PandoraPartyProject

シナリオ詳細

森の中の狂詩曲

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あらたな天義に落ちた滲み
 ベアトリーチェ・ラ・レーテによって引き起こされた、天災とすら呼べる天義の大混乱。
 イレギュラーズと天義中枢との共同作戦によって退けられたその脅威は記憶に新しいが、人々はときにイレギュラーズの助けを借りつつ、復興への道筋をつけ始めていた。
「……魔物ですか?」
 そんな中、ヴィルパン卿の一人息子であるエトワール・ド・ヴィルパンはとある噂を耳にした。
 『天義首都周辺の森に強力な魔物が現れた』。そんな話は枚挙に暇がなく、また、天義中枢の戦力は未だ復旧の途にあるゆえに戦力を割くことは出来ない。
 要は、分かっていても首都に対して脅威とならなければ放置も已む無し、という話である。
「そんな、悪しき者はすぐにでも討伐すべきです! 正義は正しく為されるべきではないのですか?」
「落ち着け、エトワール。そんなことは百も承知だ。だが、我々が些事にかかずらう間に民草になにか良からぬことが起きたらどうする? それを防ぐのがヴィルパンの家の使命ではないのか?」
 焦りの含んだエトワールに、ヴィルパン卿はぴしゃりと言い放つ。息子の気が逸る気持ちは大いに理解できる。彼が『あの』アークライト卿の御曹司と浅からぬ関係にあることを踏まえれば、余計に。
 だが、否、だからこそ彼の英雄志向はここで抑えておかねばならない。選ばれた者とそうでないものとは、明確に役割が異なる……選ばれなかった者達は、より多くの平凡な民草を庇護する義務があるのだ。
 物語の英雄はひとりの姫君は救えても、広く民草を救うための道筋は作れない。
 国の脅威は祓えても、国の者達が食べていける道理を広めることはない。
 『英雄』という願望が抱える歪みは、どの国でも貴族達の在り方とは対局にあって然るべきなのである。
 ――結論から言えば、ヴィルパン卿の現実論は夢見がちな息子には無意味でしかなかった。エトワールは姿を消し、結果としてローレットの『英雄』の名を借りる物語の1頁になろうとしていたのだ。

●故郷を、友を、何度でも
「エトワールは俺の友人だ。そして、これからの天義になくてはならない人間でもある。だからなんとしても、助けたい」
 リゲル=アークライト (p3p000442)は、集まった仲間達に向けて硬い声音でそう告げた。弟分、と呼ばなかったのは彼の優しさだろう。尤も、彼と親交の深い仲間達にとっては周知の事実かもしれないが。
「水くせえなぁ。それくらい、幾らでも手伝ってやるよ」
「そうそう。俺達とリゲルの仲だし?」
 グドルフ・ボイデル (p3p000694)とシラス (p3p004421)は手伝う事が当たり前だ、とばかりに肩を竦めた。多くの戦いを彼と乗り切っただけあって、多少の危険は織り込み済みといった様子である。
「うぅん……森の魔物が狂気に冒されてのならエトワールくんが危ないわねぇ。できるだけ手早く片付けたいところだけど、どんな相手なのかしらぁ」
 アーリア・スピリッツ (p3p004400)が不安げに……というかどこかふわふわした言葉とともに首を傾げた。彼女が素面で浮足立つようなことはないので、概ね酒が入っていると見るのが正しいだろうか。さりとて、その状態でも適当な振る舞いはしないのだが。
「預かった資料通りなら、デカい牡牛タイプの魔獣と、それについてまわる鳥のような魔物ってことになるな。牛なら突っ込んでくるだけだろうから、距離をとって戦えば……」
 ウィリアム・M・アステリズム (p3p001243)のごくごく一般的な提案に、しかしアンナ・シャルロット・ミルフィール (p3p001701)は「ちょっと待って」、と制止を促す。
「この魔物、突進で一気に距離を詰めて来るタイプ……らしいわよ。樹にぶつかる前に走った距離が長いほど、破壊力が増していた、って書いてあるわね」
 つまるところが、全員が距離をとって戦おうとすれば、待っているのは突進による各個撃破であるということか。彼らに限って、そのような戦術は取るまいが。
「鳥の方は嘴が非情に鋭いから、守りを固めてもそれらを容易に貫いてくる……って、牛と合わせてかなり厄介ですね。手分けして倒すか、まとめて倒すつもりでいくか……でしょうか」
 まとめて倒してしまった方がいいのではないか。ユーリエ・シュトラール (p3p001160)はそう言い添え、仲間達の言葉を待った。あれこれと早計に言葉を重ねないことも、彼女の美徳である。
「……道すがら、詳しく詰めよう。今はエトワールの身が心配だ」
 そうだろう? とポテト チップ (p3p000294)はリゲルに促すと、彼は神妙な面持ちで頷く。
 リゲルは彼の弱みを重々承知している。いざ命のやり取りとなれば、足が竦むことも。槍が徹るか怪しい相手とくれば、なおのこと。
「急ごう、今は何より時間が惜しい。エトワールはなんとしても俺達で助ける」

