオは言う。
 だが彼はけして、命のやり取りをしろとは口にしなかった。

 美咲の放つ雷撃が猫兵を貫くと、槍を持った彼はそのまま膝を付き、地面に崩れ落ちた。
 短く息を吐く。これでマオ配下の猫兵に前衛は居なくなった。マオ自身はまだまだ健在だが、彼ひとりで後ろの遠距離攻撃兵を守ることはできないだろう。ようやっと、攻勢に移ることができる。
 兵をなぎ倒した自分をマオが狙ってくる様子はない。仲間の引きつけが効いているのだろう。
 だがそれでも美咲は油断することなく移動を開始した。
 後衛攻撃者は目立つ。そして狙われる。長く同じ場所に突っ立っているような状況は避けなければならない。
「見れば撃てるとはいえ、見てるだけ~とはいかないのが現実よね」
 物陰から物陰へ。移動と距離、立ち位置の確認を繰り返す。敵から狙いづらく、かつ敵を狙いやすい場所へ。
 顔を出すと猫兵が見えた。何かを唱えているように見える。
 それに合わせて術式を展開。彼の呪文が完成し、誰かに狙いを定める前に、横合いから美咲の攻勢術がそれを貫いていた。

 敵の数は確実に減ってきている。だが同時に、こちら側の傷も増えていることをユゥリアリアは感じ取っていた。
 無論、どれだけ治療役を用意したところで無傷で戦闘を終えることなどできるわけがない。そのような蹂躙を許してくれる相手ではない。
 相手の兵が倒れ数を減らしていくように、こちらもひとり、またひとりと膝をついていくのだ。
 最早ユゥリアリアの顔に困惑の表情はなかった。
 日向の暖かさに触れ、のんきにシエスタを決め込んでいた彼らはもういない。彼ら全員が、芯として兵であるのだと理解できていた。
 治癒術式を編み込めば、仲間についた深い爪の痕が消えていく。しかしまた次の傷がその上につくのだろう。
 血を流せと彼らは言う。兵であることを自らに課している。本当に、違った関係はなかったのだろうか。
「ではこうしよう。戦の後にどこかで出会ったなら、それが戦場でないのなら、今度は花束を贈ろうではないか」
 きっとそれは、昼寝が似合う陽だまりの。

「オーライオーライ! やっちゃって下さいなわびゃあああああー!!! お、おーらいおーらい……!」
 持ち前のタフネスを活かし、肉盾ならぬ霊盾として敵のど真ん中に自身を配置するハッピー。
 味方の範囲攻撃に自分を巻き込んでも無問題と提案したのも彼女自身であったが、やはりビビる。そういう攻撃ってだいたいドカーンってなるし、あと普通に痛いし。
 あがる土煙。けほけほと咳き込んで見回せば、それが晴れてきた頃、唐突に目の前に猫が現れた。猫兵ではない。後衛はここまで出てこない。マオでもない。あれはこんなに小さくない。
 それは茶トラの猫だ。茶トラの猫が自分の前で腕をぐるんぐるん回して――やべえ!!
 ハッピーの顔面を貫く超威力の猫パンチ。それはタフネスを通り越し、強制的に戦闘不能を押し付ける大技。
 だがイレギュラーズにはこれがある。未来を消費し、破滅の運命を書き換える手段が。
「いっっっったいなあもうー!!! 悪いけど、その程度じゃ私の意思は折れねぇのだぜ……!」

「にゃーぉ! にゃん!!」
 多分今月公開されたリプレイの中で一番もっふもふしてた戦いがこれだと思う。
 陰陽丸は構えると、威勢の良い名乗りを上げた。
「なるほど、勝負と言われればまた血が騒ぐのも事実である。お相手仕ろう」
 対するマオもまた構えている。
 四足と二足の違いはあるが、どちらも非常に大きな猫であることに変わりはない。緊張感とは裏腹に、とってももふもふしてそうだった。
「なーぉ!」
「なんと!」
 マオ配下の兵はもう居ない。命までは失っていないが、既に戦える状況ではない。残るはマオただひとりであり、実質的に勝負は決していた。
「にゃーん」
「ぐっ……まだまだ!」
 既にマオ自身も満身創痍である。今陰陽丸が放った強烈な一撃も相当堪えている筈だ。
 そのまま陰陽丸は組技へと移行する。絡み合う猫と猫。なんかもう大きい毛玉に見えてくる。それは魅了攻撃を持っていない筈なのに、近づいて触って顔を埋めたい衝動にかられるものだった。

●リザルト
 あとは陽の暖かさを知るものであるなら、何よりの喜びである。

「ぬう、もう動けはせん」
 どさりと、マオが仰向けに寝転がった。
 先程までの殺意が一瞬にして霧散し、昼寝を好んでいた時のそれに戻る。
 この切り替えの速さには困惑させられるが、彼の言う通り、本当に動けはしまい。
 戦いは終わったのだ。
「接収した食料は村に返そう。戦いで壊れた建物は任せておけ。動けるようになれば我々で直しておこう。先を急ぐが良い」
 寝転がったまま手を振るマオ。
 彼らが回復したとして、また村を占拠するようなことは無いだろう。
 彼らは戦狂い。ただの殺しもただの略奪も、興味の内にはないのだから。
 理解の難しい相手だったが、戦う中でそれだけはわかっていた。

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヒィロ=エヒト(p3p002503)[重傷]
瑠璃の刃

あとがき

戦争の猫。

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