シナリオ詳細
PRIDE
オープニング
●下命、賜る。
「貴様等に、レイガルテ様より直々の下命がある」
フィッツバルディ邸。幻想王都メフ・メフィートにおいて最も権威高く――ある種王宮さえも凌駕する――厳重なる警備に固められたその屋敷に八人のイレギュラーズが呼び出しを受けたのは突然の出来事であった。
「珍しいな。直接のご指名とは」
「……先のアラガン男爵の事件は良い手腕だった、という事だ。
あれを上手く収めた事をレイガルテ様は満足しておられる。
果ての迷宮の探索が順調なのと併せてな。
一段評価が持ち上がったと思えば、これに勝る光栄はあるまい?」
応接間でイレギュラーズに応対した黄金騎士――幻想最強とも称されるザーズウォルカ・バルトルトは厳めしい物言いとは裏腹に実に上機嫌にそう言った。
当代フィッツバルディ当主『黄金双竜』レイガルテ・フォン・フィッツバルディに信仰にも等しい絶対の忠誠を捧げる彼にとって、神の如き主人が評価しているイレギュラーズは絶対的に信頼のおける人物であり、友好的な関係を築くに足る人物となるのは間違いない。主人の歓心を買う『新参者』に嫌な顔をして見せる者もいるかも知れないが、彼はそういう半端な人間では無い。確定的に、明らかに。
「それはそれは」と一応は恭しく会釈をしてみせたイレギュラーズはふと考える。
ザーズウォルカは直情的だが、レイガルテは政治の怪物である。政治の怪物と言えば、ネメシスを裏から牛耳ったエルベルト・アブレウの存在が記憶に新しいが、多かれ少なかれ、邪悪の程度こそ違えど両者は似たようなものだろう。と、なれば……
(……これも『果ての迷宮』の引き合いか)
イレギュラーズは考える。ペリカを隊長にイレギュラーズ達の活躍もあって、幻想最大の迷宮の探索は今の所順調だというが、フィッツバルディ派がこの事業に若干の後塵を拝している感は否めないと言える状況であった。イレギュラーズに対して分かり易い好意を隠さないリーゼロッテとどうしようもないが放っておけないフォルデルマンはこの事業を優位に進めているという。フィッツバルディ派はバルツァーレク派こそ辛うじて上回っているものの、涼しい顔で勝ちを譲るガブリエルは兎も角、レイガルテともあろう者がそれで満足する筈はない。つまり、イレギュラーズに直々の下命を与えるというのは彼等を自身の側に引きこむ為の布石であるとも取れるという訳である。
閑話休題。
「それで今回の仕事は何をさせたいんだ?」
「貴様等には私と共に、御領地のはずれに向かって貰う。
その地には幻想では珍しく獣種のみで構成されたリーエンという村がある。
……このリーエンは恒常的にならず者共に悩まされる立場にある。貴様等が――我々が駆逐した『砂蠍』にも参加しなかったようなつまらない者共に過ぎないが」
「……チンピラの撃退? 貴方ともあろう人が?」
リーエン村の事を口にした瞬間、ザーズウォルカの黄金の鉄面皮が微かに揺らいだ気がした。それに違和感を感じたイレギュラーズだが、応じた言葉のもう半分「黄金双竜が民政家のような事をする」は賢明な事に口にしなかった。レイガルテが優秀な政治家である事は知れているが、彼は末端の領民の事を思いやるような性質では無い筈だ。
「意外か?」
「まあ」
「……レイガルテ様がこの仕事を下命されたのには理由がある」
小さく咳払いをしたザーズウォルカはそう前置きするとゆっくりと話し出す。
「リーエン村の住民は獣種のみで構成されている。そして、人間種を中心に置く幻想において、こういった人口構成は極めて稀なものになる。大勢に対して明らかな少数を取る者が、些か理不尽に虐げられるのは良くある話だ。
レイガルテ様は『人間種領民による獣種領民への不遜な行為』を認めていない」
「……つまり、リーエン村は迫害に近い状態にある?」
「如何にも。御領地にある全ては、偏にレイガルテ様の持ち物である。
そこにありながら、領民自身が、かの方の認めてはいない上下を叫び、財を迫害するのは黄金双竜の秩序への挑戦に他ならない。
無論、この事件を単純に解決するならば武力一つで十分である。