GMコメント

 ご用命ありがとうございます。公開が遅れ申し訳ありません。
 皆さんのデータとかしっかり読み込ませて頂いたので、相応の相手をなんやかんやしてきました。
 最近ゴテゴテしてるなと思ったのでストロングスタイルでいきます。

●注意事項
 リクエストシナリオのリソースは「NORMAL」相当ですが、難易度は「HARD」相当となります。
 成功、失敗何れの場合も基本リソースに変動はありませんのでご了承下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●成功条件
・エトワールの救出
・魔物の殲滅。逃走は容認できない

●エトワール・ド・ヴィルパン
 ヴィルパン卿の御曹司。
 英雄志向が強いが命のやり取りに関して及び腰なところが強い(鉄瓶ぬめぬめGM「森の中の協奏曲」参照)。
 リプレイ開始時点で一撃もらっており、命に別状はないが対処が遅れれば確実に止めをさされてしまう状況。

●マッド・ビル・ブル(プレイングでは『ブル』または『牡牛』で指定可)
 体高2.5m、体長4m(角除く)程度の巨大な牡牛。ブロック・マークは2人以上必要。
 頑丈で鋭い巨大な角を持ち、凶悪なまでの突進力を有する。皮膚は頑丈で防技が高い。
・ランウェイノーディレイ(パッシブ。ターン中の『移』を含む移動距離が長いほど攻撃力が上昇する。毎ターンリセット)
・キングスチャージ(物超単移・万能、弱点、Mアタック中)
・ランペイジ(物至扇・虚無2、飛)
・アイオブペイン(神中単カ・窒息、無)

●マッドバード×5
 ハチドリのような外見の鳥型の魔物。だがサイズはカラス並。常時低空飛行。
・ピアッサーペッカー(物至単・防無、攻勢BS回復、低威力)

●戦場
 天義北部の鬱蒼と茂った森。
 木々により光が遮られ薄暗く、足元は若干湿っているが戦闘に支障はないだろう。

 以上となります。
 正面からがっつりやるのです。

  • 森の中の狂詩曲完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年09月19日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者

リプレイ

●ラプソディ・イン・エピナール
 おかしい話だと、気付くべきだった。
 エトワールは森の奥へ分け入り、乱雑なほどにかき乱された木々と土と岩と、蹄の跡……それと多数の屍を乗り越え、目標を探して駆け回っている時に肌で感じるべきであったと後悔している。
 周囲の荒れ模様、いってしまえば破壊の痕跡の数々は、明らかに人知を超えた代物だった。ただの猛牛やイノシシのたぐいでは到底為し得ない破壊の嵐は、決して実戦経験の浅い貴族の青年が1人で相対すような相手ではないことを理解させる。させたはずだ。
 だが、彼は臆病で経験不足である前に、『英雄に憧れる』青年だったのだ。この森に来た事自体、過去に『ライバル』(彼曰く)と盗賊に立ち向かった時以上の冒険だったのは確かだ。
 それでも彼は前へ進んだ。その一歩は成長でもあったが――悲しいかな、実力を測る懸命さを持ち合わせていなかったのも事実である。
 そして痕跡を辿っていた彼が不幸にも(或いは非常に幸運にも)雄牛と鼻先を突き合わせてしまったのが、イレギュラーズが彼を追う少し前の出来事だ。