しかし、リーエンは一つの症例(ケース)に過ぎぬ。
再発を防ぐとなれば、貴様等の役割も見えてこよう」
イレギュラーズは「成る程」と頷いた。
黄金双竜フィッツバルディの異名は幻想中に轟いている。
しかしながら彼の名声はかのアーベントロートと並んで民草の中では『最悪』だ。
身も蓋も無く言ってしまえば極めて不人気なかのお方の軍勢のみでは鎮圧は出来ても納得は得られまい。そこで潤滑油になるのが『砂蠍事件をはじめとする様々な問題を解決し、民衆の人気も抜群の特異運命座標(イレギュラーズ)』という事になるのだろう。
「受けるかどうかはともかくとして、話は分かったよ。しかし……」
「しかし?」
「……凄い人だね、貴方の主人は」
レイガルテは決して善ではないだろう。
今回の事とて、発端は領民が為ではなく彼のルールに抵触したからに過ぎまい。
眼窩の全てを見下し、支配せんとする野心の塊に違いないのだ。
……しかしその圧倒的な傲慢(PRIDE)は時に絶対的な公平さえ担保してしまう。
彼は人間種だが、別の種族を軽視はすまい。彼が軽侮するのは種族等という『中途半端に偏った単位』では無く、自身と自身の認めた者を除く全てという『究極的に偏った基準』だ。恐らく彼は――心底から『不当な差別』を許さない。自身以外がそれを判ずる事を許さない。誰もに等しく自身への恭順を命じているのだから。
心底より己が高貴と権威を疑わぬ、疑えぬ生まれついての王者。
絶対的な覇王、それが故の黄金双竜――
「この依頼、共に赴いて貰えるな?」
――念を押すザーズウォルカにイレギュラーズは?
- PRIDE完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年09月22日 03時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●道中にて
「迫害に略奪か……」
『憤怒をほどいた者』ウェール=ナイトボート(p3p000561)の声色は殊の外重苦しいものとなっていた。
「時に人間は目の前の事実を、そうなるに到った経緯を見誤る。
熱狂は思考を停止させ、目的と手段がすり替わり、略奪は憂さ晴らしの破壊へ変わる事もあるのだろう」
「公爵にも暴徒達にも考えさせられることがある。
正直、どれもがはっきりとした答えを出せずにいるからもどかしいけど」
ウェールの――そして、それに応えた『夜闘ノ拳星』シラス(p3p004421)の言葉は概ね一つの正鵠を射抜いていると言えるだろうか。
『創造主は人間を必ずしも正しいように作り給わなかった』。
『人間は迷い、間違えるからこそ人間であるかのようだ』。
……不都合ばかりの幻想(レガド・イルシオン)の統治を改めて確認する必要すら無く、世の中では、必ずしも正しい事ばかりがまかり通る訳では無い。
非常な理不尽も、有り得ない位の残酷も、唾棄すべき邪悪だとて、時に正義と錯覚される事はある。
真実に気付きながら自らを騙す者も居る。そもそも真実から目を背けたままの人間も居る。
生来善良でありながら『成り行き』で流される者も、悪徳さえ肯定して私利を貪る者さえ居るだろう。
高度な知性と社会性を有したとして人間は動物の延長にある。
繰り返して、人間は人間であるが故に時にこういった事態さえ引き起こすのだろう。
但し、今日のイレギュラーズがそんな暴挙を許すかどうかは――
「厳しい生活が理由とは言え、人を虐げ憂さをを晴らすような事は見過ごせません」
――この『嫣然の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)が看過するかどうかは全くの別問題だという事だ。
彼女等、八人のイレギュラーズと一人の騎士は今日、共通する強い目的を持っていた。
『黄金双竜』レイガルテ・フォン・フィッツバルディより肝いりの依頼を受けたイレギュラーズの仕事は、かの公爵の統治する領地内で生じた領民同士のいさかいを止める事。辺境で起きた獣種の村リーエンに対して生じた人間種の迫害を食い止め、状況を根治させる事にある。