「死ぬなよ、エトワール……!」
『リゲルの大切な友達で、この国にとっても大切な人なんだ。急ぎ居場所を探して教えてくれないか?』
 リゲルとポテト、アークライトの家を継ぐ者として伴侶となった両者にとってエトワールは天義にとっても、彼らにとっても欠かせぬ存在となっていた。
 これからの国を支える仲間として、肩を並べる者であるゆえに。
 ポテトは精霊達へと声をかけ、断片的な彼の即席や情報を纏めながら前進する。リゲルは逸る気を抑え彼女や仲間の歩調に合わせる。鬼気迫る表情に反し、彼は実に理性的だったといえよう。
「何だか少し暗くて薄気味悪いですが、ここは私に任せて下さい! エトワールさんの危機に間に合わせます!」
 ユーリエは視界内の熱源をつぶさに観察しつつ、隊列を崩さぬよう真っ直ぐに駆ける。ついたばかりの足跡なら動物の体温が、肉体状態によっては熱や冷気が空間に蟠っていてもおかしくない。視界が狭くなりがちな暗所において、姿形の先入観なく状況を判断できる彼女の視覚は、実に効率的と言えた。
「やれやれ、貴族の坊っちゃまを助けるたあ……マッタク、おれさまも丸くなっちまったぜ。
 ま、リゲルの坊主の頼みだ。此処は一丁、一肌脱いでやるとするか! ま、脱ぐモンなんざねえがなあ。ゲハハハッ!」
 グドルフの言いぶりは皮肉めいているが、その実非常にさっぱりとした考え方ではある。仲間の為なら、相手が誰だろうと助ける。いけ好かない貴族であろうと、彼がよしと言うならいい相手なのだろう。そんな感情さえ見え隠れする。
「リゲルの友人なら、助けない訳にはいかないな」
 それに、とウィリアムは続けた。『エトワール』。異国語で『星』を意味する名を持つ相手を助ける、という行動は、それだけで彼を突き動かす原動力足り得るのである。
「この国は決して『もう助かった』国じゃない。まだまだ『この先』に向かってる。……これからのこの国に必要な彼を、失うわけにはいかないの!」
「お父様やお母様が愛したこの国が変わっていく為には、リゲルさん達の世代が必要よ。だから助ける。アーリアさんに同意するわ」
 アーリアとアンナは、グドルフのやや前を駆けつつ仲間達の見落としがないかをつぶさに観察し、以てエトワールの行動を推測する。彼女ら2人の境遇は――近い、といえば近いのだろうか。
 『かつての天義』が抱える病巣の犠牲となったと言える2人が、魔種を退け、新たな道を歩まんとするこの国を憂い行動するのは当然至極の帰結であろう。尤も、それ以前に『信頼する仲間のため』であることは疑う余地もない。
「話を聞いた感じ、1人で戦える敵じゃない。急がなくちゃ不味いぜ? この辺りの地形もここまで変わっちまってる……」
 シラスは抉れた地面、真っ二つになった木々に視線を向け、ひゅっと引きつるような呼吸を見せた。戦闘経験が豊富な一同であればそれがどれだけの脅威かは語るまでもあるまい。
「大丈夫だ、この先に雄牛とエトワールがいることははっきりしている! ……間に合う!」
「魔物共! こっちへ来い!」
 ポテトと仲間達の探知を頼りに森を駆けたリゲルの視界に飛び込んできたのは、高らかに声を張り上げる雄牛と半ばで槍を折られ倒れるエトワール、彼に今や遅しと飛びかかろうとする凶暴化した鳥の群れ。
 光輝を纏った剣を突き出したリゲルは、鳥達へ火球を叩きつけ、己の元へ引き寄せるべく動く。
 それを追うように最前列へ踊りだしたグドルフとは対象的に、シラスは隊列を崩すことなく手拍子を叩く。……並のそれでは、雄牛まで到底届くことはなかっただろう。
 だがそのリズムは、経験と共に体得したもの。敵意を正しく相手へ届け、確実に自らを見るよう仕向ける音階だ。残像を伴って駆ける彼の姿を視認した雄牛は、狙い通り敵対者をシラスと定め、猛然と駆けてくる。
「盛ってんじゃねえぞ牛野郎! この俺が直ぐに焼肉にしてやるからよ!」
 挑発的に笑う彼は、正面から雄牛へと突っ込み……軽業よろしく、その角を躱す。悔しげにあがった雄牛の雄叫びが、激闘の幕開けとなった。