「行き場のない感情の矛先は、いつだって弱い者やはぐれ者。
長く生きていれば遭遇する事だけど、何度見ても悲しいね。
僕達が間に入る事で少しでも良くなるといいのだけど……」
僅かに憂鬱な調子で『寝湯マイスター』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は嘆息したが、状況を憂う心優しく理知的な彼にとって本件は救いのある依頼になった事だろう。
民政家とは言い難い大貴族のレイガルテの依頼にしては『真っ当な内容』であり、どちらかと言えば人道的な部類に位置する仕事である。元はと言えば事件の発端はレイガルテの治世にあり、本依頼が生まれた動機にしても彼の傲慢なる誇りがメインである事は間違いないが、状況の解決を預けられた以上は、自身の立ち回りによって回避出来る悲劇もある。より良い未来を望むチャンスもあるのだから、希望は十分という訳だ。
「ええ、依頼内容も良いものですし!
何より、フィッツバルディ公直々のお仕事です!
厚遇に応える良い機会、張り切って参りましょう!」
「頑張って損がある仕事でない事は確かだと。
梟の瞳に名指しで依頼が来るなんてドラマさんは頑張ってらしたのですね。
政治的な事はギルバートさんに任せてきましたので難題ですが――まあ、やるだけやってみませうか」
両手をぐっと握って力を込めた『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)の一方で、飄々とした優等生の顔を崩さず静かに応じたのは『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)である。本音か謙遜かは知らねど、この仕事に彼女等が所属する『梟の瞳』が指名を受けたのはギルドマスターやドラマのみならず、ヘイゼル自身の名声も相応貢献しているのだが、それはさて置き。
「フィッツバルディ………政治や貴族関連は詳しくないけど。
リーゼロッテお嬢様と関係悪いところだったけ……?
俺一応リーゼロッテ派だけど、大丈夫かな……?」
「う、ぐ! い、痛い所を!
そういえばわたくし、先日リーゼロッテ様とマブダチになったのですが……
この依頼を受けましたのは軽率でしたかしら……」
フィッツバルディ派(?)の二人の一方で、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)と『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)は、後方でふんぞり返る黄金騎士――本件でイレギュラーズを統率する本当の意味でのレイガルテの名代、幻想最強のザーズウォルカ・バルトルトの視線を避けるように少しだけこそこそとしたやり取りをする。
良く知られている通り、イレギュラーズのアライアンスは様々だ。
フィッツバルディ派もいればアーベントロート派も居る。勿論、どれも嫌い、どれに与しない者も居る。ローレットより仕事を請けるイレギュラーズを縛るルールは大きく一つだけだ。
「……いえ、それはそれ! わたくしは目の前の善をただ成しますわ!
誰の依頼であろうと、どんな依頼であろうと。わたくしはこの仕事を請けたのですから」
ハイ・ルールはイレギュラーズに仕事への誠実さだけを求めている。
――タントは、目の前に広がる不都合を、不幸せを、怒りを、涙を確かに嫌う。
きっと彼女は自身の太陽のような煌めきで『そうでないもの』に変えようとする事だろう。
当人がそれを自覚しているかどうかは、自認しているかどうかは別にして、その高潔な精神はノブレス・オブリージュに相応しい。彼女の煌めきは何ら物理のみによるものではない。
「もう間もなく現場か。貴様等の働きにはレイガルテ様も注目しているぞ。
状況は恐らく混乱しているが――その手並みには期待させて貰う事としよう」
重厚な声でそんな言葉を投げかけたザーズウォルカに一同は頷いた。
この仕事は善良に位置する。そうでなくても全力には違いないが、寝覚めは良くて悪いものでなない。
●難題解決!
「話を聞いて下さい――と素直に言える状態ではなさそうですね」
弥恵のかんばせに僅かな苦笑の色をが浮かぶ。
「興奮状態ではまとまるものもまとまらない、と……成る程、簡単に済みそうにはありませんね」
持ち前の美貌と天爛乙女(ギフト)の力、信仰蒐集。こういった場で注目を集めるのは弥恵の得手ではあるのだが、成る程、彼女の言う通り――リーエン村を取り巻く状況は悪かった。
「とにかく数が多い。こりゃ苦労しそうだね」
使い魔(ファミリアー)を放ったウィリアムが目を細めた。
鳥の使い魔を選び俯瞰の視点を得た彼は状況をつぶさに分析する。
(簡単じゃないが、手早く――当然失敗も出来ないな。
既に少なくない怪我人も出ているし、重傷の人もいそうだ)
それは、癒し手役となる自身の腕の見せ所でもある。
老若男女併せて百人にも満たない獣種の村はその数を超える人間種の男達に荒らされている状況であった。その発端が何だったのか恐らく覚えている者はおるまい。それが許される行為かどうかと問われれば、素面だったならば当の男達とて眉を顰める問いだったかも知れない。
しかしながら始まってしまった暴動と諍いはそう簡単に止められるものではなく、暴力に暴力で対抗した応酬はやられる側であるリーエン村の反撃も含めて、当事者同士の間で簡単に止めらえる状況ではなくなっていた。
だから。九人がこの場に到着したのは確かに状況を変える為の一つの切っ掛けになる。
すぅと大きく息を吸い込んで……
――この場、この事態。これより!
フィッツバルディ名代のザーズウォルカ卿と! 我々ローレットの八人が預からんとする!
渾身の大声で村中の誰にも届けと轟雷のような宣言を発したのはウェールだった。
自身の備えるスピーカーボムで増幅された明瞭明確に『切っ掛け』の到来を四方八方に伝えていた。
反応は様々。それは、フィッツバルディの名への畏れ、ザーズウォルカの名の与える衝撃、そして……この二年、幻想の、民衆の、世界の救い手であり守り手であったローレット――イレギュラーズに対しての期待と支持の入り混じった複雑なものである。
それでも暴動は即座に止まるものではない。
「テメーら! ローレットのシラス様が来たからにはバカ騒ぎはこれまでだぜ!」
怒号と悲鳴、混乱の交錯する村の広場に怒鳴り声にも似たシラスの名乗り口上が響き渡る。
良く通る彼の声はウェールの放った一声も手伝い、少なからず周囲の注目を集める効果を持っていた。
「おっと、これはこっちの期待通りだが――そっちの期待には応えられないな」
周囲の暴徒を幾らか『釣った』シラスが無軌道に暴れる彼等を見事な技量でいなしていく。
(そんなに大した相手じゃないが――それでも数は厄介だな)
ちらりと周囲を確認したシラスは『ローレット』の名前の持つ価値と効果、自身の名前が多少の気おくれを与えている事を認めたが、一度暴れ出した連中は拳の降ろし先をすぐには見つけまい。
ならば、必要なのは適切な示威である。
暴徒には暴徒の状況が、理屈がある。『拳を降ろしやすくさせてやれば良い』。
「繰り返します! 我々は『黄金双竜』フィッツバルディ公より命を受けた特異運命座標です!