●パッサカリア・デ・ロコ
「エトワールさんー! 大丈夫ですか!?」
「体力は問題無い筈だ、後方に運ぶぞ!」
 ユーリエとポテトは意識が朦朧とするエトワールの腕を掴み、強引に後方へと引っ張っていく。彼を狙っていた鳥達は既にその目標をリゲルやグドルフに切り替えており、雄牛はシラスが対峙して食い止めている。
 シラスの身のこなしについていける相手など、並の魔物ではまずおるまい。彼は引きつける役、ならその進みを阻む役割は――。
「う……ああ、君達は」
「悔しいだろうけどここは下がって。この場で何が最善なのか、貴方ならわかるでしょう」
 エトワールの前に立ち、堂々たる構えで雄牛を受け止めたアンナこそが、その役割にふさわしい。全身から漂う聖域もかくやと言わんばかりの聖性は、持ち前の頑健さと合わせて雄牛に脅威を感じさせたことだろう。
「分かっ……てますけど、そいつは、人々を!」
「エト!」
 折れた槍を杖代わりに立ち上がったエトワールに、リゲルはよく通る声で動きを制する。びくりとエトワールの背がのびたのは、実力を知る相手の言葉の重み故か。
「強くなりたいなら生きて、皆の戦いを目で学べ! 勇気と蛮勇を履き違えるな!」
「そこの坊主の出番はねえなあ! ローレットの英雄ってヤツがなんなのか、その眼かっぴらいて覚えな、ゲハハハッ!」
 リゲルが鳥達からの猛攻を凌ぐのに合わせ、グドルフは鳥達を斧と刀でもって、ダブルラリアットじみた乱打で弾き飛ばす。飛ばされながらも器用にホバリングを決めた5羽は、彼を新たな敵と見定めて突っ込んでいく。
 グドルフの攻撃精度をして芯をずらして凌いだ個体は引き続きリゲルへ、そうでもない個体はグドルフへ。結果オーライながら、彼らは負担の分散に成功する。
「エトワールくん、私達はブルを観察する余裕がないの! お願い、この戦いを見て――気付いた事を教えて!」
「……、っはい……!」
 アーリアはグドルフへ向かった一体へ黒い手袋を伸ばし、呪いの毒蛇を差し向ける。炎がちらつく身に絡みついた蛇毒はそのまま炎の勢いをいや増し、鳥もろとも炭となって燃え落ちていく……尤も、蛇の姿は地に落ちる前に消えてしまったのだが。
「アーリアは人を素直にさせるのがやはり上手いな。それも酒場で覚えたのか?」
「厭よぉ、ポテトちゃん。私の話術(これ)はもともとよぉ」
 一言でエトワールの自尊心と実直さを正しく引き出したアーリアに、ポテトは感心6割、冗談4割で茶化してみせた。アーリアの表情を見るにまんざらでもないのが、勝手知ったる仲ということか。
「まだまだ元気な鳥がいる、か……あの2人の攻撃を受けてよく生きてられるな」
 ウィリアムはバラけた鳥、その体力が未だ余裕を残している事実に呆れにも似た声を上げ、勢いを殺さず『星の剣』を突き立てた。リゲルとグドルフは決して手を抜いていない。寧ろ、最初から尋常じゃない威力を惜しみなく発揮している。でもなければ、鳥が炎に飲まれることもなかっただろう。
 それでも戦えるなら、無事な個体の体力を削る。当然すぎる判断だ。
「RRRRRRAAHHHHGGG!!!」
 アンナの守りを貫き、尋常の技ではない身のこなしを捉え、雄牛は彼女の胴へと角を『掠めてみせた』。吹き出す血の量は僅かなれど、彼女を傷つけたという事実、それこそが脅威であることは語るべくもない。
「全て華麗に避けてみせる、とまでは行かないわね。厄介だわ……でも、それでいいの」
 傷ついた胴をさするアンナはしかし、傷を負った割に動揺のひとつも見せはしなかった。彼女に攻撃を当てた筈の雄牛が僅かによろめいた事から分かる通り――アンナの真価は、守りの硬さや身のこなしと並んで、『受けてなお相手を傷つける』ことなのだ。
「相変わらず危なっかしい事するぜ、けど……かっこいいな、悔しいけど」
 シラスにしては珍しく(?)、アンナの堂々たる態度に思う所あったのだろう。冷静に、淡々と有利を積み重ね勝つスタイル。道筋は異なれど、目指すものに親しい面影を感じるのは確かである。
 なれば彼は、『今できる戦い方』を積み上げる。雄牛の声も、動きも、仲間の一挙一動さえも遠くに置き去りにする集中力。歩むような自然さで間合いに入り、相手の怒りを喚起するように手を叩く。全身を循環する魔力量が音を立てるが如くすり減っていくが、元より常軌を逸した魔力量を持つ彼だ。並外れた集中力の前ではその程度、気にもなるまい。
「うざってえなあ、クソ鳥が! ふん捕まえて焼鳥にしてやるぜ!」
「グドルフさん! ……このっ!」
 グドルフが苛立たしげに鳥を振り払い、敵意を己に集めたのと、鳥達が集中攻撃の後に彼の元を離れるのとは、ほぼ一瞬の交錯だった。
 ユーリエがそのうちの一体を縛り上げられたのは、彼女の温度感知の腕、そして吸血鬼として、イレギュラーズとしての蓄積があっての反応だったことは疑う余地もない。
 赤黒い鎖は、ギリギリと音を立てて鳥の羽根を千切り飛ばし、締め上げていく。

 飛び回り、仲間達を嘴で貫き、そして更に散開する。
 敵意を集中させて味方の回復を集中させる手法は、対集団戦闘ではオーソドックスな対応だが……鳥達はまるで気にせず攻撃を分散させていく。幸いにして、ユーリエとポテトの治療や各々の底なしにも思える体力故に、さほど重篤な事態へ至ることはなかったが……全ての鳥を討伐するに当たって、その先の読めなさは非常に厄介だ。
「エトが折角足止めしてくれたんだ! お前達を逃がすわけにはいかない!」
 リゲルは手近な鳥の動きに先回りし、絶対零度の切っ先をその心臓に突きつける。会敵時の業火の如き熱量を一点に押し込め、以て零下まで反転させた一撃は、激闘を重ね弱り切った個体に耐えきれるものではない。
「リゲル=アークライト……」
 エトワールはそんな彼の動きを、ひたむきさを、苛烈さを視界に収めながら、しかし見惚れる愚を犯さない。彼が見据えるのは雄牛の動き。彼の仲間から託された役割のために、重荷のままでいないために。
「獣が少し眼光をぎらつかせた程度で何ができる。俺の魔力はその程度で朽ちはしない」
 ウィリアムは稲光を放ち、鳥達と雄牛を巻き込んでいく。雄牛の憎々しげな視線を――魔力の籠もらない『ただの眼光』を――受け止めつつ、不敵に笑った。
 事実、彼の内奥からは滾々と魔力が湧き出し、彼が放った分の隙間を埋めていく。爆発的な放出と回復、並の魔術師であればショートしかねない魔力のサイクルは、彼やポテトといった、明確に魔導を究めた者が到達する場でもあり――獣如きが知り得る境地ではない。
 鳥達の苛烈な攻撃を凌いだ面々は、未だ堅牢な姿を見せる雄牛へと視線を移す。それは同時に、未だ倒れる気配すら見せないアンナとシラスの頼もしさを強調することにもなったのだが……。