状況は逼迫しています! このような蛮行は直ちにやめて下さい!」
声を張ったドラマが『嵐の王』――旧き混沌の暴威を以て空を突いた。
彼女の魔力の奔流、破滅的な威力は暴徒側の首筋に突きつけられた匕首と言える。
「……今のを、貴方達に向けたくはありません。
……………しかし、これで止まってくれないのであれば、私は」
幾分か勿体をつけたドラマは意図的に幾らか芝居がかってみせた。
クライアントであるレイガルテのオーダーが『出来るだけ死傷者を出さず問題を解決する事』である以上、パーティ側からしても強硬策は痛し痒しの部分はある。だが、同時にレイガルテの言うのはあくまで『出来る限り』である。大貴族の中の大貴族である他ならぬ彼は『死傷者ゼロ』を求めまいし、それはイレギュラーズの方針に口を挟まないザーズウォルカが担保している部分でもある。
暴徒達はこの示威行為に幾らかざわつきを見せていた。だが、相手側が簡単に引き下がらないであろうという想定は元よりイレギュラーズが持っていた共通認識だ。
「少しは潮目は変わったようには見えますが……
多少は血の気を抜かないと、収まるものも収まらないでせう。
その辺りは、期待しても宜しいでせうか?」
「無論。我が武力、括目して見るが良い!」
イレギュラーズの一先ずの狙いはまず到来を告げ、暴徒の注目と攻撃対象をリーエン村より引き離し、然る後に示威を実施。極力死傷者を抑えながら中核のみを潰し、士気を挫くというものだ。
「では、期待して」
――『悪い警官役』は適任にお願いするとしませうか――
ヘイゼルは言葉の最後までを頷いたザーズウォルカには告げなかった。
彼女の企図するのは非常に威圧的なザーズウォルカ――レイガルテの名代としてやはり人気は無いであろう人物――を悪役に、比較的民衆の受けが良い自分達を善玉に設置して、硬軟織り交ぜる事で揺さぶりをかけるマッチポンプである。
最終的に話し合いが出来る状態に『持って行く』には多少の荒事は必要というのが認識。
ならば、幻想最強の騎士であるザーズウォルカの武力と異名は『最短』の為にいよいよ役立つ。
「我こそはザーズウォルカ・バルトルト!
黄金双竜の威光に挑戦せんとする者はまず私に刃を向けよ!」
向けられるものならな――言外に滲む圧倒的な自信が偽りでない事は誰もが知っている。
果たしてヘイゼルが「まあ、頼まなくても存分に威圧してくれそうですが」と期待していたその通り、或いはそれ以上に黄金の甲冑と共に混乱の場を制圧する彼の存在感は異質と言えた。
鎧袖一触と呼ぶに相応しい程に彼は強く、
「聞いて下さい! 落ち着いて、聞いて下さいませ!
繰り返しますが、わたくし達はローレットのイレギュラーズです!
レイガルテ様直属の騎士ザーズウォルカ様とこの場を収集する為に参りました!
戦闘は無意味です、怪我人はこちらへ。大丈夫、悪いようにはいたしませんわ――!」
有り難く煌めきながら、『村人と暴徒の双方が傷付かないように』避難や投降を誘導するタント、
「大丈夫か? 俺は治す事は出来るから、こちらへ――」
丁寧に怪我人を癒して回るサイズの動きに早くも暴徒側の士気は緩み始めているように見えた。
「粘り強く――どれだけ早く収められるかが勝負になる!