●ノクターン・バイ・レネット
「うふふ、怒りで我を忘れて頂戴なぁ」
 アーリアの声に合わせるように、雄牛の足元から蔦が伸び上がり、その身に流れる魔力を乱し、感情を狂わせる。シラスが繰り返し放つ怒りの波濤は、いよいよもって雄牛の感情を高らかにかき乱し、その身の裡で暴れまわる。
「おらあ! おれさまの晩メシになりやがれッ!!」
 グドルフは豪快に斧を振り下ろし、刀を突き立てて雄牛の動きを制しようとする。シラスやアンナだけでも厄介極まりない状態に、更に敵。怒りの余り振り上げた角は、正面で守りを固めた面々を薙ぎ払い、吹き飛ばす。弾かれた拍子についた傷は浅くはなく、それだけに相手の切羽詰まった状態が透けて見えもした。
「相手は確実に弱っている! 治療は私にまかせて、気にせず戦ってくれ!」
「わ、私も手伝いますっ!」
 ポテト、そしてユーリエが治療に加わり、雄牛へ群がる仲間の傷を癒やしていく。一撃一撃が浅からぬもので、避け損なえば守りなど無視して貫いてくる。或いは、堅牢さとまるで関係ないところを削り取ってくる。
 目の前の雄牛は、弱っていながらなおも動きを洗練させ、鋭さを増し――先鋭化された動きの冴えは、一点突破を狙うがゆえに狭窄に、穴へと陥る。
「リゲル=アークライト! ソイツが頭を振った後の顎元、そこに傷跡が残っている!」
「……よく見つけたぞ、エト! 皆、聞こえたな!」
 エトワールの言葉を聞き、リゲルは仲間へと声を上げる。シラスは集中を極限まで高め、振るわれた角を受け流し、その莫大な斥力を背へと散らす。アンナは吹き飛ばされながらも、微塵も傷を受けた様子を見せず。
 グドルフは豪快に攻撃を叩きつけ、豪快に弾き飛ばされ、傷をものともせず立ち上がる。彼の巨躯が雄牛の角の動きを鈍らせ、振り上げる動作に若干のテンポの後れを生み――顎下の傷跡へと、銀の剣が突き立てられた。

「オウ、坊主。あんまオトナに迷惑かけんじゃねえぞ! だが──気概は気に入った。もっと腕磨きゃあ、まだまだ伸びるぜ。このおれさまが保証してやるよ。ゲハハハッ!」
「グドルフ、あんまり囃し立ててやるな。……だが、天義を守ろうとしたのは偉いぞ、エトワール」
 グドルフの豪快な賛辞に、ポテトは無責任だ、とやんわりと諌める。
 彼の気概を称賛したくなるのは分かるが、それを真に受けて危険に身を投じるのは困りものだからだ。
「今日は間に合いましたけど、本当に気をつけてくださいね? リゲルさんのお友達がいなくなってしまうのは、私も悲しいですから」
「……そうね。魔物や悪を斬り伏せて倒すだけが正義ではないから。世代を重ねて、国の発展に貢献するのも立派な正義よ」
 ユーリエとアンナは、その点で非常に現実的な言葉を向ける。アンナはその境遇ゆえになおのこと、切にこの国の行末を案じるがゆえといえた。
「俺らは英雄だなんて言われても1人じゃ大したこと出来ないんだぜ。活躍してるのは俺じゃねえ、リゲルでもねえ、ローレットなんだ」
 シラスは、高い実力を持つに至ってなお……持ったからこそ、自分ひとりの限界を知っている。だからこそ仲間を、ローレットを大事にお乗っているのだ。1人では絶対に至れぬ場所に、今いるのだから。それを導いたのは何より……。
「だからアンタも1人でこんな真似するの止めろよ。貴族なら作れるだろ、仲間だって部下だってさ」
「そう、1人で出来るのは限りがあるんだぜ? そのための仲間だし、いるだろ? 友達が」
 ウィリアムの言葉に顔を上げたエトワールの視線の先には、安堵したリゲルの顔があった。少し厳しく表情を『作った』彼は、エトワールと向き直る。
「もう一人で飛び出すな、せめて俺に相談してほしい。……死ねば何もできなくなるんだ」
 だから、立派な騎士として人々を救ってほしい。リゲルの祈るような言葉に、エトワールはぐっと言葉をつまらせた。
「私の大事な国を守ってくれてありがとう。……さあ、細かいことは後にしてまずは一杯酌(や)りましょう?」
 アーリアの相変わらずとも言える言葉に、一同は笑みを取り戻す。
 ……まずは、その雄牛の解体と運搬からだが……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

OP書いていた時に気付きませんでした!
ご成婚おめでとうございます!

以上!

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