種族の問題は根深くても、この迫害を止めるために動く人間種が少なくともこの場に居る!」
強く言ったウェールにイレギュラーズは頷いた。
「そちらへ回り込んで――」
「失礼!」
広視野を持つウィリアムの指示が飛び、弥恵の長い脚が男の顎を見事綺麗に打ち抜く。
(この問題の根底には重税による生活の圧迫、政治に対する不満……
そういった負の感情をぶつける弱者を求めている事ではないかと思うのです。
今、見た目の問題を解決してもまた別の弱者を作り出して迫害するかもしれません。ですが)
弥恵は立ち回りを続けながらも、何度も繰り返して声を張る。
「どれだけ理不尽であろうと手を汚すような真似はしないで――
己の誇りを失わないで胸を張って歩けるように生きて欲しいのです!」
「む、忙しいな。中々大変だ」
「まぁ、暴徒も村民も領民ですので死者を出さない事が第一優先ですね」
サイズは自身の仕事に尽力し、特に血気盛んな暴徒の一人を絡め取ったヘイゼルは肩を竦めた。
元より負けるような戦いでは無い。
必要以上に気持ちが篭るタイプでもないが――クライアントの希望は叶えるべきだ。
「軋轢もあるし同じ種族で固まっていた方が安心できるよね。僕の故郷もだいたいそんな感じだ。
でもずっと篭ってもいられない。隣によく知らない人がいるってすごく怖いから、耐えられなくなる時がまたやってくるよ。怖い事も許せない事もあるだろうけど、ちょっとずつでも交流してお互いを知っていこう――」
ウィリアムの言葉は理想論かも知れない。
だが、後味は良い方が――何時だってきっとマシなのだ。
●顛末
「そんな訳で、かなり時間は掛かったが……
辛うじて暴動はストップした。
或る意味で、個人的にはここからが本番だろうと思っていたが……」
公爵私邸にて、そう切り出したのは『鍛冶屋』である事に並々ならぬ自負を持つサイズだった。
「リーエン村は大変な状況にあって、村の機能はかなりが破壊されていた。
ドバークを手に俺は俺の出来る最善を尽くしてきたが……」
資材の許す限り、直して直して直してきた心算だが、完全にどうにかするには支援が必要なのも事実という状況なのも確かだった。
「加害者と被害者が混ざっていたらまともな話し合いにならないだろうって思って。
両者を引き離してそれぞれに対応したっていう訳だ、です」
些かおかしな口調でそう報告を続けたのはシラスだった。
殺さないように無力化するのは骨の折れる作業だったが、イレギュラーズの粘り強さと名声、適切なマッチポンプは想定していたよりも早い時点で彼等を収めるのに成功したと言えるだろう。
「暴徒側にはこれが本来厳罰になる行動である事をきちんと伝えた心算だ。
その上で、ザーズウォルカさんにも言ったが、今回の減刑を進言したい」
「その、ザーズウォルカ様は……
レイガルテ様は暴徒達の実情にも心を痛めている、事情を鑑み減刑を約束すると」
シラスとタントの言葉を受けたレイガルテは彼の顔を見て、ザーズウォルカに視線をやった。
「独断での発言をお許し下さい。畏れながらこの者共の言う通り、レイガルテ様の御為になるものと」
跪き頭を垂れたザーズウォルカにシラス、タント、イレギュラーズは心の中だけで礼を述べた。
厳めしく威圧的で付き合い難い人物だが『本件について』ザーズウォルカは非常に協力的で弁えた役回りを徹底していた。意外な事にヘイゼルに使われる際も『分かっていて威圧役を演じた風』でもあり、タントの要請を受けた減刑の言葉も彼は迷わずこれを採用していた。
「貴様がそう思うのならばそれで良い」
レイガルテは多くを追求せず、ザーズウォルカの言葉に頷いた。
「貴様等も大儀であったな。
ザーズウォルカがそのように言ったのであれば、貴様等の働きの程も知れる。
『故にわしは貴様等に褒美を取らせよう。望みがあるのならば、言ってみるがいい』」
レイガルテの言葉にイレギュラーズの表情が晴れた。
『望みを言えというそれはつまり』。
「その、暴動の原因には税の――いや、生活の不満があったみたいだ。
だから、ラスシティで新たに事業を起こして雇用を生めば不満は解消されるかも知れない。
事業が成長すれば公爵が大きな利益が得られるかも知れないし」
シラスがそう言えば、
「獣種と人間種、両者の力を合わさせて街道を広げるのはどうだろうか。
流通や行き来が今より盛んになれば要らない誤解も減るかも知れない」
ウェールがそれに呼応した。
「彼等は無法を行う程には体力が有り余っているようで、それを有効利用出来ればと。
公爵様のお見事な采配ならば、我々をも手足のように使って、全ての実利を得る事も難しくは無いものと存じます」
「迫害は孤立より生まれるものですし、協同作業は相互理解を育むのです。
周辺の領民の景況が上向けば――寛容は常に余裕から生まれるのですよ。
敷設の財も道により発展させられれば回収出来ますし、何なら減刑の条件に積極的な事業参加を提示すれば彼等も拳を降ろしやすいでせう。戦間期の今に領内に投資するのは如何でせうか?」
梟の二人――ドラマとヘイゼルが駄目を押せばレイガルテは苦笑した。
「……まったく、甘い連中よ。
だが、この黄金双竜、二言はないわ」
『褒美の内容は望みを言え、だがこの場で彼等は私利を口にはしなかった』。
レイガルテは最初からそれを理解し、発言を誘導したようなものだがそれには一定に満足だったらしい。
後日、宣言の通りラスシティ及びリーエン村周辺では新たな公共事業が起こされた。
最初はぎこちなく、少なからぬ敵愾心を抱いていた互いではあったが、その棘のある空気も日に日に緩和しているらしいとザーズウォルカに告げられた。
イレギュラーズに語りかけた彼の声は何時になく穏やかなものとなる。
「礼を言う。私の祖先は遥かな昔にフィッツバルディ家に救われたのだ。
かのお方の王者の威厳が示す通り、その公平さに、その誇りに。
少数を弄る多は何時の世にも絶えないものだ。
だが、私は北風を吹き付けてそれを解決出来ない事を知っていた」
そう言って、黄金の甲冑――フルフェイスヘルメットを外した彼の顔は……
成否
大成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
YAMIDEITEIっす。
返却遅れました。申し訳ありません。
彼の顔は、その内見れると思います。
シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
レイガルテの依頼でザーズウォルカとお仕事しましょう。
以下詳細。
●任務達成条件
・リーエン村の迫害を止める
・領民に大きな物理的被害を出さない
※領民はレイガルテの財である為
●『黄金守護者』ザーズウォルカ・バルトルト
いついかなる時も黄金の甲冑を脱がない事で知られています。
幻想最強の騎士様にして幻想最高のレイガルテ大好きマン。
ジーニアス・ゲイムにおける北部戦線では精強な鉄帝軍を震え上がらせる武勇を発揮。
見事に彼等を撃退する主力を担いました。(リーゼロッテはザーバを押し付けられていました)
●リーエン村
フィッツバルディ領辺境に位置する村。
住民が獣種のみで構成されている幻想に珍しい場所であり、人間種主体の周囲との軋轢から迫害を受けているに近い状況となっています。
●状況
パーティが到着した時点でリーエン村では既に激しい争いが起きています。
今回の争いは特に激しく大きな揉め事になっています。
リーエン村は老若男女併せて100人に足りない人口ですが、近隣のラスシティよりやって来た武装した男達はそれ以上の人数で暴れています。
男達は特段戦闘訓練を受けたような者達ではありませんが血の気が多く腕っぷしは強い者が多いです。彼等が暴れたり少数派である獣種から収奪めいた暴挙を働くのも、元はと言えば政治の不満やレイガルテの課した重税が原因なのですが、まぁ、そこはそれ……
100%殴り合っても(ザーズウォルカがいますし)負けないでしょうが、解決するかは別問題です。
●どうすれば?
オーダーは『死傷者を(少)無く、リーエン村の迫害を終了する』です。
方法は幾つもあるかと思いますので自由にやって下さい。
ザーズウォルカと共にレイガルテの名代として赴きますので相応の権威は存在します。
またイレギュラーズの持つ名声値が行動と相まって様々な作用をしやすいです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
切った張ったメインではありませんが、RPGして下さい。
優先はレイガルテが認めているギルドでレベルと名声値が高い人を選んでいます。
以上、宜しければ御参加下さいませませ。
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